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製薬企業向けコンサルティング事業

医療現場×データサイエンスで課題を浮き彫りに【関連サイト】治療・処方実態の分析情報を無料で閲覧 Patient Visualizer https://pv.eucalia.jp/ ご提供しているサービス https://eucalia.jp/service/pharma/

電子カルテデータ×生成AI:医療データ分析の新時代免疫チェックポイント阻害薬導入時の隠れた課題を可視化する

はじめに:「ダークデータ」が宝の山に変わる時代今回のセミナーでは、免疫チェックポイント阻害薬を題材に、生成AIを活用したデータ分析がどのような洞察をもたらすかを紹介しました。 これまで電子カルテの自由記述テキストは、医師の所見や患者とのやり取りが詳細に記録されているにも関わらず、膨大な非構造化データであるため「分析困難なダークデータ」とされてきました。 しかし、生成AIの登場により状況は一変しました。 この革新的な手法により、これまで分析困難とされていた自由記述テキストから患者の本音、現場の課題、治療以外の価値などを効率的に抽出・分析することが可能になったのです(図表1 )。 図表1:従来の分析手法との比較分析の全体像:74名の医療記録から見えてきたもの生成AIを活用した今回のデータ分析では、2020年から2025年までに免疫チェックポイント阻害薬を投与された115症例のうち、投与初日が明確な74症例を対象としました。 185件の課題を抽出してカテゴリごとに分類し、年代別の傾向比較も実施しました(図表2)。 図表2:データ概要分析結果分析の結果、従来見過ごされがちな「隠れたペイン」を可視化することに成功しました。免疫チェックポイント阻害薬初回投与時の課題は12カテゴリに分類され、そのうち上位5つの課題を主要カテゴリとして分類しました(図表3)。 図表3:免疫チェックポイント阻害薬初回投与時の課題カテゴリ(詳細分類)例えば、「採血が困難」「勤務中で点滴時間が取れない」「不安時に薬を飲んでいる」など、実際の記録に基づいたリアルな課題が抽出されています(図表4) 図表4:各カテゴリの代表的事例年齢別分析が示す驚きの結果最も興味深い発見は、年齢グループによって課題パターンが大きく異なることでした(図表5)。 図表5:年齢グループ別の課題カテゴリ出現数一覧世代によって抱える問題の性質が異なることが明確に現れていることから、年齢グループ別のサポート戦略が描けるようになっており、マーケティング戦略の設計に有効なインサイトとなります。(図表6、7) 図表6:年齢グループ別の課題と考察図表7:年齢グループ別のサポートアイデア医療マーケティングへの革新的インパクトこの分析が示すのは、「電子カルテデータ×生成AI」の組み合わせがもたらす革新的な可能性です。今回の免疫チェックポイント阻害薬の分析は、電子カルテデータが潜在的に持つ力の一部 に過ぎず、他の疾患領域にも応用することが可能です。 図表8:製薬企業への価値提供フレームワークまとめ:医療の未来を創造する「電子カルテデータ×生成AI」の組み合わせは、医療マーケティングの常識を変える可能性を秘めています。 皆様の事業領域でも、きっと同様の革新的な発見が待っています。「電子カルテデータ×生成AI」で、医療の未来を一緒に創造していきませんか。 ※本記事は、株式会社ユカリア主催のセミナー「電子カルテデータ×生成AI:医療データ分析の新時代」の内容をもとに作成しました。詳細な分析結果や具体的な導入についてのご相談は、弊社営業担当までお問い合わせください。

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AI医師座談会から見る乾癬治療の未来 ~電子カルテデータ×生成AIが変える臨床現場~

はじめに こんにちは、株式会社ユカリアです。 今回のnote記事では、先日開催いたしました「AI医師座談会~乾癬編~」の内容をご紹介いたします。 製薬企業のマーケティング・研修部門の皆様にとって、実際の症例に基づいた医師の治療判断プロセスや、複数の専門医による議論の内容は、極めて貴重な情報源となるのではないでしょうか。 ※本記事では、実症例の電子カルテデータがあって初めて作成可能な内容を太字で強調しています。これらの情報は、一般的な教科書的知識では得られない、リアルワールドの臨床現場でのみ得られる貴重な情報です。 電子カルテデータ × 生成AI の可能性このセミナーでは、電子カルテデータと生成AIを組み合わせることで、どれだけ厚みのある成果物が生まれるかを実証いたします。 従来の一般的な医師向け講演会とは異なり、実症例の詳細な電子カルテ情報を生成AIにインプットし、その情報を踏まえてAI医師が専門的な見解を提示するという、新しいアプローチを採用しました。 ご登壇いただいたAI医師のプロフィール 本座談会では、以下の3名のAI医師にご参加いただきました 森田 直樹 先生(桜ヶ丘大学医学部附属病院 皮膚科・医師歴15年) 西村 真理 先生(北都総合クリニック 皮膚科・医師歴21年) 田中 健吾 先生(南新宿皮膚科クリニック・医師歴12年) 症例概要 複雑な併存疾患を持つ乾癬患者 患者背景 基本情報:24歳男性(2019年時点) 発症時期:20歳頃 発症誘因:学生生活の強いストレス 主訴:頭皮・四肢・顔面・背部の紅斑と鱗屑 特徴的症状:頭皮や耳介の症状が顕著、耳の中の鱗屑による一時的な聴力低下 関節症状:なし 治療選択に影響する併存疾患・背景 この症例の特徴的な点は、多数の併存疾患を有していることです 肝機能障害(脂肪肝、ALT・AST上昇) 高尿酸血症 多血症傾向 高血圧(家族歴あり、アムロジピンでコントロール中) BMI推移:2020年11月時点26.0→2023年以降24.9前後 アルコール摂取歴なし 運動・ダイエットによる体重減少(82kg→67kg) 皮膚感染症(毛包炎、癜風など)の合併傾向 検査値・経過の要点 2019年3月:PASI 12.1、BSA 7% 2019年3月:尿酸 8.2mg/dL、AST 53U/L、ALT 123U/L、白血球 9,510/μL、赤血球 5,900,000/μL、CRP 0.1mg/dL 2019年11月:尿酸 8.8mg/dL、AST 36U/L、ALT 84U/L、ALP 217U/L、LD 188U/L、γ-GTP 50U/L、コレステロール 220mg/dL、赤血球 6,180,000/μL、ヘモグロビン 18.2g/dL 2019年12月:PASI 16.0、BSA 16%、PGA 3 2024年5月:PASI 15.9、BSA 16% 血圧は130~150台/80~90台(2023年以降は130/85前後でコントロール) 5年間の治療経過 2019年:治療開始と早期の課題 ドボベットゲル・プロトピック・マーデュオックス外用治療開始 ネオーラル導入を検討したが、肝機能障害・高血圧・多血症傾向・高尿酸血症リスクを踏まえ、副作用が生じる前に早期中止 患者さんも「血液検査の数値が心配だったので、強い薬は怖い」と話していた 冬季に皮疹悪化傾向、複数外用薬の使い分け 2020年:生活習慣改善の効果 ダイエット・筋トレ開始し「やせたら皮疹が減った」と自覚 コムクロシャンプー併用で頭皮コントロール向上 紫外線療法(NBUVB)は検討段階 2022年~2024年:感染症との闘いと新薬導入 下腿に毛包炎・膿疱発生(ケフラール、ミノサイクリン等投与) 毛包炎・癜風など皮膚感染症を併発 血圧コントロール(アムロジピン内服)、脂肪肝も改善傾向 体重は67kg台まで減少、以降70kg前後で推移 2024年初夏~秋、下腿・背部・上肢に紅斑再燃増悪(PASI 15.9、BSA 16%) 新規外用薬(ブイタマークリーム)導入 AI医師による治療方針の議論森田先生の安全重視アプローチ 「この患者さんは『やせたら皮疹も減った』と実感し、外用薬も根気強く使ってくれています。肝機能障害や高血圧を考慮し、ネオーラルはリスクを懸念して早期中止がよいでしょう。今後もできるだけ外用薬の工夫や紫外線療法を優先し、部位や症状に応じて新しい外用薬を使い分け、生活習慣維持を支えるのが良いと考えます。」 西村先生のPDE4阻害薬積極活用論 「森田先生の方針は安全面で非常に納得できます。ただ、患者さんは『冬になると悪くなる』『ストレスがかかると再燃する』と話しており、現状の外用・紫外線療法だけではQOLの波が大きいと感じます。PDE4阻害薬(オテズラ®)は、経口薬のためアドヒアランスも良好です。もちろん肝障害がある場合は定期的な肝機能モニタリングが不可欠ですが、現状以上のコントロールを目指すなら、PDE4阻害薬をもう少し積極的に検討してもよいのではと思います。患者さんからも『費用も心配』との声があり、高額療養費制度や助成の案内を早期に行う体制も重要です。」 田中先生のハイブリッド戦略 「西村先生のPDE4阻害薬の活用には賛成できますが、私は外用薬+紫外線療法のハイブリッド戦略をもう少し強調したいです。患者さんは『夏は調子が良い』『紫外線治療も考えている』と積極的な意欲を持っていますし、実際にNBUVBやエキシマライト導入への抵抗もありません。PDE4阻害薬はコストや長期安全性の面からも、段階的に導入するのがよいと考えます。」 白熱したディスカッション 3名のAI医師による議論は非常に建設的で、それぞれの専門性と経験に基づいた多角的な視点が提示されました。 森田先生は薬切れ防止策として、患者さんが『薬が切れると悪化する』『薬をもらい忘れて困った』と話していることも踏まえ、リフィル処方やオンライン診療を活用し、薬切れ防止体制を強化したいです。また、感染リスクも踏まえ、冬場やストレス時の皮疹悪化の誘因把握として日記を勧めてはどうでしょう、と提案しました。 西村先生は多職種連携の重要性を強調し、「患者さんの『運動できなくて体重が増えた』『また運動を始めたい』という希望に対し、具体的な運動プログラムや食事指導を取り入れることで、皮疹の安定と長期的なQOL向上が期待できます」と述べました。 田中先生は重症化への備えにも言及し、「PASIが20を超えるなど重症化した場合は、各種リスクを内科と連携して評価し、生物学的製剤導入も早めに説明・検討します」と提案しました。 合意された最終治療方針 議論の結果、以下の統合的な治療方針で合意に至りました 外用薬と紫外線療法の併用を基本戦略とし、生活習慣改善の継続を支援 増悪時やQOL低下時にはPDE4阻害薬の導入も積極的に検討 感染症や薬剤副作用には細やかに対応し、リフィル処方・オンライン診療も活用 重症化時には生物学的製剤導入も段階的に検討し、内科と密接に連携 多職種連携と患者参加型のケア体制を維持 MRからの実践的な質問と回答座談会では、現場のMRから以下のような実践的な質問が寄せられました 安全性担保について(小林MRからの質問) 質問:この患者さんにPDE4阻害薬や生物学的製剤導入時、どう安全性を担保しますか? 西村先生の回答:「ALTが一時173U/Lまで上昇した経緯があり、PDE4阻害薬導入時は肝・腎機能、感染症スクリーニングを必ず実施します。導入後も2週間ごとに血液検査を行い、異常があれば迅速に対応します。生物学的製剤の場合も、肝機能障害や感染症リスクを考慮し、循環器や内科と連携し管理が安定していることを確認してから開始します。」 経済的支援策について(木村MRからの質問) 質問:患者さんが『コストを下げたい』と話しています。高額治療薬導入時の経済的支援策はどのように行いますか? 森田先生の回答:「PDE4阻害薬や生物学的製剤導入時には自己負担額のシミュレーションを行い、高額療養費制度や自治体助成について早期に案内します。診断書や申請書類の作成もサポートし、薬局とも連携してジェネリック医薬品の案内も行っています。」 QOL維持策について(高橋MRからの質問) 質問:患者さんから『運動できなくて体重が増えてしまった』『運動再開予定』という発言を受けて、QOL維持策はどのようなものが考えられますか? 田中先生の回答:「運動や食生活改善を継続できるよう、皮膚症状の安定だけでなく、運動時の皮疹ケアもアドバイスしています。電話診療やオンライン診療の利用で受診間隔を柔軟に調整し、患者さんの成功体験を毎回評価して治療意欲を支えています。」 残薬管理について(小林MRからの質問) 質問:薬が切れると悪化したとのことですが、残薬管理や薬剤供給でどのような工夫をしていますか? 森田先生の回答:「リフィル処方や残薬ノートを活用し、薬切れによる悪化を未然に防いでいます。薬局とも連携し、生活圏でスムーズに薬を受け取れるよう配慮しています。外用薬も必要最小限の種類・回数に調整し、患者さんの負担軽減に努めています。」 生物学的製剤導入のタイミング(木村MRからの質問) 質問:今後PASIやBSAが大きく悪化した場合、どの段階で生物学的製剤導入を検討しますか? 西村先生の回答:「PASIが15~20、BSAが15%以上、QOL低下が明らかな場合に全身療法を検討します。2024年5月にはPASI 15.9、BSA 16%と再燃しており、外用+紫外線療法で不十分な場合は、ご本人・ご家族と協議のうえ生物学的製剤の導入も検討します。肝機能や血圧のモニタリングを前提とします。」 製薬企業の皆様へのメッセージ今回のAI医師座談会を通じて、以下の点が明確になりました 実症例に基づいた議論の価値 理論的な治療指針だけでなく、実際の患者背景や制約条件を踏まえた現実的な治療選択の重要性 多角的な専門医の視点 同じ症例でも、医師の専門性や経験により異なるアプローチが提示され、最終的により良い統合的治療方針が構築される 患者のリアルな声の重要性 「薬が怖い」「コストが心配」「やせたら皮疹が減った」といった患者の生の声が治療方針決定に大きく影響する MRの質問の実践性 現場のMRからの質問は、医師が日常的に直面する課題を的確に捉えており、非常に実用的 実症例データの価値について**本記事の太字部分は、すべて実際の電子カルテデータから得られた情報です。**これらの情報は 教科書や一般的な症例報告では得られない、リアルな患者の声や行動 5年間という長期にわたる詳細な検査値の推移 複数の併存疾患を持つ複雑な症例での具体的な治療選択の根拠 患者の生活背景や価値観が治療方針に与える実際の影響 など、製薬企業のマーケティング活動や医師向け情報提供において極めて価値の高い情報となっています。 おわりに電子カルテデータと生成AIを組み合わせることで、従来では実現困難だった「実症例に基づく複数専門医による詳細な治療方針議論」を効率的に実現できることが実証されました。 製薬企業の皆様にとって、このような取り組みは以下の価値を提供できると考えております。 リアルワールドでの治療実態の把握 複数の専門医による多角的な治療戦略の理解 患者のニーズと医師の判断プロセスの深い洞察 効果的な医師向け情報提供活動のヒント 今後も株式会社ユカリアでは、電子カルテデータと生成AIを活用した革新的なアプローチで、製薬企業の皆様の事業活動をサポートしてまいります。 ご質問やご相談がございましたら、お気軽にお声がけください。 お問い合わせ 株式会社ユカリア 法人営業部 pharma.biz@eucalia.jp

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臨床現場における医師と乳がん患者さんのコミュニケーション②

製薬企業向けマーケティング支援を行う株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。 乳がん患者さんの実症例に基づいたインタビューから医師のリアルな意見を聞いた、弊社主催ウェビナーの続きをご紹介します。 ウェビナーの概要と、インタビューに使用した症例の内容については、前回記事、臨床現場における医師と乳がん患者さんのコミュニケーション①をご覧ください。 ステージ別の告知における臨床の実際■治療説明 電子カルテの医師所見からは、患者さんの現状や治療説明について以下のような記載がみられました。 右乳房のしこりは乳がんで、脇のリンパ節も転移している。 トリプルネガティブ乳がんというあまりタチは良くないタイプ。右乳房から腋窩リンパにがん細胞が流れて行っているので、 小さい病変がどの程度動くか。 まずは手術というよりは抗がん剤治療。術前化学療法の適応で免疫チェックポイント阻害薬+古典的抗がん剤(=細胞毒性薬) となる。細胞毒性のみならず、免疫チェックポイント阻害薬の副作用も加わるので、治療リスクは上がって……(中略)…… 早期発見、早期治療を心がけるが、完全にコントロールできるという保証はない。リスクを背負って頂く必要はある。 家族歴あり、BRCA変異の検査が望ましい。家族性のものゆえ、家族の了解が前提。陽性の場合、術後の治療選択肢が増えるが、血縁家族には心の重荷となる可能性あり。 ■ 受け入れ また、治療説明後の患者さんの受容の状況については、以下のように書かれていました。 病状説明を受け、乳がんで他界した姉の病状を看てきたことや子ども (8歳男の子) のことについて不安を聞かれ、 涙を流される姿は見られるものの、 治療に関して受け入れ、 子どものことを考えて「息子が学校に行っている間に治療を済ませたい」と希望されるなど、治療に前向きであった。BRCA遺伝子検査についても理解され、受けるとともに、「疎遠になっている姉がいるが、これを機に話してみようと思う」と積極的であった。 ■治療方針 なお、その後に行われた初期治療については「術前化学療法で免疫チェックポイント阻害薬に古典的抗がん剤/BRCA実施」とされています。 上記の症例をもとに、坂井先生より「告知」について、ステージ別に解説いただきました。 解説 初期乳がんの告知 初期治療を行う段階では「死の宣告」のような形式にはならない 適切な治療を行い、共に頑張っていく旨を伝える ■ 初期乳がんの告知 僕たちが多く日常でやっている告知は「初期治療を行うときの告知」です。 基本的には5年生存率も9割超えるがんなので、いわゆる死の深刻な告知ではないことが多いんです。基本的に治るがんということですね。 適切な治療をこれから一緒にやっていくこと、一緒に頑張っていきましょうっていうことを伝わるような告知のしかたを意図しています。  解説 進行乳がんの告知 告知の場を「セッティング」する 患者さんにはキーパーソンと一緒にその場に来ることをお勧めする ■ 進行乳がんの告知 それよりも進んでステージがもうちょっと高いようながん、若いとかステージ4というような患者さんに、いわゆるバッドニュースを告知しなければいけないような時には「場のセッティング」をします。 誰かキーパーソンを一緒に連れてくることを勧めたり、条件があります。もしそういうことを告知しなければいけないことがわかってるんだったら、セッティングについては重要視します。 状況自体はいい状況で見つかる人もいれば、少し進んだ状況で見つかる人もいらっしゃるんですけれども、基本的には今の現状を淡々と伝え、それに対して適切な治療をやっていくことです。 乳がんは根治を見込めるがん腫でもありますので、適切な治療を適切に受けていってもらえるように根治を目指す意識を共有できるような話をするようにしてます。 解説 受け入れに時間がかかる場合 まず外来の看護師に対応を依頼し、サポートしてもらう 次の段階として、腫瘍精神科医やカウンセラーに、患者さんが治療に前向きになる手助けをしてもらう もちろん時間がかかる人もいるし、サポートが必要な人もいます。 状況によっては外来の看護師がまず最初にサポートします。 次の段階で精神科の先生やカウンセラーの人たちに入ってもらいながら、だんだんご自分の病状を受け入れるまでに少し時間がかかるので、そういう時間を作りながら治療に対して前向きになっていってもらえるようにやっています。 遺伝子検査と化学療法遺伝子検査について 遺伝子検査は患者さんの許可のみで実施可能です。家族歴に加え下記のような症例ではBRCA遺伝子検査実施を検討します。 若年のトリプルネガティブタイプ症例 リンパ節転移が多数ある症例 同院では、適応となる患者さんの9割以上に遺伝子検査が紹介される一方、検査実施率は3割弱となっています。 3割弱という実施率には高額な費用の影響が大きいと思われ、坂井先生は「値段が高くても検査するメリットがある患者さんにはすすめる一方、検査結果が治療方針に影響しない場合は情報提供程度に留める場合も」と説明されました。 遺伝子検査の紹介にあたって、医師は患者さんの背景をしっかりと理解したうえで説明の仕方を調整していることが分かります。 化学療法について 化学療法は主要な治療法の一つですが、副作用や治療効果に対する患者さんの不安は大きいものがあります。セミナーでは坂井先生から化学療法における患者さんの実情が説明されました。 具体的には、術前化学療法で良好な効果が得られなかったり、術後化学療法の副作用がある場合などに、治療中断の希望といったネガティブな反応を示されるケースが珍しくないことが紹介されました。 こうした患者さんに対しては、一人ひとりの価値観や目標を深く理解したうえで、治療の利点を丁寧に説明することが重要とのことです。 坂井先生は「ただ頑張りましょうではなく、その頑張りが何に繋がるのか、患者さんのゴールはどこなのかに訴えられるよう話しています」とポイントを解説されました。 初発・再発それぞれの薬剤変更 薬剤変更については、初期治療や初発においては「前向きに」話の方向性を示す心掛けが説明されました。化学療法による有害事象・PD判定など理由に関わらず伝え方に変わりはなく、現在の治療を続けることはベストではないこと、現状を変えるため他の治療に変更することを伝えていきます。一方再発においては伝え方はよりシビアになります。 メンタルケア・他科連携メンタルケアの概要 がん診療の現場における患者さんのメンタルの状態は、さまざまです。 時間の経過につれ受容できる患者さんや、パートナーや家族の協力によって受容できる患者さん、メンタルケアを腫瘍精神科医師に依頼せざるを得ない患者さんなど、一人ひとりが異なる状態にいらっしゃいます。 こうした患者さんのケアは、同院では最初に医師が、次いで外来看護師が対応します。 対応後は次回の診察までにどのレベルのケアが必要か、外来看護師がプランニングし、外来看護師ミーティングで検討する流れとなっています。 他科との連携|放射線治療の場合 同院では放射線科医と患者さんの放射線治療について、密に情報共有を実施し連携をとっています。 放射線治療は侵襲性が強くないので、化学療法に比べるとメンタルケアの必要性は低いですが、通院する事が困難な患者さんへの対応にはソーシャルワーカーとの連携が必要なケースも想定されます。 今回、実症例データをもとにインタビューを行ったことで、坂井先生からは「この症例データからは、臨床現場における他科連携を必要とするさまざまな課題とそれを解決するアイディアが読み取れ、示唆に富んでいる」とコメントがありました。 製薬企業との関わりについて 坂井先生からは、MRからの情報提供や資材について以下のようなコメントがありました。 MRとのかかわり ・副作用情報/副作用マネジメントの方法 エビデンスのある情報をいただいて感謝した経験がある。 必要な時に情報を伺える相手がいると安心できる。 ・異物混入、在庫不足など こうした不具合の情報は提供いただけるとありがたい。患者さんに影響するので早急に伝えてほしい。 資材について 資材があると患者さんに説明しやすく、伝える内容に漏れがなくなる 副作用の情報・対処方法が分かりにくい資材も存在する 病院によって副作用の対処が細かく変わるので、それに応じてカスタマイズしていただけるとありがたい 実症例を活用した製薬企業マーケティングの可能性 最後に、今回の「実症例をもとにした」インタビューへの坂井先生のご感想を紹介します。 一般的なアンケートやインタビューと比較して、実症例を用いたインタビューは、診療に対する自身の考えをより明確に「言語化」できるきっかけになる 医師としての本音や心理を具体的に話しやすい 背景のリアルな情報があることで、新薬か従来の薬かなどの薬剤処方・患者説明の実際を考えやすい 製薬企業での薬剤のマーケティングにも有効に活用できるのではないか 今回のような医師インタビューは、ほかの疾患領域やテーマでも実施可能です。 調査目的に沿って、柔軟に対応させていただきますので、ご関心をお持ちいただけた企業様は下記よりお問い合わせいただけましたら幸いです。 お読みいただき、ありがとうございました。 ユカリアでは、 独自の電子カルテデータベースと専門家(医療従事者・アカデミア)ネットワークを強みとした、製薬企業様のマーケティング・営業活動をご支援する調査・コンサルティングを行っています。 ■ 疾患領域の例 糖尿病、慢性腎臓病、心不全、リウマチ、消化器癌、乳癌、前立腺癌、肺癌など(応相談) ■ 活用例|MR研修 MRが医師とのディスカッション時に論点とすべきポイントの導出 医師の思考のインサイトの探索 薬剤の処方阻害要因となるポイントの抽出 ■ 活用例|医師インタビュー 内科専門医、A薬・B薬を両方処方された経験がある医師に①A薬剤処方のネガティブ因子あり、②B薬剤のネガティブ因子なしの症例を提示し下記をヒアリング A薬を処方する理由/しない理由 B薬を処方する理由/しない理由 など 詳細や事例にご関心のある方は、以下までお気軽にお問合せください。 株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部 お問合せ窓口メールアドレス:pharma.biz@eucalia.jp

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臨床現場における医師と乳がん患者さんのコミュニケーション①

製薬企業向けマーケティング支援を行う株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部の城前です。 乳がん患者さんの実症例に基づいたインタビューから医師のリアルな意見を聞いた、弊社主催ウェビナーでの配信内容をご紹介します。 医師へのインタビューにあたって実際の症例を用いると、仮想症例を用いた場合と比べて、より明確に臨床での思考を引き出すことができ、それをMR研修で活用いただくと下記のような教育成果が見込めます。 医師とのディスカッションの論点抽出 医師の処方意図や治療方針に対する洞察 薬剤処方の阻害要因の導出 今回のウェビナーは、主な視聴者である製薬企業の皆さまが臨床の理解を深めるお役に立ち、医療関係者との協働に活用いただくことでよりよい医療提供につながればという目的で実施いたしました。 ウェビナーの概要実施日:2024年2月27日(火) 演題:臨床現場における医師と患者さんの コミュニケーションをひも解く     ~がん患者さんとの信頼関係構築~ 演者:坂井 威彦 先生     (公益財団法人がん研究会有明病院乳腺センター副部長) Part1 患者さんの自覚症状と受診のきっかけ Part2 家族背景とキーパーソン Part3 ステージ別の告知における臨床の実際 Part4 遺伝子検査と化学療法 Part5 メンタルケア・他科連携・製薬企業への期待 今回の記事ではPart1・2についてご紹介します。 症例|家族歴のあるトリプルネガティブ乳がん年齢/性別   50代/女性(診断時) ADL/IADL  自立 家族背景  夫:自営業  長男:10代  夫両親:遠方在住、本人両親:80代 子守は困難 家族歴  姉:乳がん 社会背景  無職、子育て中 既往  既往なし 受診までの経過  2015年に乳輪部のヒリヒリ感あり、 乳がん検診希望にて当院初診(乳がん検診は初回)。 経過  初診以降年1回フォローされていたが異常所見なく経過、2022年12月乳房超音波検査で右乳房DEC領域に腫瘤、 右腋窩リンパ節腫脹を認め、meta疑う所見を認める。 腫瘤に対してCNB及びリンパ節細胞診実施。結果stageII b、 右腋窩リンパ節転移ありのIDCと診断。ER陰性、PgR陰性、HER2陰性、Ki-6730%のトリプルネガティブタイプ。 インタビューに使用した実際症例電子カルテのテキストデータにはほとんどの場合、自覚症状から受診に至るまでの経過が記載されています。 例えば乳がんであれば、進行速度を予想するために重要な情報である紹介状の記載内容なども電子カルテデータから読み取れることがあります。 坂井先生による解説診察される患者さんの傾向 年齢層は40代の方が非常に多く、サブタイプ別に分類すると以下の割合とのことです。 自覚症状と受診のきっかけ ■ 乳がんに関連する自覚症状 この症状自体は大変な事なのですが、「しこり」が多いと思います。しこりはご自分で気づかれるケースがほとんどです。例えば服を着替える際などですね。 自覚症状は実際にはしこりだけでなく、痛みやひりひり感などさまざまです。ただ、初期乳がんでは基本的に、明確な自覚症状はあまりありません。 がんの発見経緯は、医師にとって重要な情報です。受診のきっかけとしては「検診で異常を指摘されて受診」というケースが多いです。検診で陽性と判定され受診したケース、自分でしこり以外の異常に気づいて受診したケースなど、患者さんに詳しく聞き取りします。 こうした情報はがんの進行スピードを把握する上で欠かせません。患者さんから情報が得られない場合でもきちんと確認するようにしています。(ほかの医療職も)患者さんの発見のきっかけを理解するため経緯は記録に残すようにしています。 ■ がん検診・受診啓発について 日本ではがん検診を促す企業発信はあまり多くないのが実情です。「検診を受けましょう」「自己触診をしましょう」といった啓発は多くありません。製薬企業の広告は抽象的なものが多く、そうした広告を見て乳がんクリニックなどを受診するきっかけにはなりにくい印象もあります。 家族背景について ■ 家族歴の確認 家族歴があるかどうか、つまり遺伝性乳がん卵巣がんの背景があるかどうかは重要です。 また、患者さんが家庭や職場でどういう立場なのかも治療選択の判断に関係してきます。若い人の場合、お子さんやパートナーがいるかどうかが、温存療法の選択肢にも影響します。 ■ 妊娠への影響 乳がんの初期治療を始める際、手術が先か抗がん剤が先かを判断する必要があり、抗がん剤が先の場合は卵子凍結なども検討しなければなりません。 そのため、最初の段階でお子さんの有無などを積極的に確認しています。温存療法をするかどうかで、月経が止まって閉経し、次のお子さんができなくなる可能性があります。そういった家族計画が終わっているかどうかは重要な情報です。 ただし、最後の子どもが産まれてからかなり経っている方には、あえて詳しく聞かないこともあります。 ■ 高齢者のスペシャルニーズ 高齢の方の場合は通院できるかどうか、付き添いができる人がいるかどうかも重要です。特にインテンシブな治療をする上ではそのサポートの有無を確認する必要があります。 現在の患者さん(※ユカリア注:先生の担当患者さんは施設入居されている)はそこまでサポートが必要な方は多くはありません。 施設から少し離れていますが、高齢で一人では通えない方は、家族が付き添ってくれる方が多いようです。 化学療法や放射線治療など、毎日通う必要がある場合でも、付き添いがある程度できる環境にあります。 キーパーソンについて ■キーパーソン(主な支援者) 治療の選択肢を一緒に考え、何かあった時のサポートになってくれる人がいるかどうか、つまりキーパーソンは把握する必要があります。 独身の方だと親がキーパーソンになることもあります。診療にパートナーや友人が同行する場合があり、そうした方がたとの関係性の深さなども確認しています。 乳がんの場合は初期治療の段階では、まだ深刻ではないことが多いため、キーパーソンを連れてこない方もいます。 患者さん次第ですが、判断が一人ででき、一人で受診されるかたも多い一方、再発のリスクが高くなってくるときなどには、キーパーソンともお話しする必要性が出てきます。 次回 Part2ではステージ別の告知、遺伝子検査と化学療法、メンタルケア・他科連携についての解説をご紹介します。 ユカリアでは、 独自の電子カルテデータベースと専門家(医療従事者・アカデミア)ネットワークを強みとした、製薬企業様のマーケティング・営業活動をご支援する調査・コンサルティングを行っています。 詳細や事例にご関心のある方は、以下までお気軽にお問合せください。 株式会社ユカリア データインテリジェンス事業部 お問合せ窓口メールアドレス:pharma.biz@eucalia.jp 【製薬企業の方へお知らせ】■ 無料の分析情報提供サービス Patient Visualizer(ペイシェントビジュアライザー) 薬剤のポジショニング・市場規模・患者像・競合品とのスイッチ状況 の把握に役立つ分析データやレポートなどの情報をご覧いただける情報提供サービスです。よろしければ、情報収集のため会員登録のうえご利用ください。 https://pv.eucalia.jp/ ■製薬企業向け 営業活動支援サービス 弊社のご提供しているコンサルティングサービスの概要をまとめております。独自のアセットを活用し、製薬企業さまの営業活動のPDCAをトータルでサポートいたします。 https://eucalia.jp/service/pharma/

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コロナ禍を東奔西走した医療従事者たち

この連載は、2020年5月から2022年5月までにコロナ専門病棟を開設した10の民間病院の悪戦苦闘を、各病院で働くスタッフの声とともに紹介していきます。

コロナパンデミックの体験は、これからの医療をどう切り拓くか【20】エピローグ

私(西村)が取締役を務める株式会社ユカリアでは、全国の病院の経営サポートをしており、コロナ禍では10の民間病院と共にコロナ専門病棟開設に取り組んできた。 そしてこの連載では、日本の全病院の7割を占める民間病院が、どのような状況にあったのかを、現場の声と共にお伝えしてきた。 病院の取り組みを記録しておくことで、今後も起こりうる新たな感染症や災害医療に備える一助になりたい。そうした思いから開始した連載も、今回で最後となる。 最後に改めて「コロナ禍の医療現場では何が起きていたのか?」を振り返りながら、過酷な現場のリアルな体験を通して学んだことを伝えたい。 「コロナ専用病棟をつくる」とはどういうことだったのか新型コロナの感染が拡大した当初、コロナ患者の受け入れは、感染症対策の備えができていた感染指定病院が担っていた。しかし、予想をはるかに上回る感染力で感染者が増加。あっという間に病床が不足する事態となった。 連日各地の病院が「満床」であるとの報道に、不安になった人も多くいた。「なぜコロナ患者を受け入れる病院と、そうでない病院があるのか」と、疑問に思った方もいただろう。 民間病院も、医療ひっ迫を解消する努力をしていた。だが、コロナ患者の受け入れにすぐに対応できなかった理由があった。 まず、指定感染症(新型コロナ)を診療するために、行政から認定を受けなければならなかった。 ほとんどの民間病院が、感染症に対する知識や経験、備えが不足しており、この申請のハードルが非常に高かったこと。また、防護服やマスクなどの医療資材も不足しており、行政が管理する医療資材の振り分け先リストに名前が入らなければ、コロナ患者受け入れ準備のスタートラインにも立てない状況にあった。 「病院」とひとくくりにしても、民間病院と公的医療機関では役割が違い、有事での対応のスピードに差が生まれる。 加えて、診療控えの影響で、急激な経営悪化に直面していた病院も少なくなかった。 そんな状況下で、さらにコロナ患者の受け入れのためには、一般診療の停止や入院患者の調整など、準備に数十日はかかる。病院の運営に影響が出るのは必須。影響の大きさは、病院の努力だけではまかないきれないと試算された。 民間病院に対する公的な補償や、公的支援があるのか否か、しばらく不明確で、コロナ患者受け入れと、病院経営の維持の両立を見極めるのが難しかった。 「地域のため」とわかってはいても、治療法が確立されていないタイミングで、患者を受け入れて大丈夫なのか。「あの病院にはコロナ患者がいる」という風評被害の広がりもあった。病院スタッフの理解と協力が得られるのか。行政は、民間病院を支援してくれるのか……。真っ暗な道を、光を求めて歩いているようだった。 そんな中でも、「自分たちがやるしかない」とコロナ専門病棟開設を決断し、2020年6月にはじめの一歩を踏み出したユカリアのパートナー病院の事例もある。 報道はされなかったが、地域医療を守るために東奔西走し、さまざまな努力を続けた医療従事者は大勢いた。 一方、市民の立場では、民間病院も公的病院も病気を改善してくれる「病院」である。なぜコロナ患者を受け入れる病院とそうでない病院があるのか? 経済難になる病院とそうでない病院があるのか? そうした、医療従事者と市民の間にある情報の乖離が、医療従事者に対する不満や風評被害に繋がってしまった。 振り返ってみると、民間病院がコロナ専門病棟を開設しながら、医療を守る術を模索する姿をもっと発信していくべきだったと思う。そして、民間病院でコロナ専門病棟を開設する方法があること、ユカリアはそのマニュアルを持っていることも、広く伝える努力も必要だった。そうすれば、もっと多くの民間病院の力で、コロナ患者受け入れ体制が作れたのかもしれない。 民間病院が乗り越えるべき3つのハードル今回コロナパンデミックを経て、私は民間病院が災害時に市民の求める医療を提供するためには、3つのハードルを解決する必要があると学んだ。 まず、感染対策のハードル。 民間病院にとって大きなハードルが、ゾーニングだった。ゾーニングができなければ、コロナ患者の受け入れもできない。建物の古さや構造上の問題でゾーニングは難しいと考えていた病院も多かった。 しかし、ゾーニングにもマニュアルがある。正しく理解すれば、ほとんどの病院でゾーニングはできる。ユカリアはパートナー病院と共に、精緻なマニュアルを作れたからこそ、感染対策が特に難しいと言われていた精神科病院でも、コロナ患者受け入れの体制を整えることができた。 (参考事例/E病院、G病院) 次に院内マインドのハードルだ。 「コロナ患者の受け入れと感染対策は両立できる」という理解が浸透した病院と、感染症に対する不安だけが広がった病院では、対応のスピードに差が生じた。地域医療の課題に応える医療を提供するためには、院内マインドの醸成も必要だった。 (参考事例/A病院、C病院、F病院、H病院、I病院) 最後に、行政交渉のハードル。 災害時に地域医療と病院を守るためには、行政との連携が欠かせないと実感しながらも、行政との交渉や連携に苦労した民間病院も多い。 (参考事例/B病院、D病院、J病院) 私は、2020年の早い段階から行政と交渉を行ってきたが、1年程はハードな交渉が続いた。交渉中に、コロナ専門病棟の認定に必要な条件や、支援(補助金)の情報が変更になったり、行政に地域医療のリアルな現状を説明しても、理解してもらえず残念な思いをしたこともあった。 2021年になると、行政と民間病院の関係も前進したが、コロナパンデミック以前から行政交渉を経験していた私でも、厳しさを感じる日々だった。日頃、行政との関わりが少ない民間病院の担当者は、相当な苦労をしたのではないかと想像する。 行政担当者も、混乱する中であちこちから入る問い合わせの対応に追われていたのかもしれない。民間病院と行政の橋渡しをする役割の必要性と、日頃から連携をとっておく重要性を感じずにはいられなかった。 この経験を活かし、行政と民間病院で、緊急時を想定した関係作りを更に強化していければと考えている。 「地域医療を守る病院とは」答えは、これからの医療の姿にあるユカリアのパートナー病院が、コロナ禍に辿ってきた道のりや直面した課題は、日本の民間病院の縮図だと思っている。地域医療を守るために、民間病院と公的医療機関、行政がどのように連携していくのか。そのヒントを、いち早くコロナ専門病棟を開設したパートナー病院のあり方が示しているのではないだろうか。 アフターコロナに向けて、パートナー病院が抱えている課題もまた、これからの地域医療構想を考える上で、大きなヒントになるのではないか。 コロナパンデミック以前から、病院の統廃合を進める「424病院構想」(※2019年に厚労省が公立・公的病院の再編統合を公表)が議論されていたが、パンデミックの経験を経て、地域医療構想も大きく変化していくのかもしれない。 コロナパンデミックでは、地域ごとに必要な病院機能があることや、どの病院がその機能を果たせるのかなど、地域医療エコシステムの構築には新たな課題も浮き彫りになった。地域医療を守るため、新たな視点が加わって、より活発な議論が始まっていくだろう。 この私たちの記録が、今後の災害医療対策、地域医療対策を考える機会になれば幸いである。 おわりに「どうせつぶれるなら、地域に貢献してつぶれよう」。病院という地域の砦を守るために、覚悟を持って走り出してから2年以上が経過した。 私たちの生活が、多くの人の努力と、互いの協力で成り立っていると、改めて実感した2年でもあった。そして、医療従事者の強い覚悟と信念に支えられ、いくつものハードルを乗り越えてきた。挑戦を選んだからこそ得られた経験は、この先の病院経営に欠かすことができないものとなるはずだ。 爽やかに澄み渡る秋の空を、穏やかに見上げる今日のような日常が、これからも続くことを願いながら、医師として、経営コンサルタントとして、目指す医療の未来を議論し、実現させていくための挑戦を続けていきたい。 最後に、医療を守り、命を守るために、さまざまな苦難を乗り越えてきた医療従事者と、医療従事者を支えて下さった多くの方々に、感謝と敬意を込めて。ありがとうございました。 2022年11月16日 西村祥一 <語り手> 西村祥一(にしむら・よしかず) 株式会社ユカリア 取締役 医師 救急科専門医、麻酔科指導医、日本DMAT隊員。千葉大学医学部附属病院医員、横浜市立大学附属病院助教を経て、株式会社キャピタルメディカ(現、ユカリア)入社。2020年3月より取締役就任。 医師や看護師の医療資格保有者からなるチーム「MAT」(Medical Assistance Team)を結成し、医療従事者の視点から病院の経営改善、運用効率化に取り組む。 COVID-19の感染拡大の際には陽性患者受け入れを表明した民間10病院のコロナ病棟開設および運用のコンサルティングを指揮する。 「BBB」(Build Back Better:よりよい社会の再建)をスローガンに掲げ2020年5月より開始した『新型コロナ トータルサポ―ト』サービスでは感染症対策ガイドライン監修責任者を務め、企業やスポーツ団体に向けに感染症対策に関する講習会などを通じて情報発信に力をいれている。 ホーム - EUCALIAユカリアは、社会インフラを守り、より新しいものへと変革させる会社です。「変革を通じて医療・介護のあるべき姿を実現する」といeucalia.jp 編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・頼母木俊輔)/イラスト・こしのりょう

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「どうせ潰れるなら挑戦を」コロナ禍を奔走した医療従事者たち【01】プロローグ

倒産を待つか、あらがうか「コロナ専門病棟をつくりましょう」 「無茶だ、ありえない、前例がない!」 2020年4月19日。 3ヶ月後には資金ショートしてしまう病院の理事長を前に、私は訴えた。 「どうせ資金ショートしてしまうなら、挑戦して、地域に少しでも貢献し尽くしてつぶれたほうがいいですよ」 400人以上いる病院関係者のことを思えば、「つぶれましょう」なんて言ってはならない。だが、このままだと病院がつぶれてしまうというのは、逃れられない事実だった。 「どうせつぶれるなら、地域に貢献してつぶれよう」 その言葉を発したのは、医師としての使命感だったのか。追い込まれた人間の叫びだったのか。 病院という地域の砦を守るために、私たちが選んだ道は、今日まで続いている。 医療従事者の覚悟と信念私が取締役を務める株式会社ユカリアでは、「変革を通じて医療・介護のあるべき姿を実現する」というミッションのもと全国のパートナー病院の経営サポートをしている。私は、医師や看護師の医療資格保有者からなるチーム「MAT」(Medical Assistance Team)を結成し、医療従事者の視点から病院の経営改善、運用効率化に取り組んでいる。 2020年以降の経営サポートは、多くの実績をもつユカリアにとっても困難の連続だった。 新型コロナの感染拡大に伴う外来診療の減収や、院内クラスター発生に伴う診療停止などによる経営危機もあった。 感染症の治療経験のない民間病院で、コロナ患者を受け入れることは非常に難しく、院内にウイルスを持ちこまないための対策をとることで経営を守ろうとしていた。 そんな中、ユカリアとパートナー病院は、国内の民間病院として、最も早く「コロナ専門病棟をつくる」ことを決断した。 我々がコロナ専門病棟の開設を決めたのは、大学病院や感染症指定病院などで、やっと受け入れができるくらいの時期だった。 行政としても、専門病棟開設のガイドライン制定が整っておらず、資金援助の目途も立っていなかった。 感染症対策のガイドラインをつくり、必要な医療資材を調達し、院内の環境を整備しながら、行政と専門病棟開設に必要な交渉を進める。資金調達も同時に行う。 新型コロナが未知の感染症だった2020年4月に、民間病院が専門病棟の開設を実現したことは、奇跡だった。医療従事者の強い覚悟と信念がなければ、不可能だった。 コロナ専門病棟を開設したことで、私たちは、自信と安心を得ることができた。 2022年5月までに10の専門病棟を開設してきたのだが、それぞれに悲喜こもごもな物語があった。次回以降、詳しくお伝えしていきたい。 期待から混乱へ改めて2019年12月から振り返ってみよう。 「中国の武漢市で原因不明の肺炎が集団発生した」というニュースが流れ、2020年2月に横浜港に寄港したダイヤモンド・プリンセス号の中で、国内で初めての感染が確認された。 私は、陽性患者の治療にあたっている都内の病院からの要請を受け、災害派遣医療チーム(DMAT)の一員として、応援にかけつけた。 当初、新型コロナの症状は「軽症から中等症程度」という情報しか伝わっていなかったが、実際は、感染防護服を着用し、人工心肺装置ECMOを使った治療にあたらねばならなかった。 「感染して重症化すると、ここまで悪化するのか」 「これほど重症になる感染症が市中に広まってしまっては、医療はパンクするどころではないかもしれない」 予想もしていなかった現実に、感染防護服を脱ぐ手が震えていた。 ただ、日本は過去に、SARSウイルス、MERSウイルスを「水際作戦」で阻止してきた経験があった。今回も感染が広がる前に収束するだろうという期待も、まだ、捨ててはいなかった。 ところが。 世界を見れば、感染者数は急激に増え、世界中の医療現場の混乱をニュースで見る日が続く。 「水際作戦をこのまま続けても、限界は早々にくるかもしれない」 そんなことを考え始めた頃。 2月26日に、日本政府が大型イベントの中止や延期を求め、その翌日には、全国の小中高の臨時休校が決まった。 そして、3月11日、WHOが新型コロナのパンデミックを宣言した。 各国で、厳しいロックダウンが始まった。 国内の病院では診療を控える人が増えた。全国にあるパートナー病院はどのような状況になっているのだろうか。この感染症が及ぼす影響を想像すると、小児科の静けさが、少し怖かった。 最初の覚悟4月4日。「パートナー病院の職員が感染した」 ーと報告が入った。 覚悟はしていたが、想定よりも早く、感染者が出てしまった。 私は連絡窓口として、外来休診交渉やスクリーニングPCR検査の対応に追われた。検査結果が出るまで、関係者は出勤停止。 病院の一般診療や手術は止めざるを得ない。検査体制が整っておらず、関係者の検査を終えるには想像以上の時間を要した。 幸い、保健所からは病院の診療再開の許可はすぐに下りたが、職員のローテーションには不安が残った。 「たった一人の感染者で、これほどの影響を受けるのか」 漠然と抱いていた不安が、むくむくと大きくなっていった。 感染を防ぐ対策だけでは、もう乗り切れない。パートナー病院の多くは地域医療の最後の砦になる。地域医療を守るためにも、感染者に対応できる準備をしよう。それが、病院経営を守ることになる。そう信じ、覚悟を決めた。 覚悟には当然リスクが伴った。なぜなら、ユカリアが支援する民間病院は、感染症患者の治療経験がない。感染症の専門医もいない。どれほどの対策が必要な感染症なのかーこれほど答えが見えない医療対策は、初めてだった。 大きな挑戦へ 覚悟を決めた日まず、院内クラスターが発生したときの感染隔離対策(ゾーニング)や、業務マニュアルの策定を進める必要があった。 感染指定病院ではない病院で、ゾーニングをどうすればいいのか、専門家と30時間協議をし続けて策定した。 そんな中(4月17日)。 パートナー病院で院内クラスターが発生したとの一報に、完成しきっていない脆弱なマニュアルに目をやった。 「このマニュアルで、ほんとうに対応できるのか。これで、職員と患者を守れるのか」「不安でたまらない。もどかしい。だが、迷っている時間などない」 現場のスタッフに頼るしかなかった。 現場は、あらゆる場所で混乱していた。PCR検査に時間を要し、感染が疑われた職員の不安を取り除くことさえできないのは、つらかった。 危機感が募る中、「このままでは、3ヶ月後に資金ショートする」との報告があがってきた。 4月18日。すぐに、病院の理事長とユカリアの役員が集まり、緊急会議が開かれた。 緊急事態宣言が発出されて以降、診療控えはより顕著になり診療報酬は激減。院内クラスターが発生した病院に対する世間の目は厳しく、減収した病院に対する公的支援の発表もなかった。 その現実を前になにができるだろうか。経験だけを頼りに何日も考えたところで、机上の空論だった。 「どうせ資金ショートしてしまうなら、挑戦して、地域に少しでも貢献してつぶれたほうがいい」 そう口にしたとき、脆弱なマニュアルだけを頼りにしていた不安は、消えていった。 パートナー病院の多くは地域医療の最後の砦になる。 地域医療を守るためにも、感染者に対応できる準備をしよう。 それが病院経営を守ることになる。 「コロナ専門病棟をつくりましょう。もう、それしかない」 それは、重い決断だった。私たちは受け身から攻めへと舵を大きく切ることを決めたのだった。 ーーーー この連載は、2020年5月から2022年5月までに専門病棟を開設した10の病院の道のりを、ユカリア取締役の西村と、各病院のスタッフのインタビューとともに紹介していく。(第2回はこちら) コロナ禍を奔走した医療従事者たち|ユカリア|noteこの連載は、2020年5月から2022年5月までに専門病棟を開設した10の民間病院の悪戦苦闘を、各病院で働くスタッフの声とnote.com <語り手> 西村祥一(にしむら・よしかず) 株式会社ユカリア 取締役 医師 救急科専門医、麻酔科指導医、日本DMAT隊員。千葉大学医学部附属病院医員、横浜市立大学附属病院助教を経て、株式会社キャピタルメディカ(現、ユカリア)入社。2020年3月より取締役就任。医師や看護師の医療資格保有者からなるチーム「MAT」(Medical Assistance Team)を結成し、医療従事者の視点から病院の経営改善、運用効率化に取り組む。 COVID-19の感染拡大の際には陽性患者受け入れを表明した民間10病院のコロナ病棟開設および運用のコンサルティングを指揮する。「BBB」(Build Back Better:よりよい社会の再建)をスローガンに掲げ2020年5月より開始した『新型コロナ トータルサポ―ト』サービスでは感染症対策ガイドライン監修責任者を務め、企業やスポーツ団体に向けに感染症対策に関する講習会などを通じて情報発信に力をいれている。 ホーム - EUCALIAユカリアは、社会インフラを守り、より新しいものへと変革させる会社です。「変革を通じて医療・介護のあるべき姿を実現する」といeucalia.jp 編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・頼母木俊輔)/イラスト こしのりょう

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民間病院にコロナ専門病棟を開設する!はじまりの病院【02】埼玉県A病院

この連載は、コロナ専門病棟を開設した10の民間病院の悪戦苦闘を、スタッフの声とともに紹介していくものである。(連載一覧はこちら。) 私(西村)が取締役を務める株式会社ユカリアでは、全国の病院の経営サポートをしており、コロナ禍では民間病院のコロナ専門病棟開設に取り組んできた。 まずは、国内でも最も早く民間病院のコロナ専門病棟をつくった、埼玉県のA病院からはじめよう。 クラスター発生で診療業務が停止「埼玉県のA病院で複数の職員が感染」 2020年4月17日にその一報が入って以降、職員の感染報告は増え続けた。 私は、混乱する現場への指示と、保健所への連絡。院内クラスター発生と診療業務停止に関するプレスリリースを作成し、問い合わせに関する対応指示を出した。 病院経営に与える打撃を早急に試算する。緊急事態宣言発令後、多くの人が診療を控えていたため、病院の収入は大幅に減少していた。 クラスター発生により、さらなる減収も確定している。 資金ショートの危機という課題を打破する策はあるのか。いつまでを期限として、新型コロナ対策を決めていけばいいのだろうか。 何を軸に考えるべきなのなのか。 私は大きく息を吐き、ゆっくりと、息を吸った。 「焦るな」と言い聞かせ、一つずつ状況を把握していった。 A病院の機能が停止した場合に、地域医療に与える影響は? 病床数199床のA病院の地域には、2つの基幹病院がある。 1つは、徹底的な水際作戦を大々的に打ち出し、外来診療の制限、新規入院患者の受け入れの中止を表明していた。 もう1つは、新型コロナ重症患者の専門病棟を開設していたが、すでに満床状態だった。 病院の通常診療も制限されている。 地域病院の受け入れ状況地域医療の崩壊ー。 その言葉が頭をよぎった時に、決意した。 これから重症患者はどんどん増えていく。それがわかっている以上、経験がなくてもやるしかない。この地域の医療崩壊を防げるのは、私たちしかいない。 進むも地獄 退くも地獄2020年4月19日。 病院の理事長室で、理事長と事務次長、ユカリアの社長と私の4名で緊急会議を開いた。 院内感染の状況の共有に続き、事務次長から「今のままでは5月中旬には資金ショートする」と報告があった。猶予はない。 私は覚悟を決めて、理事長に訴えた。 「このまま何もしなくても病院はつぶれてしまう。地域医療もすでに危機的状況にある。だからこそ、コロナ専門病棟をつくりましょう」 重苦しい沈黙が流れた。 それは、院内の水際作戦を進めていた理事長にとって、突拍子もない提案であった。 「うちでできるわけがない。関係者もきっと反対するはずだ!」 理事長の声は重かった。 たしかに、民間病院がコロナ専門病棟を開設した事例はなかった。 経験者もいない。リスクが高すぎる。 院内クラスターの収束を待って、従来通り業務を再開をしていく方が安全ではないか、と考えるのが当たり前だ。国内の多くの民間病院がそうした対応をしていた。それに、まだまだ感染症の全容もわからない時期に、スタッフを専門病棟で無理に働かせるわけにはいかない。 新型コロナの患者を受け入れた病院に対する公的な補助金も決まっていない。 「どうやって経営していくというのか」 そう声を荒げる理事長に、「心配ない」と返せる根拠を、私も持ち合わせていなかった。 あまりに先行きが見えない提案に、理事長は視線を合わせず、窓の外を見つめていた。 コロナ専門病棟の開設には、行政から重点医療機関の認可を受けなければならない。民間病院で認定を受けた前例もないため認可が下りない可能性もあるが、行政を動かすことができれば、大きなインパクトを生み出せる。 もう、それしかない。「一度、行政のトップと話をしましょう。すぐに会談を申し込みます!」 私は有無を言わさぬ勢いでそう告げて、会議を終わらせた。 県知事に働きかけてトップ対談あの時、なぜ「無茶だ、ありえない、前例がない!」という状況に諦めず、コロナ専門病棟を開設する道を進み続けたのか。 課題は山積みだったが、「やらなければ」という医師としての使命感が、私を突き動かしていた。 理事長との会議を終えてすぐ、コネクションをフル活用して埼玉県知事と市長へ、会談を申し入れた。 患者受け入れ先の不足という行政側の事情もあってか、会談はすぐに開催された。 会談が始まると早速、県知事、市長から県内の感染状況と患者の受け入れ先について説明を受けた。 そして、「A病院のコロナ専門病棟開設に期待したい」という強い想いが伝えられた。 理事長の背筋が伸びる。 「ですが、民間病院でコロナ病棟開設の事例がありません。当院は現在医療資材も人員も資金も不足しています。行政とのやりとりに時間をかける余裕もありません」 「行政として必要な制度設立を早急に行い、医療資材の確保や補助金の準備など、できる限りの支援を行う用意を進めます」 行政側の力強い一言一言が、理事長の迷いを晴らしていく。 「理事長、地域の医療を守るために、力を貸していただけませんか?」 県知事のその一言は、行政のトップとしてだけではなく、一人の市民の願いのようにも映った。 空気が、変わった。 「わかりました。当院にコロナ専門病棟開設の準備を早急に進めましょう」 理事長は、力強く決意を述べた。 いちかばちかのトップ会談だったが、道がひらけて弾みがついた。会談の様子は地元のTV局などでも大々的に放送された。 会談で得られたものは大きかった。コロナ専門病棟として認可されるための交渉が省略できる。不足している医療資材も、行政の支援があれば解消していくはずだ。 はっきりとした補助金の金額は約束されなかったが、反故にされることはないという確信が持てた。医療従事者への支援拡大も約束してもらった。 動き出した医療従事者たち「やるべきだ!」 「到底受け入れがたい!」 理事長からコロナ専門病棟の開設を聞いた職員の声は、割れた。 私たちが伝えられるのは、行政が支援を表明してくれていること、地域医療の現状、コロナ専門病棟を開設する社会的意義くらいだ。強制するべきことはなにもない。 経営陣は、この決定を聞き、多くの離職者が出ることを覚悟していた。医療従事者に対する偏見も強くなっており、家族から出勤を止められたというニュースも耳にしていた。 院内での話し合いの場を経て、数名の退職願を受け取った。だが、数名だった。強く反対し続ける人もいなかった。 院内クラスターを経験し、ゾーニングなどの感染対策の下地ができていたこと。医療従事者として新しい症例を知っておきたいと考えるスタッフもいたこと。病院にとって、もはや「対策不明の未知の感染症」ではなくなっていたことが、専門病棟開設を後押ししたのだと思う。 「感染に対する不安をゼロにはすることはできない。でも、正しく身を守る方法を知った人は攻めに回ることができるのだ」 不安と混乱で満たされていた病院の空気が、あきらかに変わり始めた。コロナ専門病棟の開設が決まってから、院内担当者の動きは早かった。 担当者を振り分け、病棟を整えていく。マニュアルとオペレーションの確立、シフト調整など、5月中には39床を用意し患者の受け入れができる体制が整った。通常外来、救急外来も再開した。 「本気で取り組むと短期間で、ここまでできるものなのか」自分で様々な提案をしながらも、驚きを感じていた。 知事との会談後、5月上旬には銀行からの融資が決まった。懸念されていた資金ショートも回避したのだった。 2020年6月。 A病院はコロナ重点医療機関の認定を受け、民間病院のコロナ専門病棟が誕生した。 病院の新たな出発コロナ専門病棟の運用が安定するまで、病院の慌ただしい日々が続いていた。(現場の詳しい様子は次回) そうした病院の姿勢に、地域の方たちからは、励ましの言葉が寄せられた。さまざま企業から、協賛や支援をいただいた。力強い応援はうれしかった。 緊張感と慣れない作業にやや疲れを浮かべているスタッフもいたが、みな堂々としていた。力強かった。「地域医療を守っている」という自負が、病院全体にみなぎっていた。 ーーーーー 次回は、埼玉県A病院から3名のスタッフが登場。現場スタッフはコロナ専門病棟開設をどのように受け止め、現場を動かしていたのか。インタビューを元にしたリアルな声をお届けします。 コロナ禍を奔走した医療従事者たち|ユカリア|noteこの連載は、2020年5月から2022年5月までに専門病棟を開設した10の民間病院の悪戦苦闘を、各病院で働くスタッフの声とnote.com <語り手> 西村祥一(にしむら・よしかず) 株式会社ユカリア 取締役 医師 救急科専門医、麻酔科指導医、日本DMAT隊員。千葉大学医学部附属病院医員、横浜市立大学附属病院助教を経て、株式会社キャピタルメディカ(現、ユカリア)入社。2020年3月より取締役就任。医師や看護師の医療資格保有者からなるチーム「MAT」(Medical Assistance Team)を結成し、医療従事者の視点から病院の経営改善、運用効率化に取り組む。 COVID-19の感染拡大の際には陽性患者受け入れを表明した民間10病院のコロナ病棟開設および運用のコンサルティングを指揮する。「BBB」(Build Back Better:よりよい社会の再建)をスローガンに掲げ2020年5月より開始した『新型コロナ トータルサポ―ト』サービスでは感染症対策ガイドライン監修責任者を務め、企業やスポーツ団体に向けに感染症対策に関する講習会などを通じて情報発信に力をいれている。 ホーム - EUCALIAユカリアは、社会インフラを守り、より新しいものへと変革させる会社です。「変革を通じて医療・介護のあるべき姿を実現する」といeucalia.jp 編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・頼母木俊輔)/イラスト・こしのりょう

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前例のない挑戦!民間病院にコロナ専門病棟を作った人たち【03】埼玉県A病院

この連載は、コロナ専門病棟を開設した10の民間病院の悪戦苦闘を、スタッフの声とともに紹介していくものである。(連載一覧はこちら。) 株式会社ユカリアでは、全国の病院の経営サポートをしており、コロナ禍では民間病院のコロナ専門病棟開設に取り組んできた。 今回は、民間病院でもっとも早くコロナ専門病棟を開設した埼玉県A病院の現場スタッフ3名に、怒涛の日々をどう乗り越えたのか振り返ってもらった。 看護部長 I.Sさん |患者さんとスタッフが少しでも早く安心できる状態にしたい患者さんやスタッフの感染管理の中心にいたI.Sさん。消毒や検温の院内ルールの強化や、保健所への検査申請フローチャートの作成に取り組んでいた。徐々に体制を整え始めていたが、院内クラスターの発生により状況は一変した。 クラスターが発生して、何を考えていたのか覚えていないくらい、とにかく慌ただしく追われていました。病棟一つ分の職員(70名)を休ませるとなって、看護配置をどうするか、まずそのことを考えていました。現場は「できる人が、できることをやっていくしかない」という雰囲気だったように思います。 私は保健所の連絡窓口も担当していましたが、当時は、検査のハードルがものすごく高く、とにかく時間がかかることが辛かった。 申請書を手書きでFAXしたり、患者さんの情報は別で届けを出したりと1件の検査依頼に2、30分かかっていました。早く検査を終えて感染状況を把握したいのに、思うように進まないのが、もう・・・。 I.Sさんは検査対応に追われながら、クラスターに不安を覚えるスタッフのフォローにあたる。「医療従事者がみんな感染しているわけではない」「焦らずしっかりやっていこう」と伝えた。 医療資材が不足し、スタッフも不安だったようです。 「適切な場所で適切な数を使っていきなさい」とあらためて伝えて、スタッフを落ち着かせていました。不安になっていると、当たり前の対策もおろそかになってしまう。「それじゃダメだよね」って話しながら、声をかけていました。 スタッフは徐々に落ち着きを取り戻していく。そんな中「コロナ専門病棟を開設する」という話が理事長から下りてきた。I.Sさんが真っ先に思ったことは・・・。 「これで検査ができる」。ただそれだけでした。クラスターが発生して以降、濃厚接触者とされた院内の職員40名、患者さん20名の検査が必要でしたが、この検査をしっかり終えられると思うと安心しました。本当に。やっとできるって。 専門病棟の開設を決めた時は、すでにゾーニングも完了していた。まっさらな状態から病棟を始める苦労はない。それでも、気が休まる暇はなかった。 次々と患者さんの陽性結果が出るので、今後について説明しなければならない。一方で、まだ検査を受けられず、不安なまま自宅で待っている職員もいる。患者さんのご家族からも連絡が入っている。一つひとつ対応していくしかない日々でした。 I.Sさんは当時、現場からの不安も不満も耳にしなかったという。状況が落ち着いて初めて「こんなことがあったんだよ」と、聞かされた。 周りが私に、悪い情報を一切入れないようにしてくれていたんです。「耳に入らないようにしていたんだ」なんて誰も言わないんですけど。そうやって私は支えてもらっていたから、あの期間を乗り切る事ができたんだと思っています。 専門病棟の開設で、スタッフが安心して働ける環境ができ、患者さんの受け入れもスムーズになった。だが、全てが上手くいっていたわけではない。 病院で亡くなられた方がご家族に会えないのは、いたたまれなかったです。 また、病院で亡くなられた方をお見送りする際、通常であれば所属長や看護師と医師が立ち会うのですが、病院が混乱していて、私しか立ち会えないことがありました。本当に申し訳ない気持ちしかありませんでした。 ご家族とも会えない中で病院から出ていかれる最期を、とても寂しいものにしてしまったことが忘れられません。 それ以来、どんな時でもお見送りには数名が立ち会うことを徹底している。この2年間を経て、I.Sさんは「看護師は本当に素晴らしい職業だと思います」と話す。 入院患者さんのケア、リハビリ、清拭、検査、室内の清掃もすべて看護師がやっているんです。治療にはもちろん医師も入りますが、24時間付き添ったりはしません。24時間患者さんに寄り添って対応するのは看護師なんです。 なんだかもう、すごい職業ですよね。本当に素晴らしい職業だと、改めて思いました。 看護師長 S.Hさん|「おつかれさま」の一言に救われた日々S.Hさんが新型コロナが自分たちにも影響してくると意識したのは、2020年3月。院内スタッフの感染が確認されたときだった。感染症の実態もわかっておらず、自分も感染するのでは、と不安を感じていた。そんな中、院内で複数の感染者が確認され、クラスター認定を受ける。 4月17日に5階の病棟で陽性者が・・・と聞いたときは、不安と恐怖が大きかったです。感染エリアのゾーニングをしなければいけないけれど、経験者がおらず、マニュアルもない。N95マスクや慣れない防護服を着用しての業務はとても大変でした。 ですが、「これは手術室のあのやり方で進めてみよう」とか、工夫しながら作業を進めたら、ちゃんとやりきれた。ほっとしました。 5階病棟に勤務する看護師の感染が確認され、スタッフが不足。他の病棟から看護師が集まった。だが、お互いの経験値もわからず、人員配置やシフトを考えるにも手間取ってしまう。医療資材の不足も、スタッフの体力を奪っていった。 5階病棟スタッフの健康管理を主に担当していましたが、必要な備品が圧倒的に不足していました。防護服やN95マスクを簡単に交換できず、一度、感染エリアに入ると、なかなか出てこれないんです。トイレにも気軽に行けず、水分を控え、脱水症状を起こしてしまう状況は本当に辛かった。 病棟が変わると、文房具の場所さえ確認しないといけない。そんなちょっとしたこともストレスになってしまう日々だった。そんなとき、理事長から「コロナ専門病棟の開設」についての説明があった。 新型コロナの影響で病院の経営がだいぶまずい状況にあると感じていたので、専門病棟を開設すると聞いたときは、そうした病院の変化も理解できました。 院長(理事長)が、先頭に立ってコロナ患者さんの治療にあたる姿を見ていたこともあって、できる限り協力していきたいと思いました。 専門病棟の開設準備から関わり、病棟勤務に入ることを希望しました。 4月21日から専門病棟開設の準備が始まった。防護服を着た作業や新しい仲間との関係にも徐々に慣れてきた。だが、院内の看護師間で、専門病棟に対する意識のズレがあった。「専門病棟で働いているの?」という言葉に悔しい思いもした。専門病棟で一緒に働くスタッフが、ストレスを抱え込まないように気を配った。「私は、寝たら忘れる性格なので」と笑うS.Hさん。スタッフや家族に支えられた日々だった。 専門病棟で働き始めた時、高齢の両親に「しばらく会えない」と連絡したら「応援しているよ」と言ってくれました。深夜帰宅が続いているのを心配した両親が、自宅にお弁当を届けてくれたり、励ましの連絡をくれたり・・・すごく力をもらっていました。 病棟のスタッフには、「なんでも書いていいノート」を用意して、「日々の困りごとや悩みだけではなく、腹がたったことでもなんでもそのまま書いてね」と伝えました。そこに書かれたすべては解消できませんが、業務改善を繰り返して、働きやすい環境作りを目指しました。 感染エリアから出てきたときに「おつかれさま」と声をかけられるだけで、ほっとするんですよね。励まし、労わり合える仲間に救われる日々でした。 2020年6月の開設以降、専門病棟で働くスタッフは誰一人辞めなかった。感染症の経験がなかった看護師たちも実践を重ねていった。地域医療の中で自分たちが果たす役割を何度も感じたという。 救急の受け入れをしてもらえず、1時間、2時間たらい回しになったり、「入院できなくて不安でしかたなかったけど、ここに入院できて本当に安心した」と言ってくれた方もいました。 そうした言葉を聞くと、地域の医療を守っている病棟なんだと強く感じずにはいられませんでした。身を引き締めながら、役割を果たす喜びを感じました。 新しい病棟の開設に関われたのは、看護師としてとても貴重な経験でした。まだまだ収束していない状況ですが、引き続き仲間と一緒に、患者さんと向き合っていきたいと思います。 事務次長代行 J.Uさん|病院を守り、職員を守り、地域医療を守るために経営改善のため銀行からA病院に出向したのは2020年1月。埼玉県にも徐々に感染の波が押し寄せてきた。新型コロナの影響を感じ始める。感染対策を強化し、乗り切ろうとしていた矢先、恐れていたことが、現実となった。診療停止。病院にとって致命的だった。 院内で数名の感染者が出たと報告を受けてから、検査結果が届くたびに陽性者の数が増えていく。「あぁ、これはもう診療を停止するしかない状況なんだ」と腹をくくりました。 それでも、診療停止の期間を1日でも短縮する方法はないか模索しました。A病院は急性期病院(急性疾患または重症患者の治療を24時間体制で行う病院)で、1日の売上が大きい。 1週間の診療停止になると相当な打撃を受けます。とはいえ、中途半端な対策では患者さんや職員の不安は拭えないので、安全の確保と診療再開をどう見極めるのか。気持ちはずっと落ち着きませんでした。 「私にできることは資金を確保して経営を守ることだけでしたから」と、J.Uさんは口にした。 診療もできないし、現場が混乱していても、中に入って手伝えることはない。私にできるのは、資金を確保し経営を守ることでした。 1、2週間診療を止めれば、資金ショートする。どうやって資金調達するのかを必死に考えていました。 このまま診療再開を待っていても、病院はつぶれてしまう。そこに「コロナ専門病棟の開設」の話が持ち上がった。ただ、地域医療を守るために、できることをやるしかない。 「専門病棟をつくる」と言われても、民間でできるの?という感覚しかなかった。でも、やるしかないっていう状況でした。座して死を待つくらいなら、やるべきだって思いました。 ただ、専門病棟開設に補助金が出るとは決まっていなかったので、診療を停止したときのインパクトの試算や、コロナ病棟で患者受け入れが始まった場合の損益を見据えながら、引き続き金融機関の交渉材料を集めていました。 確実な手を見つけるまでは、立ち止まってはいられませんでした。 5月中旬には資金ショートが確実になっていた。早急に資金調達しなければならない。J.Uさんは奔走した。そして・・・。 ゴールデンウイーク明けに、金融機関からの調達のメドがついたんです。本当に、本当に助かりました。もう、叫び出しそうでした。 院内中に「決まったよ!」「資金調達したよ!」って伝えて歩きましたね。言いふらしたっていう方が正しいかもしれませんが(笑)。 資金面の不安を早く取っ払ってあげたかったので、「ひとまず大丈夫だよ」と言えたのは、本当に嬉しかったですね。 資金調達の一報から、院内の風向きが変わった。院内にも活気が戻ってきた。「病院はつぶれない」。それが職員が前を向く力となった。J.Uさんと職員との関係も変化していった。 資金調達ができるまでは、「こいつは何ができるんだ」といった雰囲気もありましたし、ちょっと壁があったんですよ。でも、資金調達ができたことで、院内でちゃんと信頼を得られたんだと思います。いろんな面で物事がスムーズに運ぶようになりました。 コロナ専門病棟開設に関する補助金も決まった。J.Uさんは経営改善を医師と進めていった。 もともと病院の経営改善のために出向していましたから。医師と話をして、診療単価の改善を進めました。新型コロナをきっかけに、経営に対する危機感を実感された方も多かったので、すごくいい対話ができました。 コロナ専門病棟と通常診療の両軸で回る病院には、地域の方から感謝の声が寄せられた。寄付や贈答品も驚くほど届いた。苦労したことが報われた。安心と喜びでいっぱいだった。 A病院は大きな挑戦をしました。勇気を持って一歩踏み出したことで、病院を守り、職員を守り、地域医療を守りました。私たちが危機を乗り越えられたのは、挑戦を選んだからだと思っています。 私個人の観点で言えば、ここでの経験は人生で一度あるかどうかというくらい、ヒリヒリしたものでした。もう二度と経験することのない日々を無事に終えて思うのは、あの経験ができてよかったということ。経験が足りず、周りを不安にさせてしまったこともありましたが・・・。そうした経験も含めて、これからの自分の人生に生かしていけたらと思っています。 この連載では、これまで語られなかった医療現場での挑戦や、葛藤を経験した人々の生の声を紹介していきます。次回は、京都の病院についてユカリア取締役医師の西村視点のお話をお届けします。 コロナ禍を奔走した医療従事者たち|ユカリア|noteこの連載は、2020年5月から2022年5月までに専門病棟を開設した10の民間病院の悪戦苦闘を、各病院で働くスタッフの声とnote.com ホーム - EUCALIAユカリアは、社会インフラを守り、より新しいものへと変革させる会社です。「変革を通じて医療・介護のあるべき姿を実現する」といeucalia.jp 編集協力/コルクラボギルド(文・栗原京子、編集・頼母木俊輔)/イラスト・こしのりょう

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