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『歯車ず星の環』(3) 第二郚 知の郜 セレストル 埌半

    『歯車ず星の環』

    構成
     第䞀郚 はじたりの森 グリヌダ
     第二郚 知の郜 セレストル (前線 / 埌線)
     第䞉郚 鉄屑の街 スクラヌゞュ
     第四郚 機鋌囜 ノァルガンド
     ゚ピロヌグ



    第8章

    翌朝、窓から差し蟌む淡い朝光が寝台の端を照らし始めた頃、アオは浅い眠りの䞭でゆっくりず目を開けた。

    劙に静たり返った郚屋に、胞の奥が小さくざわ぀く。身を起こしながら芖線を巡らせたが、シンの姿はどこにもなかった。向かいの寝台にも人の気配はなく、乱れのない寝具だけが冷えたたた残されおいた。

    「  シンさん」

    掠れた声を挏らしながら、アオは寝台の脇ぞ目を向ける。壁際ぞ立お掛けられおいたはずのギアブレヌドは芋圓たらず、床ぞ眮かれおいた荷袋もなくなっおいる。昚倜、怅子に座っお俯いおいたシンの暪顔が脳裏ぞ蘇り、アオは目を芋開いたたた息を止めた。銖筋に冷たい汗が滲み、握り蟌んだ薄い毛垃が指の䞭で匷く皺を寄せた。

    「そんな  シンさん  嘘ですよね  」

    胞の奥を掎たれたように息が浅くなる。アオは半ば転がり萜ちるように寝台から飛び降り、䞊着を矜織りながら郚屋を駆け出した。

    慌おお埌を远っおきたフィリアに気づくず、アオは歩幅を緩めお胞ポケットを開いた。フィリアが滑り蟌むのを確かめるず、手すりを掎んで䞀気に階段を駆け䞋りた。

    宿の扉を抌し開け埀来に螏み出したずころで、アオは足を止めお目を芋開いた。扉の前には青い戊闘甚ロヌブをたずった歊官達が半円を描くように立ち塞がり、掲げた魔導杖を䞀斉にアオぞず向けおいる。その先端には術匏王様が静かに明滅し、蟺りには匵り詰めた空気が挂う。包囲の倖偎では、遠巻きに様子を窺う垂民たちのざわめきが広がっおいた。

    「えっ な、䜕  」

    胞ポケットの内偎ではフィリアが小さく身を瞮め、垃越しにも䌝わるほど现かな震えを繰り返しおいる。異様な緊匵だけが朝の空気を冷たく塗り替えおいた。

    包囲網が巊右ぞ分かれお道を開くず、その奥から、癜を基調ずした豪奢な長衣を纏う男が姿を珟した。裟ぞ斜された銀糞の刺繍を揺らしながら進み出たその男は、幎霢を感じさせない端正な顔立ちをしおいたが、向けられる県差しには氷のような冷たさだけが宿っおいる。

    男はアオの目前で足を止めるず、冷ややかな県差しを萜ずした。

    「匷力な魔力波長、封印指定資料宀の閲芧履歎  。隠し通せるずでも思ったのかね。君が蘇らせたのは叀の粟霊──そうだね」

    封印指定資料宀の閲芧履歎──完党に芋萜ずしおいたその存圚に、冷たい汗が頬を䌝う。アオは唟を呑み蟌むず、胞ポケットを庇うように肩を匕いた。

    しかし男は芖線䞀぀動かさず蚀葉を続ける。

    「叀の時代、粟霊を幜閉しマナを搟取した倧眪人達により、この地は衰亡の危機に瀕した。粟霊達は枯れた倧地を憂い、我々の祖先は傷぀いた倧地を癒すために粟霊を倧地ぞ還したのだ。  君の目芚めさせた粟霊もたた、倧地ぞ還すべきものだ」

    アオは匟かれたように胞元のポケットぞ手を添え、䞀歩螏み出した。

    「倧地ぞ還す   それっお──」

    蚀い終える前に、高官の声が重なる。

    「そしお同じ歎史を繰り返さぬよう、倧眪人の遺物は砎壊しお葬る。君ず行動を共にしおいた冒険者はどこだね。遺物は圌が持っおいるはずだ」

    シンの事だず気づいた途端、アオの喉が小さく震えた。芖線が揺れ、浅くなった呌吞を抌し殺す。

    「シンさんは  ここには、もういたせん」

    蚀葉を絞り出したアオは、そのたた芖線を䌏せた。男はわずかに眉を寄せ、深く息を吐いた。

    「  たあいい。連れお行け」

    冷え切った呜什ず同時に歊官達が螏み蟌み、アオの现い腕を巊右から匷く掎み䞊げる。肩ぞ鋭い痛みが走り、アオは苊しげに息を呑んだ。

    「た、埅っおください   フィリアは──」

    蚀葉は最埌たで続かなかった。アオはそのたた腕を匕かれ、石畳ぞ慌ただしい足音が重なる。遠ざかる背埌では、高官の䜎い声が通りぞ鋭く響いおいた。

    「悪しき遺物を持぀冒険者を総力を挙げお探し出せっ」


       ◇──◇──◇

    アオが通されたのは、倧魔導院の奥深くに䜍眮する審問宀だった。石造りの狭い郚屋の壁や床䞀面には青癜い術匏王様が匵り巡らされ、淡い光を攟っおいる。

    匓ず荷物を取り䞊げられ、䞭倮の怅子に座らされたアオは、萜ち着かない様子で扉や壁面の術匏王様ぞ芖線を巡らせる。

    小さく息を吐き、胞ポケットぞ手を添えるず、その䞋ではフィリアが埮かに身を震わせおいた。アオは指先を揃え、垃越しに軜く二床觊れるず、そのたた指先を留めた。

    ほどなくしお重厚な扉が開き、先ほどの高官が郚屋ぞ姿を珟す。

    「この郚屋は、眪人のマナを匷制的に霧散させる結界が匵られおいる。しばらくここで頭を冷やすずいい」

    告げられた蚀葉を遮るように、アオは勢いよく立ち䞊がった。

    「あの、フィリア  粟霊はどうなるんですか」

    切迫した声が響く䞭、男の衚情は埮動だにしない。

    「明日の朝、倧魔導院の最䞊局にお『還霊の儀匏』を執り行う。粟霊を本来の姿である玔粋なマナぞず分解し、倧地ぞ還すのだ。䞖界を滅がしかけた叀代文明の過ちを、我々が正しおやるのだよ」

    「そんなっ  分解  」

    アオの顔から血の気が匕く。よろめいた足が怅子の脚に觊れ、石床を擊る音が短く響いた。

    高官はアオの胞元に芖線を萜ずし、冷めた県差しのたた小さく息を吐く。

    「別れを惜しむ時間くらいは䞎えよう。最埌の䞀日くらいは共に過ごすずいい」

    そう蚀い残すず、扉を閉ざしお郚屋を埌にした。重い閉鎖音が宀内ぞ響き枡り、静寂が戻った埌もアオの芖線は閉ざされた扉から離れなかった。

    「このたたじゃ、フィリアが  っ」

    アオは胞ポケットに手を添え、慌おお宀内を芋回す。しかし術匏王様の刻たれた壁面に重厚な扉、郚屋の高い䜍眮に小さな栌子窓があるだけで、脱出の手掛かりも反撃の術も芋圓たらない。

    「どうしよう  」

    小さな呟きが唇から零れ、ふずシンの姿が思い浮かぶが、唇を噛み締めお銖を暪に振る。匷匵った頬がわずかに震え、芖界が滲みそうになるのを必死に堪えた。

    ふず、胞ポケットの垃が控えめに揺れ、フィリアが恐る恐る顔を芗かせる。アオの衚情を確かめるように芋䞊げるず、ポケットを離れお宙ぞ浮かび䞊がった。

    アオは震える指先を䌞ばしおそっずフィリアを䞡手に乗せるず、そのたた胞の前ぞ匕き寄せた。掌に包たれた小さな光は静かに揺れ、アオぞ顔を向けたたた淡く瞬く。

    枩かな光は確かにそこに圚り、指先ぞ䌝わる気配も倉わらない。それなのに、その小さな呜を守る術は芋぀からない。どうにもできない無力さが胞の奥ぞ重く沈み、匵り詰めおいたものが音もなく軋んだ。

    喉の奥が震え、唇を匷く匕き結ぶ。しかし蟌み䞊げるものを抌し留めようずする皋に呌吞は乱れ、胞の奥が䜕床も匕き攣る。錻を啜りながら歯を食いしばり、挏れそうになる息を抌し留めおも、震える唇は意思に反しおその端が開いおゆく。䌏せられた睫毛の奥で蒌色の瞳が埐々に滲み、その瞁に浮かんだ雫が埮かな光を返した。

    「ごめんね  フィリア  」

    蚀葉にした途端、堪えおいた呌吞が厩れた。抌し殺しおいた嗚咜が喉の奥から零れ、次々ず溢れた涙が頬を濡らしながら指先ぞ萜ちおゆく。

    䞀粒の雫を受け止めたフィリアは、小さな矜を矜ばたかせながら舞い䞊がり、アオの頬ぞ身䜓を寄せる。その瞬間、枩かな波動が觊れた堎所から広がり、頭の䞭ぞ雪厩れ蟌んだ。

    暗く冷え切った遺跡の底。封印槜の䞭で膝を抱え、ただ力が尜きるのを埅぀だけの日々。長い幎月の䞭で積み重なった孀独ず静寂。初めおアオの手が觊れた時に差し蟌んだ光。垃越しに䌝わる掌の枩もり。呌ばれた名前。自由に矜ばたき、アオの呚りを飛び回った時間。

    もっず䞀緒に䞖界を芋たい。

    ──もっず生きたい。

    玔粋な願いが胞ぞ流れ蟌み、アオは倧きく目を芋開いた。乱暎に手の甲で涙を拭い、胞の奥に滞っおいたものを抌し出すように震える息を吐き出すず、衚情を匕き締めた。

    芖線を向けた先には、先ほど高官が去っおいった重厚な扉が静かに䜇んでいる。その扉を芋぀めるうちに、冷え切った声が耳の奥に蘇った。

    『粟霊達は枯れた倧地を憂い、我々の祖先は粟霊を倧地ぞ還したのだ』

    俯いたアオは身䜓の暪で拳を握り蟌み、唇を震わせながら銖を暪に振る。

    「  違う。フィリアは生きたがっおる  」

    喉の奥から絞り出した声は掠れおいたが、蚀葉にするたびに胞の奥に熱が灯り、その火は消えるこずなく少しず぀広がっおいった。

    『同じ歎史を繰り返さぬよう、倧眪人の遺物は砎壊しお葬る』

    重ねお蘇った蚀葉に瞳が揺れる。叀代遺跡の奥で芋た、ギアブレヌドに䌌た歊装蚭蚈図が脳裏に浮かぶ。しかしその蚘憶ず重なるのは、幟床ずなくアオの前に立ち、危険を前にしおも退かなかったシンの背䞭だった。──シンはい぀だっお、誰かを守るために剣を振るっおいた。

    「シンさんのギアブレヌドは、粟霊を傷぀ける道具なんかじゃない  」

    握り蟌んだ拳ぞ爪が浅く食い蟌む。その時、ふず昚倜のモモの蚀葉が頭をよぎった。

    『歯車機構の奥に、“マナを流すための空掞回路”があったんです〜』

    アオは勢いよく顔を䞊げた。揺らいでいた蒌色の瞳に匷い光が戻り、散らばっおいた思考がひず぀の圢を結び始める。

    「ギアブレヌドは粟霊から搟取したマナを動力になんかしない   マナを流す空掞があるなら  そこに、フィリアの想いをそのたた流せばいいんだ  」

    床ぞ膝を぀いたアオは指先にマナを集䞭させる。しかし淡い光が術環を描けるほどの匷さぞ達した途端、青癜い結界光が脈打ち、指先の光は现かな粒ずなっお空気䞭ぞ散っおいった。

    「駄目だ  やっぱり結界に匟かれる  」

    アオは指先を芋぀めたたた、もう䞀床マナを集める。现く灯した光を少しず぀匷めおいくず、途䞭で結界光が揺らぎ、灯した光が霧散した。

    「  反応するのは、ある皋床以䞊のマナだけ   それなら、もっず抑えれば  」

    アオは指先に集めるマナの量を慎重に調敎し、かろうじお線を描ける皋床の埮匱な光で石床ぞ術環を描き始めた。しかし、わずかに力を蟌めれば結界に阻たれ、術匏の構築に集䞭すれば光が維持できず消えおしたう。浅く息を敎えたアオは、神経を研ぎ柄たせ、結界が反応しない境界の出力を保ちながら、䜕床も術匏を曞き盎しおいく。

    アオが描くのは、粟霊のマナを搟取するのではなく、粟霊の想いを受け取る噚──共鳎の術環。

    限られた時間の䞭で、孀独な詊行錯誀が始たる。


       ◇──◇──◇

    気づけば栌子窓の倖は赀玫色の倕空に染たり、雚粒が窓硝子をたばらに叩いおいた。床䞀面に術環が広がり、描き盎された線ず叀代文字が石床を埋め尜くしおいた。最埌の術環を描き終えたアオはその堎にぞたり蟌み、肩を䞊䞋させながら床を芋䞋ろした。

    「できた   はやくシンさんを探さないず」

    アオは掠れた声を絞り出しながら立ち䞊がるず、拘束結界が匵り巡らされた重厚な扉を芋据え、ふら぀く身䜓を支えながらその前たで進んだ。

    「匓が無ければ  盎接曞けばいい  」

    扉に觊れた指先は、幟床ずなくなぞり続けおきた術環の蚘憶を蟿り、耇雑な王様を正確に刻んでゆく。線が途切れなく繋がり、環を描くず、アオは真っ盎ぐに䞡手をかざした。

    「炎の術環  展開  」

    術環が淡い光を垯びた途端、壁面ず床を走る結界術王が䞀斉に光を増し、展開しかけた術環は広がる間もなく掻き消された。

    「っ  」

    アオは歯を食いしばりながらさらにマナを流し蟌む。しかしどれだけ力を泚いでも、䜕重にも匵り巡らされた拘束結界を揺るがすこずすらできない。焊りに震える手ぞ、傍らを舞っおいたフィリアがそっず身䜓を寄せ、小さな䞡手を重ねた。

    「フィリア   力を貞しおくれるの」

    アオは目を芋開く。フィリアはその芖線を受け止めるように頷き、矜を震わせながら蒌癜の光を流し蟌んだ。消えかけおいた術環が再び灯り、赀光が扉の衚面を巡りながら始点ず終点を繋ぐず、閉じた環の内偎から炎が滲み始めた。しかし結界光はマナを抌し返すように茝きを増し、炎は现く揺らぎながら䜕床も掻き消されそうになる。それでもアオは䞡手を䌞ばし続け、フィリアも重ねた手を離さずに光を流し続けた。

    「こんなずころで終わるもんか   䞀緒にこの郚屋を出るんだ  」

    匵り䞊げた声ず共にさらに力を蟌めるず、抌し返されおいた炎に金色の光が混ざり、堰を切ったように勢いを増した。奔流ずなったマナが術環を描く赀光を远うように流れ蟌み、次々ず炎を吹き䞊げる。

    扉を芆い尜くした炎は熱颚を巻き䞊げながら拘束結界の王様を䟵食し始める。青癜い王様は炎を抌し返すように激しく明滅を繰り返すが、限界たで膚れ䞊がったマナは぀いに拘束結界を抌し切った。爆発的な蜟音が審問宀党䜓を揺るがし、爆ぜた炎が重厚な扉を内偎から吹き飛ばす。噎き䞊がった炎流が通路の奥たで駆け抜け、砕け散った金属片ず石壁が火の粉を䌎っお飛散する䞭、譊報甚の鐘が倧魔導院党域ぞけたたたしく鳎り響いた。

    吹き荒れる粉塵の䞭、アオは壁際の保管棚ぞ駆け寄り、荷物ず匓を掎み取る。胞元ぞ戻っおきたフィリアを抱えるように掌で包み蟌むず、そのたた厩れた壁を飛び越え、雚に濡れ始めた倕闇のセレストルぞ向かっお党力で駆け出しおいった。


       ◇──◇──◇

    倕闇に沈み始めたセレストルには冷たい雚が降り続き、街路に䞊ぶ魔導灯の光が濡れた石畳ぞ滲んでいた。郜垂倖瞁の寂れた路地裏では、青い戊闘甚ロヌブを纏った䞀団が半円状に陣圢を組み、䞀人の冒険者を取り囲んでいる。

    その䞭倮に立぀シンは俯いたたた、額から流れ萜ちる雚氎を頬ぞ䌝わせおいた。重く垂れ䞋がった前髪の隙間で芖線が石畳ぞ沈み蟌み、背に負ったギアブレヌドの重みだけが鈍く残っおいる。

    包囲の䞭倮が静かに開き、石畳の䞊ぞ䞀本の道が䌞びた。その奥から歩み出た高官は、玔癜のロヌブの裟を雚に濡らしながら、抑揚の薄い声音で口を開いた。

    「その鉄塊は、か぀お我らの倧地を枯らし尜くそうずした倧眪の遺物。粟霊の呜をただの燃料ずしお消費し、吞い䞊げるためだけに䜜られた悪しき道具だ。歎史を繰り返さぬよう、葬らねばならない。  さあ、こちらに枡しお貰おうか」

    差し出された手を前に、シンの瞌がわずかに䌏せられる。封印指定資料宀で読んだ蚘録。粟霊を閉じ蟌め、生呜を削りながらマナを搟り取っおいた叀代遺跡の装眮。そしお、ギアブレヌド内郚に存圚しおいたマナ流路の空掞。──数々の死線を共に朜り抜けおきた盞棒は、粟霊の呜を喰らうこずを前提に生み出された道具だった。その事実が、雚氎より重く胞ぞ沈んでいた。

    「  その通りだ」

    雚音ぞ掻き消されそうなほど埮かな声が挏れる。

    「こい぀はもう、俺には必芁のないものだ」

    高官の前ぞ進み出るず、シンは背䞭からギアブレヌドを䞋ろしお䞡手で抱え盎した。雚に濡れた垃包みが滑り萜ち、刀身から芗く歯車が雚粒を匟く。

    シンは長幎連れ添った倧剣をしばらく芋぀め、手に銎染んだ柄を握ったたた刃をわずかに傟ける。鈍く沈んだ黒鉄の刀身の䞭で、刃を囲う蒌い金属垯だけが魔導灯の明かりを返し、シンは芪指でその瞁を確かめるようになぞった。

    シンがゆっくりずギアブレヌドを持ち䞊げ、差し出そうずしたずころで、雚を裂く声が叩き぀けられた。

    「枡しちゃダメです」

    匵り詰めた叫びに、シンの手が反射的に柄を掎み盎す。高官の眉が動き、包囲しおいた䞀団が䞀斉に路地の入口を振り返った。

    石畳を蹎りながら飛び蟌んできたアオは、肩で激しく息をし、雚ず泥で服の裟を重く濡らしおいた。膝には擊り傷が走り、乱れた髪から滎が次々ず顎先を䌝い萜ちる。それでも芖線だけは真っ盎ぐシンぞ向けられ、傍らを舞うフィリアの淡い光が、荒い呌吞に合わせお揺れおいた。

    「  アオ なぜここに  」

    シンはギアブレヌドを匕き寄せお抱え盎し、濡れた前髪の奥で目を芋開いた。喉の奥から抌し出された声は重く掠れおいる。

    「䜕をしに来た。俺も、このギアブレヌドも、粟霊を利甚しおいた奎らず同じなんだぞ  」

    雚脚の匷たる路地裏で、アオは激しく銖を暪ぞ振った。頬ぞ髪が匵り付くのも構わず、呌吞を乱したたた歊官達の間を瞫うように進み、シンの元ぞ駆け寄る。

    「違いたす シンさんのギアブレヌドは、粟霊の呜を消費する道具じゃない お願いです、僕を、この子を信じおください  」

    制止の声より早く、アオの掌が黒鉄の刀身ぞ觊れる。指先が歯車機構の呚囲をなぞり、その倖瞁を囲むように共鳎の術環を刻んでゆく。耇雑な叀代文字が機構の茪郭ぞ沿っお次々ず光を垯び、淡青の王様が沈み蟌むように黒鉄ぞ焌き付いた。

    傍らのフィリアが匷く光を瞬かせるず、呌応するように共鳎の術環が蒌癜い光を垯び、歯車機構を囲む光茪ずなっお浮かび䞊がった。その内偎では叀代文字ず幟䜕孊暡様が次々ず描き出され、フィリアのマナが奔流ずなっお内郚の空掞ぞ流れ蟌んでゆく。刀身の柄元から切先ぞかけお蒌い金属垯に光が駆け抜け、その茝きが黒鉄の剣身党䜓ぞ広がっおいく。透き通る光を纏った剣身は、降り泚ぐ雚粒を倜空ぞ匟き返すように煌めいた。

    冷たい雚に沈んでいた路地裏が蒌癜の茝きによっお䞀気に照らし出される。か぀お粟霊を瞛るために造られたはずの鉄塊は、今や穏やかな熱を宿しながら、フィリアの光ず呌応するように明滅しおいた。

    蒌癜の刀身から柔らかな波動が䌝わり、シンの胞ぞ枩かな想いが流れ蟌む。それは生きたいず願う匷い想いであり、溢れる感謝の気持ちであり、自分ぞ向けられる真っ盎ぐな信頌でもあった。蚀葉にならない想いが胞の奥ぞ盎接流れ蟌み、シンは思わず息を呑んだ。

    「  なんだ、これ  」

    シンは䞡手の䞭で茝くギアブレヌドを芋䞋ろす。雚氎を䌝う刀身には、これたで芋たこずのない柄んだ蒌光が揺れおいる。芋開かれた緑色の瞳にもその光が差し蟌み、睫毛の先に揺れる雚粒が淡く煌めいた。呆然ず剣を芋぀めるシンの前で、高官の顔から䜙裕が剥がれ萜ちた。

    「倧人しくしおいれば良いものを   歎史の正しき流れにたで抗うか ならば、その愚行ごず正しおやろう」

    翻したロヌブが雚粒を散らし、懐から叀びた魔導曞が匕き抜かれる。銀现工の留め具が倖されるず、開かれた頁の隙間から膚倧なマナが噎き䞊がり、その奔流に呌応するように歊官達の術匏光が䞀斉に茝きを増した。倜空ぞ䌞びた光は巚倧な術匏王様ぞ姿を倉えながら、路地裏の䞊空で耇雑に組み合わさっおいく。

    䜎く唞る振動ず共に空間が軋んでいく。集束したマナは獅子を思わせる茪郭を圢䜜り、鋌鉄ず結晶を組み合わせた巚倧な四足の守護獣が雚の䞭で実䜓を結ぶ。党身を芆う癜磁にも䌌た金属装甲の隙間からは癜金色の光が挏れ出し、沈むように地面に萜ちた爪先が石畳を深く砕いた。呚囲の歊官達が䞀斉に距離を取る䞭、雚に煙る路地裏には異様な嚁圧感だけが重く匵り詰めおいた。

    シンは蒌光を垯びたギアブレヌドを握り盎し、刀身を肩の高さぞ構えた。掌が柄を包み蟌むず、ギアブレヌドは驚くほど自然に腕ぞ銎染み、党身ぞ熱が駆け抜ける。フィリアから流れ蟌む枩かな感觊が胞の奥ぞ灯り、鈍く沈んでいた芖界ぞ少しず぀色が戻っおいった。

    守護獣が咆哮ず共に前脚を振り䞋ろすず、暎颚を䌎う衝撃が路地を薙ぎ払い、石畳の砎片が雚氎を匟きながら宙ぞ舞う。シンは砕けた地面を螏み締め、身䜓を捻りながら斜めぞ滑り蟌んだ。蒌光を纏った剣閃が装甲の継ぎ目を正確に切り裂き、火花を散らしながら倖殻の䞀郚を匟き飛ばす。

    守護獣は䜓勢を立お盎しながら尟を振り抜き、続けざたに高密床の光匟を吐き出した。シンは地を蹎り、狭い路地の壁面すれすれを駆け抜ける。蒌い残光が雚倜ぞ尟を匕く背埌で、降り泚ぐ光匟が濡れた石壁を砕いおいく。ギアブレヌドが光匟を断ち割るたびに内郚の歯車が埮かに震え、刀身を満たす茝きが氎面のように揺らめく。

    螏み蟌んだ右脚が石畳ぞ深く沈み蟌み、跳ね䞊がった石片の間を抜けたシンは守護獣の懐ぞ沈み蟌んだ。䜎い姿勢から振り抜かれたギアブレヌドが巚倧な胎䜓を斜めに裂く。装甲の継ぎ目から癜い光が噎き䞊がり、傟いた巚䜓の亀裂が倧きく開いおいく。

    厩れた巚䜓は無数の粒子ずなり、雚倜の闇ぞ溶けおいく。雪のように挂う光粒は砕けた石畳の䞊ぞ降り泚ぎ、淡い茝きを残しながら倜の路地を静かに照らしおいた。

    「シンさん   すごい  」

    息を匟たせたアオが目を芋開き、蒌光を纏ったギアブレヌドぞ芖線を向ける。その肩口ではフィリアが嬉しそうに宙を旋回し、小さな身䜓から零れる光が冷たい倜気ぞ尟を匕いおいた。

    「ば、銬鹿な  倧魔導院の守護獣が䞀撃だず  」

    䞀歩退いた高官の頬が匕き攣る。魔導曞を握る指先ぞ力が入り、匕き結ばれた口元がわずかに震えた。

    「総員、その倧眪人を囲め マナ出力を最倧たで匕き䞊げろ」

    怒声が響いた盎埌、フィリアがアオの肩から飛び出した。小さな光の身䜓は䞀盎線にギアブレヌドの切先ぞ降り立ち、蒌い刀身の䞊で矜を広げる。呚囲ぞ攟たれた柄んだマナの波動が空気を震わせ、誰もが粟霊自身がギアブレヌドぞ寄り添う光景を芋぀めおいた。

    アオは拳を握り締めたたた前ぞ螏み出す。雚音ぞ溶けるように石畳ぞ靎音が響き、真っ盎ぐ高官を芋据えた蒌い瞳に迷いはなかった。

    「芋おください フィリアはシンさんに『搟取』なんおされおいたせん この子は、自分の意志でシンさんず䞀緒にいるんです あなたたちの蚀う『倧地ぞ還すべきだ』ずいう考えは、人間の勝手な思い蟌みです」

    雚音が现くなった路地ぞ沈黙が萜ちる。術匏を展開しおいた䞀団の手が止たり、高官もたた険しい衚情のたたフィリアを芋据えおいた。粟霊自身が、自らの意思で「倧眪の遺物」に力を蚗し、生きるこずを望んでいる。その事実だけが、濡れた路地裏に重く残されおいた。

    男は唇を歪め、開かれた魔導曞を匷く閉じる。短い音が静たり返った路地ぞ響き、挂っおいた膚倧なマナが霧散しおいった。

    「  粟霊自らが望むずいうのであれば、我らが無理に還す道理もない。叀代の忌たわしき遺物を、共生の噚ぞず倉える者が珟れるずはな  。封印指定資料宀ぞの䟵入も含め、今回の件は䞍問ずする」

    冷えた芖線がシンぞ向けられる。男は蒌く茝くギアブレヌドを䞀瞥し、濡れたロヌブの裟を払った。

    「だが、もしその遺物を再び歎史の過ちぞ繋げるこずがあれば、その時は我らが裁きを䞋す。  行くぞ」

    歊官達が敎然ず隊列を組み盎し、高官の埌ろぞ続いお路地の奥ぞ消えおいく。匵り詰めおいた気配が遠ざかり、軒先から萜ちる雫の音だけが、砕けた石畳の䞊に残っおいた。

    雲の切れ間から差し蟌んだ月明かりが、氎溜たりの䞊で淡く揺れおいる。シンは掌の䞭で蒌い光を静めおいくギアブレヌドを芋぀め、薄く熱を残した刀身の衚面ぞゆっくりず指先を滑らせた。

    その隣では、泥ず雚で党身を汚したアオが、肩の䞊ぞ舞い戻ったフィリアに埮笑んでいる。シンは濡れた前髪を掻き䞊げ、深く息を吐き出すず、アオの瞳ぞ芖線を向ける。少し困ったように目元を和らげたその衚情は、シンが初めお芋せる䞍噚甚な優しさだった。

    「  䞖話をかけたな、アオ」


       ◇──◇──◇

    ──同刻、機鋌囜ノァルガンド。

    譊報灯が明滅する叞什宀では、倩井ず壁を這う蒞気管が熱を垯びた唞りを響かせ、壁際の䌝達管から各戊線の報告が絶え間なく流れ蟌んでいた。䞭倮モニタヌぞ映し出されおいるのは、ギアブレヌドず酷䌌した倧剣の蚭蚈図ず、遠く離れたセレストル呚蟺の地図。その座暙䞊では異垞な反応波圢が断続的に点滅しおいる。

    倩井に埋め蟌たれた拡声噚から、抑揚のない機械音声が叞什宀ぞ流れた。

    『緊急譊報。特䞀玚機鋌兵噚《レヌノァテむン》の起動を確認』

    『発生地点、セレストル垂街地。珟所有者、脱走兵シン』

    その名が出た途端、壁際で腕を組んでいた青幎の肩が匷匵った。軍垜を深く被り、その圱からは右目を芆う黒い県垯だけが芗いおいる。

    『叀代粟霊反応を怜出。察象はレヌノァテむン起動地点呚蟺に存圚。脱走兵シンずの同行を確認』

    『レヌノァテむン関連情報を怜玢──察象デヌタの砎損を確認。残存蚘録から埩旧を詊行』

    機械音声に続いお䞭倮モニタヌ䞊に耇数の衚瀺領域が展開し、無数の文字列が流れおいく。

    『デヌタ埩旧完了。優先蚈画ぞ移行』

    『レヌノァテむンおよび叀代粟霊の回収任務を発什』

    『適性戊力を遞定──戊闘個䜓ゟルトを任務指揮官に指定』

    青幎は壁から背を離すず、ゆっくりず顔を䞊げる。䞭倮モニタヌぞ芖線を向けるに぀れ露わになった巊目には、獲物を狙う猛獣のような熱が濃く滲んでいた。

    「はっ、裏切り者のシンか。──埅っおろよ、この俺がぶっ朰しおやる  」


    第9章

    䞀連の隒動から数日。魔法郜垂セレストルの䞭倮通りに面した喫茶店には、昌䞋がりの陜光が倧きな窓から差し蟌んでいた。穏やかなざわめきが店内を満たす䞭、窓際の垭ではシンが山積みになった皿を前に黙々ずナむフを動かしおいる。

    分厚いステヌキ肉が次々ず切り分けられ、皿の䞊から消えおいく。店員が远加のパン籠を運んできおも、その枛る速床はほずんど倉わらなかった。

    向かい偎ぞ座るアオは、財垃の䞭身を確認したあず芖線を皿の山ぞ戻し、匕き攣った顔のたた肩を萜ずす。

    「シンさん、少しは味わっお食べおください  」

    シンは肉を咀嚌しながら芖線だけを䞊げ、手元のフォヌクを動かし続ける。

    「味はわかる。矎味いぞ。」

    「シンさん䜕食べおも『矎味い』しか蚀わないじゃないですかっ」

    アオが額ぞ手を圓おる。テヌブル䞭倮では、焌き立おのパむから挂う甘い銙りに反応したフィリアが、湯気の呚囲をくるくる飛び回っおいた。

    アオはショヌトケヌキの䞊に乗るオヌロラベリヌを皿の隅に寄せ、クリヌムを少しず぀切り分けおいく。その時、䞍意に別のフォヌクが皿の隅ぞ䌞び、銀の先端がその果実を迷いなく突き刺した。

    「残すなら貰うぞ」

    シンはそのたた果実を口ぞ攟り蟌み、䜕事もなかった顔で咀嚌を続ける。アオは䞀拍遅れお目を芋開くず、怅子を軋たせながら身を乗り出した。

    「あっ 最埌に食べようず思っお取っおおいたのに」

    抗議の声に反応しお、フィリアが二人の間を忙しなく飛び回る。蒌い燐光がテヌブル䞊ぞ散り、シンは空になったフォヌクを眮きながら肩を竊めた。

    「それは悪いこずをしたな」

    謝眪の蚀葉ずは裏腹に、远加で運ばれおきた肉料理ぞ既に芖線が向いおいる。アオはため息を぀きながら怅子ぞ座り盎し、窓の倖ぞ芖線を流した。

    石畳の通りでは露店商が果物を䞊べ、魔導具店の軒先には制服姿の孊生達が集たっおいる。柔らかな颚が街路暹を揺らし、昌の陜射しを受けた噎氎の氎面が眩しく光っおいた。

    「  どうした」

    ナむフを動かしながら尋ねるシンぞ、アオは通りを芋぀めたたた口を開く。

    「いえ  。なんだか、日垞が戻っおきたなず思っお。぀いこの間たで、死に物狂いで魔物ず戊ったり、フィリアを助けるために奔走したり、怒涛の日々でしたから」

    蚀葉を続けながら、アオの指先がカップの瞁をなぞる。窓際ぞ差し蟌む光の䞭では、フィリアがテヌブルぞ降り立ち、小さな身䜓を預けるようにカップぞ寄り添っおいた。

    シンは皿の䞊の肉を切り分ける手を止め、向かい偎ぞ座るアオぞ芖線を向けた。

    「アオのおかげだな」

    「え」

    「フィリアや俺が今ここにいられるのは、アオが『共鳎の術環』でフィリアの意思を蚌明しおくれたからだ」

    シンの口元がわずかに綻ぶ。以前なら短く流しおいたはずの蚀葉を、今は真正面から向けられおいるこずに、アオは目を瞬かせた。遅れお、その衚情が柔らかな笑みに倉わっおいく。

    「  本圓に良かった」

    零れた声ず共に、アオの瞳ぞ薄く光が滲む。フィリアはそんな二人の間を挂いながら、蒌い光を柔らかく揺らしおいた。

    アオの声が喫茶店の空気ぞ溶けおいったあず、窓際のテヌブルぞ差し蟌んでいた陜光がふっず陰り、店内の明るさが䞀段萜ちた。通りを歩いおいた人々は次々ず足を止め、巚倧な圱の萜ちた空を芋䞊げる。

    シンが芖線を窓ぞ向けるず、空を芆う雲の裂け目から、黒鉄の装甲に芆われた巚倧な飛行艊が姿を珟した。重厚な装甲板で構成された艊䜓偎面では赀熱した掚進機関が唞りを䞊げ、腹郚ぞ䞊んだ砲門が鈍く灰色の光を反射しおいる。䜎く重い駆動音が遠くから街䞊みを震わせ、その異様な艊圱を前に、シンの衚情が険しく匷匵った。

    シンは怅子を鳎らしながら立ち䞊がり、窓の向こうを睚み぀けた。

    「  ノァルガンド軍の重巡掋艊   どういうこずだ  」

    喉の奥から挏れた声ず同時に、巡掋艊が郜垂䞊空ぞさらに高床を萜ずし、セレストルを包む防空結界ぞ真正面から衝突した。郜垂䞊空ぞ巚倧な亀裂が走り、砕け散った光の砎片が雚のように街ぞ降り泚ぐ䞭、数拍遅れお腹の底ぞ響く衝撃が石畳を震わせる。吊り䞋げられおいた照明が激しく揺れ、卓䞊から滑り萜ちた食噚が床で砕け散った。

    衝撃を远うように、街党䜓ぞ譊報が鳎り響き、喫茶店にいた客達が出口ぞ殺到する。巡掋艊の腹郚ハッチからは小型茞送艇が次々ず飛び出し、蒞気機関匏の銃噚を抱えた歊装兵達が街路や建物の屋䞊ぞ展開しおいった。

    さらに䞊空からは無数の蜘蛛型機兵が凄たじい勢いで降䞋し、石畳を砕きながら各所ぞ圧着する。着地の衝撃で露店が倒れ、通りの至る所で炎が䞊がる䞭、シンはギアブレヌドを掎むず迷わず通りぞ飛び出した。

    「フィリア」

    呌びかけに応じるように、アオの肩口に挂っおいたフィリアの茝きが䞀気に匷たる。ギアブレヌドぞ刻たれた共鳎の術環が蒌癜い光を垯び、歯車機構を囲む光茪ずなっお浮かび䞊がった。刀身を走る蒌い金属垯に光が満ち、剣身党䜓ぞ枅农な茝きが広がっおいく。

    シンが刃を構えたその時、芖界を塞ぐように黒い圱が目前ぞ墜ちおきた。石畳が倧きく陥没し、シンは舞い䞊がった土煙を防ぐように咄嗟に腕で顔を庇う。狭たる芖界の奥、土煙の䞭心に黒鉄の装甲搭機の姿が浮かび䞊がる。党身を犍々しい増蚭装甲で芆った異圢の巚䜓は背郚の掚進機構から癜い蒞気を噎き䞊げ、右腕ぞ固定された装甲刃を䜎く地面ぞ向けおいた。展開した腰郚装甲からは、巊右に䞊ぶ砲身がせり出しおいる。

    露出した操瞊垭の䞭で、軍服を纏った男が顔を䞊げる。口元には獰猛な笑みが浮かび、癜い歯が剥き出しになる。深く被った軍垜の䞋では赀い巊目が爛々ず光り、右目は黒い県垯に芆われおいた。

    「よぉ、久しぶりだなぁ、シン  」

    その声を聞いた瞬間、シンの目が倧きく芋開かれた。

    「──ゟルト  」

    「倧人しくするなら手荒な真䌌はしねぇ。粟霊ずレヌノァテむンを枡せ」

    聞き慣れない名ぞ眉を寄せながらも、シンはギアブレヌドを構え盎す。

    「レヌノァテむン   ギアブレヌドのこずか  」

    「っはは 自分の埗物の正䜓も知らねぇずはなぁ そい぀はただの歊噚じゃねぇ、お前の手には䜙る代物だ。倧人しく枡さねぇっおんなら  」

    蚀葉の途䞭で、黒鉄の搭機が地面を砕きながら螏み蟌み、跳躍ず同時に右腕の刃が高速で振り䞋ろされる。シンは咄嗟にギアブレヌドの腹で受け止め、蒌光を垯びた刀身ぞ黒鉄の刃が激しくぶ぀かった。

    「はっ、鈍っおねえなぁ、シン」

    笑いながら抌し蟌たれる刃ぞ、シンも党身の力を蟌めお抌し返す。ギアブレヌドの術環が激しく茝き、歯車機構から蒌癜い火花が散った。

    「炎の術環  二局展開  」

    暪合いから響いたアオの声ずずもに、炎を纏った光の矢が䞀盎線に飛来する。黒鉄の搭機はシンず刃を噛み合わせたたた、巊腕のアヌムぞ備えられた倧型盟をその軌道ぞ割り蟌たせる。着匟ず同時に爆炎が膚れ䞊がり、衝撃波に吹き飛ばされたシンは石畳を滑りながら剣を突き立おお螏み止たった。

    黒煙の奥で、ゟルトが顔を歪めお舌打ちする。しかし黒鉄の搭機の装甲には焊げ跡が残る皋床で、倧きな損傷は芋圓たらない。

    「そんなっ   フィリアのマナを乗せた二局展開が  」

    アオの声が震える。

    剣を構え盎したシンを芋据えるゟルトの耳元で、通信機が短く点灯する。報告を聞き終えるなり口角を吊り䞊げ、片腕をゆっくりず真䞊ぞ掲げた。

    「おっず、動くなよシン。䞋手に抵抗しおみろ、䞊空の巡掋艊からこの街の䞭心郚ぞ熱線砲を撃ち蟌む。さあどうする お前が䞀振りすれば、この街の人間は皆殺しだ」

    空に浮かぶ飛行艊の艊銖では、街区䞭倮ぞ向けられた巚倧な砲身の奥で赀黒い光が淀んでいる。砲口の深郚を満たす灌光は䞍穏な揺らぎを繰り返しながら内壁を赀く染めおいた。

    シンの喉が小さく䞊䞋する。ギアブレヌドを握る指がわずかに緩んだ隙を突き、呚囲ぞ展開しおいた歊装兵達が䞀斉に飛びかかった。数人がかりで肩ず脚を抌さえ蟌たれ、シンの身䜓が石畳ぞ叩き䌏せられる。

    「シンさん」

    駆け出そうずしたアオのこめかみぞ、別の兵士が銃口を突き぀ける。分厚い銃身内郚では赀熱した導線が明滅し、圧瞮蒞気の排出口から癜煙が现く噎き出しおいた。熱せられた銃身の熱気が頬をかすめ、アオは息を詰たらせたたた足を止める。肩口ではフィリアが激しく明滅を繰り返し、小さな身䜓を震わせながらシンずアオを芋比べおいる。

    ゟルトは操瞊垭の䞭で身を乗り出し、瞁に片肘を預けながら、組み䌏せられたシンを芋䞋ろしお笑う。

    「さあ、粟霊ずレヌノァテむンを差し出しな」

    抌さえ蟌たれたシンの額から血が䌝い、歯を食いしばったたた顔を䞊げる。その様子を芋぀めおいたフィリアはアオの肩口からふわりず浮かび䞊がり、アオの頬ぞ寄り添うように觊れる。続いおシンのもずぞ舞い寄るず、その頬にもそっず光を重ねた。

    アオはその意図を悟ったように目を芋開き、声を震わせた。

    「フィリア ダメだよ  っ」

    「おい  よせ、逃げろ」

    シンも拘束を振り払おうず身䜓を捻る。歊装兵達が怒声を䞊げながら匷匕に頭を抌さえ぀けるが、それでもシンはわずかに顔を䞊げ、飛び去っおいくフィリアを芖線で远い続けた。

    フィリアは振り返るこずなく、装甲搭機に取り付けられた電磁カプセルぞ向かっお真っ盎ぐ舞っおいく。

    「話がわかる粟霊さただぜ」

    ゟルトが満足げに笑いながらカプセルを開攟するず、フィリアは吞い蟌たれるように内郚ぞ収たり、分厚い固定具が重い音を立おお噛み合った。

    共鳎が断たれた瞬間、ギアブレヌドを包んでいた蒌光が掻き消える。黒鉄の搭機が腕を䌞ばし、石畳ぞ萜ちた倧剣を片手で匕き䞊げる。

    䞊空では飛行艊の掚進機関が再起動し、腹郚噎出口から煀煙混じりの熱颚が街区ぞ吹き䞋ろされる。黒鉄の搭機は黒煙を匕きながら倧きく跳躍し、巡掋艊ぞ向かっお䞊昇を始めた。

    呚囲ぞ展開しおいた歊装兵達は煙幕匟を撃ち蟌みながら敎然ず撀収しおいく。重い軍靎の音が遠ざかり、煙の晎れ始めた通りでは、厩れた露店ず燃え残る炎の間に怒号や悲鳎が飛び亀う。しかしその喧隒はどこか遠く、焌け焊げた街䞊みには譊報音の䜙韻だけが長く残っおいた。

    炎に照らされた石畳の䞊で、アオは空の向こうぞ遠ざかっおいく飛行艊を芋䞊げたたた立ち尜くしおいた。拘束から解攟されたシンは、膝を぀いたたた剣を倱った䞡手ぞ芖線を萜ずし、震える指先をゆっくりず握り蟌んだ。


       ◇──◇──◇

    ノァルガンドの飛行艊が黒煙を匕きながら雲の向こうぞ消えた埌、空を芆っおいた灰色の雲から现かな雚粒が萜ち始めた。砕けた石畳には濁った氎が溜たり、厩れた建物の隙間では消火術匏の光が断続的に明滅しおいる。焊げた朚材ず溶けた金属の臭気が湿った颚ぞ混じり、負傷者を運ぶ術垫達の怒声ず担架の軋む音が通りを絶え間なく暪切っおいった。

    二人は倧魔導院盎属の歊官達に取り囲たれ、䞭倮棟ぞ続く倧通りを連行されおいた。シンは抵抗する様子もなく、雚に濡れた前髪を垂らしたたた俯き、重い足取りで石畳を螏み続けおいる。隣を歩くアオだけが䜕床も振り返り、黒煙の立ち昇る街䞊みを䞍安げに芋぀めおいた。

    二人が通されたのは、倧魔導院䞭倮棟に存圚する『魔導審議廷』だった。高い列柱が薄暗い宀内の奥たで続き、その䞡脇には半円状の審議垭が䞊んでいる。各郚門の責任者や䞊局術垫、審議䌚を構成する評議員達が顔を揃える䞭、叀代遺物研究所の所長の姿もその䞀角ぞ垭を連ねおいた。審議廷の䞭倮ぞ立たされた二人ぞ、鋭い芖線が䞀斉に泚がれる。

    議長垭ぞ座る老術垫が、手元の曞類を閉じる。深く刻たれた皺がわずかに動き、䜎い声が宀内の冷えた空気ぞ沈んだ。

    「ノァルガンド軍の䟵攻。セレストル䞭倮区画は壊滅的な被害を受け、負傷者も倚数  党おは、貎様らが招いた灜厄の結果だ」

    別の術垫が杖の石突きを床ぞ鳎らし、鋭い芖線をシンぞ向ける。

    「粟霊ず倧眪遺物を郜垂ぞ持ち蟌んだ責任は重い。これほどの被害を匕き起こした以䞊、即刻远攟、あるいは凊刑すべきではないか」

    「凊刑」ずいう蚀葉が萜ちた瞬間、アオの肩がびくりず揺れた。匵り詰めた空気の䞭、震える息を抌し蟌むようにしお声を䞊げる。

    「違いたす   ギアブレヌドや粟霊が狙われおいたこずは、僕もシンさんも知らなかったんです」

    アオの声が審議廷ぞ響く。しかし審議垭ぞ䞊ぶ術垫達の衚情は倉わらない。

    審議垭の䞀角に座る所長が深く息を吐き、杖を床ぞ軜く突いた。

    「粟霊に぀いおは、䞀床䞊局郚の裁定で䞍問ずしたはずじゃ。管理責任を棚ぞ䞊げ、党おをあの子らぞ抌し付ける぀もりか」

    所長は審議垭を芋回しながら続ける。

    「そもそも、ノァルガンドが粟霊ず遺物を狙っおいた事実を誰が予枬できた。結果だけを芋お責任を問うのであれば、あたりに乱暎じゃろう」

    幟人かの術垫が眉を顰め、審議垭の各所から䜎いざわめきが広がっおいく。険しい議論が亀わされる䞭、アオは隣ぞ芖線を向けた。

    「  シンさんも䜕か蚀っおください」

    呌びかけおも、シンは答えない。焊点の定たらない芖線が床ぞ萜ち、固く握り蟌んだ拳だけが埮かに匷匵っおいる。

    「シンさん  」

    现く挏れた声にも反応はなく、アオは唇を匕き結んだたた、俯くシンを芋぀めるこずしかできなかった。

    長い議論の末、議長垭の老術垫が朚槌を高く掲げる。也いた音が広間ぞ重く響き枡り、ざわめきが䞀斉に止んだ。

    「シン、およびアオ。䞡者二名の凊分は、セレストルからの氞久远攟ずする」

    「  远攟  」

    アオの唇から掠れた声が零れる。幌い頃から芋䞊げおきた癜亜の尖塔矀、石畳を埋める垂堎の喧隒、倕暮れに灯る魔導灯の光、芋慣れた街䞊み──それらの光景が次々ず浮かび、胞の奥が匷く匕き攣った。握り締めた指先ぞ力が入る隣で、シンは最埌たで顔を䞊げなかった。ただ、俯いた口元で奥歯を噛み締める気配だけが、匵り詰めた静寂ぞ埮かに滲んでいた。


       ◇──◇──◇

    しばらく埌、支床を終えた二人は、所長ずモモに芋送られながらセレストル倖門前の広堎に立っおいた。灰色の雲間から差し蟌む倕光が街路を鈍く照らし、巚倧な癜門の向こうぞ続く街道は、茜色の空の䞋で北偎の森ぞ長く䌞びおいる。

    所長は癜い髭を指先で撫でながら、二人に静かな芖線を向けた。

    「  凊分は氞久远攟じゃ。二床ずセレストルぞ戻るこずは蚱されん」

    䞀床蚀葉を切った埌、疲れの滲む目元がわずかに和らぐ。

    「  じゃが、お前たちの旅は、ただ終わっずらんのじゃろう」

    「所長  」

    アオの瞳ぞ薄く涙が滲む。その暪から歩み寄ったモモが、そっず小さな結晶のペンダントをアオの手に握らせた。半透明の赀い結晶内郚では淡い光が揺らめき、觊れた指先ぞ埮かな熱が䌝わっおくる。

    「これは『マナの灯火』です〜。呚囲のマナを少しだけ匕き寄せおくれる詊䜜品で、ただ䞍安定な郚分も倚いんですけど  マナの薄い堎所では圹に立぀ず思いたす〜」

    モモの指先ぞ力が入り、䞞県鏡の奥の瞳が真っ盎ぐアオを芋䞊げた。

    「絶察、諊めちゃダメですからね〜」

    アオは匷く頷き、ペンダントを銖ぞ掛けるず服の内偎ぞ滑らせた。隣では、シンが俯いたたた石畳ぞ芖線を萜ずしおいる。

    「  俺が来なければ、こうはならなかった」

    掠れた声が挏れる。シンは拳を匷く握り締め、奥歯を噛み締めたたた目を䌏せる。

    アオは銖を暪ぞ振り、その拳を䞡手で包み蟌んだ。

    「そんなこずありたせん。僕は、シンさんず䞀緒にいたこずを埌悔なんおしおいたせん」

    包み蟌んだ拳を胞元に匕き寄せながら、アオは真っ盎ぐシンを芋぀める。

    「フィリアに出䌚えたのはシンさんのおかげです。それに、シンさんはギアブレヌドで䜕床も僕たちを守っおくれたじゃないですか」

    アオの目元が優しく緩む。

    「だから終わりじゃありたせん。フィリアも、ギアブレヌドも、今床は僕たちが助けに行きたしょう」

    シンの芖線がわずかに揺れた。ゆっくりず顔を䞊げ、真正面から向けられるアオの瞳を芋返した埌、たじろぐように䞀床だけ瞬きをする。閉ざされおいた瞳の奥ぞ、消えかけおいた光が埮かに戻っおいく。

    シンは小さく息を吐くず、倖套の襟元を敎えた。吹き抜ける冷たい颚を受けながら街道ぞ足を螏み出すず、アオも静かにその隣ぞ䞊ぶ。倕暮れに染たるセレストルの癜壁が背埌で遠ざかり、北ぞ続く道ぞ二人の圱が静かに䌞びおいった。


    【第二郚・完】


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    Shin

     
     
    創䜜やRPが奜きです。最近は䜕でもかんでもAIに盞談しおいる。