
『水曜どうでしょう』バラバラな4人は、なぜ「居場所」を見つけられたのか|第73夜
前回の第72夜では、ヨーロッパ第6夜に登場したプーさんの風船を通して、旅の途中で偶然起きた小さな出来事が、いつの間にか一つの「物語」になっていく『水曜どうでしょう』の面白さを考えました。
続く第7夜で注目したいのは、旅の出来事そのものだけではありません。後の解説で、このヨーロッパを振り返ったミスターが真っ先に思い出したものがありました。
スイスの氷河で撮られた、4人の写真です。
しかし、この写真を単純に「仲の良い4人の記念写真」と見ると、『水曜どうでしょう』の本当の面白さを見落としてしまうように思います。
なぜなら後の解説では、この4人について「実はばらばらだった」という、まったく逆の話が語られているからです。
ミスターの家に飾られている「4人の写真」
後の解説で藤村Dから「ヨーロッパといえば何を思い出すか」と聞かれたミスターは、「4人の写真」と答えています。スイスの氷河で撮られ、その後写真集にも掲載された一枚です。
さらに面白いのは、その写真がミスターの自宅にも飾られていることです。自分で飾ったわけではなく、おそらく奥さんが飾ったのだろうと話していますが、家族写真が並ぶ中に、その4人の写真があるといいます。

(引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)
毎日のように目にする場所に、27歳の大泉さん、ミスター、藤村D、嬉野Dの4人がいる。
後の『水曜どうでしょう』を知っている私たちからすれば、とても象徴的な写真に見えます。しかし、この旅の最初から4人が一つのチームとして同じ方向を向いていたわけではありませんでした。
むしろ、この旅では4人の考え方の違いが、かなりはっきりと表に出ていました。
「21ヵ国を回りたい人」と「面白ければいい人」
特に大きく違っていたのが、ミスターと藤村Dたちの考え方です。
旅の前半、ミスターは21ヵ国を回ることに強くこだわっていました。後の解説でも、藤村DはVTRを見直して初めて、ミスターが出発前から「21ヵ国を回らなければ、この旅は何の意味もない」というほど強い気持ちで企画に臨んでいたことに気づいたと振り返っています。
ミスター自身も、当時は「がむしゃらに頑張らなければいけない」という意識が強かったと話しています。まだローカルタレントという立場も確立されていない。だからこそ、一生懸命に頑張る姿を見せることが大切だと考えていたのです。
一方、藤村Dや大泉さんの考え方は違いました。
藤村Dは、当時の自分たちについて「面白くなればいいだろう」という感覚だったと話しています。多少予定から外れても、そこで面白いことが起きるなら構わない。だからプーさんで遊び、寄り道をし、予定にはなかったことに時間を使う。

(引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)
「21ヵ国を回る」という結果を残したいミスターと、旅の途中で起きる面白さを拾いたい藤村Dたち。
どちらかが正しくて、どちらかが間違っていたわけではありません。ただ、大切にしているものが違っていたのです。
仲良しになったのではなく、歩み寄った
ここからの後の解説が、とても興味深いものでした。
藤村Dは、考え方がまったく違う人間が一緒にいる以上、ミスターも自分たちに歩み寄る必要があり、自分たちもミスターに歩み寄らなければならなかったと話しています。
さらに話は「妥協」という言葉へ進んでいきます。
普通、「妥協」という言葉には少しネガティブな印象があります。自分の意見を諦める、相手に合わせる、本当は納得していないけれど仕方なく受け入れる。そんな意味に聞こえることがあります。
ところが、後の解説では『水曜どうでしょう』にとっての妥協を、もっと前向きなものとして捉えています。
互いに自分の考えを持っている。それでも一緒に何かをやるために、少しずつ接点を探していく。そして最後には、「ここなら僕らの居場所があるね」というところを見つけていく。
これは、単に仲良くなることとは少し違います。
「4人は実はばらばらだった」
後の解説では、さらに印象的な言葉が出てきます。
「4人いるけど、4人は実はばらばらじゃないですか」。
藤村Dと大泉さんが似ているように見える時もある。ミスターと嬉野Dが同じ側に見える時もある。しかし、実際には誰かと誰かが完全に同じということではなく、それぞれに考え方も資質も違う。
だから、4人は「ばらばらの4人が、1台の車に乗って旅をしている」のだと語られています。
この表現は、『水曜どうでしょう』という番組をとてもよく表しているように思います。
4人が最初から同じ価値観だったから続いたのではない。長い時間を一緒に過ごす中で、「ミスターはなぜこうしたいんだろう」「大泉さんは次に何を言うんだろう」と、それぞれが相手を見ながら、少しずつ真ん中を探していった。
第7夜まで旅を続けてきた4人の関係に起きていたのは、「みんな同じになった」という変化ではなかったのだと思います。
違ったまま、一緒にいられるようになっていったのです。
違うからこそ、番組が深くなった
考えてみれば、『水曜どうでしょう』には最初から、この「違い」がありました。
目的達成にこだわるミスターがいる。予定外の出来事を面白がる藤村Dがいる。その状況を言葉にして笑いへ変える大泉さんがいる。そして、少し離れたところから、そのすべてをカメラで見ている嬉野Dがいる。
もし4人全員がミスターと同じ考え方だったら、もっと効率よく21ヵ国を目指す旅になっていたかもしれません。反対に、全員が藤村Dと同じなら、寄り道ばかりして旅そのものが成立しなかったかもしれません。
違う人間がいるから、そこで衝突が起きる。そして衝突するから、お互いに少しずつ変わらざるを得なくなる。
後の解説では、合わない人間を拒絶するのではなく、「実は、合わない人間同士の方が、いろんな可能性が生まれる」というところまで話が広がっています。
これは『水曜どうでしょう』だけではなく、私たちの人間関係にも通じる話だと思います。
「合わない」は、悪いことではない
仕事でも友人関係でも、私たちはつい「気が合う人」と一緒にいる方が楽だと考えます。考え方が近く、同じものを好きで、意見がぶつからない人たちといれば、確かに居心地はいいものです。
でも、何かを一緒に作ろうとすると、それだけでは生まれないものもあります。
自分とは違う人がいるから、「なぜそう考えるのだろう」と相手を見る。自分の考えをそのまま通せないから、どこまでなら譲れるのかを考える。そして相手も同じようにこちらを見ながら、真ん中を探していく。
『水曜どうでしょう』の4人が長い旅の中でやっていたのは、まさにそれだったのではないでしょうか。
仲良くなるために違いを消すのではなく、違いがあることを前提に、それでも一緒にいられる場所を探す。
その過程までテレビに映ってしまったからこそ、4人の関係には、台本で作られたチームにはない奥行きが生まれたのだと思います。
だから「4人の写真」が記憶に残る
そう考えてから、もう一度スイスの4人の写真を見ると、少し違って見えてきます。
そこに写っているのは、最初から意気投合していた仲良し4人組ではありません。旅の進め方も、テレビに対する考え方も、それぞれ違う4人です。
それでも同じ車に乗り、何日も一緒にヨーロッパを走ってきた。

(引用元:DVD「ヨーロッパ21ヵ国完全制覇」より)
だからこそ、この写真には単なる記念写真以上のものが残っているように感じます。
ミスターが9年後にヨーロッパを振り返った時、最初に思い出したのがこの写真だった。そして、その写真が今も家族写真と一緒に自宅に飾られている。
それは、この旅の中で4人が完全に分かり合ったからではないのだと思います。
分かり合えない部分がありながら、それでも一緒に旅をした。その中で少しずつ相手を知り、自分も少し変わり、「ここなら僕らの居場所がある」という場所を探していった。
『水曜どうでしょう』の4人が魅力的なのは、いつも仲が良いからではありません。
ばらばらなのに、一緒にいる。
そして、その違いを消さないまま30年近く同じ場所へ戻ってこられる。その関係の原型が、この長いヨーロッパの旅の中で少しずつ形になっていったのではないでしょうか。
スイスで撮られた一枚の写真は、そんな4人がようやく「4人」になり始めた瞬間を残しているように思います。
(※記事中の画像は、作品紹介および考察を目的として、解像度を下げて引用しています。著作権は各権利者に帰属します。)
次回(第74夜)は、ヨーロッパ第8夜へ進みます。旅はいよいよ終盤へ。長い時間をともにしてきた4人が、ゴールへ向かう中でどんな空気を見せていくのかを考えます。
この連載は、これからも『水曜どうでしょう』の魅力を一つずつ読み解いていきます。「❤️スキ」「👤フォロー」で応援いただけると励みになります。
📌今回の内容を踏まえて、皆さんは……
A:気の合う人との方が、良い関係を築きやすい
B:違う考えの人がいるからこそ、関係は面白くなる
どちらに近いでしょうか。理由もあればぜひコメントで教えてください。
(コメントには必ずご返信させていただきます)
今後の『水曜どうでしょう』考察の参考にさせていただきます。
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