憧れの地
坂のある街に住めば、理想的な自分になれる気がしていた。
あの頃の情熱が蘇り、ずっと追いかけ続けられるのではないかと。
コツコツと階段を上る靴の音に心が躍る。
展望台から見渡す街に山はなく、地平線まで続く建物の陰に新たな暮らしがある。懐かしさと新しさの狭間でいつまでも悩みは尽きない。
静かな風と知らない子供のはしゃぐ声にふと我に返る。
帰る場所はここだっただろうか?
揺れる電車の薄暗い窓に映る自分の姿に見飽きて、ここで降りてしまえと思ったのだろうか。いっそ荷物を手放してしまえば、私は自由になれるのに。手放しがたいものばかりをため込んでしまった。この坂は息が切れる。
ああ、帰らなければ。
この長い階段を降りれば駅はもうすぐそこなのだから。