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サド䟯爵倫人の掚し掻・その倫人の人生は倢小説(ギリシャ神話パロ)篇䞉島由玀倫「サド䟯爵倫人」蔵曞玹介 #002-04

    ――幻想䞊の自己愛、あるいは名づけられない欠萜感の物語――

    ◇

    ※より安心しお曞評をお楜しみいただくために、事前にこちらの「考察にあたっお」をご䞀読ください。䜜品の時代背景や描写に関する圓noteのスタンスをたずめおいたす。

    ※本蚘事で玹介する䜜品には、人間の暗い欲望や、䞀郚サディスティックな関係性を描いた文孊的衚珟が含たれたす。


    [この蚘事からの続きです]
    [このシリヌズを最初から読む]

    前回の蚘事からの芖点

    空想の力を教えおくれた掚しの魅力


    前回の蚘事では、ルネサド䟯爵倫人がアルフォンスサド䟯爵から教わった「空想の力」ずは䜕であったか考察したした。

    その䞭で、ルネがアルフォンスのこずを「私ず䞍可胜ずの間の閟しきい」・「私ず神ずの間の閟」ず衚珟しおいる点に着目したした。

    圌女はリアリストでありながらも、アルフォンスを通じお間接的に、「䞍可胜」や「神」をリアルなものず捉えるこずができた。これこそが、アルフォンスがルネにもたらした「空想の力」なのではないかずいう考察でした。

    今回は、それずは別の、もう䞀぀の解釈に぀いお述べおいこうず思いたす。

    掚しを詩や比喩で語るずいうこず


    私のnoteでは珟圚、䞉島由玀倫の「サド䟯爵倫人」の考察ず、ニヌチェの『悲劇の誕生』の考察ずいう、぀のシリヌズを連茉しおいたす。

    先日投皿した『悲劇の誕生』の考察蚘事では、こんな点に着目したした。

    『悲劇の誕生』ずいう哲孊曞はニヌチェの凊女䜜ですが、文献孊の芖点からは、臎呜的な問題点が指摘されおきたした。岩波文庫の解説の䞭で、“それっお孊術曞ずいうよりポ゚ム詩なのでは” ずツッコミが入れられおいたした。

    偶然ですが今回の蚘事では、ルネが効から、姉さんの“掚し語り”っおポ゚ム詩なのでは。ず突っ蟌たれる堎面をご玹介するこずになりたす。曎に、ルネは別の堎面で母からも䌌たようなツッコミの远撃を受けたす。

    ニヌチェずいい、ルネずいい、匷火の掚し掻は、掚しを賛矎するあたり詩を生み出しがちなのだろうかず思い぀぀、考察に入りたいず思いたす。

    ルネ、掚しを「詩」ずしお語る
    -効からのツッコミ-


    前回の蚘事では、ルネがアルフォンスに぀いお語る、次のような蚀葉を匕甚したした。

    あの人の欲望は冒瀆によっお燃え䞊る、䞁床銬が枅らかな霜柱を螏みしだいお勇み立぀ように。そのためにあの人は、い぀もちゃんずした手続を螏むのです、汚れた土にしみた氎を、朝の冷気で険しく聖きよい霜柱に結晶させる、ただそれを螏みしだくために。あの人のおかげで嚌婊も女乞食も、䞀床は聖女にされたのでした、そのあずで鞭打たれるために。

    䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人・わが友ヒットラヌ』新版
    新朮瀟、新朮文庫、2020幎11月第二幕 p.57

    ※匕甚に぀きたしおは、こちらのペヌゞの「匕甚の凡䟋」をご参照䞋さい。

    第二幕でのこの発蚀は独癜ではなく、母ず効ずの䌚話の䞭で発された蚀葉でした。
    実は、それに察する効からのツッコミがあったのです。

    お姉様は䜕でもそんな颚に、理解ず詩でアルフォンスを食っおおしたいになる。詩で理解する。あんたり神聖なものや、あんたり汚ならしいものを理解するただ䞀぀のやり方。それは少くずも女のやり方じゃありたせんわ。

    䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人・わが友ヒットラヌ』新版
    新朮瀟、新朮文庫、2020幎11月第二幕 pp.57-58

     効の教逊もなかなかのものではないでしょうか。あたりお目にかかれないような栌調の高いツッコミです。単に“ポ゚ム”だず指摘しお切り捚おるのずは䞀味違いたす。

    ルネの感性や衚珟が、圓時の瀟䌚的性差の枠組み男らしい振る舞い、女らしい振る舞いずいうように、文化的に䜜られた区別や、平穏な日垞性の枠組み神聖すぎず、汚蟱でもなく、ほどほどであるこずに収たらないものであるずいう本質を突いおいたす。

    しかし、それは姉を尊敬しおの発蚀ではありたせん。埌に匕甚する箇所の䞭で母・モントルむナ倫人が指摘しおいるように、それはあくたでも姉をからかっおの発蚀でした。
    効は、芁は、ルネが異端者であるず蚀っおいるのです。

    圓たり障りのない日垞の物事を超えた領域に察する感受性を持ち、しかもそれを緻密に蚀語化できるずいうこずは、芞術関係者や、あるいは創䜜掻動を行うオタクであれば最高な玠質です。
    たた、性別の枠組にずらわれずに創䜜掻動を行うずいうこずも、文化的性差に぀いおの偏芋が芋盎されおきおいる今日の芳点から芋れば、むしろ耒め蚀葉のようではないでしょうか。

    それなのに、それが揶揄の察象になる䞖界は、ルネにずっお生きにくい䞖界であるず考えざるを埗たせん。才胜が烙印ず芋なされ蔑たされるなんお最悪ですね 。

    ルネは、生たれ持った創造性の才胜を発揮しにくく評䟡されにくい瀟䌚に生きおいるずいうこずを、䞀旊ここで念頭に眮いおおきたいず思いたす。

    ルネ、掚しを比喩で語る
    -母からのツッコミ-


    たた、第二幕の別の堎面で、ルネがアルフォンスのこずを「私ず䞍可胜ずの間の閟しきい」・「私ず神ずの間の閟」p.82ず語ったこずに察しお、母・モントルむナ倫人は次のようにコメントしおいたす。それに続くルネの蚀葉ずずもに匕甚したす。

    アンヌは「詩で理解する」ずいう蚀い方をしおいたしたが、モントルむナ倫人はそれを「譬え」で「語」るずいう衚珟に蚀い換えおいたす。

    モントルむナ 又お前の迂遠な譬たずえ話がはじたった。アンヌでさえそれをからかっおおいでだった。
    ルネ だっおアルフォンスは譬えでしか語れない人なのですもの。あの人は鳩です。獅子ではありたせん。あの人は金髪の癜い小さな花です。毒草ではありたせん。鳩や花が鞭を揮ふるうのを芋るずきに、獣ず感じるのはこちらのほうです。埌略

    䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人・わが友ヒットラヌ』新版
    新朮瀟、新朮文庫、2020幎11月第二幕 p.82

    ルネ 頑匵っおいお偉いな ルネ、匷いな ず思いたせんでしょうか 

    私は、思いたした。
    どんな時代に生たれ、自分の愛や才胜や信条が他の人からどんなふうに揶揄されようずも、ブレずに自分の信じるものを守り抜こうずしおいるのです。

    母や効からどんなツッコミを入れられようずも、ルネは、掚しを語る衚珟力を劥協したりしたせん。掚しをより良く解釈し衚珟する手腕を緩めたりなどしたせん。「だっおアルフォンスは譬えでしか語れない人なのですもの」ず蚀い返したす。

    ルネ、本圓にいいオタクだなぁ ず、思わずしみじみずしおしたいたした。

    そしお、䞊に匕甚したルネの若干カオスな発蚀は、掚しに぀いお発蚀する機䌚を埗たオタクそのものではないでしょうか  「金髪の癜い小さな花」、「鳩や花が鞭を揮う」。

      。

    ルネの独創的な掚し語りが開陳されおいたす。

    芳察力も想像力も衚珟力もあるのに盲目的な、重床のオタクの茝きを宿しおいたす。

     ルネ、もしかしお アルフォンスが行う事であれば䜕であれ枅らかで、アルフォンスが成すこずであれば䜕であれ可愛いくおたたらないず思っおいるのではないでしょうか。

    花よ、蝶よ。ずアルフォンスを愛でおいるように思えたす。

    もしくは、時々噛み぀かれお血を流しながらも生き物を心底愛そうずする、颚の谷のナりシカのような雰囲気も少し入っおいる気がしたす。

    たるで倢小説のような人生

    前回たでのたずめ


    前々回の蚘事の䞭で、このように予告しおいたした。

    「でも本圓のずころは、お姉様だけは愛されおいるず信じおいらっしゃるんでしょう」ずいう効からの䞀撃を、「空想は自由だわ」ずサド䟯爵倫人は受け流したす。

    それっお、単なる蚀葉の綟なのでしょうか。それずも、”倫からの愛を密かに独占しおいる自分”ずいう空想を愉しんでいるのでしょうか 。もしそうだずしたら、それは䞀䜓どのような内容なのだろう ず、気になるずころですよね   ありたす。䜜䞭に、それらしき描写はありたす。あるのです。そしお、焊らすようで本圓に申し蚳ないのですが、それに぀いおは、次回以降の蚘事の䞭で詳しく掘り䞋げる予定です。

    そしお、前回の蚘事の䞭で取り䞊げた内容になりたすが、霜柱を螏みしだく比喩アンヌのいう「詩」を語った盎埌、ルネはこのように発蚀しおいたした。

    あの人はそれらの快楜の瞬間々々から自分のなかに貯えたやさしさの蜜を、誰にも䞎える盞手がみ぀からず、結局私のもずぞかえっお来お、そのやさしさのありたけを泚いでくれるのですわ。 蜜をかもし出す、血の色をした花々は、決しおあの人の恋人ではありたせん。

    䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人・わが友ヒットラヌ』新版
    新朮瀟、新朮文庫、2020幎11月第二幕 p.57

    これも、アンヌが「詩」だず突っ蟌んだルネの発蚀の䞀郚です。
    前回の蚘事で指摘したように、「やさしさの蜜を、誰にも䞎える盞手がみ぀からず」ず語る倫人は、決しお、自分が愛されおいるず無邪気に信じおいるわけではありたせん。倫ずの距離感を冷培に芳枬し、「アルフォンスは誰も愛したこずがない」p.53ず断じおもいたす。

      ですが、「結局私のもずぞかえっお来お、そのやさしさのありたけを泚いでくれる」ずいう衚珟は、独占欲が満たされお悊んでいるような雰囲気ではありたすよね。これは、“ルネだけがアルフォンスに愛されおいるずいう空想”に近いですが、でも少し違いたす。

    ――そしお 今回の蚘事では、぀いにそれをご玹介したす。

    「空想は自由だわ。私もアルフォンスから空想の力を教わりたした」p.53ず語るルネの空想に぀いお、前回たでの蚘事ではご玹介しおいなかったものが曎にただあるのです。空想の床合いずしおは、曎にもっずすごいや぀です。

    もっずすごい空想。
    ルネ  もしかしお、たた掚しを詩にしおいるのか  

    ずご掚察でしょうか 
    はい。それはyesです。「詩」ずいう蚀葉こそ甚いおはいたせんが、たさに「詩」であり「比喩」であるに違いない蚀葉によっお、アルフォンスを語っおいたす。

    それは、早くも第䞀幕の䞭に珟われおいたす。

    ルネの玠質


    第䞀幕では、性ず暎力に関する倧きな事件を起こしたアルフォンスが死眪に問われ、珟圚逃亡䞭ずなっおいたした。
    それを受けおルネは、眠れない倜を過ごしたそうなのです。さすがにショックを受けたのでしょうか。

    お母様もご承知のずおり、今回の事件で、私はアルフォンスが䜕を欲し、䜕をしたか、その結果䞖間があの人を䜕ず呌がうずしおいるか、すっかり知っおしたいたした。それからはラ・コストの城で眠れない倜よもすがら、結婚以来のこずを考え぀づけたした。今ではすっかりわかったんです。お母様、すっかりですわ。今たでは蚘憶のなかにばらばらに散らばっおいたものが、たちたちみごずに぀ながっお、䞀連ひず぀らの頞くび食りのようになりたした。玅玉の頞食り。血のように真赀な宝石の。

    䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人・わが友ヒットラヌ』新版
    新朮瀟、新朮文庫、2020幎11月第䞀幕p.37

      眠れずに長考しおいたす。倜、䞀睡もできなかったようです。

      ですが、  んんん

    これっお埮劙にショックを受けおなくないですか

    なんだか、いい意味でのショックっぜくないですか 

    しかも、モントルむナ倫人によれば、アルフォンスの「怖ろしい玠顔」p.23のこずがルネの耳に入ったのは、今回が初ではありたせん。
    第䞀幕から芋お「四幎前」p.23に事件を起こした時であるずいいたす。ルネ 四幎前は眠れたのか ず思い぀぀ 。

    ルネは、今回の事件を受けお眠れずに考え蟌んだこずに぀いお、蚘憶の䞭にバラバラに散らばっおいたルビヌが぀ながっお、ひず぀の銖食りが完成したのだずいう、比喩の蚀葉で語っおいたす。銖食りが䞀䜓䜕を意味しおいるのかずいう点は、あくたでも曖昧に語られおいたす。

    ですが、読んでいくずどうやら、ルネはアルフォンスの玠顔を知る以前から、その本性の片鱗のような堎面を目にするこずが䜕床かあったそうなのです。そしお、今になっおようやく断片が繋がっお、党䜓像が芋えおきたずいうこずを、倧たかには蚀っおいたす。ルネがどんな堎面を芋おきたのか、この埌匕甚したすね。

     ええず、ルネは結婚しおから倫の所業を玄幎間も䜕も知らなかった前々回の蚘事を参照わけなのですから、アルフォンスが時々本性を垣間芋せたずいっおも、きっず、それっお些现な城候に過ぎないのですよね 

    “埌々になっお振り返っおみるず、あれっおやっぱりちょっず倉だったのかも ”ず思う皋床の内容ですよね 党然、sadismのsの字もないような、ちょっずした䞍審行動ずいう皋床ですよね  頌みたすよ、ルネ 。

    では匕甚したす。

    • アルフォンスは「花々を酔わせおやるのだ」p.37ず蚀っお、新婚旅行䞭に芋かけた癟合の花畑に赀ワむンを䞀暜ぶちたけさせお、「花匁から滎る赀いお酒をうっずりず眺めおい」pp.35-36た。

    • 自宅ずなるラ・コストの城の敷地内を初めお二人で散歩しおいるずき、小屋を芗き蟌んだアルフォンスが、「藁瞄で瞛られたたくさんの薪を芋぀け」p.37、「あんな醜い薪ではなくお、癜暺の薪の束を金の瞄で結えたらさぞ矎しかろう」p.37ず発蚀した。

    • アルフォンスは狩りの垰りに「獲物の癜兎の血に染った胞から、小さな心臓を玠手でずり出しお、恋心の圢には兎も倉りがないず、笑い興じお」p.38いた。


    ルネヌヌヌヌっっ

      ちょっず埅っおください、ツッコミは埌です  たずは、ロマンティックな郚分から芋おいきたしょう。

    先ほどの匕甚の通り、ルネにはこれらの゚ピ゜ヌドが宝石に芋えおいたのですね。「血のように真赀な宝石」p.37に。 血のように 。

      。

      思いたすよね。

    私は、思いたした。

    ああ、ルネ 。なんだか知らないけれど、ルネ、玠質あるなぁ 。ず。


    倚分、この頃から薄っすらず、ルネにずっお、可愛かったのではないかず思うのです。䜕が可愛かったっお、アルフォンスが可愛かったのではないかず思うのです。

    ルネは、アルフォンスがその埌も残虐な事件を重ね、どれだけ深い独房にぶち蟌たれようずも芋捚おず、奜感床が䞋がらず、それどころか先述の通り、第二幕の時点で、アルフォンスが鳩ずか花ずかに芋えおいたのです。鳩ずか花ずか、「金髪の癜い小さな花」ずかに。

      ずっず思っおいたのですが、「金髪の癜い小さな花」っお 䜕

    ルネ ずいうか䞉島由玀倫先生 

    むメヌゞが日本語の限界を超えおたすでしょう 

    日本語が、「そんなの入らないよ」っお蚀っおたすでしょう 

    舞台はフランスですが、もずから日本語で曞かれおいるのですから、倉な誀蚳ずかではありたせん。  ずにかく、ルネにはそういうふうに倉 いえ、可愛い存圚に芋えおいたアルフォンスなのです。きっず、圌が癟合畑にワむンをぶちたけおいた頃から薄っすらず、ルネにずっお、アルフォンスの行いは䜕であれ可愛いく、䜕であれ花鳥颚月だったのではないでしょうか。

    業の深いオタクずいうものは、時ずしお、掚しに察するものすごい解像床ずものすごい盲目性を䞡立させおしたうずいうこずの極端な䟋ずも蚀えるでしょう。

    私には既に、

    ルネっおアルフォンスよりも匷いのではないか

    ず思えおならないのですが、皆様はどう思われたすでしょうか。ここで改めお、ルネの真っ赀な宝石の蚘憶たちを振り返っおみたしょう。

    たずは最初のや぀。
      新婚早々どころか、ただ新婚旅行䞭です。
    決しお、手に持っおいたワむングラスから、そこら蟺のお花にちょこっず掛けおみた、ずいうのではありたせん。「花畑」に「䞀暜」を「ぶちたけさせ」たのです。畑ずいうくらいですから、癟合は䞀面に咲いおいたでしょうし、赀ワむン䞀暜っお、なかなかの量になるず思いたす。それを、䞀緒に来おいた䜿甚人か誰かに呜じお、掟手に散垃させお、自分はそれをショヌのように眺めお愉しんでいたずいう構図になりたす。

    䞀䜓、䜕人がかりで、どうやっおぶちたけたのでしょうね 

    そしおルネは ルネはどうしおいたのでしょうか。ルネの倧事な新婚旅行䞭だずいうのに。  芋おたした。倫の顔を。お花も芋おいたす先ほどの匕甚を参照。そりゃあ、暪でそんなものが始たったら嫌でも芋たすよね  でも、それだけでしょうか

    「花匁から滎る赀いお酒をうっずりず眺めおい」るアルフォンスを芋぀めるルネは、驚きや困惑の衚情だったのでしょうか。それずも、ルネもたた、恍惚ずしおいたのでしょうか――あたかも、異次元の矎が珟実䞖界ぞず匕きずり降ろされお、束の間の実像を結ぶ奇蹟を目撃したかのように 。

    埌者 あるいは䞡方かもしれたせんね。熟考ず長考の末にそれを「宝石」だず蚀い出したわけですから。

    そしお぀目の堎面では、アルフォンスは矎しい薪を矎しい瞄で瞛る劄想を語り、぀目の堎面――兎の心臓を玠手で取り出した件に至っおは、残虐性の片鱗どころか、もう既に本番始たっおる感じじゃないですか  

    兎の心臓をちぎり取ったアルフォンスの手指は血たみれだったでしょうし、「恋心の圢には兎も倉りがない」ず蚀っお、笑い興じたずいいたす。

    アルフォンス『ご芧、ルネ。これが本物のハヌトマヌクだよ』
    ルネ『たあ、初めお芋るわ』

     っお感じでしょうか。

    ルネ、しっかりしおくれ  ルネ、なんかよく分からんけども、今すぐ生きお垰っおこい  ず私がルネの䞡芪なら思うず思いたす。

    ですが、ルネはアルフォンスのこずを気持ち悪がったり怖がったりするのではなく、圓初からどこか平然ずしおいたようで「その折々はみなあの人の気玛れや物奜きだず思っおいた」p.38ず蚀っおいたす。

    それっおやはり、䞖間䞀般的な反応ず違う ありおいに蚀えば、そもそもの倫人のセンスが“普通からかけ離れおいる”ように思われたす。

    最初から、ルネにはアルフォンスを愛する玠質が あるいはアルフォンスに執着する玠質が “アルフォンス掚し”になる玠質があったのです。

    幻想䞊の自己愛、あるいは名づけられない欠萜感の物語


    ルネは、先ほど匕甚したアルフォンスの行動に぀いお、恐れたり気持ち悪がったり䞍道埳であるず裁いたりするのではなく、さらに次のように語りたす。

    私には、理窟に合わないこんな感情が生れたした。蚘憶のあちこちに萜ちちらばっおいた玅玉の䞀粒䞀粒が、今俄にわかに䞀連の頞食りになったのなら、私はそれを倧切にしなければならない。身の宝にしなければならない。もしかするず、蚘憶も届かない叀い昔に、私の頞食りの糞が切れ、そのずき萜ちちらばった玅玉を、今やっず元の圢で取り戻したのかもしれないから。

    䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人・わが友ヒットラヌ』新版
    新朮瀟、新朮文庫、2020幎11月第䞀幕 p.38

    これです。この箇所をお芋せしたかったのです。

    「空想は自由だわ。私もアルフォンスから空想の力を教わりたした」p.53ず語るルネの空想は、「蚘憶も届かない叀い昔」ぞず矜ばたきたす。

    蚀葉は、ルネずアルフォンスを赀い糞で結び付けるかのように、次のような内容を瀺唆するのです。

    ――アルフォンスの゚ピ゜ヌドはどれも血ず犠牲の色をしおいるけれど、その゚ピ゜ヌドは䞀぀䞀぀がルビヌの粒のようである。それらを繋ぎ合わせるず、䞀぀の銖食りになる。その銖食りは、ルネが倪叀の昔に倱った倧切な宝物だった。それを「今やっず」取り戻した。蚀いかえれば、これたで、倧切な宝物を長いこずずっず倱ったたただった。

    ぀たりアルフォンスは、合理的には説明の぀かないようなルネの深い欠萜感を充たすこずのできる特別な存圚なのである、ず。

    これは、アンヌのいう「詩」のようでもあり、でも、掚し語りずいうより、これはもはや倢小説です。アルフォンス掚し×ルネ自分の倢小説です。

    「倢小説」ずは、ものすごく倧雑把に蚀うず、自分ず掚しずの恋愛を描いたファンアヌトの小説です。

    「倢小説」ずは䜕かに぀いお、詳しくはこの蚘事の䞭で私芋を述べおいたす。

    そしお、今匕甚したルビヌの銖食りの物語倢小説は、それっお぀たり、“アルフォンスは私ルネの運呜の人” ずいうこずを蚀おうずしおいるのでしょうか。

    そのような読者の思いを代匁するかのように、母・モントルむナ倫人は、「お前は宿呜ずいうこずを、蚀おうずしおおいでなのだね」p.38ずコメントしたす。
    そうですよね。運呜ずか宿呜ずか、そういう、“特別に定められたご瞁”的なこずを蚀っおいる感じですよね。

    しかしルネは、「いいえ、宿呜ではありたせん」p.38ず反論したす。

    ――えっ 違うの

    そう思われるでしょうか
    ルネは䜕故、「宿呜」ずいう蚀葉を退けたのでしょうか。

    思い出しお䞋さい、これたでに匕甚したアンヌの蚀葉を。そしお、ルネの蚀葉を。

    アンヌは、詩ずは「あんたり神聖なものや、あんたり汚ならしいものを理解するただ䞀぀のやり方」であるず蚀いたした。曎にルネも、「だっおアルフォンスは譬えでしか語れない人なのですもの」ず蚀いたした。

    ぀たり、ルネにずっおのアルフォンスが、平凡な日垞を超越した存圚である――あたりにも汚蟱にたみれおいる存圚であるず同時に、あたりにも神聖な存圚でもある「私ず䞍可胜ずの間の閟しきい」・「私ず神ずの間の閟」ずいうこずが語られおいたす。

    それなのに、これを「宿呜」ずいう手垢の぀いた蚀葉に眮き換えおしたえば、アルフォンスは日垞の理解の枠組みの䞭ぞず栌䞋げされおしたうこずになりたす。

    “そういう事っお、たあ、あり埗なくはないよね。だっお、それをたったの䞀蚀で蚀い衚す蚀葉が存圚しおいるのだから”ずいう颚に。

    ルネはそれを承知できなかったのではないでしょうか。

    䞀方、モントルむナ倫人は、あたかも食䞭毒を避けるために生肉に火を通すように、ルネの蚀葉を安党なものぞず――モントルむナ倫人にずっお安心できる枠組みの䞭ぞず翻蚳したかったのかもしれたせん。

    そしお、それを拒吊したルネは、アルフォンスの安党ではない郚分、無難ではない郚分、神秘的な郚分、そしお、食べたらお腹を壊すような郚分にこそ䟡倀を芋出しおいたのではないでしょうか。

    アルフォンスに぀いお語るルネの蚀葉。それはあくたでも劄想の物語にすぎない――そう蚀っおしたうこずは容易です。けれども、倢小説を芋くびっおはいけたせん。その幻想を語るこずによっおはじめお、

    自分はおそらく満たされおいるはずなのに、

    あるいは、誰かず比べお自分は充分に“恵たれおいる”はずなのに、

    それでも䜕かが根本的に足りない。心や魂は飢えお枇いお苊悩しおいる。

    そしお、もしもそれを口に出しおしたったら、莅沢だず非難されおしたうに違いない。

    ずいう名付けようのない欠萜感を、粟密に描写するこずができる
    のです。

    そしお、自分に欠けおいるもの、それも、日垞性や珟実性の䞭では決しお満たされるこずのないであろう欲望を蚀語化した䞊で、それを深く満たそうずする幻想䞊の自己愛の行為が、倢小説を描くずいう行為なのではないでしょうか。

    埌述するようにルネは、母の芖点から芋れば、フランス王劃に負けないくらい豊かに育おられたした。
    それにもかかわらずルネは、「蚘憶も届かない叀い昔」に倱くしおしたった銖食りずいう物語の圢でしか――倢小説ずいう圢でしか――蚀語化し埗ない欠乏感を抱えおいるこずに気付いたのです。

    ルネにずっおアルフォンスは、その欠乏感に気付くきっかけをもたらした存圚でした。アルフォンスがルネに「空想の力」を教えおくれたずいうのは、このこずを指しおいるずも解釈できるのではないでしょうか。

    アルフォンスはルネにずっお、「私はそれを倧切にしなければならない。身の宝にしなければならない」ず思えるような、充足感を䌎う至高の矎のむメヌゞをもたらしおくれる掚しだったのです。

    圌はルネにずっお、いわばむメヌゞの源泉を䞎えおくれるミュヌズであり、倢小説の䞭でダンスを共にしおくれる幻想䞊のパヌトナヌであるずいうべきではないでしょうか。

    生身のアルフォンスず、幻想䞊のパヌトナヌずしおのアルフォンス。それはむコヌルなのでしょうか いえ、埌者はルネの䜜品です。そのこずに、ルネは気づいおいるのでしょうか。

    物語に緊匵感をもたらしおいくこずになるこの亀裂に぀いお、今埌蚘事を改めお蚀及しおいくこずになりたす。

    ルネの思想を私の流儀で翻蚳するず以䞊のようになりたす。

    貎方の魂の奥底にも、そのような皮類の欠乏感が朜んでいたせんでしょうか

    ルネの蚀葉が玔文孊的芖点から芋おも、オタク的芖点から芋おも、あたりに矎しく思えるので、芪愛なる情緒豊かな同志たちの耳元ぞ囁いお回りたい皋なのですが、いかがでしょうか 。貎方のお県鏡には適いたしたでしょうか 

    そしお、ちょっずよろしいでしょうか。

      探偵の私から䞀蚀よろしいでしょうか。

    もう䞀人、いるず思うのです。もう䞀人、ルネに空想の力を教えた疑惑のある人物に心圓りがあるのですが、今から蚀いたすね。それはモントルむナ倫人、あなたです

    母も意図せず、ルネに空想を教えおしたった可胜性


    順を远っお説明させおいただきたいず思いたす。

    「空想は自由だわ。私もアルフォンスから空想の力を教わりたした」ずルネが語ったのは、第二幕のペヌゞ目です。そこから幎前、第䞀幕のペヌゞ目に戻るず、それはモントルむナ倫人がルネに離婚を勧める堎面ずなっおいたす。
    モントルむナ倫人はルネに、次のような蚀葉を語っおいたす。

    私たち䞡芪はお前をゆたかに育お、フランスの王劃になっおも恥かしくないほどの、気品ず矎しさず教逊を身に぀けさせた。お前はどんな仕合せな生涯だっお送る資栌をお持ちだった。それなのに、ああ、元はずいえば私のめがねちがいだが、お前はこの䞖で考えられるかぎりの怖ろしい結婚をしおしたった。お前はプロれルピヌヌさながら、花を摘んでいるずころをさらわれお、地獄の王の劃にされおしたった。おかくれになったお父さたも私も、誰にもずやかく蚀わせない正しい生涯を送っおきたのに、䜕の祟りで可愛い嚘に、こんな䞍幞を嘗めさせる成行になったのだろう。

    䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人・わが友ヒットラヌ』新版
    新朮瀟、新朮文庫、2020幎11月第䞀幕 pp.35-36

    この蚀葉の埌で、モントルむナ倫人はルネに「アルフォンスず別れおおしたいなさい せめお別離をなさい。圢はずもかく、きっぱりず別れおおしたい」p.36ずいいたす。そしおルネは「どんな圢ででも、アルフォンスず別れる気はございたせん」p.36ず反論したす。

     モントルむナ倫人、ちょっずよろしいでしょうか。

    「プロれルピヌヌさながら、花を摘んでいるずころをさらわれお、地獄の王の劃にされおしたった」ずいうのは、アルフォンスずルネの結婚を、ギリシャ神話のハデスずペルセポネの物語になぞらえおいたすね。

    より正確に蚀えば、ギリシャ神話を取り蟌んだロヌマ神話になぞらえおいたすね。ペルセポネのロヌマ神話名がプロれルピヌヌです。ギリシャ神話ずロヌマ神話の関係に぀いおはこちらの蚘事をご参照ください。

    続きの蚘事の䞭で補足する予定ですが、ハデスの領地は冥界であり、地獄ずは異なるのですが、その冥界の支配者であるハデスがある日、倧地の女神であるデメテルの嚘に䞀目惚れし、そしお、圌女を攫っお王劃にしおしたいたす。

    実は、ペルセフォネの父であるれりスの蚱可は䞋りおいたのですが、デメテルには知らされおいたせんでした。そのこずぞの憀りもあり぀぀、そしお䜕より、愛する嚘を奪われたこずを決しお承服できず、倧地の女神ずしおの仕事を攟棄するずいうストラむキを起こしたす。その結果、ペルセフォネは幎の分のは母のもずで過ごし、残りはハデスのもずで過ごすこずになったずいうギリシャ・ロヌマ神話の゚ピ゜ヌドが螏たえられおいるのです。

    これになぞらえるならば、モントルむナ倫人は、たるでデメテルのように嚘を案じ、アルフォンスから取り戻そうずしおいるずいう構図にもなりそうです。

    にもかかわらず 少々迂闊ではないでしょうか。

    モントルむナ倫人 。貎方にずっおアルフォンスは、嚘ず離婚or別居しおほしい婿なのですよね

    ですが、モントルむナ倫人 。貎方が語った物語は、アルフォンス × ルネずいうカップリングの、ギリシャ神話パロの同人誌のようではありたせんでしょうか。

    それっお、掚しを詩にするどころの隒ぎではないず思うのです。モントルむナ倫人、しっかりしおください。

    正気ですか 嚘さん、そこから䜕らかの気づきやヒントを埗たり、悊びを埗たりしおしたわないでしょうか 

    「私の人生がギリシャ神話パロの倢小説だった件」
    っおなりたせんでしょうか 

    ハデスずペルセポネのギリシャ神話
    ですよ そんなのもう、なんかよくわかんないけど、倚分、絶察、ルネの倧奜物なんじゃないですか なんずなく ルネ、冥界の王、奜きそうじゃないですか 喜んで぀いお行きそうじゃないですか そしお、ペルセポネず違っお二床ず地䞊に戻っお来なそうじゃないですか

    でも倚分、第䞀幕の時点で、もう既に手遅れです。
    私の掚理によれば、嚘さん――ルネは、ハデス×ペルセポネのカップリング、既にもうお奜きなのではないかず思いたす。

    手がかりずなる䜜䞭の描写は、この蚘事の䞭に既に匕甚枈みです。

    [次の蚘事に続きたす]

    曞誌情報

    ※免責事項ず甚語の解説に぀きたしおは、こちらのペヌゞをご参照䞋さい。

    䜿甚テクスト

    • 䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人・わが友ヒットラヌ』新版新朮瀟、新朮文庫、2020幎11月

     ISBN: 978-4-10-105050-8
     NDC: 912.6
    類文孊91日本文孊912戯曲912.6近代戯曲

    初出・初刊

    初出雑誌「文芞」1965幎11月号
    初刊䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人』河出曞房新瀟、1965昭和40幎11月

    初挔

    昭和四十幎匕甚者泚1965幎十䞀月十四日二十九日、NLT新宿・玀䌊囜屋ホヌル第二回提携公挔ずしお、東京・玀䌊囜屋ホヌルで初挔された。
    挔出束浊竹倫 装眮秋山正 照明穎沢喜矎男 衣裳考蚌うらべたこず 衣裳制䜜河本昭郎 舞台監督寺厎嘉浩 出挔[ルネ]䞹阿匥谷接子、[モントルむナ倫人]南矎江、[サン・フォン]真咲矎岐、[シャルロット]宮内順子、[シミアヌヌ]倏原倏子、[アンヌ]村束英子
     昭和四十䞀幎䞀月、文郚省第二十回芞術祭賞挔劇郚門受賞。

    田䞭矎代子「解題・校蚂」『決定版 䞉島由玀倫党集24』新朮瀟、2002幎11月p.720

    ※䞊の匕甚の[ ]内は、次の資料によっお補った。
    䞉島由玀倫「豪華版のための補跋『サド䟯爵倫人』」『サド䟯爵倫人・わが友ヒットラヌ』新版新朮瀟、新朮文庫、2020幎11月 p.228
    初出䞉島由玀倫『サド䟯爵倫人』限定版䞭倮公論瀟、1967幎8月

    参考文献

    • 䞉島由玀倫『決定版 䞉島由玀倫党集24』新朮瀟、2002幎11月

    • 高接春繫『ギリシア・ロヌマ神話蟞兞』岩波曞店、1960幎2月

    • マむケル・グラント、ゞョン・ヘむれル『ギリシア・ロヌマ神話事兞』
      西田実 他名蚳、倧修通曞店、1988幎7月

    • 藀村シシン『叀代ギリシャのリアル』実業之日本瀟、2015幎10月

    ◇

    ※ヘッダヌ画像は、フリヌ玠材を芏玄の範囲内でお借りしおいたす。
    photo by り゚ストマりス様

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    元図曞通員、定本眺芋さだもず・ななみが遞定する、「矎ず絶望の暙本箱」。あるいは「圢を持たない愛ず執着、名づけられない関係性に぀いおの芳枬蚘録」。月倜の幻想の閲芧宀から、貎方の「䜙癜」に向けお差し出された読曞案内です。気高い心に鮮やかな枯葉を積もらせる、繊现な感受性ぞ捧げたす。

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