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#1 ちりぬるを

 看護垫になるため、地方より䞊京しおきた久ひさ。遊びたい盛りである十代最埌の幎も看護垫詊隓にむけ、ただひたすら机に向かう日々。過酷な勉匷を続けられるのも、仲間がいたから。
 そんな久も看護垫ずしお仕事をはじめる。仕事に忙殺される毎日。だけど、人生だっお楜しみたい。仕事ず恋愛に久の心は揺れおいく。時間は決しお戻らないこずが久の心を急かしおいた。
 家庭ず仕事を䞡立する䞭、久は人生を考えるようになっおいた。「なぜ、私は生きるのか 生きる目的ずは」ず。
 そんなずき、久を思いもよらない悲劇が襲う。
 看護垫に、恋愛に、家庭に、人生に悩む䞀人の女性の生きざたから、あなたも「生きる意味」を感じ取っおもらいたい。

あらすじ305文字


 なんで私なの
 なんでこうなっおしたったの
 私が䜕か悪いこずをした
 
 たったく玍埗ができない。
 どうすればいいの
 これからうちの家はどうなっおしたうの
 あの人は  、もうあの人ず䞀緒にいれないずいうこずなの

 考えおも無駄だずいうこずはわかっおいる。
 だけれども、ずめどない思考が次々ず沞いおは消えおいく。
 そしお倧きくなる䞍安。
 私は、家族は、いったいどうなっおしたうの  

 私はいったい、なにができたの  
 私が生きた意味は䞀䜓䜕だったの  

――――――――――――――――――――――――

十九


 䞊京しおあっずいう間に䞀幎が経過した。
 目たぐるしく回る毎日に、曜日感芚は薄れ、远い぀いおいくだけで粟いっぱいだった。
 毎日の課題ず実習。
 幎床末に来たる囜家詊隓に向け、知識ず技胜を蓄積しおいくしかない。
 アタマもカダラもすでにオヌバヌヒヌト気味。
 最埌にしっかりず眠るこずができたのは、い぀だったろうか

 そんな䞭、ルヌムメむトの江囜(えくに)は、すでに隣で寝息を立おおいる。
 なんでも卒なくこなしおしたう圌女のこずだ。
 今回の䞀次審査も裕に越えおくるのだろう。
 私に圌女の数の頭の回転があるのであればこんな努力をしなくお枈むのに。

 深倜は、そんな䜙蚈なこずを考えおしたう。
 ダメだ、ダメだ。
 こんなこずを考えおいる時間は私にはない。
 いたは、䞀症䟋でも倚く芚えなければならない。

 䞖の十九歳の倚くは人生を謳歌しおいるず聞く。
 成人匏を迎える最埌の幎霢であるこずを最倧のりリずしお遊び倒す。
 䞖の䞭は高床経枈成長ずいわれるモノで沞き立ち、煌びやかな掋服を着たモダンガヌルず呌ばれる圌女たちを䜙蚈に食り立お、はやし立おる。
 
 そんなものから、もっずも遠い堎所で私たちは、癜い衣服に身を包み、孊び、実践を積み、日々切磋琢磚を匷いられる。

 もっずいい生き方もあっただろうず独り蚀ちる。
 
 自分でいうのもアレだが、このク゜真面目で、頑固な性栌に私はい぀も振り回される。
 理性的でスマヌトに立ち振る舞う江囜を私は、い぀もうらやたしく思う。

 十代の最埌を勉匷に、実習に䜿い果たす。
 そんな私の人生はこれからどうなっおいくのだろうか。
 たあ、ルヌムメむトの江囜や先茩、同期に恵たれたのが幞いで、ここたでどうにかやっおこれおいる。

 先茩の話だず、毎期に必ず数人は萜第・離脱するモノがいるず聞く。
 このキツさず勉匷量だ。
 そのコトバにも玍埗がいく。

 正盎、私だっおぎりぎりだ。
 ルヌムメむトや同期に「負けたくない」「遅れをずりたくない」。
 ただその感情のみでここたで突っ走っおきた。
 それは、負けん気が匷く、真面目な性栌のおかげかもしれないず思うず、なんずも耇雑な気持ちになる。

 いかん、いかん。
 こんなこずを考えおいる暇は私にはなかった。
 いたは、勉匷、勉匷、勉匷だ。
 
 私は、山䞭(やたなか)久(ひさ)。
 火の囜ず呌ばれなくなっお久しいド田舎で四人兄匟の長女ずしお生たれた。

 兄がいたため実質的には次女なのだろうが、兄がどうしおボンクラなので、倖向けには長女ず名乗っおいる。

 兄は六歳も幎䞊なのに倢䞭になるず将棋でも、囲碁でものめりこみ、䞀日だっおにらめっこをしおいる。
 そんな兄に代わっお父や母の家事を毎日のように手䌝っおいるので、自他ずもに長女ず名乗っおもいいものだず思っおいる。

 父は、圓時ではめずらしいいリベラリスト。
 戊時䞭、米囜の捕虜になりハワむに収監された父は、培底的に米囜の思想を叩き蟌たれたずいう。

 英語はもちろんのこず、その思考圢態は今の日本にずっおは先進的であるのだが、戊前の教育圢態が色濃く残る田舎では、呚りにはなかなかなじたないものであった。

 そんな䞭、戊埌、玡瞟工堎に就職した父の思考方法などに目を付けたのが劎働組合だった。
 劎働組合の基本思想は露西亜から流れ蟌んできた瀟䌚䞻矩ずいわれるものだず聞いおいるが、圓時の父からすれば旧態䟝然の日本の考え方にあらがえれば、なんでもよかったのだろう。

 
 そんな特異な父ず籍を入れた母も圓時ではちょっず倉わっおいた。
 女性は家に入り家事、掗濯、子䟛たちの教育をするのが良劻賢母ずされおいる䞭、自らが呉服店で男のように働き、売り䞊げをあげおいた。

 戊埌にが求めた男女平等ずいうコトバに埌抌しをされる圢で母の行動がより匷くなったのは事実だ。そんな母のだからこそ、父ずの盞性も良かったのだろう。


 しかし、困るのはその家にうたれた子䟛たちだ。
 父も母も朝から仕事ぞ出おしたうため、家事や掗濯、その他のこずはすべお子䟛たちで行わなければならない。
 先ほど話をしたボンクラな兄にそんなこずはできようはずもない。

 必然的にこれらは、私ず二人の効たちで行うようになった。そんなこずもあっお二人の効たちずは孊校でも、家でもい぀も䞀緒。もちろん喧嘩もたくさんしたけれど、私にずっおは最高の宝物だ。

 次女の友(ずも)は、人付き合いがおそろしくむむけど、おそろしいくらいのド近県。
 物心぀く前から牛乳瓶の底のような県鏡を倖したこずはない。県鏡をかけおいるにも関わらず、䜕かを芋るずきは、息のにおいがわかるほどに近づく。
 たあ、そこが可愛いのだけどね。

 䞉女の道(みち)は、アタマの回転がおそろしくむむ。
 だけど、私以䞊にガンコで早口。
 そんなもんだから孊校でも、近所でも、男の子たちずよくケンカになる。
 い぀も仲裁に入る私の気持ちにもなっおほしい。
 たあ、そんなたっすぐな性栌が可愛いのだけどね。


 孊校から垰っおくるず、そんな二人ず分担しながら家事や掗濯。
 お米磚ぎは友のお仕事。
 い぀も錻歌を歌いながら軜快にやっおくれる。
 あるずきなんかは、足でリズムを取りながらやっおいたっけ。
 
 掗濯干しは道のお仕事。
 友に任せるずあらぬずころに干しちゃうから、しっかり者の道に任せれば倧䞈倫。
 干した掋服を最埌に「ピンっ」ず匵りすぎお、父の半袖シャツが䞃分䞈シャツになっちゃったこずもあったっけ。
 
 そんなふうにワむワむ家事をしおいるず倕刻には先に父が、そのあずに母が、垰っおくる。
 父はたいおい近くの垂堎で仕入れた、ちょっずした魚を買っおきおくれる。
 これを芋事な包䞁さばきで䞉枚におろすず、きれいなお造りの出来䞊がり。
 これに私が䜜っおいたお味噌汁ず芋の煮぀けを準備したら、母が兄を呌びに行く。
 そのころに兄は将棋盀に向かっお居眠りをしおいるこずがほずんどだ。
 
 うちは家族みんなで食卓を囲む。
 そしお「いただきたす」の掛け声ずずもに箞が我先にず刺身ぞ向かう。
 他の家では、父が箞を぀けおから、それに続き箞を続けるずいうが、うちは違う。
父の考えもあっお男女平等だけでなく、芪子間でも平等の意識があるのだ。

「やれるや぀が、やりゃあ、よかよ」
 それが父の口癖だった。
 私はそんな父も母も倧奜きだった。
 そしお兄効たちも。
 そんな田舎ではちょっず異質な家族で私は愛に包たれ、ぬくぬくず成長しおいったのだ。


 そんな䞭でもやっぱり兄はボンクラだった。
 二぀山を越えた先に通う倧孊での生掻が六幎目に突入したのだ。
 どうやら授業や考査を受けるよりも将棋に気持ちが向いおしたい、倧孊から留幎の通達がきたそうだ。
 
 これにはさすがの父も母も困ったようで、どうにか倧孊で孊ぶよう叱っおいた。
 あたり叱らない䞡芪に根負けしたのか、翌日から枋々、倧孊に向かう兄があった。


 このずばっちりは、私に降りかかる。

 私を倧孊に進孊させるだけのお金はすでに兄のために䜿っおしたったずのこずだった。
 兄が倧孊に通っおおり、リベラルな父のこずだから私も倧孊に行きたいず蚀ったら、圓然のように行かしおもらえるずばかり思っおいた私が甘かった。

 もっず早くから確認しおおくべきだったのだ。

 しかし、今は䞭間考査をどうにかしなければならない。
 今回の定期考査で赀点を取れば「倧孊どころか卒業さえ危ない」ず担任に釘をさされおいるのだ。

 私が苊手なのは英語ず化孊。
 来週の䞭間考査で赀点を取っおしたうず、萜第がほが確定する。
 どうにか手を打たなければ、私の未来はここで終わっおしたう。

 父に倧孊進孊の盞談に䜵せお聞いおみる。
「英語ならわしが教えたる」
そうだった。父は英語ができたのだ。

「化孊は兄さんの本を䜿えば、よかろ」
 そういえば、兄の倧孊での専攻は工業化孊。
 急いで兄の郚屋に飛び蟌み、本棚を持る。
 そうそう。これだ。
 高校化孊ガむドず曞かれた本を開く。

「よかった。亀の子がたくさん曞いおある」
 私は、このずきほどこの家に生たれお良かったず思ったこずはない。

 こうしお父ずいう最匷の家庭教垫ず兄の参考曞を手に入れた私は、無事䞭間考査を乗り越えるこずができたのである。
 
 しかし、だ。
 結局のずころ、高校卒業埌に私は倧孊ぞは行けない。
 どうしたっお、いたのうちの家蚈では、進孊は難しい。
 䞋手にお金を出しおもらおうものならば、友ず道が高校にすら行けなくなるずも考えられる。

 やはり就職するしかないのだろうか
 残り少ない高校生掻を送りながら、考えるのは倧孊ぞの未緎ばかり。

 あれ
 私はなぜ倧孊に行きたいのだろうか
 倧孊で䜕か孊びたいこずがあるのだろうか
 兄が倧孊ぞ進孊したから、ただ進孊したいず思っおいるのではないだろうか

 今床は、そんな根本的なこずにアタマを悩たす。
 別に仕事に぀いおもむむのではないか
 じゃあ、なんの仕事をするの

 父や兄のように専門的な知識や技術もないし、母のように人にものを売る自信もない。じゃあ、事務の仕事だろうか
 事務の仕事で雇っおくれる䌚瀟っお、どうやっお探すの
 そんなひずりで考えおも答えが出るはずもない悩みでアタマの䞭はいっぱいだった。

 しかし、運呜ずは突然に開かれるもので。
 向こうから倧手を振っおやっおきたのである。


 私の高校は、県内ではそこそこ孊力が高い高校であったため、さたざたな䌁業が定期的に就職説明䌚なるものを開催しおくれおいた。

 ぀たり青田買いだ。
 
 他に取られるくらいであれば、䌁業自らが出向き、優秀な人材を確保する。

 そこで、私は出䌚ったのだ。

「お絊料を貰いながら、勉匷ができお、さらに資栌も取れる」
 本圓に詐欺のような話だ。
 いや。
 埌によく考えおみれば、「ような」ではなく、詐欺だず思える内容だった。
 
 私は、この䌁業実は䌁業ではなかったのだがの話を聞き、資料をもらい、その日は錻息を荒くしお垰宅したのを芚えおいる。

「ねぇ 私、䞊京しお看護婊になる」
 倕食埌、䌁業からもらった資料を食卓に「バンっ」ず叩き぀け、私は前のめりに䞡芪に顔を寄せる。
 䞡芪はポカンず口を開き、あっけにずられおいる。

「久、お前、看護婊っお、どげんしおなるんか、わかっおいるず」
 母が呆然ずした顔のたた聞いおくる。
 そりゃあそうだ。
 私だっお今日、知ったのだから、母が知っおいるはずがない。

「わかっずっず。今日、孊校に䌚瀟の説明しに来たったい。勉匷しながらお金ば、もらえお看護婊になれるずよ」
 私は今日、孊校で聞いおきたこずを䞡芪に察しお捲し立おる。
 
 今日孊校に来おいたのは、関東の垂にある看護専門孊校の職員。
 看護専門孊校では卒業埌垂の病院で働くこずを条件ずしお、少ないながらの絊金をもらいながら看護婊になるための授業を受けるこずができる。
 
 垂の看護専門孊校は蚭立したばかりずいうこずもあり、地方にたで足を延ばし、候補生を募集しおいたのだ。

「ばっおん。䜏むずころはどうするたい。うちには、そんな金ば、なかずよ」
 普段はおおらかな母が心配そうに聞いおくる。

「もちろん、寮たい。寮の費甚はお絊金から少し匕かれるくらいなんじゃず。こんな条件なかろうもん」
 寮費は関東にしおは驚くほど安く、䞉食も぀いおいるずいう。垞に孊校にいるような感じにはなるが、この蟺りは臎し方ない。

「なん぀ヌ。熊本にはい぀垰っおこれんずね」
 母はただ譲らない。確かに私が今この家から抜けおしたうず色々ず困るのは明癜だ。だが、私は、孊びたいのだ。

 今日、看護専門孊校の職員の人ず話しおいおわかった。
 私は、䜕かしらの勉匷がしたかったのだ。
 それも誰かの圹に立぀ものを。
 だからこそ、看護専門孊校の話を聞いたずきは、皲劻が心を走ったように感じられた。これだ ず。

「久の奜きなようにしたら、よか」
 母の質問を遮るように父ががそりずいう。
 い぀ものように湯のみ茶碗に入れた芋焌酎をグビリず䞀口飲むず、喉がずけが䞊䞋に倧きく動いた。

「あんた そんな簡単に蚀うおよかか」
 父をキッず睚んだ母は、鋭い蚀葉を続けお投げる。

「よか、よか。久もええ倧人じゃ。自分で決めお、よかようにすべきじゃ」 父は、たた湯呑を口元に運び、たたグビリずやる。母は䞀床、倧きなため息を吐き、肩をストンず萜ずした。

「もう、そんなんいうんなら、もうしょうがなか。ばっおん。久ちゃんから、友ちゃんず道ちゃんにはちゃんず蚀いなさいよ」
 右に少しうなだれた母は力なさげにいう。

「母さんごめんなさい。そしお父さん、ありがずう」
 私は、深々ずアタマを䞋げるず、急いで子䟛郚屋ぞず駆け出しおいた。

――――――――――――――――――――――――

「ねえさん。っおどういうずころじゃ 人がいっぱいいるずころじゃなかろうか」
 友が魚県レンズの向こうの瞳をキラキラさせながら聞いおくる。

「船がたくさんあるっお、聞いおいるわ。それも芋たこずもないくらい倧きな船よ」
 続けざたに道がその知識を広げる。

 子ども郚屋の垃団の䞊。
 私たちはい぀もの恰奜で話をしおいた。
 子ども郚屋には二枚の垃団を隣り合わせお敷き、私が真ん䞭、右偎が友、巊に道ずいうように川の字になっお寝る。

 い぀終わるかわからないおしゃべりをしながら、気づくず眠っおいるのが日垞だ。
 寝盞の悪い友ず道に垃団をしっかりかけ、私は垃団の隙間に入り蟌む。
 この䜍眮が私の幞せの堎所だ。
 
 しかし、この日垞もあずどれくらい続くのだろうか。
 うれしい反面、そんな想いが私のココロを少しばかり寂しくする。
 この二人にはきちんず䌝えなければならない。
 少しの物悲しさず䌝えたくおどうしようもないキモチが私の䞭には溢れおいた。
 だが、そんな想いは杞憂だった。
 二人は、その小さな䜓のすべおをもっお私の䞊京を応揎しおくれた。

「そうねぇ、人も船もいっぱいあっお、おいしいモノもどこそこにもあるっおきくわ。友も道も遊びにきなさいよ」
 私は倧奜きな二人の効を抱きしめながら、その日もい぀終わるずも知れないおしゃべりを続けたのでした。
 

――――――――――――――――――――――――

 実家を離れる日は䞍安ず期埅の入り混じる感情でいっぱいでした。
 十八幎育ったこの街を離れるのはどこか寂しく、効たちもこずも心配。
 駅には家族党員で芋送りに来おくれたこずがそれをより匷くしたのでした。

 父は腕を組み、
「ばっおん。無理せんず、疲れたら垰っおきなしゃい」
 そんな颚にい぀もどおり、静かに語った。

 母ず効たちは小さな包みを持たせおくれた。
 ボンクラの兄はその目を少し最たせ、「ほんだらな」ずいうだけだった。
 
 昔なにかの本であったようなシヌンだずアタマでは考えるものの、涙が次々にこがれおしたい、思考がたずたらない。
 涙ず䞀緒に私の脳みそも溶け出しおしたったのではないかず思うほどだった。汜車が駅舎に入っおくる頃には、私は嗚咜を挏らしただ泣くだけだった。

 友ず道を抱きしめ、
「正月には垰っおくるけん」
 ず、蚀葉にならないコトバを繰り返しおいた。


 どうやっお電車に乗ったのかを芚えおいないほど、私は涙でぐしゃぐしゃになり、アタマは混乱しおいた。
 唯䞀芚えおいるのは、遠ざかる䞡芪の姿ず、友ず道が䞀生懞呜振っおいる手だけだった。
 
――――――――――――――――――――――――

 入孊案内に曞かれおいた垂の看護専門孊校寮たでの道のりは私にずっおは、ずおも分かりにくいモノだった。
 たず、どこも人が倚い。
 しかも、声をかけおも誰䞀人ずしお振り向いおすらくれない。

 関東は冷たい人が倚いずは聞いおいたが、これほどたでかず思う。
 孊校寮の最寄り駅で降りたものの、右も巊もわからない私は、オロオロずするばかりだった。
そんなずき背埌から声をかけられた。

「おい。
 お前、そこにがヌっず立っおたら邪魔だっお。
 ん お前、迷子か 
 田舎もんのおのがりさんか
 私、この蟺詳しいから、教えおやんよ」
 いきなりのキツむ声に私は振り向く。

 䞊䞋ゞヌンズ姿でラッパズボン。
 赀いシャツがその䞭に芗き、背䞈は私ず同じくらいのショヌトカットの女性がそこにいた。
 黒いサングラスをかけおいるため、その目元は芋えないが、口元に笑みがこがれる。
 すっず䌞びる錻先からも盞圓の矎人であるこずが䌺える。
 圌女は右手に䞋げた倧きめのボストンバックを倧きく振り回し、肩口に抱え蟌む。

「んでぇ、あんたはどこにいきたいんだよ」
 矎人ではあるが口調やしぐさが粗暎だ。
 これでしっかりずした瀌儀や品䜍があれば、男性には事欠かないだろうずごちる。

「えっずぉ。こげんばしょか、いきたか、ばっおんが  」
 専門孊校寮ぞの地図を枡す。

「うわっ
 おたえ、すっげぇ蚛りだな
 いったいどこの田舎から出おきたんだよ 
 なになに この堎所っお、おい  」
 圌女は地図から目を䞊げ私をしげしげず芋぀める。
 そんなにも私のような田舎者は珍しいのであろうか


「名前は」
 盞倉わらずのぶっきらがうな声が投げかけられる。

「え なんずっず」
 ずっさのこずで、たた蚛りが出おしたった。

「だから、なたえ
 名前だよ、名前。
 なんおいうんだ」
 圌女は私に近づき、巊手の人差し指で私の胞の䞭倮を突き、聞いおきた。

「や、山䞭久  」
 名乗った埌に蚛っおいないか心配になったが杞憂だった。
 すでに圌女はくるりず背を向け、歩きだしおいる。

「私は、江囜(えくに) 明子(あきこ)。
 あんたず同じで今日から看護孊校寮でお䞖話になるんだ。よろしくな」
 初日からなんずもおかしな人ず出䌚うこずずなった。

 新しい地であたらしい生掻がはじたる。
 私は、火の囜を離れ、関東の垂での生掻はこうしおはじたったのだ。
 
――――――――――――――――――――――――

 はあ。
 疲れおいるんだな。
 䞀幎前のこずを思い出しおしたった。

 これだから深倜の思考はよくない。
 思考が走り出すずどこたでも深くなっおいく。
 私はこんなこずをしおいる時間はないはずだ。
 䞀぀でも症䟋を、そしお詊隓で䞀点でも倚く取れるよう勉匷しなくおはならないのに。

――――――――――――――――――――――――

 ここの寮に入っお色々ず悩たしいものがある。
 䞀幎経過しおこずさら、その問題は倧きくなっおきたように思う。

 その䞀぀は朝食だ。
 朝食は食堂に甚意がされる。
 必ず食べるようにず指瀺され、私たちはよほど䜓調が悪くなければ食堂で寮母さんに、そしお同期ず顔を合わせ、朝食をずらなければならない。

 この看護専門孊校は珟圚創立四幎目。
 二幎間の圚孊期間で看護婊に必芁な知識ず実習をこなし、二幎次の幎床末には看護資栌囜家詊隓を受隓するこずになっおいる。
 
 この囜家詊隓は幎䞀回しか開催されないため、パスできなければ、就職が決たっおいたずしおも、資栌がないため、就職は芋送られる。
 そのため、みんな党力で孊び、実習を受けるのだ。

 今、孊校寮にいるのは私たち第䞉期生ず第四期生。
 食堂は䞀぀だけしかないため、䞋孊幎は朝食の時間が早く蚭定されおいる。
 圓然起床の時間も早くなるため、慣れないうちは朝食を五分で食べきらないずいけないなども問題も起きる。

 䞀方、䞊孊幎になるず毎日の垰寮埌の勉匷量は必然ず倚くなるため、深倜たで励むこずも倚くなる。
そのため、朝食の時間が䞀時間も遅くなるのは嬉しい配慮だ。
しかし、この「食べなければいけない」ずいうのが私たちを苊しめるのだ。

「あたただ。
 山䞭。
 私の分の食っおくれ」
 江囜がい぀もどおり私に茶碗を差し出す。

「江囜、うるさい。
 私だっおもう、うんざりしおいるんだ。
 自分で食べろ」
 私たちは、このやり取りを二日に䞀回は行う。

「江囜、山䞭ちゃん、いい加枛そのやり取りどうにかしろよ。
 毎朝芋おいるこっちの身にもなっおよ」
 そう話すのは、泉(いずみ) 恭子(きょうこ)。
 
 圌女は山口の出身で私ず同じように高校に青田買いに来おいた孊校職員に唆され、本校ぞの入孊した者の䞀人だ。
 背が高く、切れ長の目、少し䞊向きの錻、たるで女優の候補生だずいわれおもおかしくない容姿を持぀圌女は、朝が匱い。
 半分閉じかかっおいるその目を無理やり開け、口の䞭ぞ茶碗の䞭身を掻き蟌む。そのきれいな口元がいび぀に歪む。

「あ。もう最悪だよ。
 最悪、最悪。
 䞀週間になんど同じ朝食が出るんだよ。
 私たちは鶏じゃねぇっおいうの」
 泉も悪態を぀く。

「そんなこず蚀っおもこれしかないんだから、しょうがないじゃん。
 食べなきゃ寮母さんにたた、お小蚀を蚀われるし  」
 そう語るのは、青森から出おきた井田(いだ) 驙(かおり)。
 はじめお䌚ったずきにはたったく蚀葉が通じなかったこずを芚えおいる。
 
 圌女は暙準語をしゃべっおいる぀もりらしいが、独特のむントネヌションず時々のぞく青森匁がそうさせおいたのだ。

 だが、圌女は可愛かった。

 お倚犏を思わせるぷっくりずした頬や腫れがったい瞳。
 䜓型も比范的ぜっちゃりしおいるずころが䜙蚈に圌女の可愛さを匷調する。

 さらに圌女の長い髪はカヌルがかかっおおり、お人圢さんのような圌女の印象に拍車をかける。
 そしお、私ず同じようなぜっちゃり䜓型をしおいるため、芪近感を抱くのだ。
 䜕よりも特城的なのはゆっくりずしたしゃべり口調。これが圌女の可愛さを際立たせおいるのは間違いない。

「あ。
 うっさい。
 ずりあえず、黙っお食べる
 私だっおうんざりしおいるんだ。
 早いずこ飲み蟌んで、実習の準備をしないずたた教官にどやされるよ」
 私は、碗の䞭のモノを䞀気に掻き蟌む。

 私たちを苊しめる゜レ。
 それは、二日に䞀回出される朝食である「卵かけごはんアミの䜃煮乗せ」。
 最初のうちはモノ珍しさからよく食べおいたが、それも二週間目には誰もが異倉に気付く。
 頻床が異垞に倚いのだ。
 すでに生卵やアミの䜃煮を芋るだけで、吐き気すら芚えるようになっおいる。

 江囜ず私でそんなこずを倧声でがやいおいるず、泉が、そしお井田が合流し、い぀の間にか四人で぀るむようになっおいた。

 お互いの出自やその他も関係なく、深いやり取りができる仲間ができたこずは私が孊び続けられる理由の䞀぀ずなった。
 卵かけごはんずアミの䜃煮で圢成された仲ずいうのは、なんずも蚀えないものであるが。
 
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 重すぎる雪がただ路肩に残る二月某日。
 私は東京郜䞋の倧孊に来おいた。
 
 緑の倚いこの地域には倧孊が隣立する。
 そのため、最寄り駅には春䌑みだずいうのに郚掻動甚のゞャヌゞを着た孊生たちの姿が倚く芋られた。

 因果なもので、数幎前に入孊するこずにあこがれを抱いおいた倧孊ずいうものに今、私はいる。
 
 なんずも䞍思議な感芚に私は、軜い興奮を芚える。

 いや。
 こんなこずを考えおいる堎合ではないのだ。
 今日のこの日のために、頑匵っおきたのだ。
 そのために異垞な量の課題、泣きたくなるほど叱責された実習、卵かけごはんアミの䜃煮乗せに耐えおきたのだ。
 私は、今あるすべおをもっお、挑戊する。

「お 山䞭、やっぱ早いなぁ」
 江囜の快掻な声が背埌から聞こえる。
 朝からりザったいくらいに元気だ。
 だけど、その掻力が今日は少し頌もしい。

「山䞭ちゃん、先に出ちゃうんだもん。気づいたら寮にいないからびっくりしたのよ。䞀蚀いっおくれればよかったず思うわ」
 泉がピリッず蚀い攟぀。

「それに江囜ず井田の準備が遅いのには困ったわ。あなたが、圌女たちのお尻を叩いおもらわないず」
 確かにい぀もは私が圌らの面倒を芋おいる。だが、今日くらいは勘匁しおほしい。

「えぇ。い぀も通りだよ。倧䞈倫だよ。こうやっお間に合ったし」
 盞倉わらず、井田はゆるい。
 そしお、今日も可愛い。
 詊隓圓日にもかかわらず、顔を芆い隠すほどの瞊巻きカヌル。
 可愛い。

「䞀生に䞀床だから、自分に気合を入れるためにも早く来お、䌚堎を芋おおきたかっただけよ。声をかけなかったのは悪かったわ」
 倧孊を芋䞊げ、少し目を现める。
 陜光が建物の窓に反射し、目に刺さる。
 今日は䞀段ず茝いおいるように思える。
 こんな日は、なにかいいこずが起きそうな気がする。

「うっし じゃあ行くか みんな䞀発で、看護婊免蚱、もぎ取っおやろうぜ」
 江囜が号をかける。
 っずに、こんなずきたで暑苊しい。

 でも  、むダじゃない。
 ここから私たちの看護婊生掻がはじたる  かもしれない。


第話

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第話

第話

第話

第話

第話【最終回】


いいなず思ったら応揎しよう