
【W杯特別編!】グリップソックスは、選手の「不満」から生まれた
こんにちは!
靴下工房Toréを運営しているアクルです。
これまで大手アパレルOEMの現場で、中国工場と一緒に数百万足の靴下を作ってきました。
このnoteでは、その経験をもとに、普段あまり意識されない靴下の仕組みをできるだけ分かりやすく書いています。
靴下はとても地味な存在ですが、実は身体・工業・文化が交差する、なかなか奥の深い世界です。
あの小さな靴下は、なんなのか
前回、試合中にソックスを切る選手の話を書きました。
長い丈が締め付けになってしまうので、痙攣や疲労を緩和するため、切る、折り返すのだと。
選手が規定の靴下に手を加える方法は、もうひとつあります。
「グリップソックス」です。
最近のサッカー中継をよく見ると、選手の足元に、チームソックスとは別の小さな靴下が見えます。
裏に細かい滑り止めの点が付いた、あの靴下です。
なぜ、わざわざ別の靴下を、重ねてまで履くのでしょう。

始まりは、ひとりの選手の「不満」だった
グリップソックスを広めた草分け的存在とされるのが、「TRUsox(トゥルーソックス)」というアメリカのブランドです。
作ったのは、元選手の方だと言われています。
きっかけは、とても個人的なものでした。
「靴の中で、自分の足が滑る」。
その不満を、自分で解決しようとしたのです。
靴下の裏と表に、小さな滑り止めの点をつけることで、足と靴の中敷きがぴたりと噛み合う。
商品企画の会議から生まれたわけではありません。
現場で実際にプレーする人が、自分の困りごとを形にしたことが始まりでした。
靴下に限らず、物事の進化は、案外こういう「ひとりの不満」から始まることがあります。

なぜ、一気に広まったのか
普及の大きな転機のひとつが、2012-13シーズンのガレス・ベイル選手の着用でした。
当時トッテナムにいたベイル選手がTRUsoxを履き、そこから一気に広がっていきます。
これは裏を返すと、こういうことだと思います。
「足が滑る」という不満を、実は多くの選手が、口に出さないまま抱えていた。
ひとりが解決策を見せた瞬間に、みんなが飛びついた。
潜在的な需要が、もともと大きかったということです。
今では、トップリーグでも多くの選手が、グリップソックスを取り入れるようになっています。

なぜ「切って、重ねる」のか
ここで、前回の「切る」話とつながります。
選手には、チームから支給されたソックスを履く決まりがあります。
チームのユニフォーム規定や、スポンサーとの取り決めです。
でも、自分のグリップソックスも履きたい。
そこで選手たちは、こうします。
支給ソックスの足の部分を切り取り、筒のようにして、グリップソックスの上から重ねる。
下に機能、上にルール。
あの独特な重ね履きは、この板挟みから生まれた知恵なのです。

作る側から見ると、ひと手間多い
少し、製造側の話をします。
普通の靴下は、糸で編んで仕上げれば形になります。
でも、グリップソックスは、そこに「滑り止めをのせる」工程が加わります。
一般的なグリップソックスでは、シリコンやラバー系の滑り止めを、プリントしたり圧着したりして付けるものが多くあります。
全面にべったり、というよりは、必要な部分にのせていくイメージです。
どこに、どんな密度で、どんな形でのせるか。
その配置ひとつで、グリップの効き方も、足あたりも変わります。
ちなみにTRUsoxの場合は、内側と外側の両面にグリップパッドを配置する、独自の技術を特徴としています。
編む工程とは別に、この加工の工程がもう一つ増える。
当然、管理する手間も、不良が出るポイントも増えます。
競技用のグリップソックスが、普通の靴下より高い理由のひとつは、ここにあると思います。
編んで終わり、ではないからです。
「滑らない」という、たった一点のために、工程が一つ増えている。
そう考えると、あの小さな靴下の値段にも、ちゃんと理由が見えてきます。
不満は、形を変える
サッカーソックスが膝下まで長いのは、歴史と防具の事情からでした。
グリップソックスが生まれたのは、「足が滑る」という、たったひとつの不満からでした。
形は、なんとなく決まるわけではありません。
誰かの「こうだったらいいのに」が、少しずつ製品の形になっていく。
そして時々、その形が、ルールとぶつかったりもする。
ぜひ次に試合を観るとき、選手の足元を、少しだけ気にして見てみてください!
最後まで読んでいただきありがとうございます。
靴下工房Toréでは、「派手ではないけれど毎日履ける靴下」をテーマに靴下を作っています。
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