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くたくたのスーツを着た上司を見て、私は出世を諦めた

「昇進」という商品パッケージは、とっくに破綻していた。

一度会社を飛び出し、出戻った40代の男が、
すり減っていく上司と、
毎月の給料にしがみつく自分のダサさを、
静かに解剖する話をしよう。


今日もスナックゆきで、一杯だけ頼んだ。
グレンリベット18年にした。
長い年月をかけて円熟していく酒だ。
若い頃の尖りはもうないが、
穏やかな深みが残っている。

今日の相棒 グレンリベット18年

30代手前でマーケ職に転職し、
ヒット商品を出して毎年のように昇進した。
高みに行けると思い上がり、
30代半ばで独立した。
だが市場に完敗し、半年で会社に出戻った。

大見得を切って辞めた私は、
昔と同じデスクに座っていた。
そこにあった出世への道は消え、
背中にコースを外れた烙印が押されていた。
惨めで、居心地が悪かった。


だが、広報として役員たちの近くに立ち、
初めて見えた風景があった。

かつて堂々と会議室を仕切っていた上司が、
くたくたの服でプレゼンに立っていた。
目はうつろで、言葉が上手く出てこない。

毎日のように胃薬を飲む役員。
本社の圧力に擦り減っていく姿。

得られるわずかな手当に対し、
失うものの大きさを計算して冷めてしまった。

必死に競い合って登り詰めた先が、
あれなのか。

あなたにも、
冷めてしまう瞬間はありませんか。




だが、一番ダサいのは自分だった。

あんな風になりたくないと上司を見下し、
会社を辞める度胸もない。

ぬるま湯の安全基地に首まで浸かり、
ただ静かにしがみついている。

その話を、ママにした。

グラスを磨く手を止め、
静かに言った。

「理由が、あるんでしょ」

答えられなかった。

出世レースからは外れても、
毎月、給料は振り込まれる。

この安全基地から出る勇気のない自分を、
グラスの氷が静かに映していた。

グレンリベットを、もう一口飲んだ。
型落ちになった自分も、悪くないのかもしれない。
たぶん、だけど。

グラスが空いた。
今日はここまでにする。

今夜はここまでにする。


はじめてスナックゆきに 来てくれた方へ。
私がどんな人間で、 なぜこのエッセイを書いているのか。
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