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空想ブックカフェと小さな犬と、何も変わることのない物語 ~#1 プロローグ

    【作品紹介】
    国道のガードレールの隙間を抜け、細い坂道を下った海辺に、「空想」のブックカフェが姿を現すことがある。本来なら店主が愛犬と過ごすだけのはずの場所なのに、時折、現実との境界線が曖昧になった客たちが迷い込んでくる。店主は誰かを救う気などなく、ただ愛犬と静かに過ごしたいだけ。誰の「痛み」も消え去ることはないけれど、それが悪いわけじゃない。プロローグとエピローグを含めた全5編。

    海沿いの国道を外れて、小さな道祖神を目印に、錆びたガードレールの切れ目を進むと、その店がある。打ち捨てられた流木と、塩に洗われた古い木造の建物。

    入り口には蔦が絡まり、「ブックカフェ 葛楽堂」という小さな札が下がっている。この店と現実をつなぐのは、赤い自転車だけだ。これに乗って、この場所を離れている間、この店は、ただの木造小屋に戻る。

    ドアを開けると、琥珀色のランプが灯っている。ブックカフェなのに本棚には数冊の本と古い玩具しかない。

    カウンターの下では、黒いミニチュアダックスが寝息を立てている。あの子は、オレがここにいる間だけ、形を取り戻している。

    オレは、あの子に語りかけながら、誰も来ない店で、誰のためでもないコーヒーを淹れている。空想の世界が現れたこの店で、波音を聴きながら。


    ◆「空想ブックカフェと小さな犬と何も変わることのない物語」
    現実との境界線が曖昧になった客たちが迷い込んでくる「空想ブックカフェ」を舞台にした物語

    ・#1 プロローグ  ←今回
    ・#2 迷い込んできた女と奇妙な本
    ・#3 捨てられない男と海辺の幻想
    ・#4 夢を見ていた少女と空想を見ている男
    ・#5 エピローグ|「物の怪」の住む場所

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