
テイクアウト容器はどこまで店をつくれるか|椿田熟成茶行の「香水瓶」ボトルの役割
GAFUCAFEのnoteを読んでくださっている中国の珠海在住の日本人の方から、現地で見つけたティードリンク店を教えていただいた。
その一つが「椿田熟成茶行」。
2025年4月に上海・新天地で1号店を開いた新しいブランドである。
創業者の林茗娟は福建省安溪の茶商の家に生まれ、これまでにも複数のティードリンクブランドを立ち上げてきた。
HEYTEAは林が以前手掛けたブランドにも出資しており、2026年7月には椿田の運営会社の株式5%を取得した。ブランド発表では、開業から436日で100店・47都市まで広がったという。
椿田が掲げるテーマは「熟成」。
プーアル茶や香港式ミルクティーを中心に、コーヒー、果物、チーズ、芋団子などを組み合わせた商品を17〜25元ほどで販売している。
看板商品はコーヒーや黒糖フォーム、黒い芋団子、ミルクティーを使った「黑武士·熟成普洱薯丸」で、「飲むティラミス」と評される。
中国カフェ・ティーブランド20解説記事の姉妹編ともいえる記事を並行で執筆中だが、その記事に入れるブランド候補としても調べてみたが、まだそこまで代表性のあるブランドには育っていないようだ。
一方でこのブランドの特徴として目に止まったものがあった。
一部商品に使われる香水瓶のようだと評されるテイクアウトボトルだった。
今回はこれについて取り上げてみよう。
お茶を「香水瓶」に入れる
椿田の一部商品は、アイボリー色の小型ボトルで提供される。
丸みのあるキャップと縦長の形から、SNSや旅行者の投稿では香水瓶にたとえられている。
ボトル正面には茶商を思わせるラベルが大きく配置されている。
中身を見せる透明カップとは違い、容器全体を一つの完成した商品パッケージとして見せる設計だ。
この形は椿田の店づくりともつながっている。
店舗には「香水瓶」同様のアイボリー色の茶缶が並び、濃い木材や金属を使った什器が置かれている。
消費者から「高級薬局」「香水店のよう」と評される空間で、商品を受け取る最後の瞬間にも香水瓶が登場する。
店内で作った世界観が、客の手元まで続いている。
一般的な透明カップには、中身を見せる強さがある。
果物やクリーム、茶の色そのものを商品写真にできる。
看板商品の黒い「黑武士·熟成普洱薯丸」などはまさにそれだろう。
一方、椿田の香水瓶ボトルは中身に加えて容器の形を記憶させる。
街中で見かけたときに、ロゴを読む前から「あの店の飲み物かもしれない」と分かる可能性がある。
テイクアウト容器は、飲料を運ぶための包装材として考えると小さな話に見える。
店づくりの一部として見ると、役割は意外に多い。
写真に撮られ、街を歩き、家まで帰る
一つ目の役割は、初めて買う理由を作ることだ。
香水瓶にお茶が入っている。それだけで「何これ?」が生まれる。
味を知らない人にも伝わるため、SNSとの相性がいい。
実際に椿田の香水瓶型ボトルは旅行者やSNSユーザーの投稿対象になり、「写真を撮りたくなる」「取っておきたくなる」といった反応も見られる。
二つ目は、店の外でブランドを見せること。
以前、上海のカフェやティーブランドがカップを「街を歩く広告(記号)」として使っていることを書いた。
店の内装を目にするのは来店した人だけだが、テイクアウトした容器は駅へ行き、商業施設を歩き、会社や学校へ移動する。
ロゴに加えて形まで特徴的なら、容器そのものが店の宣伝になる。
三つ目は、飲み終わった後にも残れることだ。
通常のカップは飲み終われば役割を終える。
形に特徴のあるボトルには、持ち帰ったり再利用したりしたくなる余地がある。
家に持ち帰って花瓶に使っている投稿も見かけた(材質はプラスチックではあるのでチープそうではあるが)。
実際に再利用するかどうか以上に、「捨てるには少し惜しい」と思わせることが重要なのだと思う。
店と客の接点が、飲み終わった瞬間で切れなくなる。
日本では「捨てやすさ」より「持ち帰りやすさ」も重要かもしれない
日本でテイクアウトドリンクを飲んでいると、別の問題にも気づく。
街中にゴミ箱が少ない。
透明カップのドリンクを飲み終えた後、捨てる場所が見つからず、空のカップを長い時間持ち歩くことがある。
飲み切る前に電車へ乗りたいときも、ストロー付きのカップはバッグにしまいにくい。
ここはボトル型に実用品としての可能性がある。
しっかり蓋を閉められる構造なら、途中まで飲んで持ち運び、後で続きを飲める。飲み終わった後もバッグへ入れやすい。
日本ではSNS映えとは別に、テイクアウトとの相性を高める機能になり得る。
急須も「店を説明する記号」になる
最近、日本でも容器の上に小さな急須を載せたティードリンクを見かけるようになった。
横浜のCHAZHONG-茶种-や、私も先週訪れた大阪のCHARMINGでは、陶器製のミニ急須をカップの蓋に置き、ドライアイスの煙とともに提供している。
この演出の原型は2023年に中国で広がった「紫砂壺ミルクティー」にあるようだ。
中国では北京、広州、深圳、潮州などへ広がり、同年9月には杭州・霊隠寺近くの店舗の商品がSNSで大きな話題になった。
急須には香水瓶とは違う役割がある。(椿田熟成茶行側が香水を意識しているかは不明)
香水瓶を見ると、香り、上質感、ファッション性、といったイメージが浮かぶ。
急須を見れば、お茶、茶器、専門店という意味が一瞬で伝わる。
容器や小物の形が、店の説明を代わりにしている。

容器は数秒で店の特徴を伝えるためのメディアにもなる。
全商品を特別な容器にする必要はない
もちろん、形が面白ければ何でも採用すればいいわけではない。
特殊な容器にはコストがかかるし、店舗で保管する場所も必要になる。
充填に時間がかかればピーク時の提供速度にも影響する。
果肉やトッピングの多い商品は、細い飲み口との相性が悪いかもしれない。
中国で2023年に流行したミニ急須も、急速に模倣され、一過性のブームになった。
急須自体は約5元(現在のレートで約120円)で仕入れられると報じられ、形だけなら多くの店が真似できた。
だからこそ、容器を「話題になる小物」として考えるだけでは弱い。
椿田の香水瓶が面白いのは、店舗の世界観とつながっている点にある。
香水瓶だけ別の店へ持っていっても、同じ意味にはならない。
全商品を特殊な容器にする必要もないだろう。
シグネチャーだけ容器を変える、持ち歩いてほしい商品だけボトルにする、ギフト性の高い商品に保存したくなる器を使う。
商品ごとに容器の役割を決める方法もある。
ティードリンクの商品開発では、茶葉、ミルク、果物、甘さを考える。
そのもう一つ外側にドリンクを「何に入れて渡すか」という設計がある。
カップ、ボトル、袋、スリーブなど。
店を出た後も客と一緒に街を歩き、写真に撮られ、場合によっては家まで帰る。
ドリンク店にとって、容器は店から切り離して持ち帰れる小さな店舗設備だ。
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次に読む一本
今回は店を出たあとまでブランドを伝える「容器」の話でした。
では店の中では、空間をどう使えば店の強みを伝えられるのか。
上海で見たカフェCaptain Georgeでは、棚、瓶、器、カード、店内の順路まで使って、目に見えないコーヒーの専門性を体験へ変えていました。