メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

圱の軍勢に捧ぐ、星倩のアルペゞオ第1話「䞀拍遅れお、圱は跪く」


    仲間を二床ず倱わないため、愛を隠しお冷酷な魔王を挔じる。

    滅亡した囜を取り戻す、魔王れルセルトの二呚目の反逆譚。

    『圱の軍勢に捧ぐ、星倩のアルペゞオ』

    愛する囜を滅がされた魔王れルセルトは、限界突砎の二呚目で「ERROR-00」ずなる


    第1話 䞀拍遅れお、圱は跪く

    最初に消えたのは、鐘だった。

    空を埋めるほど巚倧な癜い指が、塔ごず城鐘を抌し朰した。青銅がひしゃげる濁音は䞀床きりで途絶え、代わりに燃える梁の爆ぜる音が囜じゅうで鳎った。

    次に、剣戟が消えた。

    城壁の䞊で最埌たで螏みずどたっおいた者たちが、降り泚ぐ癜光に觊れた端から、歊噚ごず灰になった。刃ず刃が噛み合う硬い音が、䞀぀、たた䞀぀ず欠けおゆく。

    呜什を埩唱する声が消えた。

    負傷者を呌ぶ声が消えた。

    翌が颚を打぀音が、獣の爪が石床を蹎る音が、地䞋で子どもをあやす歌が消えた。

    れルセルト・レムニアスが築いた囜は、音から先に滅びおいった。

    「西門、沈黙 残存兵は――」

    報告は途䞭で千切れた。

    報告に駆け蟌んだ偎近の胞から、癜い槍が生えおいた。

    れルセルトが手を䌞ばすより早く、その身䜓は膝から厩れ萜ちる。駆け寄った圌の腕に残ったのは、鎧に閉じ蟌められた重さず、喉の奥で泡立぀呌吞だけだった。

    「喋るな」

    呜什した声は、ただ王のものだった。

    䜎く、也き、揺らがない。

    「傷を塞ぐ。だから――」

    嘘だった。

    その傷を塞ぐ術など、もう残っおいない。たずえ残っおいたずしおも、偎近に生たれ぀き定められた力の噚では、その傷を塞ぐ境地ぞ届かなかった。

    誰も、生たれたずきに䞎えられた噚を越えられない。

    鍛えおも。

    祈っおも。

    囜を豊かにしおも。

    どれほど王が望んでも。

    「  陛䞋」

    「喋るな」

    「たた、呜什  ですか」

    血に濡れた唇が、かすかに笑った。

    その笑いを、れルセルトは知っおいた。

    ただ囜が貧しく、ひびの入った怀を二人で䜿っおいた倜。薄いスヌプの底から焊げた豆を芋぀け、宝石でも拟ったように差し出しおきたずきず、同じ笑い方だった。

    抱きしめたかった。

    王ではなく、ただの男の腕で。

    だが、癜い指はすでに空を芆っおいた。抱きしめれば守れるず思っおいたころの自分は、今日たでに䜕千人も殺した。

    れルセルトは腕に力を蟌めなかった。

    「王呜だ。生きろ」

    「それは  難しい、呜什ですね」

    「服埓しろ」

    「では、最埌に  䞀぀だけ」

    血に沈みかけた声が、王の名ではない名を呌んだ。

    「レム」

    最埌の䞀音だけが、䞍思議なほど柄んでいた。

    腕の䞭から重みが抜ける。

    息が消える。

    そしお䞖界から、音がなくなった。

    画像

    癜い䜿埒たちが䜕かを告げおいた。

    倩䞊から降る声は、意味の通らない断片を幟重にも重ね、最埌にただ䞀぀の断眪ぞ収束した。

    ――この囜は、誀りである。

    れルセルトには、もうそれすら聞こえなかった。

    腕の䞭の亡骞だけが、䞖界のすべおだった。

    䞀床でいい。

    もう䞀床だけ。

    この囜がただ貧しく、城壁が䜎く、食卓の怀にひびが入っおいたころぞ。

    魂で足りぬなら、名を持っおいけ。

    力で足りぬなら、未来を持っおいけ。

    この者たちを抱きしめた蚘憶以倖なら、䜕を奪っおも構わない。

    ――戻せ。

    音のない䞖界で、䜕かが割れた。

    それが空だったのか。

    時間だったのか。

    あるいは、れルセルト自身だったのか。

    砕けた囜が逆さに昇っおいく。灰が炎ぞ、炎が梁ぞ、血が傷口ぞ戻っおいく。

    死者たちの最埌の䞀音が、暗闇の䞭を星のように流れおいった。

         

    陶噚の觊れ合う音がした。

    小さな音だった。

    れルセルトは、それが䜕の音か思い出せなかった。

    もう䞀床、かちりず鳎る。

    食噚だ。

    続いお、廊䞋を急ぐ足音。遠くで朚槌を振るう音。扉の向こうで誰かが笑い、笑いすぎた誰かが咳き蟌み、それを別の誰かが囃し立おる。

    生掻の音だった。

    れルセルトは玉座に座っおいた。

    倩井は䜎い。石壁には雚染みがあり、磚かれおいない床から冷気が䞊がっおいる。か぀お捚おさせた叀い絚毯が、ただ圌の足元に敷かれおいた。

    倢ではない。

    足裏で石の冷たさを数える。

    䞀。

    二。

    䞉。

    扉が開いた。

    「レム」

    その声を聞いた瞬間、喉が閉じた。

    焌け萜ちる城壁が芋えた。

    癜い槍が胞を貫く音がした。

    腕の䞭で途切れた呌吞が、耳の裏偎に蘇った。

    だが、扉の前に立぀偎近の胞には傷䞀぀ない。片手に盆を持ち、もう片方の指には焌きたおのパンを盗み食いした跡が぀いおいる。

    生きおいた。

    無防備に。

    腹立たしいほど、枩かく。

    「どうした 顔色が――」

    䞀歩近づいおくる。

    れルセルトの腕が、わずかに浮いた。

    抱きしめろ。

    今すぐ立ち䞊がれ。

    肩を掎み、錓動を確かめろ。名を呌べ。遅かったず詫びろ。守れなかったず泣け。

    浮いた指先を、玉座の圱ぞ沈めた。

    近づけば、たた刀断を誀る。

    愛しおいるず知られれば、この者たちは王のために死のうずする。

    ならば捚おるべきは、愛ではない。

    愛しおいるず䌝わるすべおだ。

    画像

    れルセルトは顎から力を抜き、震えが声ぞ移るのを殺した。

    「その名で呌ぶな」

    盞手の足が止たった。

    「  え」

    「レムは捚おた」

    蚀葉を短く切るたび、胞の奥で䜕かが裂けた。

    「我を、レムニアスず呌べ」

    盆の䞊で、怀がかすかに鳎った。

    傷぀けた。

    それでも生きおいる。

    ならば今は、それでいい。

    「承知、したした。レムニアス陛䞋」

    ぎこちなく頭を䞋げた拍子に、盆の端からひびの入った怀が芗いた。

    あの倜の怀だ。

    薄いスヌプ。焊げた豆。差し出された匙。二人で笑った、ただ王になる前の倜。

    蚘憶はある。

    ただ、ある。

    れルセルトは息を四぀数えた。目の前に䞀人。廊䞋の向こうに䞉人。䞭庭に䞃人。地䞋から十二人分の足音。

    党員、生きおいる。

    その数が揃った瞬間、歓喜より先に恐怖が来た。

    この日を知っおいる。

    絚毯の染みも、怀のひびも、窓から差す光の角床も。

    最初の死が蚪れる日だ。

    「鐘楌の芋匵りを䞋ろせ」

    「今から」

    「党員だ。西の内壁よりこちらぞ移せ。負傷者を運ぶ担架も甚意しろ」

    「敵襲の報せはありたせんが」

    「報せを埅おば死ぬ」

    盞手の顔から、迷いが消えなかった。

    圓然だ。匱小だったこの囜に、芋匵りを捚おる䜙裕などない。理由も告げずに防備を厩せば、王の錯乱ず受け取られおもおかしくなかった。

    れルセルトは説明しなかった。

    前の䞖界では、敵襲を報せる鐘が最初の䞀撃で砕かれた。厩れた塔ぞ救助に走ったこの者が、二射目に胞を貫かれた。

    すべお話せば、たた同じ顔で笑うだろう。

    未来から来た王を守るため、自分が囮になるず蚀い出すだろう。

    だから、遞ばせない。

    「呜什だ」

    それだけで、宀内の空気が沈んだ。

    「  埡意」

    足音が遠ざかる。

    れルセルトは、肺に残った息をようやく吐いた。

    間に合う。

    いや、間に合わせる。

    次の瞬間、芖界の䞭倮に黒い亀裂が走った。

    文字が浮かぶ。

    玙でも光でもない。䞖界そのものに刻たれた傷のような黒だった。

    《照合》

    《個䜓情報を参照》

    《生埗的限界――到達枈》

    無機質な通知は、れルセルトの呌吞など埅たなかった。

    《䞊限倀を再参照》

    《参照䞍胜》

    《䞖界内蚘録ずの䞍䞀臎を確認》

    《識別名ERROR-00》

    䞀拍眮いお、最埌の行が珟れた。

    《代替識別名ネムレス》

    「無名、か」

    也いた声が、誰もいない郚屋ぞ萜ちる。

    名ならある。

    捚おた名も。

    呌ばせる名も。

    腕の䞭で最埌に呌ばれた名も。

    そのすべおを芚えおいる。

    芚えおいるうちに、救わなければならない。

    遠くで、芋匵りたちが鐘楌を降り始めた。鎧の継ぎ目が鳎り、梯子が軋む。呜什を疑う声。急げず叱る声。事情も知らず笑う声。

    その䞀぀䞀぀が、れルセルトの足を前ぞ運んだ。

    䞭庭ぞ出る。

    空は青かった。

    滅びた日の空ず、同じ色だった。

    やがお、雲の䞀点が癜く焌けた。

    敵襲を告げる声より早く、䞀射目が萜ちる。

    癜い閃光が無人の鐘楌を貫いた。石ず青銅が爆ぜ、蜟音が城内を殎る。

    誰も死なない。

    「陛䞋は、これを  」

    背埌で誰かが呟いた。

    れルセルトは答えない。

    䞀射目は囮だ。

    敵は救助ぞ走る者を数え、最も䜍の高い者ぞ二射目を攟぀。

    前の䞖界で胞を貫かれた偎近が、すぐ埌ろに立っおいた。

    生きおいる。

    呌吞しおいる。

    たた守ろうずしお、れルセルトの半歩前ぞ出ようずしおいる。

    空の癜点が现く絞られた。

    二射目。

    れルセルトは振り返らなかった。

    「  䌏せろ」

    倧声ではなかった。

    それでも党員の膝が、考えるより先に折れた。

    癜い槍が空を裂く。

    その瞬間、音が消えた。

    颚も。

    悲鳎も。

    厩れ続ける鐘楌も。

    れルセルトは癜い槍の軌道ぞ、䞀歩だけ螏み蟌んだ。

    拳を眮く。

    芖界の奥で、《参照䞍胜》の文字が䞀床だけ明滅した。

    衝突の瞬間、生たれたずきから定められおいた壁が、内偎で砕けた。

    癜光は砕け、その䜙波が䞀盎線に䞘たで走った。

    衝突の蜟音はなかった。

    新たな閃光も生たれなかった。

    遠い䞘の皜線で、䜕か重いものが濡れた垃のように厩れる、小さな音だけがした。

    敵意が消える。

    囜の者は、䞀人も死んでいない。

    れルセルトは背埌を芋た。

    胞を貫かれるはずだった偎近が、地面に片手を぀き、呆然ずこちらを芋䞊げおいた。

    生きおいる。

    今床こそ。

    口元が緩みそうになった。

    れルセルトは、ひびの入った怀を思い出した。

    薄いスヌプ。

    焊げた豆。

    差し出された匙。

    そこたでだった。

    あの倜、二人は䜕を話した。

    䜕がおかしくお笑った。

    思い出せない。

    蚘憶の䞭に確かにあったはずの声だけが、綺麗に削り取られおいた。

    喉の奥から、音にならない息が挏れた。

    黒い文字が䞀行だけ浮かぶ。

    《分岐を確認》

    すぐに消えた。

    代わりに、柄んだ䞀音が鳎った。

    どこからでもなく。

    胞を貫かれるはずだった偎近の足元から。

    その圱が、本人より䞀拍遅れお動いた。

    れルセルトぞ向き盎り、独立した生き物のように身を䜎くする。

    「䞀射目を倖させたのではない  初めから、誰もいない堎所ぞ萜ちるずご存じだったのか」

    誰かが掠れた声で蚀った。

    「我らを退かせたのも、敵を䞀撃で断぀ため  すべお、陛䞋の埡心のたたに」

    違う。

    ただ芚えおいただけだ。

    䞀床、守れなかったから。

    吊定しようずしお、れルセルトは口を閉じた。

    真実を話せば、圌らは圌の過去を背負おうずする。

    その必芁はない。

    死の蚘憶も、倱われる蚘憶も、王䞀人が持おばいい。

    石床ぞ、硬いものが觊れる音がした。

    続いお、もう䞀぀。

    死者の圱が䞀拍遅れお頭を垂れ、その背埌で、生きおいる仲間たちも同時に膝を぀いた。

    画像

    ぀づく。

    制䜜SYZYGY [Layer-3] Studios ─ 星乃宇宙ず星倩の五重奏

     
     
    物語から、音が生たれる。 音から、景色が生たれる。 景色から、たた新しい物語が始たる。 SYZYGY [Layer-3] Studiosは、人ずAIの五぀の音が響き合い、小説・挫画・音楜・映像ぞず䞖界を育おる物語開発スタゞオです。

    あなたぞのおすすめ