
第17話 「待っていない」
最近、
橋へ来ることが増えた。
理由はない。
少なくとも、
あたしはそう思っている。
風通しがいいから。
昼寝しやすいから。
川が見えるから。
きっとその辺だ。
たぶん。
橋の欄干に飛び乗る。
川は今日も流れている。
少し濁った水。
少し欠けた護岸。
何も変わらない。
そのはずだった。
あたしは橋の向こうを見る。
誰もいない。
別に気にならない。
気にならないけれど。
もう一度見た。
やっぱり誰もいない。
その時。
草むらが揺れた。
小さい猫だった。
橋の下から顔を出している。
あたしを見る。
それから橋の向こうを見る。
何かを探しているようだった。
いや。
気のせいかもしれない。
あたしは猫だ。
猫の考えることなんて、
分かるはずがない。
小さい猫はしばらく辺りを見回し、
やがて草むらへ戻っていった。
その背中が見えなくなった頃。
今度は橋の向こうから、
少女が歩いてきた。
ランドセルが揺れている。
少女はあたしを見る。
少し笑う。
それから。
橋の下を見る。
しばらく見ている。
何も言わない。
小さい猫は出てこない。
少女も呼ばない。
ただ見ている。
そして少しだけ待ったあと、
橋の真ん中へ戻ってきた。
風が吹いた。
少女の髪が揺れる。
あたしは何となく思った。
さっきの小さい猫も。
今の少女も。
何かを探していた。
たぶん。
でも、
見つからなかった。
それなのに。
どこか安心しているようにも見えた。
不思議だった。
しばらくして、
少女は帰っていった。
橋の上には、
あたしだけが残る。
夕方の光が、
川に細く伸びている。
草むらを見る。
小さい猫は出てこない。
橋の向こうを見る。
少女もいない。
それなのに。
あたしは、
すぐには橋を離れなかった。
誰かを待っていたわけじゃない。
少なくとも、
そう思うことにした。
川の流れる音が聞こえる。
風が吹く。
あたしは目を閉じた。
その時だった。
どこからか、
小さい鳴き声が聞こえた気がした。
目を開く。
でも、
もう聞こえない。
気のせいかもしれない。
そうかもしれない。
それでも。
なぜだか、
少しだけ胸がざわついた。