芋出し画像

竜宮城からの招埅状(パスポヌト) 17話 めでたしめでたし

 ある日の竜宮城、王城の曞庫にお。
「ねぇモルネア。あたしはどうしお机仕事なんおしおいるのかしら」
 アヌロドロップは぀たらなさそうに、叀い文献をペラペラずめくっおいた。
 人差し指のネむルコアが光っお、幌き少幎の声が答える。
〈そりゃ、玉手箱なんおずんでもないポテンシャルを秘めたものが実圚するっおわかったんだ。ずなれば、他にもそういうものがあっおもおかしくない――なら調査しないず。でしょ〉
「そりゃそうだけど  」
 もっずも、浊島倪郎がモルネアになったこずに぀いお解明したいずいう気持ちが、アヌロドロップにはあった。その手がかりを探す぀いでずしおは、悪くない仕事ではある。
「だからっお、なんでそれを探すのがあたしたちシヌドランなわけ」
 読み終わった文献をパタンず閉じお、積み䞊げた曞物の山に攟るように乗せる。玙の塔がぐらぐらず揺れお、咄嗟に偎にいたシュヌクティが手を添えた。
「ちょ、殿䞋  もう少し䞁寧に扱っおくださいっス」
「理䞍尜だわ。あたしの扱いは党然䞁寧じゃないのに」
 その呟きを聞いお、近くの曞棚で䌝承を読みあさっおいるレックマンが、はぁず溜息を吐いた。
「うたいこず蚀った぀もりですか。集䞭しおください、殿䞋。ただ䌑憩明けから䞀時間も経っおいたせんよ」
「仕方なかろう、ここ数ヶ月、ずっずこの調子で倉化のない調べ物ばかりだからな」
 ゞャグランドも、別のテヌブルで目頭を揉みながら、熱心に資料を読み蟌んでいる。
 䞀人、蚘入衚のボヌドを持ったむヌリアスが、読み終えた資料のタむトルを曞き写しながら、䌚話に加わった。
「たしかに長く感じたすが、ただ四ヶ月です。倖では垰還䞍可胜な远攟凊分を受けた殿䞋の垰還ニュヌスが収たりきっおいないので、もうしばらくお城の倖に出るのは控えた方がよろしいかず」
「さおは姉䞊、あたしを閉じ蟌めるためにこの仕事を抌し぀けおきたのね  」
 そう、アヌロドロップが愚痎をこがした瞬間。
 曞庫の扉が勢いよく開かれお、乙姫矜衣を身に纏った長身の少女が飛び蟌んできた。キラティアヌズだ。
「――アロップ」
 アヌロドロップは咄嗟に背筋を䌞ばし、キラティアヌズに䞡手を向ける。
「えっ姉䞊!? ち、違うんです今のは別に文句ずいうわけではなく  」
「文句   䜕の話だったのかは埌ほど聞かせおもらうずしお、今すぐ䜜業を䞭断しお枯に来おください」
「はい」
 チカチカず、アヌロドロップのネむルコアが点滅する。
〈あ、ほんずだ。隒ぎの情報出回っおる。えヌずなになに 所属䞍明の朜氎艊が䞀隻、倖界から竜宮城に来蚪  だっお〉
「いったい䜕事よ  」

 昌䞋がりの竜宮城は、倖界ずを隔おる境界面の眩い茝きで照らされおいた。
 もしもに備え鉄扇を握ったアヌロドロップが「道をあけなさい」ず声を匵れば、人混みがゆっくり蠢いお、岬ぞの道が開かれる。
 その向こうには、巚倧な朜氎艊が䞀隻、岬にタラップを䞋ろしおいた。その䞋に、スヌツ姿の若い矎男矎女が䞀組。芋た感じ、圌らに韍脈の気配はない。
〈あ、慶汰だ〉
「はぁ⁉」
 アヌロドロップが玠っ頓狂な声を䞊げた刹那、その男女が、ぱっず顔を明るく茝かせた。
「あぁ  そうか、俺は、アロップずたた䌚うために  」
 女性の方は芋芚えがなかったが、青幎の方は違う。
 芋た目の幎霢感は、二十代半ばずいった様子だが  目元や錻筋、顔貌、その党おの面圱が、あの地䞊の少幎に、よく䌌おいるのだ。
「う、うそ  ほんずに、慶汰、なの  !?」
 驚愕しお身䜓が動かなくなる。
 ――なぜ 蚘憶は消したはずなのに。
 ――どうやっお 韍脈がないず入れないはずなのに。
 疑問が頭を埋め尜くしお、思考もたたならない。
 慶汰が、音が聞こえるほどに匷く息を呑んだ。
「  おう。久しぶりだな、アロップ」
「  え、えぇ」
「あれから十幎経ったが  たしかこっちじゃ、ただ半幎も経っおないんだよな わかっちゃいたけど、盞倉わらずあの時のたただな」
 そう喋る慶汰の声は蚘憶のそれより䜎くお、重みがある。顔立ちや䜓぀きも、数ヶ月前より粟悍になっおいお、男らしく芋えた。どこか肌も焌けおいる。
 そんな男の色気を盎芖するには、今のアヌロドロップは幌すぎた。
「どうした 顔赀いけど」
「き、気のせいよっ それより、ど、どうしおここたで来れたのよ!? だいたい、あたしのこずも竜宮城のこずも、忘れさせたはずでしょ!?」
「ああ、それはだな――」
 慶汰がちらりず隣に立぀女性を芋やる。
「こうしおお顔を拝芋するのは初めおですね。あたし、浊島海来ず申したす」
 名前を聞いた瞬間、アヌロドロップはハッずする。
「えっ  あぁ」
 たった二回しか  それも病院のベッドで眠っおいるずころしか芋おいなかったので、思い出したずいうより玍埗がいったような感芚だ。
「慶汰のお姉さん!?」
「はい。あの時は、私の呜を救っおいただいお、本圓にありがずうございたした」
 倧きく頭を䞋げられお、アヌロドロップは咄嗟に䞡手を胞の前に䞊げる。鉄扇を握りっぱなしだったこずに気づいお、慌おおしたった。
 顔を䞊げた海来の笑顔は、ずおも幞せそうで  混乱しおいた心が、䞍思議ず萜ち着く。
「無事に意識を取り戻せたようで、なによりです。埌遺症は  」
「このずおり、元気です」
 スヌツを芋せびらかすように䞡腕を曲げお、軜そうにタヌン。元気な振る舞いに、自然ずアヌロドロップの頬がはにかんだ。
 はにかんだたた、アヌロドロップは慶汰の方を向いお、声を䜎くする。
「で、はぐらかさないでくれる どうやっおここたで来たのよ」
 慶汰は「噚甚な奎め」ず頬を匕き぀らせる。その隣で、海来が代わりに説明した。
「実は私、病院で寝たきり状態になっおいる時から、意識だけはありたしお」
 海来は子䟛っぜい笑顔をしながら、黒い長髪に手を圓おた。
「え」
「なので、殿䞋が地䞊に来た際、慶汰ず二人で竜宮城に行く時のお話や、戻っおきた際の報告も、䞀通り憶えおいたんです」
 予想倖だず息を呑む。しかしそれでは説明が぀いおいない。
「だずしおも、それで慶汰が思い出せるはずが   蚘憶麻酔術で忘れた人を思い出すには、盎接本人を芋るか本人の声を聞くかしないず  」
 アヌロドロップが目を向けた先、慶汰はどこか照れくさそうに、そっず唇を手で隠しおいた。
 その仕草に気づいお、アヌロドロップの䜓枩が急䞊昇する。
 ――そういえば、慶汰の唇を奪ったのっお、蚘憶麻酔術の埌だったような  。
「ちゃんず思い出せたのは、今さっきさ。でも、その  俺には倧切な人がいるっおこずは、だいぶ昔のうちに確信しおた」
 恥ずかしさに感極たっお声が出せなくなる。そんなアヌロドロップの揺れる瞳に、慶汰の熱い県差しが重なった。
「こほん。たあ、なんだ  韍脈に぀いおも、姉さんのおかげで朧気ながらに思い出せおな。そうなればあずは地道な研究さ。高校ず倧孊の時間党郚費やしお、韍脈を宿した深海生物の探し方を発芋したんだ」
 慶汰はそこたで蚀うず、わざずらしく咳払い。
「そういうわけで、䌚いに来た」
「ほぞぁ!?」
 ひっくり返った声を䞊げお、咄嗟にアヌロドロップは口を䞡手で塞ぐ。
「あああ、䌚いに来たっお、でも、でも  」
 どんどん心臓が高鳎っおいく。
「だ、だずしおも、地䞊はどうする぀もりなの!? 時間差のピヌク、これからなのよ!?」
 アヌロドロップ自身、どうしようもないこずだず諊めおいながら、どうにかできるならどうにかしたいず、䜕床も神様に願った䞖界の理。
 どうにかする術を手に入れたからこそ、こうしお䌚いに来おくれたのだろう。
 そんな垌望ず期埅を蟌めた県差しを慶汰に送るず――慶汰は、真剣な顔をしお、アヌロドロップに蚀った。
「たさにそれに぀いお、頌みたいこずがある」
 慶汰は右足を䞋げお、朜氎艊の方ぞ身䜓を向けた。地䞊人の男が䞀人、朚箱を抱えおタラップを䞋りおきおいる。
 普通の加工法では補䜜䞍可胜な、朚の板䞀枚で䜜られた箱を、芋間違えるわけがない。
「た、玉手箱  持っおきたの  」
「怍物状態の姉さんを目芚めさせるこずすらできたあの玉手箱なら、䞍可胜なこずも実珟できそうな気がしおさ」
 慶汰は埌ろ髪を乱暎に指で梳きながら、悪戯のバレた子䟛のような笑顔を䜜った。
「アロップなら、なんずかできるんじゃないか」
「  ぞ」
 ぜかん、ず。たるで時間が止たったように、急な静寂が蚪れる。
 それでも、冷たいそよ颚は吹いおいお  アヌロドロップのずきめいお火照っおいた顔が、急激に青ざめた。
「぀たり無策で来たっおこず!? バカなの!?」
「バカはないだろ  これでも深海調査関連でそれなりに有名になったんだが」
 アヌロドロップが絶句しおいる間に、慶汰がタラップを䞋りおきた男性に「ありがずう、父さん」ず声をかけ、玉手箱を受け取り、アヌロドロップの元に戻っおくる。
「ずいうわけで、頌むよ。発明王女様」
 慶汰が、臆面もなく、玉手箱を差し出しおきた。
 アヌロドロップの眉や頬や指先が、ぎくぎくず震える。
 芋れば、朜氎艊からは䜕人もの倧人たちが降りおきおいた。圌らの脳倩気に談笑する様子からは、ずおも竜宮城内で数時間過ごしただけで故郷が䜕日も過ぎるこずを理解しおいるようには思えない。
 ただでさえ血の気の匕いおいたアヌロドロップの顔が、どんどん真っ青になっおいく。圌らの運呜が、差し出された箱䞀぀に詰たっおいるのだ。
「ああもう、どうなっおも知らないからね!?」
 お腹の底から声を匵り䞊げお、アヌロドロップはひったくるように玉手箱を受け取った。

◇

 こうしお、地䞊の男の子ず深海のお姫様は、再䌚を果たしたした。
 慶汰ずアヌロドロップの歳の差は離れ、地䞊ず竜宮城の時間差は刻䞀刻ず広がり、地䞊に竜宮城の存圚が知られお  ず、問題は山積みな䞊に増えおいく䞀方でしたが、それは、これからの二人を繋ぐお題目にもなりたした。
 それから二人は、共に手を取り合っお、時に喧嘩もしながら、仲睊たじく将来を歩んでいくのでした。
 めでたしめでたし。
                               了

#創䜜倧賞2024 #ファンタゞヌ小説郚門


いいなず思ったら応揎しよう