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『水曜どうでしょう』嬉野Dのカメラは、なぜ出演者を映さなくても面白いのか|第69夜

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    📖第1夜から読める連載まとめ(目次ページ)

    前回の第68夜では、樋口了一さんが「1/6の夢旅人」を生み出した背景を取り上げました。

    ミスターから届いた一本の電話と、遠くにいる人を歌で応援したいという気持ちから生まれた曲は、やがて番組を離れ、視聴者一人ひとりの旅にも重なる歌になりました。

    今回は、番組の内容から少し離れ、『水曜どうでしょう』初期の撮影を支えたカメラや機材に注目します。

    豪華な撮影セットも、大勢のスタッフもいなかった番組で、なぜ私たちは4人の旅をすぐそばから見ているように感じられたのでしょうか。

    その理由を考えると、重要だったのはカメラの性能だけではありません。小さなカメラを持つ嬉野Dが、どこに立ち、何を映し、何をあえて映さなかったのか。そこから、『水曜どうでしょう』独自の視点が生まれていました。

    少人数で旅に出るための、小さなカメラ

    『水曜どうでしょう』の旅企画は、大泉さん、ミスター、藤村D、嬉野Dという少人数で作られていました。

    通常のテレビ番組のように、カメラマン、音声スタッフ、照明スタッフ、アシスタントがそれぞれ同行するのではなく、嬉野Dがディレクターとカメラマンを兼ねて撮影していました。

    それを可能にしたのが、持ち運びのできるハンディカメラです。大きな放送用カメラでは入りにくいレンタカーの後部座席にも座ることができ、列車やバス、ホテルの部屋でも、そのまま撮影を続けられました。


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    初期の撮影で使用されたデジカムを紹介するお二人
    (引用元:DVD「サイコロ3」より)

    これは、単に撮影費用や人数を抑えるための選択ではありませんでした。カメラが小さくなったことで、旅の途中にある何でもない時間まで撮影できるようになったのです。

    観光地へ到着した場面だけではなく、そこへ向かう車内の会話、道に迷っている時間、疲れて誰も話さなくなった瞬間まで残せる。普通の旅番組なら使われない時間が、『水曜どうでしょう』では番組の中心になっていきました。

    話している人を映さない、嬉野Dのカメラ

    嬉野Dの撮影には、一般的なテレビ番組とは異なる特徴があります。大泉さんやミスターが話していても、カメラが必ずその人を映しているとは限りません。

    車窓の風景や道路が映ったまま、画面の外から4人の声だけが聞こえることがあります。大泉さんが面白いことを言っているのに、その表情を追わず、カメラが前方の景色を映し続けることもありました。

    普通なら、話している人へカメラを向けるのが自然です。表情を見せたほうが、視聴者にも状況が伝わりやすくなります。

    しかし嬉野Dは、会話が始まるたびにカメラを大きく動かすのではなく、その場にいる一人として目の前の景色を撮り続けました。

    嬉野Dは2019年の自身のnoteで、この独特のカメラワークについて、最初から狙って作ったものではなく、「失敗というか、事故から始まった」と振り返っています。

    完成された撮影理論が先にあったのではなく、少人数の旅を撮るなかで生まれた方法だったのです。


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    藤村Dが多少映っているが、車窓が映ったまま旅は進む
    (引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)

    しかし、この「映さないカメラ」が、番組に不思議な臨場感を与えました。視聴者は出演者を正面から眺めるのではなく、嬉野Dが座っている場所から、同じ景色を見ながら会話を聞くことになります。

    カメラが、5人目の座席になった

    通常のテレビ番組では、出演者はカメラへ向かって話します。視聴者は、カメラの向こうから出演者を見る立場になります。

    一方、『水曜どうでしょう』では、大泉さんやミスターがカメラを見ない場面が少なくありません。二人の視線は、隣にいる相手や、カメラの横から話しかける藤村Dへ向いています。

    それによって、カメラは「視聴者に見せるための装置」ではなく、4人と一緒に旅をしている誰かの視線に近づきました。私たちは出演者から話しかけられるのではなく、その場で交わされている会話を、同じ車の中から聞いているように感じます。

    第44夜では、視聴者がいつの間にか「5人目の旅人」になっていた理由を考えました。その感覚を技術的に支えていたものの一つが、嬉野Dのカメラだったのだと思います。

    カメラが出演者を追い続けないからこそ、視聴者のために演じている印象が薄くなる。画面に映っていない場所でも4人が同じ時間を過ごしていることが伝わり、旅全体が作られたテレビではなく、本当に起きている出来事のように見えたのです。

    藤村Dの声まで、撮影の一部になった

    小さなカメラが残したのは、映像だけではありませんでした。カメラのそばにいる藤村Dの声と笑いも、そのまま記録されました。

    藤村Dは、撮影中に大泉さんへ話しかけ、状況を説明し、時には相手を怒らせるような言葉まで投げかけます。嬉野Dは、藤村Dが現場で状況を解説しているため、その言葉を手掛かりに編集できると語っています。

    つまり、藤村Dは撮影の外側から指示を出していたのではありません。カメラのすぐ横で大泉さんと会話をし、その反応を引き出しながら、自分の声も番組の素材にしていました。

    第15夜では、藤村Dの笑い声が番組にもたらしたものを考えました。その笑い声が残った背景にも、出演者とスタッフをはっきり分けず、その場の音を一緒に記録する撮影方法がありました。

    もし音声スタッフが出演者の言葉だけをきれいに収録していたら、藤村Dの声は雑音として処理されていたかもしれません。

    しかし『水曜どうでしょう』では、その雑音のような声が、大泉さんを動かし、視聴者へ状況を伝える大切な存在になったのです。

    機材が足りないなら、後から作り直す

    初期の撮影では、必要な音をすべて現地で記録できたわけではありません。『ヨーロッパ21ヵ国完全制覇』では、大泉さんが自宅へ電話する場面がありますが、当時は電話の向こう側の声まで収録する機材を持っていませんでした。

    そのため、現地で撮影した映像には、大泉さんの声しか残っていませんでした。しかし嬉野Dは、電話がつながってFAXの音が鳴りそして切れるまでの流れがの音が欲しかったため、旅から戻った後にヨドバシカメラで機材を購入し、同じ状況をもう一度録音しました。


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    FAXにつながり何も会話できず10秒で小銭が無くなる瞬間
    (引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)

    大泉さんのお母さんに事前に事情を説明すると反応が不自然になると考え、何も知らせずに電話をかけ、再び電話を切ったそうです。

    現在のように小さな録音機器が簡単に用意できる時代ではなかったからこそ、撮れなかったものを諦めるのではなく、後から工夫して補いました。

    ここにも、『水曜どうでしょう』らしい制作姿勢が見えます。高価な機材をそろえることより、目の前で起きた面白さを、どうすれば視聴者へ伝えられるかを考える。限られた環境が、編集や演出の工夫を生み出していたのです。

    きれいに撮らなかったから、人間が残った

    映像作品として考えれば、『水曜どうでしょう』の画面は、決して整っているとはいえません。車の振動で揺れ、話している人が映らず、暗い場所では表情がよく見えないこともあります。

    しかし、その不完全さが、旅の現実を残しました。疲れてカメラを動かせない時には、疲れている人の視線がそのまま画面に表れます。何も起きていない時には、本当に何も起きていない風景が映り続けます。

    カメラが常に最適な場所へ先回りしていたら、旅はもっと見やすくなったかもしれません。ただし、それは視聴者が4人と一緒に移動している感覚を弱めてしまいます。

    『水曜どうでしょう』の映像に残っているのは、美しく整えられたヨーロッパの風景だけではありません。その風景を見ている嬉野Dの視線と、同じ車に乗る3人の声、そしてその時の疲労や空気まで残っています。

    小さなカメラが、番組の距離を決めた

    『水曜どうでしょう』初期の撮影を支えたのは、限られた機材と少人数のスタッフでした。できないことも多く、撮れなかった音を後から録り直す必要さえありました。

    しかし、小さなカメラだったからこそ、嬉野Dは出演者のすぐそばに座ることができました。カメラマンとして外側から観察するのではなく、旅の参加者として同じ時間を過ごし、その場で見ていたものを撮り続けました。

    嬉野Dのカメラは、いつも面白い人へ向けられていたわけではありません。それでも、画面の外から聞こえる会話や笑い声によって、映っていない3人の存在まで感じることができました。

    『水曜どうでしょう』の魅力を生んだのは、高性能な機材ではありませんでした。出演者とスタッフの間にカメラを置きながら、そのカメラを壁にしなかったことです。

    小さなカメラは、4人を隔てるものではなく、同じ旅へつなぐものになりました。そして嬉野Dが座っていたその場所は、やがて視聴者が一緒に旅をするための座席にもなったのです。


    (※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)


    次回は、『ヨーロッパ21ヵ国完全制覇』が『水曜どうでしょう』に残したものを振り返ります。4人の関係、放送時間、そして「1/6の夢旅人」。一つの旅が番組をどこまで変えたのか、第8章の最後に考えます。

    この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。


    📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……

    A:話している人の表情まで、しっかり映してほしい
    B:風景と声だけで、その場の空気を想像する映像が好き

    どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。
    (コメントには必ずご返信させていただきます)
    今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。


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    ■運営者(ユウナ)について
    このnoteでは『水曜どうでしょう』をテーマに執筆しています。以下の別アカウントでは、普通の会社員だった私が、FIREを達成するまでの資産形成の実体験を記録しています。

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