
『水曜どうでしょう』カントリーサインカードは、なぜ記憶に残るのか|第61夜
前々回の第59夜では、『北海道212市町村カントリーサインの旅』が、後の水曜どうでしょうの原点となった理由について考えました。
今回は、その旅で欠かせない存在だった「カントリーサインカード」に注目してみます。一見すると、ただの小道具にも思えるこのカードですが、30年近く経った今でも、多くのファンの記憶に残っています。
なぜ一枚のカードが、ここまで強い印象を残したのでしょうか。

(引用元:DVD「カントリーサインの旅」より)
番組では、市町村へ向かう行き先を決めるためにカントリーサインカード引きその町へ向かう。この流れが旅の基本ルールでした。
このカードは当時の北海道212市町村分が制作され、実際のカントリーサインをデザインしたオリジナルのカードでした。
裏面には市町村名が記され、表面には道路で見かけるカントリーサインが再現されています。さらに、市町村のカントリーサインが描かれたシールを貼り、手作業で作られていました。
単なる行き先一覧ではなく、番組のために一枚ずつ用意された特別な小道具だったのです。
しかし、私が面白いと思うのは、このカードがゲームのような役割を果たしていたことです。普通の旅なら、「次はどこへ行こうか」と自分たちで決めます。
しかし『水曜どうでしょう』では、その決定権をカードに委ねました。出演者ですら、次にどこへ行くのか分からないのです。
だからこそ、カードを引く瞬間には、出演者もスタッフも、そして視聴者も同じ気持ちになります。「えっ、そこ?」「そんな場所へ行くの?」という驚きを、画面の中と外で同時に共有できる仕組みになっていました。

(引用元:DVD「カントリーサインの旅」より)
私は、このカードが視聴者を「旅の参加者」に変えていたのだと思います。テレビゲームでサイコロを振る瞬間や、カードをめくる瞬間には、結果が分からないからこそのワクワクがあります。
『水曜どうでしょう』でも同じように、次にどこへ行くのか分からないため、画面の前で一緒に予想してしまいます。
「札幌なら楽なのに」「いや、遠くへ飛んでほしい」。そんなことを考えながらカードを見守る時間そのものが、番組の楽しさになっていました。
つまり、カードは出演者だけの道具ではなく、視聴者まで旅に巻き込む装置だったのです。
さらに、このカードには「北海道を知る」という役割もありました。北海道に住んでいる人でも、212市町村すべてを知っている人は多くありません。
私も北海道出身ですが、番組を見るまでは名前すら知らない町や、名前だけしか知らない町がたくさんありました。
しかし、カードにはそれぞれ特徴的なイラストが描かれています。名産品だったり、有名な建物だったり、その町を象徴する風景だったりします。
何度も見ているうちに、「あ、この町はこれだったな」と自然に覚えてしまうのです。
観光番組のように、その町の歴史や名所が詳しく説明されるわけではありません。ただカードを引き、その町を目指して移動しているだけです。
それでも、ゲームを楽しみながら北海道の市町村を少しずつ知っていく。この自然な学びも、カントリーサインカードの魅力だったのではないでしょうか。

(引用元:DVD「カントリーサインの旅」より)
後の解説で、実際に使用されたカードはHTB旧社屋の玄関ホールに飾られ、イベントへ持ち出されたこともあったと紹介されていました。
また、イベントでは使用済みのカードが景品としてプレゼントされたこともあり、現在も所有している人がいるそうです。それだけ、このカードは番組を象徴するアイテムとして大切に扱われてきました。
カードについては、番組の美術やプロップデザインの多くを担当する会社の力作であったと説明されています。
北海道212市町村すべてのカードを用意し、それぞれを手作業で仕上げる。低予算で始まった深夜番組でありながら、小道具には驚くほど手間がかけられていました。
私は、この手作り感も、カードが記憶に残る理由の一つだと思います。市販のカードをそのまま使ったのではなく、この企画のためだけに作られたものだからです。
出演者が手に持ち、何度も画面に映り、そのたびに旅の行き先を決めていくうちに、カードそのものにも番組の記憶が積み重なっていきました。
旅そのものは終わっても、カードだけは残ります。だから見るたびに、「あの町へ向かう途中でこんなことがあった」「ここで大泉さんがあんなことを言っていた」と、その旅の場面まで一緒によみがえります。
カードそのものが思い出なのではなく、カードをきっかけに旅全体を思い出せるのです。
「水曜どうでしょう」を連載しているデアゴスティーニのでは、実際に使用されたカードがHTB旧社屋の玄関ホールに展示されていたことや、イベントで使用済みカードがプレゼントされたことも紹介されていました。
それだけ、このカードは番組を象徴する存在として、大切に受け継がれてきたことが分かります。
『水曜どうでしょう』にとってカードは、ルールを目に見える形にして、出演者や視聴者に分かりやすく伝えるための小道具だったのでしょう。
普通なら、小道具は番組が終われば役目を終えます。しかし、カントリーサインカードは違いました。旅のルールを作り、視聴者を旅へ参加させ、北海道を知るきっかけを作り、旅の記憶まで保存してくれます。
たった一枚のカードなのに、『水曜どうでしょう』という番組の楽しさが、その中に詰まっていました。だから今でも、カードを見るだけで「あの旅だった」と思い出せる。
カントリーサインカードは、単なる小道具ではなく、『水曜どうでしょう』という旅そのものを象徴する存在だったのだと思います。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回は、『北海道212市町村カントリーサインの旅』が、『水曜どうでしょう』に残したものについて、もう少しゆっくり考えてみたいと思います。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:カントリーサインカードを見ると、旅の場面まで一緒に思い出しますか?
B:特に印象に残っているカントリーサインカードがありますか?
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