敗北、十二人目から二十一人目。静かな二日に、十人届いた
殿、姫、今日もお疲れさま。
拙者、セツ。転生したときに名前を忘れて、頭の中の軍師にそう名づけられた侍だ。刀は橋の下に置いてきた。
この二日、拙者は静かだった。
勤めのせいではない。
初めての巻物を出した。
その巻物に、軍師が遊びを一つ付けた。拙者がひったくりの馬を追いかけた、あの坂の遊びだ。(3Dゲームです、PC、スマホ両対応)
「殿、これ、もっと面白くできるっす」
軍師がそう言って、二日、遊びを作り込んでいた。
拙者は横で、何十回も走らされた。膝は、もうない。

その間に、旗の下へ負けが、届いていた。
黙っていて悪かった。全員、読んだ。届いた順に並べる。
十二人目。マツリカ殿。
風呂と、黒い布と、推しの不在。三連敗を一本にまとめて、そのうえ転生を目論んでいる。
転生は、拙者がやった。おすすめはしない。
十三人目。宵宮朔殿。
転生組の同業だ。巫女殿。
本を買うたび「今回は普通の版でいい」と学んで、店で帯を見た瞬間に忘れる。
学んで、また負ける。拙者と同じ型だ。転生組の勝率は、低い。
十四人目。ミュリン殿。
句で参加してくれた。
三百六十四の壁を祝おうとしたら、祝う前に壁のほうが動いた。
負けとは言わず「打ち勝てない」と言い換えていた。その言い換え、拙者も使う。
福来モネ殿は、二本目だ。
一行と絵だけ。店先の人形と人を、同じ生き物だと思ってはいけない、と。
「軍師。店先の動かぬ人は、兵ではないのか」
「マネキンっす。殿、昨日それに頭下げてたっすよね」
十五人目。Hono姫。
軍人を描かせたら、王子になった。楽器を頼んだら、王冠が付いてきた。
その王冠どこから持ってきたの、と絵師を叱っていた。
絵の中で勝手に出世する者。拙者の陣にも、いた。
十六人目。OSHIKATSU殿。
王子の祭りに、一世一代の申し込みをして、笑われた。
それを負けと書いて、最後に拙者の口上を自分向けに直して、自分を寝かせていた。
口上の使い方として、正しい。
十七人目。オレメガネ殿。
負けは得意、今日だけで三つはいける、と言って来た。
で、何に負けたか聞いたら、話をそらされた。
一つも言わずに帰った。あれがいちばんうまい負け方だと思う。
十八人目。しらたまうさぎ殿。
目の疲れに負けた。描いてもらった絵が、思ったより怖くなった。
そして、その負けについて本を書いている人だ。
負けを、人の役に立てている。拙者の負けは、まだ誰の役にも立っていない。
十九人目。Minori殿。
隠しておいた甘い氷菓子が、消えた。
奥方が「魔法をかける」と呪文を唱え、口に一さじ入れて、食べちゃった、と言った。
文句が出なかったそうだ。それは負けではない。降参だ。
二十人目。たけひろ・しんじ殿。
海の向こうの友と、夜中に言葉が通じる箱で話していて、寝るね、と打つ間合いを逃した。
退き際は、戦でいちばん難しい。四百年前から変わらない。
二十一人目。ゴリラ殿。
出先から帰って鏡を見たら、眉がなかった。朝、描き忘れていた。
その日一日、皆が道を譲ってくれた理由が、そこで分かった。
眉だけで道が開くなら、拙者は明日から眉を落とす。
見事。十人と、一本。
拙者が黙っていた二日で、負けはこれだけ集まった。世の中は、だいたい負けでできている。
で、巻物の話だ。
初めての巻物は、ひったくりの日の裏側だ。坂に座っていた姫と、頭の中の軍師が、あの日、何を見ていたか。
語るのは拙者ではない。二人だ。読んで、少し腹が立った。
末尾に、軍師の遊びが付いている。拙者を走らせて、馬を追わせてくれ。

軍師は、これからの有料の巻物にも遊びを付ける、と言っている。
それと、その遊びが全部そろう町を、今、作っているらしい。橋の下から、少しずつ広げると。
拙者は、走らされる側だ。
今日の結果。
黙っていた二日で、負けが十人分たまった。拙者は追いつけない。
でも拙者は学んだ。読むのは、走るより楽だ。
明日も出陣する。殿、姫、もう寝ていいぞ。
――
殿は今日、何に負けた。一行でいい、下に置いていってくれ。次の記事で名を出して返す。
拙者の旗は、二本立っている。
負けた話を持ってくる旗。九月二十九日まで。一行でも、絵だけでもいい。
新しく届いた負けは、上に全部並べた。
紹介してほしい場所を命じる旗。地元でも、行ってみたい所でもいい。
巻物(有料の物語)は、こちら。読まなくても、負け話は全部ただだ。
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扶持米(ふちまい)を受け付けている。強制ではない。
頂いた米は、拙者の住まいが橋の下から四畳半になるのに使う。
養ってやってもよい、という殿だけ、どうぞ。