
お願い、迎えに来てね #018 (3-1) こちら側に 繋ぎ止める錨
第1部 諦念編|第3章
Hello, again.
不純な 祈りだけが
ぼくを こちら側に 繋ぎ止める
きみが 許してくれないから
ぼくは ぼくを 殺せない
きみの 知らない この場所で
ぼくは まだ きみを探している
Hello, little girl.
何度でも 宇宙は 同じ朝を連れてくる
許せれば 空いたその手に届く 新しい明日
平凡な女子高生の鎧を身に纏って、できるだけ感情を無にして、学校という戦場に向かう。ここは学力をつけるところ。ただそれだけ。それだけの目的のために、四時まで学校用の月桜を生きる。
小さなアパート暮らしの我が家では、自分の部屋など持てるはずもなかった。お姉ちゃんと押し込められた四畳半でひとりになれるところは、布団の中しかなかった。家族にも誰にも気づかれないように、毎夜ひとりで泣いていた。死にたい。もう死んでしまいたい。
最悪だった。
どうしてまた和乃と同じクラスになるの?
中二のクラス替えで、和乃と幸冬の名前を見つけたときの衝撃は今でも覚えている。高二のクラス替えで、和乃の名前を見つけたときは、それ以上の衝撃だった。もう絶望しかなかった。
見ないふりをして、なんとかその瞬間をやり過ごせるようになったのに、この一年間の努力はなんだったの? 和乃を傷つけてしまった罪悪感の世界に、無情にも引き戻された。
一年という月日が流れても、和乃の怒りはまったく消えていなかった。わたしの存在は、和乃から、まるで透明人間のように、そこにいない人として扱われる。
和乃が集金係になったおかげで、教材費の徴収やら、赤い羽根の募金やら、ときどき和乃にお金を渡さなければならない。毎回、和乃は顔を上げることもなく、チェック用の名簿を見つめたまま、ただ無言でお金を受け取った。
くじ引きで決める席替えは、高校生ともなると、担任はいちいち関与してこない。前後左右斜め、席が近くなってしまったときは、たいてい翌日には、誰かと和乃の席が入れ替わっていた。
体育の授業だって、バレーやバスケはチームが必要になる。和乃と同じチームにならないか、そんな小さなことでさえ、緊張で胸が張り裂けそうだ。
クラスメイトも、わたしと和乃の仲がおかしいことは、みんな気づいている。だけど、誰ひとり心配してくれる人なんていない。スルー力が高いのは、ある意味、大人ってことなのか?
和乃には、あらためて謝罪の旨と最低限の会話をしてほしいと手紙を渡してみたものの、わたしからの訴えは容赦なく却下された。
“月桜と仲良くするつもりはない”
どうしたら楽に死ねるのかな? いつもそんなことばかり考えていた。どんな方法を考えてみても、「痛い」「怖い」というイメージを拭い去ることができない。死にたい。死ねない。
和乃は、どうすれば許してくれるのだろう?
わたしと貴樹くんが付き合っているのなら、勝ち誇る月桜が許せない、というのはわかる。だけど現実は、貴樹くんには何も言ってもらえないまま、結琉くんのこともあって、終わらせるしかなかった恋。「いい気味だ!」って月桜を嘲笑えばいいじゃない。それでも和乃は気が晴れないの?
好きなのが悪いの?
和乃を傷つけても、結琉くんを傷つけても、それでもまだ、貴樹くんが好きだからいけないの?
貴樹くんを嫌いにならないといけないの?
貴樹くんを忘れなきゃいけないの?
心の中から貴樹くんをきれいさっぱり排除できるまで、許してもらえないの?
助けて。貴樹くん、助けて。
苦しくなればなるほど、心は貴樹くんを求めてしまう。
貴樹くんを排除しなければいけないのに、貴樹くんのことばかり考えてしまう。
死にたい月桜に、脳内でもうひとりの月桜が話しかけてくる。
これでいいの?
納得してるの?
やり残したことはないの?
後悔しないの?
今世、これで終わりにしていいの?
このまま死ぬなんて嫌だ。貴樹くんに逢いたい。
せめて一目でいいから、貴樹くんに逢うまでは……
貴樹くんに逢うまでは、死にたくない。
死にたい絶望に歯止めをかけてくれるのは、貴樹くんに逢いたいと願う小さな祈りと、運命を信じる微かな希望だけだった。
死にたいのに。このままじゃ死にたくない。
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