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40年間の末路 第42章 穏やかな船出 ドキュメンタリー小説|自叙伝|60代

    デザートのアイスが全員に行き渡ると、長女・愛里がスクッと立ち上がった。

    「ここでヨシ爺に誕生日のプレゼント渡したいと思います。
     子供たち、こっちに来て__」

    と、会場の隅に置かれていたコストコのショッピングバッグから何やら取り出すと、子供たちに手渡した。

    「ヨシ爺、60歳おたんじょうびおめでとう」

    と、長女の娘・小3の彩代と次女の息子・小1の悠那ゆうなが、それぞれ寄せ書きを手渡してくれた。

    「ありがとう」

    彩代が渡した寄せ書きにはこれまでの写真がいっぱい貼られ、「いつもあそんでくれてありがとう」と彩代のメッセージのほかに、長女家族からのメッセージが書いてあった。
    悠那からの寄せ書きには次女・真那らしく手作りの飛び出す絵本になっていて、中からパンダが飛び出した。「パンダのくつしたありがとう」と悠那のメッセージと一緒に次女家族からのメッセージも寄せられていた。

    「はい。そしてこれも着てね」

    と、お約束の赤いちゃんちゃんこを着せられた。

    「ありがとう!」

    「あと、今年88歳になる康雄爺ちゃんと三千代婆ちゃんにも、
     プレゼントがあります」

    と、ここでようやく両親の米寿のお祝いしてくれた。

    そして長女の娘・年長の結乃ゆのと、次女の双子の息子・年中の那大なお、那津なつが、それぞれ寄せ書きを渡した。

    「康雄じぃちゃん、三千代ばぁちゃん、88歳おたんじょうびおめでとう」

    寄せ書きを貰った康雄は、誕生会前に買ったひ孫へのプレゼントと交換した。

    「ありがとう!これはみんなへのお返しのプレゼントだよ」

    「ありがとう!」

    「はい。康雄爺ちゃんと三千代婆ちゃんには、こちらのちゃんちゃんこを着てね」

    「おお!米寿は黄色なのか!」

    と、僕が用意した、ちゃんちゃんこを着てもらった。
    そう言えば、15年前の金婚式は祝ったことはあるが、両親の長寿祝いは今回が初めてだった。

    そして12人全員で記念撮影をすると、いよいよフィナーレになった。

    「それでは、最後にヨシ爺から、ご挨拶お願いします」

    僕は万感の思いを込めて、挨拶を始めた。

    「えーーっと、今日は還暦のお誕生会と康雄爺ちゃんと三千代婆ちゃんの米寿のお誕生会を開催して頂き、みんなで祝ってくれて本当にありがとうございます。
     今日まで色々なことが沢山あり、長かったような短かったような時間を過ごしました。
     その間、皆様にはご苦労とご心配を沢山おかけしたこと、大変申し訳ございませんでした」

    長女・愛里が生まれてからもうすぐ37年になる。
    ひとつひとつを振り返っていたらキリがないので、「色々なこと」の一言に集約して感謝と謝罪を意を表した。

    康雄から貰ったオモチャやシールに夢中になっている孫たちを見つめながら、言葉を続けた。

    「でも、今は5人のお孫ちゃんたちに恵まれて、とても幸せです。
     先ほど60歳になってからの将来の抱負を聞かれ、
     『元気なおじいちゃんを目指します』って答えましたが、
     これからは『もっと、もっと幸せになりたい』と考えていまして___」

    と、ここでひとつ大きく深呼吸をした。
    最後のセリフは決めていたが、また躊躇った。

    これだけ自分を愛してくれている両親や子供たちや孫たちの前で、人生の重大な発表をしなければならない。
    でも、このお祝いの席の雰囲気を壊してしまわないだろうか…
    せっかくの還暦と米寿のお祝いの席で、自分勝手な話で水を差すのではないか。
    いや、発表するのは今しかない。
    自分のこれからの人生を、この大切な家族にこそ最初に祝福してほしかった。

    そして最後の最後に取っておいた言葉を一音ずつ噛みしめるようにゆっくり話を続けた。

    「…実は…年内に…再婚…したいと思います!」

    「エーーーッ!!」

    すると、会場は一斉にどよめいた。

    動画撮影していた愛里が
    「びっくりー!びっくりー!」と連呼した。

    遂に言ってしまった。
    その瞬間、緊張が解れ、そのまま話を続けた。

    「現在付き合っている女性の方がおりまして、
     近くなったら皆さんのところにご挨拶に行こうと思ってますので
     その時は改めてよろしくお願いいたします」

    「よっ、拍手!
     楽しみだよー!紹介してくれー!
     早く挨拶したいよー」

    と、愛里が真っ先に祝福してくて、全員から拍手喝采を浴びた。

    締めの挨拶が終わって、隣に座っていた両親の顔を見ると、母・三千代は唖然とした顔をして、父・康雄は目を閉じて天井を仰いだ。

    「え?爺ちゃん達も知らなかったの?!」

    愛里が尋ねると、二人は大きく頷いた。
    その瞬間、康雄の目からポロポロと涙がこぼれ落ちた。
    それは、息子の波乱の40年を知る父だからこその、安堵と祝福の涙だったのかもしれない。
    隣にいた小1の悠那が、
    「康雄じぃちゃんどうしたの?」
    と顔をのぞき込みながら、小さな手でその涙を拭いてくれた。

    「はい。この件はサプライズということで
     今日のためにずっと秘密にしてました
    」

    「それでは最後になりますが、
     パパにとって還暦とは何ですか?」

    愛里からお約束の質問をされた。

    「還暦の今年は、人生の再スタートです」

    「よろしくお願いしますよ。
     はい。拍手!」

    再び家族みんなの拍手で還暦・米寿祝いはお開きとなった。

    「再婚おめでとうございます」
    と、長女や次女の旦那からも握手を求めらた。
    「ありがとうございます」

    三つ目の目出たい発表に興奮が冷めやらぬまま、全員会場の外に出た。
    それぞれの車に乗り込む際、

    「そう言えば、去年新しいパートナー探すって言ってたよね」
    「あとで彼女さんの写真送ってちょうだいね」
    と愛里と真那から声を掛けられた。

    ーーー2年間は再婚しない。『彼女』の席は空席にしておくーーー
    と離婚した仁美と約束した期限はきっちり守り、離婚成立して満2年経過した日に、「新しいパートナーを探す」と娘たちに宣言していた。

    「しかし、こんなに早くステキな人と出会えるとはパパ自身も信じられなかったよ。
     挨拶に行く日程をあとで連絡ちょうだいね」

    会場で解散したあと自宅に帰り、康雄と三千代にも彼女の写真を見せると、

    「優しそうな人だね」
    「早く会いたいね」
    と言って、二人は目を細めた。

     仁美の部屋のドアをノックした日の1986年から40年が経ち、荒波に揉まれ、幾度となく漂流し、沈没しかけた小舟は3年前の熟年離婚によって、ようやく静かな母港に辿り着き、60歳を迎えた。

    その節目の年にさらなる幸せを求めて、新しい伴侶と共に、穏やかな海への新たな船出となった。

    第41章   第43章

    第1章はこちらから

    #創作大賞2026 #恋愛小説部門

     
     
    舘徹人(タチ テツト)のち望月成人(モチヅキ ナリト)、 ところにより一時熊猫ジィジ🐼(クマネコ ジィジ)です。 2026年6月に還暦になり、5人の孫を持つシングル爺さんが いろんなジャンルで創作活動してます。

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