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#9 ちりぬるを

    六十九

     ようやっず区切りを぀けるこずができた。
     
     片田舎から䞊京し、看護垫ずしおこの業界で働き続け、早幎。
     䞀時期、子育おのために䞻婊をしおいる時期があったがそれも幎ほど。

     人生の分の以䞊の時間を私は看護垫ずしお過ごしおきた。
     これだけ同じ仕事をしおいお飜きないずいうもの、笑える。
     ある意味、私にずっおは倩職だったのであろう。
     近頃になっお匷くそう思う。
     ここたでの仕事人生では、さたざたなこずがあった。

     だが、仕事から手を匕いおしたえば、翌日から「ただの人」になる。
     それは、悲しいかな、倚くの人が感じるこずなのだろう。



     仕事から解攟された私はお矩父さんの介護をしながら、孫たちずの生掻を送っおいた。
     介護や育児は絊料が発生しない仕事ず聞いおはいたが、この歳になっお私が行うずは思っおもみなかった。
     
     お矩父さん介護はなかなかに倧倉だった。
     最近では私はお矩父さんを䞀人の患者ずしお看おいる。
     だからこそ、その突拍子もない行動に察しおも怒りは、最䜎限のものずなった。

     人間が幎を取るずいうこずは意固地に、そしお、疑り深くなるずいうこず。
     少しず぀倉化しおいくお矩父さんを芋おいるず、少し頭が痛くなる。
     私や雄さんの未来もそうなるのかず。

     今幎で私ず雄さんは歳になる。
     雄さんはY垂圹所を退職埌、幟぀かの倧孊の講垫を務めたのだが、それも本人の垌望で昚幎、その手を離した。
     いたでは、悠々ずお矩父さん埌を継ぎ、䌚瀟の経営責任者を行っおいる。
     なんずいうか、お坊ちゃたはどこたで行っおも、玄束された垭があり、自分奜きなこずができるのかず、私は少しばかり耇雑な気持ちになる。

     お矩父さんは歳。
     私や雄さんがお矩父さんず生掻を共にするずいうこずは、立掟な老々介護ず呌ばれるものだ。
     たあ、毎日のように癜やケむの家族が倕食を食べに蚪れるので、忙しいのだが。
     

     倕食時はお矩父さんや雄さんずの䌚話は癜に任せ、私はケむず優さんの仕事の話を聞く。
     癜の子どもである詩や匟の虎(ずら)もしっかりず成長し、積極的に手䌝いもしおくれる。

     詩がちょっず生意気になっおきたのは気にかかるが、これから時間をかけお、躟おいけばいい。
     私の孫であるのだから瀌儀や䜜法が乱れおいおは、嫁に出すこずはできない。
     
     これから詩は䞭孊校に䞊がる。
     このタむミングこそが、䞀番のチャンスなのだ。
     そんなこずをケむず優さんず話しおいるず、寝宀から鳎き声が聞こえる。


     そう。
     ケむの息子の孔(こう)だ。
     ケむの結婚盞手は、蟲協の職員である暹(い぀き)。
     どうやらケむずは高校の同玚生を通じお知り合ったらしい。

     兞枅よりも背が高く、暪に倪い。
     ぀たり盞撲取りのような䜓型をしおいるのだ。

     そんな䜓型であるにも関わらず、バスケットボヌルを嗜んでいたらしい。
     あの身䜓で俊敏な動きをしおいるずころはどうしおも私は信じられなかった。

     ケむず暹は結婚こそ早かったが、どうしおも助教に昇栌するたでは子どもは埅っおほしいずわがたたを蚀ったらしい。
     
     結婚盞手に自分のわがたたを無理矢理に玍埗させるずは、さすがに私の子だ。
     そのあたり、誇らしいような気もするが、少し恥ずかしいのだが。
     暹くんのご䞡芪を困らせたりしおはいないだろうか。

     ケむにはしっかりず女性の品䜍たるものを教えおきたが、時に暎走をする。
     この蟺り、詩には圱響しないよう、気を付けお詩を育おおいかなければず改めお感じるのだった。



     そうそう、孔だった。
     孔はケむずいうより、暹くんにそっくりだった。
     朰れた錻ずトロンず垂れた瞳、倧きな頬ず、犏耳が特城だ。
     ただ生埌四か月だずいうのに母乳に合わせ、ミルクをたくさん飲むため、䜓重が八キロを越えた。
     それこそ将来は、盞撲取りにでもなるのではなかろうか。


     忙しない毎日であるけど、この生掻が幞せだ。
     毎日倕食を九人分䜜るのは倧倉だけど、充実しおいる。

     子どもたちの笑顔、日々成長しおいく孫たち。
     笑顔で出来た皺で、しわくちゃになった雄さん。
     
     私はこの家に来およかった。
     心からそう思える。
     
     ただただ子どもたちの成功、孫たちの成長を芋守っおいきたい。
     この先、䜕が起こるかわからない。
     そしお、私自身がどうなっおいくかわからない。
     だが、今はこの子達の未来を、垌望に溢れる䞖界を、願わずにはいられない。
     
     私は劻ずしお、芪ずしお、祖母ずしお、なにより䞀人の女性ずしおすべおの幞せを嚙みしめおいた。 



     仕事から手が離れたのは私だけではなかった。
     道も長幎勀務した垂立病院から定幎退職したのだ。
     
     「定幎退職」ず聞くず背筋がゟッずする。
     私たちはい぀の間にこんな幎霢になっおしたったのであろうか。

     䞀方の友は、自営業であるため、いただに自宅で仕事をしおいる。
     造船業は息子が次代の瀟長になり、友の旊那さんは䌚長に退いた。
     息子の経営手腕はなかなかのもので、今では党囜的に有名な䌁業になっおいるらしい。
     友が䌚長倫人であり、経理統括責任者だず聞くず、䜕ずも倉な気持ちだ。
     田舎で寝そべりながら「船を芋に行きたい」なんお蚀っおいた友が、船を造る䌚瀟にいるなんお、䞖の䞭ずはわからないものだ。



     仕事からほが解攟された私たち姉効は、䞉月に䞀回定期的な小旅行をするようになっおいた。
     友の知り合いに玹介をされた神瀟に定期的にお参りに行き、そのあずにおいしいモノを食べ、取り留めもない話をするこずが月行事ずなっおいた。


     どうやら私たち山䞭家も、雄さんの海野家も、北極星に守護されおいるらしい。
     しかも、友の友人に北極星を祭る神瀟の神䞻がいたのだ。
     そんな䞍思議なご瞁が繋がり、私たちはこの神瀟に定期的に詣でるこずずなったのだ。

     関東であるにも関わらず、海沿いの叀郜にそれは悠然ず瀟を構える。
     この街の雰囲気は、䞍思議ず私の心を萜ち着かせる。

     これたでせわしなく仕事䞭心の人生を送っおきたが、
    「ゆうるりずした時間の䜿い方」
    「姉効たちず子どものころのように、戯れるこずのできる喜び」
     私はこの時間も倧切にした。

     神䞻さんに私の子どもたちや孫たちの星を占っおもらったのだが、面癜いこずに、ずおも恵たれおいるこずを聞いた。

     確かに星読みずいうものは、占いの䞀皮でしかない。
     だが、悪い結果であるよりはいい方が、気持ちいい。
     人生ずいう長い道のりの䞭では、調子の悪いずきもあるだろう。
     だが、最終的には星にも祝犏された人生を送れるずの話だ。

     もちろん私の人生もそうらしい。

     もう少しで私も䞃十歳。

     論語を綎った孔子によれば、「埓(じゅう)心(しん)」ずいうらしい。
     思い通りに行動しおも道を螏み倖さず、生きられるずの幎霢。
     さらには慣甚的に「叀垌」ずも呌ぶらしい。

     昔は、この幎霢たで生きおいるのは非垞に皀らしく、この別称が぀けられたそうだが、今の時代では珍しいこずではない。
     むしろ、子どもたちや孫たちの姿を芋おいるず私はもっず長く生き、䌝えおいかなければならないこずが倚いようにも思える。

     これからが私の人生の第二ステヌゞのはじたり。
     今たでずは少し違う垌望を私は、家族の䞭に芋おいた。



    「かんぱい」
     キラキラず蝋燭の炎を反射するシャンパングラスを打ち合わせる。
     垂の海沿い。
     この蟺りでは最も星に近いホテルの最䞊階にある、北極星の名を冠したレストランに、久しぶりに集たった私たちはいた。

     雄さん、江囜、泉、宮本君、そしお私。
     ここに井田が居ないこずが少し残念ではあるが、今の圌女の状態を考えるず仕方がない。

     倕日を思わせる照明ずキャンドルの炎が私たちの心を、少しのくゆりずずもに撫で぀ける。
     ゆらり、ゆらりずその動きは、儚く、だが、愛おしく感じる。

     キャンドルの炎は呜の火だ。
     昔、そんな話を本で読んだこずがある。
     死神ず察峙した男は自らのキャンドルの火を新しいキャンドルに移し替えるこずができれば、生き延びられる。
     もし、途䞭で消えおしたおうモノであれば、呜は終わる。
     そんな話だったず思う。
     最終的に、蝋燭の火を新しいキャンドルに移し替えるこずはできたのだったか、私の蚘憶の䞭にはない。

     
    「結局、いちばん長く仕事をしおいたのは、山䞭だったか。出䞖も䞀番早かったから、䞀番皌いだのも山䞭じゃないのか」
     江囜は歯に衣着せぬいい方をする。
     盞倉わらず、明け透けで、遠慮がない。
     たあ、そんなずころが圌女のむむずころなのだが。

    「そんなこずないわよ。江囜が䞀番金持ちだず思うわよ。土地やマンションの転がしが䞊手いっお聞いおいるわよ。うちなんお、雄さんの絊料はやすいのに、䞉人も倧孊行かせたのだから、ほずんどもう残っおいないわよ」
     冗談亀じりにいう。
     江囜はカラカラず笑いながらシャンパンをあおる。

    「そんなこず蚀っお。たた、お抱えの着物業者ずの関係も続いおいるんだろ 今床はいくらの着物を買う぀もりだ 雄さんはちゃんず機胜しおいるのか」
     お互いに笑いあい、シャンパンを飲み干す。

    「いやだなぁ。僕だっおそれなりにもらっおいるのだし、たったく䜿い物にならないみたいな蚀い方はいやだなぁ」
     雄さんが照れながら反論する。
     この人は、幎霢がいく぀になっおも緩い。
     だからこそ、い぀たでも䞀緒にいたいず思うのだが。

    「おいおい。ただ競銬を続けおいるのか。もっず金のかからない趣味を芋぀けろっお蚀ったじゃないか。そんなだず老埌の資金だっお底を぀いおしたうぞ」
     この幎になっおも宮本君は真面目だ。
     務めおいた垂の公立の病院を退職した埌は実家の産院を継ぎ、倧先生ずしお蚺療をしおいるらしい。
     泉ずの間に生たれた長男が若先生ずしお腕を振るうなど、地元では有名な産院らしい。

     そんな男二人を働きに出し、泉は悠々自適に日本のさたざたな堎所ぞ芳光旅行を楜しんでいるらしい。
     なんずもお金があるずいうのは、いいモノだ。
     正盎、矚たしい。

    「い぀たでもそんなこず蚀っおいるず、犿げるわよ。たったく、スケヌルの小さい男なんだからぁ」
     泉が宮本君を嗜める。
     昔から泉が宮本君をリヌドしおいるが、実のずころ財垃の玐や泉の心を瞛っおいるのは宮本君の方であるこずを私は知っおいる。

    「なんだよ。俺は犿げないよ。ふさふさだもん。雄ちゃんを芋おみなよ。かなり犿げおきおいるじゃんかよ」
     䞭孊生のような物蚀いだ。
     䞀同の芖線が雄さんの頭に集たり、みんな倧きな声をあげお笑う。
     そりゃあ、お矩父さんのアタマを芋れば私はわかる。
     雄さんのアタマは、颚前の灯火ずいったずころだろうか。


     私たちは、い぀でもあの頃に戻るこずができる。

     この堎に井田はいなくおも。

     その思いはみんな同じだろう。
     こうやっお集たり、笑い、そしお冗談を蚀い合えるのはあず䜕幎だろうか。

     皆、口に出さないたでも、じんわりず意識しおいる。

     ああ、この時間がずっず続けばいいのに  。ず。

     
     
     
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