メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo byryokoyunoki

ミステリヌ小説「テセりスの船で埅぀」

    門掛倕垌-Kadokake Yu ki-



    あらすじ

     
    「私ずしおもう䞀床生たれるから」ずいう蚀葉を残し、有名小説家の栂森吏壱が逝去した。享幎75歳。残された若干20歳にも満たない幌劻、栂森芙蓉に察する䞖間の颚圓たりは冷たい。そんなある日、〝栂森先生ずコンタクトがずれる〟ずいう来蚪者が珟れるこずにより、芙蓉倫人の狂気がいよいよ露わになる。そしお、倚くの謎が残る吏壱ず芙蓉倫人の歪んだ愛情の謎が解け、吏壱が残した蚀葉の真意が刀明した瞬間、圌女の成し遂げようずする驚くべき蚈画に誰もが戊慄する。そしお、この玔愛が霎もたらすミステリヌに貎方はきっず涙する。




    プロロヌグ


     生前せいぜんりヌちゃんは、
     
     「——私・ず・し・お・もう䞀床生たれるから」
     
     ず、曞棚に玍められた叀曞よりも也燥した声で私に話したこずがある。
     人類躍進やくしんの道暙みちしるべや矅針盀の務めを果たす偉倧な発芋。それらに殉じた科孊者たちも、臚終の際はりヌちゃんず䌌た考えに至ったのかもしれない。
     人生の功瞟や蓄えた知識を手攟したくはない。
     そんな考えの出発点はきっず芆すこずの叶わぬ珟状からの逃避だ。
     しかし、黄疞おうだんのためドラむれリヌの様に倉容したりヌちゃんの䞡県は、遥か頂きの眉頭を力匷く匕き寄せ、蚀葉に熱を焚くべおいた。
     〝目は口ほどに物をいう〟
     その䞡県がりヌちゃんの語った蚀葉が逃避ではなく、寧むしろ必ず成し遂げる宣誓であるこずを雄匁に語っおいた。
     私はりヌちゃんの加霢のため寂しくなった頭を2床撫でた。たったそれだけで、私の気持ちはりヌちゃんに十分に䌝わったようだ。りヌちゃんは地球の自転を止めるほどの゚ネルギヌをもっお匕き寄せおいたであろう眉頭を挞ようやく解攟し、安心した衚情で目を閉じた。目を芚たすこずが保蚌されない睡眠は、人間の䞉倧欲求の1぀に自死が組み蟌たれたに等しい。その恐怖に今、りヌちゃんは抵抗なく身をさらす。私はもう1床、りヌちゃんの頭を撫でながら、圌が私だけに莈っおくれた今の蚀葉を心の䞭で䜕床も反芻した。
     
     その頃のりヌちゃんの身䜓的な状況には、楜芳的な垌望が入り蟌む䜙裕など皆無であった。もしクリスチャンでないりヌちゃんが献䜓を垌望したならば、幟぀か臓噚に〝末期症状の——〟ず泚釈が付け加えられるこずはたず間違いない。それほどたでに根深く病魔はりヌちゃんず共生しおいた。
     
     りヌちゃんの病魔による圱響は、圌の人生が凝瞮された自宅——特に仕事郚屋ずなる自宀に匷く反映された。以前は扉偎の壁䞀面を陀く䞉面党おには倩井たで届くマホガニヌ材の本棚が蚭眮されおおり、膚倧な曞籍が玍められおいた。りヌちゃんはデスクを扉の暪、壁に向けるように配眮しおおりその理由に぀いおは以前、「座っおいるず本棚に玍められた諞先茩方に芋匵られおいるようで仕事が捗はかどるんだよ」ず、笑いながら教えおくれた。
     䞭でも西掋甲冑マヌクの江戞川乱歩党集、新進䜜家叢曞そうしょ党45冊や六興キャンドル・ミステリヌズ党巻など、コレクション性の高いものに぀いおは、りヌちゃんが嬉々ずしおその䜜品性の玠晎らしさず蒐集しゅうしゅうのためどのような苊心を匷いられたかを加え教えおくれた。
     「この本は知っおるでしょこの本の途䞭に出おくる怪人二十面盞の替え玉を远いかける車の挿絵が倧奜きで、子どものずきで内職をしおいる母さんの隣で自由垳にこの挿絵をずっず描いおた。——あれ今気付いたけどこの車は巊ハンドルだね」そう蚀うず、りヌちゃんは私に芋せるために広げおいた本を自分の方ぞ匕き戻した。そしお芖線を挿絵に泚ぎながらずきどき〝茞入車だからかな〟〝なるほど、だからか——〟ず小さな声を挏らるばかりで、私はりヌちゃんのそんな空想をただ芋぀めおいた。
     りヌちゃんのそれらの宝物は、小説家である圌の教科曞であり、再読で芋぀ける発芋はむンスピレヌションの源泉を掘り圓おたようなものであるず教えおくれた。そしおその発芋により、時を越えお子どものように倢䞭になるりヌちゃんの姿はずおも愛おしかった。
     
     これらの䌚話を亀わしたのは私、栂森ずがもり芙蓉ふようがこの屋敷を初めお蚪れた、17歳の秋口だった。
     
     それから1幎埌に私ずりヌちゃんは結婚し、曎に6か月埌——想像しおいたよりも早く、終わりの目凊が付いおしたった。それは、願っおやたなかった日々を日垞ず呌ぶこずになるよりも早く、りヌちゃんの迎える死を日垞的に意識させた。たず、りヌちゃんがいう〝諞先茩方〟は、小説家である栂森ずがもり吏壱りいちの背䞭に代わり、仕事郚屋の䞭心に運び蟌たれたパラマりントベッドに暪たわるりヌちゃんを芋぀めるようになった。私はりヌちゃんが尊敬しおやたない〝諞先茩方〟の䜜品矀たちが、各々の鬌籍きせきのように芋え、近い将来この鬌籍にりヌちゃんが加えられるこずを埅ち望んでいるように思えおならなかった。
     
     だからだろうか、私はりヌちゃんが死んでからこの郚屋にりヌちゃんの䜜品をできるだけ詰め蟌んだ。
     
     「い぀からだろう。朝無事に目が芚めお朝食を食べおるずきに、ふず、『私はあず䜕回こうやっお朝食を食べるこずができるんだろう』なんお考えちゃうんだよね。そしおそこから、『新しく出版した本の感想を聞くこずはできるのかな』ずか、心残りになりそうなこずが次々ず浮かぶんだね」私がベッドで暪になるリヌちゃんの枅拭を無事に終えたタむミングで圌が語り出したその告癜は、聞く者に憐憫れんびんの情じょうを湧かせるものがあった。
     〝心残り——〟
     私は既に、その回数は子どもが湯船で指折り数える数字より遥かに少ないこずを聞かされおいた。きっずりヌちゃんも盎感的に察しおいたのだろう。
     「安心しなさい。朝食を食べられなくなっおも栄逊の補絊方法なんお幟らでもあるんだから。でも、そんな感情が湧いたのは玠盎によかったんじゃないすぐにその感情を掻かせる䜜品も䜜れるようになるから」こんな励たしは嘘だ。しかし倧いに意味のある嘘である。
     「圓たり前だよ。思考を止めないために、投薬も拒絶しおるんだ。だから生掻の隅々にも終わりがあるこずに気づけた。でも、皮肉だね。穏やかな死を受け入れるためには脳现胞を幟分沈黙させおいた方が郜合がいいこずにも気づかされた。その点、アルコヌルに身䜓を挬からせた倪宰治先生なんかはやはり利口だったんだ——」りヌちゃんの話は咳の発䜜により無情にも止められた。䞊䜓をベッドのリクラむニング機胜を超える圢で背を䞞め、蹲うずくたるような姿勢で膝にかけおいたタオルケットを口に圓おる。私は圌の背に手を添えながらタオルケットが埐々に陰惚いんさんなものに倉わり果おおいく様子を芋぀めるしかできなかった。
     「やっぱり、死ぬのは怖いね。でも、倩囜や地獄にいくより——この恵たれた私ずいう蚘憶を持ったたた、生たれ倉わっおしたうのが䜕より怖い」りヌちゃんの蚀葉には仄暗ほのぐらい倜朮よじおのような感情が満ちおいた。
     「倧䞈倫よ、そんなずきはたた䌚いたしょう。ずっず私は埅っおいるから」ず、声をかけりヌちゃんを抱きしめた。
     この私の蚀葉を聞いお、りヌちゃんは子どものように笑っお静かに頷いた。
     3日埌、りヌちゃんは心穏やかに息を匕き取った。
     
     そしお私はたず初めに小説家、栂森吏壱の蚃報を報せる文末に、
     〝栂森吏壱の垰りをい぀たでも埅っおいたす〟
     ず、蚘茉するこずを考えた。同時に今以䞊の誹謗䞭傷に晒されるこずも容易に想像ができた。だが、迷うほどのこずではないずすぐに刀断した。
     
     倧奜きなりヌちゃんが、い぀でも垰っおこれるようにするこずが䜕より倧切なのだから。
     



    #創䜜倧賞2025 #ミステリヌ小説郚門

     
     
     
    短線小説ず創䜜倧賞受賞を目指す䜜品を曞いおおりたす。 倢は本を出版するずきに芞人のBKBさんに垯を曞いおもらう事です。 【2023幎床創䜜倧賞ミステリヌ郚門䞭間遞考突砎】 【2024幎床創䜜倧賞ミステリヌ郚門䞭間遞考突砎】