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星倩のアルペゞオ第䞉章 鳎る前の音

    第䞀章で、詩織の魂が名前を芚えおいたした。

    第二章で、韍匥は、その名に答えないず決めたした。

    第䞉章は、ふたたび詩織の物語です。
    䞖界の音が、すこしず぀、おかしくなっおいきたす。

    よろしければ、この章の曲を再生しながらお読みください。
    遠い星から呌ぶ声ず、すぐ隣のあたたかい手。
    そのどちらもに呌ばれお立ち尜くす圌女の真ん䞭に、
    少しだけ、立ち䌚えるかもしれたせん。

    䞉぀の「その音に呌ばれる」

    この章から生たれた䞉぀の歌を、同時に玹介したいず思いたす。
    同じ歌詞、同じ物語から生たれた、速さも呌吞も異なる䞉぀の呌び声です。どれか䞀぀を正解にせず、すべおをお聎きくだされば幞いです。

    1公匏版
    5分49秒。物語の起䌏を倧きく描く完成版です。

    2静謐版
    5分14秒。最もゆっくり呌吞し、静けさずクラむマックスの幅が倧きい版です。

    3初挔版
    5分32秒。この物語の音を最初に挔じた版です。

    画像

    四぀を聎き比べるず、同じ蚀葉が別の衚情でこちらを呌ぶこずがわかりたす。
    あなたにいちばん届いた声ず䞀緒に、第䞉章をお読みください。

    YOUTUBE・その音に呌ばれるMV版もどうぞお楜しみください。

    ──────────────

    鳎る前の音

    その朝、詩織は目芚たし時蚈より先に目を芚たした。

    ただ鳎っおいない。なのに、鳎る寞前の、ぜんたいが匵り぀める小さな軋みが、はっきり聞こえた。耳をすたしたわけじゃない。向こうから、勝手に入っおきた。

    詩織は、しばらく倩井を芋おいた。

    昚日たで、䞖界はもっず静かだった。正しくは——静かだず思っおいた。聞こえおいなかっただけで、音はずっず、こんなにたくさん鳎っおいたのかもしれない。冷蔵庫のうなり。壁の䞭を通る氎の音。隣の家の、誰かの咳。
    党郚が、やけに粒立っお届く。

    寝䞍足だ。
    二章ぶんくらい、そう思うこずにしおいる。

    遠い名前のかたち

    「詩織、起きおるの? 早くしなさい」

    階段の䞋から、母の声。

    詩織は、廊䞋に出ようずしお——足が、止たった。

    いた、母は、なんお呌んだ?

    「詩織」。そう呌んだ。圓たり前だ。十六幎、そう呌ばれおきた。
    なのに、声が階段を䞊っおくる途䞭の、ほんの半秒。母の声は、別の名前の圢をしおいた気がした。母の口ではなく、もっず遠い、空のどこかから。

    ――アリア。

    「  詩織?」

    もう䞀床呌ばれお、珟実が戻る。

    「うん、起きおる」

    自分の声は、ちゃんず自分の声だった。それに少しだけ安心しお、詩織は階段を降りた。台所の母は、い぀もの母で、卵を焌きながら、䜕も知らない顔でテレビを芋おいた。

    知らない顔。
    そう、母は知らない。詩織が昚日、音の消えた䞖界を芋たこずも。知らない名前を呌んだこずも。胞の奥で、䜕かが目を芚たしかけおいるこずも。

    知らないでいおほしい、ず思った。
    それから、なぜ自分がそう思ったのか、わからなくなった。

    しおり、ず呌ぶ声

    「しヌおヌりっ!」

    校門の手前で、背䞭に飛び぀いおきたものがあった。

    向日葵柪ひたわり みお。詩織の、たぶん、いちばんの芪友。

    ひたわり、なんお珍しい名字のくせに、本人はその名のずおり、よく笑う。昌の光をぜんぶ集めお固めたみたいな子だ。今日も、朝から声が倧きい。

    「おはよ。ねえ聞いお、昚日の倜さヌ」

    柪の声を聞いた瞬間、詩織は、自分の肩から力が抜けるのがわかった。

    䞍思議だった。
    朝からずっず、䞖界の音は粒立っお、過剰で、どこか䞍安だった。なのに、柪の「しおり」ずいう声だけは、過剰じゃない。ちょうどいい。也いた地面に氎が萜ちるみたいに、すっず䜓に入っお、ちゃんず、止たる。

    「  柪の声、聞くず、萜ち着く」

    「え、なにそれ、急に。こわ」

    柪が笑う。詩織も、぀られお笑った。

    笑えた。ただ、笑える。
    それが、今日はやけに、ありがたかった。

    䞍協和音の教宀

    異倉が、はっきり牙を芋せたのは、䞉時間目だった。

    数孊。窓際の垭。詩織は、ノヌトにシャヌプペンを走らせおいた。

    先生がチョヌクを眮く。コツ、ず音がする。
    ――それが、ドの音に聞こえた。

    怅子を匕く音。ギ、ず。
    ――ミ。

    誰かが教科曞をめくる。さら、ず。
    ――゜。

    詩織は、ペンを止めた。

    気のせいだ。そう思おうずした。でも、止たらない。誰かの咳がファに、蛍光灯の埮かなうなりがラに、䞊履きが床をこする音がレに。教宀じゅうの、ありふれた、䜕でもない音が、ひず぀残らず音階に倉わっお、詩織の頭の䞭で、勝手に、五線譜の䞊に䞊んでいく。

    そしお——それらは、和音にならなかった。

    ばらばらの音が、぀ながらないたた、同時に鳎る。離れお鳎るのに、ひず぀にならない。アルペゞオの、逆。きれいにほどけるはずの音が、も぀れお、軋んで、頭の内偎を匕っ掻く。

    䞍協和音。

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    詩織は、机の瞁を握った。右手の薬指の、第二関節が、熱い。耳を塞ぎたい。でも、塞いだら、たぶんもっず、聞こえる。

    私、やっぱり、おかしくなったんだ

    そのずきだった。

    カチ、ず、ひず぀。

    隣の垭で、北条韍匥が、シャヌプペンの芯を出した。

    カチ、カチ。

    なんでもない音だった。クラスじゅうが音階に解䜓されおいく䞭で、その音だけが——譜面にならなかった。音階に化けなかった。ただの、カチ、ずいう音のたた、詩織の耳に、たっすぐ届いた。

    䞍協和音の砂挠の真ん䞭に、たった䞀音。
    垰る堎所みたいに、動かない音。

    詩織の呌吞が、すこし、楜になった。

    なんで。
    なんで、北条くんの音だけ。

    暪目で、韍匥を芋る。圌は、ノヌトに目を萜ずしたたた、こちらを芋ない。昚日、音楜宀で、䜎い遠い声で「䞋がっお」ず蚀った人ず、同じ人だずは思えないくらい、ただの、地味なクラスメむトの暪顔だった。

    『気のせいだよ。たぶん、二人ずも、寝䞍足』

    昚日、圌はそう蚀った。詩織も、そういうこずにした。
    だから今日、二人は、ひずこずも口をきいおいない。きけない。あの音楜宀のこずに觊れたら、䜕かが、戻れなくなる気がしお。

    なのに、䜓だけが、圌の出す音に、安心しおしたう。

    詩織は、それが——いちばん、こわかった。

    ここにいる、ず蚀った

    昌䌑み。柪は、詩織の制服の袖を、くいっず匕いた。

    䜕か蚀うずき、い぀もそうする。本人は気づいおいない、小さな子みたいな癖。

    「詩織さ」

    賌買のパンをふた぀に割りながら、柪が蚀った。

    「最近、ちょっず、遠くない?」

    詩織は、顔を䞊げた。

    「遠い?」

    「うん。なんか、ここにいるのに、半分くらい、別のずこ芋おる感じ。朝も、わたしの声で萜ち着くずか、急に蚀うし」

    柪は、笑っおいた。い぀もの、昌の笑い方で。でも、その目だけは、笑っおいなかった。たっすぐ、詩織の奥のほうを、芋おいた。

    明るくお、人懐っこくお、教宀の真ん䞭がいちばん䌌合う子。
    そういう子だず、ずっず思っおいた。

    でも、この子は、気づく子だった。
    誰よりも先に、人の沈黙に。

    詩織は、蚀いかけた。䞖界の音が、党郚、音階に聞こえるこず。母の声が、知らない名前に化けたこず。北条くんの音だけが、こわいくらい、安心するこず。
    ぜんぶ、蚀っおしたいたかった。

    でも、蚀葉にした瞬間に、それは「本圓のこず」になる。
    詩織は、口を぀ぐんだ。

    柪は、少しのあいだ、詩織の顔を芋お——それから、ぱっず、い぀もの顔に戻った。

    「た、いっか」

    パンの片割れを、詩織の手に抌し぀ける。

    「蚀いたくなったら、聞くよ。逃げないから。それたで、わたしはここにいる」

    ここにいる。

    その蚀葉が、薬指じゃなく、もっず普通の、胞の真ん䞭に、あたたかく萜ちた。

    詩織は、パンを受け取った。「  ありがず」ず蚀うのが、やっずだった。

    北ぞ䌞びる圱

    攟課埌。垰り道。

    倕暮れの通孊路を、詩織ず柪は、䞊んで歩いおいた。

    柪は、今日あったこずを、ずっず喋っおいた。誰がどうした、テストがどうだ、週末どこ行こう。詩織は、半分だけ盞づちを打ちながら、その声を、ちゃんず聞こうずしおいた。

    柪の声は、今日いちばんの、安党な音だった。

    ――その音が、薄くなったのは、螏切の手前だった。

    最初に、車の音が消えた。
    すぐ暪の囜道を、車は走っおいる。たしかに走っおいる。タむダも回っおいる。なのに、音だけが、ない。

    次に、颚が消えた。電線を鳎らしおいた音が、ふ぀りず切れる。
    それから、自分の足音。アスファルトを螏んでいる、その感觊はあるのに、音だけが、抜けおいく。

    䞖界から、音が、綺麗に、抜き取られおいく。

    二章ぶん前に、音楜宀で芋たのず、同じ手぀きで。

    詩織は、足を止めた。
    倕日は、ただ赀い。颚景は、なにひず぀、倉わっおいない。走る車。傟く陜。電柱。ガヌドレヌル。ぜんぶ、い぀もの垰り道。
    ただ、音だけが、死んでいた。

    「  柪」

    呌んだ。自分の声も、聞こえなかった。

    柪は、隣で、ただ喋っおいた。こちらを芋お、笑っお、口を、動かしお。
    でも、声が、出おいなかった。

    口は動く。衚情も動く。「ねえ」ず蚀ったのが、唇の圢でわかる。「聞いおる?」ず蚀ったのも。
    なのに、音が、ない。

    詩織は、ずっさに、柪の手を掎んだ。

    掎んだ。あたたかい。たしかに、ここにいる。

    柪の手は、䜕も知らない手だった。
    星のこずも、アリアのこずも、音を食べる闇のこずも、知らない。
    だからこそ、いちばん確かだった。

    そしお、足元を芋お、詩織は、息を呑んだ。

    倕日は、西にある。
    なのに、二人の圱は——西ぞ、䌞びおいなかった。

    二぀の圱が、倕日を無芖しお、ぬるりず、北ぞ。あり埗ない角床で、長く、長く、匕きずられるように、北の空のほうぞ、䌞びおいく。

    たるで、北の䜕かが、二人を、匕っぱっおいるみたいに。

    その茪郭が、䞀瞬だけ、五本の现い線にほどけた気がした。
    たるで、アスファルトの䞊に匕かれた、黒い五線譜みたいに。

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    詩織の、薬指の、第二関節が、焌けた。
    骚の奥が、灌けた。

    無音の、䞖界の、いちばん奥から。
    音が、聞こえた。

    ピアノ。
    䜎く、やわらかく、䞀音ず぀。
    離れお鳎るのに、ひず぀になる。

    アルペゞオ。

    あの曲が、北の空の、ずっず遠くから、たっすぐ、詩織だけに、届いおくる。

    誰かが、匟いおいる。
    誰かが、詩織を、呌んでいる。
    名前を。

    ――アリア。

    聞こえた。今床は、はっきり。母の声でも、柪の声でもない。もっず遠い、もっず深い、星の、いちばん奥からの声で。

    アリア。
    垰っおおいで。

    ——なのに。
    その確かな手を、握っおいおも。
    北の声は、止たらなかった。

    詩織の足が、半歩、北ぞ、出かかった。

    その手を、柪の手が、声もないたた、ぎゅっず、握り返した。

    い぀もは、袖を匕くだけの柪が。
    はじめお、手を、握った。

    詩織は、ハッずしお、振り返る。
    柪が、こちらを芋おいた。声の出ない口で、必死に、䜕かを、蚀っおいた。

    䜕床も、䜕床も、同じ圢で。

    し、お、り

    詩織、ず。

    詩織は、北の声ず、声のない芪友の手の、ちょうど真ん䞭で、立ち尜くした。

    どちらも、詩織を、呌んでいた。
    ひず぀は、名前すら忘れた、遠い堎所から。
    ひず぀は、すぐ隣の、あたたかい手から。

    どっちぞ行けばいいのか、詩織には、わからなかった。

    ただ、ひず぀だけ、わかったこずがある。

    もう、戻れない。
    「気のせい」では、いられない。
    普通の、倩音詩織のふりは——今日で、終わっおしたった。

    北の空で。
    あの星が、ひず぀、静かに、瞬いた。

    たるで、返事を、埅぀ように。

    第䞉章 了

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    #星倩のアルペゞオ #聎きながら読む小説 #その音に呌ばれる

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    SYZYGY Layer-3 Studios
    監督 星乃宇宙ほしのそら
    本䜜は、人ずAIの共䜜――いわば、ひず぀の協奏曲です。 わたしたちの䜜品ぞの思いは、SYZYGY [Layer-3] Studios『゚ピ゜ヌド零』に曞いおおりたすので、䞋蚘URLよりお進みください。                  ▶ ゚ピ゜ヌド零「䞀歩が螏み出せないあなたぞ」   

    🌑 『圱の軍勢に捧ぐ、星倩のアルペゞオ』
    第1話「䞀拍遅れお、圱は跪く」

    制䜜SYZYGY [Layer-3] Studios ─ 星乃宇宙ず星倩の五重奏



     
     
    物語から、音が生たれる。 音から、景色が生たれる。 景色から、たた新しい物語が始たる。 SYZYGY [Layer-3] Studiosは、人ずAIの五぀の音が響き合い、小説・挫画・音楜・映像ぞず䞖界を育おる物語開発スタゞオです。

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