
死ぬまで一度もTバックを履かない人生/ エッセイ
私って、一生に一度もTバックを履かない人生を送るのかな……。
下着売り場の前を歩きながら、ぼんやりと思う。
Tバックの存在はもちろん知っていた。その名の通りTの字をした、おしりがたっぷり露出するパンツであることも。通気性がよくて、下着のラインを気にせずに履けるらしいことも。
けれど、履いたことは一度もない。
履きどきがわからないというか、履くタイミングがわからないままここまできてしまった。
Tバックを一度も履いたことがないまま結婚し、子どもを産んだ。もう私がTバックと仲良くするチャンスはないだろう。
……なーんて書いたけど、実際はTバックなんて履いたことがない人が大半では……?
そう期待を込めて実際に子どもを産んだ友達に聞いたことがある。ねえねえ、Tバックって履いたことある?
「え? Tバック? もちろん履いたことあるよ」
え……。あるの……?
予想に反した答えが返ってきてショックを受ける。
友達によると、彼氏と付き合いたての頃にTバックを履いたことがあり、当時の彼氏にたいへん喜ばれたらしい。
ははあああああっ
Tバックを履くと、喜ばれると。なるほど。
なるほど?
「でもおしりの部分に違和感がありすぎてTバックを履くのはすぐにやめたよ」
経験者は語る。
私の知らない世界がそこにあるらしい。
だけど、付き合いたての彼氏って……完全に機を逃したわ。
自分で履いたことがないからこそ、Tバックへの思いはふくらんだ。
具体的にあそこの部分はどうなっていて、あのあたりはどんな感じなの?
どこからどこまでをカバーしてくれるものなの?
気になるけど、今さら自分で履いてみようとは思わなかった。
水着すら全身カバータイプのものを着ているのに、Tバックなんてとてもとても。想像しただけでホラーである。夫だって怯えて部屋から出てこなくなるだろう。
私は今世では、Tバックは履かなくていいや。
そうやって、Tバックへの気持ちとはきちんと折り合いをつけていた。
それなのに。
ここ最近、トイレに行くといつも履いているパンツがTバックに変化する現象が起きている。
ただ生活しているだけなのに、ウエスト部分や裾の部分がくるくると巻き上がり、なんちゃってTバック状態。
おお、なんてこと……。
どうやら、腹回りや足回りに肉がついたことで、いつも履いているパンツのサイズが小さくなり、耐えられなくなったパンツたちが逃げ場を失って、お腹や裾の部分からくるくると巻かれているらしい。
トイレでウエストあたりを引っ張ってくるくるした部分を戻しても、3回くらい呼吸くらいすると、またすぐに戻ってしまう。
パンツのウエストの位置を上へとぐいぐい引っ張っているうちに、今度は足の付根のパンツの裾がくるくると巻かれていく。そして頼んでもいないのにどんどん巻かれ、天然Tバックを完成させる。
おお、これは……。
おしりの割れ目にパンツの布が集まりすぎてしんどい。
無理やり? 口だけふさがれているような? いや正確には口じゃないんだけど? とにかくうっとうしい感覚。
これが……Tバック……? (たぶんちがう)
過保護に育てた私のおしりが、心もとなさそうにふるえている。家でノーブラで過ごすことはあっても、ノーパンはしてこなかった。
シルクなんて高価なパンツを与えたことはないけど、朝も夜もつねに包み込み、あたため、守り続けてきた34年間。
それを今さら取っ払って「あんたもミドサーになるんだし、そろそろ外の世界を見てきなさい」なんてあまりにも酷だ。無理だよ、無理。私はこれからもずっと、ささやかな、ふつうのパンツが履きたい……。
物事には適齢期があるし、年齢は変えられない。だから不釣り合いな現実を求めてしまうなら、自分が変わるしかない。たとえば、痩せるとか。ワンサイズ大きいパンツを買うとか。
明日、ユニクロへ行こうと思う。