
『水曜どうでしょう』ヨーロッパ前半で見えてきた旅番組ではない面白さ|第70夜
前回の第69夜では、嬉野Dのカメラに注目しました。話している人を必ずしも映さず、車窓の風景や道路を映したまま4人の会話を聞かせる。
その独特な撮影が、視聴者を同じ車に乗っているような感覚へ引き込んでいたことを考えました。
第63夜から追ってきた「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」も、ここでいったん前半を振り返ります。第1夜から第4夜までを見てきただけでも、それまでの『水曜どうでしょう』とは少し違うものが見え始めていました。
そしてそれは、「海外だから面白い」という単純な話ではありません。むしろ舞台がヨーロッパまで広がったことで、番組が本当に見せようとしているものが、よりはっきりしてきたように思います。
ヨーロッパへ行っても、観光番組にはならなかった
ヨーロッパ21ヵ国をレンタカーで巡る。企画だけを聞けば、かなりスケールの大きな海外ロケです。有名な街や世界的な観光地も次々と登場するため、それまでの北海道を中心とした旅とは、画面に映るものが大きく変わりました。
ところが、見ているうちに気になり始めるのは、ヨーロッパの景色だけではありません。車の中で誰が運転しているのか、誰が疲れているのか、藤村Dが何を言い出すのか、大泉さんがそれにどう反応するのか。
いつの間にか視線は、観光地よりも4人のほうへ向かっています。

(引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)
普通の旅番組なら、海外へ行けば行くほど、その土地の情報が主役になりそうです。しかし『水曜どうでしょう』では、場所が豪華になっても番組の中心は変わりません。
ヨーロッパは主役ではなく、4人のやり取りを引き出す巨大な舞台になっていました。
「だまし」がなくても、番組は動き始めた
第63夜で取り上げたように、この旅では出発前からいつもと違うことが起きていました。
大泉さんがヨーロッパへ行くことを知ってしまい、「行き先を知らされていない大泉さんを連れていく」という従来の仕掛けが使えなくなったのです。しかし、それによって番組が成立しなくなったわけではありませんでした。
むしろ大泉さんは、自分からヨーロッパでやりたいことを考え始めます。受け身で連れていかれるだけではなく、旅そのものに参加しようとする。
すると今度は、その大泉さんの希望と、企画を進めようとする側の思惑にずれが生まれていきます。
ここで面白いのは、「だまされた大泉さん」という一つの仕掛けに番組が依存していなかったことです。
誰かが予定と違うことを言い始めれば、それだけで新しい展開が生まれる。企画の仕掛けよりも、4人それぞれの考え方の違いそのものが、番組を動かし始めていました。
予定どおりに進むことより、途中で起きること
ヨーロッパには、21ヵ国を回るという大きな目標があります。そのためには当然、移動の予定を考え、限られた時間の中で先へ進まなければなりません。
それでも4人の旅は、計画だけを優先して効率よく進むものにはなりませんでした。
「せっかくヨーロッパへ来たのだから、ここへ行きたい」という気持ちが出てくる。一方では、「21ヵ国を回るためには先へ進まなければならない」という考えもある。
同じ車で同じ目的地へ向かっていても、何を大切にしているかは4人それぞれ少しずつ違います。

(引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)
そのずれが会話を生み、時には空気を変えていきます。誰かが用意した台本によって関係が動くのではなく、旅を続けているうちに自然と出てきた感情が、そのまま番組の出来事になっていく。
それは、カントリーサインの旅ですでに見え始めていた『水曜どうでしょう』らしさが、長い海外ロケによってさらに大きく表れ始めた瞬間だったのだと思います。
長い旅だから、人間関係そのものが映り始める
それまでの企画と比べても、ヨーロッパは長い時間を4人で過ごす旅でした。朝から晩まで同じ車で移動し、食事をし、宿へ向かい、翌日になればまた一緒に走り始める。
そんな時間が続けば、テレビの撮影だからと、ずっと同じテンションでいることは難しくなります。
疲れている時には疲れが出ます。自分の希望と違う方向へ進めば不満も出るし、くだらない話で突然笑い始めることもある。だから次第に、「何をする企画なのか」と同じくらい、「この4人が一緒にいると何が起きるのか」が気になるようになります。
ここには、この後の『水曜どうでしょう』を考えるうえでも重要な変化が見えています。ただし、ヨーロッパの旅はまだ途中です。この関係がこの先どう動いていくのかは、後半を見てから改めて考える必要があります。
視聴者も、車の中に入っていく
その4人の関係を伝えていたのが、第69夜で取り上げた嬉野Dのカメラでした。話している人へいちいちカメラを向けず、道路や風景を映したまま会話を聞かせる。
その映像によって、視聴者は「4人を外から眺める」というより、同じ車に乗って会話を聞いているような感覚になります。
普通なら、発言している人の顔を見せたほうが分かりやすいはずです。しかし、『水曜どうでしょう』では映っていない人の声が画面の外から飛んできます。その不完全な映像が、逆にその場の広さや人の位置、車内の空気まで想像させます。
観光地を美しく紹介するためのカメラではなく、4人と一緒に旅をするカメラ。ヨーロッパという大きな景色を撮りながらも、嬉野Dが記録していたのは、その場所で4人が過ごしている時間だったのではないでしょうか。
番組の外側にも変化が起き始めた
この時期には、番組そのものにも少しずつ変化が現れています。ヨーロッパの第1夜と第2夜は通常より長い45分の拡大版として放送され、後の解説では、どうしても見せたい部分があり、編成に相談したことが語られています。
決められた放送時間に合わせて旅を切るのではなく、「この時間まで見せたい」という制作側の思いが先にあったわけです。
そして第68夜で取り上げたのが、樋口了一さんの「1/6の夢旅人」でした。最初から『水曜どうでしょう』のテーマ曲として依頼されて作られたものではなく、ヨーロッパを走っている4人を思うところから生まれていった曲です。
番組の中で起きていることが、少しずつ番組の外にいる人まで動かし始めていました。

(引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)
まだ、この時点でヨーロッパの旅がどこへ向かうのかは分かりません。それでも、放送の形が変わり、新しい曲が生まれ、4人の関係そのものが以前より強く画面に現れ始めている。
旅の前半だけでも、この企画が番組にいくつもの変化を起こし始めていることは分かります。
海外へ行ったからこそ、番組の中心が見えてきた
ここまでのヨーロッパ前半を振り返ると、不思議なことがあります。舞台は北海道から遠く離れ、風景も街も食事も大きく変わったのに、面白さの中心にいるのは、やはり大泉さん、ミスター、藤村D、嬉野Dの4人なのです。
第58夜では、カントリーサインの旅に『水曜どうでしょう』の設計図があったと考えました。目的地よりも、そこへ向かう途中で起きることが面白い。
出演者だけでなくスタッフも会話に入り、予定どおりにいかない出来事までそのまま番組にしてしまう。その基本的な形は、ヨーロッパへ来ても変わっていません。
むしろ海外という大きな舞台へ出たことで、その特徴がより分かりやすくなりました。名所がいくらあっても、いつの間にか4人の会話を聞いている。景色よりも、「今日はこの4人が何を言い出すのだろう」と思って見てしまいます。
おそらく、ここに『水曜どうでしょう』が単なる旅番組ではない理由があります。視聴者が見たいのは、「ヨーロッパを旅する番組」だけではありません。「この4人がヨーロッパを旅したら、いったい何が起きるのか」を見ているのです。
そして、ヨーロッパの旅はまだ続きます。ここまでで見え始めた4人の関係や番組の変化が、この先どうなっていくのか。企画そのものを振り返るのは、最後まで旅を見届けてからにしたいと思います。
第8章で見えてきたのは、その結論ではありません。北海道で生まれていた『水曜どうでしょう』らしさが、遠くヨーロッパへ場所を移しても消えるどころか、むしろはっきりと見え始めたことでした。
ヨーロッパ前半で見えてきた「旅番組ではない面白さ」。その正体をもう少し確かめるために、次の章でも4人の旅を追いかけていきます。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回から第9章へ進みます。「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」の第5夜以降を追いながら、前半で見え始めた4人の関係が、その後の旅の中でどのように動いていくのかを見ていきます。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:ヨーロッパの景色や旅そのものに惹かれる
B:その場所で起きる4人の会話や関係性に惹かれる
どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。
(コメントには必ずご返信させていただきます)
今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。
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