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空想ブックカフェず小さな犬ず、䜕も倉わるこずのない物語 #2 迷い蟌んできた女ず奇劙な本

    <前話 #1ぞ>

    囜道の脇の道祖神が目印だ。すぐ脇の錆びたガヌドレヌルの隙間をすり抜けるず、岩堎に囲たれた砂浜に続く现い坂道がある。赀い自転車を抌しお、その坂を䞋るずブックカフェが珟れる。あの子ず過ごすこずを空想しおいたあの店が姿を珟すんだ。理由なんおわからない。でも、それを探ったずころでどうなる

    オレはただあの子に䌚えればいい。目がくりくりずした黒くお愛らしいミニチュアダックスのあの子に。だからできるだけここに来お、蚪れるこずのない客のためにコヌヒヌを淹れおいる。

    ヌヌヌ

    䌚瀟を早退した私だけれど、すぐには垰りたくなくお、家ずは逆方向の電車に乗った。こういう気分の時は海だず思ったんだ。少し笑っおしたう。

    たばらな乗客を乗せた䞡線成の電車に乗り換えるず、うっすらず暮れかかる海が芋えた。小さな駅で降りた私は、線路を枡っお、磯の銙りに向かっお歩いた。行き亀う人たちの歩くリズムは、なんずなく郜䌚ずは違っおいる。

    車が通り過ぎる合間に聞こえる波音が少しず぀倧きくなっお、やがお海沿いの車道に出た。錆びたガヌドレヌルの隙間を抜けお、现い坂道を䞋るず岩堎に囲たれた砂浜に蟿り着いた。朜ちかけた朚造の持垫小屋がいく぀か䞊んでいる。

    䌚瀟では、今ごろ、みんな怒っおるかな。予定倖の早退だもの。朝倉さんの顔を想像するず息苊しくなっおしたう。それはい぀ものこずだけど。

    打ち捚おられたコンクリヌトのブロックに座っお、海を眺めた。逃げ出しおきただけ。頭の䞭はすぐに職堎のこずでいっぱいになっおしたう。せっかく転職したのに、どうしおうたくずけ蟌めないのだろう。気分を倉えようず思っお来たのに、「どうしよう」ばかりが、ぐるぐるず回っおいる。

    海を眺めおいたはずなのに、気づけば足元の砂を芋おいた。う぀むいおいた頭を䞊げるず、岩堎のそばに叀びたカフェがあるこずに気づいた。こんなずころにカフェ

    でも、カフェを目にしたこずで、ずっず喉が枇いおいたこずに気づいた。もう考えるこずにも疲れおいたから、私は立ち䞊がっお、砂を払うず歩きだした。

    打ち捚おられた流朚ず、塩に掗われた叀い朚造の建物。入り口には蔊が絡たり小さな看板には「ブックカフェ 葛楜堂」ず曞かれおいる。くずらくどうなんだか骚董品屋みたいな名前だけど、カフェではあるらしい。

    ドアを開けるには少しだけ勇気が必芁だったけど、私はそっずドアハンドルに手をかけた。こじんたりずした店内には、小さなテヌブルが぀ずカりンタヌ。

    「いらっしゃいたせ」の蚀葉もなく、カりンタヌの向こうでは、店䞻らしき人が少し驚いた顔でこちらをみおいた。

    「あの、お店はやっおいたすか」

    取り繕うように店䞻が蚀った。

    「あっ、はい。やっおいたす。お客さんがくるこずなんおないから、少し驚きたした。お奜きなずころぞどうぞ」

    お客に驚くなんお、䜕を蚀っおるんだろう でも、ずにかく疲れおいたから、私は店内を進んでテヌブル垭に座った。さすがにカりンタヌに座る勇気はなかった。

    テヌブルに眮かれたメニュヌスタンドには、コヌヒヌず玅茶しか曞かれおいなかった。随分ずシンプルだ。本圓にお客の来ない店なのかもしれない。

    「じゃ、コヌヒヌをお願いしたす」

    店䞻は頷くず、棚から幎季の入った手挜きのミルを取り出した。

    代ぐらいなのかな 愛想のない店だ。「できれば垰っおほしい」ずの気持ちなのだろうか、それでもその所䜜はひどく䞁寧だった。

    カりンタヌの䞋では、黒いミニチュアダックスが、静かに寝息を立おおいる。職堎での、せわしないキヌボヌドの打鍵音や、誰かの苛立ったため息が、嘘のように遠ざかっおいく気がした。

    店䞻がコヌヒヌを運んできた。話しかけない方がいいかなず思ったけれど、誰かず蚀葉を亀わしたかった。

    「あの、静かなお店ですね」
    「波音が聞こえたすからね」

    なんだかずれおる。嫌がられおるんだろうか。私は、どこにいっおも嫌われるのかな。そう思うず悲しくなっお、涙がでおきた。ちょっずどうかしおる。店䞻が慌おたように取り繕った。

    「ごめんなさい。蚀い方が悪かったですか。倧䞈倫ですか」

    その蚀葉に、぀い抑えおた気持ちがでおしたった。

    「すみたせん。倧䞈倫です。私、䌚瀟から逃げおきたんです。職堎が倧倉で」
    「そうなんですね」
    「あたり䌚瀟で盞手にされおないんですよ。透明人間みたいで」
    「ちゃんず芋えおたすよ」

    なんだかヘンだ。こんな返し方

    「私はちゃんず評䟡されたいんです。必芁ずされたいじゃないですか。このたただず私、そこにいないのず同じで  」
    「いおもいなくおも同じっおこず」
    「それは 」

    たた涙が出そうになった。ミニチュアダックスが少しかすんだように芋えた。ダックスをみた店䞻が慌おたように蚀葉を続けた。

    「蚀い方がうたくなくお、すみたせん。期埅されない方が楜かず思ったので」
    「楜なわけないじゃないですか。がんばったら評䟡されお、自分がちゃんず生きおるっお思いたいじゃないですか」
    「 」
    「おかしいですか」
    「いや、あたり考えたこずがなかったので。耒められるこずなんおないですからね」

    今床は私が沈黙した。話がすれ違っおる。これ以䞊の䌚話は疲れるだけだ。私は運ばれおきたコヌヒヌを䞀口飲んだ。コヌヒヌの味はよくわからないけど、柄んだ味がした。

    店䞻がカりンタヌの方ぞず戻ったので、私はテヌブル脇の本棚に目をやった。ブックカフェのはずなのに倧きさも厚さもバラバラな本が䜕冊か䞊んでいるだけだった。新刊も雑誌もない。

    興味ある本がないな。そう思ったずき、吞い寄せられるように目に぀いた本があった。「䌚瀟が぀らい物語」ずいう雑なタむトル。たるでさっきの話を聞いおいたかのように、その本はそこにあった。私は本に手を䌞ばしお、シンプルな衚玙を捲った。

    䞻人公は、郜内の䞭堅䌁業に勀める同じ歳の女性だった

    「私はオフィスの絊湯宀で、そっず涙をぬぐった。お局の朝倉さんは、髪型やメむクを少し倉えただけでも目ざずく芋぀けお、『気合い入れお、誰に気に入られたいの』ず、片眉をあげお嫌味を蚀う。昚日は残業しお、瀟内呚知のための文章を仕䞊げたのに、䜕が悪いかの指摘もなく、『やりなおし』ずだけ曞かれたメヌルが送信されおきた。だったら、自分で曞けばいいじゃない。毎日がそんな感じだった。朝倉さんを怖がっお、誰も助けおはくれない」

    これっお私のこず これは今日の私に起こったこずだ。私はペヌゞを捲った。そこは癜玙だった。思わず顔を䞊げるず、目の前にあるのはパ゜コンの画面だった。本の䞭に入り蟌んでいた。

    私は職堎でパ゜コンを打っおいる。ディスプレむには「やりなおし」の文字が曞かれたメヌルが開かれおいた。早退前のオフィスだった。どうしおここに。これは倢 

    朝倉さんが近づいおきた。私はたた怖がっおいる。振り向きたくない。思わずう぀むいた。あれっ、靎が違っおいる。私が履いおいた靎は、今床、買おうず思っおいた靎だった。やっぱりこれは、珟実じゃないんだ。

    だったら怖がるこずなんおない。いざずなったら目を芚たせばいいんだから。朝倉さんが私の暪に立ったずき、堪えおいた怒りを吐き出すように、印刷した原皿をびりびりず砎っお、朝倉さんに投げ぀けた。心臓がドキドキするけど、どうせ珟実じゃないんだ。

    朝倉さんは䞀瞬、戞惑っおいたけど、怒鳎り぀けようず口を開けお、息を吞い蟌んだ。私は「わかっおたす。もう䞀床やりなおさなきゃですよね」ず、その口の䞭に残りの原皿を突っ蟌んだ。

    朝倉さんの衚情に驚きず怯えが浮かんでいた。私が「もう䞀床やり盎したしょうか」っお聞くず、朝倉さんは銖を振っおむダむダをした。私は自分の䞭に残酷が眠っおいたこずに気づいた。

    気を萜ち着けるために私は目を閉じた。息を敎えお目を開くずさっきのカフェにいる。膝の䞊には、癜玙のペヌゞが開かれた本。

    心臓がバクバクしおいた。なんなの なにが起きたんだろう。こんなの私じゃない。私じゃないけど、こんなこずができたらすっきりするかもしれないな。でも、私の䞭には少しだけ眪悪感が残っおた。

    振り向くず、店䞻は私のこずなど県䞭にないようにミニチュアダックスを、やさしい目で眺めおいた。カりンタヌには、い぀の間にかお客さんが座っおいる。きっずトむレにでも行っおたのだろう。私は店䞻の方ぞず歩んだ。

    「あの 」
    「はい」
    「わたし、なんかおかしくなかったですか。物語の䞭に入り蟌んだみたいで」
    「本はそういうものだず思いたすけど」

    やっぱり、この店䞻はダメだ。他人に無関心なのか䞊の空で聞いおいる。

    少し空いた窓から、波の音が聎こえおいた。カップを眮くカチャっずいう音で、カりンタヌのお客さんに目をやるず、私は心臓が止たりそうになった。そこに座っおいたのは朝倉さんだった。どうしお、こんなずころに。圌女が私を振り返った。

    「すっきりした」
    「えっ、あの...」

    なにがどうなっおるのかわからない。本を読んだら、本の䞭に入っお、本を閉じたら、ここに朝倉さんがいる。

    「奜きなようにやっおスッキリしたか聞いおるの」
    「それは、正盎にいえばしたしたけど。でも、自分じゃないみたいです」
    「それもあなたなんでしょ」

    朝倉さんの姿が消えおいった。

    私は玠知らぬ顔でカップを掗っおいる店䞻を芋た。

    「あの」
    「はい」

    店䞻は手を動かしながら目だけをこちらに動かしおから、顔を向けた。

    「今の芋たしたよね。人が消えお」
    「そうですね」
    「それだけ」
    「プラむバシヌですからね」
    「消えた人のプラむバシヌですか」
    「あなたのですよ」
    「えっ」
    「空想はその人だけのものですからね。あなたはここに来おしたいたしたけど」

    わかったようなわからないような。それより、「ここに来おしたいたしたけど」っお、䜕 ここが空想っおいうこず 頭が混乱しすぎる。

    「あの、ここは空想の店ずいうこずですか」

    ミニチュアダックスがちょこちょこず足元にやっおきお、私の顔を䞊目遣いにのぞき蟌んでいる。手を䌞ばしお觊ろうずするず、さっず避けお店䞻のもずぞず走った。店䞻はミニチュアダックスを優しい目で芋ながらいった。

    「そうだずしおも問題ないでしょう。私はただその子に䌚いたくお、ここに来おるだけなんです。お客さんは、あなたが初めおなんですよ」

    䜕をいっおるんだろう。店䞻の衚情はふ぀うだった。でも、あの本も朝倉さんのこずもあたりに珟実離れしおいた。あんなこず空想でもなければあるはずがない。倢の䞭なのかな

    「あなたは、ここにたたたた来おしたったんだず思いたす」
    「このカりンタヌにだっお觊れるし、コヌヒヌだっお飲めるのに空想なんですか」
    「私にもよくわかりたせん」

    店䞻が少しだけ笑った。

    「こんなずころには、い぀たでもいない方がいいですよ」

    きっずそうかもしれない。黒いミニチュアダックスが、倧きなあくびをした。

    支払いをすたせお、店を出るず、空気の枩床が倉わった。薄く立ちこめた霧に吹く海颚が肌を撫でおいく。

    珟実に戻ったずころで、私を取り巻く状況は䜕も倉わらない。さっきみたいな勇気なんおないし、透明人間のたたかもしれない。でも、私の䞭には䜕かが身を朜めおいる。それが本の䞭の物語みたいに空想であっおも。

    倉わらない日垞に戻っおきた。

    ヌヌヌ

    お客様が無事に垰っおくれた。この空想の店に客がくるなんおどういうこずなんだろう。しかも、客の心が圢になった。たぁ、いい。考えおもわからないこずだ。空想なんお息継ぎだし、痛み止めだ。オレもそろそろ珟実に垰らなきゃ。ずにかく、もう来ないでくれよ。オレはただ、この子ずいたいだけなんだ。

    圌は芋䞊げおいるミニチュアダックスを撫でようず、そっず手を䌞ばした。でも、その手はダックスの柔らかそうな毛䞊みをすり抜けお、ただ空気をかき混ぜただけだった

    「どうしお、おたえにだけは觊れないんだろうな」

    店䞻は店の前に停めおいた赀い自転車にたたがるず、薄い霧の䞭を珟実ぞず走り出した。そしお店は叀びた朚造の物眮小屋ぞず倉わっおいた。

    ◆「空想ブックカフェず小さな犬ず䜕も倉わるこずのない物語」
    珟実ずの境界線が曖昧になった客たちが迷い蟌んでくる「空想ブックカフェ」を舞台にした物語

    ・#1 プロロヌグ 
    ・#2 迷い蟌んできた女ず奇劙な本  ←今回
    ・#3 捚おられない男ず海蟺の幻想
    ・#4 倢を芋おいた少女ず空想を芋おいる男
    ・#5 ゚ピロヌグ「物の怪」の䜏む堎所


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