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限界集落のダンジョンマスター〜SSS級の裏山で、世界一の米を作ります〜①

    【あらすじ】


    東京で六年働いたSEの田ノ上悠は燃え尽き、祖父・仁蔵の限界集落へ帰った。
    裏山にSSS級ダンジョンが出現し、国と探索者ギルドが立ち退きを迫る。
    七十八歳の猟師じいちゃんは猟銃一発で魔獣を仕留め、
    村の老人たちが爆竹・唐辛子・農業ワイヤーで撃退。
    魔法陣を農業用にハックし、魔素を吸った田んぼで世界一の米を作る話。

    プロローグ「山は、今日も静かだ」

     五月の夜明けというのは、音から始まる。

     鳥が鳴く。風が木々を揺らす。どこか遠くで沢の水が岩を叩く。
    それだけだ。都会のように、エンジン音も、空調の唸りも、誰かの怒鳴り声も、一切ない。
    あるのはただ、山が目を覚ます音だけだ。

     田ノ上仁蔵は、その音の中を歩いていた。

     地下足袋の裏が湿った土を踏む感触は、もう六十年近く変わらない。
    若い頃から慣れ親しんだその感触は、仁蔵にとって自分がまだ生きているという確認に近いものだった。
    七十八になった今も、この山を歩くことに不自由は感じない。
    膝が多少軋むようになったが、それは山道ではなく年のせいだと決めている。

     仁蔵が山を歩き始めたのは、十八の頃だった。

     父親に連れられて初めてこの山に入った日のことを、今でも覚えている。杉の木立が朝日を遮り、足元の土が柔らかく沈んだ。
    あの日の空気の匂いを、六十年経った今でも仁蔵は正確に思い出せる。土と苔と、朝露の匂い。それから父親が仕込んだ罠の獣脂の匂い。
    山というのは、一度体に入った匂いは二度と消えないものだ。

     父が死んで、仁蔵は一人でこの山を歩くようになった。妻が来て、一緒に歩くようになった。
    息子が生まれ、孫が生まれた。そして今、また一人で歩いている。

     山だけが変わらなかった。

     それが仁蔵には、何よりの慰めだった。人は去り、時は流れ、
    世の中が変わっても、この山の朝は変わらない。日が出れば鳥が鳴き、雨が降れば沢が増え、雪が積もれば獣の足跡だけが残る。そういうものだ。

     今朝の空気は、少し違った。

     湿度が高い。いや、正確には湿度ではない。何か別のものが、空気に混じっている。
    仁蔵はそれを言葉にできなかったが、体がそれを知っていた。六十年、この山と向き合ってきた体が。

     裏山の七合目。そこで仁蔵は、足を止めた。

     見慣れた杉林の奥に、それはあった。

     昨日まではなかったはずのものが、今朝はそこにある。直径にして二十メートルはあろうかという、黒い円形の「穴」だ。
    穴と言っても、地面が陥没しているわけではない。空中に浮かぶように、あるいは山の斜面に貼り付くように、その暗闇はそこに存在している。
    縁の部分が微かに青白く発光し、朝霧の中でぼんやりと輝いていた。

     近づけば引き込まれる。そういう種類の気配だ。

     仁蔵はしばらく、ただそこに立っていた。目が動かない。呼吸だけが、山の空気に溶けていく。

     山は静かだった。鳥たちはその穴から距離を置いて飛んでいる。
    本能的に避けているのだろう。賢い生き物はいつだって、危ないものの匂いを先に嗅ぎとる。

     仁蔵は昔、熊と目が合ったことがある。深い山の中で、向こうも仁蔵に気づいていなかった。
    二十メートルほどの距離で、互いに動きを止めた。あの時の熊の目と、この穴から放たれる気配が、少し似ていた。
    こちらを値踏みしているような、しかしどこか静かな気配だ。

     やがて仁蔵は、深く息を吸った。杉と土と草の匂い。
    朝の山の、いつもの空気だ。しかしその奥に、微かに異質なものが混じっている。鉄とも硫黄ともつかない、嗅いだことのない匂い。

     しかし仁蔵は眉一つ動かさなかった。

     長い沈黙の後、彼は短く呟いた。

    「……やれやれ」

     それだけ言うと、仁蔵はくるりと背を向けた。来た道を戻り始める。地下足袋が土を踏む音が、静かな山に吸い込まれていく。

     穴は何も言わなかった。ただそこにあり続けた。青白い光を放ちながら、静かに、確かに、峰ノ宮村の裏山に存在し続けた。

     そしてもう一つ。仁蔵だけが気づいていたことがある。

     穴の縁の発光が、わずかに——ほんのわずかに——昨日より深い場所から来ている。

     まるで、下の方に何かがある、と言いたそうに。

     山は、今日も静かだった。

     ただし、昨日とは少しだけ、違う静けさで。

    第1話 限界集落に帰省したら、実家の裏山がSSS級ダンジョンになっていた件

     田ノ上悠が会社に辞表をメールで送ったのは、水曜日の朝七時十四分だった。
    正確には「辞表」ではなく「退職届」だが、その区別を考える余裕が当時の悠にはなかった。WordのテンプレートをGoogleで検索し、
    自分の名前と日付を打ち込み、PDFに変換して上司のアドレスに送信した。所要時間は十一分。
    六年間勤めた会社との縁を切るのに、十一分しかかからなかった。

     送信ボタンを押した瞬間、悠は不思議なほど何も感じなかった。

     怖くもなく、解放感もなく、後悔もなかった。
    ただ、長い長い息を一つ吐いて、それから洗面台に向かって顔を洗った。
    鏡の中の自分は、二十八歳にしては随分くたびれた顔をしていた。
    目の下に薄く隈が浮いている。頬が削れたように細い。
    いつからこんな顔になったのか、思い出せなかった。

     六年間。

     声に出してみると、妙に長く感じた。

     入社したての頃は、夢があった。ITで社会を変える、などという青臭いことを本気で信じていた。
    しかし現実は、誰かが決めた仕様書通りにコードを書き、誰かが決めた期日通りに納品し、誰かが決めた評価基準で査定される、
    その繰り返しだった。六年間で悠が作ったものは、データであり、
    報告書であり、プレゼン資料だった。誰かの利益のための、目に見えない何かだった。

     それでも最初の三年は、耐えられた。若さと希望が、消耗を上回っていた。

     しかし四年目に上司が変わった。新しい上司は数字だけを見る人間で、
    チームの疲弊を「管理の問題」と呼んだ。残業を「情熱の証明」と呼んだ。休暇申請を「責任感の欠如」と呼んだ。悠はその言葉の全てに、
    どこかで頷いてしまっていた。そうやって少しずつ、自分の感覚がすり減っていった。

     昨夜、また終電で帰った。アパートに着いた時、自分が何を食べたいのかが分からなかった。コンビニの前で五分間立ち尽くして、
    結局何も買わずに帰った。冷蔵庫を開けたら、三日前に買った牛乳が賞味期限切れになっていた。

     その夜、夢を見た。

     じいちゃんの田んぼの夢だった。夏休み、小学生の頃の夢だ。
    仁蔵と二人で田んぼに入って、素手で泥を掘り返していた。
    全身が泥だらけで、靴はどこかに沈んでしまっていた。
    それなのに悠は笑っていた。仁蔵も、珍しく笑っていた。

     目が覚めた瞬間、悠はスマートフォンを取り出した。
    WordのテンプレートをGoogleで検索した。

     それから悠は、スーツのままキャリーケースに三日分の荷物を詰めた。

     残りはどうするか。賃貸の契約はどうするか。会社の備品はどうするか。全部、後でいい。

     そう思った瞬間、悠の足は玄関に向かっていた。
    そのまま東京駅まで歩き、新幹線の自由席に乗り込んだ。
    行き先は、子供の頃から夏休みのたびに通い続けた、あの村だ。

     新幹線が動き出したのは、朝の八時を少し回った頃だった。

     車窓から東京の街が流れていく。ビルが、駅が、高架が、
    次々と後ろへ消えていく。悠はそれを眺めながら、
    ぼんやりと考えた。六年間、俺はここで何をしていたんだろう、と。

     答えは出なかった。出る前に眠ってしまった。

     峰ノ宮村のバス停は、終点だった。

     一日三本しか来ないバスは、悠が乗り込んだ時点で他に客が一人もいなかった。
    運転手の老人は悠を見て「ああ、仁蔵さんとこの孫か」と言った。
    名乗る前に分かるのだから、限界集落というのはそういうものだ。

    「久しぶりじゃな」運転手は前を向いたまま言った。「仁蔵さん、待っとったぞ」

    「……待ってたって、言ってましたか」

    「言わんが、分かる。あの人は顔に出んが、目に出る」

     バスを降りた瞬間、五月の風が頬を撫でた。温度が低く、
    湿っていて、草と土の匂いがする。都会では嗅いだことのない風だ。
    悠は思わず深く息を吸い込んだ。肺の奥まで、満たされていく。
    気づいたら、もう一度吸っていた。

     バス停から祖父の家まで、緩やかな坂道を十分ほど歩く。
    舗装の割れた道を歩きながら、悠は子供の頃のことを思い出していた。
    毎年夏休みになると、この道を走って仁蔵の家に向かった。
    農道の脇に咲く野花の名前を仁蔵に教わりながら、
    山に入って蝉を捕まえた。あの頃の仁蔵は、もっと喋っていた気がする。
    それとも、子供だった悠の方が、一方的に喋り続けていただけだろうか。

     仁蔵の家は、村の外れにある古い農家だった。
    築六十年は超えているはずだが、手入れが行き届いており、
    くたびれた味わいの中に清潔さがある。縁側に、仁蔵が座っていた。
    茶を飲みながら、山の方を見ていた。悠が門をくぐっても振り向かなかった。

    「……じいちゃん」

     悠が声をかけると、仁蔵はゆっくりと顔を向けた。皺の深い顔が、
    一瞬だけ何かを確認するように悠を見た。
    それから視線を山に戻し、湯呑を口に運んだ。

    「遅かったな」

     それだけだった。出迎えもなく、心配の言葉もなく、説教もなく、
    ただ「遅かったな」の一言。悠は拍子抜けしながら、
    縁側に腰を下ろした。仁蔵が黙って、もう一つの湯呑に茶を注いだ。

     受け取って、一口飲んだ。ぬるい番茶だった。甘くも苦くもない、ただの番茶だ。それなのに悠は、喉を通る瞬間に目を閉じていた。
    六年分の疲れが、その温度の中に溶けていくような気がした。

    「……ただいま」

     声が、思ったより小さかった。東京ではずっと、誰かに聞かせるために声を出してきた。ここでは違う。この一言は、自分のためだけの言葉だった。

     呟くと、仁蔵は何も言わなかった。ただ山を見続けていた。それで十分だった。

     峰ノ宮村の朝は、早い。

     翌朝五時に仁蔵に叩き起こされた悠は、寝惚け眼のまま田んぼへ連れて行かれた。五月は田植えの時期で、仁蔵の田んぼは一面水が張られ、朝日を反射して鈍く光っていた。

    「手伝え」

     それだけ言って、仁蔵は長靴を履いて田んぼに入っていった。
    悠もなんとなく長靴を借りて後に続いたが、最初の一歩で盛大にはまった。泥の中に長靴がずぶずぶと沈み、抜こうとすると靴だけが残って足が泥に突き刺さる。仁蔵は振り返りもしなかった。

    「……うわ、待って、待って待って」

     泥の中で片足だけ立っている自分の姿が、情けなくて少し笑えた。六年間スーツを着てパソコンを叩いていた人間の末路がこれか、と思った。

    「騒ぐな。稲が驚く」

     その日の朝だけで、悠は三回転び、二回長靴を泥の中に置き忘れ、一回盛大に前のめりになって田んぼに顔から突っ込みかけた。仁蔵はその都度、ため息だけついた。口に出して注意すらしない。

     それでも午前中の作業を終え、縁側で仁蔵が出してくれた握り飯を食べたとき、悠は思わず声を上げた。

    「……うまい」

     塩だけの、シンプルな握り飯だった。だが米の甘みが濃く、噛むほどに旨味が出てくる。

     悠は握り飯を持ったまま、しばらく動けなかった。

     仁蔵は何も言わなかった。ただ、握り飯を持つ手が、いつもより穏やかだった。それが仁蔵の笑顔だと、悠には分かった。

    「俺の田んぼの米じゃ」

     それだけ言って、仁蔵はまた山を見た。自慢をするでも、説明をするでもなく、ただそれだけ言った。しかしその一言に、何十年もの時間が詰まっているような気がした。

    「どうやって作るの、こんな味」

    「土と、水と、手間じゃ」

     それだけ言って、仁蔵はまた山の方を見た。

     悠は握り飯をもう一度見た。それからまた一口食べた。米粒の一つひとつが、噛むたびに甘みを出してくる。喉を通る感触が、温かかった。

     六年間、俺は何を食べていたんだろう。コンビニの袋に入ったまま。味を覚えていない日の方が多かった。会議室でパソコンを開きながら、昼が終わっていた。

     その気づきは、静かに来た。怒りでも悲しみでもなく、ただ、そうだったな、という感覚だった。

    「この米、どこかで売ったりしないの」

    「売らん」

    「なんで?こんなにうまいのに」

     仁蔵は少し間を置いた。「売るために作っとるんじゃない」

     悠はその言葉を、何度か頭の中で繰り返した。売るために作っていない。では何のために作るのか。その答えを、仁蔵は言葉にしなかった。しかし握り飯を食べながら、なんとなく分かった気がした。

     この米は、ここで生きるための米なのだ。この土と、この山と、この村のための米なのだ。

     村の人間との顔合わせは、自然な形で起きた。

     翌日の朝、作業を終えて仁蔵の家に戻ると、縁側に見知らぬ老人が二人座って茶を飲んでいた。松永清八と藤堂茂だと仁蔵が短く紹介した。清八は赤ら顔で、にかっと笑う。茂は無口で、手元の機械部品から目を離さなかった。

    「都会から逃げてきたんじゃろ」清八が笑った。「まあええわ」

     一呼吸置いて、付け加えた。「体動かせば治る」

    「……何が治るんですか」

    「なんでも」

     清八は断言した。根拠は何もなさそうだが、妙に説得力があった。

    「仁蔵さんとこの孫か」茂が初めて口を開いた。「機械、使えるか」

    「パソコンなら。農機具は全然です」

     茂は少し考えた。「パソコンか」それからまた部品に戻った。何かを考えているのか、それとも興味をなくしたのか、判断がつかなかった。

     その日の昼には、岸本幸子の食堂で昼食を取った。坂本義雄と岩本トミ子がいた。義雄は背筋の良い元自衛官で、トミ子は小さくてきびきびした薬草の女王だった。

    「あら、悠くん久しぶりねえ」トミ子が言った。「顔色が悪いわよ。ちょっと待って」

     トミ子はカバンから小さな瓶を取り出した。「これ飲みなさい。私が調合したやつ。山の薬草入ってるから」

    「……大丈夫なやつですか」

    「失礼ね。三十年作り続けてるのよ」

     義雄が静かに笑った。「飲んどけ。効くぞ」

     恐る恐る飲んでみると、苦いが確かに体の奥から温まってくるような感覚があった。昼食の定食は山菜の煮物と焼き魚と米で、また米がうまかった。「おかわりあるよ」と幸子が言い、悠は迷わず頼んだ。

     食堂を出た後、トミ子が悠に小声で言った。「この村の人たちを、よろしくね」

     悠は何も言えなかった。よろしくね、という言葉の重さが、思ったより胸に響いた。

     西田公一と初めてまともに話したのは、悠が村に来てから五日目のことだった。農道で草刈りをしていると、軽トラックが止まり、日焼けした五十代の男が降りてきた。

    「あんたが仁蔵さんとこの孫か」

    「そうです。田ノ上悠といいます」

    「都会から逃げてきたんだって?」

    「……まあ、そんな感じです」

    「農業、やったことあるか」

    「ないです」

    「機械は」

    「田んぼ系は、全くないです」

     公一はしばらく悠を見ていた。値踏みするような目だったが、悪意ではなく、ただ事実を確認しているような目だった。

    「仁蔵さんが面倒見るって言うなら、まあ口出しはせん。困ったことがあったら言え。ここは俺の村でもある」

     それだけ言って、走り去った。不器用だが、受け入れようとしている。そういう人間が村の柱になる。どこの土地でも、きっとそうだ。

     後日、西田房子が教えてくれた話だが、公一は悠が来ると分かった日から、農道の一部を密かに補修していたらしい。「あの人、素直じゃないけど、一番気にかけてるのよ」と房子は笑った。

     村での一日は、都会とは別の時間が流れていた。

     朝五時に起きて田んぼに出る。七時に戻って朝飯を食う。午前中はまた農作業、昼に幸子の食堂、午後は草刈りか水路の管理か、あるいは仁蔵の猟具の手入れの手伝い。日が落ちれば、縁側でお茶を飲んで終わりだ。

     最初の一週間、悠の体は悲鳴を上げ続けた。

     腰が痛い。手が荒れる。肩が張る。長靴の中が蒸れて、夕方には足先が痺れた。仕事帰りにコンビニに寄って栄養ドリンクを買うという習慣が体に染み付いていたが、この村に最寄りのコンビニはバスで三十分先にある。

     代わりにトミ子が薬草を煎じたものを持ってきた。「効くから」と言うだけで成分は教えてくれなかった。飲んだら確かに効いた。体の奥から温まり、翌朝の疲れの抜け方が違う。

    「トミ子さん、これ何が入ってるんですか」

    「企業秘密よ」

    「企業じゃないですよね」

    「女の秘密よ」

     それ以上は聞けなかった。

     日が経つにつれ、少しずつ体が順応し始めた。朝五時に目覚ましなしで起きられるようになった。長靴での歩き方が分かってきた。泥の中でバランスを取るコツが、徐々に体に染み込んできた。

     仁蔵はその変化を何も言わなかった。ただ、ある朝、田んぼに入った悠を見て、ほんのわずかに頷いた。それだけだった。しかし悠には、その頷きがどんな言葉より重かった。

     夕方、縁側で仁蔵と二人でお茶を飲む時間が、少しずつ好きになっていった。

     会話はほとんどない。仁蔵は山を見て、悠は田んぼを見て、それぞれ黙って茶を飲む。東京にいた頃、悠は沈黙が苦手だった。会議でも、飲み会でも、隙間があると何か話さなければという焦りがあった。しかしここでは違う。この沈黙は、空虚ではなかった。山の音が入ってくる。風の音が入ってくる。それで、十分に満たされる。

    「じいちゃん、毎日こんな感じ?」ある夕方、悠が聞いた。

    「そうじゃ」

    「ずっと、一人で?」

    「一人ではない」仁蔵は山を見たまま言った。「山がある」

     その言葉の意味を、悠はしばらく考えた。山が友達、ということではないと思う。山が隣にいる、ということでもない。もっと違う何か——山と自分が、同じ時間の中にいる、ということだろうか。

     答えは分からなかった。しかし聞かなくていいとも思った。

     縁側の下の庭で、カエルが一匹鳴き始めた。田んぼから来たのだろう。

     仁蔵は気づいていた。悠も気づいた。二人とも、何も言わなかった。

     ダンジョンゲートの存在を悠が知ったのは、村に来て六日目の夜明けだった。

     珍しく仁蔵より早く起きた悠が、一人で裏山の入り口まで散歩に出かけた。まだ日が出る前の薄明かりの時間だ。獣道を少し登ったところで、悠は足を止めた。

     杉林の奥、山の斜面に沿うように、巨大な「何か」が浮かんでいた。円形の暗闇で、縁が青白く光っている。直径は二十メートル近くあるだろうか。朝霧の中で発光しており、幻想的という言葉では片付けられない、ただならない気配があった。

     悠は三秒ほど固まっていた。それから、スマートフォンを取り出して写真を撮った。元SEの習性で、まず記録する。

     縁側に戻ると、仁蔵がすでに茶を飲んでいた。悠はスマートフォンを差し出した。「じいちゃん、裏山にこれ——」

    第2話 じいちゃん、一発で仕留める。——ただの猪じゃな

     ヘリコプターが来たのは、昼過ぎだった。

     最初は一機だった。音を聞いた仁蔵が空を見上げ、「うるさいな」と言った。それだけだった。しかし一時間もしないうちに、もう二機が続いた。三機のヘリが峰ノ宮村の上空を旋回し始めると、さすがに村全体がざわめいた。

     岸本幸子の食堂に、村の住人が自然に集まってきた。西田公一が腕を組んで空を睨んでいた。松永清八が「なんじゃなんじゃ」と落ち着きなく外を覗いていた。藤堂茂は手元の部品から目を離さなかった。坂本義雄だけが、静かな目でヘリの動きを追っていた。元自衛官の目だ、と悠は思った。状況を整理する目ではなく、すでに次の手を考えている目だ。

    「政府の調査隊じゃろうな」義雄が静かに言った。

    「ダンジョンゲートが出たからですか?」悠が口を開いた。

    「裏山にある、あれは今の世界では『ダンジョンゲート』と呼ばれているものだと思います。ここ数年で世界中に出現している。ただ……こんなに大きいのは、見たことがないです」

    「追い出されるのか、俺たちは」清八が聞いた。

    「分かりません。でも、そういう可能性はあります」

    「誰が決める、そんなことを」公一の眉間の皺が深くなった。

    「国が、だと思います」

     公一は黙った。腕を組んだまま、窓の外の空を見上げた。ヘリコプターの音がまだ聞こえていた。その音が消えるまで、公一は一言も発しなかった。しかしその沈黙の重さが、全てを語っていた。

     翌朝、村の入り口に黒いワンボックスカーが三台停まった。

     降りてきたのは、スーツ姿の官僚と思しき男たちと、動きやすい戦闘服に身を包んだ探索者たちだった。腰に魔剣を下げ、体には魔力強化の装備を纏っている。その一式だけで、軽く一千万は超えるだろう。

     先頭の男を見た瞬間、悠はその目を避けたくなった。

     三十代半ば。顔立ちは整っており、姿勢が良い。しかし目が冷たかった。山を見て、田んぼを見て、古い家々を見て——その全てを「価値のないもの」として処理するような一瞥をして——それから悠に視線を止めた。値踏みする目だった。

    「ここの責任者は?」低く、よく通る声だった。

    「……村に村長はいませんが」悠が答えた。「何のご用件でしょうか」

    「皇都探索者連合、黒瀬隼人だ」男は名刺を差し出した。肩書きには「SSS級探索者・現場統括」とあった。「国土交通省および内閣府特別指定機関の委任を受け、このダンジョンゲートの管理権限について協議しに来た」

     名刺を受け取りながら、悠は内心で思った。来た、と。

    「まず確認させてほしい」黒瀬は続けた。「このゲートから、すでにモンスターの出現はあったか」

    「今のところはないです」

    「そうか」黒瀬は裏山の方向に目をやった。「SSS級ゲートが解放状態にある場合、初動の七十二時間以内に必ず第一波が来る。標準的な手順では、周辺住民の一時避難を推奨することになっている」

    「一時避難」

    「そうだ。危険区域の指定と、住民の安全確保が最優先になる」黒瀬の声は終始事務的だった。怒っているわけでも、脅しているわけでもない。ただ、プロセスとして処理している、そういう声だった。それがかえって、悠には不気味に感じた。

     そこへ、後ろから声がした。

    「危険なのはお互い様じゃろ」

     仁蔵だった。いつの間にか縁側から出てきており、腕を組んで黒瀬を見ていた。背丈は黒瀬より二十センチ近く低い。しかし仁蔵が立つと、なぜか空気の重心が変わった。

     黒瀬が仁蔵を見た。老人だと分かっているはずなのに、視線が一瞬だけ揺れた。長年探索者として生き残ってきた本能が、何かを感知したのかもしれない。

    「ご老人、状況をご理解いただけないようであれば——」

    「理解しとる」仁蔵は短く言った。「山は昔から危ない。それで六十年、俺はここにおる」

     黒瀬は何か言いかけて、止めた。

     その日は、それ以上の進展はなかった。しかし悠は見ていた。黒瀬が帰り際、もう一度だけ仁蔵を振り返ったことを。その目に、ほんの少しだけ、事務的ではない何かがあったことを。

     ダンジョンゲートが開いてから三日目の夜明け前、それは来た。

     最初に気づいたのは仁蔵だった。

     夜明け前の山を一人で歩いていた仁蔵が、足を止めた。音ではない。気配でもない。ただ、土の匂いが変わった。鉄と獣脂が混ざったような匂い。山の奥から、何かが動いてくる匂いだ。

     仁蔵は急がなかった。ただ静かに踵を返し、家に戻った。そして悠の肩を一度だけ叩いた。「来た」それだけだった。

     悠が飛び起きて外に出ると、村の入り口付近に黒瀬のチームがすでに展開していた。装備を整えた十二名の探索者たちが隊列を組み、緊張した面持ちで山の方角を向いている。黒瀬が先頭に立ち、魔剣の柄に手をかけていた。

     夜明け前の空気は冷たく、全員の吐く息が白く見えた。

     悠はアプリを開いた。出現予測が点灯していた。『大型猪型魔獣:出現確率98%。接近中』

    「黒瀬さん」悠が声をかけた。「猪型が来ます」

    「猪型か」黒瀬は目を細めた。「Sランク上位の個体だ。全員、第二陣形に——」

     その時、杉林の奥で枝が折れた。

     音が、大きかった。

     現れたのは、猪だった。ただし、普通の猪ではない。体長は三メートルを超え、体毛が黒く変色している。目が赤く光り、鼻から青白い息を吐いている。蹄が地面を踏むたびに、土がえぐれた。背中には骨のような突起が並んでいる。

     その個体が農道に出てきた瞬間、村の住人たちが思わず後退した。黒瀬のチームでさえ、一歩下がった。

     悠も、正直に言えば逃げ出したかった。

     しかし仁蔵は動かなかった。

     仁蔵はただ、猪を見ていた。じっと、静かに、値踏みするように。猟師の目だった。六十年間、山の獣を見続けてきた目だった。

     黒瀬のチームが動いた。魔剣を抜き、魔法陣を展開する。先頭の探索者が詠唱を始め、後方の者が矢を番える。動きに迷いが一切なかった。

     しかしその瞬間。

     パン、という乾いた音が一つした。

     猪型の魔獣が、前足から崩れた。

     全員が振り返った。

     仁蔵が猟銃を肩から下ろすところだった。煙が薄く上がっている。詠唱もなく、魔法陣もなく、装備の輝きもなく、ただ一発の銃声と共に、魔獣は地に伏していた。

    「……ただの猪じゃな」

     静寂が広がった。

     黒瀬の表情が、初めて崩れた。形容するなら、絶句、という言葉が最も近い。詠唱を途中まで進めていた探索者が、口を開けたまま固まっていた。

     仁蔵は銃の遊底を引いて薬莢を取り出し、ポケットにしまった。それから魔獣をじっと見た。

    「目が光っとるじゃろ」仁蔵が悠に言った。「あれは目に魔素が集中しとる証拠じゃ。目から脳へ抜けば、どんな獣も止まる」

    「……それ、どうやって分かるの」

    「見れば分かる」

     それだけだった。

     その会話を後で黒瀬に伝えた。黒瀬はしばらく黙っていた。それから、煙草を取り出した。火をつける前に、一度手を止めた。「……化け物だ」低い声だった。悪口ではない。それだけは、はっきり分かった。

    「あの老人のスキャンデータを教えてもらえますか」黒瀬は続けた。

    「アプリには出てます。田ノ上仁蔵:『大地の呼吸≪ランド・ブレス≫(Lv.MAX)』『神速の害獣感知≪ビースト・サイト≫(パッシブ)』『山岳の目≪マウンテン・アイ≫(Lv.MAX)』」

     黒瀬は少し間を置いた。「……LvMAXが三つ。世界ランク一位の探索者でも、一つ持っていれば伝説と呼ばれる」

    「じいちゃんは農家です」

    「猟師だ」

    「農家兼猟師です」

     黒瀬はそれ以上、何も言えなかった。

     魔獣の死骸の処理が終わった夕方、黒瀬は一人で裏山の麓に立っていた。

     部下の誰も知らない場所で、黒瀬は煙草を一本取り出した。火をつけ、山を見る。ダンジョンゲートが青白く光っている。

     SSS級探索者として、黒瀬はこれまで世界中のダンジョンを渡り歩いてきた。最前線で戦い、仲間を失い、それでも生き延びてきた。その経験の全てが、今日のあの老人の一発を理解できないと言っている。

     防御魔素値Sランク上位の個体を、猟銃一発で。

     理屈に合わない。しかし事実だ。

     黒瀬はゆっくりと煙を吐いた。故郷のことを、久しぶりに思った。自分が生まれた村も、こんな山の中にあった。もうずいぶん帰っていない。帰れる顔がないと思っていた。

     あの老人の目を、黒瀬は思い出した。恐れていない目だった。脅威を前にしても、土台が揺れない目だった。何十年もこの山と向き合ってきた人間の、静かな目だった。

     黒瀬には、ああいう目をした人間の知り合いが一人もいなかった。気づくと、それが少し寂しかった。

     黒瀬は煙草を踏み消した。それから携帯を取り出し、電話をかけた。

    「御堂。状況を報告する」

    「お聞きしています」電話の向こうで、御堂静香の声が聞こえた。「現地の住民が想定外の対応力を持っているとのことですね」

    「ああ」

    「財前さんは、予定通り進めるようにとのことです。住民の実力がどうであれ、法的手続きで排除できる、と」

     黒瀬は少し間を置いた。「分かった」

     電話を切った後、黒瀬は三秒ほど、山を見ていた。それからスマートフォンをポケットにしまった。

     財前の言う通りにする。それが自分の仕事だ。しかし——あの老人と、あの米を食べて育ってきたであろうあの青年を、法的手続きで追い出すことが、本当に正しいことなのかどうか。

     答えは、まだ出なかった。

     翌日、黒瀬は部下のレポートに目を通した。その中に、一行だけ気になる記述があった。

    「本ゲートに関し、国内組織以外からの照会あり。照会元:神崎財閥グループ関連企業。詳細不明」

     黒瀬は少し眉を寄せた。神崎財閥。国内最大手の資源開発コングロマリットで、ここ数年はダンジョン関連事業に積極的に参入しているという話は聞いていた。

     なぜ彼らが、この山奥の限界集落に目をつけているのか。

     黒瀬はそのページに小さく付箋を貼り、ファイルを閉じた。

     翌日の夕方、御堂静香が峰ノ宮村に到着した。

     黒瀬とは対照的に、御堂は黒塗りの高級車で来た。降り立った姿は、どこから見ても完璧だった。スーツの縫い目、靴の光り具合、髪の一本一本に至るまで、乱れがない。笑顔は自然で、声は穏やかで、物腰は丁寧だった。

     笑顔も、声も、物腰も、全部なめらかすぎる。元SEとしてよく知っている感触だ。設計されたシステムの、完璧すぎる動作に似ている。

    「田ノ上悠さんですね。御堂静香と申します。皇都探索者連合の渉外担当です」

    「はじめまして」

    「こちらのお村、とても素敵ですね」御堂は山を見渡した。「空気が違います。都会では味わえない」

    「……ありがとうございます」

    「少しお時間をいただけますか。お茶でも飲みながら——ゆっくり、お話したいことがあって」

    「ゆっくり」という言葉の置き方が、引っかかった。

     岸本幸子の食堂に、御堂と悠が向かい合って座った。幸子がお茶を出した。

     御堂はお茶を一口飲んで、「美味しい」と言った。本当に美味しそうに言った。それが演技なのか本心なのか、悠には判断できなかった。

    「田ノ上さん、ダンジョンマスターとして認定されているとのこと、私どもも把握しております」御堂は静かに切り出した。「そのことについて、ぜひご相談させていただきたいのです」

    「相談、ですか」

    「はい。ダンジョンの副産物——魔石および魔素関連物質について、弊社との独占契約をご検討いただけないでしょうか」

     御堂はそう言って、書類を取り出した。数字が並んでいた。一般的な農家の年収とは、桁が違う。

    「この契約を結ぶと、ダンジョンの管理権限はどうなりますか」

    「実質的な管理は弊社が行います。田ノ上さんはダンジョンマスターとして名義上の権限を持ち続けますが、運用については弊社の指示に従っていただくことになります」

    「つまり、権限だけあって、決定権はない」

     御堂は微笑んだ。完璧な微笑みだった。「そのような言い方もできますが、実際には田ノ上さんのご負担が大幅に減るということです。ダンジョンの管理は専門家に任せ、田ノ上さんは農業に専念できる。それは悪い話ではないはずです」

    「農業に使う魔素の利用は」

    「弊社の許可が必要になります」

    「許可の判断基準は」

    「弊社の判断になります」

     悠はお茶を一口飲んだ。温かかった。幸子が気を遣って出してくれたお茶だ。

    「少し考えさせてください」

    「もちろんです」御堂はにこりとした。「ただ、一つだけ申し上げておくと——このダンジョンの存在は、国の特定危険地域指定の対象になり得ます。そうなった場合、住民の方々は強制的に——」

    「脅しですか」

     悠が静かに言った。御堂は表情を変えなかった。

    「情報提供です。可能性の一つとして、ご参考までに」

     御堂が去り際、ふと立ち止まった。「一つだけ、個人的なことを申し上げていいですか」

    「どうぞ」

    「このお村のお米、本当に美味しいですね」御堂は振り返らずに言った。「私、こんなにおいしいお米、初めて食べました」

     それだけ言って、御堂は出ていった。

     幸子がお茶を注ぎ足しながら言った。「感じのいい人ねえ」

    「そうですね」

     幸子はしばらく、閉まった引き戸を眺めていた。それからカウンターを静かに拭きながら、独り言のように言った。

    「ああいう感じのいい女はね。絶対、裏があるのよ」

     悠は幸子を見た。

    「全部、反対の意味で取りなさい」

     それだけ言って、幸子は新しい湯呑を悠の前に置いた。

     悠はしばらく考えた。反対の意味。余裕がある振り。急がせない振り。情報提供という言葉。

    「……分かりました」悠はゆっくり言った。「余裕をなくさせて、脅してるんですね。気を付けます」

     幸子は何も言わなかった。ただ、差し出したお茶が湯気を上げているのを、静かに見ていた。

     その夜、御堂はホテルの部屋から財前大樹に電話を入れた。

    「初回の接触は完了しました。相手は若いですが、頭が回ります。感情ではなく、構造で考える人間です」

    「交渉の見通しは」電話の向こうの財前の声は、低く、平板だった。感情の起伏がない。情報を処理している機械のような声だった。

    「時間をかければ、法的圧力で折れます。ただ——」

    「ただ?」

    「現地に変数があります。老人たちです。特に田ノ上仁蔵という七十八歳の猟師」

    「老人一人が変数になるか」

    「黒瀬が動揺しました」

     沈黙があった。財前にとって、黒瀬の動揺は想定外だったらしい。

    「黒瀬が動揺した?」

    「はい。あの男がSSS級ダンジョンの第一波を、猟銃一発で片付けました。七十八歳の猟師が」

     また沈黙。今度はもう少し長い沈黙だった。

    「……排除は法的手続きで行え。実力行使はするな。目立ちすぎる」

    「承知しました」

    「ただし、必要なら——ダンジョンの内部から、少し手を加えることもできる。マスター権限を持っていても、内側からの介入は防げない」

     御堂は少し間を置いた。「……それは、危険ではないですか」

    「危険だから効果がある。村が自分たちで制御できない事態になれば、住民は自発的に出ていく。誰も傷つかない。ただ、少し怖い思いをするだけだ」

    「……もう一点、報告があります」御堂は続けた。「神崎財閥から、このゲートについての照会が来ています」

     財前は少し間を置いた。今度の沈黙は、これまでとは種類が違った。

    「……神崎が動いたか」

    「ご存知なのですか」

    「面識がある」財前はそれだけ言った。「急げ。向こうが本格的に動く前に、権限を押さえろ」

     御堂は電話を切った後、窓の外の山を見た。暗闇の中に、ゲートの青白い光がうっすらと見える。どのくらい眺めていただろう。気づけば手の中のスマートフォンが冷えていた。

     財前が「神崎」と聞いた時の声の変化を、御堂は正確に記憶した。恐れ、ではない。警戒、でもない。あえて言うなら——焦り、だった。

     財前が焦る相手。神崎財閥。

     御堂は初めて、この村の問題が思っていたより大きいかもしれない、と思った。

     その夜、悠はダンジョンマスターのアプリを改めて開いた。

     ゲートを初めて見た夜から、このアプリとつきあい始めてもう一週間になる。最初は戸惑いしかなかったが、元SEとして毎晩少しずつ構造を読み解いてきた。データベースの管理画面に近い設計で、慣れてくれば使いこなせる手応えがあった。

     今夜、初めて気づいた項目があった。

     画面の最下部、普段は折りたたまれている「詳細情報」の欄を展開すると、一行が追加されていた。

    『ダンジョン深度:第一層(確認済)/第二層(未探索)/第三層以降(封印)』

     三層以降が封印されている。

     つまり、まだ下がある。仁蔵が「下の方に、何かある。匂いがする」と言っていたのは、これだったのかもしれない。

     さらに土壌データの数値が動いていた。

    『周辺土壌への魔素浸透状況:第一段階(3.2%)』

    『浸透が進むにつれ、農業生産性への影響が見込まれます』

     農業生産性への影響。悠はその文字を見つめた。あの米の味を思い出した。仁蔵が何十年も丹精込めてきた、あの土の味を。

     ダンジョンが来たことで、この村が壊れるのか。あるいは——。



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    ▶ 第1話はこちら → https://note.com/real_hyena9474/n/nc79160b1b5fb
    ▶ 第2話はこちら → https://note.com/real_hyena9474/n/nef3a68ff2539
    ▶ 第3話はこちら → https://note.com/real_hyena9474/n/nf66959cd56c0
    ▶ 第4話はこちら → https://note.com/real_hyena9474/n/nb6da0cedc96b
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    「生成できる」から「自分の作りたいものを作れる」へ。 AIイラスト初心者〜中級者向けに、構図・シーン・世界観の作り方を発信。 難しいプロンプトより、AIとの対話で「頭の中のイメージ」を形にする方法を。 AI×物語づくりについても書いています。 ▼初めての方は固定記事から

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