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『歌舞伎とビヨンセ①』ビヨンセのコンサートは現代の歌舞伎なのか?


1.はじめに

歌舞伎を見ていて、あることに気づいた。

役者が空を飛ぶ。

客席の上を移動する。

花道を駆け抜ける。

観客から歓声が上がる。


そして、ふと思った。

「これ、ビヨンセのコンサートと同じでは?」


もちろん、歌舞伎とビヨンセの間に直接的な影響関係があるわけではない。しかし両者を比べてみると、意外なほど似て見えるところがある。

歌舞伎とビヨンセは、なぜこれほど似て見えるのだろうか。そこには、時代や文化が違っても、人が舞台に求めるものに共通点があるのかもしれない。

今回から全5回にわたり、「歌舞伎・サーカス・ビヨンセ」をつなぐスペクタクル文化史をテーマに考えてみたい。

第1回となる本記事では、まず歌舞伎とビヨンセのコンサートに見られる共通点を整理してみる。


2.歌舞伎は昔から空を飛んでいた

歌舞伎には「宙乗り(ちゅうのり)」という演出がある。役者がワイヤーやロープで吊られ、舞台上や客席の上空を移動する演出だ。
現在では『義経千本桜』の狐忠信などが有名だが、その起源は江戸時代にまで遡る。

当時は現代のようなワイヤーシステムではなく、綱などを使った仕掛けで役者を宙へ上げていた。こうした仕掛けは、現実ではあり得ない光景を舞台上に出現させ、観客を驚かせた。歌舞伎では、宙乗りや早替わりなど、観客を驚かせる演出を「ケレン」と呼ぶ。ケレンは、観客を非日常へ連れていく歌舞伎ならではの見せ場でもある。


3.花道は観客との距離を縮める

歌舞伎の特徴として有名なのが花道である。花道は客席を貫くように設置された通路で、役者はそこを歩きながら登場・退場する。観客は役者を間近で見ることができる。つまり、舞台と客席の境界を曖昧にする装置なのだ。

この発想は現代のポップコンサートにも通じる。ビヨンセのRenaissance World Tourでは、メインステージから客席中央へ向かって巨大なランウェイが伸びていた。Cowboy Carter Tourでは、星型のメインステージから、客席側へ大きく張り出すダイヤモンド状のキャットウォークが設けられた。

歌舞伎の花道とビヨンセのランウェイでは、成り立ちも目的も同じではない。それでも観客から見ると、どちらも遠くにいた主役が自分たちの側へやって来るという体験を生み出す。舞台と客席の距離を縮めるという点では、二つを並べてみるのも面白い。


4.ケレンとポップコンサート

歌舞伎ではさらに、回り舞台やせり、花道など、舞台空間そのものを大きく使う仕掛けも発達してきた。

一方、ビヨンセのツアーにも、

・ファンから「Reneigh」と呼ばれる飛行馬
・飛行車
・巨大ロボットアーム
・可動式ステージ
・巨大LEDスクリーン

などの大掛かりな仕掛けが登場する。

両者に共通しているのは、単に演じるだけではなく「観客を驚かせること」そのものが芸術の一部になっている点だ。

江戸時代の観客と現代のスタジアムの観客では、楽しみ方も違う。それでも、目の前で予想外の光景が起きたときの驚きには、どこか通じるものがあるのかもしれない。


5.Renaissanceと『義経千本桜』

ビヨンセのRenaissance World Tourと歌舞伎を比較するなら、『義経千本桜』は興味深い題材だ。

特に興味深いのが、佐藤忠信の姿に化けた源九郎狐である。人間の姿に化けた狐が宙を舞い、観客を幻想的な世界へ誘う。

Renaissanceにも似た要素がある。ツアー終盤で登場する銀色の飛行馬「Reneigh」は、未来的で幻想的な世界観の象徴だった。観客は巨大なクラブ空間から、まるで別世界へ運ばれていく。

狐忠信とReneigh。

一見するとまったく違う存在だが、どちらも空を飛ぶことで強烈な印象を残す。

なぜ人は、舞台上の人物が空を飛ぶとこれほど興奮するのだろうか。

この「飛ぶ演出」については、シリーズ後半でもう一度詳しく考えてみたい。


6.Cowboy Carterと時代物

Cowboy Carterは、カントリー音楽やアメリカ西部をめぐるイメージを、ビヨンセ自身の視点から捉え直した作品である。

ビヨンセ自身も制作にあたり、カントリーミュージックの歴史を深く調べたと語っている。作品に登場するカウボーイのイメージは、これまで大衆文化の中で見えにくかった黒人カウボーイの歴史を考えるきっかけにもなった。

ここで思い浮かぶのが、歌舞伎の時代物である。

歴史上の事件や人物を扱いながら、時代ごとの観客に新たな意味を提示してきた歌舞伎とCowboy Carterを並べると、意外な共通点が見えてくる。

なかでも『忠臣蔵』との比較は、このシリーズで改めて詳しく取り上げたい。

さらにツアーでは、

機械牛、

巨大な星型ステージ、

飛行演出、

映像による西部劇的世界観が展開される。

そこには、歌舞伎のケレンと並べてみたくなるような、観客を驚かせる大掛かりな見せ場がある。


7.実はサーカスも歌舞伎に近い

ここで比較対象として加えたいのが、現代サーカスである。

特にシルク・ドゥ・ソレイユのような現代サーカスでは、空中演技や高度な身体表現、大掛かりな舞台装置などを組み合わせ、独自の世界を作り上げている。

しかし面白いことに、歌舞伎とサーカスにも多くの共通点がある。どちらも身体表現を重視し、どちらも観客を驚かせ、どちらも総合芸術として発展してきた。

つまり、歌舞伎、サーカス、現代のポップコンサートには、直接的な影響関係とは別に、似て見えるところがある。身体を大きく使い、舞台装置を駆使し、観客を驚かせながら日常とは違う光景を見せる。

時代も文化も違う三者を並べると、なぜか同じような「驚き」を感じる。その理由を、もう少し追いかけてみたい。


8.おわりに

歌舞伎とビヨンセの間に、直接的な影響関係があるとは言えない。

しかし三者を並べてみると、観客を驚かせ、日常とは違う光景を見せるための工夫に、意外な共通点が見えてくる。

歌舞伎では狐忠信が宙を飛び、現代のスタジアムではReneighに乗ったビヨンセが空を飛ぶ。

時代も文化も違うのに、なぜこれほど似た「驚き」が生まれるのだろうか。

本シリーズでは、こうした視点から歌舞伎・サーカス・ビヨンセを横断しながら、スペクタクル文化の歴史をたどっていきたい。


次回

第2回
『歌舞伎とビヨンセ② Renaissanceは現代の変化舞踊なのか?― 『京鹿子娘道成寺』と比較してみた』

歌舞伎舞踊を代表する演目の一つ『京鹿子娘道成寺』とビヨンセの『Renaissance』ツアー。

一見すると遠く離れた二つの作品の間に、どのような共通点があるのだろうか。

次回は「変身」をキーワードに、『Renaissance』を文化史の視点から読み解いてみたい。







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ビヨンセの『Renaissance』『Cowboy Carter』を起点に、歌舞伎やサーカス、ポップカルチャーを横断しながら「スペクタクル…

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