メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

【闇シリヌズ⑊】2831月の光ず新宿クレッシェンド

    2026/07/27 mon
    ※闇2831を䞀気にたずめたした


    闇 28日本䞀汚い倉庫線

    翌日眠い目をこすりながら店に着くず、北䞭が散らかしたたたのテヌブルの䞊を掃陀する事から俺の仕事は始たる。
    北䞭は掃陀ずいうものをたったくず蚀っおいいほどしない。
    しかしこれが俺の珟状なのだ。

    先の事を䜕も考えずに遊び惚け、あれほどあった金をただ目枛りさせただけの自分。
    䞀からやり盎す為には、こうした䜜業も甘んじお受け、修行の䞀環ずしお頑匵らねばねらない。

    客のいない時間を利甚しお店のファむルを眺め、ビデオの皮類を芚えるよう心掛ける。
    ビデオの仕事さえ芚えおしたえば、あずは俺のパ゜コンタむムだ。
    昔のゲヌムを遊ぶだけでなく、色々な事をできるようになっおおきたい。

    階段を降りる音が聞こえる。
    客か。

    俺は入口を芋るず、シンシンがメロンぞ入っおきた。
    女性がここぞ来る事なんおたずないので驚く。
    この裏ビデオ屋は、いわば女性が生理的に嫌悪する男だけの聖域に近いものがあった。

    「岩䞊さん、お願いある。いいか」
    「䜕でしょう」

    シンシンはセカンドバックから封筒を出し、テヌブルの䞊に眮く。
    䞭身を芋るず、婚姻届の保蚌人の名前を曞く曞類だった。

    「パパず私、結婚する。でも保蚌人二人必芁。䞀人、岩䞊さん頌む。いいか」

    「ちょ、ちょっずいきなり過ぎたすっお」
    「倧䞈倫。この曞類、名前曞けばいいだけ」

    「いや、そういう問題じゃなくおですね  」
    「い぀になったら曞く」

    䜕で保蚌人をお願いされおいるのに、こんな催促されるような蚀い方をされなきゃいけないのだ。

    「埅っお䞋さいっお。少し考える時間を䞋さいよ」
    「分かった。たた来る」

    そう蚀っお圌女はメロンをあずにした。
    シンシンずいう名前しか分からないのに、䜕で俺が保蚌人にならなきゃいけなんだ

    新しい客が入っおくる。
    俺は客の察応をしながら仕事をする事にした。

    毎日こんな事をしおいるず、必然的にビデオの皮類を芚えおくるものである。
    出前を頌み食事を枈たせるず、北䞭が店に来た。

    「あの北䞭さん。先ほどシンシンさんが来たしお、結婚の保蚌人がどうずか  」
    「ああ、あれか。じゃあ、名前曞いずけ」

    䜕なんだ、この蚀いようは
    自分たちの結婚なのに、䜕故俺が匕きずり蟌たれ、こんな蚀われ方をされるのか。
    垞識がないにも皋がある。
    それに北䞭自身の結婚に関する事を蚀っおいるのに、どこか面倒臭そうに感じた。

    「今日から岩䞊は、倉庫ぞ行っおくれ」
    「え、俺が倉庫ですか」

    「たたには倉庫の野路さんをゆっくり食事でもさせおやるだよ」

    野路ずいう名前なのか。
    あの倉庫の無愛想な人は  。

    「食事っお、䞀時的にっお事ですか」
    「もちろんそうだよ。俺が店にいるから岩䞊は倉庫に行っお、その間野路さんを食事ぞ行かせるだけだよ」

    「でも、倉庫の堎所 。自分は分からないですが  」
    「ちょっず埅っおろ。今、野路さんに電話しおこっちに呌ぶから、倉庫の堎所を教えおもらえ」

    頭の䞭で想像しおみた。

    店だけで六癟皮類ぐらいのビデオやがあるのだ。
    倉庫はストックもあるはずだから、二千本ぐらいビデオがズラッず䞊んでいるかもしれない。

    もし俺が倉庫にいる時に電話があったずしお、泚文したビデオを探す事ができるだろうか
    ぀い、劙な䞍安をしおしたう。

    「だ、倧䞈倫ですかね 自分なんかが倉庫で  」
    「倧䞈倫だよ。野路さんにビデオの眮いおある堎所ずか説明させおから食事に行かせるから。なあに、簡単な仕事だ」

    「はあ  」

    階段を「はぁはぁ」ず野路が駆け䞋りおきた。

    「野路さん、食事ゆっくりしおくればいいだよ。その間、岩䞊に倉庫をやっおもらう事にしたから。今日だけ岩䞊に、倉庫の仕事を教えおから食事に行っおくれ」
    「ああ、そう」

    オヌナヌである北䞭に察しおもタメ口の野路。
    この人は蚀葉遣いずいうものを少しは勉匷したほうがいいのではないだろうか。

    そんな蚳で俺は、これから野路ず倉庫ぞ向かう事になった。


    ビデオ屋メロンを出お、花道通りを颚林䌚通方面ぞ向かっお真っ盎ぐ歩くず、䞀軒の叀いマンションがある。
    䞀階は叀そうな造りのラヌメン屋。

    倉庫はその四階の䞀宀にあった。
    野路がドアを開けた瞬間、俺は目を䞞くした。

    「  」

    錻が曲がりそうな䜕ずもいえない腐った臭い。
    口で吞っおも味がしそうな臭いである。
    そんな悪臭が錻を぀く。

    倉庫は玄関先から、ずお぀もなく散らかっおいた。

    「早く䞊がりなよ」

    入口で䞊がるのを躊躇っおいる俺に、野路は声を掛けおきた。
    俺は䞀瞬だけ倖に出お、目䞀杯息を吞い蟌んだ。
    こんな事をしおも、しばらく倉庫の䞭にいるようだから無意味なのは分かっおいたが、それでも新鮮な倖の空気を吞いたかった。

    入っおすぐキッチンがある。
    たずビックリしたのが、ガスコンロに出しっ攟しのフラむパン。
    よく芋るず、ゎキブリの死骞が䜕匹かいた。

    ゟゟッず鳥肌が立぀。

    「䜕か飲むかい コヌヒヌなら冷蔵庫にあるから、勝手に飲んで」
    「ありがずうございたす」

    思ったより野路はいい人なのかもしれない。
    喉の也きを芚えおいたので冷蔵庫を開けた。

    「ゲッ  」

    季節は冬。
    この時期にゎキブリなど普通は出ない。

    それが倉庫の冷蔵庫には、りゞャりゞャずゎキブリが埘埊しおいた。
    猶コヌヒヌの口を぀けるタブのずころにも、構わず動き回っおいる。

    さすがに氎で掗っおも口を぀ける気はしない  。

    「遠慮しないで飲みなよ」

    「あ、今、喉也いおないから倧䞈倫です  」

    野路は䜕も気にせず、このコヌヒヌを飲んでいるのか
    そういえばやビデオをメロンに持っおくる時、い぀も客甚に買っおあるコヌヒヌを持っおいく。

     ずいう事は、普通に飲んでいるずいう事なのだ。

    倧䞈倫なのか、この人は  。

    倉庫の郚屋は十畳䞀間で、壁に沿っお棚がズラッず眮いおある。
    䞀぀䞀぀の棚には、各ゞャンル別にビデオが䞊べられおあった。

    「䞀番右の棚から『和物』ね。タむトルで、あいうえお順に䞊んでいるから。次が『熟女』、『盗撮』、『』、『スカトロ』ね。『レむプ』は『和物』ず同じにしおある」

    「  」

    䜕を蚀っおいるのか、さっぱり分からない。
    野路さんは構わず話を進め、「最埌が『掋物』だから」ず蚀っお食事ぞ行っおしたった。

    郚屋の䞭にはテレビが二台ず、ビデオデッキが党郚で九台眮いおある。
    ひょっずしおこんな小汚い環境で、あの裏ビデオのダビングでもしおいるのだろうか

    それにしおも臭い郚屋だ。
    ボロボロの絚毯の䞊には、ゎキブリが我が物顔で歩き回っおいる。

    ずおもじゃないが、地面に腰掛ける気になれない。
    かずいっおそのたた立っおいる蚳にもいかない。

    郚屋に転がっおいるダンボヌルの䞀぀を朰し、座垃団代わりにしお腰掛けた。

    携垯の電池が少なくなっおいたので充電をしようずビデオデッキで䞀杯の蛞足に、コンセントを挿そうずした時だった。
    絚毯の汚れず思っおいた黒いものが、䞀斉にサササず動く。

    「うわっ」

    思わず出る叫び声。
    黒い汚れ  。

    それはゎキブリの塊だった。
    蛞足のコンセントに籠もった熱で、枩たっおいたのだろう。

    野路ずいう人間は、どんな生掻をしおいるのか  。

    尿意を感じトむレぞ向かう。

    床にゎキブリがいないか泚意しながら、垞に慎重に䞀歩䞀歩進む。
    トむレの䞭ぞ入るず、思わず錻を抌さえおしたう。
    ムワッずする物凄い臭いだった。

    手探りで電気を぀ける。

    「ゲッ  」

    䞭はナニットバスになっおおり、巊手にトむレ、右手が济槜になっおいた。
    手を掗うはずの掗面噚の䞊は、挫画本が積み重ねられおいる。

    異臭を攟぀元は䟿噚だった。
    氎の溜たる郚分はこげ茶色に染たり、掃陀をたったくしおいないのか䟿が固たっお぀いたたたである。

    そしお尻を぀く郚分のカバヌの片偎は、䜕故かガムテヌプでグルグルに巻かれおいる。
    カバヌが折れるなんお聞いた事もないが、実際に折れたからこその凊眮なんだろう。

    济槜を芗いおみるず、普段䜿っおいるずいう気配がない。
    底は黒い现かいものがたばらにある。
    ひょっずしおゎキブリの糞だろうか

    駄目だ  。

    これ以䞊、ここにいるず気が狂う  。

    俺は䞀床倉庫から出る事にした。
    ドアを開けた瞬間、心地良い新鮮な空気が錻に飛び蟌んでくる。

    空気がこんな矎味くものだなんお、生たれお初めお感じた。
    歌舞䌎町で空気がこんなに矎味く感じるなんお初めおの経隓である。


    倉庫の倖でタバコを吞っおいるず、野路が垰っおきた。

    「おたえ、䜕をしおんの」

    「あ、タバコ、䞭で吞っちゃいけなかったかなず思いたしお  」

    適圓に蚀い蚳をでっち䞊げた。

    「そんなのは党然構わないよ。倖にいちゃ寒いだろ。䞭に入りなよ」

    久しぶりにゆっくりできたのがそんなに嬉しかったのか、野路は䞊機嫌だった。
    笑顔でドアを開け䞭ぞ入っおいく。
    俺はタバコを消し、あずに続いた。

    たたあの臭いを嗅がなくおはならないのか  。

    「北䞭さんから電話は」
    「特にないです」

    「盞倉わらず暇だな。たあいいや。ずりあえず倉庫でやっおもらいたい仕事ね。電話来たら店にビデオを運ぶっおいうのが第䞀だけど、いる間は少なくなったビデオのダビングをやっおほしいんだよね」

    「はあ  」

    野路はダビングに぀いお色々䜕かを話しおいたが、そんな事ぐらい聞かなくおも分かる。
    圌の蚀葉は俺の右耳から巊耳ぞそのたた通過した。

    そんな事よりも、これからこの倉庫ぞ毎日来るようなのである。
    この臭さをどう察凊したらいいか。
    そんな事ばかり考えおいた。

    「野路さん、俺、倉庫にはだいたいどのくらいいればいいんですか」
    「俺が飯に行く間だけだから、䞀時間から二時間ぐらいだろ」
    「そうですか」

    少しだけホッずする。
    ここ専門になったら、俺は窒息死しおしたう。

    「明日も出勀だろ」
    「いえ、明日はお䌑みなんですよ。ではそろそろ俺、メロンに戻りたすね」

    「もうちょっずゆっくりしおいけばいいじゃんか」

    芪切心で蚀っおくれるのは充分分かるが、ノヌサンキュヌである。
    䞀刻も早くこの堎所から逃げ出したかった。

    「いえ、北䞭さんが䞀人で店番をしおるでしょうし  」
    「倉庫にさ、人が来たなんお久しぶりだよ」

    野路は俺の台詞など聞いおないかのように喋り出しおいる。

    暪にあるテヌブルの䞊を䞀匹のゎキブリが走り出す姿が芋えた。
    野路は普通に話しながら玠手でゎキブリを朰し、ゎミ箱ぞ攟り蟌む。
    芋おいお吐きそうになった。

    「  。久しぶりっお、前にいた浊安さんは来おなかったんですか」
    「あい぀はいい加枛だろ だいたいうちで働く人間っお北䞭さんから金を借りお返せなくなり、その肩代わりに安い金で働かせられるだけだからさ。倉庫はビデオ屋にずっお呜綱だし、そうそう簡単に教えられるもんじゃないんだよ」

    こんな汚い堎所がメロンの呜綱  。

    「そういうもんなんですか」
    「たあおたえは、北䞭さんから信頌されおいるんだろうな」

    「どうなんでしょうね。ずりあえず今日は垰りたすね」
    「明日もよろしくね」
    「だから明日は䌑みですっお」

    芖線をずっず䞋を向けたたた湿った床を歩く。
    うっかりゎキブリを螏んでしたったじゃ、排萜にならない。


    仕事垰り、ミサキぞ電話をしおみるが出なかった。
    キャバクラぞ出勀しおいるのだろう。

    仕方なく月に䞀床ぐらいの割合で行くスナックぞ飲みに行く。

    本圓に暇な店で、二十五歳前埌の女が䞉人で働いおいる店。

    「あ、岩䞊さん、いらっしゃい」
    「おう、久しぶり」

    「い぀もので、いいんでしょ」
    「ああ」

    「グランリベ  」
    「グレンリベット。いい加枛、芚えろっお  」
    「あヌ、ごめんごめん」

    女の質は萜ちるが倉に気を䜿わないでいいので、俺は気に入っお通っおいた。

    俺はグレンリベットの十二幎が倧奜きでたたらない。
    目の前にこの酒を眮かれるだけで、ニコニコしおくるから䞍思議だ。

    以前ホテルで働いおいた時の話だが、色々な酒を飲み、自分にあった酒を探しおいた時期があった。
    䜕䞇皮類の酒を飲んだか分からないぐらい、様々な皮類の酒を飲んだ。

    その時に俺はグレンリベットに出䌚った。

    俺が䞀番、日本でこの酒を飲む。
    みんなにそう思われるぐらい飲んだ。

    この酒に出䌚っおからは、ずんか぀屋ぞ行こうが、焌肉屋に行こうが、行き぀けの店にはすべお、グレンリベット十二幎を眮かせおもらうように頌んだ。

    店内は、盞倉わらず閑叀鳥が鳎いおいた。

    俺が来た時点で、客が䞀人だけいた。
    しかし䞉十分もするず垰っおしたい、ずうずう俺䞀人だけになる。

    「ねえ、岩䞊さん」
    「䜕」

    「私たち、ビヌルもらっおもいい」
    「はいはい、どうぞ」
    「わヌい、ありがずう」

    これで䌚蚈にビヌルが䞉杯分足される事になる。
    䞉千円は掛かるずいう意味だ。

    「いただきたヌす」

    俺の持぀グラスより、女たちはグラスを䞊に高くした状態で也杯しおきた。

    サヌビス業をやるなら、絶察にやっおはいけない行為である。
    でも俺は䜕も蚀わず、笑顔で也杯した。

    「それにしおも、本圓に暇な店だな」

    無駄に広い店内をゆっくり芋枡す。
    閑叀鳥が鳎いおいるずはこういう事を指すぐらい、暇な店である。

    よくこんな状態で店がもっおいるものだ。
    ある意味、感心する。

    「ほんず、そうなんですよ。岩䞊さんっお、前にホテルでバヌテンダヌやっおたんでしょ 䜕か私たちにカクテル䜜っおよ」

    「悪いけど仕事以倖じゃ、俺はシェヌカヌを振らない。それに今はバヌテンダヌじゃない」
    「えヌ」

    昔は違った。
    ホテルで働き出した頃は、絊料が入るず色々な酒を買った。

    郚屋にたくさん色々なボトルを䞊べ、友達が来るずカクテルを䜜っおやった。
    みんな、矎味しいず喜んでくれた。

    ただそれを数幎繰り返しお、気が぀いた事がある。
    䜕幎にも枡っお、俺は友達たちにタダで酒をずっず振舞っおいただけなのだ。

    実際に倚数のカクテルを家で䜜れるようにするには、メチャクチャ金が掛かる。
    でも誰䞀人ずしお金を払ったり、酒を差し入れしたりしおくれた奎はいなかった。
    タダ酒だから、みんな喜んで来おいただけなのだ。

    画像

    別のスナックに通っおいた頃、ちょうど口説いおいる女にいいずころを芋せようず、カクテルを䜜った事がある。
    散々飲んでみたいずせがたれ仕方なしにずいった圢の䞊だが、店の女党員が飲みたいず蚀い出した。

    ママが「悪いけど岩䞊さん、みんなの分も䜜っおあげおくれないかな」ず蚀うので䜜った。

    垰る時になっお䌚蚈を芋おビックリ。
    店の女党員に頌たれお䜜ったカクテルの分たで䌚蚈に䞊乗せされお請求されたのだ。

    良かれず思いお願いされたものに自身のスキルを䜿う。
    結果、その誠意すら金を取られる悪意に搟取される愚かな愚行。
    これに懲りおカクテルは仕事以倖、二床ず䜜らないようにしおいた。

    今ずなっおはどうでもいい話である。

    「䜕で、うちの店っおお客がこないのかなあ」

    「簡単だよ、原因は  」
    「えヌ、䜕で」

    目の前に座る女䞉人は、俺の顔を真剣に芋おいる。

    「たず、聞くぞ。今だったら、キャバクラっおもんがあるよな」
    「うん」

    「でも、おたえたちが氎商売で働こうっお頃は、ただなかった商売だよな」
    「そうだね 。スナックか、クラブか、キャバレヌぐらいだね」

    「私は熟女パブにいたよ。二十䞀の頃だけど  」

    「たあいい、よく聞けよ。もし、おたえたちが高校を卒業しお、氎商売をやるずしたら、それが今だずしたらの話だけど、そこにキャバクラずいう遞択肢もある。そしたらどこで働く」
    「キャバクラ」

     䞉人は即答で声をそろえお蚀った。

    「䜕で」
    「だっおぶっちゃけ、ここの時絊千五癟円なのよ。キャバクラなら、最䜎でも二千五癟円はもらえるでしょ」

    こんな適圓な仕事ぶりで、時間絊千五癟円ももらえおいるずいう事に感謝すら芚えない銬鹿な女たち。

    「私もヌ、スナックっお倧勢の団䜓さんが来るず、忙しくおも基本的に䞀人で党郚こなすようでしょ。キャバクラなら、䞀人だけ盞手すればいいわけだしね」
    「ここはママっお存圚がいないから気楜だけど、普通はいるでしょ 前にいた店でい぀もうるさいぐらい怒られおね。だからやっぱ、金もよくお、うるさいママのいないキャバクラがいいな」

    こい぀らは、恥ずいう蚀葉を知らないのだろうか。

    「䜕でこの店が暇かっお蚀ったろ」
    「うん」

    「そんな考え方で仕事をしおいるから、い぀たで経っおも流行らないんだよ。それにさっきの也杯。客である俺のグラスの䜍眮より、䞊でグラスを぀けたろ それっお飲み屋の女ずしお、䞀番やっちゃいけない事だぜ。ただ、店に女がいるっおだけで客が来るほど、今の䞖の䞭甘くないぜ」

    「すいたせん」
    「すいたせんじゃなく、すみたせんが正しい日本語だ」

    俺の指摘を受け、䞉人はしゅんずなっおいた。
    今日の酒は、非垞に䞍味く感じる。


    䌑み明けなので新宿ぞ行くのが気だるい。

    悩みの皮はあの䞍朔極たりない倉庫。
    あそこぞ入った瞬間、汚れた匂いが錻から毛穎から、党身に沁みおいくような気さえした。

    それに北䞭のあの意地汚さ。
    たさに掃き溜めの巣窟ずいう衚珟がピッタリの堎所である。

    あんなずころで働いおいお、果たしおいいものだろうか
    真っ圓な就職口でも探そうかな  。

    そんな事を考えおいる内、電車は西歊新宿駅ぞ到着した。

    䞀番街通りを通過しコマ劇堎暪ぞ差し掛かった時、俺はふずロッテリアの看板を芋おハンバヌガヌが食べたくなった。
    出勀時間たでただ䜙裕はある。

    北䞭も食べるだろうず、二人分をテむクアりトで泚文した。
    その時だった。

    どう芋おも堅気ではない二人が怒鳎り合いを始めた。
    䞀人は短い茶髪の男で、もう䞀人はメガネを掛けた口髭の男。

    ロッテリアのアルバむトの子は、その光景を芋おビックリし固たっおいる。

    やがお二人は怒鳎り合いから゚スカレヌトし、フルスむングでの殎り合いをおっぱじめた。

    道の向こうで䞉名の譊察官の姿が芋えた。

    茶髪の男の錻から血が滎り萜ちる。
    口髭メガネのレンズにヒビが入る。

    ダクザ者同士が勝手に因瞁を぀けあっお争うのは自由だ。
    しかしこんな店の近くで癜昌堂々ずいうのがマズい。

    譊官もダクザ同士の喧嘩に気付いおいるはず。
    その内止めに入るだろう。

    口髭メガネの動きが止たり、連続で茶髪のパンチが炞裂した。
    そのたた口髭メガネは仰向けに倒れ、茶髪は銬乗りになる。
    右腕を倧きく振り䞊げた瞬間、ギョッずなり身構えた。

    たさかただ殎る぀もりか
    俺はダッシュしお間に入る。

    茶髪が远撃しようず右腕を埌方に開いた瞬間、暪から俺は右腕を銖に回しガッチリずロックした。
    盞手の右腕も䞀緒に挟み蟌んだ状態で、そのたた力づくで匕き剥がす。

    「䜕だ、テメヌは」

    いくら喚かれおも暎れおも俺は手を離さない。
    茶髪は右腕の自由を奪われた状態のたた、必死に振りほどこうずしおいる。

    「離せ 離しやがれ」
    「おい、あんた暎れるず、このたた頚動脈絞めお萜ずしちたうぞ」

    脅しじゃないのを分からせる為に、俺は茶髪の頚動脈を軜く力を入れ絞めた。
    そこでようやく茶髪も倧人しくなる。

    「これ以䞊こんな状態で殎ったら、䞋はアスファルトだぞ 死んじたうだろうが」
    「分かったよ。分かったから離せよ」

    「もう暎れるなよ」

    ロックを倖すず、茶髪は右肩を抌さえながら黙っおいた。

    その時、仰向けで倒れおいた口髭メガネが「ただ終わっおねえんだよ」ず顔面血だらけのたた立ち䞊がる。
    メガネは䞡方ずも割れ、酷い有様だ。

    「黙っおろ。おたえは俺が止めなかったら、死んでいたかもしれないんだぞ」
    「うるせヌ」
    「うるせヌじゃねえ。こんな癜昌堂々喧嘩をおっぱじめやがっお。今頃起き䞊がっっずいお、やる気になっおんじゃねえぞ。おたえの負けなんだよ。それぐらい認識しろ。それに他の人間に迷惑だろ。喧嘩やるなら目立たない隅っこで遣り合えよ」

    そこたで蚀われるず、口髭メガネは黙っおしたう。
    道の向こうにいる䞉名の譊官は、俺たちの様子を黙っお芋おいるだけで近づこうずしない。

    「あんた、どこの組の人間だ」

    茶髪が声を掛けおくる。

    「おいおい、俺は䞀般人だっお。䞀緒にすんなよ」
    「俺はよ、昚日務所から出おきたばかりなんだ。あんた、〇〇連合の宮郚組長っお知っおっか」

    「ああ、名前ぐらいは聞いた事ある」
    「蚀っずいおくれ。この根岞安治が昚日務所から出おきたっお」

    「おたえ、人の話をちゃんず聞いおいるのか さっきから俺は、䞀般人だっお蚀っおるだろうが。そんなの勝手に䌝えに行けよ」

    たったく人の話を䜕も聞かない男だ。
    こんな銬鹿共は攟っおおいお、さっさずメロンぞ向かうか  。

    俺はテむクアりト甚に包たれたビニヌル袋を受け取るず、ダクザ者二人を眮いお仕事ぞ行く事にした。

    その堎から俺がいなくなるず、二人は睚み合い、再び胞倉を぀かみだしおいる。

    もう勝手にしやがれだ。
    俺は気にせず歩く。

    するず前方にいた䞉名の譊官が「ちょっず君」ず声を掛けおきた。

    「䜕だよ」
    「職質だ」

    コむツら頭がおかしいんじゃないだろうか。

    「職質 おたえらふざけんなよな。あそこで今もそうだけど、さっきもダクザ二人がフルスむングで喧嘩をしおいたの芋おるだろうが それを芋ないふりしお職質だ ほれ、ただあの二人、胞倉を぀かみあっおるぞ さっさず泚意しに行けよ」

    街の治安を本来守るはずの譊察。
    それがこのザマは䞀䜓䜕だろう
    こういう連䞭は皎金泥棒ず呌ばれおも仕方がない。

    俺は譊官を乱暎にどかし、メロンぞず向かった。


    店ぞ到着するのを埅っおいたかのように、北䞭の女シンシンが䞋に降りおくる。

    「岩䞊さん、サむンいいか」

    䟋の婚姻届の保蚌人の甚玙をテヌブルの䞊に眮き、名前を曞けず蚀っおくるシンシン。

    この保蚌人ずいう事を少し調べおみたが、結婚の保蚌人に関しおだけ蚀えば、倧した責任などないらしい。
    これはおじいちゃんに聞いお埗た皋床の知識であるが、これで自分に䜕か迷惑が掛かるずいう事は無さそうだ。

    ここで保蚌人になっおおき、少しぐらい北䞭ぞ恩を売っおおくか。
    そう感じた俺は甚玙を広げ、名前を曞こうずした。

    「ん」

    甚玙をちゃんず芋おビックリした。
    䞭囜人の女性の名前で片偎のみ现かく蚘茉しおあるだけで、男性の蚘入欄は空癜のたただった。
    肝心の北䞭の名前がどこにもないのだ。

    こんな蚳の分からないものに、自分の名前などサむンできるか  。

    「ちょっず、シンシンさん。これ、北䞭さんの名前ないじゃないですか」

    うっかり名前を曞いたばかりに気付けば停装結婚なんおハメになっおいたら、目も圓おられない。
    䞀䜓どういう぀もりだ、この女  。

    「早く岩䞊さん、名前曞く」

    「これじゃ曞けたせんっお  」
    「あずでもうじきパパ、ここに来るでしょ その時、それに名前曞く。そう蚀っずいお」

    そう蚀いながらシンシンは甚玙を眮いたたたメロンを出お行っおしたう。

    䜕おいい加枛な人間なんだろうか
    ここたで非垞識な人間がいるなんお信じられなかった。
    誰がこんなものに名前など曞くかっおんだ。

    客が入っおきたので、俺は甚玙をテヌブルの匕き出しぞしたい、仕事をする事にする。

    倕方頃になっおやっず北䞭が店に来た。
    俺はシンシンから蚀われた事を告げ、甚玙を芋せるず「そんなの早く名前を曞いおおけ」ず䞍機嫌そうに蚀われた。

    䜕様の぀もりなんだ、この男は  。

    あたりの理䞍尜さに苛立ちが走る。

    「あのですね、肝心の北䞭さんの名前が曞いおないじゃないですか そんなものに䜕で俺がサむンできるず蚀うんですか」
    「うるせヌ、早く名前曞けばいいだよ」

    「申し蚳ありたせんが、北䞭さんがご自分の名前を曞かない限り、お断りさせおいただきたす」
    「じゃあ早くそれを寄こすだよ」

    ひったくるように甚玙を取り䞊げる北䞭。

    䜕でコむツは自分の結婚なのに、ここたで偉そうなんだろう
    本圓に神経を疑っおしたう。

    恩を感じるどころか逆に怒っおいる北䞭は、人間的に絶察間違っおいる。

    「ほら、これでいいだろ。早くおたえも名前を曞け」

    あくたでも偉そうな北䞭。
    俺はボヌルペンをひったくるように取るず、むラむラしながら保蚌人の欄ぞ自分の名前を曞いた。

    こんな事、俺がする矩理なんお䜕䞀぀ないずいうのに  。


    倉庫は倉わらず悪臭を攟っおいた。

    この臭さが俺の䜓臭に入り混じったら、どうしおくれるんだ。
    そう文句を蚀いたくなるぐらいである。

    テヌブルの䞊から床、至るずころすべおにゎキブリが這っおいる恐怖の郚屋。
    ここでは嫌悪感しか芚えない。

    俺はメロンから猶コヌヒヌが入っおいた空のダンボヌルを持っおきお、い぀も床の䞊に眮き、その状態で座るようにしおいた。

    これでもただ安心はできない。
    ゎキブリの奎らはこの䞊だっお平気で、ノ゜ノ゜ず這い回っおくるのだ。

    倉庫の電話が鳎る。
    配達の泚文だろう。

    受話噚を取るず、北䞭の声が聞こえた。

    「ビデオ  。『バカン、むダン、もう駄目』、『レむプレむプレむプ』、『猶コヌヒヌ入るかしら』 。以䞊、䞉本」

    「はい、了解です」

    俺は、各棚の䞭から泚文されたビデオを名前順で探す。

    どうもこの䜜業が苊手だった。
    野路の割り振りでゞャンル別に分かるよう眮いおあるず蚀うが、䜕が『和物』でどれが『熟女物』なのかが分からない。

    こんな党郚で䜕癟皮類の䞭から、䞉本のビデオを探せず蚀うのだ。
    慣れないずできない䜜業である。

    それでも䜕ずか探し出し、黒いスポヌツバックにビデオをしたい蟌む。
    倉庫を出お倖ぞ出るず、俺は自転車ぞ飛び乗りメロンたで急いで向かう。
    これが運びの仕事だった。

    裏ビデオ屋は倧きく分けお二皮類のタむプに分かれる。
    䞀぀はメロンのように商品の受け枡しを別にする店。

    もう䞀぀は店内にすべおの商品を眮き、その堎で客ぞ枡す店である。
    金は店で受け取り、品物は倖から。

    北䞭曰くこれが譊察に捕たらない䞀番いい方法だず、以前豪語しおいた。

    確かにそれはそうだろう。
    普通に考えれば想像が぀く。

    裏ビデオを売っおいるずいう事が『猥耻図画』ずいう犯眪になるのだ。
    ビデオの堎合も珟行犯逮捕。

    店に品物がなければ譊察も売る珟堎を抌さえない限り、安党だず北䞭は蚀っおいた。

    こんな裏ビデオを売っおいる仕事で捕たりたくなんかない。
    垞々そう思う自分がいた。

    仕事自䜓は非垞に楜な仕事だ。
    来た客にだけビデオやを売ればいい商売なのだから。

    この街ぞ最初に来た時働いたゲヌム屋ベガのオヌナヌである鳎戞が蚀っおいた台詞を思い出す。

    「女のあそこで、飯なんか食いたくないじゃないですか。その点ゲヌム屋は賭博。颚俗やビデオず比べおも栌奜いいですよね」

    確かにその通りだず感じる。

    裏ビデオ屋で働いおいるなんお、恥ずかしくお知人には蚀えない。
    たしおや春矎や効代わりに可愛がっおいるミサキには絶察に知られたくない  。

    ぀たり俺は、今しおいるこの仕事を栌奜悪い商売だず思っおいるのだ。

    どんな圢でもいい。
    珟状を䜕ずか打砎したい気持ちでいっぱいだった。


    暇なメロンの仕事。

    ピアノはあれだけハマっお䞀心䞍乱に匟いおいたのに、このずころたったく匟かなくなった。

    俺はこの時間を䜿い、絵を描いおみる事にした。
    孊生時代、矎術郚ではなかったが䞍思議ず絵は埗意分野だった。

    䜆し写生䌚のような決たりきった背景を描く事や人物画は苊手である。
    想像で奜きなように描く。
    そうしお出来䞊がった䜜品のほずんどは入遞し、䞊野矎術通にも食られた事があった。

    埗意分野な絵をたず描こう。

    それにしおも絵を描くなんお春矎にプレれントした以来だな。
    さおどうするか

    俺は出勀前、東急ハンズに寄り、発泡スチロヌルでできたボヌドの板を買っおきた。

    これはワヌルドワン時代、ビンゎを䜜ったり店頭の告知甚に䜿えたりする優れもので、発泡スチロヌルの䞊に䞊質玙が貌っおある。
    みんな、この䞊にカッティングシヌトで切り文字をしお貌っおいた。

    カッタヌを䜿っおこのボヌドを暪䞃センチ、瞊十センチの倧きさに切り分けた。

    さすがに仕事䞭なので、すぐ片付けられないずたずいだろう。
    だから絵の具で描くのは難しい。

    じゃあ䜕で描こうか

    ゲヌム屋でよく䜿っおいたポスカ。
    ロむダルストレヌトフラッシュを撮ったプリンタヌの感熱玙に、よくポスカで日付ず出した客の名前を曞いおいたっけな。

    あれを䜿おう。
    どんな絵を描いおみるか

    頭の䞭で思い浮かぶシヌンをそのたた描くしかないだろう。

    星の奇麗な倜空の草原の絵を思い浮かべる。
    俺は氎色のポスカをボヌドの䞊に塗っおいく。

    画像

    薄い色から塗っおいき、枇くず次の色を重ねおいくずいうやり方で絵を描いおいった。

    幻想的な絵にしたい。
    慎重に色を塗っおいく。

    现かい郚分は䜙ったボヌドの䞊にむンクだけ出すようにしお、楊枝やティッシュで䞁寧に现かく描き蟌んでいった。

    䜕日も時間を掛け、絵は完成する。
    カッティングシヌトの透明タむプのもので絵を包み蟌み、枇いた垃で䜕床も優しく擊っおいく。

    こうする事で氎に濡れおも倧䞈倫な絵になった。

    星が無数にある倜空の公園。
    そこに䞀人の人圱がタバコを吞っおいる。

    自分で芋おも、いい感じの絵だず思う。


    闇 29パ゜コンずピアノ線

    蚘憶が暑くなるず、憂鬱さは増すばかり。
    䜕故なら倉庫に行くず、前にも増しお匂いが匷烈になっおいるからだ。

    入口に立っただけで吐き気を催すほどの臭さ。
    倉庫の䜏人である野路は、本圓に䞍朔な男である。

    ドラゎンボヌルに出おくる倩䞋䞀歊道䌚のクリリンず察戊したバクテリアンを思い出しおしたう。

    画像

    ゎキブリは季節のせいか倍以䞊の数が郚屋の䞭を所狭しず動き回り、そんな䞭で圌は寝起きをしお生掻をしおいる。
    颚呂にほずんど入っおいないせいか、野路に近づくず䜕ずもいえない匂いがした。

    倏の暑い日差しの䞭を自転車で動き回り、裏ビデオを配達する野路。
    こんな人生を送っおいお楜しい事などあるのだろうかず、぀い䜙蚈な事を思っおしたう。

    メロンで働いおいお、䞀぀気に掛かる点。
    それは客が玙にビデオの題名を曞き泚文する際の事だが、ずビデオの䞡方同じ品物がある時だった。

    い぀も電話口で野路は䞍機嫌そうに「ビデオ  どっち」ず聞いおくる。
    その床どちらかをワザワザ蚀わなければならないもどかしさ。

    これは倉庫に行っお分かった事だが、商品管理がちゃんずできおいないから。
    それが明らかな原因。

    ザナルカンドも完成し、ピアノに䞀旊䞀区切り眮いおいた俺は、仕事以倖特にすべき事がない。

    初めにパ゜コンを教えおくれた先茩の坊䞻さんぞ連絡を取り、䜕か䞊手い方法がないか聞いおみる事にした。
    快く先茩は俺の願いを承諟し、時間を䜜るず蚀っおくれる。

    坊䞻さんずの付き合いは、もう十数幎。
    圌は系の䌚瀟で働く日本でも有数のプログラマヌをしおいた。

    地元ずいう接点がなければ、本来タむプも性栌も違うので、たったく亀わる事はなかっただろう。
    俺はこの人ず同じ地元に生たれ、仲良くなれた事を誇りに思っおいる。

    それだけじゃない。
    この人には数知れない恩矩もあった。

    二十䞀歳の頃、党日本プロレスを目指しおいた俺は念願のプロテストにも受かり、有頂倩になっおいた。
    同玚生たちが祝賀䌚をやろうず祝っおくれ、調子に乗っおいた俺は党日本プロレスの合宿前日だずいうのに飲みに行った。
    そこで酔った同玚生の倧沢が倧暎れし、ダクザ者十五人ず乱闘隒ぎを起こす。
    止めに入った俺たで譊察に捕たり、プロ入りは华䞋された事があった。

    それたで応揎しおくれおいた人も譊察に捕たった事で、俺を癜い目で芋るようになる。
    あれだけレスラヌになる事を願い、それだけの為䞀心䞍乱に頑匵っおきた俺は、粟神の限界を迎える。
    積み朚厩しのようにプロテスト合栌を壊され、気力を倱った俺は自殺すら考えるようになった。

    その時、傍にいおくれたのが坊䞻さんである。
    萜ち蟌み塞ぎ蟌んでいた俺に、坊䞻さんは蚀った。

    「䜕があっおも生きおくれ。おたえは生きなきゃ駄目だ」

    思わず号泣した俺。

    そしお合宿所ぞ匷匕に行っおしたえずも背䞭を抌す。
    あれがあったからこそ、俺はあのタむミングでゞャンボ鶎田垫匠ず出䌚えたのだ。

    あれから十幎近く経぀  。

    若い頃から結婚をしおいる坊䞻さんず、プラむベヌトの時間を䜜るのは難しい。
    奥さんの裕子さんに、息子の玲君もいるのだ。
    垞に仕事ず家庭の䞡立で倚忙。

    それでも坊䞻さんは、い぀だっお俺に優しく接しおくれた。

    「智はい぀䌑み」
    「えず今だず日曜日ぐらいですかね」

    「仕事が終わるのは䜕時ぐらい」
    「日によっおたちたちですが、通垞なら倜の䞃時。遅い時で倜の十䞀時半になりたす」

    「じゃあ、毎週金曜ず土曜日は倜、そっちぞ行くよ」
    「そっちぞっお歌舞䌎町ぞですか 裕子さん、倧䞈倫ですか」

    「だっおおたえがパ゜コンに察し、やっずやる気を出したんだ。こうなるずおたえは絶察パ゜コンが䜿えるように自分の気が枈むたで、し぀こく電話しおくるだろうからな」

    「ぞぞぞ  」
    「時間を決めお、その時間垯を集䞭しおやっずほうがいい」
    「ありがずうございたす」

    こうしお俺ず坊䞻さんは金曜ず土曜の倜になるず歌舞䌎町の挫画喫茶に入り、野郎同士カップルシヌトでパ゜コンの勉匷をした。
    傍から芋れば、男同士で䜕をしおいるんだず思われるだろう。

    専門的な坊䞻さんの教え方は非垞に難しい。
    もうゲヌムで遊ぶずいった陳腐な䜿い方ではなかった。
    パ゜コンの根本的なシステムの説明。
    すぐ頭が混乱した俺は、分野倖だから無理ず投げ出そうずする。

    「これから絶察必須になるんだから、これずこれだけはいいから芚えろ。あ、智 寝るな ほら、ここをこうしお、たずこの基瀎を芚えろ」
    「もう坊䞻さん 、俺には無理ですよヌ」

    「無理じゃない。おたえの脳みそがただ拒絶反応を起こしおいるだけ。いいからこれを芚えおおけ」

    培底的にシステムを教え蟌たれ、朝になるたでひたすら習い、基本的な゚クセルやワヌドのマむクロ゜フトオフィスの䜿い方を孊ぶ。

    ようやく少しず぀パ゜コンずはどういうものかを身䜓で芚え出し、次に湧いた疑問は仕事に盎結する内容。
    どうやっお映像を線集し、パ゜コンで同じ物を䜜れるか

    専門分野倖の事を聞いおも、坊䞻さんは「ちょっずだけ時間をくれ」ず自分で勉匷し、俺が聞いた事をすべおできるようにしおくる。
    そしおその技術を俺の頭ぞ培底的に叩き蟌む。

    パ゜コンは頭のいい赀ん坊。
    だからこっちがこうしなさいず教えおあげないず、䜕もできない。
    ただ、教え方を間違わなければ、これほど䟿利な箱は䞖の䞭に無いずも豪語した。

    週に二回の培倜のレッスン。
    これにより少しず぀、俺はパ゜コンの知識や仕組みを孊んでいく。

    単なる力自慢だった男が、ホテルで接客術ず酒の知識を芚えた。
    それは歌舞䌎町ずいう街の裏皌業で、最倧限に発揮された。

    いい地䜍を築き、高い金をもらう生掻の日々。
    そのシステムが厩壊し、䞀からの出盎しずなった。

    新たな裏皌業である裏ビデオ屋を始めた俺。
    商売的な卑屈さから、自分自身がどんどん嫌いになっおいく。

    だからこそ、どうにかしお珟状を打砎したかった。

    そんな時期、䞀人の女ず出逢う。
    矎しく儚さを感じさせる女だった。

    これたでの自分の生き方を恥じる俺。
    力や匷匕さだけではいけない。
    玠盎な気持ちで圌女に捧げたいずいう名目。
    それでピアノを始めた。

    䞀心䞍乱に緎習し、䞀぀の曲を完成させる。
    しかしその曲は、その子ぞ捧げる事すらできおいない。
    盞手を思いやる心が欠けおいた俺。
    自業自埗だった。

    ポッカリ空いた心の穎。
    プラむベヌトで特に䜕もする事がなく目的意識を倱っおいた。

    そんな俺に、坊䞻さんからパ゜コンを教えおもらえる時間は、ずおも至犏の時ずなっおいる。

    週末になるず始たる坊䞻さんのパ゜コンのレッスン。
    少しず぀俺にずっお、新たなスキルが備わる。

    どんな難しい事でも根気よく食らい぀く。
    仕事明けで正盎眠かった。

    しかし坊䞻さんはどうなる
    仕事を枈たせ、これから本圓なら家族サヌビスの時間なのに、それを犠牲にしお俺にパ゜コンのスキルを教えおくれおいるのだ。

    貪欲にパ゜コンのスキルを吞収しおいった。
    どこぞ習いにいったずころで出䌚う事のない最高の先生に今、こうしお教わっおいるのだ。

    今たでゲヌムしかできなかった俺だが、ようやくパ゜コンの本質ずいうものを少しは理解できるようになる。

    パ゜コンは赀ん坊ず同じ、䜆し知識の非垞に高い赀ん坊。
    坊䞻さんの蚀っおいた台詞の意味合いが少しず぀分かっおきた。

    今のパ゜コンはどれだけアプリケヌション゜フトを自由に䜿いこなせるか。
    プログラムずかシステムでない限り、そこに尜きる。
    そう坊䞻さんは蚀う。

    今せっかく裏ビデオずはいえ、映像に携わる仕事をしおいる。

    これたでは映画などを買うものずいう認識しかなかった。
    どうやったらができるのか
    その现郚に枡る仕組みたで理解したら、客に質問されおも䜕だっお答える事ができる。

    パ゜コンずいうものを俺の䞭で突出したスキルの䞀぀にしたかった。

    垂販されおいるのほずんどは、プロテクトずいっおコピヌができないようガヌドされおいる。
    そのプロテクトをどう解陀し、䞭身をどうするべきか。

    坊䞻さんは専門分野でもないのに、俺が質問した事を自分で調べ䞊げ、次に䌚う際には必ず答えられるように努力しおくれた。

    幞い挫画喫茶には各皮のがそろっおいる。
    俺たちは䞀枚ず぀借りお、同じものを䜜れるよう色々ず詊しおみた。

    空のヌメディア。
    この圓時安くおも、䞀枚䞉癟二十円ぐらい。

    俺はメロンでもらう『デズラ』から惜しみなく数十枚、䜕床も賌入した。

    をコピヌするのに分かった事。
    たずはプロテクトを倖す䜜業から始たる。
    垂販されおいるの容量は䞃、八メガぐらい。

    本来は四・䞃メガしか入らない。
    これは片面二局ず呌ばれる方法で焌くからできる事であるようだ。
    俺の堎合、片面二局にはできないので、この倧きなデヌタを四・䞃メガ以内に瞮小しなければならない。

    この時デヌタは䞉぀に分かれる。
    映像郚分、音声郚分、字幕郚分。
    これらの䞭で、䟋えば䞭囜語の字幕はいらない。
    この音声もいいかずいった具合に自分で遞んでいく。

    その点でいえば、裏ビデオは単玔明快だった。
    本来の四・䞃メガ以内に映像は玍たっおおり、プロテクトも぀いおいない。
    ただそのたたコピヌすれば同じ物が䜜れた。

    ワヌドを䜿った䌁画曞の䜿い方。
    そしお゚クセルを䜿った衚蚈算。
    様々な事を俺は坊䞻さんから教わる。

    段々ずパ゜コンが手攟せなくなっおきた自分がいた。


    早速坊䞻さんから教わった事を仕事に掻かしおみる。
    たずぱクセルを䜿っおの商品管理。

    俺はメロンぞ到着するず、ノヌトパ゜コンを開く。
    壁に貌っおあるのゞャケットをコピヌしたお粗末なものを眺めた。
    どこのビデオ屋も党郚これだもんな。

    新しい革呜ずいえば倧袈裟だけど、裏皌業に俺のパ゜コンのスキルを導入しおやる。
    ゚クセルを起動し、䜜品ごずのタむトル、出挔女優、ゞャンルなどをどんどん打ち蟌んでいく。

    番号぀ける事で商品は敎理され、もう電話口で「『人劻の乱れ』をお願いしたす」なんおもう蚀わず番号を蚀えば枈むのだ。
    しかし壁に貌っおあるものを䞀぀䞀぀芋おは打ち蟌む䜜業は、ずおも面倒で非垞に時間が掛かった。

    北䞭が降りおきお、パ゜コンで䜜業をしおいる俺を芋る。
    䜕をしおいるのかさえ理解できない北䞭は、小銬鹿にした衚情で「おたえ、䜕をしおるだよ」ず口を開く。

    「䜜品の敎理をしおいるんです。゚クセルを䜿っお商品を敎理すれば、泚文の際や客に聞かれた時、䞀目瞭然ですからね」

    せっかくここでこうしお働いおいるのだ。
    ブツブツ䞍平䞍満を蚀うぐらいなら、売り䞊げ向䞊に䞀圹買い、前向きに仕事をしたほうがいい。

    衚瀟䌚でパ゜コンを導入しおいる䌚瀟は圓たり前にあるが、裏皌業でこうしおパ゜コンを導入したのは俺が初めおだろう。

    「さっぱりおたえの蚀っおる事は分からん」

    どうでもいいずいった感じで北䞭は、䞊にあるフィヌルドぞゲヌムを打ちに行っおしたう。

    あんたの店を儲けさせようず自分のパ゜コンたで持ち蟌んでデヌタ敎理をしおいるのに、䜕お蚀い草だろうか
    むラむラしたが今は我慢しずこう。

    このデヌタが完成されたらどれだけ䟿利なものなのか、あの北䞭も分かるだろう。

    運びの野路は店に商品を持っおくる床、俺のしおいる事に関心を瀺し、「䜕をやっおんの」ず毎回同じ事を聞いおきた。
    商品を分かりやすいよう管理する為だず説明しおも、野路には理解できなかったようである。

    「䟋えば野路さんに泚文の電話を入れる時ですね、い぀も『ビデオ 』っお聞いおくるじゃないですか これが完成すれば、に関しおだけは番号を蚀えば分かるようになるんですよ」

    「うん、よく分からないや」

    照れ笑いを浮かべながら、野路は倉庫ぞ戻っおいく。
    䜕故これだけ分かり易く説明しおいるのに分からないのだろうか  。

    春矎にフラれた事で、俺は仕事に察し意欲的になっおいた。

    もうずれだけの時間が流れたのだろう。
    未だ圌女からの連絡は䞀切無い。

    懞呜に仕事にでも打ち蟌んでいないず、粟神的におかしくなりそうだった。

    北䞭の理䞍尜さには苛立぀事も倚い。
    それでも自分の奜きでやっおいるのだず割り切るように考えた。

    金曜の倜から土曜の朝たで坊䞻さんず䞀緒に挫画喫茶ぞ入り、カップルシヌトを遞ぶ。
    その状態でずっずパ゜コンに぀いお習う週末。

    朝になるずさすがにフラフラになっおいた。
    坊䞻さんはこのたた䌚瀟ぞ出勀しお、仮眠宀があるからそこで寝るず蚀っお別れる。

    時蚈を芋るず朝の五時。
    い぀もこの曜日は培倜で仕事。

    俺もメロンに行き、゜ファの䞊で少し暪になろうず思ったが、あそこは汚くお嫌だ。

    十䞀時手前たでどこかのサりナで過ごそう。
    いや、埅およ  。

    たたには颚俗でも行っおみるか。
    気だるい身䜓で街䞭を歩き、こんな朝早くでもやっおいる颚俗があるか探す。

    コマ劇堎暪のビル入口に、『ヘルス ポップコヌン 䞉千八癟円』ずいう看板が目に入る。
    ありえない金額のヘルス。
    䞉千八癟円で、女が客のチンチンをくわえるずでも蚀うのだろうか

    そういえばワヌルドワン時代の埓業員で、こんな安いヘルスで働いおいたずいう奎を思い出す。

    「確かに金額が安いから、ロクな女がいないですよ。だっお他の普通の颚俗で断れたくった女共が最埌に行き぀く店でもありたすから。でもですね、䞭には圓たりがあるんですよ」

    䜕をもっお圓たりなのか分からないが、確かそんな台詞を蚀っおいたっけな。

    こんな暑い季節なので汗だっお掻いおいる。

    倖れの凄い女が出おきたら、䞉千八癟円でシャワヌを济びにきたず蚀えばいいだろう。
    俺はこの安いヘルスぞ入る事に決めた。

    入口は䞍思議な事に道路に面した゚レベヌタヌしか芋圓たらない。
    通垞ならどこか階段ぐらいあっおもよさそうなものだが  。

    睡魔が襲っおくる。
    䜕でもいいか。
    俺はボタンを抌しお、゚レベヌタヌぞ乗り蟌む。
    䞃階のボタンを抌し、狭い小さな箱は䞊昇しおいく。

    店ぞ到着するず、俺は现い通路をそのたた進んだ。
    受付がその先に芋える。

    「ん」

    受付にいる男。
    どう芋おも堅気には芋えない。

    「あ、いらっしゃいたせ」

    男は俺に気付き、挚拶をしおくる。
    受付頭䞊には料金衚が貌っおあった。

    『䞉十分䞀䞇円 四十分䞀䞇二千円 五十分䞀䞇四千円』

    「倖の看板に曞いおある金額ず違うじゃん」

    するず男はビックリした衚情になり、「あ、倖の看板芋おいらしたのですか」ず聞いおくる。

    「倖の看板以倖、䜕を芋お来るんだよ」
    「あ、そうですね。じゃあ、お客さたは倖の料金通り、䞉千八癟円でいいですよ」

    どうもキナ臭い店だ。
    あずになっお高額請求のボッタクリされるんじゃないだろうな

    歌舞䌎町に来お五幎以䞊になるが、俺は䞀床もボラれた事がなかった。

    「いいよ。そこに曞いおある料金通り払うよ。それなら文句ないだろ」

    そう蚀っお俺は財垃から䞀䞇二千円を出す。

    「あ、はい。四十分コヌスでいいですね」
    「疲れおすぐにでもシャワヌを济び、暪になりたいんだ。早く案内しおくれ」
    「分かりたした。それではこちらぞどうぞ」

    男は受付暪にあるカヌテンを匕き、俺を促した。

    目の前に芋えるのは薄暗い朚造の床。
    ヘルスには䜕床も来おいるが、こんな叀めかしい䜜りの店なんお初めおである。

    「巊手の䞉番目の郚屋を開けお、䞭で埅機しおお䞋さい」

    蚀われた通り、俺は薄暗く狭い廊䞋をゆっくり進む。

    旅通のような襖が巊右に芋える。
    倉な造りの店だ。
    䞡サむドからは女の呻き声が聞こえおきた。

    途䞭「フッフッ」ず䜕かを嗅いでいる音が聞こえ、足元に䜕かがたずわり぀いおくる。
    足で軜く振り払うず「キャン」ずいう泣き声がした。
    犬か  。

    それにしおも䜕でこんなずころに犬がいるのだろう

    巊手䞉番目の襖を開けるず、畳四畳の郚屋に到着する。
    せいべい垃団が匕いおあるだけで、あずは暪に䞞い小さなテヌブルが䞀぀。
    その䞊にきゅうすず湯のみ、ポットが眮いおあるシンプルな郚屋だった。

    ほんず倧䞈倫なのか、この店  。

    腰掛けタバコを吞っおいるず、襖がガラッず音を立おお開く。
    振り向くず五十代埌半はどう芋おもいっおいるおばさんが入っおきた。

    ふざけんじゃねえよ。
    こんなおばさんが盞手か
    俺は譊戒しながら立ち䞊がる。

    「お兄さん、勘違いしないで。私じゃないから」

    おばさんはそう蚀うず、畳の䞊に座り出した。

    「お兄さん、タバコないかい ちょっず話があるんだけどさ」

    俺はタバコを䞀本差し出す。
    おばさんは火を぀けながら、さらに喋り続けた。

    「これからお兄さんにぱヌス玚の子を぀けるからさ。本番しおも構わないから、あず䞀䞇円もらえるかい」

    「いや、今日はシャワヌ济びに来ただけだからいいよ」

    「䜕蚀っおんの。゚ヌス玚だよ ゚ヌス玚」

    この小うるさいおばさんには早く消えおもらいたい。
    早くシャワヌを济びお暪になりたかった。

    「分かった。分かった。もしその子が来お気に入ったら䞀䞇でも二䞇でも枡すから。それならいいでしょ」

    「そう。じゃあ女の子来たらよろしくね。あ、そうそう。もう䞀本タバコもらえるかな」
    「さっきからうるせえよ。早く消えろっお」

    寝䞍足で䞍機嫌だった俺は、おばさんを怒鳎り぀けた。
    おばさんは䞀目散に郚屋から出お行く。

    本番専門の売春ヘルスか。
    どうりで劂䜕わしい空気が挂っおいるはずだ。

    少ししお襖が再び開く。
    俺は入っおきた女を芋お、動物のトドを連想させた。

    「あの  」
    「俺さ、培倜ですごい疲れおんだ。シャワヌ宀、案内しおくれないかな」
    「分かりたした。通路を真っ盎ぐ進んで突き圓たり巊手にありたす」

    普通のヘルスなら女も䞀緒にシャワヌぞ行き、客は立っおいるだけで女が身䜓からすべおを掗っおくれる。
    ここでは客䞀人に勝手に行かせるのか。

    たああんなトドのような女に身䜓を掗っおもらいたい蚳じゃないので、俺は黙っおシャワヌ宀ぞ向かう。
    薄暗い廊䞋を歩くず、さっきの犬がたた「キャンキャン」蚀いながら足元にたずわり぀いおきた。

    シャワヌを济び、じっずりした身䜓を掗い流す。
    終わるず郚屋に戻り、女に䌝えた。

    「俺さ、これから眠るから。四十分でしょ 䜕もしなくおいいからさ、その代わり時間になったら起こしおくれるかな」
    「分かりたした」

    そこたで蚀うず俺は暪になり、すぐに寝おしたった。

    ん
    䜕だか倉な感じだぞ  。

    俺はふず目を芚たし、足元を芋た。
    するずさきほどのトドが俺のチンチンをしゃぶっおいる。

    「䜕をしおんだ」

    すぐ起き䞊がり、女を突き飛ばす。
    春矎を想い、玔朔を貫いおきたのに汚された気がした。

    「いや、あの 、䞀䞇で本番  」
    「うるせヌ 䜕もするなっお蚀ったろうが」

    時蚈を芋るずただ二十分しか経っおいない。
    俺はスヌツに着替えながら、ただ時間はあったが店を出る事にした。

    郚屋を出ようずするず、先ほどのおばさんがやっおきお「どうしたんだよ、お兄さん」ず声を掛けおくる。

    「もう垰る」
    「ただ時間じゃないよ」
    「うるせヌ 䜕が゚ヌス玚だ 本圓の゚ヌス玚なんか぀けやがっお。どけよ」

    俺はおばさんを乱暎にどかし、廊䞋ぞ出た。
    他の郚屋からは倉わらず女の喘ぎ声が聞こえる。

    こんな店、来るんじゃなかった。
    無性にむラむラしおいる。

    その時、受付のずころから先ほどの男が道を塞ぐように出おきた。
    ボッタクリをする店の垞套手段だ。

    䜕か俺に文句でもあるず蚀うのだろうか
    男は俺の顔をゞッず睚んでいる。
    この俺から金をボッタクろうずしおいるのか

    䞊等だ。
    最近ずっず暎れおいない。

    俺は右の拳を壁にフルスむングで叩き぀けた。
    もの凄い音が聞こえ、女たちの喘ぎ声は䞀斉に止む。

    構わずもう䞀床、拳を壁に叩き぀ける。
    右拳の皮が砎れ、血が滲み出す。

    ここで倉に時間を皌がれ人数を呌ばれたら面倒なだけ。
    今の内にこの建物から早く脱出しないずいけない。

    血だらけになった右の拳を目の前に突き出す。
    受付の男の前たで来るず、「䜕か文句でもあんのかよ」ず凄んだ。

    男は無蚀のたた䞋を向き、道を譲る。

    俺は平然ずしながら゚レベヌタヌたで向かい、倖ぞ出た。
    コマ劇堎暪の通りに出るず、䞀気に駆け出しその堎から逃げる。

    こんな朝っぱらから倧勢のケツモチでも呌ばれたら、排萜にならない。

    そのたたメロンたで行き、ドアに鍵を閉めたたた゜ファヌの䞊で倒れるように眠った。

    時間になるず裏ビデオ屋の看板を道路に出し、い぀もの日垞が始たる。
    パ゜コンを芚える為、暇な時間垯は仕事のデヌタを䜜る為に没頭するしかなかった。

    ゚クセルデヌタをようやく完成させる。

    月に二回ほどの新䜜は増えるので、党郚で䞉癟皮類ほど。
    䞖の䞭もようやくプレむダヌが安䟡で出回り、ビデオからに移り倉わろうずしおいる。
    今たで裏ビデオを買っおいた垞連客も、埐々にぞず移行しおいく。

    家に垰り、プリンタヌで゚クセルデヌタをプリントアりトする。

    倉庫の野䞭は俺の䜜った゚クセルデヌタを芋お、最初は意味が分からなかったが、各ぞ番号を割り振り敎理しお、初めおその䟿利さを理解したようだった。
    北䞭もプリントアりトされた甚玙を芋お、なるほどず思ったらしい。

    パ゜コンの䞭なら、女優別、ゞャンル別にすぐ分かるようになっおいる。
    客に誰々の女優物は䜕䜜あるかず聞かれおも、すぐに答える事ができるのだ。

    圓然の売り䞊げは、今たでず比べ䞉倍も増えた。

    番号の若いは叀い䜜品。
    新䜜になるほど番号は増えおいくので分かりやすい。

    北䞭は新䜜が入る床、俺に「おい、岩䞊。早くデヌタにしろ」ず圓たり前のように蚀っおきた。

    考えおみれば、これは俺自身のパ゜コンで行っおいる善意である。
    それをありがずうの蚀葉もなく、圓たり前のように䜕を嚁匵っおいるのだろうか

    時間が経぀ず、善意でした行動に察し苛立ちを感じおいる自分がいた。

    いや、違う。
    北䞭の態床がおかしいから苛立っおいるのだ。

    あたりセコい蚀い方はしたくないのであえお黙っおいたが、パ゜コンだっおプリンタヌだっおタダではない。

    俺は数十䞇円も掛けお、䞀匏を揃えたのだ。
    それはあくたでも自分の為であり、メロンや北䞭の為ではない。

    そういった事に䞀円の経費すらくれない北䞭。
    ここではやる気を出しお頑匵っおも、うたく利甚されるだけなのだ。

    そう思った翌日から俺は、パ゜コンを仕事堎ぞ持っおいくのをやめた。
    銬鹿らしくなったのである。

    北䞭は新䜜が入るず、「早く䜜れ」ず呜什しおきた。

    「すみたせんが、パ゜コンの調子が悪いんですよ。今、修理䞭でしおね」
    「い぀盎るんだ」

    䞍機嫌そうに北䞭は蚀う。
    おいおい誰のパ゜コンだず思っおいるんだ、この男は  。

    「北䞭さん、申し蚳ないですけどね。この玙を䞀枚プリントアりトするんだっお、金が掛かっおいるんですよ。䟋えば店に䞀台プリンタヌがあれば、俺だっお䜕ずかしたいなっお思いたす。でも党郚俺が金を払っお店の事をしおるんですよ 少しは考えお䞋さい」

    ムッずしながら話すず、北䞭は財垃を取り出し「じゃあ、プリンタヌでも䜕でも買っお来い」ず䞍機嫌そうに口を開く。

    珍しい事もあるもんだ。
    でも北䞭はプリンタヌの仕組みなどたったく分かっおいない。
    機械だけでなく、むンクだっお甚玙だっおなければ印刷はできない。
    そこもちゃんず蚀っおおいたほうがよさそうだ。

    「プリンタヌだけでなく、甚玙もむンクも消耗品なので揃えないずプリントできたせんからね」
    「玙でも䜕でも買っおくればいいだよ」

    そう蚀いながら北䞭はテヌブルの䞊に、千円札を䞀枚だけ攟り投げた。

    「  」

    䞀䜓どういう぀もりなんだろうか
    この千円札の意味が分からなかった。

    「あの、北䞭さん  。この千円っお䞀䜓䜕でしょうか」
    「だからそれでプリンタヌでも玙でも買っおくるだよ」

    たった千円でプリンタヌを買っおこい
    ムチャクチャだ  。

    「お蚀葉ですが、䞀番安いプリンタヌでも最䜎䞀䞇円ぐらいしたすよ」
    「䜕だ、じゃあいい。ほら、よこせ」

    そう蚀うず北䞭は俺から千円札を取り䞊げた。
    本圓にこの男、底なしのケチである。
    少しでもこんな男に期埅した自分が銬鹿だったのである。

    春矎から連絡が来なくなっお数ヶ月。
    俺は䞉十二歳になっおいた。

    寂しさを感じながら日々を過ごしおいる。
    でもどうする事もできない。
    いくら俺が努力しおも、春矎はこちらを振り向いおくれなかったのだから  。

    その代わりパ゜コンのスキルはかなり䞊達した。
    週末になるず坊䞻さんずのパ゜コンレッスン。
    どうにかしお自分を倉えようず必死だったのだ。

    䞀床だけ春矎のいるキャバクラぞ行っおみる事にした。
    しかし春矎はずっくに店を蟞めおいた。

    もうどうする事もできない。
    俺は萜胆するばかり。

    春矎ぞの想い。
    日に日に募るばかりだった。

    「岩䞊君、今、垰り」

    仕事垰り道を歩いおいるず、ピアノの先生が声を掛けおきた。
    手にビニヌルの買い物袋を持っおいるので、買い物の途䞭だったのだろう。

    い぀もピアノを教えおもらっおいる姿しか芋ないので、その家庭的な姿に違和感を芚えた。

    「ええ、今垰りです。先生こそどうしたんです」
    「たたには買い物をしないずね。䞀応䞻婊ですから。最近岩䞊君が来ないから、どうしたのかなず思っおたのよ」

    「いや  」

    春矎にフラれたからだなんお、恥ずかしくお蚀えやしない。

    「もうピアノが嫌いになっちゃった」
    「いえ、そんな事はないです。逆に新しい曲を習いたいなあっお思っおいるぐらいです」
    「ほんず」

    嬉しそうな先生の顔。

    俺がたたピアノを始めるのが、そんなに嬉しかったのか。
    こんな䞍肖の匟子に察し、ありがたいものである。

    「ええ、やっぱり先生の匟子だし、クラシックを䞀曲匟きたいなっお  」

    たた頑匵っおみようか。
    そんな気持ちになっおいた。

    「よし、じゃあ、このたた教宀たで行こうか」
    「はい、お䟛したす」

    くっきぃずぞ向かう。
    先生は歩くずいうよりも、楜しそうにスキップをしおいた。

    俺は、先生のずころの楜譜を色々ず眺めおいた。

    「あなたがどれだけ苊劎しお、あそこたでピアノを匟けるようになったのか。その努力を理解できる女のほうが、あなたにはいいんじゃない」

    本川越駅のスむヌトキャデラックにいたピアニストの女の台詞を思い出す。
    確かに分かっおくれる女のほうが、俺にずっお幞せかもしれない。

    しかし、俺がピアノを始めたのは春矎に聎かせたいから。
    懞呜に努力しお緎習したのも、圌女に捧げたい䞀心。
    春矎以倖に捧げる盞手など、どこにもいやしないのだ。

    では今、䜕の為に俺は新しい曲を習おうずしおいる

    春矎の為でも誰の為でもない。
    自分の為に匟いおみたい。
    それだけだ。

    ゞャズバヌのピアノで奏でたピアニストの曲を思い出す。
    あの綺麗な音色のドビュッシヌの曲を匟いおみたかった。

    「先生、ドビュッシヌの曲を䜕曲か匟いおもらえたすか」
    「ドビュッシヌ いいわよ。どの曲がいいの」

    俺は楜譜を取り出しお、先生に手枡す。

    「できれば適圓に俺が䌌合いそうなや぀を色々ず」
    「うん、そうね。分かったわ」

    先生はピアノを匟きだした。
    い぀ものように衚情はずおも楜しそうに挔奏しおいる。

    ピアノを匟くのが私の生き甲斐。
    芋おいお本圓にそう感じた。
    身䜓を匟たせながら、ピアノを匟く先生。

    ドビュッシヌの曲だからずいっお、すべおの曲がお気に入りずいう蚳ではない。
    俺は䞀曲䞀曲聞き耳を立おしっかり聎いた。

    舞曲スティヌリヌ颚のタランテラが流れる。
    アラベスクが流れる。
    二曲ずも匟いおみたい曲ではある。

    もし俺が匟けたら栌奜いいだろう。
    でも俺には無理だ。
    それぐらい分かる。

    挫画のドラゎンボヌルのキャラクタヌで以前、クリリンがこんな俺でも盞手の匷さぐらいは分かるずか蚀っおいたが、それず䌌たような感芚だった。
    これ以倖で䜕かいい曲がないだろうか  。

    先生は、別の曲を次から次ぞず自由自圚に匟きこなす。
    ある時はゆったりたろやかに、たたある時は激しく指が狂いだしたかのように鍵盀の䞊を動き回る。

    「  」

    俺の背埌に誰かが立ち、暖かい手で背䞭を軜く抌されたような気がした。
    振り返っおも、誰もいない。

    䜕だ、今の感芚は
    綺麗なゆっくりずした音色が聎こえる。

    先生がたた新しい曲を匟きだした。
    柄み切った也いた音。
    ゆっくりずスロヌテンポに鳎り響く。
    少し悲しげなメロディ。

    先生が巊の方の黒い鍵盀を二぀叩く。
    地の底から鳎り響くような䜎音。
    そこを境にしお䞀気に激しく聎こえるリズム。

    軜く鍵盀を叩いおいるので、アップテンポな曲になるが、倚数の和音を奏でる指がメデュヌサの蛇の髪の毛のようにうごめいおいる。

    この曲の寂びの郚分を聎いた瞬間、鳥肌が立っおいた。
    これだ  。

    これしかない。
    はやる心を懞呜に抑えた。

    「先生、俺、この曲がいい」

    倱瀌な行為だったが我慢できなかったのである。
    先生の挔奏䞭にも関わらず叫んでいた。

    今たでクラシックなど興味のかけらもなかった。
    でもこの曲は違う。
    俺は絶察にこれを匟けるようになりたい。
    心の底からそう思った。

    「ベルマガス組曲の月の光っお曲よ。綺麗でしょ」

    「はい。俺もこの曲、頑匵れば匟けるようになれたすか」
    「そうね、ザナルカンドの䞃倍ぐらい頑匵ればできるわ。岩䞊君は、小さい頃からやっおいれば、今頃すごいピアニストになっおいたのにね」

    「お䞖蟞なんおやめお䞋さい」
    「本圓よ。いい ザナルカンドの時に出した集䞭力をもっず出しなさい。そうすれば、あなたならきっず匟ける」

    「こんな俺が匟ける  」
    「センスだけは持っお生たれた倩性のものなのよ」

    センスは倩性のもの。
    俺にセンスがある

    党身に電撃が走った。
    俺が真剣に真面目にやれば、本圓にこんな難しい曲も匟けるようになるのか

    いや、先生は嘘を蚀わない。
    ザナルカンドだっお四回のレッスンで匟けるようにしおくれたじゃないか。

    やっおやる。
    春矎の為にじゃない。
    自分自身の為に  。


    闇 30月の光線

    この日から俺は、正匏にドビュッシヌ䜜曲『月の光』のレッスンを受けだした。

    楜譜は盞倉わらず読めない。
    ザナルカンドの時ず同様、暗蚘しかない。

    「男の子はみんな、ドビュッシヌが奜きね」

    先生は笑いながら、そう蚀った。

    「䜕でです」
    「だっお私の教え子の半分以䞊が、ドビュッシヌを匟きたいっお蚀うんだもん」

    「そうなんですか」
    「ええ、あなたもその䞀人でしょ」
    「そうですね」

    俺はドビュッシヌの曲が倧奜きだった。
    この月の光ずいう曲。
    俺は絶察に匟けるようにしおやる。

    「先生、お願いがあるんですけど  」
    「なあに」

    「この寂びの郚分あるじゃないですか 䜎音で、ゞャヌンっおずこからです」
    「あヌ、はいはい」

    「そこから最初、教えおもらっおもいいですか」
    「いいですよ」

    先生はい぀もこうだった。
    俺の奜きなように、匟きやすいように、嫌な顔䞀぀もせずに教えおくれる。

    静かに䞀番端の黒い鍵盀の『ミ』ず次の『ミ』の䞊に指を添える。
    軜く抌しおみた。
    䜎く鳎り響く䜎音。
    先生の出した音ず同じ感じだ。

    感情を蟌めお匟いおみる。
    心に重く抌しかかるような感じで䜎音が鳎り響く。

    ピアノはい぀だっおそうだ。
    匟く本人の感情を衚珟しおくれる。

    俺は必死に寂びの郚分から習い始めた。

    少しず぀匟けるようになるたび、新たな感動が俺を包み蟌む。
    嬉しい。
    ピアノをやっお本圓に良かった。

    俺は郚屋に垰っおも匟き続けた。

    行き぀け本川越駅にあるゞャズバヌ。
    スむヌトキャデラックぞ行き、客が他にいなかったので店の音を消しおもらう。

    ピアノぞ向かい俺を鍵盀の䞊に指を眮く。
    月の光の寂びの郚分。
    䜕床、匟いおも飜きがこない。

    これが党郚匟けるようになったら、春矎ぞ連絡しおみよう。
    俺はただ、圌女にピアノを捧げおいない。

    ほんず女々しいよな、俺は  。

    この日から俺の異垞な日々が始たった。

    仕事に行く時も垞にキヌボヌドを片手に持ち、堂々ず歩く。
    裏ビデオを売りながら、店にピアノを持ち蟌んで匟いた人間なんお俺ぐらいのものだろう。

    メロンから聞こえるザナルカンドの音色。
    䞊からビックリしおダクザ者たで顔を出したぐらいだった。

    「岩䞊さん、䜕をしおんでっか」
    「いや、この床たたピアノを始めたしおね」

    俺のパ゜コンのスキルの話を聞き、䞊のダクザ者が色々盞談に来るようになっおいた。
    䜕床か䞊の事務所でパ゜コンの蚭定をした事もある。
    それから俺はビルの䜏人に䞀目眮かれるようになっおいた。

    これも坊䞻さんのお陰である。

    そんな俺が今床はメロンでピアノを匟き始める。
    みんなは目を䞞くしお驚いおいた。
    そんな姿を芋るず、痛快で溜たらない。

    北䞭は小銬鹿にしたような衚情で、俺の姿を芋お笑っおいるだけだった。
    別にこんな人間に理解しおもらおうだなんお、埮塵も思っおいないから平気だ。

    街で通り過ぎる人々が、䞍思議そうに俺を芋おくる。
    裞のたた、キヌボヌドを持っお歩く俺に察し、䜕者なんだずいう芖線だった。
    別に呚りの芖線など俺にはどうでもいい。
    月の光の䞊達こそすべおなのだから。

    暇さえあれば、くっきぃずぞ行き、先生にピアノを習った。
    自分でもどんどん䞊達しおいくのが分かる。

    春矎の䞀件で気分は萜ち蟌んでいたが、ピアノを匟いおいる時だけはすべおを忘れられた。
    仕事ずピアノだけの毎日ずいっおも過蚀じゃない。

    仕事垰りにキヌボヌドを持ったたた、コンビニぞ寄る。
    レゞにいる女店員が興味接々に話し掛けおきた。

    「あの 、ピアノを匟かれるんですか」

    「ええ  」
    「䜕だか栌奜いいですね」

    䜕が栌奜いいもんか。
    俺は単なる裏ビデオ屋の埓業員だ。

    「良かったら、聎きたいですか」

    「え」
    「ええ、このコンセント繋いでくれれば、ここで匟きたすよ」

    俺が冗談でも蚀っおいるず思ったのであろう。
    女店員は笑いながらコンセントを繋ぐ。

    キヌボヌドをレゞのカりンタヌの䞊に乗せ、俺は店内を気にせず匟き始めた。

    本圓に匟くず思わなかったのだろう。
    女店員は目を䞞くしお驚いおいた。

    匟き始めた曲はザナルカンド。
    俺は䞀切の雑音を気にせず、感情を蟌めお匟く。

    ある意味、こんな堎所で挔奏をした人間など、今たで誰もいないだろう。
    倚分俺が䞖界で初めおだ。

    コンビニのレゞでの挔奏。
    恥ずかしさなどたったくなかった。
    曲を匟き終えるず、女店員は拍手をしおくれた。
    それ以倖にも店内にいた客たで、拍手をしだした。

    䞭には、䜕だ、コむツ 、ずいうような軜蔑の県差しで芋おいるのもいたが、盎接文句を蚀っおくる者はいなかった。

    それでもどこかに空いた穎。
    い぀も俺の䞭に同居するせ぀ない気持ち。

    春矎ぞ察する届かぬ想いからだった。
    寂しい。
    ピアノを匟いおいる時間だけが、その寂しさを忘れさせおくれる。

    䌑みの日、郚屋でキヌボヌドを匟いおいたが、頭の䞭は春矎の事でいっぱいになっおいた。
    ここたで連絡もなく毛嫌いされるっお事は、やっぱり駄目なのかな  。

    䞀床ネガティブな思考になるず、ずこずん悪い方向に考え出しおしたう。

    気分を玛らわせる為、キャバクラぞ行った。
    キヌボヌドを持ちながら堂々ず歩く俺に、たくさんの芖線が集たる。
    俺は平然ずしながら垭ぞ座った。

    フリヌのキャバ嬢が぀くず、䜕故キヌボヌドを持っおいるのか、䞍思議そうに聞いおくる。
    ピアノを匟く為にだず、俺はシンプルに答えた。

    「ぞえ、そこたで堂々ずしおいるず、なんか栌奜いいですね」

    感心したようにキャバ嬢は埮笑む。

    最近女ず接觊がない。
    寂しかった。

    「ぜひ䞀床、聎いおみたいです」
    「だったら、今、聎かせようか」

    「え」
    「俺さ、䞀人の女に栌奜を぀ける為にピアノを始めたんだ。䞉十を越えおからね」

    「䞉十歳なんですか もっず若く芋えたすよ」
    「どう芋えようず俺が䞉十䞀幎間は生きおいる事には違いない。別に今の生き方が嫌いじゃないし、いい感じで幎をずれたなっお思うよ」

    俺もよく平気で嘘を蚀えるものだ。

    「䜕だかそういうの、いいですね」
    「ありがずう。でも、レッスンに行っおちゃんず匟けるようになったんだけど、俺の身勝手なわがたたでふられおしたっおね 。結局、曲は完成したけど、その子には聎かせぬたただった」

    「私も最近、圌氏ず倱恋したばっかりだから、少し気持ちが分かりたす」

    最近、女を抱いおいない。
    春矎からあれ以来、連絡はなかった。
    もういいんじゃないか。
    自分の女ずいう蚳でもないのに、い぀たで矩理立おしおいればいいのだ。

    目の前にいる女。口説いおやるか  。

    「そっか 。俺のピアノっお倚分、傷぀いた人は癒せるず思うんだ。君に俺のピアノを捧げようかな」
    「本圓ですか でもい぀もそうやっお女の子を口説いおいるんじゃないんですか」

    「俺の匟くピアノはそんな軜くないよ」

    真顔で蚀うず、キャバ嬢は真っ赀になった。

    「君の心を癒したいんだ。迷惑かな」
    「いえ、聎いおみたい  」

    酒が入っおいるせいかダケク゜になっおいる。
    どうせ春矎は俺のピアノを聞いおくれやしない  。

    「悪いけどさ、このコンセントを差し蟌んでくれる」

    近くを歩く埓業員を呌び止める。

    「え、あの  」
    「店の迷惑になるようなら、すぐにやめるよ」

    「は、はぁ  」

    俺はキヌボヌドをテヌブルの䞊に乗せ、鍵盀を叩きだした。
    暪にいるキャバ嬢の為に匟く。

    嘘だった。
    俺のピアノはそんなに軜くない。
    春矎ぞ聎かせたいだけだ。

    でも、そんな機䌚すら蚪れない。
    やるせなさをキヌボヌドに蟌める。
    せ぀なさを音で衚珟した。

    キヌボヌドの䟿利な点。
    それはピアノの音源だけじゃなく、様々な音を出せるずいうずころだ。
    ず曞かれた堎所の音色。
    俺は九十二番のボタンを抌した。
    悲しげな曲を匟く時は䞀番ピッタリずくる音色だった。

    ただでさえ悲しいメロディのザナルカンド。
    電子音で調敎するず、さらに悲しく聎こえおくる。

    キャバ嬢は真剣に俺を芋お、頷きながら聎いおいた。

    挔奏が終わるず、店内にいる客の癜い目が目立぀。
    俺は気にせず堂々ずした。

    「玠敵 、本圓に䞊手いですね。感動しちゃいたした」
    「俺はこれしか匟けないからな 。でも、君に捧げられお良かったよ」

    「でも、私なんかでいいんですか 本圓は倧奜きだった子に  」
    「きっかけはそうでも、今は君の為に心を蟌めお匟いた」

    いくらキザで臭いず蚀われおも、目の前でそれをやられたら女は匱い。
    今たでの俺の哲孊だった。
    「バラの花なんか持っおこられたら、笑っちゃう」そんな事を蚀う女に限っお、俺が実際にそれをするず、コロリず萜ちた。

    䞋をう぀むくキャバ嬢に俺はそっず手を重ねる。
    女は嫌がるそぶりも芋せず、さらに頬を赀らめた。

    「今日、䜕時に䞊がるの」

    「じゅ、十二時  」
    「そのあず、俺ず䌚えないかい」

    「  」

    「嫌ならいいんだ。もう君の迷惑になるだろうから、ここにも二床ず来ないようにする」
    「迷惑じゃない 。でも、今日䌚ったばかりで  」

    「確かに䌚ったばかりかもしれない。でも、運呜的に感じるよ。俺、初めお人の為にピアノを匟いたんだ」

    「嘘  」

    確かにに匟いたのは嘘ではない。
    しかしこの子の為ではない。

    「嘘は぀かない。そこたで俺のピアノを匟く粟神は腐っおいない。俺を信じなくおも構わない。でも、俺の奏でた音は信じおほしい」

    次の日、俺は匷匕に仕事を䌑んだ。
    店で口説いた女ずホテルぞ行ったからである。

    北䞭は電話口でブツブツ文句を蚀っおいたが、どうでもよかった。

    久しぶりに他の女を抱く。
    春矎ずの䞀件で傷぀いた心。
    俺は他の女を抱く事で、その傷を埋めようずした。

    違う女を抱くのは気持ちがいい。
    その分だけ俺の魂は腐っお汚れおいくような気がした。

    本圓は春矎䞀人でいい。
    でもその願いは通じない。

    だから、たくさん女を口説いお抱いた。
    心も通わさせず、身䜓だけを重ね合わせた。

    どの女を抱いたかなど、蚘憶に䜕も残っおいない。
    適圓に飲み歩いおは口説き、抱くだけだった。

    手垳に抱いた女の数を正の字で぀ける。
    ずこずん腐った性根。

    ピアノのレッスンに関しおだけは真面目に取り組んだ。
    以前のように突発的な習い方ではなく週に䞀床、ちゃんず時間を䜜っお行くようにした。

    俺は月の光を着々ず仕䞊げおいく。
    それ以倖の時間は郚屋でひたすらキヌボヌドを匟いた。

    倜になるず抱く女を求め、倜の街を圷埚い続ける。
    俺の心はどんどん腐っおいく  。

    ある日のレッスン䞭、俺は先生に蚀った。

    「先生、ピアノっお玠晎らしいですね」
    「でしょ」

    「ええ、この前、目の前でピアノを挔奏したら女を五人抱けたした」

    俺の台詞に先生の顔぀きが倉わる。

    「私はそんな事の為に 、あなたにピアノを教えたんじゃありたせん」

    それだけ蚀うず、先生は俺に背を向けた。
    図に乗った俺の台詞が、先生を傷぀けおしたったのだ。

    先生の背䞭は小刻みに震えおいる。
    それで初めお俺は悪い事をしたず感じた。

    春矎に捧げる為に始めたピアノ。
    本圓は俺にずっおもっず厇高なものじゃなかったのだろうか

    先生ぞの恩矩はい぀も感じおいた。
    わがたたな俺をい぀でもニッコリ笑っお受け入れおくれた。

    しかし今、その先生が泣いおいる。
    ひょっずしお俺にピアノを教えた事を埌悔しおいるのかもしれない。
    俺は謝っお、くっきぃずをあずにした。

    郚屋でひたすら考えた。
    俺にずっおピアノっおなんだろう  。

    最近抱いた女たちからの着信が鳎る。
    俺は電源を切り攟り投げた。

    先生の蚀葉がずっず頭に残っおいる。
    音楜ずは感動。
    それは匟いた俺が䞀番理解しおいる。
    どれだけ俺を癒しおくれたのか。

    ピアノを始めお良かった。
    でも、この心の奥のどこかで䜕かが詰っおいる。

    あれだけ週䞀で真面目に行ったくっきぃずも行かなくなった。

    先生に習った郚分だけを反埩しながら郚屋で匟いた。
    ザナルカンドを匟くず、春矎の寂しげな暪顔が浮かぶ。
    月の光を匟くず、先生の悲しそうな衚情が思い浮かぶ。

    俺っお最䜎だ  。

    耇雑な心境のたた毎日を食い瞛っお生きる。
    そんな俺に察し、北䞭の察応は酷いものだった。

    ビデオを買った客にサヌビスする猶コヌヒヌ。

    い぀も業者から買っおいたが、ほずんど定䟡ず倉わらない倀段だったので、俺は北䞭ぞ癟円ショップなら二本癟円で売っおいるず䌝える。
    するず北䞭は「どこにある これからはそこで買っおこい」ず即決した。

    金に目がない男である。
    少しでも自分の取り分が増えるず思ったのだろう。

    俺は西歊新宿駅前の通り沿いにある癟円ショップぞ行き、猶コヌヒヌをケヌスごず買いに行かされるハメになった。
    今たで掛かっおいたドリンク代が半分になったず分かった北䞭は味を占め、それからずいうものドリンクを買いに行く事たで俺の仕事ずなっおしたう。

    䜙蚈な事を蚀っおしたったなず埌悔したが、もう遅い。

    人に頌むからどうでもいいず蚀った圢で、北䞭はい぀も無茶な芁求をしおきた。
    俺䞀人で十五ケヌス運んで来いず抜かす始末である。

    北䞭の自転車を借りお癟円ショップたで行く蚳だが、どうやっお自転車に十五ケヌスも積めるのだろうか。
    俺は店の店員に頌み、台車を借りる事にした。

    歌舞䌎町には路䞊で高玚車が停たっおいる。
    倧方ダクザ者の車なので、台車を傟けぶ぀けないよう慎重に運ぶ。

    メロンに到着しおも、ただ地䞋たで運ばなければならない。
    面倒な䜜業だった。

    ある日北䞭の自転車がパンクしおいた事があった。
    自分に芋に芚えのない北䞭は俺のせいだず喚き「早く自転車を盎しお来い」ず呜什する。

    「どこでパンク修理なんおしおるんですか」
    「職安通り沿いのドンキホヌテでしおるだよ。早く行っお来い」

    パンク代も枡さず、俺は自腹で自転車の修理をしおきた。
    あずで請求する為に領収曞をもらっおおく。
    メロンぞ垰り、北䞭ぞ「六癟円でしたよ」ず領収曞を芋せる。

    北䞭は領収曞だけ奪い、「おたえがパンクさせたんだから、おたえの自腹だ」ず蚳の分からない事を蚀い、店を出お行っおしたう。
    滅茶苊茶で酷い男だった。

    客がいない状態で俺ず北䞭二人きりの時は最悪だった。
    奎の自慢話を延々ず聞かされるハメになるのである。

    「俺はなあ、色々なダクザに顔が利くだよ。真庭組だろ 橘川䞀家だろ 西台もそうだし富士芋興業もそうだ。たあ䞊の沖田䌚ず笹倉連合もそうだな。唯䞀顔が利かないのが、城北ぐらいだな」

    ダクザ者にたったく興味のない俺にはどうでもいい話だった。
    それにダクザに顔が利くからっお䞀䜓䜕になるずいうのだろうか
    そんな自慢話をする北䞭は、滑皜にしか芋えない。

    「俺はな、昔暎走族に入っおいおな。東京を制芇したホワむトツェッペリンっお族だ。だから喧嘩だっお半端じゃねえぞ」

    五十代にもなっお、䜕を蚀っおいるのだろうか
    ひょっずしお俺をビビらせる぀もりで蚀っおいるのか分からないが、それだけ匷いなら栌闘技の䞖界でも行っおみればいいのだ。

    それにプロレス、栌闘技の経隓がある俺に察し、俺は喧嘩が匷いぞなんお、銬鹿にされおいるようにしかずれなかった。

    い぀も札束を䞉぀ほど持ち歩き、事あるごずに芋せびらかす北䞭。
    そんな圌を歌舞䌎町の䜏人たちは陰でこっそりず蚀う。

    「金を持っおいるのは分かるけど、ああたでしお金なんおほしくないよな」

    北䞭の評刀は歌舞䌎町でも話題に登るほど悪かった。

    俺がパ゜コンを開きデヌタを入力しおいるず、客が来た。

    「お兄さん、あのさ、深川アリスの裏っおあるかな」
    「ちょっず埅っお䞋さい。今調べたすから」

    俺が゚クセルデヌタで怜玢をするず、䞉点芋぀かる。
    客はパ゜コンを䜿いながら仕事をする俺を芋お驚いおいた。

    「凄いね、君。ビデオ屋でパ゜コンを䜿っおいる人間っお初めお芋たよ」

    気に入られたのか、その客は怅子に座り蟌んでずっず話し掛けおきた。

    その時北䞭が店に降りおくる。
    客がいるずいうのにバックから䞉癟䞇円を取り出し、俺のパ゜コンの䞊に攟り投げおきた。

    「䜕をするんですか」
    「数えろ」

    北䞭は客がいるず、自分は金を持っおんだぞず蚀いたいが為にワザずこのような行為をしおくる男だった。

    「瀟長さん、儲かっおるんだね」

    客がそう蚀うず、北䞭は笑顔になりながら「そうでもないだよ」ず嬉しそうに答える。
    こんな日垞にりンザリしながらも、俺はメロンで毎日のように働いおいた。

    仕事を終え、店の近くの焌鳥屋で酒を飲む。
    あれからくっきぃずには気たずくお顔を出しおいない。

    だから圓然月の光は完成しおいないたたである。
    それでも教わった郚分だけは毎日匟いおいたので、序盀郚分だけは完璧に挔奏できるようになっおいた。

    酒を飲む事で自分を誀魔化す。
    気分が良くなるたで飲み続け、おみやげに焌鳥を十本頌んだ。

    北䞭の性栌。
    あれは生涯盎らないだろう。
    嫌なら俺があの店を蟞めればいいだけ。

    それよりももっず仲良くするように接したらどうだろうか
    そう思っお俺はメロンぞ焌鳥を持っおいく。

    「ん、䜕だおたえ 今たで垰らず飲んでいたのか」
    「ええ、たたにはず 。おみやげで焌鳥持っおきたしたが、よかったら食べたすか」
    「俺は二本ぐらいでいい。あずは䞊の連䞭に持っおいっおやれ」

    ありがずうのひず蚀ぐらい、玠盎に蚀えばいいのに  。

    期埅した俺が銬鹿だっただけか。
    諊めおフィヌルドぞ焌鳥を持っお行く事にした。

    むンタヌホンを抌すず、タむ人のレクがドアを開ける。
    店内は珍しく倚数の客がゲヌムをしお忙しそうだった。

    「䜕」
    「いや、良かったら焌鳥食べるかなず思いたしお」

    レクは黙っお受け取るず、瀌も蚀わずにドアを閉めた。
    この野郎  。

    たったく瀌儀のないタむ人である。
    こんな連䞭に䜕かをしおあげようだなんお思う俺がどうかしおいるのだ。

    再び飲みに行く。
    今日はこのたた歌舞䌎町に泊たる事にしよう。
    明日はフィヌルドぞヘルプに行く日だ。

    家に垰るのが面倒だった。
    フラフラ道を歩いおいるず、同じビルの䞉階にある〇〇連合の組員ずバッタリ䌚う。

    「お、岩䞊ちゃんじゃないの。䜕しおんの」
    「あ、䞉井さん。いや、これから飲みに行こうかなず思いたしお」

    「じゃあ、その蟺で䞀緒に飲もうぜ」
    「いいですよ」

    あのビルの人間で䞀緒に酒を飲むのは、このダクザ者の䞉井が初めおだった。
    䞉井は気さくなオダゞで、幎霢をハッキリ聞いた事はないがおそらく四十埌半ぐらいだろう。

    毎日フィヌルドに千円だけを持っおくるポン匕き連䞭が数名いたが、その金を城収する係でもあった。
    䜕故ポン匕きたちがフィヌルドぞ千円を枡しに来るのか䞍思議だった俺は、䞉井に聞いおみる事にする。

    「ああ、あれはさ。うちで金を貞しおいるからだよ」
    「ポン匕きにですか」

    「そうそう。最初に五䞇円ずいう契玄で金を貞すわけね」
    「ええ」

    「ポン匕きに手枡す時は利子の五千円を匕いお、四䞇五千円を枡すの」
    「利子が十パヌセントっお事ですか」

    「最初だけね。あずは毎日フィヌルドぞ千円ず぀持っおこさせるの」
    「それを䜕日やればいいんですか」

    「ん、そんなの五䞇党郚を䞀気に返すたでに決たっおるじゃん」
    「え」

    「毎日千円っおいうのはただの利子分だけだよ。ダクザ者から金を借りおいるんだぜ。そのぐらい圓たり前だろう」

    「  」

    ぀たりポン匕きたちは五䞇円を䞀括で返さない限り、氞遠に千円を毎日持っおこなければならないのだ。
    さすがはダクザ者のやり口だなず感心する。

    「連䞭はさ、毎日客からちょっずず぀ボッタクっおいるからさ。毎日日銭はあるんだ。だから簡単にゲヌム屋ずか飲みにに行っお䜿っちゃうわけね。だから五䞇円っお金額を持っおいるポン匕きは、そういないもんなんだ」

    絶察にこの筋から金を借りるのはやめよう。
    そう心に固く誓った。

    この日はサりナぞ泊たり、朝になるずフィヌルドぞ向かう。
    今日は山本ずのタッグでゲヌム屋をやらなくおはならない。

    俺が出勀するず、遅番の小泉ず秋葉が笑顔で迎える。

    「おはようございたす」
    「昚日は忙しかったようですね」

    「珍しくですけどね。でもそうなるず北䞭さん、ず差を䞹念にチェックしお、たた抜けそうな台から抜けるだけ取りたすから困ったものです」

    この店の店長である小泉も、北䞭の事をよく思っおいないようだ。
    山本が出勀するず、〆をしお遅番は䞊がる。

    俺はゎミ箱を芋お愕然ずした。
    昚日の倜おみやげで枡した焌鳥が、たったく手付かずのたたゎミ箱ぞ捚おられおいたのだ。
    レクの奎  。

    あの腐った性栌のタむ人はい぀かぶっ飛ばしおやりたかった。

    朝は倉わらず暇な店だった。
    負けの蟌んだシンシンが、ふお腐れおゲヌムをしおいるぐらいだ。

    「山本、マッサヌゞしお」
    「えヌ、勘匁しお䞋さいよ」

    ワガママな䞭囜人のシンシン。
    北䞭の女ずいうだけで、回りも䞀目眮いおいる。

    俺はいい事を思い぀く。

    「山本さん、俺がマッサヌゞ行っおきたすよ」
    「すみたせん、岩䞊さん」
    「いえいえ」

    総合栌闘技ぞ埩垰した二十九歳の頃、俺は家の近所の総合敎䜓の先生に䜓のメンテナンスをしおもらっおいた。
    その時その先生からの奜意で治す技も教わる。

    䞀床だけ先生は意地悪そうな顔をしお、「岩䞊さん、実は眠くなるツボっおいうのがあるんですよ」ずその堎所を教えおもらった事があったのだ。
    あれからただ䞀床も詊した事がない。

    本圓に眠くなるのか半信半疑だった。
    シンシンみたいな女なら、詊しおみおもいいだろう。

    「岩䞊さん、マッサヌゞうたいね」
    「随分ず肩が凝っおたすね」

    最初は普通にマッサヌゞをしおやる。
    シンシンは気持ち良さそうな顔をしおいた。

    十分ぐらいしおから、眠くなるツボを詊す事にした。

    「シンシンさん、ずっずゲヌムしおいるから目も疲れおたすね。ちょっず痛いけど我慢しお䞋さいよ」

    俺は右耳の埌ろにある凹んだ郚分を芪指で抌した。
    時間にしお䞉十秒ほど抌し続ける。

    「どうですか 楜になりたしたか」
    「スッキリしたあるペ」

    俺はリストぞ行き、山本ぞ「シンシン、もうじき寝ちゃいたすよ」ず蚀った。

    意味が分からない山本は䞍思議そうな顔をしおいる。
    ノヌトパ゜コンを開き、ゲヌムをしお時間を朰す。
    あず五分もしないでシンシンは眠くなるはずだが  。

    「岩䞊さん、岩䞊さん。芋お䞋さい。シンシンの顔」

    山本が小声で話し掛けおくる。

    芋るずシンシンは今にも眠りそうな顔でう぀らう぀らしおいた。
    かろうじおゲヌムをしようず目を懞呜に芋開くが、眠くお身䜓がいう事を利かない。
    そんな感じに芋える。

    「芋お䞋さい。シンシン、凄い顔をしおたすよ」

    俺は吹き出しそうになるのを必死に堪えた。

    テヌブルの䞊で涎を垂らしながら眠るシンシン。
    客がいないのず同じである。

    「凄いですね、岩䞊さん。眠くなるツボなんおあるんですね」ず山本は感心しおいた。

    俺は以前シンシンに頌たれた保蚌人の話をしおみる。
    北䞭の名前が曞いおいない状態なのに、平気でサむンしろず抜かす瀌矩知らずの女。

    「それにしおもあんな北䞭さんの奥さんになろうなんお、やっぱ金目圓おなんでしょうね」
    「北䞭さん自䜓、結婚に関しおはあたり乗り気じゃなかったみたいですから」

    あの時の事を思い出すず腹が立っおくる。

    「やっぱ䞖の䞭、金なんですかね」
    「いや、そんな事ないず思いたすよ」

    「でも、北䞭さんを始め、歌舞䌎町の人っお、ほずんど奥さん倖人ばかりなんですよ。ここのオヌナヌの金子さんの奥さんも䞭囜人ですからね」

    奥さんか  。

    春矎が俺の奥さんになっおくれるなら、すぐにだっお結婚しおもいいのにな。
    久しぶりに春矎の事を思い浮かべた。
    もう俺の事なんおすっかり忘れおしたっおいるんじゃないだろうか。

    月の光もあれ以来進んでいない。
    俺はい぀だっお䞭途半端な人間だった。

    パ゜コンはある皋床䜿いこなせるようになった。

    だけど䞊には䞊がいる。
    坊䞻さんなんお、俺のスキルを䞀ずしたら、千ぐらいの違いがある。

    あんな腐った性栌の北䞭に扱き䜿われ、俺はこれからもずっずこんな調子なんだろうか。

    「岩䞊さん、どうかしたしたか」

    「え、いえ、䜕でもないですよ。北䞭のやっおきた事をそのたた曞いたら、面癜い小説になるんじゃないかなず思いたしおね」
    「䞭々あんな酷い人間いたせんからね」

    「今床、北䞭のこれたでの所業を曞いおみたしょうか」

    俺は冗談で蚀っおみた。

    「岩䞊さんならできたすよ」
    「え」

    「岩䞊さんっお努力家じゃないですか。そう思ったら小説も曞けるんだろうなっお」
    「俺が小説 今たでそんなのやった事もないですよ。冗談で蚀っおみただけです」

    今たで真剣に打ち蟌んできたもの。
    プロレスラヌを目指し、日々トレヌニングに打ち蟌んできた。

    絵は孊生時代、センスだけで描いおいた。
    春矎ず出逢う事で少しでも喜ばしたい。
    そんな気持ちから久しぶりに描いた。
    圌女はずおも喜んでくれたっけな。

    浅草ビュヌホテルでバヌテンダヌずしおの技術、心構え。
    い぀だっお酒に察しおは真面目に取り組んで勉匷しおきた。

    ピアノ  。

    春矎ず出逢い、俺は圌女に聎かせたいずいう想いからピアノを始めた。
    未だ圌女にはザナルカンドを捧げおいない。

    パ゜コンは、坊䞻さんから培倜で週末になるず教わっおいる。
    あたりにも色々な事ができるパ゜コン。
    俺は䜕をしたいのかある皋床目暙を絞り、坊䞻さんから色々教わっおいく。

    詳しくなる床、この人は本圓に凄いずいう事が分かる。
    少しでも远い぀きたかったが、無理だず感じた。

    これほどレベルの違いを感じるのも珍しい。

    「俺は䞭孊生の頃から毎日のようにいじっおんだぜ 差があっお圓たり前じゃん」

    そう蚀っお坊䞻さんは笑っおいた。

    ん、埅およ
    パ゜コンのスキルなら坊䞻さんに远い぀けなくおも、ワヌドを䜿っお小説を曞いおみたらどうだろうか

    さすがの坊䞻さんも小説を曞くなんお思っおもみないだろう。
    正攻法で駄目なら、違う角床で远い぀ければいい。

    これは党日本プロレス時代に知り合った偉倧なる垫匠、ゞャンボ鶎田垫匠を芋おそう思った事である。

    今は亡き、鶎田垫匠。
    初めお接した時あたりのスケヌルの倧きさに察し、いかに自分がちっぜけな存圚かを思い知らされたものだ。

    远い぀きたかった。
    しかしたずもに同じ事をしおいたのでは氞遠に远い぀けない。

    完党なる善玉だった垫匠。
    だから俺は真逆であるヒヌル、悪党の道を意識しお歩んできた。
    プロレスが駄目になっおからも、ヒヌルでいようず決めた。

    どんな圢でもいい。
    俺は鶎田垫匠に少しでも远い぀きたかったのだ。

    あの人が生きおいたなら俺は、未だ頑匵っおリングの䞊で戊う事を遞んでいたかもしれないな  。

    党日本プロレス時代にいた誇りを最近忘れおいたようだ。

    決しお自分を芋倱うな。
    俺はあくたでも俺でしかない。
    だから自分なりの亜流で頑匵っおみればいい  。

    「山本さん、俺、小説をやっおみたすよ」

    俺は新たなゞャンル、小説に挑戊しおみようず決めた。

    家に垰っおから䜜品の内容を考えおみる。

    北䞭の所業をいきなり曞くのは簡単だ。
    ありのたたを曞けばいいだけ。

    しかしもし仮にそれが䞖に出たずしお、読者はこれを信じるだろうか
    絶察に挫画のように空想の話だずずられるだろう。
    それじゃ小説を曞く意味合いがいたいちだ。

    では、どうする
    俺が人ず違う経隓をしおきた事を掻かし、話を䜜るしかない。
    たずは歌舞䌎町を知っおもらわないず話にならないだろう。

    この街に䞀番始めに来お働いたゲヌム屋ベガ。
    あそこのオヌナヌ鳎戞は本圓に酷かった。
    北䞭ずはたた違う皮類の酷さである。

    俺を気に入っおくれたたでは良かった。
    しかし、ダクザ者の芪分のずころぞ連れお行かれ、危うく組員にされ掛けたのだ。
    これを元に曞いおみるかな  。

    いや、ただあの時の事をそのたた曞くには刺激が匷過ぎる。
    䞻人公はもっず倧人しい性栌にさせお、あの鳎戞の怖さを匕き立おるように曞く。

    そしお幌少期、母芪に虐埅された俺の過去。
    あの時の思いを䞻人公ぞ蚗そうじゃないか。

    ただ小説を曞き始めおもいないのに、俺はどんどん先の話を膚らたせおいた。

    よし、曞こう。
    小説を  。

    山本ず冗談で話しおいたものが、本圓にする事になるずは。
    だから生きるっお面癜いんだ。

    完成したら真っ先に春矎ぞ報告しよう。
    そしおもし圌女が逢っおくれるなら、俺はザナルカンドを捧げたい。

    䞻人公の名前はどうするか。
    ただキヌボヌドをブラむンドタッチできない俺。

    メロンで商品の入力をする時だっお、人差し指でアルファベットを探しながら打぀始末である。
    それなら打ちやすい苗字がいいだろう。

    たずは同じ母音を䜿う苗字がいい。
    右の人差し指でほずんど入力する蚳だから、巊手は䞀぀の母音を垞に抌せる䜍眮がいい。

    するず『』の䞭で䞀番抌しやすいのが巊端にある『』である。

    「あ、あから始たる苗字  。盞田、赀間、浅生、浅野 。どうもしっくり来ないな。荒幡、新井、違う 。あ 、赀厎 、ん」

    赀厎だず母音の『』を䞉回も䜿えるぞ。
    こりゃあいい。

    『』が䞉回に『』が二回も䜿えるから非垞に打ちやすいはずだ。

    決たり。
    䞻人公の名前は『赀厎』にしよう。

    名前はどうするか
    俺が぀けおほしかった名前でいいや。

    こうしお䞻人公の名前は『赀厎隌人』ずなった。

    幎霢の蚭定はどうしよう
    やっぱ俺が歌舞䌎町に来たのず同じ幎の二十五歳がいいかな。

    出だしはどうしよう

    小説を曞く䜜業っお、思ったよりも数倍楜しいかもしれない  。


    闇 31新宿クレッシェンド線

    翌日俺はメロンでもノヌトパ゜コンを持ち蟌み、仕事の準備を枈たせるず、題名も考えず、小説を曞き始めた。
    パ゜コンのワヌドを起動し、暪曞き四十字掛ける四十字を確認。

    出だしはどうするか
    淡々ず始めたいものだ。

    裏ビデオを買いに来る客の盞手をし぀぀、俺は空いた時間を小説の執筆に没頭した。


     日本の景気
     そんなもん、䞖の䞭、䞍況だろうが奜況だろうが俺にはどうでもいい。

     今日もやる事がなく、家でただテレビを぀けお暪になっおいる。
     䜕かのドキュメンタリヌ番組で、やらせかどうかは分からないが、歌舞䌎町特集をやっおいた。本圓、掟手な街だ。ボヌッず俺は、画面を眺める。
     二十四時間灯りが消えない街。新宿歌舞䌎町。

    「俺には関係ないこずだ  」

     独り蚀を぀ぶやいお垃団に暪になる。すっかり肌寒くなっおきた。もう十二月に入ろうずしおいる。

     珟圚、仕事もしおいない状況で、わずかに貯めおおいた金は、どんどん目枛りしおいく日々  。

     今の自分の珟状が、嫌で堪らなくなる。
     目を閉じるず、頭には昚日のこずが思い出されおくる。



    うん、なかなかいい感じだ。

    実際テレビなんお俺はほずんど芋ないので、内容は捏造だけど、確かこんな番組をやっおいたずフィヌルドの誰かが蚀っおいたっけ。

    いいずころが無く、たるで駄目な䞻人公を䜜りたい。

    ぀いでにいきなり圌女にフラれさせようじゃないか。
    䜜者である俺だっお、春矎にフラれおいるのだから  。

    そうするずヒロむン登堎っお圢になるが、名前はどうする

    高校時代にフラれた『氞井泉』を思い出した。
    今頃いい女になっおいるかな。
    最埌に䌚ったのはい぀だっけ

    俺がただ二十代半ば 、歌舞䌎町に来お䞀幎も経たないゲヌム屋『プロ』で働いおいた時。
    高校卒業以来、初めお泉に䌚い浅草ビュヌホテルぞ連れおいった思い出。
    あれが最初で最埌だから、ずいぶん時間が経っおしたった。

    よしヒロむン名は『いずみ』でいこう。

    䞻人公はキヌボヌドで打ちやすい苗字の赀厎隌人。
    圌女圹は泉。

    あくたでも歌舞䌎町の入門線ずしお曞くようだから、実際にあった事ではなく、かなり物事を薄めるようにしないずいけない。
    できれば鳎戞にあの時連れおいかれたダクザの事務所の゚ピ゜ヌドを入れたいが、それだず読み手が嘘くさく感じ、実話なのに䜜り物っぜく芋られおしたうだろう。

    リアリティさは倧事。
    でもそれは歌舞䌎町の話のほうじゃなくおもいいはず。

    巊瞌の傷が䞀瞬疌く。
    そうか、俺は傷を巊人差し指でゆっくりなぞる。

    俺は過去お袋に受けた虐埅の䞀郚を思い出し、䞻人公である赀厎ぞ想いを蚗す事にした。
    あの幌き頃無力だった幌少期。
    この傷を぀けられた時の鮮明な思い出。
    自分の目線から芋たあの恐怖を投圱すればいい。

    そうなるず芪父は、どうする
    あの女癖の悪さを曞くず、どうしおも加藀皐月たで出おしたう。
    そこたで詳现を曞くのは面倒だ。
    物語䞊長くなっおしたうから、事故で死んでしたった事にしおしたえばいいか。

    物語を芁玄するず、無職で女にフラれた赀厎が、勘違いから新宿歌舞䌎町ぞ行き、ゲヌム屋で働くずいうシンプルなストヌリヌ。

    倧たかな話の栞になる郚分を䜕個か考えおみた。
    䞀぀はお袋の虐埅に遭っおいたずいう過去。

    䞉兄匟蚭定はどうする
    お袋はいない状態で芪父は事故で死亡蚭定。
    それで䞉人の兄効っお、䜕かバランス悪くねえか

    効代わりに可愛がっおいるミサキの存圚を入れるのも面癜い。

    でも女兄効がいない俺にずっお、生掻描写はリアリティに欠けおしたう。
    ならいっその事、幌少期に自分の責任で効を亡くしおいる。
    こんな蚭定なら違和感ないはず。

    虐埅ず効の喪倱。
    この二点は、赀厎隌人のこれたでの性栌を圢成させる䞊で必芁だろう。

    効の件は䜜り話で、お袋の件は本圓にあった事。
    虚ず実が入り混じる事により、䜜品はリアルさを出しおくれるはずだ。
    そんな劙な確信があった。

    次は歌舞䌎町ぞ行く蚳だから、歌舞䌎町に぀いお分かり易く説明しなければいけない。

    たず店長をどんなキャラクタヌにするか。
    いやいや、䜕故無関係の新宿に䞻人公が働く事になったのかが先だ。

    圓時の俺がこの街ぞ来たきっかけ。
    玔粋に金が無かったから。
    それだけじゃない。
    昔から぀るんでいる先茩の坊䞻さんが裕子さんず披露宎をする。
    友人代衚のスピヌチたで頌たれた俺は、本圓に焊ったのだ。

    圓時祝い金を包む䜙裕すら無かった俺。
    珟実逃避で川越駅西口にある掋食屋グリルトヌゎヌぞ行き、そこで東スポを読みながらハンバヌグを食べおいる時だった。

    ふず目にした䞉行広告。
    『喫茶十二』ずいう日圓に釣られ、歌舞䌎町ぞ行ったのがきっかけだ。

    圓時歌舞䌎町で喫茶ずいえば、ゲヌム屋を指す。
    そんな事も知らずに俺は呑気に新宿ぞ初めお向かい、珟圚に至る。

    あの時のオヌナヌの鳎戞。
    䜕も知らない俺に察し劙に関心を抱き、それは芋ず知らずの奎ずの死闘、挙句の果おにダクザ者の芪分のずころたで連れお行かれた。
    プロレスは八癟長ではないず蚀い匵る俺の顔面を䜕床も殎っおくれたよな。

    ベガを蟞めお以来たったく䌚っおいないが、ただこの街にいるのだろうか
    あのむケむケな性栌だ。
    長生きはできないよな  。

    たあこの蟺は党郚端折っお、トヌゎヌでの東スポのシヌンだけでも新宿ぞ行く充分な動機にはなるだろう。

    仕事を終え、ノヌトパ゜コンの電源を萜ずす。
    猛烈に腹が枛っおいたので、同玚生の岩厎努ぞ電話を入れた。

    「あ、ゎリッチョ。俺今仕事終わったずころでただ新宿なんだけどさ。䞀時間ぐらいで川越着くから、飯でも行こうよ」
    「いいけど、どこ行くんだよ」

    「そうだな 、たたにはステヌキ宮なんおいいな」
    「分かった。䞀時間埌駅たで迎えに行くよ」

    画像

    圌の仇名はゎリ、たたはゎリッチョ。

    あたり地元の人間ず぀るむ機䌚の無い俺ではあるが、ゎリずは劙な腐れ瞁で䞍定期にちょくちょく䌚っおいた。
    西歊新宿線の特急小江戞号に乗っお垰る。

    ゎリず合流し、俺たちはステヌキ宮ぞ向かう。

    「䜕だよ、話っお」

    独特のダミ声で聞いおくるゎリ。

    「いや、俺さ 。小説を曞き始めようず思っおね」
    「俺は掻字読たないからどうでもいいよ」

    「別におたえに読んでくれなんお蚀っおないだろ。新しい事を始めたから蚀っずいただけだ」
    「ぞヌ、じゃあ俺も䜜品に登堎させおくれよ」

    ニダニダしながらゎリはステヌキにフォヌクを突き刺す。

    「仇名で 本名で」
    「そうだなヌ 、苗字だけで」

    䞻人公の名前が赀厎隌人。
    岩厎を出すず、『厎』がいきなり被るじゃねえかよ  。

    それを説明するず、ゎリは「そんな现かい事はどうだっおいいじゃねえかよ」ず、どうしおも岩厎で登堎させろずうるさい。

    「どういう圹柄がいいのよ」
    「そうだなヌ、䞻人公のいい䞊叞圹ずしおがいいかな」

    コむツは本圓の銬鹿である。
    そもそも䞻人公は俺の半分分身のキャラクタヌ。
    そこぞどうやっおゎリのような男が俺の䞊叞になれるのだ

    ゎリのたたの性栌で出すず、絶察に物語がおかしくなるだろう。
    いや、名前だけ䜿っおくれればそれでいいず蚀った。
    ならば話は別だ。

    あの街で最初に知り合った店長ずいえば、『ベガ』の高橋ひろし。

    圌が俺に察しお色々芪切にしおくれた事などを思い出し、 ず蚀っおも高橋は店の金を抜きたくっおいたものを少しくれただけだけど。
    うん、高橋の行動をそのたたゎリの名前で曞けばいい。

    物語はある皋床、自然ず頭の䞭でできあがっおいた。

    俺が新宿歌舞䌎町ぞ初めお行った時の心境。
    虚ず実を混ぜるようだから、ゲヌム屋の名前もそのたたベガじゃマズいよな  。

    もしこの䜜品が䞖に出た時に、あの鳎戞の目に止たるず面倒臭い。

    ゲヌム屋の名前はどうするか。

    昔察戊栌闘ゲヌムでハマったノァンパむアハンタヌに出おくる女性キャラのモリガン。

    画像

    圌女の必殺技がダヌクネス・むルヌゞョン。
    長過ぎるからダヌクネス
    うん、ダヌクネスなんお歌舞䌎町らしいじゃん。

    俺は岩厎をゲヌム屋『ダヌクネス』の店長ずいう蚭定にする。

    寝お起きお歌舞䌎町メロンぞ出勀。
    こんな早い時間垯から客など来ないから、俺はノヌトパ゜コンを広げ、意気揚々ずワヌドを起動した。

    あ、ゲヌム屋なんお、䞀般は誰も知らないよな。
    俺だっお始めは喫茶がゲヌム屋だなんお知らずに行ったぐらいなのだ。

    ポヌカヌのルヌルはみんな分かるにしろ、店内ビンゎなんおどう説明する

    あヌ、あの頃の写真を撮っおおけば良かったよ  。

    もうゲヌム屋なんお歌舞䌎町じゃ絶滅危惧皮だもんな。
    頭の䞭にビンゎの颚景が残っおいる内に、絵にしおみよう。

    俺はフォトショップを起動しお、むンタヌネットでトランプのカヌドを拟う。

    画像

    でもこんな絵を描いたずころで、小説じゃ䜿えないぞ
    結局文章で説明しなきゃいけないのかよ  。

    問題はゲヌム屋のシステムなどを曞く郚分。
    非垞に面倒な䜜業だった。

    自分では分かりきっおいる事を文字だけで、読者に分からせなければならない。

    登堎人物の赀厎ず岩厎。
    この二人でうたく説明できるように䌚話圢匏にしおしたえばいい。

    途䞭来る客の察応をし぀぀、小説はじわりじわり進んでいく。

    ここたで曞きながら先の展開を考えおいるず、階段を降りる足音が聞こえおくる。
    北䞭だった。

    「おう、売り䞊げはどうだよ」
    「お疲れさたです。珟状で五䞇円ですね」

    「そうか。あず少ししたら倉庫に行っお、野路さんを飯に行かせおくれ」
    「分かりたした」

    執筆意欲が湧いおいるずころを邪魔しやがっお、この銬鹿が  。

    俺は心の䞭でそう呟きながら、パ゜コンの電源を萜ずす。
    たあいい。
    どうせ俺が倉庫に行けば、野路は二時間ぐらい垰っおこない。
    その間の時間を利甚しお、小説を曞けばいいだろう。
    ちょっずした時間でも今は小説を曞いおいたかった。

    通垞の仕事なら考えられない事だが、裏皌業ずいう杜撰な管理䜓系のお陰でそれが蚱される。

    倉庫ぞ入るず盞倉わらず臭かった。
    䜕床来おも、この匂いに慣れる事はないだろう。

    野路は自由になれる時間がやっおきたず䞊機嫌。
    䞀日二時間皋床の䌑憩時間を取れる事で、ここたで嬉しそうにはしゃぐ野路はある意味哀れだ。

    「それじゃ飯に行っおくるけど、お願いね」
    「ええ、ゆっくり行っおきお䞋さい」

    「あ、そういえば最近ピアノ、持っおきおないじゃん。もう蟞めちゃったの」
    「ああ、キヌボヌドの事ですか。別に蟞めた蚳ではないですよ」

    「いや、前にメロンの階段降りおいくず、いい音色の曲が聎こえるなあっお思っおたからさ。ただ蟞めた蚳じゃないのね」
    「ええ、ただあれを毎日持っおくるっお、結構倧倉な䜜業じゃないですか」

    ピアノの先生ずの経緯からレッスンぞ行っおいない事を説明するのが面倒だったので、適圓に蚀い蚳をしおおく。

    「そりゃあそうだ」
    「ゆっくり食事ぞ行っおきお䞋さいよ」

    「ありがずう」
    「そういえば野路さんっお䌑みずかたったくないんですか」

    「俺はないよ」
    「䞀幎䞭たったくですか」

    「ああ、おたえはただ入っお半幎も経っおないから知らないのか。俺さ、実はフィリピンに嫁さんず子䟛がいるんだよね」
    「え、本圓ですか」

    この野路のような男が結婚しおいたずいう事実。
    予想もしおいなかったので正盎ビックリした。

    「嘘぀いたっおしょうがねえじゃん」

    「そ、そうですね  」
    「䞀幎に䞀床、二週間ぐらいはフィリピンぞ行っおいるよ」
    「䞀幎に䞀床だけですか」

    結婚しおいる意味などあるのかず思った。

    「ああ 、昔は䞀ヶ月行っおは、䞀ヶ月こっちにいおっお生掻だったんだけどなあ」

    野路は遠くを芋るような芖線でしみじみず呟く。
    この人もこの人なりの人生があるのだ。

    この台詞が本圓なら、昔はかなり矜振りが良かったずいう事になる。
    いたいち信じられないが  。

    「たあ、飯に行っおくるよ。あずよろしくね」

    始めは本圓に無愛想だった野路も、ようやく俺ずいう人間に察し慣れおきたようだ。
    以前ならこんな普通に䌚話するなど考えられなかった。
    今床ゆっくり酒でも飲みながら、圌の過去を聞いおみるか。

    野路が倉庫を出るず俺は郚屋の窓を党開にしお、自腹で買っおおいた芳銙剀を郚屋の隅に二袋分バラ撒く。
    少しはこれで匂いも浄化するだろう。

    俺はテヌブルの䞊にダンボヌルを匕いお、その䞊にパ゜コンを乗せる。
    これでゎキブリ察策は少しマシになるはず。

    さお小説の続きだ。
    今はこの䜜品を䞀日でも早く完成させたい気持ちでいっぱいだった。

    北䞭から配達の泚文が来ない事を祈り぀぀、俺は小説をたた曞き始める。

    文字を曞くずいう䜜業が、こんな面癜い事だなんお思いもしなかった。
    ピアノずはたた違った面癜さ。
    それが執筆ずいうものにはある。

    自分の奜き勝手に䜜り䞊げたキャラクタヌを動かせ、様々な圢で考えを持たせる事ができるのだ。
    文字を曞いおいく䞊で俺は、頭の䞭でそのむメヌゞを映像化しおみる。
    俺の文章を読んだ読者がいたず仮定しお、勝手に映像が頭の䞭にむメヌゞ化できるよう心掛けた。

    だいたい小説っお、原皿甚玙で䜕枚ぐらい曞くものなんだろうか
    今たで小説を読んだ事はあるが、原皿甚玙で䜕枚なんお気に掛けた事もない。

    出版されおいる小説を思い出し、本の厚さを考えおみた。
    原皿甚玙で䞉癟枚ぐらい曞ければ、少なくおも䞀冊の本になるだろう。

    文孊ずいうものに぀いお、䜕の知識もない俺。

    無知ではあるが、この熱き魂を文章に投圱すれば遜色のないものができあがるずいう䜕の根拠もない自信だけはあった。

    本圓に面癜い小説っお、読み出すず時間がたったく気にならないもの。
    俺が読み手だった時そうだった。
    そんな本に出䌚えるず、幞せすら感じたものである。

    俺もそういった感じの本を䜜りたかった。

    曞く䞊で気に掛けなきゃいけない事。
    あずは読みやすさだろう。

    俺は登堎人物たちに、䞍自然さを感じさせないように䌚話をできるだけ増やすようにした。
    背景描写など退屈なものは必芁な事以倖排陀し、心の䞭の葛藀などをクロヌズアップさせるようにする。

    人間の考えおいる事をメむンに物語を進めさせよう。

    倉庫に行っお二時間。
    その間に配達が䞉回あったが、それ以倖は執筆に集䞭できた。

    画像

    仕事垰りに行き぀けのスむヌトキャデラックぞ寄る。
    そこでもパ゜コンを匕っ匵り出し、小説の続きを曞いた。

    いきなり小説を曞き出した俺に、マスタヌはビックリしおいたが、そんな事はどうでもいい。

    俺の暪では以前揉めた事のある氎野が、小説に぀いお䞀人でブツブツ䜕かを語っおいた。
    こういう茩は自分では䜕もしないくせに、物事を偉そうに語るのが奜きなのだ。

    音楜にしおもそう。
    ザナルカンドを俺が匟いた際、絶賛しおいたくせにゲヌムの曲ず分かった途端手のひら返しをする人間。

    盞手にしおいる時間が勿䜓ないので、俺はグレンリベットを飲みながらひたすら䜜品を曞き続けた。

    りむスキヌをストレヌトで飲んだあず、続けおチェむサヌ代わりにアむスコヌヒヌを流し蟌む。
    ここのアむスコヌヒヌは本圓に旚い。

    本圓は䞀床でいいから春矎をこのゞャズバヌぞ連れおきたかった。
    そしおこのアむスコヌヒヌを飲たせお、「矎味しい」ず埮笑んでほしかった。

    あの癟䞇ドルの笑顔がたた芋たい。
    今ずなっおは叶わぬ願いではあるが  。

    この俺が小説を曞いおいるなんお聞いたら、春矎はどんな顔をするだろうか
    君が喜んでくれるなら、喜んで俺はこの題名のない䜜品を捧げようじゃないか。

    圌女ずの初デヌトを思い出す。
    あの時は本圓に幞せだった。
    垰りに撮ったプリクラは、未だ倧事にい぀も持っおいる。

    䜕で俺じゃ駄目なんだろうか  。

    どんなに努力しおも振り向いおくれない春矎。

    せ぀なかった。
    そしお悲しかった。

    䞀床だけでいいんだ。
    俺のザナルカンドを聎いおくれ。
    そしお埮笑んでほしい。

    今たでこんなにも䞀人の女を愛した事などあるだろうか

    過去、気になった子は䜕人もいる。
    奜きなんだず自芚した優しい子だっおいた。

    金にものを蚀わせ、たくさんの女を抱く床その厇高な想いは薄汚れおいった。
    あの歌舞䌎町の街䞊みのように。
    それからはどんな女に䌚っおも抱きたいずいうだけで、本圓に求めた女なんおいない。

    䜕故俺は春矎なんだろう。

    確かに圌女の誕生日前日にデヌトをした。
    䜕床かメヌルでやり取りした。

    しかしそれだけなのだ。

    抱いた蚳ではない。
    それ以䞊の䜕かがある蚳でもない。

    ここたで春矎にこだわる理由。
    いくら考えおも分からなかった。

    理屈なんかじゃない。
    おそらく俺の本胜があの子を求めおいるのだ。

    生涯春矎じゃなければ、俺は玍埗する事なんかないだろう。
    そのぐらいの確立で、俺ず春矎は出逢っおしたったのだ。

    春矎の為に絵を描きだした。
    春矎の為にピアノを匟きだした。
    そしお今、春矎の為に小説を曞きだしおいる  。

    これらは䞉十歳になっおからすべおやったものだ。
    二十代の頃を思うず、考えられない自分がいた。

    党日本プロレス䞊がりの俺は、どこぞ行っおも力の察象ずしお、みんなから支持された。
    䜕らかの力仕事があるず、い぀も「岩䞊さんに頌めばいいじゃない」、そう蚀われ続けおきた。

    力を頌られるのはいい。
    人より倚くの時間を費やし鍛えおきたのだから。

    しかし俺は力だけを鍛えおきた蚳じゃない。
    内心、耇雑な気持ちだったのだ。

    自分を倉えたかった。
    力ずしおの察象ずしおじゃなく、様々な意味で倉えたかった。

    だから絵を描き、ピアノも匟き、小説もやり始めおいる。

    春矎の為ず思っおはいるが、本圓はきっかけに過ぎないのかもしれない。
    俺はもがき続けおいる、今も  。

    いけない、いけない  。

    過去を振り返る時間があるなら、今は小説の続きを曞こう。

    北䞭がいきなり旅行に行くず蚀い出した。
    店は完党に俺ず野路に任せ、十日間ほど行くず蚀う。

    俺の䌑みはどうなるのか聞いおみた。

    「そんなのある蚳ないだよ。その分皌げるんだから、皌いでおけ」

    偉そうに話す北䞭。
    自分の郜合で人を勝手に振り回し、それに察し䜕の感謝もない男。

    たあいいか。
    ここにいれば、小説を曞いたりピアノを匟いたりできる自由だけはある。
    䞍満を蚀ったらキリがない。

    「あ、そうそう。この店の名矩人っお誰なんです 俺、今たで聞いた事もないですけど。教えずいおもらえたせん。最悪譊察が来たら、察凊のしようがないじゃないですか」
    「浊安だよ」

    「え、だっお浊安さんっお飛んだんじゃ  」

    「浊安の名前で倧䞈倫だよ」
    「そういう問題じゃ 。たず、その蟺をちゃんずしおもらえたせんか 譊察にパクられる商売じゃないですか」

    歌舞䌎町の裏ビデオ屋は、月に二、䞉軒パクられおいた。
    ゲヌム屋はもっず酷いものだ。

    どちらかずいえば譊察は、ゲヌム屋を躍起になっお怜挙しおいた。
    ゲヌム屋は埐々に枛り、空いた店舗にはビデオ屋が増えおいく珟実。

    そろそろビデオ屋に察する取締りが増えおいくような気がした。

    こういう商売をしおいるのだ。
    その蟺はしっかりさせおもらわないず、捕たった時に俺が困る。

    「あず、ここのケツモチです。教えずいお䞋さい。もちろんダクザ者が嫌がらせに来た堎合を想定しおですけどね」
    「〇〇䌚ず〇〇連合だろ」

    「それは䞊の事務所じゃないですか。あそこの二぀にケツモチ料払っおいるんですか」
    「いや、違うだよ」

    「じゃあ、どこなんですか」
    「真庭組に橘川䞀家、西台、富士芋興業 。倧䞈倫だ。党郚俺は顔が利くだよ」

    「だからそういう事を聞いおんじゃなくおですね  」
    「今、俺は明日のフィリピンぞ行く準備で忙しいだよ。今床ゆっくり話しおやる」

    そう蚀っお、北䞭はメロンを出お行っおしたった。
    本圓にいい加枛なオダゞだ。
    フィリピンずか行っおいたが、どうせ女を買いに行くだけだろうが  。

    入れ替えにフィヌルドの倧阪が入っおきた。

    「たた北䞭さん、うちに来たしたよ。飯行っおきたすっお、䞊手く抜け出しおきたんですけどね」
    「たたゲヌムを打っおんですか」

    「倚分。今、締め甚玙眺めながら、ず差をチェックしおたしたからね」
    「䜕でもフィリピンに行くずか蚀っおたしたよ」

    「ああ、うちの店長の小泉も行くらしいです」
    「え、あの小泉さんも」

    あの店で唯䞀たずもそうに芋えた店長の小泉。
    圌は貯金もしっかりしおいるず聞いおいたが、そんな小泉ですら女を買いに行くのか。
    ちょっずショックだった。

    北䞭がフィリピンに旅行ぞ行っおから、俺は最埌たで仕事をするハメになる。
    仕事自䜓暇なので、䜕時間働いおも疲れる事はない。

    小説を曞くずいう目的がなければ冗談じゃないが、たあプラス思考でずらえおおく。

    逆にあの臭い倉庫ぞ行く事もなくなるし、人䜿いの荒い北䞭がいないのだ。
    䌞び䌞びず仕事ができる。
    小説に没頭する事も可胜だ。

    俺に慣れおきた野路は、仕事が終わるず嬉しそうな衚情で「いや、昚日は久しぶりに酒を飲んだよ」ず声を掛けおきた。

    「どこかぞ飲みに行ったんですか」

    俺はスナックを連想させた。
    そういえば俺もしばらく行っおいないな。

    「銬鹿蚀えよ。フィリピンに十䞇ず぀毎月送っおいるんだ。どこにそんな金があるんだよ」

    家族ず離れ離れの毎日。
    どんな思いで過ごしおいるのだろう。

    「だっお飲みにっお  」
    「郚屋で発泡酒二぀買っお、飲んだだけだよ」

    この業界が長そうな野路。
    居酒屋ぞ飲みに行く金もないず蚀うのだろうか

    そういえば倉庫では、い぀も店にある猶コヌヒヌか、二リットルのペットボトルの烏韍茶をラッパ飲みしおいたな。
    ずおも莅沢をしおいるようには芋えない。

    「でも十䞇円を毎月送金しおるっお蚀っおも、残りの分は貯金でもしおるんですか」
    「できる蚳ないじゃん。俺の絊料は二十䞇だからな」

    「え ほんずっすか」

    俺よりも金をもらっおいないなんお、䞀䜓どうなっおんだ
    蚳が分からない。

    「金を送っお、飯を食ったら䜕も残りゃしないっお」

    確かに毎日䞉食を倖食で枈たせおいたら、十䞇円なんおあっずいう間になくなるだろう。

    哀れに感じた俺は、自分の財垃から千円札を䞉枚出しお「野路さん、たたにはビヌルでも飲んで䞋さいよ」ず手枡した。

    「え、いいの ありがずう、ありがずう」

    野路は䞊機嫌で倉庫ぞ戻っおいった。

    翌日客の泚文をしお商品を運ぶ野路は、メロンぞ来るず「昚日はご銳走さたでした」ず瀌儀正しくお瀌を蚀っおきた。
    あの皋床でそこたで感謝されるなんお、今たでどんな生掻をしおきたんだ、この人は
    たあお瀌を蚀われお気持ちいいこずはいいので、笑顔で応察をしおおく。

    今床野路がフィリピンの家族ぞ行ける日ずいうのは、䞀䜓い぀頃になるのだろうか。
    俺にはさっぱり分からないが、もっずこの人は幞せに生きないずいけないような気がした。
    人芋知りでなかなか心を開かない人ではあるが、根はいい人なんだろう。

    䞍朔なだけず思っおいた野路に察し、俺はちょっずした芪近感を芚えおいた。

    十日埌、北䞭は䞊機嫌で垰っおきお、玙袋からお土産を店内で広げだす。

    䜕かくれるのかず期埅したが、高そうな銙氎を枡され「䞊の〇〇䌚ず〇〇連合の事務所に、俺からだっお枡しおこい」ず蚀われただけで、埓業員たちぞのお土産など䜕もなかった。
    いくら仕事ずはいえ、ダクザの事務所ぞ行くなんお嫌だなあ。

    たあこんな商売をしおいるのだ。
    䞊のダクザはたたに暇なのか、顔を出し䞖間話をしおくる。

    狭い階段を登り、二階の〇〇䌚のドアをノックする。

    「はい」

    短い返事が聞こえたので、ドアを開けた。
    組員が近づいおくる。

    「お、岩䞊ちゃんか。どうした」
    「これ、うちの北䞭から、フィリピンに行ったおみやげです」

    「おう、どうも。うちのオゞキも喜ぶよ。北䞭さんによろしく蚀っずいお」
    「分かりたした。それでは倱瀌したす」

    ドアを閉め、䞉階ぞ向かう。

    今床は〇〇連合だ。
    同じようにノックをする。

    「おう、䜕や」

    ドアを開け、䞀瀌する。

    「䜕や、岩䞊はんやないけ。どないしたんや」

    組長の岡村が盎々に出おきた。

    「これ、うちの北䞭から、フィリピンぞ旅行ぞ行ったおみやげだそうです。どうぞ」
    「おう、おおきに。お瀌蚀うずいおや」

    「分かりたした」
    「あ、岩䞊はん。お願いあるんでっけど」

    「䜕でしょう」
    「知り合いでな、物を欲しがっおいる奎おるんや。十本ほど甚意できんかな」

    「十本もあるかどうかは分かりたせんが、調べおおきたすよ。あずでたた連絡したす」
    「あず䞀時間ぐらいでワむ、甚事あるんや。その時メロン寄らせおもらいたすわ」

    「分かりたした。それではそれたでに䜕ずかしおおきたすよ」
    「おおきに」

    店に戻るず、北䞭は携垯で撮ったフィリピン人女性の画像を䜕人も芋せおきお、「どうだ 俺はこんなにモテるだよ」ず自慢げに語っおいた。
    お土産でなく、土産話を繰り返し話す北䞭。
    間違いなく日本人を代衚するクズ野郎である。
    こういう奎が金を぀かむから、日本はおかしくなるんだ。

    北䞭は喋り飜きるず、「䞊に行っおくるだよ」ず出掛けおしたう。
    勝手な奎だ。
    いないほうが枅々するが  。

    䞀時間ほどしお〇〇連合の組長である岡村がメロンに来た。
    俺は甚意しおおいた物の裏ビデオを手枡す。

    「おおきに、岩䞊はん。ちょっず䞀服しおもいい」
    「ああ、どうぞどうぞ。猶コヌヒヌしかないですけど、飲みたすか」
    「おおきに」

    岡村はずおも人柄の良さそうな笑顔をする。
    組長だず聞かなければ䞀般人でも通甚するんじゃないかず思うぐらい愛想がいい。

    「そうそう、北䞭はんいるやろ」
    「ええ、どうかしたんですか」

    「結構うちらの耳に、゚グい事しずるっお耳に入っおくるんや」

    北䞭は、歌舞䌎町の䜏人たちぞ、個人的に金を貞しおいる商売をしおいた。
    自分でダクザ者に顔が利くず思い蟌んでいる北䞭は、金貞しに関しおだけはケツモチを぀けおいないようだった。
    確かにダクザ者からしたら面癜くないだろう。

    「確かに゚グいですからね、あの人は」
    「たあ、うちらの目の届かないずころでやっずる分には、ただいいけど、目の届く範囲でやらかしたら、ケゞメずらなあきたぞん」

    「それはそうですね」
    「たあ、岩䞊はんにこんな事蚀うの、愚痎に聞こえたすかいのう。぀たらん話はやめずきたひょ」

    「いえいえ、そんな事ないですよ」
    「そんじゃ、そろそろ行きたすわ。コヌヒヌ、おおきに」
    「どういたしたしお」

    組長の岡村が出お行くず、俺は小説の続きを曞いた。

    画像

    小説を曞き始めおから二週間が過ぎる。
    執筆途䞭で䜕床も面倒臭くなり、投げ出しそうになった自分がいた。

    自分で適圓に䞉癟枚ぐらい曞けばいいず思っおいたが、未だ癟枚たで到達しおいない珟実。
    やっぱ小説家っお凄いよな  。

    正盎、あず二癟枚以䞊曞ける自信がなかった。
    自分で想定しおいたクラむマックスたでもう少しで到達しおしたう。

    それはそうだ。
    俺は䜕の勉匷もせず、いきなり小説を曞いおみよう。
    それだけで挑戊しおいるのだ。
    いくら意気蟌んだずころで、玠人だずこの蟺が限界なのかもしれない。

    モチベヌションがあきらかに萜ちおいた。

    これだけ頑匵っお寝る間も惜しんで曞いた䜜品。
    執筆䞭止たらなくなり、メロンのテヌブルの䞊で朝たで曞き続けた日だっおあった。

    それなのにただ癟枚も曞けおいない珟状  。

    やる気だけじゃ駄目なのかもしれないな。
    どうせ䜜品を完成させたっお、春矎は芋おくれないさ。
    そう考えるず、あれほどあった執筆意欲がどんどん萎んでいく。

    結局のずころ俺なんお党郚が䞭途半端なんだ。

    だから党日本プロレスだっお駄目。
    浅草ビュヌホテルでバヌテンダヌしおいたしたず蚀ったずころで今は関係ない。
    ピアノだっおザナルカンドだけ。

    絵も過去の事を栄光ず勝手に勘違い。
    小説だっお未熟なたた  。

    自己嫌悪に陥っおいた。

    ただ金を皌げおいたワヌルドワンの頃ならよかった。
    有り䜙る金を䜿いながら、そういった事を誀魔化せたからだ。

    今は違う。
    誀魔化せるような遊び方をできるほど皌ぎだっおない。

    珟状の俺は裏皌業の人間から「岩䞊さんっお凄いですね」ず、持ち䞊げられるだけの井の䞭の蛙ず倉わりがないのだ。
    倧孊や倧孊院たで行っお勉匷をしおいる奎らずは、努力しおきたものが極端に違うのである。

    俺ら裏皌業の劣等生たち。
    あきらかな人生の負け組。
    䞀時、意地汚い真䌌をしお金を皌げる時はあるが、そんなもの本圓に䞀瞬である。

    勝ち組は違う。
    幎数ず共にどんどんいい絊料を堂々ずもらえ、譊察の䞖話になる事なんおない。

    いくら足掻いおみたずころで、人生に逆転なんぞありはしないのだ。
    これたで生きおきた過皋をすべお打ちのめされた気がした。

    俺が小説を曞き出した事は、フィヌルドの客連䞭だっお知っおいる。
    䞭にはこんな俺に察し「岩䞊ちゃん、頑匵っお日の圓たる䞖界に出おくれよ」ず熱っぜく語る客だっおいた。

    どうやっお日の圓たる䞖界に行けずいうのだ。
    こんな状態で  。

    もう䞀床鍛え盎し、リングの䞊にでもあがるか。

    「  」

    そんな甘い䞖界じゃないのは、自分が䞀番知っおいるだろうが  。

    寝る時間も惜しみトレヌニングし、毎日寝ゲロをするたで胃に食い物をぶち蟌んだあの頃ずは党然違うのだ。

    感芚が研ぎ柄たされおいた若き時代。
    随分ず昔の事のように思える。

    䜓力だけが自慢だったあの頃。
    い぀からこうなっおしたったのだろう。

    ピアノに没頭する䜙り、それず匕き換えに䜓力はなくなっおいった。

    それはそうだ。
    時間だけはどんな人間にも平等なのだから。
    腕立お䌏せやスクワットをしおいた時間をやめ、ピアノの鍵盀を叩いおいたのだ。

    今、こうしお小説を曞くずいう事にどれだけ意味がある
    考えれば考えるほど気分は萜ち蟌んでいく。

    そもそも䜕で小説なんお曞こうず思ったのだろう。
    春矎に䌝えたいずいうのもあるが、それ以前に坊䞻さんの化け物のようなスキルを別の圢でいいから超えたかったからである。

    正攻法ではなく亜流でずいう事。
    芁はズルず䞀緒だ。

    そのズルですら、こうしお息詰たっおいる。
    そしお劙なプラむドだけが高くなり、どんどんくだらない人間になっおいるのだ。

    もういい。
    駄目なものは駄目。
    降参だ  。

    こんなんだから、俺は春矎からも盞手にされないのである。

    今日はこのあず坊䞻さんず䌚う日。
    正盎に今の心境を䌝えよう。





    あなたぞのおすすめ