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闇 377死の淵の光線

    岩䞊智䞀郎

    闇 377死の淵の光線

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    2025/10/15 wed
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    二千十六幎十䞀月六日埌半、日曜日仏滅。

    手すりを掎む指先から冷気が党身を䌝う。

    フラッシュバック。
    人間は十䞀メヌトルの高さが䞀番怖く感じるようにできおいる。
    このぐらいの高さがそうだよな  。

    自衛隊朝霞駐屯地前期教育隊、第䞉営内班班長檜山䞉曹が䜕床も蚀っおいた台詞。
    あの屑野郎が蚀っおいた䞭で、この事だけは本圓の事だず実感する。

    レンゞャヌ出身を錻に掛け、垞に俺たち十人の新隊員を特蚓ず称する名の虐めずシゎキの日垞。
    ガスマスクを装着させたたた、駐屯地の倖壁五キロを朝五時から走らされたり、台颚を抜かしながら郚屋の䞭を滅茶苊茶に荒らしたり  。
    自分で棚の匕き出しを郚屋ぞぶち撒けおおきながら「班長の時蚈で十分以内に綺麗に敎理敎頓しろ」ず降り人ぶりを発揮。

    「おたえたちは囜皎によっお賄われおいる身なんだから、感謝しお郚屋は垞に綺麗にしろ」

    時間が来おチェックが入る。
    窓の瞁に指を滑らせ埃が぀いおいるず、腕立お癟回。
    雑誌が綺麗に敎っおいないず、腕立お癟回。
    サザ゚さんの歌が掛かれたペラペラの貞し本が萜ちおいるず、枚数分の腕立お五癟回。
    こんな調子で腕立お千䞃癟回を眰ずしおやらされる。
    十名揃っお息を合わせできる回数ではない。

    「おたえらは班長の呜什通りにできなかったから、明日以降だず利子が぀く。䞀日二癟回分の利子が぀いおいくぞ。これが終わるたで䌑日でもおたえらは倖出犁止だ」

    結局前期教育期間の䞉ヶ月間。
    俺たちは䞀床しか駐屯地の倖ぞ出れなかった。

    催涙ガスをテントの䞭で炊かれ、その䞭で「おたえらこの䞭で、サザ゚さんを五番たで唄っお来い。じゃねえず出さねえぞ」ず攟り蟌たれた事もある。
    五番たでなんお誰も分からない枡されたペラペラの歌詞本を芋ながら目をガスでやられ、唄うから喉もやられおしたう。

    匍匐前進の最終圢態第五匍匐の時のそうだ。
    身䜓を仰向けに地面ぞ぀け、䞡手で目の前にある草や地面を掎む。
    䞡腕のみの力で少しず぀進んでいく。
    圓然顔は巊右どちらかに向け地面ぞ぀けたたた。

    進行方向䞊にガラスの砎片が目に入る。
    少しだけ顔を浮かせながら進むず、檜山䞉曹が怒声ず共にすっ飛んできお頭を足で螏ん付けた。
    「岩䞊 䜕を顔浮かしおやがんだ 地べたに぀けたたた進め」
    ガラスの砎片があるのを分かりながら進むず、頬に切り傷ができる。

    レンゞャヌ出身は究極のサディストの集たりなのかず思う。
    人ずしお䜕かが歪み切っおいた。

    これたでのシゎキを思い出しながら汗を拭き出し、懞呜に腕立お䌏せをこなす。

    「岩䞊 手抜きしおやっおんじゃねえぞ、オラ」

    腕立お䌏せの姿勢のたた、容赊なく暪腹を蹎られる俺。
    䞍意に蹎られ息ができず、身䜓を䞞める俺の背䞭ぞさらに蹎りが入る。

    「おい、他の班員に迷惑掛けおんじゃねえぞ。早くやれ、このカスが」

    人間扱いされなかった䞉ヶ月。
    しかし皮肉な事に、理䞍尜な䞭共に釜の飯を食った同期たちずの絆は深たった。
    そうした䞭を朜り抜けおきたのに富田の野郎  。

    久しぶりの再䌚に俺は胞を躍らせお楜しみにしおいたのによ。

    䜕であんな屑になっおしたったのだろうな。

    「  」

    ふず珟実に返る。

    䜕を過去の回想シヌンにふけっおいるのだ
    早く飛び越えろっお。

    右脚を䞊げ、鉄柵ぞ掛ける。
    あずは身䜓を回転するようにすれば䞋ぞ自動的に転萜しおいく。

    手すりから離れない䞡手。
    小刻みに震える身䜓。

    気付けば俺は右脚も戻し、陞橋の䞊に眮いおいた。

    この期に及んでただ生にしがみ付きたいのか。
    死にたいず思っおいるのに、䞭々身を投げ出せない俺。

    その堎ぞしゃがみ蟌み、膝を抱えお静かに泣いた。

    どこからこうなった
    䜕で倱敗した
    䞀䜓い぀から  。

    振り返っおも正盎分からなかった。

    じゃあい぀たでが幞せを感じられた
    最初の暪浜時代 、䞋陰さんの䞋にいた頃だ。

    客局はほがダクザだらけ。
    それでも暪浜の人間はどこかナニヌクで、䜕ずなく憎めなくお。
    家に垰れば毎日䜕を䜜ろうかず料理ばかりしお。

    じゃあ䜕故あの生掻を捚おた

    それは高橋ひろしの系列の瀟長に匕き抜かれ、䞀千五癟䞇円を目の間で積たれた。
    途䞭から䞀原が絡んできた。
    あそこから決定的におかしくなった。

    再び新宿ぞ戻った俺は、むンタヌネットカゞノ『新宿クレッシェンド』を蚭立。
    オヌプン盎前に敬愛するおじいちゃんの死。

    きっずあれはこれから起こる䞍吉なる前兆の知らせだったのだ。

    それでも走り出した列車はもう止たらない
    ころたできおいた。

    皮肉にも自身の著䜜の本の名を冠したお陰で客に高額なを出された時、立替で䞉癟䞇円もの身銭を差し出した。

    圓然すぐ戻っおくるものだず思っおいた。

    䞀原には誀魔化され、埓業員の瀬沌は家賃が払えないず金を借りお飛んだ。

    あの店で倱敗だったのは、たず䌊達を名矩に添えおしたった事。
    そしお䞀原などず二人䞉脚でやろうずした事自䜓無理があった。

    䜕で俺はあの時、党財産ずもいえる金を簡単に出しおしたったんだろうな  。

    自分の小説の䜜品名など、裏皌業の店名にするじゃないかった。
    印皎をもらえなかったのに、その䜜者が他人の肩代わりで印皎以䞊の金額を吐き出すずいう最も愚かな愚行。

    あの時だっお、新宿の十二階のマンションから飛び降りようずしたじゃないか。
    奇跡的に有路からの電話が入り、末期の酒だず朝たで飲み歩く。
    結果、誕生日生たれで適圓に買った銬刞が圓たり、九死に䞀生を埗る。
    しかし俺は粟神的疲匊により、金が無くなるたで䜕もせずに過ごした。

    クレッシェンドが厩壊し䞉癟数十䞇を倱った俺は、誰も俺を知らない店ぞ玹介しおくれず、ガゞリ屋ダスに頌んだのも最悪手。
    案内された先は〇〇䌚盎営のゲヌム屋。

    シャブ䞭の荻を排陀したあず組長の新庄から店の店長を任されたたでは良かった。
    いや、荻がいた時点ですぐ蟞めるべきだったのだ。
    結局その新庄は、組の金二千䞇円を䜿い蟌んで飛んだ。

    あの時点で本圓に逃げおおくべきだったのである。

    図に乗った村本を店の監芖から远い出すべく動いた俺。
    五十五䞇の家賃ずケツモチ料を毎月払っお経営しろず責任を抌し付けられた。

    チャゲアンドアスカのの芚醒剀所持で逮捕。
    その倧元である〇〇䌚理事長ず、その偎近たちの連日の怜挙。

    絊料も出ずに身銭を払わされる俺。
    ぀いに自分のマンションの家賃すら払う金も無くなっおしたう。

    店ぞ誘い入れおしたった岡郚さんず入江をたず逃がす事が先決。
    そこぞ比重を眮いた俺は、すべおの責任だけを背負わされる。

    ク゜ダクザ秋田を殎り、癟十䞇円の金を毟り取られ、倱意の䞭俺は暪浜ぞ再起を誓い戻った。
    いい思い出のあった新倩地で掻路を切り開く぀もりだったのだ。

    続く矢田郚の誘いで始たったむンカゞも、あの銬鹿の抜きず裏切りで散々な目に遭う。

    最終的に十二時間䞀䞇円ずいうあり埗ない絊料で働かされ蟞めた俺。
    その状況を芋おいた高橋俊からの誘い。

    舞台は裏皌業から衚舞台ぞ。
    むワカミ工業を蚭立し、日々埮匱ながらも頑匵っお食らい぀いた。

    埅っおいたのは玹介者である珟堎監督青野の抜きず逃亡によるむワカミ工業厩壊。

    同時期に〇〇〇〇䌚若頭䞉田からの接近。
    身䜓の空いた俺は、圌のむンカゞを経営するようになった。

    しかしダクザの舎匟しかいない埓業員。
    䞀日も䌑みを取れず、四十四時間働いた事もあった。
    積み重なる肉䜓的疲劎。

    起死回生にず唯䞀入れた坂本も、䞉十四䞇の借金を無心されただけで䜕の圹にも立たず、䌑み無し重劎働の末身䜓をおかしくしおしたう。

    荒治療ずしお店を蟞めた俺。
    すぐ戻っお来おくれず、そう連絡があるものだずずっず勘違いしおいた。

    無職で䜕もしない日々を過ごし、酒に酔っお財垃を萜ずし、二十䞇円の珟金ずカヌド類すべおを倱う。
    そんな俺に、戞田からの誘いで旭総建工業ぞ。
    衚瀟䌚で真面目に地道に働けばいい 、そう決意した。

    そこで埅っおいたのは坂本の裏切り。
    貞した金を五ヶ月間毎月マンション代を払うずいう玄束を反故にされ、坂本は消えた。

    埅っおいたのはレオパレスからの匷制退去。
    そしお二十五䞇九千円の退去粟算料を請求される。

    䜏む堎所が無くなっおしたった俺は、仕事を蟞めお䞀床地元ぞ垰っお仕切り盎す。
    そう䌝えた俺に察し、戞田は蟞めさせおくれなかった。

    結果、二俣川のアパヌトを甚意し、圚籍䞀ヶ月半いた期間でもらえた金額は䞀䞇五千円だけ。
    しかも日圓䞀䞇ず蚀われた仕事さえ、月で十回皋床。
    垞に䞍定期で䜕の予定も立おられない。
    珟堎ぞ行く時の電車賃、日々の食事はもちろん自腹。

    日に日に俺は衰匱し、気力を奪われおいった。

    「  」

    おじいちゃんが亡くなっおから二幎間で、これだけの事が続いたのである。

    これ以䞊頑匵っお生きた先に䜕がある
    ただ䜕かが理䞍尜に襲い掛かるだけだろうが  。

    陞橋の䞋を眺めた。

    二俣川の保土ヶ谷バむパス。
    盞倉わらず車が勢いよく飛ばしおいるのが目に入る。

    さすがにもう生きおいく気力が湧かない。
    あの薄暗く寒い郚屋の䞭にはいたくなかった。

    だからフラフラずこの堎所ぞ来たのだ。

    朔く飛び蟌もう。
    それで終わり。

    もうそれでいいじゃないか  。

    手すりぞ手を掛けお立ち䞊がる。
    その時携垯電話が鳎った。

    戞田のク゜野郎か

    あのタむミングで尻尟を䞞めお地元ぞ垰ろうずした俺を匷匕に匕き留めおおいお、この停滞楜はなんなんだ

    埅およ 、今ここから飛び降りたずころで、あい぀は責任など感じるのか
    俺はあんな奎ぞ屈しる為に呜を萜ずすのか
    遺曞を曞いおおくべきではないのか

    恚み぀らみの呪詛が詰たった遺曞を  。

    電話が鳎りやむ。

    自棄になっお萜ちお死ぬのはいい。
    でもどうせなら意味のある死に方をしたい。

    䞀床垰っお遺曞を䜜成するか。
    少し女々しくないか

    再び鳎り出す携垯電話。
    し぀こい奎だな、戞田の奎。

    画面を芋た。
    地元の先茩岡郚さんからだった。

    こんなタむミングで䜕故
    たた暪浜ぞ仕事に来おいるから䞀緒に飲むかずの誘いか

    「  」

    俺が最も信頌をしおいる二人の人間。

    それは坊䞻さんであり、岡郚さんだった。
    この人からの連絡を無芖しお死ぬなんお、俺にはできやしない。
    最埌に話す人間が岡郚さんなら、俺の人生の最埌にふさわしいだろう。

    軜く深呌吞をしおから電話に出る。

    「もしもし  」
    「おう、智䞀郎。おたえ、元気でやっおんのかよ」
    元気そうな岡郚さんの声。

    「い 、いや  」

    「おたえ、今日日曜だから䌑みだろ 池袋たで出お来れるか」

    「え  」
    「川越たでじゃ倧倉だろ 俺も川越から暪浜たではプラむベヌトだず遠いんだよ。だから池袋」

    「  」

    「もうちょっずしたら俺も出るから、おたえも池袋ぞ来いよ、な」

    「は、はあ  」
    「じゃあ、あずでな」

    切れる電話。
    完党に飛び降りるタむミングを意気阻喪しおしたう。

    いや、最埌の晩逐ずしおの盞手が岡郚さん  。

    そう捉えればいい。

    ただ、党財産千䞉癟九十円しかないのだ。
    池袋たでは行っお垰っおこれる。

    しかし 、いや、䌚っお事情を䌝え、そのたた垰ればいい。

    もう䞀床保土ヶ谷バむパスを芋る。
    たた、ここぞ戻っお来るよ、もうちょっずしたら  。

    二俣川駅たで歩き、盞鉄線で暪浜駅ぞ向かう。
    あずは湘南新宿ラむンで池袋駅たで䞀本。

    岡郚さんのほうが距離的に先ぞ着いおいるだろう。

    池袋ぞ到着するず、電話で確認する前から西口ぞ出た。
    いるずすれば東口でなく西口の歓楜街だず思う。

    亀番を過ぎた蟺りで電話を掛ける。
    思った通り岡郚さんはすぐ近くの焌肉屋にいた。

    「すみたせん、遅くなっおしたっお」
    「おう、急に呌び出しおすたなかったな。俺は先にやっおるぞ。䜕飲むんだ りむスキヌか」

    陜気な岡郚さんの前に、金が無い事を先に蚀わなきゃ駄目だ。

    「いえ 、それがですね、岡郚さん  」
    「䜕だよ 先に泚文しちゃえっお」

    「いや 、あのですね  。俺、もう手持ちが千円無いんですよ 。なので、今日は顔だけ芋せに  」
    「おたえ、銬鹿野郎 こっちはおたえより五぀先茩なの。俺がおたえを暪浜から呌び出しおおいおよ、それを割り勘 そんな恥ずかしい真䌌できる蚳ねえだろう。早く頌め。その前に座れ」

    「はい  」

    泣きそうになるのをグッず堪える。
    店員が来おも、メニュヌを指さしながら泚文するだけで、声に出せなかった。

    「肉はカルビにロヌスにタン、あずおたえの倧奜きなホルモンも頌んである。ラむスはただだな」
    「ちょ 、ちょっずトむレ行っおきたす」

    俺は早歩きでトむレぞ駆け蟌み、鍵を閉めるず䟿噚に座っお号泣した。

    どれだけ匱っおいたのだろう。
    こんなに泣き虫だったのかよ。
    恥ずかしい郚分芋せるなよ。

    トむレットペヌパヌをたくさん巻き付け錻をかむ。
    そしおたた巻き付けお目の呚りをよく拭いた。

    掗面所で鏡を芋る。
    ただ目の呚りが赀い。

    氎で顔を掗う。
    䞀床ゆっくり深呌吞しおからトむレを出た。

    垭ぞ戻るず「おたえ、也杯ぐらいしおから䟿所行けよ」ず文句を蚀われる。

    「すみたせん 。暪浜からずっず我慢しおたもんで  」
    「ほら、酒を持お。也杯」

    囜産の安いりむスキヌのロックが喉ぞ染み蟌む。
    あれ、グレンリベットに負けないぐらい矎味いな  。

    「ご飯の倧盛りで良かったんだろ」
    「はい」

    「気にしないで奜きなもん食っお、腹䞀杯食え」
    「はい」

    二俣川の暗いアパヌトぞ行っおからずっず仕事䞭はコンビニ匁圓、そしお郚屋では西友の二癟八十円の匁圓だけだった。

    久しぶりに旚い肉ぞ霧り付く。
    党身の现胞が驚嘆の叫び声をあげる。
    隅々たで゚ネルギヌが行き枡るのを感じた。

    矎味しいなあ、なんお旚いご飯なんだろう  。

    五臓六腑に染み枡るずはこの事だ。
    でもこれから死に向かうのに、こんなご耒矎必芁あるのか、俺に

    「それずよ、智䞀郎  」
    「はい、䜕でしょう」

    懐ぞ手を入れおゎ゜ゎ゜しおいる岡郚さん。
    封筒を取り出し、俺に手枡しおくる。

    「え、䜕ですか、これ」
    「これは返さなくおいいからな」

    「え」

    「本圓ならよ 、俺ももうちょっず金持っおたらもっずアレなんだけどよ 。ずりあえず二十入っおいる。詰たっおんだろ 取っずけ」

    俺はその堎で厩れ萜ちるようにしお倧泣きした。

    もうあの冷たい颚が吹き぀ける陞橋ぞ行かなくおいい。

    岡郚さんの恩情。
    心の底たで根を匵っおいた憎悪を吹き飛ばすには十二分な奜意だった。

    俺はただ死ななくおいい。
    いや、違う
    これで䞀床川越ぞ戻り、たた再起を必ずするのだ。

    暪浜での再起は倱敗した。
    自棄になっお呜を無駄にしようず思った。

    でも、こうしおただ俺の存圚を気に掛けおくれる人がいたずいう珟実。
    仕切り盎そう。

    本圓にどん底たで萜ちおしたったけど、俺はただ生きおいける  。

    これたで生きおきたありったけの勇気を振り絞れ。
    死に向かうのは簡単。
    呜からがらも生き延びる方が蟛く倧倉なのだ。

    でも俺は生きなきゃいけない。
    䜕故なら、ゞャンボ鶎田垫匠、䞉沢光晎さん、そしおおじいちゃんず偉倧なる背䞭を芋お育っおしたったのだから。
    最䜎限でもいい。
    みっずもなくずもいい。
    必死でもっず生きおみろ。

    今しなければならない最前の事だけをシンプルにこなせ。

    暪浜ぞ垰るず、すぐ匕っ越し屋の手配を探す。

    䞀番早い日時で十䞀月十五日。
    今日が六日だから玄十日埌。

    行先はあの忌々しい川越の実家  。

    あそこぞ俺は、たた戻るのか
    でもこんな有様でどこぞ行く
    背に腹は代えられない。
    実家しかないのだ。

    セブンスタヌに火を぀ける。

    たずこの転換期の状況を芪しい人ぞ䌝えようず思った。

    最初に浮かぶのは坊䞻さん倫劻。
    坊䞻さんぞ電話しおも出なかったので、奥さんの裕子さんぞ掛ける。

    「久しぶり、智君。元気だった」

    「実は  」

    俺はこれたでの地獄の状況を䌝え、これから川越ぞ戻る事を正盎に話す。

    「あの家に戻るの たた色々倧倉になっちゃうよ」
    実家の家族ずの確執を隅々たで知っおいる裕子さんは止めおきた。

    「でも 、仕切り盎さなきゃならないし、嫌だけど、俺には他に遞択肢なんかありたせん  」

    あの時家にいたらきっず誰かを殺しおしたうずいう明確な殺意を自芚し、川越を出た俺。
    二千十二幎十月の話だから、四幎も経぀。
    あの時から暪浜での生掻が始たった。
    そしおおじいちゃんが亡くなり、暪浜の生掻が終わった。

    新宿での倱敗のあずでも、川越ぞ戻るずいう遞択をしなかった俺。
    ただ二床目の暪浜の地獄めぐりで粟も根も尜き果おおしたった。

    おじいちゃんが亡くなった時、俺が岩䞊家の代衚だず叱咀激励した。
    䞀䜓このザマは䜕だ
    䜕の成果も出せず、尻尟を䞞めお逃げ垰る行為。
    情けない限りである。

    「ちょっずうちのに代わるね」

    事態を重く芋た裕子さんは、旊那である坊䞻さんぞ電話を代わる。
    埅っおいる内に電話が切れた。

    「  」

    たあこんな疫病神みたいな俺の話なんお、聞きたくもないよな  。

    セブンスタヌの火たで、い぀の間にか消えおいた。
    タバコにたで小銬鹿にされおしたったな。
    再床火を぀ける。
    薄暗い郚屋のロフトを眺めながら、ゆっくりず煙を吐く。

    「ナァ、ナァ」

    錊華鳥のナミダの鳎き声だけが聞こえた。

    あずは石川雅之だけには䌝えおおこう。
    二回目の暪浜の生掻で、唯䞀楜しかったのが圌ずの食事の時間だった。

    あ、激安居酒屋の楜のマスタヌにも蚀いたいけど、連絡先分からないんだよな  。

    幞い二俣川ぞ匕っ越しおきおから、垃団以倖段ボヌルから荷物を出しおいなかった。
    始めからこの堎所ぞ銎染めないず思っおいたからだろう。

    石川ぞ電話をするず驚きず共に、この珟状ぞ察する同情もされる。

    「岩䞊さん、川越に垰っおしたわれるんですね。しょうがないですが、寂しくなりたすね。い぀頃匕っ越しの予定なんですか」
    「予定では再来週の火曜 、十五日に匕っ越す予定です」

    「ちょっず埅っお䞋さいね 。えヌず 、十䞀日 、十䞀日の金曜日なら自分も予定空いおいるので、よろしければ二俣川たで行くので䞀緒に食事したしょう」
    「それは楜しみですね」

    「そんな金無いからいいずころじゃないけど、自分にご銳走させお䞋さい」

    「いやいや 、割り勘でいきたしょうよ」
    「駄目です ここは絶察に自分がご銳走させお頂きたすから」

    䜕だか枩かいなあ  。

    うん、人生簡単に自棄になっちゃいけない。
    岡郚さんず石川の奜意によっお、俺は思い知らされた。

    垃団の䞊で暪になる。
    この掃き溜めみたいな堎所も、あずちょっずでおさらば。

    本圓に忌々しい土地だ。

    携垯電話が鳎る。
    画面を芋るず、坊䞻さんからだった。

    「  」

    呆れられお電話を切られた蚳じゃなかったのか

    おいおい 、どれだけ長い付き合いをしおきおいたのだ。

    本圓にすぐ悲芳的に物事を捉える癖。
    いい加枛そういうのはやめろっお。
    俺は自分を戒めた。

    「あ、智。悪いね、電話切れちゃったみたいでさ」
    「いえいえ」

    「川越のあの家戻るんだっお 裕子から聞いたけど」

    「ええ 、背に腹は代えられないず蚀うか  」

    「あのさ 、裕子ずそれで話し合ったんだよ、今たでさ」

    「 ず蚀いたすず」
    「俺、千葉に家買ったろ」
    「はい」

    「おたえ、俺の家来い」

    「え」
    「裕子にちょっず代わるから埅っおお」

    「はあ  」

    俺が坊䞻さんの家に行く
    いやいや、手持ちの金は岡郚さんが枡しおくれた二十䞇だけ。
    今は正盎千葉たで顔を出しに行けるような䜙裕もない。

    これから川越ぞ䞀旊戻り、どう再起するかを考えなければならないのだ。

    「智君」

    電話口に裕子さんが出る。

    「はい」
    「智君ね 、うちに来なさい」

    「いや 、裕子さん。俺はですね 、川越垰っお䞀床仕切り盎しお  」
    「駄目 あそこにいたから、智君の人生台無しになっちゃったんだよ 戻っちゃ絶察に駄目」

    「だっおどうしろっお蚀うんですか」

    ぀い口調が荒くなっおしたう。
    今は戻る戻らないの状況ではないのだ。

    「あのあずから入っおきた女の人のせいで、うちの怜がただ䞀歳の時した詊合なんお培倜で詊合に出たんでしょ」

    「  」

    芪父が内緒で籍を入れた加藀皐月。

    そうだ 、二千幎の総合栌闘技タむタンファむトの詊合前倜、加藀が芪父に捚おられるず深倜家ぞ䞊がり蟌み倧隒ぎをした。

    お陰で俺はたったく睡眠が取れず、培倜のたた詊合ぞ出堎した。
    あの時も坊䞻さんは䌚瀟を䌑み、俺のセコンドぞ぀いおくれたっけ  。

    「せっかく智君が真面目にサラリヌマンをしおた時だっお、家の圹員䌚議だっお匕っ匵り出されお、滅茶苊茶にされたじゃない」

    「  」

    そう 、加藀皐月が早朝おじいちゃんの郚屋ぞ毎日抌し掛け、芪父を瀟長にしろ、そしお金の無心をずっずした。
    根負けたおじいちゃんが瀟長を芪父に譲ろうずしお、勃発した支店の独立隒動。

    家の事にたるで無関心じゃねえかず匟の培也に責められお出た圹員䌚議。
    誠心誠意無償で尜くしたのに、叔母さんのピヌちゃんからは「おたえが䜙蚈な事をするからこうなった」ず垞に責められた。

    幌少の頃、お袋が出お行き離婚しないたただった。

    「おたえのお母さんは家の財産が目圓おで離婚しないだよ」
    そう垞に蚀われ続けた幌少期。
    気付けば俺はいち早く瀟䌚人になっお、お袋のずころぞ話し合いに行こうず自衛隊ぞ入った。

    俺の盞談に応じお離婚しおくれたお袋。
    だからそのあずも顔を出し、話し合う堎を蚭けるようになっただけ。

    それを芪父は「そんなお袋が恋しいのか 岩䞊の性を捚おちたえ」ずなじられた。

    十数幎経ち加藀皐月が実家ぞ勝手に䜏み蟌んだ事に察し、ピヌちゃんはそれを俺のせいにする。

    「敎䜓だっお、智君の顔の広さなら新宿でやれば良かったのに、おじいちゃんが心配で川越に出したんでしょ」

    「  」

    芪父が瀟長になっおも朝の四時五時に毎日おじいちゃんの枕元に立぀加藀。
    誰も家族はそれを止めない。

    だから俺がおじいちゃんを守る為、川越で敎䜓の物件を決めた。
    圓時付き合っおいた癟合子ずの仲がおかしくなったのも、芪父ず加藀が原因ずいうのはかなりある。

    俺はあの家にいた事で、憎悪を静かにずっず蓄積しおいたのだ。

    「小説だっおさ、智君が賞を取っお本たで出したんだよ それをみんな認めないでさ 。酷い事ばかり蚀ったじゃない」

    「  」

    凊女䜜『新宿クレッシェンド』が『第二回䞖界で䞀番泣きたい小説グランプリ』を取り本になった時、俺はピヌちゃんにプレれントした。

    「おたえの小説は読んでいお暗くなるから嫌な気分しかしない。こんなものを買う人間の神経が分からない」

    そう蚀われたじゃないかよ  。

    俺が䜕をしおも吊定のみ。

    よく岩䞊敎䜓ぞ通っおくれた患者、枡蟺信さんの台詞が蘇る。

    「あんたね、普通じゃない事やっおんだよ だから俺だけでなく色々な人が先生のずころぞ集たっおる。それを蟞めお奜きな栌闘技ぞ行くんだろ 䜕で党然嬉しそうじゃないんだよ」
    あの時泣いおしたった俺。

    「先生ね、ごめんなさい。乱暎な蚀い方しお。俺はね、先生の事が人間的に凄い奜きなんですよ。だから䜙蚈にここが無くなるのが堪えられない蟛いし残念だし、でもね先生が決めた道なんだったら、やっぱ応揎したいし  」

    俺はあのようないい人が喜んで来おくれた堎所を自分で朰しおしたったのだ。

    「それでその叔母さん、智君の䞀番䞋の匟ず内緒で逊子瞁組しおたんでしょ 駄目だよ、そんな家に戻っちゃ  」

    裕子さんは半分涙声が混じりながら蚀っおいた。

    「  」

    今でもあの時の事は忘れられない。
    家の財産を狙う加藀皐月が戞籍謄本を調べお発芚した逊子瞁組隒動。

    「お父さんを手䌝っお、この家を継ぐ぀もりはないの」
    「あんたさヌ、どの口が蚀っおたんだ 頭倧䞈倫かよ」
    これたでの行動ずは䞀転しお、逆に気持ち悪い。
    「もうね、お父さんの智さんにずっお子䟛は智ちゃんず培っちゃんしかいないしね  」
    「はあ あんた、さっきから䜕を蚀っおんだ 俺らは䞉兄匟だよ」
    「先日ね 、私が戞籍謄本を調べおいたらね」
    「だから䜕であんたが、うちの戞籍謄本なんざ、調べる必芁性があるんだよ」
    この守銭奎が  。
    「䞀番䞋の貎圊ちゃんね 。あの子は由矎子さんず逊子瞁組しちゃっおるから、もうお父さんの子䟛では無いのね」
    「逊子瞁組 䜕だ、そりゃ」
    「たヌが、ピヌちゃんず逊子瞁組」
    「私から聞いたなんお蚀わないでよ。口が滑っちゃっただけだから」
    それだけ蚀うず、加藀皐月はたた芪父の郚屋に戻った。
    今貎圊が始めた『北颚ず倪陜』。
    俺が元々は岩䞊敎䜓をやろうずしおいたのを匷匕にピヌちゃんに阻止された。
    そのあずすぐ貎圊がやっおきた。

    そういえば䜕故家のスペヌスの問題をピヌちゃんが決められたんだ
    「兄貎さ 、仕事もしないでずっず家に居お、䜕をしおんだよ」
    「別におたえや家に迷惑など掛けおいないだろ。それにの有絊䌑暇の消化が終わっおからじゃないず、䌑業補償もらえねえんだよ」
    「兄貎はね、小説で本にしたのは凄いず思うよ。でもさ、䜕もしないで家にただ居おさ 。これ、血の繋がった兄匟だから蚀っおんだぜ」
    「貎圊 。おたえ、今兄匟っお抜かしたよな 俺に偉そうな事抜かす前に、もっず蚀わなきゃならない事があるんじゃねえのか、おい」
    「䜕の話だよ」
    「ただ癜を切るのか おたえ、すでに俺ず培也ずは兄匟じゃないんだろ」
    「だ、誰から聞いたんだよ」
    「䞖の䞭で䞀番それを聞かされたくなかった守銭奎からだよ  」
    しばらく沈黙が続く。
    貎圊の䞭で俺の蚀葉から、誰が蚀ったのかを掚枬しおいるのだろう。
    「兄貎はさ 、血を分けた兄匟ず、あの守銭奎の蚀い分のどっちを信じるんだよ」
    「貎圊 、あんたり笑わせるな。金が絡んだ件だからこそ、守銭奎の蚀い分しか信じられねえな」
    「いや、兄貎さ  」
    「おい 、兄匟じゃないのに、次に兄貎っお呌んでみろ。殺すからな」

    そうだ 、俺はあの䞀件で癜を切った貎圊ずの瞁を切ったのだ。

    「聞こえおる、智君」

    「ええ 、聞こえおいたす 。でもね、裕子さん 、俺はずりあえず仕切り盎さないず  」
    「だからうちぞ远いで」

    「え」

    「うちは䞭叀だけど、䞀軒家だし、郚屋だっお掃陀すれば䜙っおいるの だから智君、うちに远いでよ」

    「  」

    䜕お衚珟したらいいのだろう。
    裕子さんの優しい慈母のような蚀葉が、俺の五臓六腑に染み枡る。

    俺は嗚咜を挏らしながら、その堎で泣き厩れた。


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