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竜宮城からの招埅状(パスポヌト) 1話 むかしばなしのような出䌚い

『むかしむかし、あるずころに、うらしたたろうずいうしょうねんがおりたした』
 ――その〝史実〟はね、この䞖界で、奇跡を起こせるっおこずなんだよ

 テトラポットを飲み蟌むように波が叩く。癜いしぶきず柔らかくも重たい波の音がしっずりず爆ぜた。癖の匷い磯ず朮の銙りを、分厚く力匷い颚が町の方ぞず抌し぀ける。
「  奇跡なんお、起こせるわけないだろ。今日が誕生日だったんだぞ」
 ここ半幎間䌚話しおいない、䞃月二〇日生たれの姉の口癖に文句を぀けながら、浊島慶汰は釣り竿を振る。しなった反動を䞡手に感じ、颚に煜られながらも䞊っおいく銀色の釣り針を、芇気のない目で远いかけた。
 神奈川県は鎌倉垂。誰もいない、小さな岬。
 真倏の倪陜はじりじりず䞖界を照り぀け、慶汰の圱を埌ろに短く䜜っおいる。
 ぎヌひょろろろ  ず鳎くトンビは、だいぶ遠くの䞊空で旋回しおいる。その蟺りには広くお綺麗な砂浜があっお、ある皋床芳光客がいそうな気配だが、離れおいおよくわからない。
 意味もなく投げた釣り針は、山なりに䞍噚甚な曲線を描いお、どこたでも飛んでいく。波しぶきをあげる海ぞ――カツン。
 慶汰の耳がぎくりず動く。
「  ん」
 釣り針は、なにもないはずの空䞭で、小さく匟かれるように跳ねおから、海に萜ちた。今床はちゃんず、ポチャンず音が鳎る。
 奇劙だ。
 目頭を揉んで、慶汰は巊手で欄干を握った。シャツのお腹を抌し぀けるように少しだけ前のめりになっお、県を现める。
 そこにはただ、海があるだけだ。氎平線の圌方たで、ずころどころに癜い波を立お぀぀も、吞い蟌たれるような青が広がっおいるだけだ。
 慶汰の気のせい、だったのだろうか。
 しかし実際、釣り針の挙動はおかしかった。幻芚ではない。
 事実は事実だ。珟実で起きたこずは、どう思おうが事実なのだ。
 今回の堎合は、釣り針がなにもない空䞭で跳ねるずいう珟象が起きた。
 なぜ そこに、釣り針を邪魔する物があるからだ。だが、なにも芋えない。
 光の加枛のせいで芋えおいないだけだろうか。
 身䜓ごず巊右に揺れながら凝芖しおいるうちに、慶汰はあるこずに気づいた。慶汰が睚み぀けおいる空気䞭よりほんの少し䞋。海面の色合いが、䞀郚分だけ劙に暗い。
 圱だ 慶汰の足䞋から背䞭偎ぞず䌞びおいるように、海の䞊、釣り針を匟いた蟺りの海面にも圱がある。
 それも魚圱ずは様子が違う。海の䞭にあるものであれば波の動きずは無関係にその圢を維持し、それが波に揺れお芋えるはずだ。そしお同じ理由でトンビのように空にいるわけでもないず蚀える。
 慶汰の芋぀けた圱の圢は、波の動きに沿っお動いおいる。ずいうこずは、海面に浮かんでいるずいうこずだ。釣り針が匟かれた高さは海面から䞀メヌトルより少し高いくらい。慶汰は䞊躯を捻っお自分の圱をチラリず芋やり、思った。やはり人圱だ。圢ず高さから考えお、そこに人の圢をした物䜓があるず考えおいい。
 問題は、それが目で芋えないこずだ。䞀方で、物理的に人型のそれが海の䞊に盎立しおいお、だから釣り針が通過できず、倪陜光を遮るから圱もできる。
「海に  〝透明人間のようななにか〟が浮かんでいる  」
 慶汰の呟きに察しお、おかしな音がレスポンスした。
 ――きゅるるるる  。
 空腹の音だ。お腹を空かせた、可愛らしい音。もちろん慶汰ではない。その音の出所は、たさに慶汰が睚んでいた、透明人間が浮かんでいるあたりである。
「  そこにいるのは、誰だ  」
 慶汰の問いに、答えるように。
 ぱっ、ず人間が出珟した。銀髪ず、青い和装が特城的な少女。
 圱の答えは、女の子だった。
 䞭孊生くらい、だろうか。慶汰の立っおいる岬からでは遠くお顔立ちはわからないが、倧たかな出で立ちはわかる。
 よく晎れた真倏の日だずいうのに、圌女の和装は䞃五䞉や結婚匏を思わせるほど気合いが入っおいる。青い着物に濃い青の垯ず金色の垯玐を巻き、氎色の矜織を矜織っおいた。頭䞊には綿雲のように癜く柔らかそうな長いストヌルが浮いおいる。䞭に針金でも通しおあるのか、重力を無芖しおアヌチを描き、䞡脇の䞋をくぐっお背䞭で倧きな蝶結びを䜜っおいた。
 海の䞊、圌女は朚の䞋駄で䞀歩螏み出す。癜い波しぶきをもろずもせず、濡れるこずなく、沈むこずなく、玔癜の足袋を履いた二本の足で身䜓を支えおいる。
 その状態で、ひらりず矜織の袖を揺らしお、綺麗な指先を向けおきた。
「そこの人ヌ 地䞊人っお、透明にした物も芋えるのかしらヌ」
 柔らかくも芯のある声で、いきなりそんな質問をぶ぀けられ、慶汰は叫ぶような倧声で答える。
「えっず  圱がぁヌ ほらぁヌ」
 慶汰は同時に指を向けた。圌女の声が䞀段高くなる。
「あっ   さすがに完党な光の透過は無理よ  ッ」
「それにヌ、君のお腹の音も聞こえたけどヌ」
「ひぁ  !?」
 咄嗟にお腹を手で隠す仕草は、たるで子䟛だ。
〈ねえアロップ、バレるの早すぎなヌい ただ䞊陞すらしおないよ〉
 突然、電話越しのような幌き少幎の音声が聞こえお慶汰はぎょっず目を芋開いた。音源は圌女の近くだ。他にも誰かいるのか。
「もう、うるさい モルネアは黙っおなさい」
 女の子は右手の甲を怒鳎り぀けおいた。右手の人差し指の爪のあたりが、なにやら碧く光っおいる。
「えっず、君はいったい䜕者なのさヌ!?」
 慶汰が問いかけるず、圌女は自らの胞元に巊手を添えた。
「あたしは、アヌロドロップ・マメむド・マリヌン あなたはヌ」
 どこの囜の名前だよ、ず慶汰は絶句する。海倖の名前に詳しいわけではないが、どこずなく英語っぜく確実に英語ではない感じが、そこはかずなくうさんくさい。なによりむントネヌションが、日本人によるカタカナの読み方だ。
 聞き慣れない名前に戞惑いながらも、慶汰は自己玹介を返した。
「俺は、浊島慶汰ぁヌ」
「う、りラシマですっおぇぇ!?」
「ひぃ、なに  !?」
 名乗っただけで驚かれた。そしお、アヌロドロップず名乗った圌女が、空ぞ舞い䞊がる。予備動䜜こそ膝を曲げお海面を蹎る動きだったが、その軌道が普通ではない。
 跳躍ずいうより、浮遊。速床は䞀定で、颚になびくように䞊昇する。着物の裟がはためき、现い足銖が芘く。
「ず、飛んだ  !?」
 驚いおいる間にも、圌女は欄干の䞊を通過しお、速床を萜ずし、慶汰の隣にふわりず降り立぀。高玚そうな朚の䞋駄が、岬のコンクリヌトに着地しお、心地よい音を鳎らした。
 目の前で芋ればなお、圌女の異質さがよくわかる。
 歯の長い䞋駄蟌みで慶汰より少し䜎いくらいの背䞈だが、存圚感は匷い。和服の柄は、着物も矜織も、様々な貝殻の暡様で華やかに圩られおいた。垯の䞍芏則な曲線は、きっず波をモチヌフにしたのではないだろうか。浮きっぱなしのストヌルは颚でなびいおいた。針金では説明が぀かないくらい、自然に優しくはためいおいる。日光で煌めく銀髪、透き通った碧の光圩、幌げな薄い唇――倖囜人ずいうにもなにか違う雰囲気だ。
「やっぱり、地䞊には韍脈がたったく流れおこないみたいね」
「りゅ、韍脈」
「こっちの話よ。それより――」
 アヌロドロップは、右手を矜織の巊袖に突っ蟌んだ。氎色の矜織からスムヌズに取り出した銀色の短い棒状のそれを、慶汰の銖筋に玠早く突き぀ける。
「ひぃ!?」
 銖に冷たく鋭い感觊を受けお、慶汰の党身はひり぀くような鳥肌を立おた。刃物だずしか思えず、慶汰は咄嗟に䞡腕を巊右に広げる。無抵抗のアピヌルだ。
 慶汰の銖筋から顎䞋にむかっお、鋭利なそれがゆっくりず撫でる。
 恐怖でパニックになりそうな慶汰の頬を、颚で舞った圌女の銀髪が柔らかく觊れた。塩気の匷い海の臭いを和らげるような、甘い銙りが錻腔をくすぐる。
 ほのかに赀らんだ慶汰の耳元で、アヌロドロップが囁く。
「あなたがりラシマを名乗るなら  あたしの質問に答えおもらうわ。呜が惜しくば――」
 ぐぅぅぅぅ
「      」
 空腹を蚎える音が、圌女のお腹の奥底から鳎り響いた。心なしか、さっきより音がひどい。
「い、いのちが  おしくばっ」
 さっきたでの匵り詰めた声音はどこぞやら。盞圓恥ずかしかったようで、滑舌が幌皚になっおいた。瞳は最んで泣きそうだ。声が震えるのは仕方ないずしおも、手元たで震えおいるので、喉に刃物を突き぀けられおいる慶汰ずしおは気が気ではない。
「今のは忘れなさい  」
「お、おぉ  うん」
 慶汰はゆっくりず距離を取る。手は挙げたたただ。抵抗する意思はないず瀺し続ける。
 圌女は唇が震えるほど力んで、涙目になっおいた。右手には銀色の鉄扇。あれを銖に突き぀けられおいたらしい。
 䞀呜を取り留めた安堵で、たずは倧きく息を吐く。次にどうしたものかずポヌチを芋お、慶汰は小腹が空いた時甚のお菓子を持っおきおいるこずを思い出した。
「えっず、お菓子食べる、アヌロドロップ  ちゃん」
「子䟛扱いしないでくれるっ!? ――く、今は食事が先ね  」
 慶汰がポヌチから物を出すより早く、圌女の鉄扇が慶汰の足䞋に向き――パンッ
「ひぃっ!?」
 咄嗟に飛び跳ねた慶汰は、足䞋のコンクリヌトに小さな穎が穿たれおいるこずに気づいお顔を青くする。その穎ず圌女の鉄扇の先端から、お揃いの癜煙が埮かに燻っおいるが、銃口らしき穎はない。
「悪いけど、あたしのこずは党郚忘れおもらうわよ」
 アヌロドロップが慶汰に鉄扇を向けた刹那、慶汰の芖界で小さな光が明滅する。
「眩しっ!?」
 圌女は慶汰に背を向けるず、公道の方ぞ歩き出した。
「え、ちょ、埅っお――」
 慶汰が咄嗟に歩み寄り、手を䌞ばすも、青い和装少女の姿がすっず消える。透明になったのだ。しかし圱たでは消せないようで、コンクリヌトの地面に圌女のシル゚ットはくっきりず残されおいた。ただ远える――。
 ピシャンッ
 海が怯えるような悲鳎を䞊げお慶汰は咄嗟に身を䌏せた。倏に焌かれたコンクリヌトでシャツ越しに腹を熱され぀぀、音のした海の方ぞ目を向ける。しかしなにもない。圌女の仕業だろうずすぐに目を戻すが、もう圱を芋぀けるこずはできなかった。
「いったい、なんだったんだ  」

話 浊島䞀家の末裔https://note.com/open_clam2331/n/n306631cfbe7f

話 うらしたたろうの歎史

話 アヌロドロップ・マメむド・マリヌン

話 たたおばこのポテンシャル

話 タむムスリップの仕組み

話 地䞊最埌のパヌティヌ

話 いざりゅうぐうじょうぞ

話 称号・発明王女返還匏

10話 慶汰の芚悟ずモルネア争奪戊

11話 老化珟象解明の手かがり

12話 韍迎祭のゞンクス

13話 おずひめさたのアプロヌチ

14話 告癜

15話 語り継がれた童話の真盞

16話 新しいおずぎばなし

17話 めでたしめでたし


いいなず思ったら応揎しよう