飲酒×テストステロンの科学|1日40gという分かれ目
この連載でここまで分かったのは、少し身も蓋もない事実でした。健康な男性のテストステロンを「上げる」手段は、ほとんど見当たりません。
だから第5回は逆から入ります。自分で下げているかもしれないものの話です。
ただし結論は「やめろ」ではありません。厚労省のガイドラインも、飲む人には量・食事・頻度という運用を示しています。この記事も同じ立ち位置です。
生活習慣病のリスクを高める量を飲んでいる男性は、40歳代で23.6%と全年代で最多、30歳代でも13.4%(令和5年 国民健康・栄養調査)。この記事を読んでいる年代が、いちばんの当事者です。
▼ 連載の第1回〜第4回はこちら
👉 テストステロン最適化の科学|活力・筋肉・意欲を守る6つの生活習慣
👉 睡眠×男性ホルモンの科学|テストステロンは"眠っている間"につくられる
👉 筋トレ×テストステロンの科学|"増える"は半分本当で半分違う
👉 体脂肪×テストステロンの科学|減量で戻るのか、落としすぎは逆か
ご注意:本記事は一般的な情報提供で、診断・治療を行うものではありません。効果・感じ方には個人差があります。飲酒の習慣がない方に飲酒を勧めるものではありません。20歳未満の方、妊娠中・授乳中の方の飲酒は法律上・健康上避けるべきものです。持病・服薬がある方、飲酒のコントロールに困っている方は、自己判断せず主治医や医療機関にご相談ください。本記事は公開資料を基にRe:Men編集部が整理したもので、医師個人による執筆・監修は行っていません。
この記事で分かること
自分の純アルコール量の数え方と、公的な3つの線(20g・40g・60g)
「少量なら上がる」の中身——上がっているのは肝臓の都合
40g/日を3週間で −6.8%という介入研究と、結論が割れているメタ解析2本
休肝日・寝酒・ED・薄毛について、どこまで言えてどこから言えないか
まず、自分が何グラム飲んでいるかを数える
基準はすべて「純アルコール量(g)」で書かれています。先に物差しを合わせます。
純アルコール量(g)= 摂取量(ml)× アルコール濃度(度数/100)× 0.8(アルコールの比重・厚労省ガイドライン)
ビール500ml(5%)なら 500×0.05×0.8=20g。国民健康・栄養調査の換算では、清酒1合(180ml)が次の量にほぼ相当します。
ビール・発泡酒 中瓶1本(約500ml)
焼酎25度 110ml
チューハイ7度 350ml
ウイスキー ダブル1杯(60ml)
ワイン 2杯(240ml)
この1単位が、だいたい20gです。公的な線は3本あります。
20g/日:健康日本21(第一次)のいう「節度ある適度な飲酒」の1日平均量
40g/日:厚労省ガイドラインのいう「生活習慣病のリスクを高める量」(男性)
60g/回:1回の飲酒機会での「一時多量飲酒」。外傷の危険も高めるため避けるべきとされる
20gは健康日本21(第一次)の記載で、2024年のガイドラインとは出典が違います。そのガイドラインには「なお、これらの量は個々人の許容量を示したものではありません」という但し書きも付いています。高血圧や男性の食道がんのように、少量でも発症リスクが上がるとされる病気があることも、同じガイドラインに書かれています。
「少量なら上がる」は本当。ただし上がっているのは肝臓の都合
飲むとテストステロンが上がる、という話は実在します。
健康な男性13名の二重盲検クロスオーバー試験で、体重1kgあたり0.5gのアルコールを飲んだあと、血漿テストステロンが13.5から16.0 nmol/Lへ上昇。アンドロステンジオンは5.1から4.0へ低下しました(Sarkola 2003)。
ただし0.5 g/kgは70kgで約35g、ビール中瓶1.75本です。日本の感覚で「少量」と呼べる量ではありません。
機序も同じ試験の中にあります。アルコール代謝を阻害する薬(4-メチルピラゾール)を与えると、この変化は消えました。著者らの結論は、肝臓の酸化還元状態の変化を介した効果、というものです。
第3回と同じ構図でした。一過性に動いた数字と、続けたときの体の状態は別物です。
▼ 「増える」が何を意味しないかは第3回で
👉 筋トレ×テストステロンの科学|"増える"は半分本当で半分違う
問題は「毎日の40g」——3週間で6.8%
条件がいちばん揃っているのは、食事まで統制したランダム化クロスオーバー試験です(Sierksma 2004)。健康で非喫煙の中年男性10名が、夕食時にビール(純アルコール40g/日)を3週間、ノンアルコールビールを3週間、順序を入れ替えて飲みました。食事は全期間支給で組成は同一です。
総テストステロン:−6.8%(95%CI −1.0〜−12.5)
DHEAS:+16.5%(8.0〜24.9)
エストラジオール:変化なし
10名・3週間の小規模研究で、効果には個人差があります。それでも重いのは、低下が観測された量のほうです。
40g/日は、厚労省が「生活習慣病のリスクを高める量」として挙げる線とほぼ同じ場所にあります。介入研究の数字と日本の公的な警戒ラインが重なる。この一致が、この記事の芯です。
「飲めば下がる」と単純化はできない
2024年に出たメタ解析2本は、結論が割れています。
1本目は比較臨床試験だけを集めた21研究・30比較・10,199人(Santi 2024)。総テストステロン・遊離テストステロン・SHBGの低下、エストラジオールの上昇、LHは中立という方向が示されました。ただし結果が見えるのは健康な男性の慢性的な飲酒についてで、アルコール使用障害の診断がある人や急性の飲酒では見えていません。飲酒量とも独立=量による差も示されていません。
2本目は観察研究17本で、総テストステロンの統合値はSMD 0.03(95%CI −0.11〜0.16)=有意差なし(Moosazadeh 2024)。日本人男性313名(50〜54歳)でも、飲酒と総・遊離テストステロンに関連は出ていません。ただしエストラジオールは飲酒者で高く、総・遊離テストステロンと強く相関したのは飲酒ではなく腹囲とヒップの比のほうでした(Handa 1997)。
方向がはっきり出るのは量を決めて飲ませた介入研究で、観察研究の集計では決着していません。
エストロゲンで説明する前に
「アルコールがアロマターゼを上げてエストロゲンに変える」という説明をよく見かけます。
この誘導が確認されているのは、雄ラットの肝臓に総カロリーの36%(体重1kgあたり12〜18g/日)を投与した条件です。中等量の飲酒でヒトの肝臓に同じことが起きるかは明らかでない、とレビューの著者自身が書いています(Purohit 2000)。
エストラジオールが高い傾向は繰り返し観測されています。ただし理由がアロマターゼの誘導なのかは決着していません。第4回で扱った体脂肪とは、ここが違います。
▼ 脂肪の側の2段階の仕組みは第4回で
👉 体脂肪×テストステロンの科学|減量で戻るのか、落としすぎは逆か
休肝日に根拠はあるか、減らしたら戻るのか
裏づけになる大規模データが日本にあります。40〜69歳の88,746名(男性41,702名)を1990年から追跡したコホート研究で、アウトカムは総死亡です(Marugame 2007・JPHC)。
週300g未満:飲む頻度の違いによる総死亡の増加は見られなかった
週300g以上:週5〜7日飲む群でリスク上昇(週300〜449gでハザード比1.29、450g以上で1.55。比較対象は月1〜3日の機会飲酒者)。週4日以下では明らかな増加なし
著者らは「週2日以上の休肝日が重飲酒者にとって重要だという日本の社会的通念を支持する」と結論しています。週300g÷7は1日約43g、清酒で2.1合。効いてくるのは40gの線を超えている人で、手前の人では頻度による差が出ていません。
厚労省ガイドラインも「一週間のうち、飲酒をしない日を設ける」を挙げます。ただし理由は、毎日の継続が依存症の発症につながりうることと、週の総量を減らすことです。「肝臓が休まる」とは書かれていません。
では減らしたら戻るのか。健康な男性で調べた研究は、今回見当たりませんでした。依存症の患者では断酒11日で変化なし(Iturriaga 1995)、20日でも戻らず(Sudha 1995)、6週間後は対照より高い(Walter 2007)と割れており、集団が違うため当てはめられません。
いちばん割に合わないのが「寝酒」
厚労省ガイドラインは、不安や不眠をやわらげる目的の飲酒を「避けるべき飲酒」に分類しています。理由は「飲酒により眠りが浅くなり睡眠リズムを乱す等の支障をきたすことがあります」。
健常者の睡眠研究を整理したレビューは、もう少し具体的です(Ebrahim 2013)。
どの用量でも、寝つきまでの時間は短くなる
どの用量でも、最初のレム睡眠の出現が有意に遅れる
どの用量でも、睡眠後半の乱れが増える
寝つきが良くなるのは本当でした。壊れるのは、その先です。
ここで第2回とつながります。テストステロンの夜間上昇は最初のレム睡眠の出現と連動し、睡眠を断片化した実験ではタイミングが22:35から03:24へ後ろにずれました(Luboshitzky 2001)。
この2つを重ねると、寝酒が夜間の分泌に不利に働くことが示唆されます。ただし直接測った研究は見つけられず、ここは推論です。
眠りはじめの回復には実生活の数字があります。フィンランドの勤労者4,098名のウェアラブル観測で、入眠後3時間のうち回復に費やされた時間の割合は、飲まない夜と比べてこうでした(Pietilä 2018)。
低用量(体重1kgあたり0.25g以下=70kgで17.5g以下):−9.3パーセントポイント
中用量(0.25〜0.75g=17.5〜52.5g):−24.0パーセントポイント
高用量(0.75g超=52.5g超):−39.2パーセントポイント
ビール中瓶1本に満たない量でも削られている、という数字です。
▼ 夜間分泌の仕組みは第2回で詳しく
👉 睡眠×男性ホルモンの科学|テストステロンは"眠っている間"につくられる
「酒でEDになる」「酒で薄くなる」は、そう単純ではない
46研究・216,461人のメタ解析では、習慣的な飲酒とEDのオッズ比は0.89(0.81〜0.97)。少〜中量でも大量でも0.82で、関係は非線形(J字)でした(Li 2021)。24研究・154,295人の別のメタ解析でも、週21ドリンク未満で0.71(0.59〜0.86)、大量では有意差なしです(Wang 2018)。
日本人では形が違います。2型糖尿病の男性340名では逆J字で、1日60g未満はED有病率が低い方向、60g以上ではその関連が消えました(Furukawa 2016)。一方、香港の男性816名(31〜60歳)では週3ドリンク(1ドリンク12g)以上でオッズ比2.27(1.28〜4.03)と、東アジアには逆向きの報告もあります(Lee 2010)。
つまり「酒でEDになる」とは書けません。だからこそ言えるのは、飲む量を減らしても戻らない勃起の不調は、酒のせいにせず別の原因を疑う番だということです。
▼ 途中で硬さを保てない場合の切り分けはこちら
👉 中折れの科学|途中で萎えるのはEDなのか
▼ 朝の反応が減ってきた場合はこちら
👉 朝勃ちの科学|減る原因と取り戻す生活習慣
薄毛も両論併記です。6研究のメタ解析では飲酒者のAGAのオッズ比1.40(0.95〜2.06)=主解析は有意差なしで、著者らは「影響は当初想定されたより小さい可能性がある」としています(Yang 2024)。一方、31研究(AGA 11,224例)のメタ解析では飲酒はAGAの「進行」と関連しました(オッズ比1.72・1.28〜2.32)。ただし同じ解析の家族歴は2.72です(Li 2026)。
断定できる段階ではなく、比重としては家族歴のほうがはるかに大きい。これが現時点の読み方です。
▼ 遺伝の寄与がどれくらいかはこちら
👉 AGAと遺伝の科学|母方だけ見れば本当?
「肝臓にいいもの」より先にやること
飲む前にウコンやしじみ系の製品を手に取る人は多いと思います。
ランダム化比較試験8本を集めた系統的レビューの結論は、二日酔いの予防や治療に有効だと言える確かな証拠は見つかっていない、というものでした(Pittler 2005・BMJ)。「無効が証明された」ではなく、証拠が足りないという意味です。
先にやることは、もっと地味です。厚労省ガイドラインの「健康に配慮した飲酒の仕方」が、そのまま実務になります。
自分の飲酒量を純アルコール量(g)で数える
あらかじめ量を決めてから飲む
飲酒前または飲酒中に食事をとる(血中のアルコール濃度を上がりにくくし、酔いにくくする効果があるとされる)
飲酒の合間に水(または炭酸水)を飲む。アルコールの入っていない飲み物を選ぶ(飲む量に占める純アルコール量を減らす効果)
一週間のうち、飲酒をしない日を設ける
なお純アルコールは1gあたり7kcalです(日本食品標準成分表2020年版)。40g/日ならアルコール分だけで約280kcal。糖質ゼロの酒を選んでも、この分は別枠で積み上がります。
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まとめ|量・頻度・時間帯で決まる
物差しは純アルコール量。清酒1合=ビール中瓶1本=チューハイ7度350ml ≒ 20g。線は20g/日・40g/日・60g/回
40g/日を3週間続けた介入研究では総テストステロン −6.8%(10名・Sierksma 2004)。厚労省の警戒ラインと重なる
ただし2024年のメタ解析2本は結論が割れ、日本人の観察研究では関連が出ていない
休肝日の根拠は、週300g以上の男性の総死亡と、依存の予防・週総量の削減
寝酒は最初のレム睡眠を遅らせ、眠りはじめの回復を削る。ただしテストステロンへの影響は推論の段階
減らしたときに戻るのかを健康な男性で調べた研究は、見当たらなかった
「上げる飲み方」は見つかりません。あるのは「下げにくい飲み方」だけです。
※ 本記事は2026年9月時点の公開資料に基づく参考情報です。効果には個人差があります。
本記事は連載マガジン「テストステロン最適化」の第5回です。次回は第6回「ストレスとコルチゾール」——第1回で挙げた6つの軸の最後の1つを扱います。
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▼ あなたの1週間は、純アルコール何グラムですか? 上の換算表で数えてみて、意外だった数字をコメントで教えてください。
参考文献
厚生労働省「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン」(2024年2月19日公表)。純アルコール量の算出式・生活習慣病のリスクを高める量・一時多量飲酒・避けるべき飲酒・健康に配慮した飲酒の仕方 https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001223643.pdf (2026年9月確認)
厚生労働省「令和5年 国民健康・栄養調査結果の概要」p.20 飲酒の状況(年齢階級別の割合・お酒の種類別換算) https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/001338334.pdf (2026年9月確認)
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