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SAKU緊迫24・矎術通の異空間にダむブ

    静寂に負け、ロマンスに散り、最埌は展瀺物より私が浮いおいた話

    朝から、劙に手持ち無沙汰だった。

    金があるわけではない。
    心に䜙裕があるわけでもない。
    むしろその逆である
    。だが、こういう日はある。
    䜕かしなければず思うのに、䜕をしおも自分がうっすら負けそうな気がしお、郚屋の䞭で䞭幎だけが熟成しおいく日だ。

    私は自宅で、黒タンクトップのたた座っおいた。
    冷房は匱い。麊茶はぬるい。
    スマホを芋おも、䞖の䞭は誰かの成功ず、誰かの旅行ず、誰かのうたそうな昌飯で埋たっおいる。
    こちらにはそのどれもない。あるのは、今日をどう凊理するかずいう、地味で切実な問題だけだった。

    どうしよう。

    散歩か。
    いや暑い。
    喫茶店か。
    いや金がない。
    映画か。
    いや高い。
    図曞通か。
    そこたで知的な気分でもない。

    そこで、ふず思った。

    そういえば、矎術通っお行ったこずないな。

    いや、正確にはあるのかもしれない。
    小孊生の頃、孊校行事か䜕かで連れお行かれた気もする。
    だが、あの頃の私は展瀺物より匁圓の時間のほうに興味があったはずで、
    蚘憶がない以䞊、ほが未螏ず蚀っお差し支えない。

    矎術通。

    なんか、いいではないか。
    知的だ。
    静かそうだ。
    少し文化人っぜい。
    今の私に足りないものが、だいたい党郚入っおいそうだった。

    よし。䞀回行っおみよう。

    完党な思い぀きだった。
    私の人生はだいたい、熟慮よりも勢いのほうが被害が倧きい。
    今回もその流れを、私は止めなかった。

    電車に乗り、街ぞ出た。 タンクトップの䞊に䞀応シャツを矜織った。
    最䜎限の文明は守りたい。
    だが駅のガラスに映る私は、文化を济びに行く男ずいうより、たたたた郜䌚に出おきた困った人に芋えた。

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    着いた矎術通は、思っおいた以䞊に癜かった。

    建物がもう癜い。
    広堎も癜い。
    階段も癜い。
    そしお人がみんな静かで、姿勢がいい。
    その時点で、私は少しひるんだ。

    こちらはさっきたで自宅で「今日はどうしようか」ず蚀いながらぬるい麊茶を飲んでいた䞭幎である。
    それがいきなり、矎の総本山みたいな空間に攟り蟌たれおいる。
    堎違い感が、受付に着く前から軜く仕䞊がっおいた。

    チケットを買うだけでも緊匵した。

    窓口の女性がやたら䞊品だったのである。
    声が静かで、蚀葉に䜙蚈な角がない。私は思わず背筋を䌞ばした。
    意味もなく小銭の出し方たで䞁寧になった。

    だがここで早くも事件は起きた。

    財垃から小銭を出そうずした私は、
    緊匵のあたり硬貚を䞀枚床に萜ずした。

    それだけならよかった。

    拟おうずしお前かがみになった瞬間、
    肩から䞋げおいたトヌトバッグが前に振れ、
    受付カりンタヌのパンフレット立おに盎撃した。

    バサバサバサバサバサ。

    矎術通のパンフレットが、受付前に䞀面散乱した。

    䞊品な女性が固たった。
    埌ろに䞊んでいた倫婊が固たった。
    私が䞀番固たった。

    「すみたせん、すみたせん、すみたせん」

    私は䞉回蚀いながら四぀ん這いで拟い集めた。
    知的な午埌の幕開けずしおは、やや出錻をくじかれた。
    いや、出錻ごずぞし折れた。

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    【静寂ずいう名の凶噚】

    通内に入る。

    静かだった。

    静かすぎた。

    人間、こういう堎所に来るず、自分の存圚がいきなりうるさく感じられる。呌吞すら気になる。足音が怖い。
    革靎だったらどうなっおいたか。

    私はできるだけ静かに歩いた。

    歩くほど、なぜか靎が鳎った。

    キュッ、キュッ、キュッ。

    新品ではない。
    だが床ずの盞性が最悪だった。
    䞀歩ごずに小さく鳎く。
    私は歩幅を倉えた。
    ただ鳎る。
    ぀た先で歩いた。
    䜙蚈に鳎る。

    近くにいた老玳士が、こちらをちらりず芋た。
    おそらく「䜕をしおいるのか」ずいう顔だった。
    おそらく、ずいう掚枬だが、かなり自信がある。

    そこで私は、スマホをマナヌモヌドにしようずした。

    ここで最初の本栌的な事件が起きた。

    マナヌモヌドにした぀もりが、
    なぜかアラヌム䞀芧を開いおしたったのである。
    しかも、觊れたずころが最悪だった。

    ピピピピピピピピピピ。

    最倧音量である。

    しかも私のアラヌムは、か぀お寝坊察策で「止めにくい蚭定」にしおあった。 スワむプでは止たらない。
    タップでも止たらない。

    ピピピピピピピピピピ。

    通内に、容赊のない朝の目芚たしが鳎り響く。

    私は焊った。
    焊るほど止たらない。
    止たらないほど焊る。

    ピピピピピピピピピピ。

    䞉秒が䞉時間に感じた。
    呚囲の客が党員こちらを芋た。
    芋方が匷い。
    いや、刺さっおいる。
    譊備員が二人、同時にこちらぞ歩いおきた。

    ようやく止めた。

    止めた瞬間の静けさが、今たで感じたどの静けさより重かった。
    私は癟八十床ゆっくり芋回しおから、小さく頭を䞋げた。
    䜕に察しおの䌚釈なのかわからないたた、謝眪ず服埓ず反省を混ぜた情けない角床で。

    譊備員が静かに蚀った。

    「お気を぀けください」

    その䞀蚀の䞭に、いく぀かの意味が含たれおいた。
    少なくずも、芞術的な鑑賞の話ではなかった。

    ただ䞀枚も絵を芋おいないのに、私はこの空間で䞀回死んでいた。

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    【ロマンスの予感ず、その急死】

    気を取り盎しお、最初の展瀺宀ぞ入る。

    絵は倧きかった。
    そしお難しかった。

    青ず黒がぶ぀かっおいる抜象画の前で、私はしばらく立ち尜くした。
    感じるべきなのだろう。
    だがこちらの感想は
    「これは海なのか」
    「いや違うのか」
    「倀段はいくらなんだ」
    の䞉択しかない。
    芞術に察する語圙が、あたりにも生掻に寄りすぎおいた。

    次の郚屋には、癜い圫刻があった。
    人間の圢に近いが、どこかずれおいる。
    私はその前で腕を組み、少し知っおるふうの顔をした。
    こういう時、人は䞭身より先にフォヌムから入る。

    するず、暪に人の気配がした。

    枅楚だった。

    二十代前半くらい。
    髪を埌ろでたずめ、淡い色のワンピヌス。
    立ち姿に無駄がない。
    しかも、䜜品を芋る目がちゃんずしおいた。
    こっちのように「これ䜕だろう」ではなく、䜕かを受け取っおいる顔だった。
    小さなノヌトに、静かにメモを取っおいる。

    その瞬間、私の䞭で䜕かが起き䞊がった。

    矎術通ずいう知的空間。
    静かな午埌。
    偶然隣り合う男女。
    䜜品を通しお始たる䌚話。
    そこからゆっくり、䞖界が少しやわらかくなる。

    脳内でピアノが鳎り始めた。

    私は自然さを装いながら、圌女が芋おいた䜜品の説明文を読もうず䞀歩近づいた。

    近づきすぎた。

    ピヌヌヌッ。

    䜜品接近譊告音である。

    しかも私のアラヌムより少し品があったが、効果は同じだった。
    党員がたたこちらを芋た。
    同じ譊備員が、今床はため息をこらえおいるような顔でやっおきた。

    女性が少し驚いおこちらを芋た。
    私はたた䌚釈した。
    今日は本圓に䌚釈しか技がない。

    「もう少し距離を」

    譊備員が䜎い声で蚀った。

    女性は気たずそうに芖線を倖した。
    ピアノが止んだ。
    ロマンスは、始たる前に足をくじいた。

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    【異空間、私を飲み蟌む】

    だが、私はただ諊めなかった。

    次の展瀺宀でも、偶然その女性を芋かけたのである。
    運呜だ。
    少なくずも、郜合の悪い偶然ではない。

    そこには、床に巚倧な鏡が眮かれ、
    光が反射するむンスタレヌション䜜品があった。
    異空間である。
    意味はよくわからない。
    だが芋た目がすごい。
    こういうのは助かる。
    わからなくおも、すごそうなら参加できる。

    私は䜜品の呚りを、知的な歩幅でゆっくり回った。

    そこで私は気づいおいなかった。

    この䜜品、床の展瀺゚リアず通路の境界が、
    照明の反射で芖芚的に完党に溶けおいたのである。
    螏んでいい堎所ずダメな堎所が、芋た目に存圚しなかった。

    私は䞀歩、䜙蚈に螏み蟌んだ。

    足が、滑った。

    「うわっ」

    声が出た。
    䜓が前に傟いた。
    止めようずしお䞡腕を広げた。
    その右腕が、ロヌプの支柱に盎撃した。

    ガシャン。

    支柱が揺れた。 ロヌプが波打った。

    私は䜓勢を立お盎そうずもがきながら、今床は巊偎の案内看板に肩をぶ぀けた。

    ガタン。

    看板が傟いた。
    倒れなかった。
    だが、かなり傟いた。

    私は䞡手を広げたたた、異空間の真ん䞭でしばらく止たっおいた。 転倒はしなかった。 だが、しおいないだけで十分すぎる絵面だった。

    呚囲が、完党に静止しおいた。

    十数人の客党員が、私を芋おいた。 䜜品ではなく、私を。 入堎料を払っお芋るべきものを、党員が芋誀っおいた。

    そしお、女性がこちらを芋た。 今床は明確に芋た。 心配そうに、だが少し匕きながら。

    スタッフが䞉人来た。
    「お怪我はありたせんか」
    「䜜品には觊れおいたせんか」 「
    こちら偎でお願いしたす」

    私は「倧䞈倫です、すみたせん、倧䞈倫です」を混ぜながら答えた。
    順番がもうわかっおいなかった。

    暪を芋るず、女性は小さく頭を䞋げお、足早に別の郚屋ぞ去っおいった。

    行くのが速かった。 芞術鑑賞より、私からの離脱を優先した速床だった。

    ロマンスは、異空間に私がダむブするのを芋届けおから、静かに撀収した。

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    【カフェずいう名の最終決戊堎】

    気分を立お盎すため、ミュヌゞアムカフェに入った。

    文化に敗れたら、糖分で぀なぐしかない。

    メニュヌを芋お、名前の長いおしゃれなケヌキずコヌヒヌを頌んだ。倀段は少し高かった。だが今日はもう匕き返せない。

    運ばれおきたケヌキは、小さかった。

    驚くほど小さかった。

    これはケヌキずいうより、ケヌキの気配である。
    ケヌキが「ここにいたすよ」ず䞻匵しおいる皋床の存圚感だった。
    フォヌクを入れるたびに、庶民の私の䞭で䜕かが暎れる。
    だが店内には静かなクラシックが流れ、客たちはみな萜ち着いおいる。
    私だけが「小さいな」ず顔に出すわけにはいかなかった。

    その時だった。

    窓際の垭に、あの女性が座ったのである。

    たた䌚った。

    もはや運呜か、展瀺の順番が同じなだけか。
    どちらにせよ、これは最埌のチャンスである。

    私は迷った。
    話しかけるか。
    䜕を蚀うか。
    「先ほどはどうも」は䜕がどうもなのかわからない。
    「䜜品、すごいですね」はどの䜜品の話なのかわからない。
    「よく来られるんですか」は距離が近すぎる。

    迷いながら、コヌヒヌカップに手が圓たった。

    倒れた。

    しかも、実に生掻感のある倒れ方だった。
    カップが揺れ、゜ヌサヌが鳎り、
    コヌヒヌがテヌブルに広がり、
    玙ナプキンが䞀気に悲惚な色に染たった。

    私は慌おお拭いた。
    拭くほど広がった。
    さらに慌おた。
    ケヌキに手を぀いた。
    ケヌキが朰れた。

    ケヌキの気配が、消えた。

    店員が来た。
    たた䌚釈した。
    今日䜕床目かわからない䌚釈である。 私の銖はもう、自動的に䞋がる蚭定になっおいた。

    気づくず、女性はもういなかった。

    その撀退の速さは、今日䞀番だった。
    ロマンスずいうより、避難蚓緎だった。

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    【䞭幎、矎術通から垰還する】

    その日、私は䞉床ロマンスを倱った。

    䞀床目は譊告音。
    二床目は異空間ダむブ。
    䞉床目はコヌヒヌ措氎ずケヌキの圧死。

    ここたで来るず、もう恋愛運ではなく、展瀺の挔出の䞀郚だった気がする。「堎違いな䞭幎が匕き起こす連鎖的悲劇」ずいう、䜓隓型むンスタレヌションである。チケット代を返しおほしいのはこちらの方だが、今日の私のあれこれを芋おいた客たちは、入堎料の元を十分に取ったず思う。

    倕方、矎術通を出た。

    倖の空気はやけに普通だった。
    人が歩いおいる。
    信号が倉わる。
    車が通る。
    䞖界は䜕も起きおいない顔をしおいる。
    だがこちらの䞭では、䞀日でいろいろ起きすぎおいた。

    パンフレットをぶちたけ。
    アラヌムを党通に響かせ。
    䜜品に突撃しかけ。
    異空間で䞡手を広げお固たり。
    カフェでコヌヒヌをこがし、ケヌキを握り぀ぶした。

    䜕䞀぀、文化を济びおいない。
    むしろ私が、矎術通に被害を䞎えた偎である。

    ただ、電車に揺られながら思った。

    これは蚘事になる。

    やはりそうなのだ。
    SAKUにずっお人生ずは、うたくやっお積み䞊がるものではない。
    だいたい倱敗しお、恥をかいお、あずから原皿に倉わる。

    しかも今回は舞台が矎術通である。
    少し文化的な悲惚だ。 悲惚にも栌匏が出る。

    矎を芋に行った぀もりが、
    矎しくない自分の動きだけが展瀺された䞀日だった。
    静寂の䞭でアラヌムを鳎らし、
    ロマンスは䞉回葬り、異空間では䞡腕を広げお固たり、
    カフェではケヌキの気配たで朰した。

    だが、読み物ずしおは匷い。 䞭幎ずしおは匱い。 その萜差こそ、私の持ち味である。

    窓に映る自分を芋た。 少し疲れおいた。
    少ししょんがりしおいた。
    だが、ほんの少しだけ、今日の自分を面癜いずも思っおいた。

    たぶんたた私は、ろくでもない思い぀きでどこかぞ行く。
    そしお䜕かをやらかす。
    そのたびに傷぀き、あずで曞く。

    矎術通の絵は、正盎ただよくわからない。
    だが、あの䞀日はたしかに䜜品だった。
    題名を぀けるなら、こうだろう。

    「堎違いな䞭幎、静寂のなかで盛倧に浮く」

    私自身が、いちばん展瀺向きだったのかもしれない。

    入堎料は、払った偎ではなく、芋おいた偎が払うべきだった。

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    saku

     
     
    50歳から劄想noteはじめたした。 元・営業マン、今・人生再起動䞭。 ロスゞェネ䞖代無職寞前おじさん。 散歩・昭和歌謡・軜自動車ず生きおたす。 「遅い」なんお誰が決めた 共感しおくれたら、ぜひ䞀緒に。 珟実か幻想か劄想か 本栌掟リアルフィクション 党おを超えおいけ

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