
お願い、迎えに来てね #029 (6-1) 螺旋、まだ二つ目の「ま」
第1部 諦念編|第6章
Hello, again.
世界は 二つ目の「ま」で 拍動を止めた
重力に突き放された ぼくたちの モノクローム
ぼくを 立ち止まらせているのは だれ?
雑音にかき消された きみたちは 駆け抜けていく
きみを 突き動かしているのは なに?
見失った 白と黒の 境界線(デッドライン)
きみが ぼくを 見つけるまでの
これは 残酷で 静かな プロローグ
Hello, little girl.
消えたりなんかしない
時間なんて 永遠で 一瞬だから
――ドンッ。
地面の底から突き上げるような、鈍く、重い衝撃。
一瞬、何が起きたのかわからなかった。
「誰も怪我してない?」
「車、壊れてない?」
一緒に後部座席に同乗していた望音ちゃんと顔を見合わせる。
瑞來くんが運転するハチロクは、右の後輪を側溝へ深く沈ませ、天を仰ぐように斜めに傾いていた。
螺旋峠が始まったばかりの場所。
まだ、二つ目の「ま」のカーブなのに。
どうすればいいの?
わたしたち、どうなっちゃうの?
紅葉の名所として知られ、シーズン中は渋滞となる螺旋峠。山が色づくにはまだ少し早い時期だったおかげで、この事故がドライブを楽しむ観光客の邪魔にならずに済んでいることが不幸中の幸いだ。
つづら折りのヘアピンカーブが続く螺旋峠は、走り屋御用達の山道でもある。瑞來くんのハチロクには、見慣れない赤いシートベルトがついている。4点式シートベルトっていうんだっけ? 瑞來くんにとって「ま」のカーブなんて、お茶の子サイサイで曲がれるはずだった。
瑞來くんと助手席に座っていた瀬加くんは、脱輪を引き上げるため、あーでもない、こーでもないと、あくせくしている。車の免許を持っていないわたしは、こんなとき何の役にも立たない。望音ちゃんと手を取り合って、なんとかなることを神様に祈るばかりだ。
螺旋峠の頂上で待ち合わせと約束した貴樹くんたちは、何も知らずに坂道を走らせ、ドライブを楽しんでいることだろう。
瑞來くんのハチロクと、結琉くんが運転するひとつ新型のトレノは、無線が繋がっている。螺旋峠の麓に来るまでは、相手の車から聞こえる無線の声がタクシーみたいで、別々の空間にいながら同じ時間《とき》を共有できることを、おもしろがっていた。
わたしたち女子にとっては、それがとても新鮮に感じて、男子諸君はちょっと得意気になっていた。いつもこうして、2台の車でツルんで遊んでるんだろうな。彼らの仲の良さが、こんなところからも伺い知ることができる。
トレノ号は結琉くんが運転しているから、無線でチャチャを入れてくるのは、もっぱら貴樹くんの役目だ。雑音混じりの貴樹くんの声が聴こえるたび、胸の奥で誰かが踊っている。
せっかくの無線も、この状況ではさすがに届かない。
いつになっても到着しないハチロク。
貴樹くんたちは、どう判断するのだろう?
始まったばかりの場所なのに。ここに来てよかったのかな。
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