
お願い、迎えに来てね #019 (3-2) 衝撃と休戦
第1部 諦念編|第3章
Hello, again.
昨日と 同じ 静かな 戦場に
世界から ひとつの色が 欠け落ちた
巨大な沈黙は 氷を粉々に砕く
きみと ぼくの 熱は 奪われていく
Hello, little girl.
ちっぽけな 石なんて 無意味なものだったね
かたちをかえる 素粒子の前では
その日は朝から騒然としていた。
特に瀬波野中央中出身の子は、休み時間になるたびに、クラスの垣根を越えた小さな輪を廊下のあちこちに作っていた。
瀬波野中央中のクラスメイトだった知咲が、血相を変えてふっ飛んできた。
「遥真くんが……遥真くんが……」
知咲の声は震えていた。返す言葉なんて見つからない。
わたしたちはまだ、この事実を受け止めることができないでいる。
遥真くんは、昨夜、三丁目の踏切で電車に飛び込んだそうだ。
まさかあの遥真くんが!
信じられない。
優等生だった彼は、進学した瀬波野高校でも、当然のように優等生街道を歩んでいるとばかり思っていた。
遥真くんといえば、中学時代は貴樹くんや高坂くんと同じ進学塾に通っていた。よく三人で塾の話をしていたから、成績も優秀でかなり上位を目指していたのだろう。
野球部のレギュラーで、駅伝大会の時期は毎回臨時駅伝部に召集されていたくらいだから、間違いなくスポーツも有能だ。おまけに、すっきりした顔立ちの爽やか男子で、女子からの人気も高かった。男子諸君がほしいものを、みんな持っているような遥真くんが……なぜ?
夜になって、麗香から電話があった。中学のクラスメイトの中で、瀬波野大附属高に進学したのは麗香ひとりだったから、学校で気持ちを共感できる友だちがいなかった、一日辛かったと。
「遥真くんの告別式、行きたい。ちゃんと最後のお別れしたいよ」
どうしてわたし、動揺してるはずなのに、不思議と冷静なんだろう。
麗香を慰めながら、告別式に行く段取りを考えていた。
麗香には学校に早退許可をもらうよう伝え、待ち合わせ場所を指定した。こっちは、学校に早退許可を取り付けることと、瀬女の元クラスメイトに声をかけることを約束した。ひとりで遠くの高校に行っているから、紗良ちゃんにも声をかけておこう。
「先生。瀬波野高校の亡くなった生徒、中学のクラスメイトなんです。告別式に行きたいんです。早退させてください」
わたしは、高校の担任に早退許可の交渉をしていた。まあ、いいも悪いも知ったこっちゃない。許可してもらえなくても、強引に早退するという勢いで担任に捲し立てた。
瀬波野女子の元クラスメイトって……
知咲と菜歩と、幸冬と和乃だよ。
和乃を大切にしてあげる必要ある?
「月桜のいいこぶりっ子!」って、また言われるだけじゃない?
和乃のことなんてどうでもいいじゃん。
……それとこれとは別だよ。
和乃だってショックを受けてるよ。
和乃以外のみんなで早退したことを知ったら、きっと和乃は傷つくよ。
わたしは和乃を放っておくことはできなかった。無視されたとしても、和乃ひとりだけ誘わない方が心が痛いよ。
「和乃。遥真くんのことで話があるの。明日、学校を早退して告別式に行くことになってる。和乃も一緒に行く?」
和乃の顔を見て話すことはできなかったけど、視線は反らしたまま、和乃は黙って話を聴いてくれた。そして、無言で小さく同意した。
遥真くんのことは特別だよね。
明日だけは休戦だね。和乃。
憎しみや意地や葛藤も、死には勝てない。やさしさなんかじゃない。
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