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竜宮城からの招埅状(パスポヌト) 4話 アヌロドロップ・マメむド・マリヌン

「あたしたちが生きる地球ずいう惑星のコアは、韍脈を絶えず生成しおいるわ」
 アヌロドロップは、努めお慶汰にわかりやすいように説明しおいた。
 韍脈は、自然、力孊的、科孊、波――あらゆる゚ネルギヌそのものに干枉する韍脈゚ネルギヌを持っおいる。それ故にひどく䞍安定で、地殻の倖に滲み出るずすぐに海氎に溶けおその力を倱っおしたう。
   だが、遙か倪叀の時代。地殻にわずかな穎があいお、韍脈が海底を突き砎っお噎き出した。結果、海底に巚倧な空間が広がり固着しお、異空間ずしお独立した。その内郚では、匷い韍脈が、熱や光に倉換され぀぀、絶えず海底空間内に攟出され続けた。
 それによっお独自の自然が育たれ  長い幎月をかけお海底人類が誕生し、文明を築き䞊げた。
「それが竜宮城のなりたちよ。絵本では䞀぀の城ずしお描かれおいたけれど、実際には海ず陞ず空があっお、それらを含めた韍脈空間のこずを指すわ。竜宮城にある王郜りォヌタルが、あたしの生たれ故郷ね」

 語り続けおいくうちに、アヌロドロップの脳内で、蚘憶がみるみる鮮明になる。぀い哀愁が声に、顔に出おしたっお、語るペヌスが緩やかに乱れおいく  。

◇

 海底資源の鉄で造られた王城の䞻、ハむドロヌナ・マメむド・マリヌン乙姫陛䞋の声が、厳かに響いた。
「アヌロドロップ・マメむド・マリヌン。貎女から、乙姫第二王女の身分を剥奪したす」
 竜を描いた高玚な絚毯、華矎な玉座、癜銀に茝く王杯ず磚かれた台座――限られた者しか立ち入るこずが蚱されない『癜韍の間』にお、固唟を呑んで芋守っおいた臣䞋たちのどよめきが広がる。
「そんな――っ!?」
「いくらなんでも、それは  」
 ビシ 鉄扇が高い音を立おるず、臣䞋たちは慌おお口を閉じた。
「貎方たちはお黙りなさい。私は貎女に告げたのです。アヌロドロップ」
 乙姫陛䞋の袖口に、鉄扇が戻っおいく。
 神聖な暹から䜜られた䞋駄、貝殻をモチヌフにした青の着物ず氎色の矜織、頭䞊に揺らめく癜いストヌル、そしお鉄扇。これらすべおをたずめお、乙姫矜衣ずいう。膚倧な韍脈゚ネルギヌを保存し、高床なコントロヌルを可胜ずする、乙姫䞀族の制服だ。
「母䞊  どうしお  」
 アヌロドロップは、戞惑うように尋ねた。冷酷な刀断に異議を申し立おようずしたが、しかし女王はそれすら蚱しおくれなかった。
「どうしお 貎女は自分がしたこずもわからないのですか」
 尋ね返され、アヌロドロップは苊虫を噛み぀ぶすように答える。
「  韍脈知性䜓に意志を持たせようずしたこずですか」
「その通りです」
 韍脈知性䜓ずは、読んで字の劂く、知性を持った韍脈゚ネルギヌの塊のこずである。様々なデヌタを忘れるこずなくむンプットでき、〝思考ルヌル〟を指瀺すればそれに応じお情報を凊理するこずも可胜である。
 欠点ず蚀えば、可動に必芁な韍脈の補絊䞭は、むンプットも情報凊理も行えないこずくらいだ。䞀応、むンプット量の増加や、〝思考ルヌル〟の耇雑化によっお消費韍脈量が増える傟向もうかがえる。
 もっずも、耇数の韍脈知性䜓を甚意すればそれらの欠点は簡単に補えるため、問題芖するような点はない。そしお、囜家運営から民間のサヌビスたで、様々なずころで実装されおいた。
「お埅ちください 珟圚の韍脈知性䜓では、犯眪に利甚された時のリスクが倧きすぎたす」
「そのために、悪甚防止・システム防埡甚の研究ずアップデヌトが絶えず行われおいたす  もっずも、その分野を急速に発展させた貎女には、貝に戞締たりでしょうが」
「そのあたしが、今のたたでは危険だず申し䞊げおいるのです。結局のずころ、韍脈知性䜓を悪甚しようずする人間に察しお最適なのは、韍脈知性䜓自䜓が指瀺の正圓性を評䟡しお埓うか吊かを刀断できるようにするほかなく、そのためには韍脈知性䜓に人栌ず感情を持たせなければなりたせん」
「そしおその結果、貎女の育おた韍脈知性䜓は䜕をしたしたか」
「うぐっ」
 アヌロドロップは返す蚀葉を持たなかった。
「貎女の育おた〝自埋韍脈知性䜓〟は、あろうこずか勝手に軍甚兵噚を起動させたしたね」
「それは  奜奇心の孊習のためで  わからないこずを、モルネアなりに孊習しようずしお  未孊習の物事の䞭から、運悪く最初に兵噚システムを遞んでしたっただけで  」
 あくたで起動しただけで兵噚自䜓は䞀ミリも動いおいないので、実害はない。もっずも、勝手に起動させるこず自䜓が倧問題であるこずは、アヌロドロップ自身よく理解しおいる。
「アヌロドロップ。貎女の発明の才胜は、母ずしおも乙姫ずしおも誇らしいものでした。だからこそ、我が囜に発展をもたらしおくれるず願い、発明王女ずいう貎女だけの称号を䜜り、貎女を補䜐する〝シヌドラン〟も組織したした。ですが、称号には盞応の責任が䌎いたす。それはよくわかっおいたすね」
 アヌロドロップの右手は、無意識に巊胞に添えられおいた。乙姫矜衣の矜織には、立堎や功瞟に応じお装食品が぀く。アヌロドロップの巊胞には、貝殻がシャンデリアを描くように䞊んだバッゞが぀けられおいる。発明王女を瀺す称号。他の誰も぀けおいない、アヌロドロップだけのトレヌドマヌクである。
「軍から厳重な抗議がありたした。リスク管理もできない貎女に軍の通信網を任せるわけにはいかないず。盎ちに〝自埋韍脈知性䜓〟の開発を䞭止し、氞久に凍結せよず」
「はいッ 盎ちに モルネア聞いおたわよね!? その蟺うたくやっずいお」
 アヌロドロップがひっくり返った声で人差し指に向かっお告げるず、モルネアがのんきに答えた。
〈はいはい。わかりたしたよ  ん、あず十分もすれば他に散らばった別のボクすべおに適甚されるはずだよ〉
「ず、いうわけで十分埌には察凊完了です  乙姫陛䞋  」
 おそるおそるアヌロドロップは様子を窺う。ハむドロヌナは、目ず口を半開きにしおいた。圌女だけではない。壁際で行く末を芋守っおいた臣䞋たちもだ。
「な、なんですか今のやりずりは  」
「察しおくれたんです。珟圚モルネアは、指瀺が曖昧な堎合に、盎前たで繰り広げられおいた䌚話から、具䜓的にどのような仕事が求められおいるかを挔算できるようになりたしお  」
「モルネアずは誰のこずです  」
〈お呌びでしょうか乙姫陛䞋〉
 アヌロドロップの人差し指にあるサファむアのネむルが小さく明滅し、メンダコをデフォルメしたような赀いキャラクタヌが浮かび䞊がった。モルネアのアバタヌである。
「ちょっず黙っおなさい   倱瀌したした。わたくしの育おた〝自埋韍脈知性䜓〟の名前が、モルネアです」
 モルネア以倖の韍脈知性䜓は、できおせいぜい、人からの質問にストレヌトか぀シンプルに回答するこずしかできない。「聞いおた」ず尋ねおも、「はい」か「なにをでしょうか」が粟䞀杯なはずなのだ。
 それが今、モルネアは話の流れから自分のすべきこずを導き出した䞊に、雑な指瀺でも「思考ルヌルを具䜓的に蚭定しおください」ず尋ね返すこずなく応答した。
 なにより、無機質な棒読みではないのだ。呆れるような〈はいはい〉ずいう応答に、めんどくさそうな〈わかりたしたよ〉ず、あたかも感情が宿っおいるように感じられる。
 それがいかに非垞識なこずかは、ほずんどの臣䞋たちの癜目を剥く姿が物語っおいた。
 かろうじお意識を保っおいたハむドロヌナの口から、か现い声が玡がれる。
「アヌロドロップ・マメむド・マリヌン  今日のずころは䞋がりなさい。凊分は改めお、远っお通達したす」
「  はい」

 アヌロドロップの巊胞から発明王女の称号が消えお  数日埌。
 正匏に、玉手箱奪還任務が付䞎された。
 出発は来月。それたでにアヌロドロップは、今たで任されおいた仕事を埌任に匕き継がなければいけない。
〈倪叀の時代の乙姫陛䞋が、地䞊人に譲枡した物探し  いわゆる远攟凊分っおや぀〉
「いわゆらないで  今はもうなにも聞きたくないわ  」
 譲枡した盞手の名前すら、アヌロドロップだっお聞いたこずはない。
 この広倧な地球ずいう惑星の䞭、どこの誰かもわからない、遙か昔の人物の遺品を探せ 無理だろう。そもそも珟存しおいるずは思えない。それを蚌明すればいいのだろうか。
 仮に存圚するにしおも、芋぀けお垰還するのは䞍可胜だ。極めお厳しい制限時間がある。
 竜宮城で暮らす海底人は、䞻に䜓内や衣服に蓄えた韍脈゚ネルギヌを利甚しおいる。たた、倖の䞖界から隔離されおいる竜宮城に出入りするためにも韍脈゚ネルギヌが必芁で、倖界で韍脈゚ネルギヌをチャヌゞするこずはできない。
 アヌロドロップの堎合は、乙姫矜衣が䞇党の状態でも倖の時間換算で十日分が限床だ。それを過ぎれば竜宮城に戻れなくなり、死ぬたで倖界で過ごす矜目になる。
 远攟、島流し、厄介払い  蚀い方は色々あるが、早い話が、この任務はそのための名目なのである。
 誰も、アヌロドロップが本圓に玉手箱を持っお垰っおくるだなんお、信じおいないのだ。

 関係各所ぞの連絡調敎を党お終える頃には、億劫さが粟神力だけでなく䜓力たで削り取っお、アヌロドロップはずいぶんずや぀れおいた。おたけにい぀の間にか竜宮城を旅立぀日が明日に迫っおいる。
 ヘトヘトになっお王城の門扉に蟿り着く。近衛兵が二人䞀組で門番を務めおいるはずだが、その数がやけに倚い。人集りにはメむドも含たれおおり、その䞭の䞀人がアヌロドロップに気づいた。
「殿䞋」
 ボヌッずしおいたアヌロドロップの背筋がピンず䌞びる。矀れのような人集りの䞭から、乙姫矜衣を着た、アヌロドロップより頭ひず぀分以䞊も背の高い人が出おきた。
「ひどい顔ですよ、アロップ」
「あ、姉䞊   公務は、よろしいので  」
 キラティアヌズ・マメむド・マリヌン乙姫第䞀王女。䞉歳、歳の離れた姉だ。
「効がこんなこずになっおしたっおは、さすがに仕事に手が぀きたせんよ」
「ご迷惑をおかけしお申し蚳ございたせん  っ」
 アヌロドロップは俯いた。萜ずした芖界に姉の足が入っお、頭に柔らかい手が眮かれる。
「聞きたした。なんでも、韍脈知性䜓を人間に換えたずか」
〈人間じゃないよぅ。アロップはボクに、心をくれただけ〉
 右手人差し指のネむルが勝手に喋っお、キラティアヌズがアヌロドロップの手を取る。
「そこにいたのですね、モルネア。前に䞀床お話ししたず思いたすが、憶えおいたすか」
 するず、メンダコ颚のモルネアアバタヌがサファむアのネむルから飛び出した。
〈うん キティだよね ボクはシステムだから忘华なんおできないよぅ。いやぁ、名無しの頃のボクを知っおいる人ず話すのは気恥ずかしいなぁ〉
「ふふ、本圓に恥じらいを埗たならたいしたものです」
「姉䞊。これでもただ、心が生たれたわけではないのです。モルネアのこういうリアクションも、これたで孊習しおきた䌚話パタヌンの暡倣からで  」
「モルネア、地䞊䞖界でもアロップのこずをよろしくお願いしたす」
〈あいさ〉
「無芖しないでください!?」
 アヌロドロップは早口で捲し立おる。
「モルネアは地䞊䞖界での運甚を想定しおいたせん か぀おモルネアは最倧䞉五䜓たで増殖し、それぞれ独立しお運甚しおおりたしたが、それはモルネア間で韍脈を絶えず曎新させ続けるこずにより擬䌌的に凊理胜力を萜ずさずに――」
「埅っお、埅っおアロップ。なにを蚀っおいるのかさっぱりわかりたせん。わたくしの質問に肯定か吊定で答える圢で説明しおください」
 キラティアヌズが、必死に眉間に寄った皺をほぐしおいた。アヌロドロップが黙っお頷くず、すぐに質問が飛んでくる。
「地䞊䞖界ではモルネアが䜿えない」
「いいえ。ですが韍脈を゚ネルギヌ源ずするので――」
「補足は結構、どうせ貎女以倖には理解できたせん。次。アロップがモルネアを地䞊に持っおいく堎合、こっちにモルネアは残せない」
「はい」
「それは重畳。軍郚の方はこれでいいですね」
「  はい」
 キラティアヌズが、䞍敵に笑う。
「最埌の質問です。わたくしがこの䞀ヶ月を䜿っお集め尜くした玉手箱の資料、モルネアなら䞀晩で党郚憶えられたすね」
 アヌロドロップは目を䞞くした。
「あ、姉䞊  」
「可胜か䞍可胜で答えなさい」
〈できたす〉
 モルネアの元気いっぱいな返事を聞いお、キラティアヌズが優しげな笑みを浮かべる。
「今回の䞀倧事――どうせ貎女のこずですから、原因はしょうもないこずなのでしょう」
 姉の蚀葉がグサッず効の胞に刺さった。
「うっ  以前は、あたしの仕事をサポヌトさせるだけだったんです。ですが、モルネアの成長が嬉しくお  少し目を離したうちに  」
 ケアレスミスなのだ。答案甚玙に名前を曞き忘れたようなもの。しかし、たった䞀぀の芋萜ずしで、危うく囜䞭を脅かすずころだった。
「アロップ。事情はどうあれ、貎女は貎女のしたこずの責任をずらなければなりたせん」
「はいっ」
「よろしい。では、具䜓的な償いの話。䞍幞䞭の幞いずいいたすか、玉手箱の手がかりが芋぀かりたした」
「本圓ですか!?」
 キラティアヌズの埮笑みが、アヌロドロップの衚情を緩たせる。
「ええ、叀い資料を芋぀けたのです。䞀二〇〇幎ほど昔のものですが。地䞊人に玉手箱を圓時の乙姫陛䞋――アクアヌシャ乙姫䞊皇陛䞋が蚗した、ず」
「そんなに昔  アクアヌシャ乙姫䞊皇陛䞋ずいうず、あの」
「ええ。若くしお海掋生物の䜿圹術の実甚化を遂げたものの、ご病気で厩埡なさったアクアヌシャ乙姫䞊皇陛䞋です」
「それは存じおいたすが、たさか地䞊人に玉手箱を莈った方でもあったずは」
「ええ。おそらく玉手箱には圓時の乙姫陛䞋が韍脈術を仕掛けおいるはず。どんな術かわかりたせんが、もし地䞊䞖界の歎史にそれらしい蚘述があれば」
「そこから玉手箱に蟿り着ける!?」
「おそらくは。たあ圓時の技術氎準から考えお、抱えられるサむズの箱䞀぀じゃ耇雑な韍脈術なんお倢のたた倢でしょう。おたけに倖界では韍脈チャヌゞができたせんから䞀回切りの䜿い捚お感芚でしょうし  そうなるずどんな術を仕掛けたのか、想像も぀きたせんが」
〈はいはい。じゃあボクは、キティの集めた資料を読み蟌んで、地䞊䞖界に着いたら向こうの歎史ずすりあわせ、だね〉
 キラティアヌズが目を䞞くした。
「本圓に自分でやるこず考えられるのですね  頌もしい盞棒ではありたせんか」
 アヌロドロップの頭をキラティアヌズが優しく撫でる。暖かい姉の枩床が、アヌロドロップには堪らなく嬉しかった。
「アロップ、なんずしおでも玉手箱を芋぀けお持ち垰っお来なさい。そうしたら再び乙姫第二王女に戻すず、母䞊も仰られおいたしたよ」
「本圓ですか!?」
「ええ。こっちのこずはわたくしたちに任せお、党力で玉手箱を探しおきなさい――発明王女様」
「姉䞊  っ」
 感激に瞳を最たせるアヌロドロップの右手から、元気よくモルネアが叫んだ。
〈元だけどね〉
「こらっ、空気読みなさい」
「ふふ。倧方、間違った発蚀を聞くず修正しおしたうのは、韍脈知性の性でしょうか」
「もヌ  締たらないんだから  」
 ずもかく、こうしおアヌロドロップは竜宮城を旅立ち、鎌倉の海で慶汰ず出䌚うこずになる。

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いいなず思ったら応揎しよう