
『水曜どうでしょう』ヨーロッパ第6夜、プーさんの風船はなぜ旅の物語になったのか72夜
前回の第71夜では、ヨーロッパ第5夜を振り返りながら、『水曜どうでしょう』が「中だるみ」まで放送した意味を考えました。
何も起きない時間まで残すことで、視聴者は名場面を眺めるのではなく、4人と一緒に旅をしているような感覚になっていく。
続く第6夜では、その旅の中から生まれた一つの小さな物語が印象に残ります。主役になったのは、有名な観光地でも大きなハプニングでもありません。
プーさんの風船です。
後の解説でも、この風船は「これまでの旅の相棒だったプーさんの風船」と紹介されています。なぜ一つの風船が、そこまで記憶に残る存在になったのでしょうか。
ただ空気を入れてもらっただけなのに
第6夜の朝、宿の支配人フリッツさんがプーさんの風船に空気を入れてくれます。
後の解説で、この場面を見ながら語られているのが興味深いところです。風船に空気を入れてもらい、再び膨らんでいくプーさんを見た大泉さんが素直に喜ぶ。
その様子について、「ただ空気を風船に入れてくれただけなんだけど、うれしいんだよ」と振り返っています。

(引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)
冷静に考えれば、本当にそれだけの出来事です。
観光名所へ到着したわけでも、大きな事件が起きたわけでもない。壊れかけていた風船が、宿の人の好意でもう一度膨らんだ。それだけなのに、大泉さんはうれしそうな表情を見せる。
そして、その喜びを見ているこちらまで、なぜか少しうれしくなってしまいます。
ここには、『水曜どうでしょう』らしい面白さがよく表れているように思います。出来事そのものの大きさではなく、その出来事に4人がどう反応したかによって、場面の価値が決まっていくのです。
プーさんは、いつの間にか「旅の相棒」になっていた
そもそも、プーさんの風船にこれほど感情が乗るのは、それまでの旅を一緒に進んできた時間があるからです。
この風船を単なる「小道具」ではなく「旅の相棒」と表現しているのは象徴的です。
最初から番組の重要な役割を担うために用意されたものではないのに、車に乗せられ、国境を越え、4人のそばに映り続けるうちに、少しずつ存在感を持っていく。
これは前回考えた「中だるみ」ともつながっています。
『水曜どうでしょう』は、面白いところだけを切り出して旅を見せるのではなく、その途中の時間までつないでいきます。だから風船一つにも「ここまで一緒に旅をしてきた」という時間が積み重なる。
突然その場に登場した風船なら、空気を入れてもらっても、それほど印象には残らなかったはずです。
何日も一緒に移動してきたからこそ、再び膨らんだ時に「よかった」と思える。視聴者にも、4人と同じような小さな愛着が生まれていたのではないでしょうか。
アルプスへ向かうと、風船にまで事件が起きる
その後、一行はスイスの山岳地帯へと進んでいきます。
デアゴスティーニの誌面では、この日の旅について「いよいよ旅も後半戦突入! 雄大な自然を楽しむ」と紹介され、4000メートル級の山々を望む峠道へ入っていく様子が記録されています。
そして面白いことに、ここでプーさんの風船にも変化が起きます。
標高が上がるにつれて、風船がどんどんパンパンになっていくのです。
後の解説でも、「この後、高度が上がってパンパンになっちゃうっていうのも、またすごい」と振り返り、「それもまた、話としてしっかりできてる」と語っています。

(引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)
朝、空気を入れてもらって大喜びした。その風船を車に乗せて山へ向かった。すると高度が上がり、プーさんは破裂してしまいました。
誰かが考えた脚本ではありません。
朝の時点で、この展開を狙っていたわけでもない。それなのに、前半で起きた小さな出来事が、その日の後半になって次の出来事につながっていく。
結果として、一つの物語のようになってしまうのです。
「物語を作った」のではなく、「物語になっていた」
ここが、『水曜どうでしょう』の面白いところだと思います。
テレビ番組には通常、何を撮るのか、どこを見せるのかという計画があります。しかし『水曜どうでしょう』では、計画された出来事だけではなく、旅の途中で偶然起きたことを拾い続けます。
後の解説では、この日の朝について「丁寧にずっと撮れてる」とも振り返っています。
さらに、その後の場面では、朝の楽しそうな大泉さんの姿をカットバックして見せたことにも触れています。つまり編集の段階では、偶然起きた朝の出来事と、その後の出来事が、一つの流れとしてつなげられているのです。
最初から物語を作って、その通りに出演者を動かすのではない。
とりあえず撮り続ける。誰かが何かを面白がったら、それも撮る。そして旅が終わってから振り返ると、「あれとこれがつながっていた」と気づく。
『水曜どうでしょう』の物語は、こうして生まれていったのではないでしょうか。
小さな出来事ほど、旅の記憶に残る
これは、実際の旅行にもよく似ています。
旅行へ行く前には、有名な観光地や食事、ホテルなどを計画します。しかし何年か経って思い出すのは、必ずしも予定していた場所だけではありません。
途中で買った妙なお土産。ホテルの人とのちょっとした会話。車の中でずっと気になっていた物。予定外の出来事から生まれた笑い。
そんな、本来なら旅行の「本編」ではなかったはずのものが、後になって旅を象徴する思い出になることがあります。
プーさんの風船も、まさにそうだったのだと思います。
後の解説では、アルプスへと向かうこの日の旅について、「これまでの旅の相棒だったプーさんの風船に別れを告げ」と記されています。
単なる風船だったものが、いつの間にか「別れを告げる相手」になっている。
その変化こそが、この風船が単なる小道具ではなく、一つの物語になったことを表しているように感じます。
『どうでしょう』は、旅の中から物語を見つける
第6夜を見ていると、『水曜どうでしょう』には、何でもない出来事を記憶に残るものへ変えてしまう力があることに気づきます。
しかし、それは何でも面白く演出するという意味ではありません。
何が起きるか分からなくても撮り続けること。そして、その場にいる4人が本当に面白がったり、喜んだり、困ったりした瞬間を残しておくこと。その積み重ねによって、あとから出来事同士がつながっていくのです。
第71夜では、「何も起きない時間」まで見せることで旅になると考えました。
第72夜では、その時間の中で拾った小さな出来事が、やがて一つの物語になっていく。
この二つは、おそらく同じところから生まれています。
効率よく面白い場面だけを集めるのではなく、4人が過ごした時間そのものを残していく。だから視聴者も、プーさんの風船にまで愛着を持ってしまう。
有名な観光地の名前は忘れても、車の中にいたプーさんの姿は覚えている。
そんな「本筋ではなかったはずのもの」まで思い出になっていることが、『水曜どうでしょう』を何度も見返したくなる理由の一つなのかもしれません。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回(第73夜)は、ヨーロッパ第7夜へ進みます。スイスで撮られた「4人の写真」を手がかりに、この旅を続ける中で4人の関係がどう変わっていったのかを考えます。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:旅では、予定していた名所や目的地が記憶に残る
B:旅では、偶然起きた小さな出来事の方が記憶に残る
どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。
(コメントには必ずご返信させていただきます)
今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。
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■運営者(ユウナ)について
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