
帝国海軍プラモデルの椅子取りゲームから見る、ガンプラ世界市場の危機
プラモデル市場とは椅子取りゲームだ。どのモデルを、どのメーカーが、どのスケールで、どのタイミングで商品化するか。人気のあるモデルを先に押さえたメーカーは、長く市場の中心に座る事ができる。(文字数14,729)
空席を放置したメーカーは、後発や周辺勢力に市場を奪われる。この構図を考える上で、非常に分かりやすい例が、帝国海軍艦船プラモデルの世界である。静岡模型教材協同組合のウォーターラインシリーズが代表例だ。
ウォーターラインシリーズは、模型メーカーのタミヤとハセガワとアオシマが共同運営する世界最大の軍艦シリーズである。1/700スケールで水上部分を再現する。以下がその作例だ。筆塗りだ。

そしてもう一つ、現在のガンプラ市場を考える上で外せない存在がある。大陸の模型メーカー、トランペッターである。マカオの華新発展有限公司だ。本社は広東省中山市にあり、マカオと隣接している。
トランペッターは、タミヤやハセガワのような日本模型メーカーとは違う形で成長してきた。とにかく先手を取る。先にその席に座るのである。1996年頃から急速にプラモデル市場で頭角を現してきたメーカーだ。
王道の中心に最初から座るのではなく、大手が出さない題材、マニアックな兵器、大型キット、価格と物量で勝負できる領域を押さえてきた。これは現在の大陸系ガンプラ周辺市場を見る上で、かなり示唆的である。
大陸勢は、単に正面から日本の本家を倒そうとしているわけではない。空いている席に座る。周辺市場を埋める。絶版や再販待ちに入り込む。名前をぼかし、画像で分からせ、ECとSNSで広げる。
昔風に言えば、これは浸透戦術である。今風に言えば、企業競争における一種の超限戦にも見える。正面からだけではなく、周辺から、空白から、過去から、ユーザーの不満から入り込む。そこに、バンダイの危機がある。
ウォーターラインシリーズという「静岡型秩序」
艦船模型の世界には、1/700ウォーターラインシリーズという有名なシリーズがある。ウォーターラインとは、喫水線から上だけを再現する艦船模型の形式である。帝国海軍が中心だが、対抗馬となる英米艦もある。
船底まで再現するフルハルモデルとは異なり、海上に浮かぶ姿を前提にした模型だ。このウォーターラインシリーズは、静岡の模型メーカーによる共同企画として成立した。
タミヤ、ハセガワ、アオシマ、かつてはフジミも参加していた。現在は主にタミヤ、ハセガワ、アオシマの三社が展開している。この共同企画の面白い点は、各社が同じ1/700艦船模型市場の中で、艦艇を分担していた事だ。
たとえば戦艦だけを見ても、人気艦の配置には明確な色がある。大和、武蔵はタミヤ。金剛型はハセガワ。長門、陸奥、扶桑、山城などはアオシマ。伊勢、日向もハセガワが担当する。以下、作例だ。筆塗りだ。

もちろん、これは「帝国海軍という公共的な歴史資産」を各社が法的に所有したという話ではない。帝国海軍の艦艇名や実在艦そのものは、ガンダムのような現役IPとは性格が違う。
しかし、市場上は事実上の席取りが起きた。大和という最人気艦の席に座ったのはタミヤだった。金剛型を押さえたのはハセガワだった。長門型や扶桑型を担ったのはアオシマだった。
これは、ユーザーから見れば「その艦を買うなら、このメーカー」という認識を生む。かなり日本的な秩序である。外から見ると、「談合的」に見えるかもしれない。
だが、ここでいう談合とは、公共工事の入札談合のような違法行為を意味している訳ではない。ウォーターラインシリーズは、あくまで複数メーカーによる共同企画、共同ブランド、共同シリーズである。
同じ規格で市場を育てるために、重複を避け、ラインナップを分担する。これは、シリーズ全体の棚を広げるという意味では合理的だった。
法的に問題があると断定できるものではなく、むしろ当時の日本模型業界の中で成立した「業界内秩序」と見るべきだろう。
ただし、市場原理の観点から見ると、この秩序はやはり椅子取りゲームである。人気艦を押さえた会社は強い。そうでない会社は、別の道を探さなければならない。以下、ハセガワ。httpsではないからリンクを踏む時は注意。
フジミの離脱と独自路線
この秩序に対して、フジミはやがて独自路線に向かう。1992年、静岡模型教材協同組合を抜けて、フジミはウォーターラインシリーズから正式離脱し、自社独自の艦船模型展開を進めていった。
後年のフジミ艦船模型は、精密化、仕様違い、特シリーズ、艦NEXTなど、独自性の強い方向へ進む。これは後の大陸勢のプラモデル会社の成長を見た時、非常に示唆的である。国内で似た動きが出ていたのだ。
共同企画の中にいれば、一定の市場には参加できる。だが、人気艦の席がすでに埋まっているなら、自社の自由度は下がる。そこで、フジミは既存秩序の外へ出て、別の勝ち筋を探した。
この動きは、単なる仲間割れではない。市場における「空席の再発見」である。既存シリーズの中では取れない席を、独自仕様、精密化、別シリーズ化によって取りに行くのだ。
これにより、フジミはウォーターラインの外側に自分の城を作った。静岡模型教材協同組合にいたら、フジミは一生、大和を販売できない。談合的な「業界内秩序」から離脱したのだ。以下、フジミ模型の大和の作例だ。

この艦NEXTシリーズは、明らかにバンダイのガンプラ仕様だ。接着剤なし、最初からパーツの色分け、誰でも手で簡単に組立られる。そしてシールである。全くガンプラそのものの仕様で、戦艦大和が作れる。革命的だ。
このガンプラ仕様のプラモデルは3Dキャドの発達と連動している。2000年代〜2010年代には、データ管理(PLM)との連携が進み、PCのスペック向上に合わせて大規模なアセンブリ(組み立て)設計が容易になった。
2010年代後半〜2020年代はWebブラウザで動く「Autodesk Fusion」などのクラウド型CADが台頭した。インストール不要で、サブスクリプションにより安価かつ手軽に利用できるようになった。
スタートアップ企業や個人を牽引している。また、AIによるジェネレネイティブデザイン(最適形状の自動生成)も実用化されている。フジミとバンダイはこの流れに乗り、プラモデルをIT化させた。
このように、3D CADは、ガンプラを革命的に変えた。以前のキットとは別物に買えた。そしてバンダイを大きく成長させた。だが重要なのは、ガンプラを強くした技術と文法が、外部にも広がっている事である。
3D CAD、精密なパーツ分割、多色成形、スナップフィット、内部フレーム、可動設計。これらはバンダイがガンプラを巨大市場へ育てる上で磨いてきた勝ち筋だった。
しかし技術である以上、それは外へ広がる。フジミはその文法を艦NEXTで帝国海軍艦船模型に持ち込み、大陸勢は同じ設計思想を大型キット、周辺パーツ、未発売機体、勝手再販へ応用している。
つまり、バンダイを強くした手法が、外部で複製され、今度はバンダイ自身に跳ね返っているのである。これは技術である以上、拡散するのは避けられないし、市場の需要も必然的だ。
ピットロードという後発の市場開拓
さらに重要なのが、ピットロードである。ピットロードは静岡勢ではない。神奈川県川崎市のメーカーであり、静岡模型業界の内側から出てきた会社ではない。1981年模型店を開き、1987年に創業した。
ピットロードは、フルハルモデルやマニアックな艦艇、精密志向の製品で存在感を高めた。ウォーターラインが「喫水線から上の1/700艦船模型」という形式を作ったのに対して、ピットロードはその外側から市場を掘った。
これは後発企業の典型的な戦い方である。既存大手が押さえていないモデルを出す。既存大手がやらない形式で出す。既存大手が後回しにするマニアックな需要を拾う。多少高くても、欲しい人に刺さる商品を出す。
このやり方は、現在の中国ホビー市場の動きにも通じる。ピットロードは、現代のロシア艦やソ連艦をフルハルで出すし、第二次世界大戦のフランス戦艦などマニアックなモデルを出す。以下は護衛艦あたごの作例。

滅びたメーカー、ニチモの存在
もう一つ忘れてはいけないのがニチモである。ニチモ、日本模型はかつて艦船模型や自動車、航空機などで大きな存在感を持っていたメーカーだった。ニチモの1/200大和はプラモ屋の看板だった。昔は約5,000円だった。
今だと楽天で27万円で売られ、別の会社が8万円で出している。
特に30センチシリーズの艦船模型は、古い世代の模型ファンには記憶に残る商品である。戦艦大和、空母、巡洋艦など、水に浮かべて遊ぶモータライズ模型の時代を象徴する存在でもあった。この工作感がたまらない?

しかし、ニチモは現在、かつてのようなプラモデルメーカーとしては市場の中心にいない。模型市場の変化、少子化、遊び方の変化、金型維持や流通の問題など、さまざまな要因が重なり、かつての存在感は失われた。
ニチモの例が示しているのは、模型メーカーは永遠ではないという事だ。
優れた商品を持っていても、市場の変化に対応できなければ、やがて消えていく。かつての名門であっても、席を守り続けなければ市場から退場する。
これは、現在のバンダイにも無関係ではない。
トランペッター型の大陸企業モデル
ここで、大陸の模型メーカー、トランペッターを再び見てみたい。トランペッターは、マカオを拠点とするプラスチックモデルメーカーである。航空機、艦船、戦車、軍用車両など、非常に幅広いジャンルを展開している。
トランペッターの特徴は、最初からタミヤやハセガワと同じ土俵で、完璧な王道商品を作る事ではなかった。むしろ強かったのは、他社が出していない題材を先に出す事だった。粗製でも先に椅子に座ってしまうのだ。
ソ連機、ロシア機、大型爆撃機、現用艦、大型艦船、マイナー車両、巨大スケール。タミヤやハセガワが慎重になる題材を、トランペッターは先に商品化してきた。
もちろん、すべてが完璧だった訳ではない。考証が甘い、形状に癖がある、説明書が分かりにくい、組みにくい、といった評価もある。しかし、それでも買う人はいた。なぜなら、他にないからである。
昔の模型仲間との会話で、「ラプターが出た」と聞いた時に、「でもトランペッターじゃなぁ」という反応があった事を覚えている。当時はYF-22ラプターと言い、テスト機だった。現実世界で実用化前の戦闘機だ。
当時のトランペッターは、話題の新鋭機を早く出す力はあっても、タミヤやハセガワほどの信頼感はなかった。早いが粗い。出すが不安。日本のプラモデルメーカーの本格的な敵というより、好事家が面白がって眺める新興メーカーという位置づけだった。
だが、ここが重要である。笑われても、まず市場に出す。資料が不十分でも、話題の機体に先に座る。粗さを指摘されながらも、カタログを増やし、経験を積み、後から精度を上げる。この「先に出す。後から改善する」という姿勢こそ、トランペッター型の大陸企業モデルだった。
ここに時代の変化がある。2000年代以降、大陸の国力と製造力は急速に伸びた。金型技術、設計環境、素材、流通、EC、海外販売網も整っていった。かつては「トランペッターじゃなぁ」と笑われていた早出し戦術が、国力と製造力を背景に、次第に無視できない市場戦略へ変わっていったのである。
模型市場では、「多少問題があっても、その題材の商品が存在する事」自体に価値がある。特にマニアックな機体や大型艦船では、ユーザーはある程度の不具合を自分で処理できる。上級者は削る。合わせる。補強する。塗る。直す。
この層にとって、最も困るのは「出来が粗い事」ではない。そもそも商品が存在しない事だ。トランペッターは、そこを突いた。
大手が出さないモデルを出す。多少粗くても市場に出す。初動で売る。レビューを受ける。次の商品で改善する。カタログを広げる。気がつくと、無視できないメーカーになっている。
これは、非常に大陸的な企業戦略に見える。
まず空白地帯を取る。完成度は後から上げる。市場に出してから学習する。速度と物量で露出を稼ぐ。大手が慎重にしている間に、席に座る。このトランペッター型の戦い方は、現在の大陸系ガンダム風キット市場にそのまま重なる。

ガンプラでも始まった椅子取りゲーム
ここからガンプラの話に移る。
ガンプラは、帝国海軍艦船模型とは違う。帝国海軍の艦艇は歴史上の実在物だが、ガンダムは明確な現役IPである。バンダイは公式の権利者側に立ち、正規の商品を展開する本家である。
本来なら、バンダイが圧倒的に有利なはずだ。
しかし現在の世界市場では、その前提が揺らぎ始めている。大陸系ホビー企業が、非公式・無許可の形で、バンダイが出していないガンダム系大型キット、マニアック機体、高ギミック商品を出し始めている。
PG相当のズゴック。
(爪が回転し、モノアイが光る)
PGサイズ相当のボール。
(ビームサーベルを4本持てる)

巨大なノイエ・ジール。
(これは凄い。現物は見たい)
外伝系のゲルググⅢ。
(マニアック過ぎて知らない)
発光、電動、内部メカ、ハッチ展開、独自スケール。
これは、単なる粗悪な海賊版ではない。むしろ、バンダイが出していない「空席」を、大陸勢が先に埋めているように見える。ここに危機がある。そして厄介な事にかなりのこだわりと遊び心があり、無視できないレベルだ。
バンダイが存在しない商品では勝てない
バンダイの強みは明確である。
公式である事。
品質が安定している事。
誰でも組みやすい事。
色分けされている事。
説明書が分かりやすい事。
流通とブランドが強い事。
部品サポートがある事。
ガンダムという本丸IPを持っている事。
しかし、これらの強みは「商品が存在する場合」に発揮される。問題は、バンダイが出していない商品である。バンダイがPGズゴックを出していない。バンダイが1/144巨大ノイエ・ジールを現代水準で出していない。
バンダイが外伝・派生機体のすべてを拾っていない。バンダイが発光・電動・内部メカを盛った高額ラインを十分に出していない。この空白では、バンダイは勝てない。なぜなら、そもそも公式商品が存在しないからだ。
ユーザーから見れば、こうなる。
公式では出ていない。
でも欲しい。
非公式だが、目の前に商品がある。
しかも大きい。光る。動く。内部メカがある。
なら買う人は出る。
これは市場原理である。
そして、ここでトランペッター型の戦い方が効く。最初から本家に正面勝負する必要はない。本家が出していないものを出せばいい。本家が慎重になる高額・大型・マニアック枠を取ればいい。
多少粗くても、欲しい人は買う。買った人がレビューする。次の商品で改善する。この流れが回ると、非公式市場は単なる海賊版市場ではなく、独自のホビー市場として育ち始める。
大陸製プラモを一括りに見る危険性
ただし、ここで注意すべき事がある。大陸製を一括りに見てはいけない、という点である。中国製の模造品には、正規品をそのまま安価に真似た低価格コピー型がある。
たとえば、正規品に似せた箱、似せたランナー、似せたデカールで、非常に安く売られる商品である。このタイプは、価格の安さと引き換えに、パーツの合い、ダボの精度、成形、材質、色味、デカール、関節保持力などで粗が出やすい。組み立てる段階で、はめ込みがきつい、合いが悪い、削らなければ入らない、という問題が出る事もある。
安価コピー型の模造品は、あくまで「安く買える代用品」である。ここではバンダイの強みである組み易さ、精度、説明書、材質、完成時の安定感がまだ効いている。正規品と並べて作れば、差が見える場合も多い。
しかし、それだけを見て安心するのは危険である。大陸製の中には、もう一つ別の層がある。バンダイがまだ出していない大型機体、未PG化機体、外伝機体、高額キット、発光・電動・内部メカを盛った商品である。
これは単なる廉価コピーではない。空白市場を狙った、高額・高密度の商品である。低価格コピー型は粗くなりやすい。一方で、空白市場攻略型は、価格も高く、ギミックや工作精度に力を入れてくる可能性がある。
なぜなら、購入者も初心者ではなく、多少の加工や調整を前提に受け入れる上級者・マニア層だからである。この層にとって重要なのは、「安い事」よりも「公式が出していないものが存在する事」になる。
したがって、大陸勢の侵食は二層構造で見た方がよい。下層には、安価で粗いコピー品がある。上層には、高額で、物量とギミックと空白市場を狙う大型商品がある。安い模造品の粗さだけを見て、「やはりバンダイは安泰だ」と判断すると、上位の空白市場攻略型を見誤る。
大陸勢は、安価コピーで裾野を取り、高額未発売枠で夢を取り、周辺機器で公式ユーザーの追加需要を取り、勝手再販で過去需要を取る。この階層性こそが、本当の脅威である。
バンダイは全戦線を守り切れない
この問題は、ガンダムだけに限らない。バンダイは巨大な企業であり、多数のIPと商品ラインを抱えている。そのため、すべての市場、すべての作品、すべての旧作需要を守り切れる訳ではない。
たとえば宇宙戦艦ヤマトのプラモデル市場は、かつてバンダイが担ってきた重要な領域だった。しかし現在は、ガンダムほど強く看板を掲げているようには見えない。もちろん、バンダイが完全に手を引いた訳ではない。
だが、ガンプラ本丸に比べれば、商品展開の熱量や継続性は明らかに弱い。宇宙戦艦ヤマトは、本来、大陸勢が高額・高密度・高ギミック商品として狙いやすい題材である。大型艦として映える。
波動砲を光らせられる。艦橋、主砲、エンジンノズル、格納庫、艦載機、専用台座など、周辺ギミックを盛りやすい。ファン層も比較的高年齢で、高額商品に耐えられる可能性がある。
つまり、バンダイが優先順位を下げた領域は、外部勢力にとって空白市場になる。ガンダムは本丸としてまだ守られている。しかし、ヤマトのような周辺IPでは、空白はより大きい。
大陸勢から見れば、そこは放棄された辺境であり、最初に占領しやすい場所になる。これは、バンダイという企業の限界でもある。巨大企業だからこそ、すべての戦線に同じ密度で兵力を置く事はできない。
なおプラモを製造する金型は固定資産税がかかる。なので、バンダイは金型を持っているだけで、お金が出て行く。そうなるとうかつに新しい金型も作れない。何かを廃棄にして、新しい金型を作るなど迫られる。
だからこそ、守られていない場所、後回しにされた場所、商品化の熱量が下がった場所から、別勢力が入り込む。この点でも、大陸勢の戦い方は正面決戦ではない。本丸だけを見るのではなく、周辺IP、再販待ち、絶版品、アクセサリー、海外流通まで含めて、守りの薄い場所を探して入ってくる。
本体を取れないなら、周辺機器を取る
大陸勢の手法が厄介なのは、本体だけを狙っている訳ではない点である。
たとえば、バンダイが最上位モデルとして1/60νガンダムを最近出した。これは本家が需要のある席に座った例であり、バンダイの勝ち筋である。

バンダイは勝利したかに見える。
だが、それでも終わらない。
大陸勢は、その周辺市場に入り込む。
専用台座。
ディスプレイケース。
水転写デカール。
金属関節。
補強パーツ。
ハンドパーツ。
ファンネルエフェクト。
LED関連部品。
ディテールアップパーツ。
本体はバンダイが売る。しかし、本体を買ったユーザーが「もっと格好よく飾りたい」「補強したい」「発光させたい」「デカールを増やしたい」と考えた瞬間、その追加需要を大陸勢が取る。
これは非常に巧妙である。
本体のコピーは権利侵害が目立ちやすい。しかし周辺パーツや展示アクセサリーは、名称をぼかしやすい。「1/60白いロボット用」「大型ロボットモデル用」「汎用ディスプレイ台座」と書き、写真で分からせる事ができる。
ユーザーも、すでに公式品を買っている。その上で、追加パーツだけを外部から買う。この場合、心理的抵抗はさらに下がる。
公式品を買ったのだから、少しくらい外部パーツを使ってもよい。公式にないものを補っているだけだ。もっと良くしたいだけだ。
こうして、バンダイの正規商品を土台にしながら、周辺収益だけを外部勢が吸い取る構図が生まれる。これは、城を落とすのではなく、城下町の商売を奪うやり方である。本家の成功が、分家の市場を育てる。この構図は非常に危ない。これが大陸流浸透戦術だ。今だと超限戦とも言う。
絶版品・再販待ちを勝手に再供給する
さらに厄介なのは、絶版品や再販待ち商品への侵入である。バンダイは過去に多くのガンプラを出してきた。だが、全ての商品を常時再販できる訳ではない。
金型の状態。
生産ラインの都合。
現行商品の優先順位。
流通量。
売場面積。
採算性。
現在の品質基準とのズレ。
こうした事情から、長く再販されない商品、入手困難な商品、事実上絶版に近い商品が出る。しかし、ここも大陸勢にとっては商機になる。公式が再販しないなら、大陸が出す。中古価格が高騰しているなら大陸が供給する。
昔の人気機体にまだ需要があるなら、現代風に作り直す。国内で売られていないなら、中国市場で新規展開する。これは「勝手再販」とも言える。もちろん、法的には大きな問題を含む。しかし市場心理としては強い。
ユーザーから見れば、
公式が売っていない。
中古は高い。
転売価格では買いたくない。
長年待っても再販されない。
なら、非公式でも構わない。
こういう判断が起きる。
これは違法動画の問題にも似ている。公式配信がない古い作品ほど、違法アップロードが見られやすい。法的には正当化されないが、市場心理としては「公式が出していないなら仕方ない」という感覚が生まれる。
模型でも同じである。
公式が出さない未来商品。
公式が再販しない過去商品。
公式が用意しない周辺商品。
公式が優先順位を下げた別IP。
この四つが、すべて大陸勢の侵入口になる。
浸透戦術としての大陸ホビー市場
ここまで整理すると、大陸勢の手法は単なる海賊版とは言いにくい。むしろ、企業競争における浸透戦術である。正面からバンダイの本丸に突撃するだけではない。
本家が出していない空白を取る。
本家が売った商品の周辺機器を取る。
本家が再販しない過去商品を取る。
本家が守っていない海外市場を取る。
本家が軽視したマニアック需要を取る。
本家が優先順位を下げた別IPを取る。
本家が動きにくい高額・大型・電動・発光の夢枠を取る。
これは一つ一つは小さい。だが、積み重なると大きな市場になる。
昔の言葉で言えば、浸透戦術。今の言葉で言えば、企業競争における超限戦に近い。
法、流通、EC、SNS、レビュー、個人輸入、周辺機器、絶版再販、安価コピー、マニア市場、周辺IP。あらゆる境界をまたいで入り込む。正面の戦場だけでなく、周辺の戦場を全部使う。
しかも、購入者側に強い抑止力はない。売る側や輸入販売側には法的リスクがある。しかし、世界中の個人購入者を一人ずつ罰する事は現実的ではない。日本国内で水際規制を強化しても、世界市場全体を同じ水準で縛る事は難しい。
需要が残る限り、供給は戻ってくる。名前を変え、店を変え、国を変え、プラットフォームを変えて戻ってくる。
これが構造的な危機である。
法的対応には限界がある
もちろん、非公式ガンプラには法的問題がある。商標権、意匠権、著作権、不正競争防止法など、さまざまな論点があり得る。国内で販売する業者や、模倣品と知りながら流通させる事業者には大きなリスクがある。
また、日本では2022年10月から、海外事業者が日本の個人向けに送る模倣品について、水際取締りが強化された。個人使用目的であっても、商標権や意匠権を侵害する模倣品は税関で没収され得る。
しかし、それでも限界はある。
購入者個人を世界中で一人ずつ罰する事は現実的ではない。違法動画の視聴者をすべて摘発できないのと同じで、需要側の末端まで強く抑止する事は難しい。
日本国内であれば、税関、EC削除、販売業者への対応は可能である。だが、世界市場全体で同じ水準の規制を敷く事は考えにくい。
東南アジア、欧米、中東、南米、中国国内市場。それぞれ法制度も運用も違う。プラットフォームも違う。販売名をぼかし、画像で分からせ、別名で売る事もできる。
つまり、法は流通コストを上げる事はできる。しかし、欲しい人の需要そのものは消せない。ここがバンダイにとって厳しい。
正統性より商品満足が勝つ市場
日本国内では、まだ「ガンプラはバンダイ」「公式を買うべき」という意識が強い。これは本家の強みである。しかし、海外では必ずしもそうではない。海外ユーザーにとって重要なのは、正統性だけではない。
さらに、低価格コピー品と高額空白攻略型では、購入者の動機も異なる。前者は安さ、後者は「公式に存在しない夢」を買う動きである。
買えるか。
安いか。
大きいか。
かっこいいか。
欲しい機体か。
動画映えするか。
レビューで大きな問題がないか。
この判断が強くなる。
ミドルクラス以下の消費者層では、法的正統性より市場原理が勝つ事がある。可処分所得に限界がある以上、「公式を支えるべき」という倫理より、「今、自分が満足できる商品を買う」という判断が強くなる。
さらに、非公式品が公式未発売品である場合、購入者は罪悪感を処理しやすい。公式が出していない。公式に金を払いたくても商品がない。なら、これは代替ではなく、未充足需要を満たす商品だ。絶版品や再販待ち商品でも同じである。
公式が売っていない。
中古は高い。
再販されない。
なら、別の供給で満たす。
周辺IPでも同じである。
本家が看板を下ろしかけている。
商品展開の優先順位が下がっている。
欲しいのに公式から出ない。
なら、別の供給に流れる。
この理屈は法的には弱い。
しかし市場心理としては強い。
バンダイが守るべきは、権利だけではない
バンダイは法的には本家である。しかし市場では、本家であるだけでは不十分になりつつある。本当に守るべきなのは、著作権や商標だけではない。
「ガンプラの夢は、バンダイが一番よく分かっている」
「欲しいものは、結局バンダイが出してくれる」
「公式が一番かっこいい」
「公式が一番攻めている」
「公式が一番欲望に近い」
「公式が再販してくれる」
「公式が周辺パーツまで面倒を見てくれる」
「本家が抱える別IPも、簡単には見捨てない」


この信頼である。ここを失うと危ない。
本家が正統性を掲げている間に、分家がファンの欲望を満たす。
本家が慎重に商品計画を立てている間に、分家が空席に座る。
本家が「いつか出す」と考えている間に、分家が先に出す。
本家が再販しない間に、分家が勝手に再供給する。
本家が周辺パーツを出さない間に、分家が城下町の商売を取る。
本家が優先順位を下げたIPに、分家が別の旗を立てる。
これは、帝国海軍艦船模型の椅子取りゲームとよく似ている。ただし、今回はもっと厄介だ。静岡ウォーターラインの場合、競争は日本国内の模型業界の内側で起きた。
ガンプラの場合、競争は国境をまたぐ。相手は大陸の製造力、巨大市場、EC流通、SNS拡散を持っている。しかも、権利コストを払わず、公式の制約を受けずに動ける。
さらに、トランペッター型の成功モデルがすでにある。
大手が出さないものを出す。多少粗くても先に出す。市場に出してから改善する。マニアックな需要を拾う。大きく、目立つものを作る。世界市場で露出を取る。
この戦い方を、ガンダム風キットにも、ヤマトのような周辺IPにも、安価コピーから高額空白攻略までの階層的な商品展開にも応用できる。
市場で勝つしかない
結論は明確である。
バンダイは、法務だけでは勝てない。市場で勝つしかない。
公式が空白を先に埋める。
PG級、MG級、大型MA、高ギミック商品を戦略的に押さえる。サザビー、ジオング、ノイエ・ジール、クィン・マンサ、デンドロビウム、サイコガンダム、ナイチンゲール、外伝系人気機体。需要がある席を、先に公式が取る。
また、海外でも買えるようにする必要がある。日本国内中心の供給、プレバン偏重、再販不足、転売問題が残るほど、非公式品への心理的抵抗は下がる。
さらに、周辺市場も放置できない。
大型キット用の台座。
展示ケース。
公式デカール。
補強パーツ。
発光ユニット。
エフェクトパーツ。
再販計画。
旧キットの現代版。
宇宙戦艦ヤマトのような周辺IPの高額・高密度商品。こうした「本体の外側」にある需要まで見なければ、ガンプラ体験、あるいはバンダイが抱えてきたホビー文化の一部を外部勢に奪われる。
加えて、低価格コピー品については、正規品の品質、組みやすさ、安全性、説明書、サポートを明確に示し、「安いだけでは得られない体験」を守る必要がある。
公式が出さないなら、非公式でいい。
公式が買えないなら、海外品でいい。
公式が地味なら、光って動く方でいい。
公式が再販しないなら、勝手再販でいい。
公式が周辺パーツを出さないなら、大陸パーツでいい。
公式が優先順位を下げたIPなら、別の勢力の商品でいい。
こう思われたら危険である。
ガンプラはまだバンダイの城である。だが、城の隣にはすでに別の城が建ち始めている。その城は、最初は無許可の分家である。しかし、商品力、供給力、レビュー、SNS、ファン支持を積み上げれば、やがて「こちらにも正統性がある」と主張し始める。
日本国内では本家の権威が残るだろう。だが、海外市場では分からない。市場は、法よりも欲望で動く事がある。だからこそ、バンダイが本当に守るべきなのは、過去の正統性ではない。未来の空席である。
人気のある席、夢のある席、高額で話題になる席。
再販を待つ席。
周辺パーツの席。
展示文化の席。
本家が優先順位を下げた別IPの席。
そこに先に座らなければならない。
座らなければ、誰かが座る。そして一度座られた席は、簡単には取り戻せない。これは、いわば「一帯一路のプラモデル版」である。大陸勢は、いきなり本丸を落とすのではない。

本家が出していない機体、本家が再販しない旧商品、本家が用意しない周辺パーツ、本家が弱い海外流通、本家が優先順位を下げた周辺IPに入り込み、さらに安価コピーと高額空白攻略型を使い分けながら、少しずつユーザーの依存先を変えていく。
港湾や鉄道の代わりに、展示ケース、金属関節、デカール、EC流通、レビュー動画、勝手再販、安価コピー、高額大型キット、大型艦船モデルが敷かれていく。これはホビー市場における小さな経済圏形成であり、企業競争としての浸透戦術である。
今回はプラモデル市場の話をしたが、これは他の業界、他の分野でも起きている。90年代はトランペッター型で、粗製乱造で笑われた。だが今は違う。大陸の技術力は上がっている。ブランドを押し潰せる力がある。
世界市場は、本家かどうか、ブランドかどうかより、品質を見る。出来を見る。アイディアを見る。だからバンダイは錦の旗を持ち、旗を振れるが、気が付いたら、世界市場で大陸に負けて国内に押し込まれる可能性がある。
日本はコンテンツ文化が強いというが、それは本当か?一度疑った方がいい。強いと思ってあぐらをかいていると、大陸に世界市場を席捲される。これはプラモだけの話じゃない。今後あらゆる分野で起き得る。
そしてこれは大陸の中南海は直接関与していない。民間の話だ。大陸に真の意味で民間企業はないが、国策として押している訳ではない。自然にそうなったのだ。だからなおさら止められない力がある。脅威のメカニズムだ。
なお静岡県にバンダイを筆頭にタミヤ、アオシマ、ハセガワなどが存在するのは、徳川家康の政策にまで遡る。江戸で幕府を開いた時、駿河に木組み職人を全国から集めたのだ。この流れは戦時中の木製模型に発展した。
日本が残した職人文化なのだ。
大陸に滅ぼされないようにしよう。
コピーされて、真似されるのは、技術論として、阻止できない。法も、多国間で、整備されている訳でもない。だから最後は市場原理が勝つという話だ。正面から殴り合うなら、火力が高い方が勝つ可能性がある。
無論、バンダイにも限界がある。全ての機体を商品化し、全ての旧商品を再販し、全ての周辺パーツを用意し、全ての海外市場に十分供給する事はできない。
金型、生産ライン、在庫、流通、採算の制約があるからだ。しかし、市場の欲望にはその制約は関係ない。欲しいものが公式から出なければ、別の供給を探す。そこに非公式品が生まれる。そして最後は消費者が選ぶ。
この記事はガンプラを例にした産業論であり、技術論だ。以下に構造を要約する。本質的に、模倣されない技術はないから、必然的に起きる構図だ。
1. 先行企業が技術と商品文法を作る
バンダイなら、3D CAD、精密分割、多色成形、スナップフィット、内部フレーム、可動、組みやすさ。
2. その技術文法が市場標準になる
ユーザーが「こういう品質が当たり前」「こういうギミックが欲しい」と思うようになる。
3. 技術は広がる
CADも金型技術も流通もレビュー文化も、特定企業だけに閉じ込められない。必ず広がる。
4. 後発勢が空白を狙う
ブランドが出さない商品、再販しない商品、周辺パーツ、海外流通、安価版、高額夢枠。
5. 法は国際市場では万能ではない
国内では止められても、海外EC、別名販売、個人輸入、現地流通までは完全に押さえきれない。
6. 市場原理が勝つ
欲しい人がいて、買える商品があれば、正規・非正規の境界を越えて市場が動く。
これはガンプラだけの話ではなく、スマホ、EV、家電、ドローン、太陽光、アパレル、フィギュア、アニメグッズ、ゲーム周辺機器、AIツールでも起きる構図だ。警戒されたし。
フジミの離脱劇(国内)とトランペッターの出現(海外)はほぼ同時で、そして後年、フジミがガンプラ仕様の艦NEXTで、ウオーターラインシリーズに逆襲。さらに大陸勢がバンダイと同等の技術でコピーという流れだ。
もう一つの技術論は以下の記事へ
瑠璃ノ蒼の市場論・技術論・文明論 パート2
瑠璃ノ蒼の市場論・技術論・文明論 パート3
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以上
以下、解決策を提案した続編