メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【エッセイ】失った色、戻る色。そして帰る場所

    久しぶりの帰郷に心躍る。
    新横浜のJRから新幹線へ乗り換え場所のKIYOSUKUで駅弁を選ぶ。
    朝8時。
    軽く朝食は家で済ませた。
    それほど腹が空いているわけではなかったが、なんとなく参列された彩豊かな駅弁を眺めているだけでこれから旅立つ楽しみが沸き起こっていくる。
    弁当が笑みを浮かべてこっちを見ている気がする。
    やっぱり新幹線で流れる景色を見ながら駅弁を食べたいと思い直した。
    焼肉弁当、崎陽軒の焼売弁当、鰻重弁当とどれもこれも涎が垂るものばかり。
    風景を見ながら、箸を口に運ぶのを想像するとそれだけでお腹が減ってきた気がした。
    迷いながらもやっぱり幕内弁当を選んだ。
    学生や20代、30代の頃は、焼肉とか、フライもののおかずが多い弁当を選んでいたが、最近はいろんなおかずを楽しめる幕の内に魅力を感じる。
    「これも年齢のせいかも」と少し経過した時間を感じた。

    画像

    新幹線に乗り込むと座席は2番Eで、二人掛けの窓側だった。
    すでに廊下側には60歳くらいのオバサンが座っていて軽く会釈した。
    新横浜を出発してトンネルを抜けると、そこはもう茶畑が広がる静岡県。
    本来なら蒼い空と緑園のコントラスト、そして背景に富士山なんかが見えるところだが、雨男の写真家である私は、台風2個を引き連れていて、あいにくの天気。
    おまけに霧が発生していてほぼ何も見えないという最悪の条件だった。
    仕方なく、そんな風景を眺めながら弁当に手をかけた時だった。

    画像

    隣でうたた寝していたオバサンが私が弁当に手を伸ばしたと同時に席を立った。席を立って廊下へそそくさと去るオバサンの背中に自然と視線を送っていた。
    自動ドアが閉まっていく。
    その向こう側に消えていくオバサンの背中を見送るしかなかった私には、なんとも言えないモヤモヤ感だけが残った。
    「あ、弁当の匂いが嫌なんだ」「うわぁ、迷惑だったか」と一瞬で察してしまった。気にしなければよかったのだが。
    割り箸を割って「さぁ、どれを最初に味わおうか」と駅弁のワクワクポイントのはずが、このモヤっと感が頭をよぎる。
    オバサンの隣で駅弁を食べたかったわけではない。
    席をたつのはその人の自由だ。
    弁当の匂いで乗り物酔いしてしまう人もいるだろう。
    気分が悪くなる気持ちもわかる。
    私も昔、映画館で映画を見ていて、隣の人が持ち込みのマクドを頬張り始めて、キツい匂いに映画の雰囲気を台無しにされて気分を害した思い出がある。
    駅弁を持った瞬間に席をたったオバサンに「臭いからさっさと食べて!迷惑なのよ」と声をかけられてはいないが、そう言われた気がした。
    駅弁から笑みが消え、彩から明度が消える。
    私はもうそれが気になって景色と駅弁を楽しむ気にはなれなくなってしまった。
    ただ、急いで箸を走らせ、口に放り込むだけの作業になってしまった。
    腹は膨れた。
    美味しい駅弁でもあった。

    ………………。

    けれ私は駅弁をたった3分で平らげて早々に片付けた。
    すると同時にそのオバサンは席に戻ってきたのだ。
    どうやら廊下から私が食べ終わったかどうか監視していたようだ。
    オバサンの露骨な態度に全てを壊された気がした。
    けれど、それを非難することはできないことは弁えている。
    どうして欲しかったとか要望はない。
    無視すればよかったのかもしれない、それができれば。
    以前も私はカフェテラスで一人お茶していたら、同じ年代のオバサン二人が「相席よろしいでしょうか」と感じよく声をかけてきたことがあった。
    私は一人の時間と空間を見て楽しんでいたのだ。
    けれど通常、そのように声をかけられ、「いや、ほか当たってください」と無碍に断ることはできない。
    結局、私は二人に追われる形になって、私は席をたった。
    軽く会釈してきたオバサンの”してやったり顔”は今でも忘れられない。
    はっきりいって感じわるい。
    言葉では角が立つので、態度で悟らせるスキルはあの年代特有のワザとしか思えない。
    楽しみを強制的に終わらせられた、あるいはそう勝手に悟ってしまった私は、新幹線の乗車中ずっと不貞腐れていた。
    “すかしっぺ”しまくって毒ガス攻撃でもしてやろうかと思案していたが、自分を捨てられない私は優雅にうたた寝するオバサンを邪魔することは最後までできなかった。
    我を通したお隣さんに比べ、私は”右に倣え”はできなかった。
    本当のところ、そんな自分に腹を立てていたのかもしれない。

    新神戸駅についた。
    荷物を持って降り立つ最初の一歩を踏み入れてた時、サーッと空気が飛び、モノクロからカラーの世界に変わった気がして自然と表情が緩んだ。
    神戸についた私は久しぶりに姉とお茶していた。
    おしゃれな雨傘で歩いている神戸の風景がモヤっと感を吹き飛ばしてくれる。
    久しぶりに再開した姉と子育て論を展開しながらテラスでカフェラテを優雅に楽しんだ。
    いつもの変わらない神戸の風景は「まぁまぁ、そんなことは忘れて神戸を楽しんで」と声をかけてくれたような気がした。


    画像

    最後まで読んで頂き、ありがとうございます。
    今創作大賞2026に向けてイチオシのエッセイを公開しています。
    是非是非、こちらも読んでみてください。


     
     
    YouTubeチャンネル開設した時、フォロワー数:7000名以上!歴史のグレーゾーン(未解決事件、都市伝説、オカルト、黒歴史、ちょっと気になる歴史etc)を『信じられないけどほんと』的な魅力的なストーリーを読み切り記事で配信!是非フォローして頂き、お見逃しなく!!読んで楽しんで!