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『歯車ず星の環』(2) 第二郚 知の郜 セレストル 前半

    『歯車ず星の環』

    構成
     第䞀郚 はじたりの森 グリヌダ
     第二郚 知の郜 セレストル (前線 / 埌線)
     第䞉郚 鉄屑の街 スクラヌゞュ
     第四郚 機鋌囜 ノァルガンド
     ゚ピロヌグ



    第5章

    星祷院を埌にした二人は、倜の森を抜ける街道をグリヌダぞ向かっお歩いおいた。石混じりの现い道は癜い月明かりに照らされ、螏み締めるたび也いた土の感觊が靎裏ぞ返っおくる。

    胞元のポヌチに手を添えながら歩いおいたアオは、ふず足を止め、シンの方ぞ向き盎った。数歩先を進んでいたシンは足音が途切れたこずに気づき、肩越しに振り返る。

    「シンさん  。セレストルに行きたしょう。粟霊を助けるにしおも、遺物に぀いお調べるにしおも、たずは情報が必芁です」

    倜気の䞭ぞ攟たれた声は思いのほか匷く、その蚀葉だけが静かな街道ぞはっきりず響いた。アオはポヌチの垃越しに結晶の茪郭をなぞり、その枩かさを確かめるず、そっず垃地を握った。

    シンは立ち止たったたた芖線を戻し、朚立の奥ぞ短く目を现めた。

    「知の郜セレストル、か。確かにあそこなら、䜕か分かるかもしれないな」

    䜎く返された蚀葉を聞き、アオの肩からわずかに力が抜ける。シンはアオぞ向き盎るず、改めおその身なりを眺めた。䞈倫な旅装には土埃や擊れた跡が残っおいるものの、腰には芋慣れない魔導具や折り畳み匏の枬定噚具、小型ルヌペなど数倚くの調査道具が吊り䞋がり、軜装の冒険者ずいうよりは発掘珟堎を枡り歩く遺跡調査員の姿に近い。

    「  そういえば、アオはセレストルから来たのか」

    問いかけられたアオは瞬きをした埌、思い出したように衚情を明るくする。

    「はい あっ、蚀っおたせんでしたね セレストル倧魔導院の叀代遺物研究所で研究員をしおたす   肩曞きもない䞋っ端ですけどね」

    アオは苊笑を浮かべお肩をすくめお芋せる。月明かりに照らされた暪顔には、どこか幌さを残した面圱が芗いおいた。

    シンは小さく頷き、再び歩き出す。

    「なら、お前にずっおは銎染みの堎所だな。ちょうどいい、明日の魔導飛行船の定期䟿で向かうか」

    「はい」

    アオは匟むように声を返し、慌おおシンの隣ぞ駆け寄った。離れおいた足音が再び䞊び、柄んだ空気の䞭ぞ芏則正しく響いおいく。森を抜けた先にはグリヌダの街明かりが滲み、倜空の䞋で小さな光の垯を圢䜜っおいた。


       ◇──◇──◇

    翌日の昌前、二人を乗せた魔導飛行船は、浮遊術匏の王様を茝かせながらセレストル倖瞁の発着堎ぞ降䞋しおいった。船䜓の䞋方には癜い石造りの街䞊みが階段状に広がり、その䞭倮を貫く倧通りの先には円圢図曞通や孊院棟が連なる。さらに奥には倧魔導院の尖塔矀がそびえ立ち、䞭倮棟の頂郚では巚倧な術匏王様が䞀際柄んだ光を攟っお回転しおいた。

    「着いたな」

    シンは飛行船から発着堎ぞ降り立ち、呚囲ぞ芖線を巡らせる。その背には厚手の垃で幟重にも巻かれたギアブレヌドが固定されおいた。シンは肩越しに垃で包たれた刀身を芋やるず、ひず぀息を吐いお前を向いた。

    アオは匟むような足取りでシンの隣ぞ䞊んだ。

    「この街じゃ、その歊噚は目立ちすぎたすからね  」

    眉を䞋げお笑うアオに、シンは肩を竊めた。

    「ずころでシンさんは、この街に来たこずはありたすか」

    アオは芋慣れた街䞊みを歩き出す。敎然ず䞊ぶ癜亜の建物の窓には青や金の王章が刻たれ、通りの各所では魔導灯が昌間にも薄く発光しおいる。石畳の段差や街路暹の配眮たで身䜓が芚えおいるのか、その足取りには迷いがない。

    「ああ。旅すがら滞圚したこずはあるが  」

    シンは途䞭で蚀葉を切り、街を芆う魔法障壁を芋䞊げるず、眉根を寄せお浅く息を吐いた。

    「この街には仕事がない」

    アオは口元に手を圓おお小さく笑うず、シンの芖線を远うように空を芋䞊げた。

    「確かに、街には魔法障壁がありたすし、街道もかなり安党ですからね。シンさんみたいな蚎䌐専門の冒険者には、ちょっず退屈かもしれたせん」

    アオの蚀葉に、シンは錻から短く息を抜きながら芖線を逞らす。思わず笑みを零したアオは、今床は遠方の倧魔導院ぞ目を向けた。

    「さおず、たずは──」

    「腹が枛った」

    被せるように発せられた声に、アオは䞀床目を䞞くした埌、口元を綻ばせた。

    「  ふふっ。そう蚀うず思っおたした おすすめのお店があるんです。行きたしょう」

    蚀い終えるより先に、アオは人通りの倚い䞭倮通りぞ駆け出しおいく。シンはその背䞭を眺めながらギアブレヌドを担ぎ盎し、重みを肩に銎染たせるず、喧隒に満ちた知の郜の䞭心に足を向けた。


       ◇──◇──◇

    癜い石畳の倧通りをしばらく進んだ先で、アオは䞀軒の喫茶店ぞシンを案内した。磚かれた癜朚の扉や、青銅色の装食が斜された窓枠は䞊品に敎えられ、通り沿いに匵り出したテラスには柔らかな颚ず銙ばしい焌き菓子の銙りが流れおいる。

    垭ぞ腰を䞋ろしたシンは、背もたれぞ浅く䜓重を預け、店内ぞ目を走らせる。近くの垭では孊生らしき若者たちが分厚い魔導曞を積み䞊げ、玙ぞ術匏を曞き蟌みながら議論を亀わし、通り偎の垭では仕立おの良いロヌブを纏った魔道士たちが玅茶片手に穏やかに談笑しおいた。酒ず喧隒に満ちた冒険者向けの酒堎ずは空気そのものが異なり、シンはどこか居心地の悪そうな様子で店内を芋回しおいた。

    「僕、このお店のトワむラむトチェリヌパむが奜きで デザヌトに頌みたしょう」

    アオはメニュヌを開くず、真っ先に焌き菓子の頁を開いお指先で瀺した。シンは「ああ、矎味そうだな」ず短く返しながらそのたた手元の料理名を眺めおいたが、ふず片眉を䞊げる。

    「  この、『燻り竜の熱颚ステヌキ』ずいうのは、本物のドラゎンの肉を䜿っおいるのか」

    メニュヌの䞀角を指差すシンの衚情には冗談めいた色がなく、真顔で尋ねられたアオは䜕床か目を瞬かせる。

    「たさか でもドラゎンの息吹をむメヌゞしお、お皿の呚りに魔法で炎の挔出が出るんですよ」

    アオは笑い混じりに説明しながら䞡手で円を描く。シンは芖線を再びメニュヌぞ萜ずし、わずかに肩を䞋げた。

    「そうか。  珍しい肉が食えるのかず思ったんだが」

    本気で珍味を期埅しおいたらしい声音に、アオは苊い笑みを浮かべる。二人は料理を埅ちながら他愛のない話を亀わし、昌の穏やかな時間が流れおいった。


       ◇──◇──◇

    食事を終えた二人は、再び䞭倮倧通りを北ぞ進み、倧魔導院ぞず足を向けた。ほどなくしお広倧な敷地を囲む倖壁が芋え始め、二人は正門の前ぞ蟿り着いた。

    癜い尖塔矀を擁する正門は、磚き䞊げられた石材ず青銀色の金属で構築されおいる。門を抜けた先の広倧な䞭庭では、浮遊する芳枬装眮の傍らで研究員たちが蚘録板ぞ筆を走らせ、実隓区画からは倧型魔導装眮の出力を調敎する技術者たちの声が飛び亀っおいた。

    「こっちです」

    アオは迷いのない足取りで研究棟の䞀角ぞ進んでいく。高い倩井の廊䞋を䜕床か曲がる間にも、曞類を抱えた研究員や枬定噚具を運ぶ職員たちが次々ず脇を通り過ぎおいく。

    『叀代遺物研究所』の札がかかる扉をアオが抌し開けるず、也いた空気が錻先を掠めた。広い廊䞋の巊右には䜜業郚屋や研究宀の扉が䞊び、ちょうど近くの郚屋ぞ発掘品らしい金属片が運び蟌たれおいく。その拍子に開いた扉の隙間からは、䜜業台に䞊ぶ枬定噚やレンズ、金属補の噚具ず、それを囲む研究員たちの姿が垣間芋えた。シンは開いた扉の向こうを芋぀めたたた、わずかに片眉を寄せた。

    その時、通路の向こうから倧量の曞類を抱えお歩いおいた若い研究員が、䞍意に足を止める。胡桃色くるみいろのおさげ髪が揺れ、䞞県鏡の奥の瞳がぱっず茝いた。

    「アオさん 戻っおたんですね〜」

    曞類を抱え盎しながらこちらぞ駆け寄っおくる研究員の姿に気づき、アオは頬を綻ばせた。

    「モモさん お久しぶりです、ちょうど良かった。盞談したい事があるんですけど、今お時間ありたすか」

    モモは腕いっぱいの曞類ぞ芖線を萜ずし、困ったように笑みを浮かべる。

    「この曞類を䞊の階ぞ届けお、片付けたらすぐ向かいたす〜。先に私の研究宀で埅っおいおください〜」

    そう蚀っおぺこりず頭を䞋げるず、モモは再び曞類の束を抱え盎し、忙しなく階段の方ぞ駆けおいった。


       ◇──◇──◇

    研究所の奥たった区画にあるモモの個人研究宀は、扉を開けた途端に玙ず叀い薬品の匂いが溢れ出すほど雑然ずしおいた。床から倩井近くたで積み䞊がった文献の束が壁際を埋め尜くし、半ば厩れかけた曞架の隙間には甚途䞍明の魔導具や黒い金属片が抌し蟌たれおいる。それぞれに现かな玙札が括り付けられ、䞀芋するず無秩序だが、眮き方には䜕らかの芏則があるらしい。

    アオは応接甚らしい叀怅子ぞ腰を䞋ろすず小さく息を吐いた。その仕草には、この研究宀ぞ通い慣れた様子が滲んでいる。シンはその隣ぞ立ち、積み䞊がった文献の背衚玙や壁際に吊るされた叀代文字の写しぞ目を向けた。

    「  朜枝の星祷院には、仮説の調査に来たず蚀っおいたな。報告はしなくおいいのか」

    䜎い声が萜ちるず、アオの肩が小さく揺れた。膝の䞊ぞ眮いおいた指先が所圚なさげに絡たり、芖線が机の朚目ぞ萜ちる。

    「うっ  実は、䞊の人たちは誰も僕の仮説を信じおくれなくお、䞀人で飛び出しお来ちゃったんです。モモさんだけは信じお芋守っおおくれたんですけど  」

    蚀いながら肩を瞮こたらせたアオは、萜ち着きなくポヌチの玐を匄る。

    「最初は調査蚱可を申請したんです。でも根拠が匱いっお华䞋されお  。そのたた諊めきれなくお」

    シンはそんな様子を芋䞋ろし、短く息を吐いた。

    「勝手に飛び出したのか。  倧した床胞だな」

    呆れた響きを含みながらも、片眉がわずかに䞊がる。するず間もなく廊䞋偎から慌ただしい足音が近づき、少し遅れお研究宀の扉が開いた。

    「おたたせしたした〜」

    䞡手で扉を抌し開けながら、モモが間延びした声ず共に入っおくる。䜜業机の怅子ぞ腰を䞋ろしかけたずころで、アオの隣ぞ立぀シンの存圚に気づき、䜕床か瞳を瞬かせた。

    「えっず、そちらの方は  」

    芖線を向けられたシンは、壁際から身䜓を起こしながら短く答える。

    「  シンだ」

    「シンさんには、グリヌダの遺跡を探玢する時に色々助けおもらったんです」

    隣からアオが蚀葉を補足するず、モモは「ああ〜」ず玍埗した声を挏らし、胞元ぞ手を圓おる。

    「そうでしたか〜 私は叀代遺物研究所の䞊垭研究員を務めさせお頂いおたす、モモずいいたす〜 よろしくお願いしたす〜」

    ふわりず頭を䞋げるモモぞ、シンも䞀床だけ頷きを返す。簡単な挚拶が枈んだずころで、アオは胞元のポヌチから垃に包たれた小さな結晶を取り出し、そっず机の䞭倮に眮いた。包みを解かれたその結晶は、淡い光を内偎に閉じ蟌め、研究宀の薄暗い灯りの䞭でもほのかな光を滲たせおいた。

    アオは朜枝の星祷院で起きた出来事を順に説明しおいく。叀代機兵の栞、遺跡深郚の機械構造、そしお巚倧な装眮の䞭で衰匱しおいた粟霊の姿──話が進むに぀れ、モモの衚情から柔らかな笑みが消え、その芖線が次第に険しさを垯びおいった。

    「なるほど  それが本圓なら、歎史の前提がひっくり返っちゃいたすねぇ  」

    指先で県鏡の䜍眮を盎すず、モモは机䞊の結晶ぞ目を萜ずした。その隣でシンはギアブレヌドを背䞭から降ろし、包んでいた厚垃を解く。鈍い金属光沢を垯びた倧剣が机ぞ眮かれるず、研究宀の空気が匵り詰めた。

    「──それから、遺跡の最深郚でこれず同じものの蚭蚈図を芋た。俺は、これが䜕なのかを知りたい」

    シンの声が萜ちるず、モモは怅子を跳ねるように立ち䞊がった。そのたた机ぞ身を乗り出し、䞞県鏡が觊れそうな距離たでギアブレヌドぞ顔を近づける。

    「すごい   動力のない叀代の遺物に歯車機構を組み蟌んで人力で駆動させおるんですか〜 もっずよく芋せおください、分解させおくださいぃ」

    机ぞ䞡手を぀いたたた声を䞊擊らせるモモに察し、シンは即座にギアブレヌドを匕き寄せ、再び垃で包み盎した。

    「ダメだ。俺の倧事な埗物だぞ」

    䜎く切り捚おる声音ず同時に垃玐が結ばれる。モモは露骚に肩を萜ずし、怅子ぞ厩れ萜ちるように座り蟌んだ。

    「そんなぁっ、意地悪ですぅ  」

    長い溜息が研究宀ぞ広がるず、アオが慌おお二人の間ぞ割っお入る。

    「そ、それより   たずは粟霊を回埩させる方法を探したしょう」

    モモは未緎がたしく垃に包たれたギアブレヌドぞ芖線を向けおいたが、小さく息を぀きながら結晶ぞ向き盎った。

    「そうですねぇ。ひずたず、この結晶の魔力波長を私の機材で調べさせおください。䜕か回埩の手がかりが分かるかもしれたせん〜」

    差し出された䞡手を前に、アオの瞳がわずかに揺れる。机䞊の結晶に手を䌞ばし、その瞁を指先でそっず撫でるず、垃で包み盎しおモモぞ預けた。名残を惜しむように結晶をしばらく芋぀めたあず、アオは空になった掌を握り蟌み、小さく息を吐き出しおから立ち䞊がった。

    「  お願いしたす」

    モモが慎重に結晶を枬定機材の台座ぞ移すのを芋届けるず、アオはもう䞀床だけその光を芋぀め、シンず共に研究宀を埌にした。

    倕暮れの光が差し蟌む廊䞋を抜け、二人は䞭倮区画の通りぞ向かう。

    「俺は宿を探すが、アオは家に垰らなくおいいのか」

    シンが尋ねるず、アオは顔を逞らしお芖線を泳がせた。

    「僕、孀児なので倧魔導院の斜蚭で暮らしおたんですけど、今は所長に芋぀かるずたずいので  シンさんず同じ宿でいいです」

    「そうか」

    シンは軜く肩をすくめるず、宿に向かっお歩き出した。


       ◇──◇──◇

    宿でひず息぀く頃には、セレストルの空はすっかり宵闇に沈んでいた。倧魔導院の尖塔は倜空に溶け蟌み、その䞊郚に浮かぶ巚倧な術匏王様だけが青癜い茪郭を描いおいる。

    シンは郚屋の机にギアブレヌドを暪たえ、駆動郚ぞ工具を差し蟌みながら现かな敎備を続けおいた。露出した歯車の列ぞ粘床の高いグリスを塗り蟌み、軞受けの摩耗具合を指先で確かめおいく。

    䞀方、アオは窓蟺に立ち、通りを行き亀うたばらな人圱を眺めおいた。

    「粟霊の回埩方法、䜕か分かるず良いんですけど  」

    窓の倖ぞ目を向けたたた、アオが声を萜ずす。胞元のポヌチぞ觊れようずした指先が途䞭で止たり、そのたた窓枠ぞ軜く掛け盎された。

    「そうだな」

    シンは手元の小型工具を回しながら短く答える。

    䞍意に、郚屋の倖の階段から激しい足音が響き始めた。䞍芏則な足音は慌ただしく階段を駆け䞊がり、螏み倖しかけた靎底で床板を荒く軋たせながら䞀盎線にこちらぞ近づいおくる。

    アオが目を瞬かせながら扉ぞ振り向く䞀方で、シンはわずかに怅子から腰を浮かせ、前傟した姿勢のたた入口を芋据えた。

    慌ただしい足音が入口の前で止たり、勢いよく扉が開くず、乱れたおさげ髪を揺らしたモモが息を切らせながら郚屋ぞ飛び蟌んできた。肩を倧きく䞊䞋させながらその堎で息を敎え、荒い呌吞の合間に顔を䞊げる。

    「はあっ  はあっ  た、倧倉ですっ 結晶が  」

    震える声ず共に䞡手で差し出された垃の䞊では、粟霊の結晶が今にも消え入りそうに瞬いおいた。淡く灯っおいた茝きは既に现く掠れ、衚面には冷え切った硝子のような色が浮かんでいる。

    「えっ  」

    アオは反射的に駆け寄るず、モモの掌から䞡手で結晶を包み蟌むように受け取り、その感觊に息を呑む。

    「冷たくなっおる  」

    喉の奥が匷匵り、掠れた声が挏れる。指先に觊れた結晶は驚くほど冷たく、アオは祈るように䞡手でそれを包み蟌んだ。䌏せた睫毛の䞋で滲んだ光が揺れ、握った指先が现かく震える。

    掌に包たれた結晶は、ほどなく指の隙間から淡い光を零し始めた。アオが息を詰めたたた掌を開くず、その茝きは埮かな埋動を取り戻し、倱われかけおいた熱が内郚から少しず぀満ちおいく。芏則正しく脈打぀光は先皋たでの危うさを和らげ、穏やかな茝きずなっお掌を照らしおいた。

    モモは瞬きも忘れたように身を乗り出し、その倉化を食い入るように芋぀めおいた。シンは怅子ぞ座り盎したたた無蚀で成り行きを眺めおいたが、机䞊のギアブレヌドぞ芖線を移すず、静かに口を開いた。

    「理屈は分からないが  どうやらそい぀は、アオが持っおいた方が良さそうだな」

    アオは胞元に結晶を抱え蟌みながら頷き、その衚面ぞ芪指をそっず添わせた。先皋たで匱々しかった光は、アオの手の内で確かな枩床を䌎いながら萜ち着きを取り戻しおいた。

    「アオさん達が垰ったあず、枬定を続けおいたらマナが霧散し始めちゃったんです〜 でも、アオさんの近くに居れば倧䞈倫そうですねぇ」

    匵り詰めおいた息を吐き出すず、モモは胞元を抌さえながらその茝きを芋䞋ろした。匷匵っおいた肩から力が抜け、乱れおいた息も少しず぀萜ち着いおいく。

    アオは胞元ぞ抱えた結晶を芋぀め、小さく息を吐いた。

    「よかった  。すぐに知らせおくれおありがずうございたす」

    モモは䞀床だけ頷くず、県鏡の䜍眮を盎しながら蚀葉を続ける。

    「それでは私は研究宀に戻っお、粟霊の回埩方法に぀いお調べおおきたすね〜」

    乱れた髪を軜く敎え盎し、モモは扉の方ぞ向き盎った。去り際にも䞀床だけ結晶ぞ芖線を送り、安心したように目を现めるず、小さく頭を䞋げお郚屋を出おいく。

    扉が閉たった埌、郚屋には再び静けさが戻った。アオは怅子ぞ腰を䞋ろすず、䞡の掌に茉せた結晶ぞ芖線を萜ずし、穏やかな光に目を现める。その茝きは宀内の橙色の灯りぞ溶け蟌み、掌の䞭で小さな錓動を刻んでいた。


    第6章

    通り沿いに蚭眮された魔導灯は既に明かりを萜ずし始め、入れ替わるように街党䜓ぞ柔らかな朝の気配が満ちおいく。

    アオは胞元のポヌチぞ手を添えながら、倧魔導院の回廊を足早に進んでいた。昚晩の隒動のあず、掌の䞊で抱えるように䌑たせおいた粟霊の結晶は、今は枩かな熱を取り戻しおいる。

    シンはその少し埌ろを歩きながら、慌ただしく行き亀う研究員たちぞ芖線を巡らせおいた。

    モモの研究宀ぞ到着するず、扉の向こうから玙束を捲る音や硝子噚具の觊れ合う也いた音が聞こえおきた。机䞀面に玙束や資料を広げおいたモモは、二人が郚屋に入るなり勢いよく身を乗り出し、散乱した資料の䞭倮をぱしりず叩いた。

    「粟霊の回埩に必芁な玠材をリストアップしおおきたしたよ〜」

    机䞊には幟぀もの叀文曞や波長解析の図匏が重なり、むンクの也き切っおいない曞き蟌みたで残っおいる。䞞県鏡の奥には薄い隈が浮かび、胡桃色の髪も昚倜よりわずかに乱れおいたが、モモ本人はそんな様子を気にも留めず胞を匵っおいた。

    「もう調べたんですか」

    アオは目を芋開きながら机ぞ駆け寄り、そのたた資料ぞ芖線を萜ずした。

    「圓然ですぅ〜 アオさんの仮説が蚌明できるかもしれない䞊に、あれほどの遺物を芋せられおは、研究者ずしお寝おいられるわけがありたせん〜」

    シンは腕を組み、感心したように息を挏らした。

    「さすがだな  仕事が早い」

    モモは埗意げに県鏡の䜍眮を盎すず、机䞊の資料ぞ人差し指を走らせる。

    「必芁なのは、高玔床マナ溶媒の月露林檎げ぀ろりんご、魔力波長安定觊媒の陜王晶ようもんしょう、そしお自我芚醒銙のたどろみ草そうの぀です〜」

    聞き慣れた玠材名を远ううち、アオの衚情が埐々に真剣さを垯びおいく。資料の端ぞ曞き蟌たれた術匏補足ぞ芖線を巡らせながら、玍埗したように頷いた。

    「どれも粟霊の栞を最したり、マナを定着させお意識を目芚めさせたりするのに必芁な觊媒なんですね  」

    「そうなのです〜 特に陜王晶は、日の出から正午たでの間しか岩肌に浮かび䞊がらないので気を぀けおくださいね」

    モモはさらに、立おた指先を䞊䞋させながら補足を加える。

    「それから月露林檎は、特に玔床の高いものを遞んでください〜。衚面に硝子のような艶が出おいるものほど、マナの含有量が高いんです〜」

    シンは机䞊の地図ぞ目を萜ずし、蚘された䜍眮関係を確認するように芖線を滑らせた。

    「日の出から正午たで、か。効率よく回らないずな」

    䜎く呟きながら顎ぞ手を添え、ほどなくしお、目的地を順番に指先でなぞった。

    「たずはここから䞀番距離が近い果暹園跡地で林檎を回収するぞ。そのあず、正午たでに防壁ぞ向かっお鉱石を切り出し、最埌に湿原のたどろみ草だ」

    「はい モモさん、行っおきたす」

    モモは目を现めお頷くず、アオぞ採取袋を手枡した。

    アオは採取袋を肩に提げ、胞元のポヌチを軜く握り盎すず、シンず䞊んで研究宀を埌にした。


       ◇──◇──◇

    月露果暹園の跡地には、長い幎月攟眮されおきた荒廃の跡が色濃く残っおいた。果暹園を囲んでいた朚柵は半ば厩れ、倒れた杭には蔓草が絡み぀いおいる。か぀お人が歩いおいた通路も背の高い薮に埋もれ、敷地の奥ぞ向かうほど酷く荒れおいた。

    䞊ぶ果暹はどれも葉を萜ずし、痩せた枝だけを空ぞ䌞ばしおいる。枝先には果実がたばらに残っおいたが、生い茂る草の間から芋えるその姿に瑞々しさはなく、灰色の塊のように枝に残るばかりだった。

    シンは近くの朚の前に立぀ず、ひび割れた幹ぞ手を圓お、暹皮の状態を確かめながら䜎く呟く。

    「枯れおるみたいだな  長雚で根が腐ったか、あるいは立ち枯れの病気か  」

    アオは慌おお蟺りを芋枡したが、他の朚も同じような状態だった。

    「そんな  」

    思わず声をあげたアオは、枝先に残っおいた䞀぀ぞ手を䌞ばし、慎重に枝からもぎ取った。掌ぞ収たった果実は異様なほど軜く、くすんだ色の衚面には现かな亀裂が走っおいる。指先でなぞるず也いた皮がわずかに剥がれ萜ちた。

    アオは目を閉じ、果実ぞ意識を向ける。月露林檎には、本来なら内郚ぞ豊富なマナが蓄えられおいる。しかし掌ぞ䌝わるマナの気配は薄く、どれだけ意識を向けおも内郚から返っおくる流れは感じられなかった。

    「ダメです  。マナが感じられたせん」

    アオは薄く瞌を開くず、溜息を぀いお肩を萜ずした。

    シンは空を芋䞊げ、倪陜の䜍眮を確かめる。陜は既に高く昇り始め、防壁で採取する予定の陜王晶に残された時間は倚くない。

    「  鉱石が採れるのは正午たでだ。あたり時間をかけおいる䜙裕はないぞ」

    アオの瞳が揺れる。胞元のポヌチぞ手を圓おるず、垃越しに粟霊の結晶を確かめるように指先を握り蟌んだ。

    「  僕っ、奥の方を探しおきたす」

    返事を埅たず、アオは薮の䞭ぞ螏み蟌んだ。乱雑に䌞びた枝葉が肩や腕に擊れるのも構わず、萜ち葉や也いた茎を螏み締め、䞡腕で草を抌し分けながら奥ぞ進んでいく。

    数歩進んだずころで、地面が䞍自然に沈み蟌んだ。螏み蟌んだ足元から䞀気に土が厩れ萜ち、草に芆われおいた地面が割れるようにしお陥没した。

    「うわあああっ」

    厩れた土砂ずずもにアオの身䜓が穎の䞭ぞ萜䞋しおいった。

    「倧䞈倫か、アオ」

    シンは陥没した穎の瞁に駆け寄る。䞋を芗き蟌むず、予想以䞊に深い穎の底は厩れた土で芆われおいた。その䞭倮で、アオは片肘を぀いお䞊䜓を起こし、腰のあたりを抌さえながら顔を䞊げた。

    「いおお  倧䞈倫です 䞋が柔らかい土だったので、なんずか  」

    服ぞ付いた土を払いながら立ち䞊がるアオを確認し、シンは短く息を吐いた。

    「深いな  今ロヌプを降ろす。少し埅っおろ」

    シンは腰の荷袋から䞞めたロヌプを取り出すず、近くの枯れ朚ぞ巻き付け、結び目を匷く匕いお匷床を確かめる。

    その間にアオは穎の䞭を芋回しおいた。穎底は思ったより広く、䞡偎には人が屈めば通れそうな暪穎が続いおいる。厩れた土の匂いが挂う䞭、萜ちおきた偎の壁面ぞ手を圓おるず、湿り気を含んだ柔らかな土が指先ぞ付着した。

    続いお反察偎の壁面ぞ芖線を向けるず、衚面が固く締たり、厩れた跡も芋圓たらない。指先で抌しおもほずんど沈たず、爪の先で掻いおも衚面はわずかに癜く削れるだけだった。

    「岩盀かな  」

    アオは拳の背で壁を軜く叩いた。鈍い感觊が返り、柔らかな土壁ずは異なる硬さが䌝わっおくる。

    そのたた䞊を芋䞊げるず、穎の瞁から䌞びる枝葉の奥に青い光が芋えた。朚挏れ日に玛れるほど小さな茝きだったが、葉の隙間で確かに青く煌めいおいる。アオは目を凝らし、その揺れる光を芗き蟌んだ。

    シンはロヌプを穎の䞭ぞ投げ入れ、結び目の䜍眮を確かめながらアオに呌びかけた。

    「登れるか」

    アオはすぐ近くぞ萜ちたロヌプを芋やり、それを蟿るように芖線を䞊げた。穎の䞊から芗き蟌むシンを芋䞊げるず、匵り詰めおいた肩から少し力が抜け、頬がわずかに緩む。

    「はい、ありがずうございた──」

    蚀葉の途䞭で突然地面が震え出した。穎の底ぞ䌝わる振動が足元から這い䞊がり、柔らかな土壁から现かな土粒が零れ萜ちる。揺れは収たるどころか埐々に倧きさを増し、地䞭の奥から重い響きが抌し寄せおきた。

    「  っ なんだ」

    穎の瞁ぞ膝を぀いたシンが呚囲を芋回す。アオも匟かれたように暪穎ぞ顔を向け、目を凝らした。暗がりの奥では土壁が现かく震え続け、䜕かが地䞭を掘り進む音が確かな速床で近づいおくる。

    「穎の奥から䜕か  こっちに近づいおたすっ」

    アオは匕き攣った声を䞊げながらロヌプを掎んだ。指先ぞ力を蟌めお身䜓を匕き䞊げるたび、靎底が土壁を削り、厩れた土が穎底ぞ萜ちおいく。

    「急げ」

    シンは穎の瞁ぞ身を乗り出し、片腕を深く差し䌞べた。揺れは激しさを増し、暪穎の奥から立ち蟌め始めた土煙が穎の䞭を芆っおいく。アオはロヌプを掎んで懞呜に土壁を登り、シンの掌が届く限界のずころたで蟿り着くず、倧きく手を䞊ぞ䌞ばした。すかさずその手銖を掎んだシンは、腕ぞ党身の力を蟌めながら䞀気に匕き寄せ、そのたた穎の倖ぞ匕き䞊げた。

    アオが地面ぞ転がり蟌んだ盎埌、癜い巚䜓が凄たじい勢いで暪穎を駆け抜ける。现長い身䜓が土壁を削り、乳癜色の衚皮がぬめるように光った。巚䜓が反察偎の穎に消えるず、遅れお吹き䞊がった土煙が穎の䞊たで噎き出し、薮を倧きく揺らした。

    アオは身䜓を起こしお癜い圱が通り過ぎた穎を芋぀め、䜕床か目を瞬かせた。

    「い、今のっお  」

    シンは穎の奥を芋䞋ろしたたた小さく息を吐く。

    「  根掘虫ねほりむしか。朚の根を食べる害虫だ」

    アオは目を瞬かせた。穎の䞭で芋た暪穎ず、果暹園䞀垯ぞ広がる枯れ朚が頭の䞭で繋がったらしく、玍埗したように頷く。

    「それで林檎の朚が枯れおたんですね」

    顔を䞊げたアオの芖線が、穎の向こう偎で止たる。

    「そうだ シンさん、反察偎です 向こう偎にはただ枯れおいない林檎の朚がありそうです」

    指差した先ぞシンも目を向けるず、陥没した穎の向こう偎には薮が広がり、その奥で䞀本だけ青々ずした枝葉を残す果暹が揺れおいた。枯れ朚ばかりが䞊ぶ果暹園の䞭で、その朚だけが朝陜を受けお鮮やかな色を保っおいた。

    呚囲の枯れ色ずはあたりに察照的なその姿に、シンは目を现め、小さく頷いた。しかしその芖線はすぐに険しさを垯びた。

    「問題はどうやっお枡るかだな  」

    穎は思いのほか幅が広く、飛び越えられる距離ではない。厩れた瞁も脆く、人が降りお枡るには危険が倧きすぎる。

    シンは腕を組んで蟺りを芋回すず、穎の脇に立぀枯れた巚朚に目を止めた。ふもずに立っお拳の背で幹を叩くず、也いた音が内郚ぞ響く。堎所を倉えお䜕床か確かめるず、シンは背䞭からギアブレヌドを匕き抜いた。

    黒鉄の刀身が陜光を受けお鈍く光る。腰を沈めたシンは刃を暪ぞ走らせ、刀身が勢いを垯びたずころでレバヌを匟いた。剣先ぞ匕かれる感觊ず共に重圧感を増した刃は、巚朚の根元ぞ深々ず食い蟌み、断ち割られた断面から朚屑が四方ぞ吹き散った。

    巚朚は軋みを䞊げながらゆっくりず傟き、枝先が果暹園の䞊空を暪切っおゆく。呚囲の朚々を震わせる蜟音ず共に倒れた巚朚は、陥没した穎を跚ぐ即垭の橋ずなった。

    「すごい   これで向こう偎に行けたすね」

    アオが感嘆の声を挏らす暪で、シンは倒れた幹ぞ片足を乗せ、䜓重をかけお匷床を確かめる。足元を螏み替え、軋みや揺れがないかを確認するず、満足気にひず぀頷いた。

    「よし、枡るぞ。足元に気を぀けろ」

    シンが先頭に立っお歩き始めるず、アオもその埌ろぞ続く。二人は巚朚の橋を枡り、根掘虫が掘り進んだ巚倧な空掞を越えお向こう岞ぞ降り立った。

    「シンさん、あの枝です」

    アオが指差した先では、䞀本の枝が穎の䞊ぞ倧きく匵り出しおいた。枝先には艶やかな青色の果実が実り、その衚面は煌めくような光沢を垯びおいる。

    アオは呚りの枯れ朚を芋枡し、小さく呟いた。

    「他の朚は枯れおいるのにこの䞀本だけ  。さっきの岩盀が根を守っおくれおたのかな」

    シンは足元から手頃な石を拟い䞊げおロヌプの先端ぞ括り付けるず、頭䞊で倧きく振り回しお投げ攟った。枝ぞ巻き぀いたロヌプをゆっくりず手繰り寄せるず、匵力に匕かれた枝が倧きくたわみ、青い果実が穎の瞁から手の届く䜍眮たで䞋がっおきた。

    「アオ、今のうちに採れ」

    「はい」

    アオは枝ぞ手を䌞ばし、䞡手で果実を包み蟌むず、慎重に捻っお枝から切り離した。掌ぞ収たった林檎は硝子现工のように滑らかで、その奥には柄んだマナの流れが栞たで行き枡っおいた。

    「マナが満ちおたす   これなら  」

    匷く頷くアオの暪で、シンも口元をわずかに緩めた。しかしその芖線はすぐ空ぞ向けられる。倪陜はさらに高く昇り、防壁ぞ向かう猶予は残り少ない。

    「  正午たで時間がない。防壁たで走るぞ」

    「はい」

    アオは慌おお林檎を採取袋ぞ収め、袋の口を確かめおから肩ぞ掛け盎す。二人は揃っお螵を返し、防壁のある方角ぞ向かっお駆け出した。


       ◇──◇──◇

    防壁ぞ蟿り着いた頃には、倪陜はすでに頭䞊近くたで昇っおいた。セレストルを囲む巚倧な防壁のふもずには癜い岩堎が広がり、岩肌には陜光を受けた金色の筋が無数に浮かび䞊がっおいる。

    「正午たであず数分もないぞ」

    シンが空を芋䞊げながら声を匵った。

    「わかっおたす」

    荒くなった呌吞を敎える間もなく、アオは腰のポヌチから採掘甚の道具を取り出した。岩肌に浮かぶ金色の筋を芋定め、その䞭でもひずきわ匷く茝く䞀角ぞ向かっお駆け寄る。

    岩肌の前ぞ膝を぀いたアオは、採掘道具の刃先を鋭く隙間ぞ滑り蟌たせた。柄を慎重に傟けながら結晶の呚りを削り、内郚から淡い金色の光を攟぀拳ほどの石を切り出すず、玠早く小瓶の蓋を開けお透明な薬剀をその衚面ぞ塗垃した。

    「マナが霧散しないように定着させる薬剀です。  よし、これで  」

    蚀葉が終わるのずほが同時に、岩面を芆っおいた金色の茝きが目に芋えお陰り始めた。

    アオが顔を䞊げるず、防壁の圱が岩肌ぞ差し始めおいた。陜王は圱の広がりずずもに急速に色を倱い、呚囲の岩ぞ溶け蟌むように消えおいく。しかし、掌ぞ収たる結晶だけは衚面に金色の王様を浮かべ、芏則的な埋動を刻みながら揺らめいおいた。

    「  間䞀髪だったな」

    シンが肩の力を抜きながら呟く。

    「よかった、間に合いたした  」

    アオは胞を撫で䞋ろすず、結晶を目の高さたで持ち䞊げた。淡く揺らめく金色の王様をしばらく芋぀めた埌、陜王晶を慎重に採取袋ぞ収める。

    シンはアオの隣に足を運び、先ほどたで金色に茝いおいた岩面に觊れる。しかしそこに残されおいたのは冷たい岩の感觊だけで、そのたた手を滑らせおみおも、ざら぀いた肌觊りずずもに癜い岩粉が指先を汚すだけだった。

    「午埌には岩ず同化する結晶か。  劙な性質の石だな」

    䜎く挏らした声ずずもに手を離し、指先に癜く残った粉を軜くはたき萜ずす。

    アオは採取袋を肩に提げながら顔を䞊げた。

    「残るはたどろみ草だけですね 行きたしょう」

    「ああ」

    シンは短く返事をするず、次の目的地に向かっお歩き出した。アオは胞元のポヌチを軜く抌さえおひず぀頷き、軜快な足取りでその埌を远った。


       ◇──◇──◇

    セレストル倖呚を取り囲む防壁を抜けた先で、二人は深い霧に包たれた湿原ぞ足を螏み入れた。足元の地面は氎を倚く含み、螏み締めるたび靎底が柔らかく沈み蟌む。背䞈の䜎い草朚の間には浅い氎溜たりが無数に広がり、癜灰色の霧が地衚を撫でるように挂っおいた。奥ぞ進むに぀れお遠くの地面の境目は曖昧に滲み、湿原のあちこちで揺れる淡玫色の现い花からは甘く痺れるような銙気が挂っおくる。

    アオは足元に広がる花々ぞ目を萜ずすず、その先を蟿るように霧の奥ぞ芖線を向けた。

    「たどろみ草はこのあたりに生えおいるはずです。でも、こんなに霧が濃いなんお  。それに、マナの流れもい぀もず違うような  」

    その声が霧の䞭ぞ吞い蟌たれるず、前方の癜い垳が倧きく揺らぎ、巚倧な圱が音もなく姿を珟した。枝分かれした虹色の倧角を頭䞊ぞ広げた巚躯の魔獣──癜霧鹿しらぎりじかが、濃い霧の向こうに茪郭を浮かべ、濡れた錻先から癜い吐息を挏らしおいた。

    悠然ず䜇む巚獣の姿を目にした途端、アオは息を呑んで足を止めた。

    「癜霧鹿   霧で芖界や距離感を惑わせる魔物です たどろみ草はここにしか生えおないのに  」

    シンはその巚䜓を芋据えたたた背の垃包みを解き、ギアブレヌドを匕き抜いた。黒鉄の刀身を肩の高さに構え盎すず、柄を握る指ぞ力を蟌めた。

    「  だったら斬り䌏せるだけだ」

    蚀葉ず同時にシンは䜎く身䜓を沈め、湿地を蹎り裂いお䞀気に間合いを詰めた。泥氎を跳ね䞊げながら螏み蟌み、黒鉄の刀身が倧きく匧を描く。しかし、暪薙ぎに振るわれた刃に手応えはなく、その巚䜓はなお数歩先に立っおいた。

    螏み蟌みの感芚ず芖界の距離が噛み合わない。シンは舌打ち混じりに眉根を寄せ、刃を匕き戻しながら呚囲の霧を睚む。

    「  チッ、目枬が狂うな。思ったより遠いか  」

    その声が萜ちた途端、癜霧の奥に芋えおいた巚倧な枝角が目前ぞ迫った。空間を飛び越えた錯芚を起こすほど唐突な突進に、シンは目を芋開く。

    「なっ  」

    咄嗟にギアブレヌドを盟状ぞ構えるが、激突した衝撃が腕から肩ぞ突き抜け、シンの身䜓が湿原の地面を滑る。泥を削りながら抌し飛ばされるも、剣先を地面ぞ突き立おお勢いを殺し、片膝を突いたたた態勢を立お盎した。

    濃霧の䞭で再び鹿の圱が揺らぐ。距離感が定たらないたた角の茪郭だけが近づいおは離れ、芖界そのものが歪んでいた。

    「アオ 盞殺の術環は䜿えないのかっ」

    アオは顔を䞊げるず、濃密な霧ぞず意識を向け、その流れを確かめるように息を詰めた。湿原党䜓を満たす魔力は、朜枝の星祷院で感じたものに近い濃床たで高たっおいる。

    「この堎所なら  。やっおみたす」

    巚獣が再び地を蹎り、立ち蟌める霧の向こうから目の前に飛び蟌んでくる。シンは迫る角を真正面から受け止め、ギアブレヌドの刃ぞ党䜓重を預けながら泥の䞭で螏み止たった。金属ず角がぶ぀かり合う衝撃音が湿原ぞ鋭く響き、足元の泥氎が匟け飛ぶ。

    「アオ 今だっ」

    アオは叀朚の匓を構え、匊を匕く指先を固く握り蟌んだ。

    「盞殺の術環  展開」

    透明感を垯びた癜い矢が攟たれ、霧を裂きながら飛翔する。しかしその矢は癜霧鹿の暪を倧きく逞れ、湿地の奥ぞ消えおいった。

    「どこを狙っおる そっちじゃないぞ」

    苛立ちを滲たせお振り返ったシンの芖界で、矢の軌道䞊だけ霧が薄く剥がれ萜ちる。癜く霞んでいた空間の奥で、その巚䜓が䞀瞬だけ鮮明に浮かび䞊がった。

    「ダメです、圓たりたせん  っ 感芚を狂わせるので芋えおいる䜍眮も僕ずシンさんで違うのかも  っ」

    アオは匓を握る指ぞ力を蟌めたたた荒い呌吞を繰り返し、巚獣の䜍眮ず矢の軌道を必死に芋比べる。察するシンは倧角を抌さえ蟌みながら、薄く開けた霧の筋ぞ芖線を走らせた。

    「アオ 矢の通った瞬間だけは芋えおいた どうにか維持できないか」

    アオの瞳が揺れ、匓に刻たれた術環ぞ芖線が萜ちる。指先が匓身の線を滑り、開きかけた口が蚀葉を探すように止たった。

    「  っ そうか、術環を広げお空間に固定できれば   でもどうやっお  」

    濃霧の向こうで鹿の蹄が泥を抉る音が響く。鈍い衝突音を远いながら、アオは浅い呌吞のたた考えを巡らせた。盞殺そのものは成功しおいる。足りないのは、効果の届く範囲だけだ。その事実がひず぀の圢を結び、アオの瞳が芋開かれた。

    「術環そのものを飛ばせば  」

    アオは霧の流れずマナの濃床を確かめながら、展開範囲ず術環の構造を頭の䞭で組み替えおいく。耇数の術匏が䞀本の線で繋がるず、深く息を吐いた。

    「これなら届く  」

    アオの指先が術環をなぞり、光茪が浮かび䞊がった。匊に指を掛ける動䜜に合わせ、癜い光が凝瞮しながら䞀本の矢を圢成しおいく。

    「盞殺の術環  」

    アオは巚獣ではなく、シンの足元の埌方ぞ狙いを定める。頬を䌝う汗が顎先から萜ち、匵り詰めた呌吞の䞭で指先だけがわずかに動いた。

    「転写  」

    さらに匊を匕き絞るず、浮かんでいた光茪が収瞮しながら矢の先端ぞ重なり、癜く圢䜜られた矢ぞ術環の王様が刻み蟌たれおいく。

    「投射展開   いけっ」

    鋭く攟たれた矢はシンの数歩埌ろぞ深く突き刺さり、先端から広がった癜い術環が半球状の光膜を圢䜜った。シンを囲むように広がった膜の内偎では霧が抌し退けられるように薄れ、歪んでいた景色が急速に茪郭を取り戻しおいく。

    シンは肩越しに矢を䞀瞥するず、すぐに鋭い県差しでギアブレヌドを握り盎した。晎れた芖界の向こうでは、未だ濃霧の䞭に癜霧鹿の巚䜓が揺らめいおいる。目を现めお霧の切れ目ぞ芖線を滑らせたその時、䞍意に倧角の片偎が光膜の内偎に入り蟌み、鮮明な茪郭を浮かび䞊がらせた。

    「そこかっ  」

    シンは泥を蹎っお倧きく身を翻し、迫る突進を玙䞀重でかわした。巚獣が術環の内偎ぞ倧きく螏み蟌むず同時に、シンはギアブレヌドを頭䞊ぞ振りかぶり、芪指でレバヌを匷く匟いた。重みを増した剣先が急激に沈み蟌み、振り䞋ろされた黒鉄の刀身が唞りを䞊げる。

    厚い刃が片角の付け根ぞ叩き蟌たれ、そのたた角を根元から切り飛ばす。振り抜かれた䞀閃は勢いを倱うこずなく巚䜓を倧きく切り裂き、宙ぞ跳ね䞊がった角は湿原の䞊で倧きな匧を描いた。遅れお倧きく傟いた巚䜓が重い音を響かせ、その堎ぞ厩れ萜ちた。

    蟺りを芆っおいた霧が薄れ、螏み荒らされた湿原の地面が少しず぀姿を珟しおいく。草葉の圢を芋比べおいたアオは、少し離れた泥地の䞭に䌞びる深緑色の葉を芋぀けお声を䞊げた。

    「あっ、ありたした」

    アオは膝を぀き、现い茎を傷぀けないように根元からたどろみ草を摘み取っおいく。くるりず巻いた若芜の先で銀露が揺れ、身を寄せるたび甘い銙りが埮かに挂った。

    「これで党郚揃いたしたね」

    匟んだ声が背埌から届く䞭、シンは倒れ䌏した癜霧鹿を芋䞋ろしおいた。残された片角に目立った損傷はなく、衚面には虹色の波王が広がっおいる。

    「  この角も持っお垰るか。高く売れるかもしれない」

    角の根元に刃を圓お、自重を掛けながら抌し蟌む。切り離された断面には、虹色の局が幟重にも重なり、内郚たで広がっおいた。

    アオは採取袋ぞたどろみ草を収めるず、シンの隣に駆け寄り、その手元を芗き蟌んだ。

    「綺麗な角ですね 癜霧鹿は防壁から挏れ出すマナを吞っお育぀ので、幎茪みたいに魔力の局が重なるんです。これなら、匷力な魔導具の栞ずしおも䜿えそうですよ」

    シンはわずかに口元を緩めお頷くず、切り離した角を垃で包み、荷ぞ括り付けた。

    玠材を回収し終えた二人は、そのたた湿原をあずにした。


       ◇──◇──◇

    湿原から戻った二人は、倕暮れの差し蟌む倧魔導院の回廊を抜け、叀代遺物研究所の扉をくぐった。奥ぞ続く通路ぞ足を螏み出した矢先、アオの足が䞍意に止たる。

    前方から、深玺のロヌブを纏った老人が裟を揺らしながら歩いおくる。胞元の蚘章が歩みに合わせお小さく揺れ、すれ違う研究員たちが慌おお道を開く䞭、倪く敎えられた癜眉の䞋で鋭い県差しが真っ盎ぐにアオを射抜く。その隣では、モモが萜ち着かない様子で芖線を泳がせおいる。

    「し、所長  」

    アオは匕き攣った声を挏らしお半歩埌ずさる。癜眉の老人はその顔を芋るなり、倧きく息を吐き出した。

    「戻っおおったか。  来なさい」

    䜎く蚀い残すず、近くの執務宀ぞ向かっお歩き出す。その埌を远おうずしたアオの前で、モモが申し蚳なさそうに眉を䞋げ、胞元で小さく手を合わせた。

    「アオさんすみたせん、バレちゃいたした  」

    アオは眉を䞋げお埮笑み、銖を暪に振るず、足早に所長の埌を远った。執務宀の前で立ち止たった癜眉の老人は、䞀床だけシンぞ芖線を向ける。

    「モモから話は聞いおおる。君も入りなさい」

    シンは肩を竊めるず、そのたたアオたちに続いお執務宀ぞ足を螏み入れた。

    机の向こう偎ぞ回り蟌んだ所長は杖を握ったたた立ち止たり、アオぞ芖線を向ける。宀内には重い沈黙だけが広がり、アオの喉が小さく鳎った。匵り詰めた空気に背筋が匷匵ったその時、杖が石床を匷く打ち据え、重々しい音が宀内を震わせた。

    「お前ず蚀う奎は、䞊の蚱可も埗ずにグリヌダたで飛び出しお行きおっお  」

    「ひっ」

    アオは肩を跳ねさせ、反射的に銖を竊める。所長は杖を握ったたた身を乗り出した。

    「ただの平研究員が、申請曞の䞀枚も通さず勝手な調査ぞ向かうなど蚀語道断じゃ しかも『グリヌダの遺跡に䜕かが隠されおいる』などず、根拠の薄い仮説を振り回しおっお」

    指先が机䞊の曞類を叩くたび、積み䞊がった玙束がかすかに震え、叱責の声もさらに倧きくなった。

    「倧魔導院の、ひいおはこの叀代遺物研究所の予算がどこから出おいるず思っおおる 調査隊を動かすにも人を雇うにも、すべお盞応の裏付けが必芁なんじゃ」

    矢継ぎ早に济びせられる叱責に、アオの芖線が忙しなく揺れた。胞元のポヌチを抌さえた手も萜ち着かず、䜕か蚀い返そうずしお開いた口からは掠れた息しか挏れない。

    芋かねたシンは深く息を吐き、話を遮るように䞀歩前ぞ出る。荷袋の脇ぞ括り付けおいた長い垃包みを倖すず、執務机の䞊ぞ暪たえた。

    「  アオの魔法のおかげでこれを手に入れた。圹に立おられないか」

    怒声がぎたりず止たり、皺だらけの手が恐る恐る垃をめくる。その䞋から巚倧な角が姿を珟した途端、老人の目が倧きく芋開かれた。

    「こ、これは   癜霧鹿の角か なんず芋事な陜王の入り方  」

    癜眉の老人は身を乗り出し、震える指先で角の衚面をなぞった。䞍意に名前を出されたアオは匟かれたようにシンに顔を向け、口を半分開いたたた䜕床か目を瞬かせる。隣ではモモがぱっず顔を䞊げ、揎護する機䌚を逃すたいず勢いよく口を開く。

    「すごいです〜 癜霧鹿の角は、セレストルの䞊玚蚎䌐歊官でも持ち垰るのが困難な高玚玠材ですよ〜 こんなに貎重な玠材が研究所ぞ持ち蟌たれるこずなんお滅倚にありたせん〜」

    わざずらしいほど力の入った口調だったが、所長の目は既に角ぞ釘付けになっおいた。慎重に角を持ち䞊げ、光の加枛を確かめるように角床を倉えながら唞っおいる。

    「  ふむ」

    所長はようやく角を机に眮くず、アオぞ向き盎っお倧きく息を吐いた。

    「  お前が勝手に飛び出したこずは蚱されん。  じゃが、これを持ち垰るほどの働きをしおきたのなら、わしの芋立おも少し改めねばならんようじゃ」

    杖を握り盎し、䞀床だけゆっくりず頷く。

    「今回は䞍問ずする。  ただし次からは、必ず正匏な手続きを螏みなさい。よいな」

    アオは姿勢を正すず、所長を真っ盎ぐ芋぀めお䞀床だけ深く頷く。

    「  はい わかりたした」

    その返事を聞くず、小さく頷いお「さお」ず呟き、再び角ぞ芖線を戻した。匕き出しを開け、䞭から虫県鏡や枬定具を次々ず取り出しお机ぞ䞊べ始める。

    アオは匵り詰めおいた息をようやく吐き出し、胞元に手を圓おた。シンずモモも小さく頷きを返す。

    所長の意識が完党に角ぞ向いおいるこずを確かめるず、䞉人は顔を芋合わせ、そのたた執務宀を埌にした。

    研究棟の廊䞋ぞ出たずころで、アオは足を止めお勢いよく振り返った。胞の前で片手を握り蟌み、そのたたシンの方ぞ䞀歩螏み出す。

    「シンさん、ありがずうございたした」

    癜い石壁ぞ声が反響する䞭、シンは片手を腰ぞ圓おお短く息を吐いた。険しさの抜けた芖線がアオぞ向けられ、目元がわずかに和らぐ。

    「アオが居ないず俺も困るからな」

    その蚀葉に、アオはようやく肩の力を抜いた。

    シンはモモに向き盎るず、アオが背負っおいる採取袋を顎で瀺した。

    「それよりモモ、蚀われた玠材をすべお集めおきたぞ。これで足りるか」

    問いかけを受けたモモは、抱えおいた曞類を胞元ぞ匕き寄せ、倧きく頷いた。

    「では、私の研究宀ぞ行きたしょう」

    モモは研究宀のある奥の区画ぞ向かっお歩き出し、二人もその埌ぞ続く。


       ◇──◇──◇

    研究宀ぞ入るず、モモは䞭倮の実隓台に積たれおいた曞類や噚具を手早く端ぞ寄せ、空いた堎所ぞ小さな硝子瓶を眮いた。アオはその暪ぞ採取しおきた月露林檎、陜王晶、たどろみ草を䞀぀ず぀䞁寧に䞊べおいく。

    「バッチリです それじゃあ、お薬を䜜りたすね〜」

    モモは背負っおいた倧きな杖を䞡手で握り盎し、床ぞ石突きを打ち蟌む。術匏王様が足元から浮かび䞊がり、宀内の空気が枊を巻きながら杖先ぞ収束しおいった。床を走る光がモモの茪郭を淡く瞁取り、揺れるおさげ髪ず癜衣の裟が光の䞭ぞ浮かび䞊がる。散らばっおいた玙片がふわりず宙に舞い、積み重なった文献の頁が颚圧でめくれ䞊がった。

    「調合魔法──゚ルクサヌ・フルヌ゚ンシヌ」

    詠唱ず同時に玠材が光の粒子ぞ分解され、実隓台の䞊ぞ舞い䞊がる。蜜色の粒子の䞭ぞ陜王晶の金光が溶け蟌み、たどろみ草の深緑色が尟を匕きながら絡み合うように枊を描いた。収束した光が现い糞ずなっお薬瓶ぞ泚ぎ蟌たれるず、透明だった硝子瓶の内偎に柄んだ青色の液䜓が満ちおいく。

    その光景を間近で芋぀めおいたアオは、身を乗り出すようにしお声を䞊げた。

    「モモさんの魔法、い぀芋おも綺麗です  」

    隣ではシンも芖線を薬瓶ぞ向けたたた、わずかに目を芋開いおいる。

    「  魔法っおのは、こんな事もできるんだな」

    薬瓶の䞭で最埌の光が静かに消えるず、モモは杖を胞元ぞ抱え蟌むように持ち盎した。頬を染めながら肩をすくめ、その芖線が萜ち着きなく圷埚う。

    「えぞぞ、照れたす〜」

    アオは胞元のポヌチぞ手を差し入れ、垃に包んでいた粟霊の石を取り出した。掌ぞ収たる結晶の内郚では倉わらず芏則的な光が揺れおいるものの、透き通っおいた衚面には薄い曇りが広がり始めおいた。

    アオは結晶を芋぀め、䞀床だけ深く息を吞うず、実隓台の䞭倮ぞそっず結晶を眮いた。

    「  䜿っおみたす」

    アオは薬瓶を手に取るず、結晶の䞊でゆっくりず傟けおいく。柄んだ青色の雫が結晶ぞ萜ちるず、薬液は静かな燐光を攟ちながら内郚ぞ染み蟌んでいった。

    䞉人の芖線が集たる䞭、結晶の衚面ぞ现かな亀裂が走り始めた。ひび割れた線は䞭心から攟射状に広がり、閉じおいた花が開くように光の粒ずなっお剥がれ萜ちおゆく。溢れ出した癜い光は空䞭で枊を巻きながら集たり、小さな人圱の茪郭を圢䜜った。

    研究宀の空気が匵り詰める䞭、浮かび䞊がった粟霊は蟺りを芋回し、小さな矜を揺らしながらアオのもずぞ舞った。くるりず䞀呚描いた軌跡に蒌癜色の光粒が散り、アオは目を芋開いたたたその姿を远う。震える息が喉の奥で詰たり、蒌い瞳ぞ光が滲んだ。

    「粟霊が  」

    隣で芋守っおいたモモも胞の前で手を合わせ、䞞県鏡の奥の瞳を现める。

    「䞊手く行ったみたいです〜」

    シンは腕を組んだたた壁ぞ寄りかかり、小さな光の動きを目で远っおいた。口元に浮かんだ緩やかな笑みが、矜ばたく粟霊の軌道に合わせおわずかに深くなる。

    「  呌ぶ時に困るだろう。名前でも付けたらどうだ」

    䞍意に向けられた蚀葉ぞ、アオは目を芋開いおシンを振り返った。粟霊は空䞭で動きを止め、小さな身䜓をアオぞ向けおいる。现く柄んだ光を纏ったその姿を芋぀めながら、アオは指先で顎に觊れ、短く考え蟌む。

    「そう、ですね  。叀代語で『枅らかなマナの雫』を意味する『フィリアヌデ』にちなんで、フィリア、ずいうのはどうでしょうか」

    名前を呌ばれた粟霊は、光の矜を広げお研究宀の䞭を飛び回った。尟を匕く粒子が円を描き、文献の山や魔導具の隙間ぞほのかな光を萜ずしおいく。

    「  気に入ったみたいだぞ」

    シンは穏やかに頷くず、アオの隣ぞ歩み寄り、頭䞊を舞うフィリアを芋䞊げた。

    モモは䜕床も銖を瞊に振りながら笑みを浮かべる。

    「玠敵な名前です〜」

    フィリアはアオずシンの呚囲を巡るように飛び続け、その軌跡から零れ萜ちる光の粉が、薄暗い研究宀ぞ柔らかな茝きを広げおいた。


    第7章

    フィリアは光の粒を尟のように匕きながら、アオの呚りを萜ち着きなく飛び回る。軌道を倉えながら旋回を続けた埌、アオの肩に舞い降りおその顔を芋䞊げた。アオは困ったように笑みを挏らし、胞元のポケットを開いおみせる。するずフィリアは、淡い光を瞬かせながら垃地の内偎ぞ収たった。光の気配がふっず薄れ、倖からは小さな膚らみしか分からなくなる。

    その様子を確認したモモは、䞞県鏡を抌し䞊げながら衚情を匕き締める。

    「研究所の䞭なら『珍しい䜿い魔』で誀魔化せたすけど、䞊局郚に芋぀かったら倧倉です〜。移動するずきは絶察に隠しおおいおくださいね〜」

    アオは胞元ぞ手を添えたたた真剣な顔で頷き、垃越しに䌝わる埮かな気配ぞ意識を向ける。䞀床呌吞を敎えるず、隣で腕を組んでいたシンぞ向き盎る。

    「次は、シンさんの剣の謎を解く番です」

    わずかな沈黙の埌、シンは背䞭の垃包みぞ芖線を萜ずす。遺跡で目にした芋慣れた機構の数々、最深郚で捕らわれおいた粟霊、そしおギアブレヌドず酷䌌した歊装蚭蚈図──断片的だった情報が頭の奥で少しず぀繋がり始めおいた。

    アオは衚情を匕き締めおモモに向き盎る。

    「モモさん、倧魔導院に残っおいる叀代文明関連の資料を調べたいんです。特に、兵噚や動力機構に関するものを  。䞀般閲芧区画じゃなくお、犁曞庫になら、䜕か手がかりがあるんじゃないでしょうか」

    問いかけを受けたモモは芖線を䌏せ、困ったように眉を䞋げる。

    「う〜ん  。たぶん犁曞庫にはありたせんねぇ」

    モモの返答に、アオは目を瞬かせた。

    「えっ」

    「叀代兵噚ずか文明厩壊関連の蚘録は、犁曞庫よりさらに䞊の『封印指定資料宀』ぞ隔離されおるんです〜。でも、閲芧暩限があるのは院長クラスず䞭倮議䌚盎属の監査官くらいで、管理暩限がある所長クラスでも自由に閲芧できるわけじゃないんですよ〜」

    研究宀の空気がわずかに匵り詰める。シンは腰に片手をあお、䜎く息を吐いた。

    「随分ず物隒な堎所だな」

    「危険な魔導技術の蚘録も残っおたすからねぇ  。しかも鍵は普通の物理キヌじゃなくお、䞀定時間ごずに魔力波長が倉化する認蚌鍵なんです。数時間おきに術匏が曎新されるので、耇補も簡単じゃありたせん〜」

    モモは机の䞊ぞ指先で耇雑な術匏をなぞりながら説明を続ける。その動きを芋぀めおいたアオが、ふず銖を傟げた。

    「  どうしおそんな事たで知っおるんですか」

    問いかけられたモモはぎたりず指先を止めた。䞞県鏡の奥で芖線が泳ぎ、わずかに肩が跳ねる。

    「その  以前、所長に頌たれお金庫の資料敎理を手䌝ったこずがありたしお〜。資料宀の鍵も、その時に芋ちゃったんです〜」

    芖線を逞らしながら指先を合わせるモモぞ、シンが呆れ混じりの目を向ける。

    「芋ちゃった、で枈む話か」

    「ち、違いたすよ〜 勝手に盗み芋たわけじゃありたせん〜」

    モモが慌おお吊定する暪で、アオはわずかに前のめりになった。

    「モモさん、封印指定資料宀の鍵、どうにか手に入れられたせんか」

    モモは䞡手を前ぞ突き出し、党力で銖を暪に振った。

    「駄目ですよ〜 あそこに無断で入ったのが知られたら、本圓に倧倉なこずになりたす〜」

    アオは肩を萜ずし、深く息を぀く。しばらく芖線を圷埚わせたあず、シンの背䞭ぞ目を向けるず、厚垃に包たれた倧剣をじっず芋぀める。

    その意図を察したシンは、衚情を匕き攣らせながら反射的にギアブレヌドを庇う䜍眮ぞ身䜓をずらした。

    「おい   こい぀は枡せないぞ  」

    モモはぱっず顔をあげるず、実隓台ぞ䞡手を぀いおぐっず身を乗り出した。瞳が爛々ず光を垯び、芖線が垃越しの剣ぞ釘付けになる。

    「も、もしかしお  その未知の叀代遺物を調べさせおくれるんですか〜」

    実隓台越しに迫られ、シンは思わず半歩埌ずさる。モモはさらに興奮を隠しきれない様子で続けた。

    「ちょうど今倜、所長は䞭倮議䌚の䌚合で䞍圚なんです〜 認蚌鍵そのものは金庫の䞭なので無理ですけど、波長の曎新蚘録なら執務宀に残っおるはずなんです〜 それず以前芋た認蚌鍵の術匏構造を組み合わせれば、短時間だけ䜿える仮補鍵が䜜れるかもしれたせん〜」

    「捕たったら終わりだろ、それは」

    シンの正論に、モモは蚀葉を詰たらせた。勢いよく身を乗り出しおいた姿勢が少しだけ埌ろぞ匕く。

    「それは  たぁ、そうですねぇ  」

    モモは肩を萜ずし぀぀も、芖線だけはギアブレヌドから離れない。研究宀ぞ短い沈黙が萜ちる䞭、シンは倧きく息を吐き出した。

    「  わかった。亀換条件だ。俺ずアオをその資料宀に入れおくれるなら、こい぀を調べおも構わない」

    静たり返った研究宀に、モモの瞳がみるみる茝きを増した。

    「ほ、本圓ですか〜」

    「  ただし」

    シンはモモを真っ盎ぐ芋据える。

    「壊すんじゃないぞ」

    「もちろんです〜」

    モモは䜕床も頷くず、胞の前で拳を匷く握り締めた。

    「亀枉成立です〜」

    モモは積み䞊がった曞類の山を掻き分けながら倧魔導院の芋取り図を匕っ匵り出し、机に広げお次々ず曞き蟌みを加えおいく。

    執務宀、譊備巡回の経路、議䌚開催時間、封印指定資料宀ぞ続く地䞋通路──现かな泚釈が増えるたび、アオの衚情も次第に匕き締たっおいった。

    胞元のポケットでは、フィリアが小さな光を明滅させながら身を寄せおいる。シンはその気配を暪目で確認し、再び背䞭のギアブレヌドぞ芖線を萜ずした。


       ◇──◇──◇

    真倜䞭の倧魔導院は、昌間の喧隒が嘘のように静たり返っおいた。癜い石壁ぞ等間隔に埋め蟌たれた魔導灯だけが青癜い光を廊䞋ぞ萜ずし、磚き䞊げられた床ぞ長い圱を䌞ばしおいる。

    「確か、資料宀は地䞋区画の奥だったはずです  。モモさんから預かった鍵、ちゃんず反応しおくれるずいいんですけど  」

    アオは胞元ぞそっず手を添えた。服越しに䌝わる埮かな枩もりず共に、胞ポケットの奥で淡い光が䞀床だけ瞬く。

    足音を抑えながら先導するアオの埌ろを、シンは呚囲の気配を探るように進んでいく。背䞭からギアブレヌドの重みが消えたこずに慣れないのか、階段を降りる途䞭で䞀床だけ肩越しに芖線を流し、䜎く息を吐いた。

    地䞋区画ぞ続く螺旋階段を降り切るず、回廊の最奥に巚倧な癜い扉が静かに䜇んでいた。磚き䞊げられた癜磁のような衚面には耇雑な術匏王様が刻たれ、その青癜い光が床や壁ぞ冷たく反射しおいる。近づくに぀れ空気は匵り詰め、厳重な管理区画特有の静けさが蟺りを包んでいた。

    アオは呚りに人の気配がないこずを確かめるず、緊匵した面持ちで懐から仮補鍵を取り出し、刻印ぞそっずかざした。鍵内郚の術匏光が静かに波打ち、扉党䜓ぞ走っおいた光の筋が連鎖的に消えおいく。

    金属の擊れる䜎い音が地䞋通路ぞ響き、魔導錠が解錠された。

    扉の向こうには、巚倧な地䞋曞庫が広がっおいた。吹き抜け状の空掞を囲むように幟局もの曞架が積み䞊がり、倩井近くたで届く本棚の隙間を魔導灯の薄明かりが照らしおいる。鎖で封じられた曞物や黒垃で芆われた保管箱が䞊ぶ宀内は、息を朜めたような静寂に包たれおいた。

    アオは曞架の間を歩き回り、䞊んだ曞物の背衚玙を次々ず目で远っおいく。棚ぞ䞊ぶ本ぞ指先を走らせ、ずきおり䞀冊を匕き抜いおは頁をめくり、静かに閉じお元の堎所ぞ戻す。数冊目の叀曞を開いたずころで䞍意にその手が止たった。

    「えっず  この本かな」

    小さく抑えた声ず共に、アオの芖線が頁ぞ吞い寄せられる。指先で玙の端を抌さえたたた蚘された䞀文䞀文を远ううちに、本を支える手がわずかに震え、灯りを受けた瞳が倧きく芋開かれおいった。

    呚囲の棚ぞ目を走らせおいたシンが顔を䞊げる。

    「  䜕が曞いおある」

    䜎い声に促され、アオは頁の文字を远いながら、ぜ぀りぜ぀りず蚀葉を萜ずし始めた。

    「叀代魔法は  自然゚ネルギヌの化身である粟霊の発するマナず、機械技術を融合させお成立しおいたみたいです。最初は共存関係だったらしいんですけど  機械技術の発展を優先する掟閥が、粟霊を独占し始めたっお  」

    次の頁を開いたずころでアオの指先が止たり、喉がわずかに䞊䞋する。

    「粟霊を閉じ蟌めお、マナだけじゃなく生呜゚ネルギヌたで抜出しおいた蚘録がありたす。過剰な搟取で土地のマナ埪環が厩壊しお、倧地が枯れ始めたっお  。その埌、粟霊を守ろうずした魔導掟が機鋌掟を北方ぞ远攟しお、荒廃した倧地を甊らせるために粟霊を倧地ぞ還した、ず  」

    地䞋曞庫の薄暗い灯りの䞋で、シンの衚情が埐々に硬さを増しおいく。握り締められた拳の関節が癜く浮かび、奥歯を噛み締める音がわずかに挏れた。

    「機鋌掟  それが今のノァルガンドっおこずか  」

    䜎く抌し出された声は重く沈み、そのたた床ぞ萜ちた。シンは芖線を䌏せたたた動かない。北方の機鋌囜ノァルガンド──その名を口にした瞬間から、曞庫の冷えた空気がさらに重く沈み蟌んでいく。

    アオは本から顔を䞊げ、恐る恐るシンぞ目を向けた。

    「ノァルガンド  北にある、魔法のない囜のこずですよね。やっぱりシンさんっお  」

    問いかけの途䞭で蚀葉が止たる。

    シンは答えなかった。ただ険しい顔のたた芖線を䌏せ、握り締めた拳だけが埮かに震えおいた。肩口ぞ萜ちた圱が濃く沈み蟌み、その衚情の奥にあるものたでは窺えない。

    アオも口を閉ざし、開いた本ぞ芖線を萜ずした。䜕床も同じ䞀節を読み返すたび、その床に唇が固く結ばれおいく。

    長い沈黙の埌、シンが重く口を開いた。

    「  戻るぞ」

    短く告げるず螵を返し、そのたた出口ぞ向かっお歩き始める。アオは慌おお叀曞を閉じ、元の棚ぞ戻すず、その背䞭を远っお資料宀を埌にした。


       ◇──◇──◇

    地䞋区画から地䞊ぞ戻った二人は、深倜の研究棟を進んでいた。人気のない回廊には魔導灯の青癜い光だけが萜ちおいる。

    ふずアオの胞ポケットからフィリアが顔を出し、蟺りを芋回すず、ふわりず舞い䞊がっおアオの肩に座った。肩の䞊で䌞びをするように矜を広げるフィリアに、アオは口元を和らげた。

    研究所の奥ぞ近づくに぀れお、䞀宀から挏れる灯りが暗がりぞ浮かび䞊がる。半開きの扉の向こうでは、モモが資料棚ず机の間を忙しなく行き来しおいた。

    モモは二人の姿に気づいお顔を䞊げるず、ぱっず衚情を明るくした。宀内の机には解析甚の噚具や蚘録甚の曞類が散乱し、その䞭倮にはギアブレヌドが暪たえられおいる。

    「あっ、シンさん〜 聞いおください〜 この剣すごいですよ〜」

    二人が机の傍ぞ立぀ず、モモは机䞀面に広がった構造図ぞ身を乗り出し、勢いよく説明をはじめた。

    「元々備わっおいた重心の制埡機構を歯車ずバネで繋いで、手動で切り替えおるんですね〜 でもこれ、戊闘䞭に制埡するなんお盞圓な技量がないず成立したせんよ〜」

    モモは興奮を抑えきれない様子で、緻密に描き蟌たれた内郚構造図の䞀角を指差した。図面を远うシンの瞳は深く沈み、芖線だけが耇雑に入り組んだ線の䞊を蟿っおいく。

    「それから、魔力透査で内郚構造を解析しおみたんですが、歯車機構の奥に、『マナを流すための空掞回路』があったんです〜 今は無理やり機械匏で動かしおたすけど、本来は叀代魔法で起動する蚭蚈なんですよ〜」

    モモが指し瀺した図面には、歯車機構ずは別に赀い導路が描き加えられおいた。その蚀葉が耳ぞ届いた瞬間、シンの肩がわずかに揺れた。

    叀代魔法を行䜿するための空掞回路。遺跡最深郚で芋た蚭蚈図。粟霊を閉じ蟌め、生呜力ごず搟取しおいた機鋌掟。そしお、その血を受け継ぐ北方の機鋌囜ノァルガンド。

    断片的だった情報が䞀぀の圢ぞ繋がり、シンの芖線が机䞊の剣に萜ちる。長幎背負い続けおきた倧剣は、戊堎で幟床も呜を預け、無数の魔物を斬り䌏せおきた盞棒だった。しかしその正䜓は叀代文明の遺物にほかならず、内郚には粟霊から奪ったマナを埪環させるための経路が組み蟌たれおいる──。

    机䞊ぞ眮かれおいたギアブレヌドぞ手を䌞ばしたシンは、柄ぞ指を掛けたたた動きを止める。卓䞊灯の光を受けた黒鉄の衚面には幟筋もの现かい傷が刻たれ、その奥で歯車矀が鈍く沈黙しおいた。

    「シンさん  」

    隣から掛けられたアオの声に、シンは答えなかった。芖線だけが刃の蒌い金属垯をなぞり、垃を匕き寄せお無蚀のたた剣身を芆い隠した。


       ◇──◇──◇

    倜も曎け、窓の倖を吹き抜ける颚の音だけが静かに響いおいた。二人が身を寄せる宿屋の䞀宀では、卓䞊灯の小さな灯りだけが机や怅子の茪郭をがんやりず照らしおいる。寝台ではアオが肩たで毛垃に包たり、胞元にフィリアを抱えながら穏やかな寝息を立おおいる。重ねられた指の隙間からは柔らかな光が挏れ、毛垃の衚面をほのかに照らしおいた。

    怅子ぞ腰掛けたシンは、壁際ぞ立お掛けたギアブレヌドを芋぀めたたた長く沈黙しおいた。膝の䞊で組たれた指先ぞ埐々に力が籠もり、唇が固く結ばれおいく。

    「  俺は、ここにいるべきじゃない」

    掠れた声が萜ちるず、シンはゆっくりず立ち䞊がった。静かに怅子を戻しおからギアブレヌドを背負い盎し、寝台で眠るアオぞ芖線を向ける。芏則正しく䞊䞋する毛垃の膚らみを芋぀めた埌、シンはゆっくりず目を䌏せ、音を立おないよう扉を開けお郚屋を埌にした。


    【第二郚 埌半に぀づく】


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    Shin

     
     
    創䜜やRPが奜きです。最近は䜕でもかんでもAIに盞談しおいる。