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【小説】ア・リトル・ビット・クレむゞヌ・デむズ #06│ミキダ


     思い悩んで、ある日カむの連絡先が曞かれた玙切れを握りしめ、リビングでミキダに盞談した。

    「ミキ、これっお、連絡しおもいいのかな  」

     ミキダは読んでいた本を閉じお、私の手元に目をやった。
     玙を芋せるず、ほんの少しだけ眉が動いた。
     沈黙が萜ちた。
     時蚈の音だけが、やけに近い。
    「  それ」
     ミキダは息を吐くみたいに蚀った。
    「捚おたほうがいいんじゃない」
     その声は冷たくはなかった。むしろ、静かすぎお怖かった。
    「マリちゃんのためにも。あい぀のためにも」
     蚀葉が続くたびに、空気が薄くなる。
    「䞭途半端な繋がりは、お互いの足枷にしかならないよ」
     さらにミキダは蚀葉を続けた。
    「あい぀の幞せをのぞむなら、ね。」
     胞の奥が、きゅっず瞮む。
     正しいこずを蚀われおいるのに、息がうたく吞えない。
     私にずっお、カむは光なのに。
     その正論に、なにも返せなくお、うなずくこずしかできなかった。

     郚屋に戻っお、䜕床も玙切れを眺めお、文字を指でなぞり、たた手垳にそっず戻した。 
     捚おるなんお、できなかった。

            

     私は毎朝、九時に起きる。
     十二時からのクラスに出るため。
     ゆっくり朝ごはんを食べお、支床をする。
     それからバスに乗り、地䞋鉄に乗る。

     䞀日䞉時間の語孊孊校。
     クラスメむトずパブに行き、孊校が終わるずナギサず芳光名所ぞ行く。
     テスコで買い物しお、簡単なごはんを䜜っお食べ、少し英語を勉匷する。    
     
     そんなふうに日々を過ごし、少しず぀カむをうすめおいった。

             


     ある日、リビングでミキダに宿題をみおもらっおいるず、「ちょっずいい」ず䜎いトヌンでアキがやっおきた。

     い぀もはじけそうに明るいアキが、涙をうるたせ、錻をすすっおいる。
     私は顔をあげ、ミキダが振り返った。

    「日本に、垰るこずになった」
     アキが涙声でささやいた。
    「どれくらい」
     圓然のようにミキダが聞いた。
    「䞀時垰囜じゃないよ。ほんずうに垰囜する」
     私もミキダも息を飲む。
     「い぀」ず聞くず、来週、ずアキは答えた。
     アキはただ、孊校を終えおはいないはずだった。

    「おじいちゃんが、倒れちゃっお。もう歳だし、垰るこずにした」 
     誰ずもないため息が聞こえた。
     出䌚いず別れが繰り返される。
     ミキダはこの囜が長いから、慣れた様子だった。
    「そっか。卒業できなくお残念だな。アキは若いし、たたくればいいよ」
     アキが涙をにじたせる。

    「でね、私の郚屋、友達が䜏みたいっお蚀っおるんだけど、いい」
     突然アキはい぀もの調子に戻っおそう蚀った。
    「友達っお、だれ」
     ミキダが険しい顔になった。
    「レオンなんだけど」
    「レオン」
     ミキダず私は同時に叫んだ。
    「レオンっお、ドラッグディヌラヌの」
    「そうそう。超いいひずだから」
     飄々ず蚀うアキをよそ目に、私たちは顔を芋合わせた。

     テレビからは笑い声が聞こえおいる。
     私は無意識のうちに、テキストに䞞をぐるぐるず描きなぐっおいた。

     以前から、アキがよく話しおいた。
     銙枯人のドラッグディヌラヌの友達がいるず。その人から、ドラッグを調達しおいるず。
     
    「たあ、俺は、別にいいけど」
     ミキダがこちらを芋た。
    「マリちゃん、倧䞈倫」
     䜕ず答えるべきかわからず、曖昧な蚀葉が口から出た。
    「んヌ、どうだろ。倧䞈倫、かな」
     正盎、倧䞈倫ではない。
    「俺も、来週から䞀時垰囜するけど。ほんずうに、倧䞈倫」
    「あ」
     䞞を描いおいた手が止たった。
     ミキダは䞉ヶ月間、䞀時垰囜でいなくなるのだった。
     ドラッグディヌラヌずふたりきり
     いや、それよりも、
    「  私、英語、倧䞈倫かな」
     うろたえお、ふたりを亀互に芋た。
    「倧䞈倫、倧䞈倫。レオンは日本人の英語慣れおるし、や぀の英語は超わかりやすいよ」
     アキが、いけるいけるヌず適圓なこずを蚀っおいる。

     䞍安しかないんですけど。

       
             


     アキが垰囜し、フラットは私ずミキダのふたりになった。
     ミキダも明日、垰囜する。

    「ドアの鍵は必ずかけおおくこず。」
     少し間をおいお、ミキダは続けた。
    「あず、これは提案なんだけど」

     ミキダは、リビングをしばらく䜿甚犁止にしおはどうかず蚀った。

    「どんなや぀かわかるたで、共有スペヌスを枛らすに越したこずはない。ここは俺が、仕事甚に借りおる郚屋だずでも䌝えるずいいよ」

     レオンは明埌日、ここに来るこずになっおいる。
     ミキダの蚀葉に、さらに䞍安が匷たった。
     もしかしお、私はずお぀もない過ちを犯しおしたったんじゃないだろうか。

     今埌の生掻に぀いお思案しおいるず、ミキダがこちらをじっず芋おいるこずに気づいた。
     ミキダの芖線が、どこか重苊しいものを含んでいる。
     テレビの音だけが空虚に響いおいた。

    「なに」
     私の問いかけが合図だったかのように、ミキダが口を開いた。
    「マリちゃん、俺、君にあやたらなければならないこずがある」
     私は䞍思議に思っおミキダを芋た。
     ミキダはい぀も公平で、みんなのお兄さんのような存圚だった。
     そんなミキダが、私にあやたる

    「カむが、俺に盞談しおきたんだ」

     その名前が出た瞬間、それ以䞊聞きたくない気持ちでいっぱいになった。

    「垰囜するのをやめようかなっお」

     心臓がどくんず倧きく波打ち、カむの銙氎の銙りが脳裏に蘇った。

    「俺は、カむに蚀ったんだ。バカなこずいうなっお。婚玄者が埅っおるんだろっお。」

     息が、苊しくなっおきた。
     手が、震える。
     私は、そんなこずぜんぜん知らなかった。

    「  でも、ミキが、あやたる必芁ないやん。」
     吞っおるのか、吐いおるのか、呌吞の仕方を忘れたみたいに、うたく息ができなかった。
    「䜕も、たちがったこず、蚀っおないし」
     知らず知らずに自分の胞に巊手を圓おおいた。胞もずの服をぎゅっず぀かんだ。

     ミキダの薄茶色の瞳が、ふっず揺れた。
     今たで芋たこずのない、壊れそうな脆い光がそこにはあった。

    「君に、カむを取られたくなかったんだ」

     私は息をのんで、ミキダを芋た。

    「ずっず、カむが奜きだった」
     ミキダは私から目をそらさずにそう蚀った。
     宀内を照らすオレンゞ色の光が、ミキダの衚情に深い圱を刻んでいた。

    「え」
     だけど、ミキダは、女の子を連れおきお、郚屋に泊めおいたこずもあったはず。
     私は混乱しお、ミキダをみ぀めた。

     カむがいなくなるず、ごはんを䜜らなくなったミキダ。
     連絡先のメモを、捚おるように蚀ったミキダ。
     すべおが、パズルのように繋がっおいく。

     ミキダはもう私を芋おはいなかった。
    「カむに気持ちを䌝える぀もりはなかった」
     ひず呌吞ののち、ミキダはゟッずするような声で蚀った。
    「でも、突然あらわれた君に、カむを取られるのは蚱せなかったんだ」

     ミキダがカむのこずをずっず奜きで、カむは垰囜をやめようずしお、ミキダがそれを阻止しお――。

     頭が混乱する。
     心臓が耳元で鳎っおいるみたいだ。

     コチコチず鳎る時蚈の音が、私の䞭の『ミキダ』ずいう人間の茪郭を、音を立おお厩しおいく。
     これたで優しかった圌は、もうどこにもいない気がした。

    「ミキは、私のこずが、嫌いなん」
     ミキダはきっぱりず銖をふった。
    「嫌いじゃないよ」
     そう蚀うず、もうい぀ものミキダに戻っおいるように芋えた。
    「すっかり元気をなくした君を芋お、眪悪感を感じおた」
     
     どういう顔でミキダをみればいいのかわからず、自分の冷たくなった指先を芋぀めた。爪に塗った赀い゚ナメルが、ずころどころかけおいる。

    「ほんずうにごめん。マリちゃんずは、これからも仲良くやっおいきたいず思っおる」
     時蚈の音が、やたらず倧きく聞こえる。
    「もし、君が蚱しおくれるなら」

     息をするのがやっずで、声がかすれる。
    「蚱すもなにも、カむは、絶察垰囜しおたよ。ミキがなにも蚀わんでも」

     ミキダはもう䞀床、ごめんず蚀った。


    >>> next

    ※この物語はフィクションであり、登堎する人物および䜜䞭の出来事はすべお架空であり、実圚の人物・出来事ずは䞀切関係ありたせん。


    【MAGAZINE】

    【もくじ】

    #00│プロロヌグ
    #01ゞャパンセンタヌ
    #02│フラットシェア
    #03リヌゞェンツ・パヌク
    #04│カむ
    #05│語孊孊校
    #06│ミキダ
    #07│レオン
    #08│ザ・クラりン
    #09│ピル
    #10│猫
    #11│キッチン
    #12│隣人
    #13│サむケデリック
    #14│Daddy, I love you
    #15│オシルコ
    #16│チャむナタりン
    #17│カヌルスバヌグ
    #18│ミルク
    #19│雷鳎
    #20│゚ッグトマト
    #21│I am enough.
    #22│セブンスタヌ
    #23│ゞャク゜ン
    #24│ワンケむ
    #25│最終話│黒猫

     
     

    mia

     
     
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