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【青橙ノ余白 | Bar青燈ノ記憶#13】ヨーグルト

    外の電気をつけたら、今日も店が開く。

    看板はない。
    でも、この店はこれでいいと思っている。

    Bar「青燈ノ記憶」。

    佐世保の四ヵ町アーケードを抜けて、三回くらい角を曲がった先の路地。
    説明するたびに遠くなる場所にある。

    中は薄暗い。
    というか、だいたい暗い。
    たぶん明るくする気がない。

    カウンターは4席。
    ボックス席が2つ。
    それだけ。

    あとは、DAZNを見るためのiPadと、
    壁に掛かったユニフォームが1枚。

    照山選手の48。

    今日は少しだけ湿った風が店の中へ流れ込んでいた。


    扉が開く。

    「こんばんは。」
    「いらっしゃいませ。」

    いつもの常連だった。

    氷をグラスへ落とす。

    カラン。

    「そういえば。」

    カエデが冷蔵庫を開ける。

    「今日は新メニューがあります。」
    「新メニュー?」

    常連が少し身を乗り出す。

    「何?」

    カエデは小さなガラスの器をカウンターへ置いた。

    「『青燈ヨーグルト』です。」

    白いヨーグルト。
    その上にはブルーベリー。
    そして、小さじ一杯ほどのマーマレード。

    常連はしばらく黙って見つめる。

    「……。」
    「どうしました?」
    「いや。」

    少し笑う。

    「本当に置くとは思わなかった。」
    「え?」
    「蛍に影響されすぎでしょ。」

    カエデは少し照れたように笑う。

    「だって、おいしそうだったんです。」
    「前に言ってたもんな。」
    「バーにも置こうかなって。」
    「冗談だと思ってた。」
    「私は割と本気でした。」
    「知ってた。」

    二人とも少し笑う。

    「ブルーベリーだけじゃなくて。」

    カエデが続ける。

    「マーマレードも入れてみました。」
    「なんで?」
    「青とオレンジだからです。」

    常連は思わず吹き出した。

    「そこまでいくと職業病だな。」
    「青燈ノ記憶ですから。」
    「名前に引っ張られてるだけじゃん。」
    「否定はしません。」

    カエデはスプーンを添えて差し出した。

    「よかったらどうぞ。」

    常連は一口食べる。

    少しだけ考える。

    「……うまい。」
    「でしょう?」

    カエデは少し得意そうに笑う。

    「でも。」
    「はい?」
    「酒を飲みに来て、最初にヨーグルト食べるとは思わなかった。」
    「健康的ですよ。」
    「そのあと酒飲むけどな。」
    「……細かいことは気にしないでください。」

    二人とも少し笑った。

    カエデも自分の分を一口食べる。
    好きな選手が好きだと言っていたものを食べてみる。

    理由なんて、それだけで十分だった。


    グラスの中身はまだ残っている。
    でも今日はもういい気がした。

    また明日、店が開くかは分からない。
    
たぶん開く。

    でも保証はない。

    ただ、電気がついていればそれでいい。

    Bar「青燈ノ記憶」は、今日も閉店する。


    ◆あとがき

    第7話で「バーにもヨーグルトを置いてみましょうか」と話していましたが、ついに本当に置いてしまいましたね(笑)。

    ブルーベリーは山口蛍選手の動画を見て、「これは絶対に入れないと」と思いました。

    そしてマーマレードは、カエデらしく青とオレンジをイメージして加えてみました。
    なかなか良い思いつきだと思うのですが、いかがでしょうか?

    好きな選手が「おいしい」と言っていたものを、自分も食べてみたくなる。

    そんな小さな影響も、応援の楽しさの一つなのかもしれません。

    ……それでは、また店の電気がついた夜に。

    最初の扉🚪
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    V・ファーレン長崎サポーター。記録に残らないものを、記憶に残す。たぶん万人受けはしない。それでも、あなたの「好き」になれたら。 観戦記だけど、観戦記じゃない。 90分とその余白を綴っています。 初めての方は「青橙ノ地図」からどうぞ。

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