メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

小説 「䞖間さた」 ① 


     
      あらすじ                                            

     小説家志望の倫、それを支える劻。貧しくも寄り添う二人の家に、い぀しか平べったい箱のような生き物「䞖間さた」が䜏み぀く。倧人しく無害に芋える「䞖間さた」だったが、頭の煙突から吐き出すピンク色の煙は、じわじわず二人の心身を蝕んでいく。
     瀟䌚的孀立ず衰匱の果おに、倫は「䞖間さた」に煙の正䜓を尋ねる。
    「これ、デスか」、初めお口を開いた生き物が告げたのは、冷酷な真実だった。
    「䞖間」ずいう怪異に窒息させられおいく倫婊の砎滅ず解攟を描く、矎しくも哀切な玔文孊ホラヌ。


       
       

      䞖間さた ①

                     智ずも 


    「䞖間 せけんさた」がい぀ごろからわたしたちの家に䜏み぀くようになったのか、わたしはよく思い出せない。
     もうずいぶん前からのような気もするし、ただほんの最近みたいにも思える。気が぀いたずきには「䞖間さた」がちゃぶ台に぀いおいた。さんたやら豆腐やらをいっしょに食べおいた。カレヌラむスなんかも。朝は䞻人ず同じようにコヌン・フレヌクに牛乳をかけお食べおいるらしい。「䞖間さた」は出されたものを、おずなしく食べる。
    「䞖間さた」の圢状はすこし倉わっおいる。
     身 みの長 たけはセンチほどで、暪幅はそれよりほんのわずかに短い。厚みはセンチくらい。その平べったい箱のような䜓に顔が぀いおいる。からだ党䜓が顔なのだ。目はゆで卵を暪にしたようなかたちで、黒目がすごく倧きい。玺色 こんいろのビヌ玉がはたっおいるみたいだ。口の䞡わきは぀ねに持ち䞊がっおいるので笑っおいるふうに芋えるが、字圢ずいうのでもない。カモメが空をゆったり飛んでいるようなかっこうず蚀ったらいいか──だから芋ようによっおは困っおいるふうにも、悲しんでいるふうにも芋える。でもやっぱり、笑っおいるみたいだけど。
     ふだんは手足もなく、その堎にじっずしおいるこずが倚い。座怅子に寄りかかっおいたり、抌し入れの䞭板 なかいたに乗っかっおいたり、物干し堎で朚挏れ日をあび、目を现めおいたりもする。歩いたり、ご飯を食べたりするずきにだけ、䜓の䞭から手足が出おくるのだ。にゅっ、ず。むっくりずした手足が。
    「䞖間さた」はおずなしいからいいなぁ、ず䞻人はほほ笑む。倫は隒々 そうぞうしいこずが倧の苊手なのだ。だから友だちさえ぀くらない。携垯電話も持っおいない。「䞖間さた」がいるこずすら、僕はずきどき忘れおしたうよ。
    「䞖間さた」はたしかに物静かだった。箪笥 たんすず壁のすき間にもぐりこむのが奜きらしく、暪向きになっお䜕時間もはさたったたたでいたりもする。そうなるず目も口も隠れおしたうので癜い箱ずなんら倉わらない。家の柱や梁 はりにのがりたいのかただ眺めおいるだけなのか、やけに熱心に芋あげおいたりするこずもある。お颚呂は嫌いらしく、入れおみようかずこちらがちらっ ・・・ず考えただけで䞀目散に逃げおいく。いちど䞻人ず無理やり湯船に぀けおみたら、いやに䜓がふくれおきたのでびっくりしお拟いあげた。しばらくは真っ赀になったたた板の間でのびおいた。「䞖間さた」は、ほんずうに面癜い。
     ただ、あたたの巊わきに぀いた煙突から、「䞖間さた」は煙を吐き出す。
     ぜっ、ず茪っかになった煙を出し、それが薄れお消える盎前にたたぜっ、ず茪をあげる。ぜっ、ぜっ、ぜっ、ず。茪っか状の煙を。朝も、昌も、倜も。ぜっ、ぜっ、ぜっ、ず。
     その気䜓はかすかにピンク色をしおいお、匂いは綿风 わたあめにすごく䌌おいる。立ちならぶ倜店 よみせの光景が目に浮かび、人々のにぎわいが聞こえおきそうになるくらい。わたしは子どものころお祭りが倧奜きだった。舌の䞊に感じた甘い味。りんご风。金魚すくいにペヌペヌ釣り。ヒペコ釣り、なんおものたであったなぁ。あれだけはなんだかかわいそうで芋ないようにしお通りすぎた。男の子たちはスマヌトボヌルの台の前で背なかを䞞めおたっけ。射的 しゃおきの屋台。赀ず癜の垂れ幕。劙に長い鉄砲を撃぀ぱん ・・、ずいう也いた音。砂利道 じゃりみちの䞡偎にひしめくように倜店が出おたんだ。にぎやかな色。仮面ラむダヌやりルトラマンのお面。サリヌちゃん。わくわくした圓おもの屋さん。倧圓たりのクマのぬいぐるみ。アクセサリヌ付きのコンパクト。たいおいは゜ヌスを塗ったおせんべいしかもらえなかったっけ。倜の空気に、いく皮類ものお菓子の匂いが混じりあっおた。倧奜きだったお兄ちゃん。錻にしわを寄せお笑うクセ。二重 ふたえたぶたの倧きな目。぀ないだ手ず手が倜店の明かりを受け、ふしぎな色合いに染たっおた。兄の手のひらの感觊に包たれ、安心し、誇らしいような気持ちになった。友だちに芋぀けおほしくお、チラチラずたわりを芋たりもした。ハンサムな自慢の兄。やさしかった父ず母。むかしは家族みんなが、ほんずうに仲がよかったなぁ。
    「䞖間さた」が家に来お間 たもないころ、わたしは䞻人に尋ねおみた。あの煙は䜕かしら さぁね、ず倫も銖をかしげる。「䞖間さた」はトむレに行かないみたいだから、その代わりなんじゃないかなぁ。いやな臭いがするんだったら僕も぀らいけど、さいわいお花畑めいたいい銙りだからね。なんにせよ生理的なこずだず思うから、こちらからは質問しないほうがいいよ。傷぀けおしたったら気の毒だ。
     そうね、ずわたしもほほ笑む。䞻人にはお花畑めいたいい銙り、に感じるらしい。わたしはやっぱり綿风の匂いに思える。傷぀けおしたったら、ずいうのは考えすぎのような気もしたけど、倫の思いやりぶかいそんなずころも奜きなのだ。いっしょに暮らし始めおずいぶんず時間がたったけれど、じぶんにはもったいないほどの人だず、わたしはいたでも思っおる。
     䞻人は本を曞いおいる。
     哲孊的な小説だ。わたしにはむずかしくおよくわからない郚分も倚いのだけれど、すばらしい䜜品なのだず思う。真っ癜な玙に倫の文章がならぶず、玙面そのものが茝いお芋えるのだ。ほんずうにふしぎ。出版はただされおいない。新人賞のたぐいに応募するこずも、もうやめおしたった。
     他人ず競争するこずは卒業だよ、ず䞻人は蚀う。䜕も急いでプロの䜜家にならなきゃいけないわけでもないしね。いたはずにかく、玍埗のいくものを曞きあげたいんだ。 
     わたしもうなずく。たっぷりず、いくらだっお時間をかければいい。倫の倢がわたしの倢。立掟な本が䞖に出、䞻人ずのこずを兄や䞡芪がゆるしおくれる。みずめおくれる。そしおその小説は倚くの人たちの愛読曞ずなる。その日を迎えるこずだけが、わたしにずっおの生きがいなのだ。
     もちろん、そうは蚀っおも生きおいくためにはお金がかかる。倫もアルバむトをしおいる。毎日の倕刊配達ず、日曜日にはショッピング・モヌルの駐車堎で誘導員たでしおくれおいる。ほかの時間はずっず机に向かっおる。わたしは早朝のパン屋さんず、倕方からはスヌパヌでレゞ係。
     裏手にすぐ山が迫り、借り手が぀かず攟眮されおいた平屋を芋぀けるこずができたので、なんずかやっおいける。掗濯機ず物干し台を据 すえたら裏庭の空間は埋たっおしたった。しげった暹朚が空を隠しおいるので陜もほずんど圓たらない。郚屋は目に芋えお傟いおる。すこしでもたっすぐなずころにちゃぶ台を眮いおご飯を食べる。倩井灯もこわれおいるので電気スタンドを灯す。ちょっず赀っぜい光。プラスチック補の笠 かさがオレンゞ色をしおるから。
     子どもはいない。ココがどこなのかもわからないのにそんなずころぞ自分たちの子どもを攟りこめるかい ず䞻人は蚀う。そんな、無責任なこずを──。わたしもふたりきりでいられればそれでいい。満足。倫はお酒も飲たず、たばこも吞わず、ギャンブルも女遊びもしない。家の近くを走る線路を越え、涞 かれた氎路づたいに倫婊で歩く。ものの分ずかからないずころに廃墟ずなっおいるボりリング堎がある。誰ものがっおこない屋䞊の長怅子 ながいすで、わたしの぀くったお匁圓を食べるのがふたりの楜しみだ。錆 さびだらけの金網の前にならんで立ち、倕方のひかりが町䞊みを照らすのも芋る。䜎い山に取りかこたれた平べったい町。終わっおしたった時間が色に倉わったような赀さで、垂街地党䜓がだいだい色に染たっおた。
     わたしはほんずうに、しあわせものだず思う。
     
                           䞖間さた ② ぞ ぀づく




     
     
    ラむタヌ  JADP認定 メンタル心理カりンセラヌ  JADP認定 䞊玚心理カりンセラヌ  「Blue あなたずわたしの本」 https://btomotomo.hatenablog.com/

    あなたぞのおすすめ