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お願い、迎えに来てね #028 (5-3) 沈黙の義務

    第1部 諦念編|第5章


    Hello, again.

    お願い 底まで一緒に堕ちて

    鉄のドアから きみの胸に 罪を刻む
    ぼくを殺す 見つけた責任

    お願い いなくならないで

    改札抜ける きみの背中に 祈りを投げる
    ぼくを殺す 無音の祈り


    最近、売り出し始めたアイドルの里中しずくに似ていると言われ、翠明大すいめいだいでは同期の男子数人から、声をかけられたり、誘われたりと、そこそこモテ期の波が押し寄せていた。
    新しい恋の相手はたくさんいるのに、貴樹たかきくん以外見えないわたしは、見ていられないほどダメな女の子らしい。

    紗良さらちゃんに相談するたびに、貴樹くんの評価は下がっていく一方だった。
    あるとき、「もう月桜るなのウジウジに付き合うのは疲れた」と言わんばかりに、紗良ちゃんから正論という名の刃を突き付けられた。

    「ちゃんとフラれて終わりにした方がいい。わたしから貴樹くんに言ってあげるよ」

    結琉《たける》くんが許してくれて。
    和乃《かずの》がいなくなって。
    受験が終わって。
    彼女がいなくなって。
    やっと解放された。自由になった。

    恋の障害がすべてなくなったおかげで、一番の障害は貴樹くん自身だってことが浮き彫りになった。障害だと思っていたものは、実は障害でもなんでもなくて、はじめから問題は貴樹くんだけだったのかもしれない。

    貴樹くんとの距離感が掴めない。
    貴樹くんを好きなことがつらい。
    もうこの恋は終わりにしたい。

    「月桜。やっぱり貴樹くんが好きなんだって。気持ち、受け止められない……よね?」

    「ごめん」

    「だよね。月桜にそう伝えるね」

    「……」

    「それでいいんでしょ?」

    「待って! 自分で直接言うから」

    紗良ちゃんは、躊躇なく貴樹くんに言い放ったそうだ。「紗良から月桜に伝えてくれ」それで終わるはずなのに。「自分で直接言う」は、せめてもの貴樹くんの誠意なの?

    その誠意とやらを、いつまでも待っているわたし。
    周りの友だちに相談しても、みんな返ってくる言葉は同じ。

    「そんな男、やめちゃいなよ」
    「他にいい男なんていっぱいいるよ」
    「誰か紹介してあげようか?」
    「青春がもったいないよ」

    好きな人は「選ぶ」ものなの?
    好きな気持ちは、コントロールなんてできないのに。

    貴樹くんには、月桜をふる義務ができた。
    月桜には、貴樹くんにふられる権利ができた。
    この義務と権利は、いつ行使されるのだろう?

    貴樹くんは、ずっと義務を放棄している。その後ろめたさから、貴樹くんの目には、わたしは貴樹くんを責めている人に見えるだろう。いや、実際に責めている。自分から「直接話す」と言ったのだから、責任持ってちゃんとふってよ!

    朝も帰りも、基本的には、貴樹くんとは電車の時間が合わない。それでも、駅で、ホームで、電車内で、もしかしたら貴樹くんを見かけるかもしれない。そんな期待と不安に、毎日のように巻き込まれていく。

    始発駅のホーム。最後尾から歩き出し、車内をチラチラと覗きながら、彼がいないことを確認してホッとする。と同時に溜息をつく。
    一番前の車両、おそらくそこが彼の場所。だからわたしは、わざと二両目の、彼の死角になる場所に逃げ込む。
    万が一、先頭車両に乗っていたとしても、降車駅の改札を抜ける人混みの中から、彼の後ろ姿だけは、なんとか見つけ出すことができるから。

    彼に気づかれたくない。「貴樹くんを責めてる月桜」を見せることが怖い。怖いくせに「逢いたい」と願う自分に、もう疲れ果てていた。

    なのに。偶然、二回だけ彼を見かけたあの日。
    視界の端に、あのスレンダーなフォルムを捉えた、その瞬間に……

     もう終わりにしたいはずなのに。どうして?

    なにもかも吸い込まれてしまいそうになる。見えない引力に引っ張られて、そのエネルギーに溶けて消えてしまいそうになる。胸の奥から、多幸感が湧き出て溢れて止まらない。

    逢えるだけで、わたし、しあわせ。

    わたしたちふたりを見かねているのは、紗良ちゃんだけじゃない。前々から瑞來みずきくんも、それとなく貴樹くんに訊いてみると言ってくれていた。

    「ごめん月桜。力になれなくて……」

    いつもは陽気な瑞來くんの声が、今日ばかりは重く沈んでいる。
    いいの。いいの。瑞來くんが悪いわけじゃないんだから。

    「月桜のこと訊いてみても、ただ黙って笑ってるだけで、何も答えようとしねえんだよ」

     ただ、笑ってるだけ……か……

    「それ以上、深く突っ込もうとすると、貴樹の機嫌が悪くなってさ。その威圧感っていうか……俺らの仲までギクシャクしそうで。ごめん。そこまではできない」

    申し訳なさそうに、瑞來くんが言葉を重ねていく。

    「嫌いじゃないと思うんだよね。好きか? 嫌いか? って訊かれたら、たぶん、好きな方に入ると思うんだよ」

     うん。正直、わたしもそう感じている。

    「友だちとしか思えないのか。恋愛対象じゃないのか。そこはサッパリわかんねえ。前にも言ったとおり、今は彼女を作る気がないのかも」

    今は……それなら、貴樹くんがまた恋愛したくなるまで、ずっと待ってれば……ずっと待ってれば可能性はあるの?

    「いずれにしても、貴樹は『自分で直接言う』って言ったんだろ? だとしたら、さすがに貴樹が悪いと思うよ。悪いと思うけどさ。何が理由であれ、Yesとは言わないわけだから……」

    瑞來くんありがとう。瑞來くんがそう言ってくれるだけでも、気持ちが楽になったよ。わたしには、ちゃんとふられる権利があるんだよね。


    言葉にならない『ごめん』と、言葉にできない『好き』。いつまで、この平行線は続くの。


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    なぜ、また出逢ってしまうの? 友だちでもなく、恋人でもない。手も握ったことさえないのに、離れても離れても、再びめぐり逢う……。 自分の感覚だけを信じて、見えない愛を徹底的に試された40年の軌跡。事実という骨組みに祈りを込めたオートフィクション。まずは固定記事からどうぞ。

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