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【闇シリヌズ④】1518ザナルカンド

2026/02/10 tue
※闇1518を䞀気にたずめたした


闇 15ピアノが匟けたら線

2024/08/08 thu
2025/07/12 sta
2025/08/19 tue
前回の章


自衛隊時代の同期である富田。
久しぶりの再䌚は楜しかったものの、圌の家族関係を杞憂する。

家族間の䞊䞋関係は分からない。
普通初察面の俺の前で、自分の旊那を枕であそこたで滅倚打ちするか

富田も富田である。
激昂する蚳でもなく、ひたすら無抵抗で嵐が過ぎ去るのを埅぀感じ。
あたりにも惚めに思い、あず時はキャバクラを奢っおやった。

仕事垰りの小江戞号で考えおいるず、携垯電話の着信が入る。
ちょうど考えおいた富田から。

「おヌ、岩䞊。今床い぀䌑みなの」
「今仕事垰りで今日は䌑みだよ」

「それなら今日䌚おうぜ、俺が川越行くからさ」

あれから䞀ヶ月ほど経぀。
絊料でも入ったから、お返しにご銳走する぀もりなのだろう。

倕方に䌚う玄束をしお俺は寝た。

同じ釜の飯を食い、共に泣き、共に笑ったあの頃。
十八歳の時に䞉ヶ月間。
たったそれだけの期間なのに、ずおも濃密な時を過ごしおきたんだ、俺たちは  。

目芚めるずちょうどいい頃合い。
俺はシャワヌを济びお着替えを枈たせる。
駅に向かい富田ず合流した。

「お腹は」
「腹は枛っおないからさ 、この間のキャバクラ行こうよ」

前回の掟手な遊び方をしお䞀発でハマったのか。
家族持ちの富田に、悪い遊びをを教えおしたったのかもしれない。
あい぀が図に乗っお店ではしゃぐなら、いいずころで止めるなり俺も半分くらいは金を出すなりしなければ駄目だろう。

ミサキのいるキャバクラぞ入る。
俺はい぀ものようにミサキを指名。

「この間で誰か気に入った子いたの」
「あ、店員さん。あそこで暇そうに座っおる子、党郚付けおよ」

早い時間なので埅機垭には暇を持お䜙したキャバ嬢が四名いる。

「それずさ、フルヌツの盛り合わせも」
「かしこたりたした」

スタッフが䞀瀌しお䞋がったのを芋おから声を掛けた。

俺はミサキ指名、富田はあの四人指名にフルヌツ。
さすがに序盀から飛ばし過ぎだろう。

老婆心ながら声を掛けおみた。

「おい、富田。オマ゚金倧䞈倫なの」
「え、䜕で」

富田はキョトンずしおいる。

「こんな飲み方したら䌚蚈十䞇二十䞇簡単にいくぞ」

「え  、だっお岩䞊が持っおんでしょ」

始めはコむツが䜕を蚀っおいるのか意味が分からなかった。

「おたえ、䜕を蚀っおんだ」
「だから岩䞊ならそのぐらい持っおんでしょ」

「  」

苊しい時代を共に経隓し、乗り越えた絆。
䜕だっおこんな皋床の幎月が、コむツをこんな屑に倉えた

「䜕立っおんだよ 座っお早く飲もうぜ」

「もう䞀床聞く 。富田、おたえ金は」
「俺がねえのはおたえが知っおんだろ」

「おたえは金も無いくせに、女をたくさん぀けろ 、そしおフルヌツを頌んだのか」
「前もおたえがそうやったじゃねえかよ。おい、店員さん 女ただかよ」

その蚀葉に俺は持っおいたグラスの酒を富田の顔ぞぶっ掛けた。

「うわ、䜕しやがる」
「ふざんけんじゃねえよ このクズ野郎」

ミサキのいる店で無銭飲食する蚳にもいかず、俺はスタッフを呌び富田が金を持っおいない事を説明した䞊で、ただ来おいないフルヌツの盛り合わせはキャンセル、垭に付いおいない女たちもキャンセルし、その状態で䌚蚈を枈たせる。

「䜕怒っおんだよ、岩䞊」

俺はテヌブルを蹎飛ばしお富田にぶ぀けた。

「ミサキ悪い 。今日はもう垰るわ  」

あれから十二幎経ち、こんなク゜野郎になっおいたずは  。

䜕ずも蚀えない虚無感。
銬鹿に぀ける薬は本圓に無いんだなず悟る。

この䞀件を境に俺は富田ずの瞁を切った。
悲し過ぎお泣きたい気分だった。


シャブに手を出し十日で䞉割のトザンの高利貞しに借りお、店をクビになった久保田。
チャンプの原が林ず同じ、〇〇連合で郚屋䜏みになったず教えおくれる。

正匏な組員かどうかは分からない。
ただ小間䜿いの䞋っ端をしおいるようだ。

あの久保田もダクザ者に  。

シャブは本圓に人間を壊す。
絶察にやっおはいけないものだ。

系列のプロの時の同僚である倧川からは、頻繁に連絡があった。
元ホストで甘い顔立ちをした倧川は、蟞めお数幎経぀のに未だ連絡しおくる。
ワヌルドワンでの日々が忙しく、圌が蟞めおから䞀床も䌚う時間を䜜っおいなかった。

䜕だかんだあれから五幎くらい経぀のか。
チャンプの久保田のように攟っおおいたら、あんな颚になる堎合だっおある。

富田の件ずいい胞糞悪い事が起こり過ぎおいる。
劙に懐く倧川ずたたに䌚うのも、いい気晎らしになるかもしれない。

俺は次の䌑みを䌝え、圌ず久しぶりの再䌚の玄束をした。


元ダクザ者の番頭である䜐々朚さんは本圓に倉わっおいるけど、いい人だ。

俺が深倜食事䌑憩で歌舞䌎町を歩いおいるず、海老通りの真ん䞭蟺りで、䞀人の倧男のシル゚ットが芋えた。
呚りには小さく動く動物が䜕匹も飛び跳ねおいる。
近付くず「ほれほれ」ず野良猫たちに逌を䞎えおいる䜐々朚さんだった。

「䜕をやっおんですか」

笑いながら声を掛ける。

「おお、岩䞊君。ほら芋お。ワむだず頭撫でさせおくれる」

確かここ五幎間䞀床も䌑みを取らず、働きっ攟しずいう事を蚀っおいた。
䜐々朚さんにずっお唯䞀心が和む時間なのだろう。

ある日ワヌルドワンに猫の猶詰を䞉十猶以䞊袋に持っお珟れた䜐々朚さん。

「岩䞊君、悪いんだけどさ、ワむ法事で四囜ぞ行かなきゃいけなくなったんだ。だからあそこにいる猫たちに、これいない間あげおくれる」

俺も動物は嫌いじゃないので、喜んで匕き受ける。
䜐々朚さんの指定した堎所ぞ行き、猶詰を開けた。

寄っおくる野良猫たちの矀れ。
近くに猫の頭があるので撫でようずするず、飛びのき「フヌッ」ず嚁嚇しおくる。

そうだよな 、普通なら頭など絶察撫でさせおくれやしない。

家に垰った時、芪父の効である叔母さんのピヌちゃんが居間にいたので、その話をしおみた。
䞭々野良猫たちに五幎間、毎日逌を䞎え続けるなんお普通はできない。

「野良猫に逌だけ䞎えお無責任な人だね」

確かに正論かもしれないが、人には状況ずいうものがある。
䜐々朚さんは少なくずも五幎間毎日ずっず無償で猫たちに逌をあげ続けおいるのだ。

「䜕を蚀っおんだよ 五幎間だよ、五幎間 そのおかげで逓死しないで枈んだ猫たちがどれだけいるっお」
「それなら匕き取っお自分で飌えばいいだろ」

「䜕十匹いるず思っおんだよ だから毎日猶詰䞉十個買っお、決たった堎所ぞ持っお行っおいるんだよ。それを䌑みなく五幎だぞ 俺はそれが尊い行為だっお話をしおいるんだよ」
「だから無責任っおだけだろ」

「もういいや 。あんたずは話にならない  」

どれだけ倧倉な事か䌝えたが、おばさんはずっず吊定しおいた。
昔からだけど、この人ずは氞久に分かり合える事は無いのだろうず感じる。


川越でパクられた颚俗嬢のマドカ。
䜕床か連絡しおも通じず、ある日解玄したのか繋がる事すら無くなる。

これで䜕の接点も無くなっおしたった。
無性に淋しい。

「ハヌ  」

キャバクラ『サンタナ』でミサキを指名しながら、マドカの件を話しおみた。
サクセス、サンタナず系列店を最近日によっお行き来しおいるミサキ。
俺はミサキのいるほうの店ぞ行くだけなので、倧した問題ではなかった。

「ほら、私を口説かないから、そんな目に遭うのだよ」
「ふざけんな 䜕で効代わりに可愛がっおいる女を口説かにゃならないんだよ 俺は凄い心が傷぀いおいるの。それをおたえにこがしおいるんじゃねえかよ」

「颚俗なんおこっそりいっちゃっお、いやらしヌ」
「うっせヌっ 俺はもう暎走するからな」

「あら、私を口説く気になったの」
「違うよ、銬鹿 そうだな 、ミサキはこのたた指名するけど、この店の気になった女も同時に指名しお口説く だからおたえはさり気なく俺をフォロヌしろ」

「はいはい 。たったくしょうがないなヌ」

ミサキにはちゃんず䌝え、蚱可を埗た䞊で色々な女を適圓に口説き、芋境なく抱いた。

郚屋に戻っおは我に返り、やるせない気持ちになる。
あれほど望んだ栌闘技ぞの熱も冷めおいた。
䜕の目的意識も無いたた新宿ぞ行き、金を皌いでは競銬ず酒に䜿う日々。

芪父の事を遊び人だずずっず吊定しおいたが、今の俺も䌌たようなものだ。

このたた幎を取り、䜕の成長も無いたた生きおいくのだろうか。
色々考えおみたが、明確な答えは出ない。

俺はたた䌑みになるず倖で圷埚い、適床に女を口説く。
目的意識も無く、ただ毎日歌舞䌎町ぞ行き日銭を皌ぐ俺。

チャンプの原から情報が入る。

◯◯連合の元チャンプの埓業員の林。
圌はシャブずルむノィトンの停物を売っお成り䞊がり、組内では䞀番の皌ぎ頭になっおいた。

その林が芚醒剀所持で捕たったらしい。

それから生意気だった林の匟も、新宿から姿を消した。
因果報応ずはよくいったものである。

少ししお久保田は組の金を盗んで飛んだ。
そんな情報を聞く。

近かった存圚が様々な事を起こしたずころで、俺たちの日垞は倉わらない。
新宿ぞ働きに行き、毎日ずの繰り返し。
もう絵を描いおプレれントする盞手もいない。

ダクザ同士の情報網は譊察以䞊だず聞いた。

今頃久保田はどこで䜕をしおいるのか
圌の身を案ずるも、䜕䞀぀できない自分が歯痒い。


ただ芋た事も無いお袋の嚘。
最近では気になる事も無くなった。

おそらく俺が効ずしお勝手に芋立おたミサキの存圚のおかげだろう。

同䞖代の同玚生たちよりも、俺は裏皌業のゲヌム屋で倚くの金をもらっおいた。
䞉十歳で月に五十䞇。
キチンず登蚘した䌚瀟では無いので、皎金も取られる事もなく皌いだ金はすべお自分のもの。

絊料のほずんどは競銬、そしおミサキのいるキャバクラで倧半䜿っおいた。
家の隣のトンカツひろむぞ䞀緒に行った時、ミサキはいい加枛競銬を蟞めたらず蚀っおくる。

「だっお今たでかなり金をに取られおいるんだぜ」
「やり過ぎなのよ。土日になるず、ほずんどのレヌスやっちゃうんでしょ」

「よし、分かったよ。倧きいレヌス以倖やらない。Ⅰはただ先だしね」
「じゃあもし玄束砎っお競銬やったら、私に也燥機付き自動掗濯機を買う事」

俺にデメリットしかない無茶苊茶な条件を蚀うミサキ。

「ふざけんなよ 䜕でおたえに自動掗濯機を買わなきゃいけないんだよ」
「だっおやらないんでしょ それならいいじゃない」

ミサキに蚀われるずどうも匱い。
俺は枋々その条件を受けた。

競銬犁止の週末。
基本毎週日曜日が䌑みの俺は、普段なら予想をしおいる昌間の時間垯䜕をしおいいか分からない。

ミサキずあんな玄束なんおするんじゃなかった。
ゎリでも誘っお飯でも食いに行くか。

携垯電話を手に取るず、タむミングよく着信が鳎る。

「岩䞊さヌん、お久しぶりです。倧川です」
「ああ、久しぶり」

プロの元埓業員である倧川。
俺のゲヌム屋のルヌツがこの系列ではチャンプからスタヌトしお、゚ヌスからプロ、そしお珟圚のワヌルドワンになる。
圌ずはプロのオヌプニングメンバヌで䞀緒。

蟞めおからこのように定期的に連絡はあったが、䞀床も時間を䜜った事がなかった。

ミサキずの競銬犁止ルヌルがあり暇を持お䜙しおいた俺は、倧川ず䌚う玄束をする。
玄五幎ぶりの再䌚。

久しぶりに䌚った圌は、重床のシャブ䞭になっおいた。

「岩䞊さんにほんず良くしおもらったんで」
「俺は特に䜕もしおないでしょ」

「いやヌ、ほんず感謝しおんですよ、色々。だから岩䞊さんにはいい物あげたいなっお」

シャブ䞭のいい物なんお、シャブでしかない。
倧川が出したものは案の定シャブだった。

「いらないよ、そんなの。俺は興味無いし」
「これセックスの時䜿うず最高ですよ」

「え、ほんず」

少しだけ興味が沞く。

「倧切な女には䜿えないですけど、適圓な奎でやっおみればいいじゃないですか」

そう蚀っお倧川は結構な量の入ったビニヌル袋を枡しおきた。

適圓な女  。

颚俗嬢だず店の䞭で隒がれたら䞀巻の終わりだからな。
こういうのは繁華街じゃないほうがいいだろう。

川越ぞ戻るず川越駅西口の飲み屋街ぞ向かった。
今たで入った事のない堎末のスナックぞ入り、倧しお可愛くもない女が垭に着くず、ずりあえず口説いおみる。

「䜕お蚀うかね 。君よりも奇麗な女はたくさん芋おきたけど、こう話しおいお心が安らげる女性っお䞭々いないもんなんだ」
「䜕それ、超りケるんだけど」

「そう、それなんだよ」
「え、䜕が」

「その自然な笑顔を芋おいるず、心がずおも安らぐず蚀うか  」

口から適圓に歯の浮く台詞を矅列する。

「お兄さん、䜕人にその台詞蚀っおきたのよ」
「綺麗だ、可愛いは癟人以䞊に蚀っおきたけど、安らぐっお䌝えたのは君が初めおかな」

「もう  」

ん、結構簡単に萜ちるかも。

「ねえ、店終わったらご飯食べに行かない」
「凄い匷匕なんだから。今日䌚ったばかりでしょ」

「この心臓のずきめきを無駄にできなくお。迷惑だったら朔く匕くよ」
「ん、迷惑じゃないけどさヌ  」

「じゃあ行こうよ。いいものも今日は持っおんだ」
「いいもの」

こっそりシャブを芋せながら誘うずドン匕きされた。

「わ、私 、お手掗い行っおきたす」

トむレから出おきた圌女が、俺の垭に着く事はなかった。
圓たり前か  。

倧人しく家に垰ろうずしたが、隣のトンカツひろむが営業しおいるので顔を出す。

「岡郚さん、シャブ䞭になった元郚䞋からこれもらったんですが  」

岡郚さんはシャブを芋るなり「智䞀郎、銬鹿野郎 オマ゚それ、癟グラムはあるぞ そんなの芋぀かったらダバいぞ」ず怒鳎られ、慌おお郚屋に眮いお戻る。

「あの量だず盞圓な倀段になるぞ」
「たあ䜿う぀もりも無いし、アむツから連絡あったら返したすよ」

俺ず岡郚さんの䌚話などたったく気にならない感じで、カりンタヌ垭の奥に䞀人のいい女が飲んでいた。
気になり぀぀飲んでいるず、他の客もバタバタ入っおくる。

「智䞀郎、悪い。奥ぞ垭詰めおもらえる」

自然な圢で女の暪ぞ座る。

「隣すみたせんね」ず声を掛けるず、女はゞッず俺の顔を芋おきた。

「すっぜかされちゃった  」
「はい」

「すっぜかされちゃったの  」
「えヌ こんなお姉さんみたいないい女を 銬鹿だな、その男は」

「䞀緒に飲んで」

棚からがたもちずは、こういう事を指すのだろう。
俺は圌女を元気付け぀぀酒を勧めた。
次第に呂埋が回らなくなる女。

「倧䞈倫」
「暪になりたい」

この頃ただ飲酒運転はそこたでうるさい時代ではなかった。
家に連れお行く蚳にもいかず、俺は車に乗せ、嫌がらなければホテルぞず思い発進させる。

途䞭信号で停たるず、女が俺の腕にもたれ掛かっおきた。
顔を近付けるず嫌がる玠振りもないので優しくキスをする。

あ、この女でシャブ詊せばよかったのに、さっき郚屋に眮いおきちゃった。
たあこのクラスの女を抱けるだけでも幞運だよな。

ホテルたで我慢できなくなり、車通りの少ない道ぞ行き、路肩に寄せお停めた。
服の䞭ぞ手を入れ匄っおも小さな声を出しながらあがらわない。
頭の䞭は性欲で䞀杯になった。

車内よりホテルでゆっくり抱きたい。
俺は再び発進させ、信号に捕たりブレヌキを螏む。

信号埅ち間、女ぞ顔を近付けようずするず、凄い勢いで突き飛ばされた。

「え、どうしたの」

「こ、来ないで」

たた近付こうずするず、女は必死に抵抗する。
さっきたでメロメロだったのに、䜕故

䜕を話し掛けおも小刻みに女は震えおいた。
この豹倉ぶりから十五分ほど時間が過ぎる。

「ねえ、急にどうしたの」

優しく声を出しゆっくり顔を寄せるず䞉床突き飛ばされた。

「おい、さっきからいきなり䜕なんだよ 俺が䜕かした」

そこで女はようやく俺の目を芋る。

「ただ分からないの」
「え」

「さっきからあなたず同じ目をした髪の長い女の人が、ずっずあなたの埌ろから私を睚んでいるの」

その瞬間酔いが䞀気に醒めた。
背䞭に冷たいものが走る。

女が指定した堎所たで送るず、郚屋に戻りマスタヌベヌションをしお寝た。


倧きなレヌスたで競銬をやらない。
もしこの玄束を砎ったら、ミサキに也燥機付き自動掗濯機を買う。

土曜日の競銬新聞を芋おいる内にりズりズしおきた。
ひょっずしおこれ、銬連䞀点で簡単に取れるんじゃないの
䞀点買いだから、最䜎十䞇は賭けたい。
今の手持ちは玄十五䞇。

ミサキの欲しがる掗濯機は玄十䞉䞇したよな。
普通の掗濯機 、也燥機付きでなければ五䞇皋床で買える。

アむツに亀枉しおみるか。
俺は状況を説明し、ミサキを説埗しおみた。

「あのね 、私は買っおもらうなら玄束通り也燥機付きのを買っおもらう。普通のずかそういう颚に誀魔化すなら、私は䜕もいらない。だっお私ずの玄束なんおそんなもの皋床っお事なんでしょ」

ミサキの蚀葉で我に返る。
確かに誀魔化そうずしおいるのは俺だよな  。

自分の卑しい考えを恥じる。

「ミサキ、ごめんよ 。やっぱり競銬我慢する。気を悪くさせおすたないな  」
「別に気なんお悪くしおないよ。それより今床䌑みい぀ 矎味しいものご銳走しおもらうから」

効代わりのミサキ。
この子の存圚に俺は随分ず救われおいる。
しかし粟神的に少し俺は圌女ぞ甘え過ぎた。
たたには違うキャバクラでも行くか。

川越の颚俗嬢のマドカがいなくなり寂しい。
ミサキの存圚に助けられおはいるが、それは効代わりなだけで圌女ずかずは違う。

フラリずたたたた入った店

「いらっしゃいたせ、本日本圓にいい子が入ったんですよ」

飲み屋の店員の垞套句。
期埅しないで゜ファぞ座る。

「倱瀌したす」

チラッず顔を芋た瞬間、身䜓が硬盎した。

「由矎です 、よろしくお願いしたす」

え、䜕なのこの超タむプな子は  。

枅楚な振る舞い。
これたでミサキ以倖の飲み屋の女をどこかで少し芋䞋しお眺めおいた。

由矎を芋お、そんなものがすべお吹っ飛ぶ。
幎霢は二十歳で俺より十歳幎䞋。
ミサキず同じ幎だが、効的存圚ずかそんなものどうでもいい。
ショヌトカットより少し䌞びた茶色い髪の毛の先は癖なのか跳ねおいる。
巊目の䞋に倧きなホクロ。

「そんなゞヌッず芋ないで䞋さい  」
「名前聞いおいい」

「由矎です」
「いや、それは源氏名でしょ 迷惑じゃなかったら本名を聞いおおきたい。あ、俺は岩䞊智䞀郎」

「春矎です 、品川春矎ず蚀いたす」

無我倢䞭で口説き出した。
本胜が圌女を求めおいる。
これたでの人生すべお賭けおもいいくらいの芚悟で必死に話す。

「すみたせん、そろそろお時間ずなりたすが  」

店のボヌむが割り蟌んで来たので、財垃から札を取り出し「延長に決たっおるだろ」ず攟り投げた。
黙ったたたの春矎。

「ん、どうかしたの」

「岩䞊さん 、お金を投げるは良くないです  」

「ご、ごめんね。気を付けたす  」

圌女の蚀う事を玠盎に受け取り、心から詫びる俺。

春矎の誕生日は明埌日ず聞いたので、迷惑じゃなければお祝いをしたいず䌝えた。
俺の申し出を快く受けおくれた春矎。

「どこか行きたいずころは」
「先皋話しおいた岩䞊さんが以前働いおいた浅草ビュヌホテル 。迷惑じゃなければそのラりンゞぞ行っおみたいです」

「もちろん 喜んで」

圌女の蚀葉が嬉しくすぐ了承しおしたったが、考えおみれば浅草ビュヌホテルずは総支配人の䞞山ず揉めおいた過去があるんだよな  。

いやいや、䜕幎前の話をしおいるんだ
あれは千九癟幎代埌半の出来事だぞ

もうあんなク゜支配人など定幎しおいるはずさ。
仮に䌚ったずしおも、金を払う客ずしお来た立ち䜍眮なのだ。
臆する事もなければ気にする事もない。

春矎を連れお昔の職堎でデヌト。
垰り道りキりキしながら垰る。
圌女の誕生日をいきなり祝うずいうオマケ付き。

俺はビュヌホテルのベルノェデヌルぞ電話をしお、出た先茩の林に状況を䌝えるず、快く予玄を受けおくれる。
間に䞀日挟むが、その時間さえも埅ち遠しくお溜たらなかった。

春矎ずのデヌトの前にもう䞀぀関門がある。
俺はワヌルドワンに出勀するず、山䞋の前ぞ行く。

「山ちゃんさ 、悪いんだけど明日の䌑み代わっおくれない」
「えヌ、無理すよヌ。俺、予定入れおたすし  」

「頌むよ 明日ね、俺の䞀番倧切な女の子の誕生日でさヌ。どうしおも祝っおあげたいの」
「無理すよ、無理すよヌ」

䞭々譲らない山䞋。

「俺さ、オマ゚が困った時金だっおい぀も貞しおるだろ 飯行ったっお酒飲む時だっおい぀も奢っおるだろ な 川越に金借りに来た時だっお、おたえの望み通りキャバクラも奢ったよな 頌むよ」

このラむンより䞊の゚リアが無料で衚瀺されたす。

「えヌ、でも  」
「分かった タダずは蚀わないから」

匷匕に䞀䞇円札を山䞋に握らせる。

「俺だっお甚事あったんすよ」ず蚀いながら札をポケットぞしたう山䞋を芋お、萜ちたず確信する。

「ありがずう。たた、旚い店連れおくからさ」

アッサリずいかないたでも山䞋は籠絡した。

たた仕事䞭、俺は絵を描き始める。
春矎は茚城県。
海のある県だ。

海無し県ばかりいる俺は、頭の䞭でむメヌゞしそれを絵にしおみた。


二千䞀幎四月八日、日曜日倧安。

春矎ずのデヌト圓日がやっおきた。
少しでも長く居たかったので昌間から䌚う事にしおいる。

東歊東䞊線川越垂駅で埅ち合わせ、池袋駅乗換、山手線鶯谷駅で䞋車。
俺にずっおも久しぶりの浅草。
タクシヌでワンメヌタヌほどなので、たずは浅草寺ぞ向かう。

茚城県から倧孊で出おきた圌女。
どこぞ連れお行っおも楜しそうに喜んでくれる。

本圓ならビュヌホテル近くにある緑寿叞の焌き穎子を食べさせたかったが、こんな昌間ではただ営業しおおらず、仕方なく浅草寺近くの店に来たのである。
仲芋䞖通り近くにある適圓な寿叞屋ぞ入り、奜きなものを泚文するよう促す。

「な、䞊でいいです」

控えめな春矎。
しかし今日は圌女の誕生日なのだ。

「板さん、すみたせん。䞊でなく特䞊でお願いしたす」

俺は寿叞屋ぞ行っおもマグロの赀身しか食べられない。
どうせならいいネタを春矎には食べおほしい。

唯䞀食べられる赀身。
これは小孊生時代、圓時生きおいたおばあちゃんの付き添いで千代田区の病院たで行った頃の話たで戻る。

垰り道寿叞屋ぞ寄るのが習慣だったおばあちゃん。
お袋の料理は家族間の仲が悪かったせいもあり、簡玠な料理ばかりで魚など食べた事が無かった。

「マグロなら矎味しいから食べられるよ、ほら食べおみな」

唯䞀食べられる赀身はおばあちゃんの圱響が倧きい。

ベルノェデヌルの酒しおいる人数分の寿叞をお土産甚で頌んでおく。

「これ 、喜んでくれるか分からないけど  」

透明のカッティングシヌトに包んだ俺の絵を目の前に眮く。

「えヌ、これ岩䞊さんが描いたんですか 凄い」

目頭が熱くなるのを必死に堪え、本圓に魂蟌めおたた絵を描いお本圓に良かったず思える。

倕方くらいになったので、俺たちはビュヌホテルぞ向かった。
最䞊階二十八階のスカむラりンゞ、ベルノェデヌル。
オヌプンたで䞀時間ほど間があった。

しかしこの階には䌚員制のメンバヌズバヌのセントクリスティヌナもある。
そこの責任者小沢ずは働いおいる時仲良くさせおもらった。
セントクリスティヌナの扉を開く。

「おぉっ 誰かず思ったら岩䞊じゃねえかよ」

このホテルを蟞めた以来だから結構な月日が流れおいるにも関わらず、すぐ俺を認識しおくれた小沢には感謝である。
お土産の寿叞を枡し、ベルノェデヌルのオヌプン時間たでここで飲たせおもらう事にした。

「寿叞かヌ、ホテルの安月絊じゃ䞭々行けねえからな。おい、オマ゚随分可愛い子連れおるじゃねえかよ」

たったくホテルマンらしくない小沢の蚀動。
それでも面倒芋が良くこの人懐っこい性栌がいい方向ぞ圌を導いおいる。

「うわヌ、本圓に高い 凄く綺麗な景色です」

倖を眺め感心する春矎。

「今日この子の誕生日なんですよ」
「䜕だっおヌ じゃあお祝いにカクテル小沢スペシャルを䜜ろうじゃないか」

「ありがずうございたす。あずですね 、䞋の䞭華の唐玅の車海老の゚ビチリを圌女に食べさせおあげたくお  」
「おヌおヌ、それも任せろ 俺が䜕ずかしたらヌ。ちょっず埅っおろ」

そう蚀うずその堎からダッシュで向かう。
春矎は終始楜しそうに笑っおいた。

柄たした衚情で出迎える先茩の林。

「䜕柄たしちゃっおんですかヌ」

俺が突っ蟌むず他の客に芋えないようケツを叩いおくる。

「垭は浅草偎、池袋偎どっちがいい」

セントクリスティヌナだず浅草偎の景色だったので、池袋偎を遞択。
春矎はしきりに感心しおいる。

「すべおのベクトルは君の誕生日を祝う為に  」

少しキザっぜく蚀うず春矎は頬を赀らめた。

テヌブルには俺の奜きなスコッチりむスキヌのグレンリベット12幎のボトルが眮かれ、春矎には奜みを聞き、カクテルを泚文。

「本圓に今日はありがずうございたす、岩䞊さん  」
「君のその笑顔が俺にずっお最高の報酬だ」

「忘れられない日になりそうです  」

人生至犏の時っお、こういう事を蚀うのだろう。
以前スナック『アップル』の長柀久矎子をここぞ連れお来た過去を思い出す。

あの時抱く぀もりはなかったが、垰りの車の䞭で圌女からもたれ掛かっおきた。
理性の吹き飛んだ俺は久矎子の唇を奪い、そのたたホテルぞ行けたのだ。

今日ひょっずしたら春矎ずも  。

無限に膚らむ劄想。
それを搔き消すよう早いペヌスで酒を飲む。

時折芋せる春矎の寂しそうな暪顔。
ずあるフレヌズが頭の䞭で流れる。
䜕だっけ、この曲  。

そうだ、ファむナルファンタゞヌⅩの挿入歌ザナルカンドだ。
うん、春矎にはザナルカンドがよく䌌合う。
でも䜕故寂しそうな顔をするのだろうか。

尋ねるず圌女には兄がいお、ずおも厳しい人らしい。
生掻苊からキャバクラの仕事をしおしたったが、兄から厳しい蚀われ方をされ悩んでいた。

「春矎のお兄さんが蚀っおいる事は、君を倧事に想うからこそ至極真っ圓な意芋で、それはずおも正しい思う。でもね 、䞍謹慎な蚀い方になっおしたうけど、俺はそうじゃなきゃ君ず出逢えなかった。そしお今もこうやっお祝えおいない。だからずおも感謝しおいる」

できる限り䞁重に蚀葉を遞びながら口を開いた。

「春矎、俺は君の事がずおも奜きだ。すべおを投げ出しおも君が欲しい」

真っ赀な顔で俯きながら春矎は小声で「私はそんな簡単に萜ちたせん 」ず蚀う。

お互い色々な話をした。
俺は正盎にお袋の虐埅に遭った事、党日本プロレス時代を䌝える。

䞀぀だけ黙っおいた事があった。
今の裏皌業であるゲヌム屋だけは蚀えない。
生掻の糧ずしお働きながらも、どこか俺はあの商売を卑䞋しおいる。
ずおも真面目な性栌の春矎。
裏皌業で働いおいるずいう事を明かし、倉に思われるのが怖かったのだ。


浅草ビュヌホテルを出お、少し先にある緑寿叞ぞ行く。

「もうお腹䞀杯ですよヌ  」

そう蚀う春矎に察し、ここの寿叞の焌き穎子を䞀貫だけでも食べさせたかったのだ。
実際口にした圌女は倧絶賛。
俺はそれを芋お満足気に埮笑む。

楜しい時間は過ぎるのが本圓に早い。
そろそろ垰りの電車ぞ乗らないず間に合わなくなる。

酒は匷いはずの俺。
䜕故か目の焊点がボダケおいる。
春矎に察しおは玳士的に接しおいたかった。

新宿駅で䞀床降り、歌舞䌎町を通過しお西歊新宿駅ぞ。
途䞭にあったゲヌムセンタヌでプリントクラブを発芋した。
せっかくの初デヌトだし䞀緒に撮りたいず匷請っおみる。

「いいですよ」

俺は春矎ずプリクラを䞀緒に撮った。

酔いがどんどん回る。
春矎の顔が二十に芋えた。
あれ、どうしたんだ、春矎
俺は圌女が消えないよう抱き締める。

俺っお本圓に幞せだヌ  。

目を開けるず電車の䞭。
俺は春矎に膝枕されたたた寝おいた。

起き䞊がろうずするず、春矎は優しく頭の䞊に手を乗せ「ただ寝おいお䞋さい」ず口を開いた。

ただ酔いが回っおいる。
俺は再び目を閉じた。
心地良い感觊を芚えながら倢を芋た気がする。

内容はハッキリ芚えおいない。
気が付けば新所沢駅。

䞍芚にも酔っお春矎の前で寝おしたったのか  。

「ごめん、終電無くなっちゃったね。タクシヌで送るよ」

春矎は䜕故か返事をせず、心無しか顔を背けおいる。
ほずんど䌚話も無いたたタクシヌは川越ぞ到着した。

「私 、そんな軜くありたせん  。今日はありがずうございたした  」

圌女は䞋を向いたたた蚊の鳎くような声で蚀う。

「え、俺䜕か君にしたのか」

春矎を乗せたたたタクシヌは発進する。
䜕か倧倉倱瀌な真䌌をしおしたったのでは  。


暗い気分のたた新宿ぞ向かう。
䜕床連絡しおも春矎は電話に出おくれない。
メヌルをしおも返信は無い。

デヌトの途䞭たでいい感じだったはず。

だがいくら俺が酔っおいたずはいえ、あそこたで態床が急倉するのか。
理由を 、俺が䞀䜓圌女ぞ䜕をしたのか知りたかった。

自然ず頭の䞭にザナルカンドの曲が聞こえおくる。
あの曲はたるで春矎の為に䜜られたようなものだ。

仕事をしおいおもどこか䞊の空。
原因はすべお春矎の事でりゞりゞしおいる俺。

䞉門に無理蚀っお今日の䌑みを代わっおもらう。
䌑みの埓業員をわざわざ店に出させお、俺は䌑む 、最䜎だ。

情けない俺。
小江戞号の䞭でタバコを吞いながら吐き出した煙を眺める内に電車は川越ぞ到着した。

家ぞ垰る途䞭、すぐ近所にあるマンションのずころを通り掛かる。
その䞀階にある空き店鋪は、こんな真倜䞭だずいうのに明かりが぀いおいた。
自然ずガラス越しの䞭の状況に目がいく。

䞭には䞉人ぐらい人がいお、慌ただしく掃陀やら、荷物の敎理をしおいた。
どうやら、近い内、ここで䜕かしらの店をオヌプンする準備をしおいるようだ。

しかし䜕の店だろう。
倖の看板を芋た。

『くっきぃず』

それだけしか看板には曞いおいなかった。

俺は気になりだすず止たらない。
どうせ近所なんだし、挚拶がおら聞いおみよう。

ドアを開けお䞭ぞ入った。
䞭は十畳ほどの広さで壁は枅朔感あふれる癜。
壁に沿っお茶色の倧きな棚があり、本がぎっしり詰たっおいた。
奥にグランドピアノが眮いおある。

しかしただ匕越しの片付けが終わっおいないのか、目の前で䞉人の埓業員らしき人が、たくさんのダンボヌル箱をゎ゜ゎ゜ず持っおいた。
誰䞀人、俺が入っおきた事に気付かないほど集䞭しおいる。

しばらく様子を芋おいたが、声を掛ける事にした。

「すみたせヌん」

俺の声に、䞉人の動きはピタッず止たる。
パヌマの掛かった四十代ぐらいのメガネを掛けた女性。
同じくメガネを掛けた二十代半ばの男性。
たたたたメガネをかけた高校生ぐらいの女の子。

芪子同士だろうか。
みんなメガネである。
メガネファミリヌ 、俺は心の䞭で呟き危なく吹き出しそうになった。

「はい、䜕でしょうか」

四十代の女性が、䞍思議そうな顔で掛けおくるくる。

「自分、すぐそこの近所の岩䞊なんですけど、たたたた目の前通り掛かったんです。䜕のお店ができるのかなず思いたしお」
「そうですか。よろしくお願いしたす。ここで楜譜屋のお店をやるんです」

「え、楜譜を売るお店ですか」

そんなんで商売が成り立぀のだろうか

「ええ、そうです。他には、ピアノのレッスンもしおいたすけどね」

ピアノか 、春矎に匟いおやれたら、栌奜いいず思われるだろうか。

「凄いですね。自分、たったく音楜関係には疎いもんでしお」

棚に詰たっおいるのは本でなく楜譜なのか。
俺は䞀぀䞀぀手にずっお眺めおみる。

ベヌトヌベン、ブラヌムス、ショパン。
小孊校時代、音楜の時間で聞いた事のある音楜家の楜譜も倚数あった。

「楜譜っお、䞻にクラシック系を眮いおるんですか」
「ええ。でも、別のゞャンルも取り寄せられたすよ」

ゲヌムの楜譜なんおあるのだろうか  。

いや、初察面でこんな事聞くのは倱瀌だ。
しかもこんな真倜䞭に来おいるし  。

ずりあえず䜕か買っお垰ろう。
俺は棚から、適圓に䞀冊取り出した。

「これ、良かったら、買っおもいいですか」

俺が偶然、手に取ったのは『マヌラヌ』ず曞いおあった。

「いいんですか こんなバタバタしおいる状態なのに 。䜕だか気を䜿っおいただいお申し蚳ないです」
「いえいえ、その内自分が欲しいものをお願いするかもしれたせんから」

代金を払い、店をあずにする。

買った楜譜はたったく興味ないものだ。
いき぀けのゞャズバヌの客にプレれントすれば、誰かしら喜んでくれるだろう。


郚屋で、ファむナルファンタゞヌのオヌプニング曲であるザナルカンドを聎く。
䜕床繰り返し聎いたか、分からないぐらいだ。

それでも飜きがたったくこない。
さっきの『くっきぃず』。
確かピアノも教えおいるずか蚀っおいたよな  。

曲のむメヌゞず春矎が被る。
目を぀ぶるず、䞋をう぀むいた春矎の寂しげな顔が思い浮かぶ。

曲ず春矎の共通点は、少し悲しげで陰りのある郚分。
それでいお優しく人を癒す。

新宿歌舞䌎町の裏皌業でしか、顔を利かせる事のできない自分。

䜕かしら悲しみを背負っお生きおいるような衚情。
俺が䜕ずかしたかった。
しかしこんな俺に䜕ができる

色々考えおみた。

バヌテンダヌ時代のスキルを掻かし、カクテルを目の前で䜜っおあげる。
そしたら喜んでくれるだろうか

矎味しい料理を䞀緒に食べる。
楜しく䌚話しながら、同じ時を共有する。

いや、あのデヌトのあず䞍可解な避けられ方をされたたたなんじゃないかよ。
䞀䜓䜕故圌女は俺を避ける

最悪連絡が来ないなら春矎の働くキャバクラぞ行き、䞀床蚳を聞けばいい。
たずは非瀌を詫び、圌女の為に生きたかった。

脱線するなっお。
俺にしかできない事  。

䜕かないか

ん 、埅およ  。

䞉十を過ぎた俺が、初めおピアノを始める。
たあ幌少期のピアノを入れたら初めおではないが  。

でもたずもにやっおなかったんだから初挑戊には倉わらない。
そしお圌女の為に䞀曲でいいから匟けるように挑戊しお、ザナルカンドを完成させ聎かせる。
そうすれば、ビックリし぀぀も喜んでくれるんじゃないか  。

こんな俺がピアノを匟けたら  。

春矎に感動を䞎えられるんじゃないだろうか
無謀ず思い぀぀も、䜕かしらの行動を瀺したかった。

たず『くっきぃず』に行っおみよう。
行っお頌んでみよう。
俺がピアノを 、いや、ザナルカンドを匟けるようにしおくれるかどうか  。

プレステヌション二の電源を入れ、ファむナルファンタゞヌのオヌプニングを眺める。

果たしおこの曲を俺は匟けるのだろうか
䜕か圌女の為にしおやりたかった。

今日は早く寝お、早速明日にでも盞談に行っおみよう。


闇 16ザナルカンド線

2024/08/08 thu
2025/07/12 sta
2025/08/19 tue
前回の章


春矎ず出䌚っおから、俺は少しおかしい。
冷静に物事を円滑に運んでいたはずなのに  。

急にピアノを習いだしおみようず思ったり、たた絵を描き出したり、プラむベヌトで䞀回しか逢った事のない春矎の事ばかり考えおいる。

䜕だろう
このせ぀なくむず痒い気持ち。
どう説明すればいいのか。

「抱きたいんだろ、春矎を  」

わざず声に出しおみた。
しかし䜕かが違う。

単に抱くだけなら、圌女よりいい女はもっずいる。
顔だっおスタむルだっお、よりいい女は腐るほど抱いおきた。

今たでで危なかったのは、出䌚い系サむトで知り合った女だけである。
携垯電話がようやくメヌル、そしおむンタヌネットができるようになった頃。

流行り始めは俺もハマった。
もちろん最初は顔も名前も声も知らない。
だからこそ、その事にトキメキも感じた。

俺はい぀も正盎に自分を出し、接しおいた。
逆に盞手も俺だけには正盎に自分の事を話しおいるのだず思い蟌んでいた。

実際に䌚っおみるず、自分の想像ずは皋遠い酷い女性ばかり。
うたい具合に仕事が入っおしたったず蚀い蚳をしお、逃げたケヌスがほずんどである。

䞀床『ナりナ』ずいう名前の子に出䌚った事があった。
ずおも性栌のいい子でメヌルのやり取りをする床、俺は癒された。

ちょうどファむナルファンタゞヌのヒロむンず同じ名前のナりナ。

圓時自分の気持ちを䌝えた。

『俺は君の顔も声も知らない。でも君の優しいその性栌だけで充分だ。俺ず実際に䌚い、぀き合っおほしい。 岩䞊智䞀郎』

『ナりナ』は喜んで返事をくれた。
二人の仲がどんどん瞮たっおいくず、圌女はどんな感じの女性なのだろうず勝手な想像をするようになる。
今のように携垯電話で簡単に写真が撮れるような時代じゃない。
ただ子䟛だたしの文字だけのむンタヌネットができる皋床。

前に顔ずか芋るずかじゃなく、君の性栌をずおも気に入っおいるず嘯いた俺。
写真も䜕もいらない。
䌚う時はそのたた䌚おうず栌奜぀けおしたったので、今さらこちらから写真を送れなんお蚀えやしない。

そんな俺に察し、圌女は芞胜人に䟋えるずモヌニング嚘の安倍な぀みにそっくりず蚀われるず返しおくる。
え、誰それ
極床の芞胜音痎の俺は、安倍な぀みなど聞いた事もない。

行き぀けのゞャズバヌ、スむヌトキャデラックのマスタヌに聞くず「安倍な぀みですか 。ん、たあ誰が芋おも可愛いず蚀うんじゃないでしょうかね」ず答えた。
これにより俺の劄想は、さらに暎走モヌドぞ突入する。
安倍な぀みの顔は知らないが、誰が芋おも可愛い。
そしおゲヌムのナりナプラスアルファの盞乗効果。

実際に䌚う日を心埅ちにしおいた。
初めお䌚う日がやっおくる。

埅ち合わせ堎所は新宿駅アルタ前にしお、俺は新宿プリンスホテル地䞋䞀階にあるむタリアンレストラン『アリタリア』を予玄。
支配人の蒲田さんぞ「今日は今たでで䞀番倧切な女性を連れおきたすので」ず前日にお願いたでする始末。
郚屋も普段では泊たらないようなスむヌトルヌムを予玄し、この日の内に結ばれる぀もりでいた。

そしお近所の同玚生の化粧品屋ぞ行き、女性がもらったら喜ぶ化粧品を聞く。
䞉䞇円分の化粧品を買いプレれント甚に包んでもらい、豪華な薔薇の花束たで泚文しお郚屋に食る。
それだけ期埅床は倧きかったのだ。
蚀い方を倉えるず、圌女を抱く為だけに金ず時間を掛けシャカリキに動いおいた。

䌚う前、圌女から電話があり「さっきね、参っちゃった。私の匟の近所の同玚生なんだけど、私が出掛けようずするず『ナりナ姉ちゃん、どこ行くの』っお聞いおくるの。智䞀郎さんずデヌトなんだっお蚀うず『駄目だよ。そんな奎ず䌚っちゃ』っお駅たで䞀緒に付いおくるんだもの」なんお蚀うものだから、さらに俺の期埅は膚れ䞊がる。

実際に䌚う段階になっお俺は正盎固たった。

想像しおいた女性ず『ナりナ』。
かなりかけ離れおいたのだ。
どうやっおこの子を説埗しお垰そうか、そればかり考えおいた。

プリンスホテルの鎌田さんは、良かれず思っお至れり尜くせりの接客をしおくれる。
次々ず運ばれおくる料理。

『ナりナ』は倢心地になりながらデレデレしおいた。
「プレれントを甚意しおくれたんでしょ」ず恥ずかしそうに話す圌女。

俺は無䞋にできず、食事を終えるず郚屋たで連れおいくハメになる。
これたでの綺麗事、栌奜を぀けた蚀い回しを蚀った自身を呪う。

化粧品ず薔薇の花束を手枡すず、『ナりナ』はゆっくり目を閉じた。
え、䜕その䜓勢は  。

ずっずキスを埅っおいる。
ここでキスをしおしたったら、俺は生涯この子ず䞀緒に過ごす事になるだろう。

挫画『あしたのゞョヌ』のラストシヌンを思い出す。

チャンピオン、ホセメンドヌサに挑む矢吹䞈が控え宀を出る前、癜朚陜子が「あなたが奜きなの」ず止める。
䞈は葉子の肩に䞡手を添え、「䞖界で䞀番匷い男が埅っおいるんだ」ず去っおいく。

俺はその光景を頭で描きながら『ナりナ』の䞡肩に手を添え、「䌚ったばかりだろ それでこういうのっおよくないよ。今日は垰ったほうがいい」ず静かに蚀った。
圌女は倧切にされおいるず思ったのか、目をりルりルさせおいる。

俺は申し蚳ないが緊急の仕事が入っおしたったず嘘を぀き、その堎から逃れた。
それ以来俺は、『ナりナ』ず連絡を取る事はもちろんない。
過床な期埅をしおいた分、俺の萜ち蟌みようずいったらなかった。

垰りにスむヌトキャデラックぞ寄り、マスタヌがあんな事蚀うから隙されたず散々クダを巻く。
みんな、俺の姿を芋お倧笑いしおいた。
このマスタヌには、未だにこの件で笑い話にされる。

よくよく考えおみたら、安倍な぀みそっくりでファむナルファンタゞヌのナりナのような女が、出䌚い系サむトなど登録するはずがないのだ。


そういった過去の汚れおいる出䌚い系ずは違い、春矎ずは運呜的に出䌚っおしたった。
この喜びず感動をどう衚珟したらいいのだろう。

導き出した答えは䞀぀しかない。
ピアノ。

俺はこれからピアノを始め、春矎ぞ捧げるのだ。

ファむナルファンタゞヌⅩのケヌスを手に取る。
ザナルカンド  。

䞭に楜譜があるかどうか調べた。

「  」

そんなもの、あるはずがない。

時蚈を芋るず、お昌近くになっおいる。
近所にできた楜譜屋の『くっきぃず』は、今日やっおいるかな
ずりあえず行っおみる事にした。

ガラス匵りで倖から䞞芋えの䜜り。
䞭には昚日話した四十代のおばさんがいる。
俺はドアを開けお䞭に入った。

「こんにちわ」
「あら、こんにちわ。昚日は、早速お買い䞊げ頂き、ありがずうございたした」

おばさんは人の良さそうな笑顔で明るく話しおいる。
玠盎に奜感が持おた。

「いえいえ、ずんでもない。実はですね。今日はお願いがあっおきたんです」
「はい、䜕でしょう」

銬鹿にされるかもしれない  。

でも、俺はザナルカンドを匟けるようになりたかった。
そしおどうしおも春矎に聎かせおあげたい。

「ファむナルファンタゞヌっお、知っおたす」
「うヌん、䜕のゞャンルでしょうか」

やはり知らない。
これ以䞊聞くのはやめおおこうか。
いや、聞くだけ聞いおみよう。

「ゲヌムです。ゲヌムミュヌゞックなんです」
「ぞえ、凄いですね。最近のゲヌムはにもなっおいるものもありたすからね。ちょっず埅っお䞋さい。楜譜があるかどうか調べおみたす」

おばさんはマッキントッシュのパ゜コンず向かい合い、モニタずしばらく睚めっこしおいる。
俺はパ゜コンを掻甚した事がないので、黙っお芋おいるだけ。

「あ 、ありたしたね 。いく぀なのでしょうか」
「え、䜕がです」

「ギリシャ数字で、Ⅹや⅚ 。色々ありたすよ」
「テ、Ⅹです。Ⅹ  」

「ああ、ありたすよ。じゃなく楜譜で 、ですよね」
「そ、そうです」

無いものだず思っおいた。
思わず自然ず俺の声は倧きくなる。

心が匟む。
毛穎が党開に開き、興奮しおいた。

「すみたせん。それ、泚文できたすか」
「ええ、もちろん」

おばさんは俺の喜びようを芋お、クスクスず笑っおいた。

「もう䞀぀、お願いがあるんです」
「はい、䜕でしょう」

俺は芚悟を決めた。
やるしかない。
これだけ条件が揃ったのだ。

「その楜譜が届いたら、俺に  。ピアノを教えおくれたすか」
「え」

突拍子もないのは充分自芚しおいた。
おばさんは 、いや、これから教えを乞うのだから先生か。

「俺、ピアノなんお、今たで匟いた事ありたせん。でも確か、最初はバむ゚ルンからやるんですよね」
「フフフ、バむ゚ルね」

「そう、そのバむ゚ルからずかじゃなくお、さっき頌んだ䞭に、どうしおも匟きたい曲があるんです。それを匟けるように教えおもらえたすか」

無茶な芁求なのは癟も承知だった。
でも、俺は真剣に頌んでいた。
頭を深く䞋げ、目で必死に蚎える。

「ええ、いいですよ」。

先生はこっちの予想に反し、あっけなく簡単に答えた。
拍子抜けしたが、もう䞀床確認しおみる。

「ほ、本圓ですか 俺、ピアノなんおやった事、䞀床もないんですよ」
「ええ、倧䞈倫ですよ。これから頑匵りたしょう」

これで 、春矎にピアノを匟いおやれるかもしれない  。

倩にも登るような気持ちだった。
あずは俺の努力次第。

「ありがずうございたす」

心からお瀌を蚀い、もう䞀床深々ず頭を䞋げた。
そういえば習うのはいいが、月謝はどのくらい掛かるのだろうか

「あの、お金はどうすればいいですか」
「うヌんず、そうね 。うちは週䞀のレッスンで、月謝が䞀䞇二千円だから 。䞀時間で䞉千円の蚈算になりたす」

俺の性栌䞊、定期的に通うのは無理である。

「俺、今は新宿たで仕事ぞ行っおいたす。定期的に通うの難しいので、来たい時習いに来おもいいですか」
「ええ、いいですよ」

人生、䞍思議なものである。
昚日知り合ったばかりの人間が、今日俺の先生ずなった。

春矎ず出䌚ったタむミング。
近所に『くっきぃず』のオヌプン。
ピアノを匟いお捧げたいずいうこの想い。
これらすべおが噛み合うず、どうなるのだろうか

偶然かもしれないが運呜的なものを感じ、鳥肌が立っおいた。


早速キヌボヌドを賌入しに行く。
少し気が早い感じもしたが、勢いずいうのが倧事な時だっおある。

俺はデパヌト䞞広にある楜噚屋ぞ向かう。
ピアノを匟けたら、たわりの人間はどんな反応をするだろうか。
春矎は喜んでくれるかな  。

四階の楜噚屋ぞ到着するず、店内を芋お回る。
黒いスヌツを着た俺。
他の客局ず、少し空気が違うような気がした。
みんな、真剣に音楜ぞ取り組んでいる人ばかりなのかもしれない。

たあいい。
俺だっお、これから真剣に取り組もうず思っおいるんだ。
誰にあれこれ蚀われる筋合いはない。

綺麗な音色が聎こえおきた。
ピアノでもギタヌでもない音色。

音のするほうぞ行く。
するず、バむオリンを倧きくしたような楜噚を股の間に眮いお、匊を匕いおいる女が芋えた。

こんなデカい楜噚もあるのか。
玠盎に感心した。

音色が突然止む。
デカいバむオリンみたいなものを匟いおいた女が、俺をゞッず芋おいた。
しかも嫌そうな衚情をしながら  。

仕方ないので、その堎を離れる事にする。
倚数のキヌボヌドが、矅列するコヌナヌぞ向かう。
するずさっきのバむオリンのお化けみたいな楜噚の綺麗な音色が聎こえおきた。

「ちっ、あのアマ  」

小声で呟く。
人に挔奏を芋られるのが嫌なら、こんなずころで挔奏などするなっお。

キヌボヌドが眮いおあるコヌナヌぞ行き、ひず通り鍵盀を叩いおみる。
電子音だけあっお、どれも同じように聎こえた。

デザむン的に黒が奜きな俺は、キヌボヌドの倀段を芋ながら吟味をする。
様々な皮類の音色。
ボタン䞀぀抌すだけで、こうも倉わるものなのか。
散々迷った挙げ句、俺は黒のキヌボヌドを遞ぶ事にした。

家に戻り、早速電源を入れるみる。
キヌボヌドに぀く機胜は、説明曞を芋ないず分からないぐらい倚かった。

ピアノの音の皮類だけで五皮類。
䞭にはギタヌ、バむオリンのような匊楜噚の音もあれば、フルヌト、サックスのような朚管楜噚もある。
䜕の為にあるのか分からないが、鐘の音たで入っおいた。

鍵盀の䞊にある小さな液晶の画面。
そこには鍵盀が簡玠に曞かれおいる。
詊しに鍵盀を叩くず、液晶画面も同じ堎所を衚瀺した。
面癜い。

俺は適圓に鍵盀を匟いおみた。
音を倉えるだけで、それなりのメロディずしお聎こえるから䞍思議である。

その日は、色々ず適圓にキヌボヌドをいじっおいた。
早くピアノを匟けるようになりたい。
早く春矎にザナルカンドを聎かせおやりたかった。

俺は近所の『くっきぃず』ぞ、顔を出す事にした。
ただ店内は片付いおないようで、先生は楜譜を敎理をしながらずおも忙しそうだ。

俺の姿に気付くず、埮笑んでくる。

「先生、忙しいずころ、すみたせん。俺、キヌボヌドを買ったんですよ」
「あら、やる気満々じゃない」
「ええ、もうブリブリですよ」

俺の話し方に先生は笑い転げおいた。
こっちが思うより接しやすい人かもしれない。

「あ、そういえば、明日蟺り頌んでいた楜譜、届きたすよ」
「え、ファむナルファンタゞヌⅩの楜譜ですか」
「ええ」

明日からでもピアノを習える。
そう思うず俺は嬉しくお飛び跳ねた。


次の日の仕事垰り、俺はそのたた『くっきぃず』ぞ寄る。

先生は笑顔で泚文した楜譜を手枡しおきた。
ファむナルファンタゞヌⅩの楜譜  。

これで俺はザナルカンドを匟ける準備がやっず敎ったのだ。
ペヌゞをめくり、パラパラず簡単に眺めた。
ピアノの音笊の矅列がびっしりず曞いおある。

圓たり前だ。
これはあくたでも楜譜なのである。

目次を芋ながらザナルカンドのペヌゞを芋぀けた。

「先生、これなんです。俺の匟きたい曲」
「ちょっずいいかしら」

楜譜を先生に枡す。
真剣に眺めおいる間、倧人しく埅っおいた。

先生がグランドピアノの前に向かう。

「いい 私が䞀床、匟いおみるね」
「よろしくお願いしたす」

先生の指がピアノの鍵盀の䞊を螊るように動き出す。
グランドピアノから、奏でられるメロディ  。

それはたさしくあのザナルカンドそのものだった。
感動のあたり、党身の毛穎が党開に開く。

俺もこんな颚に匟いおみたい。
自分の理想の姿が今、目の前にある。
しばらく鍵盀の䞊を急がしそうに動く指先をずっず芋぀めおいた。

耳に聎こえおくる音から、春矎を連想した。
浅草ビュヌホテルの時に芋た悲しそうな暪顔が思い浮かぶ。
圌女にはこの曲がピッタリ䌌合うのだ。

どこか悲しげで、い぀も䞀生懞呜な圌女。
぀いお回るのはい぀も、はかなさずせ぀なさだった。

絶察にこの曲を匟いおやる。
そしおい぀か春矎に聎かせるのだ。
俺は心に固く誓う。

ザナルカンドの曲が匟き終わる。

ピアノっお玠晎らしい。
心の底から思った。

「凄いですね、先生。メチャメチャ䞊手いです」

い぀の間にか自然ず拍手をしおいた。

「いい曲を遞びたしたね。ずおもいいメロディだわ」

「ありがずうございたす。俺、この曲、匟けるようになりたすか」
「頑匵ればできたす。倧䞈倫ですよ」

初めお習うピアノ
䞉十歳を越えおから、初の挑戊でもあった。

「よろしくお願いしたす」

返事をする代わりに、先生はニコっず埮笑んだ。

今のこの興奮をすぐピアノに投圱したい。
時蚈を芋るず朝の十時だった。

「先生、たった今から習っおもいいですか」
「え、だっお仕事終わったばかりなんでしょ」

「ええ、でも構いたせん。䞀時間だけでもお願いできたせん」
「うん、分かりたした。それでは早速始めたしょうか」

先生は困った衚情をしながらも、どこか嬉しそうだった。


早く圌女に逢いたい  。

しかし今は無理なのだ。

連絡䞀぀ない状況。
やるせない気持ちになる。
今は気持ちを切り替え、䞀日でも早くピアノを芚えるようにしよう。

『くっきぃず』のグランドピアノの前に向かう俺。
巊偎には先生が座っおいる。

「最初にここず、ここず、ここに指を眮いおみお」

蚀われるたた、恐る恐る鍵盀の䞊に指を眮く。

「はい、最初にそれを同時に鳎らしお」

自分の鍵盀を抌した音が聎こえる。

ザナルカンドの䞀番初めの音だ。
すぐに分かった。

たった䞀぀の音でも、䞉぀の鍵盀を䞀斉に抌す。
俺は音笊がたったく分からないので、それ以䞊は匟けなかった。

「先生、お願いがあるんですけど 䜕も」
「はい、䜕でしょう」

「楜譜に音笊にカタカナをふっおもらえたせんか」
「構いたせんよ」

嫌な顔䞀぀せず先生はコピヌをずった楜譜ぞ、䞁寧にカタカナをふりだした。

最初の巊手の抌さえる音は『ミ』ず『シ』。
右手は『ミ』。

「あヌ、岩䞊君。駄目よ。巊手は䞭指で『ミ』、芪指で『シ』を抌さえる。右手は䞭指で『ミ』にしお」

「は、はあ  」
「タンタンタンタンタンタンタヌン  」

先生は口で、ザナルカンドの始めを衚珟しおいる。

「これで、䞀小節ね」

「はあ  」
「䟋えばね、四分の四拍子ずか聞いた事あるでしょ」

「ええ、それなら」
「四分音笊ずいうものが、四぀ 、四拍子が䞀小節の䞭に入っおいるの」

俺にはよく意味が分からなかった。
䞍思議そうな顔をしおいるず、先生はさらに説明を続ける。

「うヌん、そうねえ。メトロノヌムっお分かる」
「はい、あのカチッカチッっお、や぀ですよね」

「そうそう、それが四回打ったのが、四分の四拍子で、䞀小節なの」
「よく分かりたせんが、芁はそういうものだっお、芚え方しおもいいでしょうか」

思わず、苊笑いをする先生。

「じゃあ、四分の䞉拍子だず」

「メトロノヌム䞉回分で䞀小節ですよね」
「そうそう」

算数の公匏のようなものだず感じる。
理屈じゃなくお、䞀足す䞀は二  。

そのようなものだずいう認識で芚えないず駄目だろう。
あたり深く考えないようにした。
先生は続けお話す。

「ピアノはね、各鍵盀を抌さえるにしおも、ちゃんず抌さえる指が決たっおいるようになっおいるの」

先生は俺の目の前で、手の平を芋せるように䞡手を開いた。

「いい、巊手は小指から䞀、二、䞉、四、五  」

小指が䞀番で、薬指が二番  。

「じゃあ、巊の芪指は五番っお事ですか」
「そうね」

巊から順番になるのか。

「じゃあ、右手は芪指が䞀番で始たっお、小指が五番っお事でいいんですよね」
「そうです、よろしい。この堎合は今、巊の䞭指で抌さえおいる『ミ』ず芪指の『シ』は、巊の䞉ず五っお感じね。そうするず、次に匟く右の䞀オクタヌブ䞋がった『ミ』が、芪指で簡単に匟けるでしょ」

実際に匟いおみた。
タンタン  。

うん、本圓に匟きやすい。
俺は、先生がふっおくれた楜譜のカタカナの暪に、小さく数字を蚘入した。䞉、五ず䞉  。

䜕床も聎いたザナルカンドの出だし、それを俺は今、匟いおいる。
二぀の音を同時に抌さえた和音ず、右芪指で䞀぀の音を抌しただけなのに  。

ずおもシンプルな行為。
しかし、それは玛れのないザナルカンドの音だった。

ピアノを初めお匟く俺でも、頑匵ればできるのではないか。

「先生 俺、今自分でこの音を鳎らしたんですよね」
「そうよ」

先生は嬉しそうに蚀った。
俺はもっず嬉しい。

「じゃあ、次の音いいですか あ、それより、楜譜に指の番号を曞いおもらっおもいいですか」
「はいはい、いいですよ」

嫌な顔䞀぀せず、先ほどのカタカタに続いお、番号たで蚘入しおくれた。
先生の行為に察し、曲が完成するたで絶察に諊めないでやるのが最䜎限の瀌儀だず感じる。
今埌、どんなに蟛くおも、途䞭で投げたりはしない。

結局この日は、ザナルカンドのニ小節分を習った。

口ずさむず、タラタラタンタンタヌンっお感じだ。
タラずいうのは、タンタンず同じ意味。
俺がそう勝手に決めた。
ほんの短い郚分を䞀時間掛けお匟けるようになったのだ。

これを繰り返せば、俺でも䜕ずかなりそうだ。
たった䞀時間ずいう短さでも密床の濃い時間を過ごせたず思う。

最埌に先生の蚀っおいた台詞が耳に残った。

「あら、あなたっお本圓に優しい音色を出すのね  」

お䞖蟞にしかずれなかった。

このラむンより䞊の゚リアが無料で衚瀺されたす。


仕事を枈たせるず、俺は真っ盎ぐ家ぞ垰る。
郚屋ぞ戻り、今日習った二小節分を匟いおみた。
この皋床の長さなら蚘憶しおいるのですぐに匟ける。
短い郚分を䜕床も繰り返し匟いた。

䞀぀感じた事がある。
実際にグランドピアノを匟いおみお分かった事。
匊楜噚は電子ピアノず比べるず、圓たり前だが音が違う。

電子ピアノは電子で䜜られた音でしかない。
いくら感情を蟌めおも、聎こえる音は同じだった。

先生が蚀った蚀葉を思い出した。

「あら、あなたっお本圓に優しい音色を出すのね  」

あの時俺は、春矎に聎かせたいず必死に感情を蟌めお鍵盀を叩いた。
自分がどれだけ圌女に聎いお欲しいか。
それだけの為にピアノを始めた。
俺がピアノを匟くのは、春矎にザナルカンドの曲を捧げたいからだ。

䞀小節で䞃぀の音。
どんなに小さな音でも、無駄な音笊がないように思えた。

その想いが音色に珟れたのだろうか
もしそうなら玠盎に嬉しかった。

春矎以倖の人間がそう感じおくれるずいう事は、圌女にこれを聎かせた時、絶察に喜んでくれるはずだ。

俺は完璧にザナルカンドをマスタヌしたかった。
この曲だけは、䞖界䞭で䞀番うたく挔奏できるようになりたい。

たったの二小節分を䞀心䞍乱に匟く。
気が぀くず、それだけの為に䞉時間も匟きっ攟しだった。

タラタラタンタンタヌン 、タラタラタンタンタヌン  。

先生颚にいえば、タンタンタンタンタンタンタヌン、タンタンタンタンタンタンタヌン っお、感じか。

本圓に最初の郚分。
そこだけは完璧に匟けるようになれた。
もの凄い嬉しかった。


緎習を終えるず、い぀ものゞャズバヌ、スむヌトキャデラックぞ行く。

今日はラむブも䜕もなく通垞営業だった。
どっちかずいうず俺は静かなほうが奜きなので、通垞の営業のほうがいい。

ラむブがある日以倖、基本的に暇な店だったので客は䞀人しかいなかった。
カりンタヌぞ座るず、グレンリベット十二幎のボトルず、ショットグラスが眮かれる。

チェむサヌ代わりに、アむスコヌヒヌを頌む。
぀たみにカマンベヌルチヌズを泚文。

芖界の隅にゞャズバヌのピアノが芋える。
今は客、俺䞀人だ  。

チャンスは今だ。

「マスタヌすみたせん」
「はい」

「音楜止めおもらっおもいいですか」
「え、䜕故」

それは確かにそう蚀うだろう。
ゞャズバヌなのに、俺は音楜を止めろず蚀っおいる。

「ピアノ 、あのピアノをちょっず匟かせおもらえたせんか」
「岩䞊さん、䜕でたた」

「実は俺、今日からピアノを始めたんですよ」

我慢しきれずに、ずうずう蚀っおしたった。

「えヌ」
「そんなデカい声、出さないで䞋さいよ」

「本圓ですか」
「ええ」

「䜕でたた」
「もう、いいじゃないですか。今、俺䞀人でしょ 他の客が来たらすぐにどきたすから」

「分かりたしたよ」

そう蚀っお、マスタヌは音楜を消しおくれた。
俺は立ち䞊がり、軜く銖を鳎らす。
それからピアノぞ向かっお歩いた。

怅子を匕いお、ゆっくりず腰掛ける。
鍵盀の䞊に静かに指を眮いた。
䞀瞬、目を閉じお軜く息を吐く。

指先に気持ちを蟌める。
ゞャズバヌのピアノは、ザナルカンドのメロディを奏でだす。

ちょっずした違和感があった。
鍵盀を匟いた感じ、少しばかり重く感じたのだ。

たった二小節分の短い挔奏を終え、カりンタヌのほうを振り返る。
マスタヌは目を䞞くしお驚いおいた。

「い、岩䞊さん 、い぀の間にピアノを  」
「ぞぞ、今日やったばかりなんですよ」

「ぞヌ、それは凄い。気にしないで、次を匟いお䞋さい」
「いや、それがただここたでしか習っおないんですよ」

俺ずマスタヌは声を揃えお倧笑いした。
この堎所でいい  。

ここで、早く春矎にザナルカンドを聎かせおやりたかった。


仕事を終えるず䞀目散に地元ぞ垰る。
駅に着くず党力疟走で『くっきぃず』たで向かう。
俺は元気よく挚拶しながら䞭ぞ入った。

「先生、お疲れさたです」
「あら、こんにちわ」

「仕事を終え、急いで垰っおきたした。今日もピアノを教えおもらえたすか」
「ええ、いいですよ」
「やったあ」

早速、俺はピアノの前に座った。

「実は昚日いき぀けのゞャズバヌで、あのあずピアノを少し匟いたんですよ。もう習った郚分は完璧ですよ。ちょっず聎いおもらえたす」
「いいですよ」

昚日ゞャズバヌで匟いたピアノの感觊ず、先生のずころのグランドピアノずは少し癖が違うような気がした。
同じ音を匟いおも気持ち、音が違うように聎こえたのである。
俺の気のせいだろうか。

呌吞を敎え、ザナルカンドの最初の二小節を匟く。
ミスもなく、完党に䞊手くできた。
あれからこの郚分だけを䜕癟回匟いただろう。

先生は満足そうに頷いお、俺の暪に腰掛ける。

「じゃあ、今日はもっず先の郚分を行くわよ」
「はい、よろしくお願いしたす」

ピアノを匟き始めお本圓に良かった。
こうしおいる時間がずおも楜しい。
今たで䜕も匟けなかった俺が、実際に自分で匟きたい曲を匟いおいるのだ。

興奮ず感動に包たれながら、俺はザナルカンドの先の郚分をどんどん芚えおいく。

そういえば、ファむナルファンタゞヌⅩの䞻人公が、最埌の゚ンディングでこんな台詞を蚀っおたっけ  。

「俺、あんたの息子で良かった  」

確かそんな台詞だず思ったが、今は「俺、ピアノを始めお良かった  」ず、声を倧にしお蚀いたいぐらいだった。

二回目のレッスンは二時間頑匵っお習う。
だから芚えたのも初日の倍以䞊だった。
今日は新しく四小節分を吞収する
俺はニ時間分のお金、六千円を払っおから家に垰った。

郚屋に戻るず、早速今日の分を䜕床も繰り返し匟き始めた。

䞉日間連続で俺は先生のずころぞピアノを習いに行く。
元々やる気のあった俺に、さらなるやる気が備わっおいた。

先生が真剣に教えおくれるのを懞呜に叩き蟌み、魂を蟌めながら鍵盀を奏でる。

少しでも早くこの曲をマスタヌしたい。
そんな想いがピアノの腕を䞊達させおいた。

ただ先生の『くっきぃず』も、オヌプンしお間もない状況ずいうのも味方しお、この日、俺は仕事を早匕きしおから䞃時間ぶっ通しでピアノを習い続ける。
音笊にカタカナをふっおもらわないず駄目な俺は、必死に曲を䞞暗蚘した。

鍵盀を抌さえる指を目で確認する。
指で鍵盀の匟く䜍眮を蚘憶する。
耳で奏でる音がおかしくないかチェックする。
俺にはその方法しかなかった。

「岩䞊君、そろそろ䌑憩を入れない」

先生がそう蚀っお、ピザの出前をずっおくれた。
さすがにぶっ通しだったので、俺は少し疲れおいたみたいだ。

でも今日だけで、ザナルカンドの四分の䞉以䞊を匟けるようになっおいた。

デリバリヌのスタンダヌドなピザをここたでおいしく感じたのは、生たれお初めおだった。
先生の優しさに感謝する。

垰る時になっお思った。
䞉千円掛ける䞃時間  。

俺は財垃を取り出し䞀䞇円札を数枚取り出すず、先生は笑いながら蚀った。

「あ、今日は䞉千円だけでいいですよ」
「䜕を蚀っおるんですか。俺、今日は䞃時間も教わったんですよ」

「いいのいいの 。私も䜕だか楜しくなっちゃっお、時間をすっかり忘れおたのよ」

「でも  」
「だから、頑匵っおピアノを続けお曲を完成させおね」
「はい、ありがずうございたす」

先生の心遣いがずおも嬉しかった。
本圓にいい先生に巡り合えたんだな  。

そう感じた。

先生のメガネ息子の健倪が来たのでデゞタルカメラを枡し、俺が匟くずころの撮圱をお願いする。

途䞭ずちっおしたうが、自分の指が奏でた音でもザナルカンドを匟けおいるのが分かった。
あず䞀回のレッスンで、ザナルカンドをひず通り匟けるようになるだろう。

そのぐらい今日は根を詰めお頑匵った。


家に垰っお、今日のピアノの埩習をする。
たった䞉回のレッスンだが、合蚈のレッスン時間は十時間になっおいた。
しかも週に䞀床じゃなく䞉日間連続である。

家での反埩緎習も十時間以䞊は費やしおいた。
睡眠を削っおたでやっお、身にならないほうがおかしい。

本圓に先生には感謝である。
頭が䞊がらない。
こんな俺に付き合っおもらい、䞁寧に指導しおくれた。

あず䞀回のレッスンで、ザナルカンドが匟けそうなぐらいたできた。
俺は五時間掛けお、郚屋でキヌボヌドを匟く。
もうちょっずで仕事ぞ行く時間になっおいた。

ピアニストは確か、䞀日䞭ピアノを匟いおられるず聞いた事がある。
でも䞀぀の曲を五時間ぶっ通しで匟けば、俺だっおピアニストに、ザナルカンドだけは負けないはずだ。
䞀生懞呜、䞀心䞍乱に匟いた。

䜕か圢は違えども党日本プロレスを目指しおいた頃ず近い感芚を芚える。
この自分の想いを音に  。

しかし、キヌボヌドには俺の感情が䌝わらない。
どんなに指先に感情を蟌めお匟いおも、聎こえおくる音はすべお同じだった。
これが電子で出せる音の限界なのだろう。

ピアノ独特の音源。
あれが匊楜噚の魅力なのだろう。
その事を少しだけ理解したような気がする。

調埋士ずいう仕事があるのを俺は知っおいた。
䜕故なら最初にいたゲヌム屋のベガに来る客で、調埋士をしおいる人がいたからである。
ある日仕事の話を聞く機䌚があったが、その時はピアノ自䜓たるで興味がなかったので䜕も感じなかった。
今思えば、よく聞いおおけばよかったず思う。

おそらくピアノの匊の郚分を調敎する䜜業なのだろう。
調埋する人によっお、ピアノの個人差が出おくるのではないだろうか。

だからスむヌトキャデラックのピアノず、先生のグランドピアノは匟いた感じが違ったず感じたのかもしれない。

春矎からはデヌトの時以来連絡は無かった。
今無理しお話そうずしおも、嫌がられるだけ。

だから俺はたずピアノを 、ザナルカンドを完成させよう  。

珟実逃避をしおいるだけなのかもな、俺は  。


闇 17ドン・キホヌテ線

2024/08/08 thu
2025/07/12 sta
前回の章


䌑みの日、郚屋でずっずキヌボヌドを匟いおいた。
曲名はもちろんザナルカンド。
俺にはそれしか匟けない。
しかも習ったずころたでである。

こんな事なら、デヌトの前に曲を完成させれば良かった。

銬鹿な事を考えるな。
あの時はただピアノを匟いおさえない。

頭が混乱しおいる。

新宿で撮ったプリクラたでは仲良くできおいたはず。
あそこたで戻りたい。
しかしもう遅い。
俺は䜕かしらの原因で、春矎を傷぀けおしたったのだろう  。

それは事実なのだ。

ザナルカンドの悲しい音色が胞に沁みる。
この曲っおこんなにも寂しい気持ちになるのか。

それでも俺はキヌボヌドを匟く。
䜕床も䜕床も匟き続けた。
今の俺にはそれしかないのだから  。

先生に習った䞉日間のピアノ。
俺は今、習った郚分のみ目を぀ぶっお匟いおいる。
指先がキヌボヌドの鍵盀の匟く䜍眮を蚘憶しおくれおいた。
銬鹿みたいにずっず匟いたせいだろうか。

この曲を匟きながら聎いおいるず、い぀も春矎の寂しそうな暪顔が思い浮かぶ。

奏でる音を耳で確認する。
倚数の鍵盀を匟く際、音が䞀぀でも間違うず俺の耳が反応した。

もう䞀床、目を開く。
指先を芋぀めながら匟いた。
指で曲を蚘憶し、目で確認し、耳で音を確かめる。
楜譜の読めない俺はそれしか方法がなかった。

ある閃きが、頭の䞭を走る。
右手で抌さえる郚分ず、巊手で抌さえる郚分。
それを逆に匟いたらどうなるのだろうか

指先の配眮を頭で敎理しながら、静かにゆっくり鍵盀ぞ眮く。
自分が䜕床も匟いたザナルカンド。
ゆっくりず鍵盀を抌さえる郚分を思い出しながら、ゆっくり匟いた。

思ったよりも難しい。
ずおも難しい事を俺はやろうずしおいる。

でもそんな事はどうでもいい。
この曲だけは、俺が䞖界で䞀番䞊手く匟きたいんだ。

右巊を亀互にしお匟くザナルカンド。
慣れおくるず、なんずか圢になっおきた。

よく抌さえる鍵盀を間違えた。
俺は䜕床も反埩しお指先に蚘憶させる。
この䜜業に倢䞭になっおいた。

時間は倜の八時を回っおいる。
春矎からもちろん連絡はない。

だから䞀日䞭ひたすらキヌボヌドを匟いおいた。
そうする事だけが䞍安になる気持ちを忘れさせおくれた。

巊右逆で奏でるザナルカンド。
ただでさえ悲しいメロディが、より、もの悲しく聎こえおくる。

せ぀なさ  。
悲しさ  。
愛しさ  。

様々な感情を抱かせるこの曲。
でも、䞍思議ず俺を癒しおくれる。

い぀の間にか、キヌボヌドを匟きながら眠っおしたっおいたようだ。

もう、春矎は連絡をくれないのだろうか
胞の奥が苊しい。

俺は䞀人の女に䜕故、これほど入れ蟌むのだろう
自分でも分からない。

これが愛するずいう事なのだろうか
それも分からない。

心だけが苊しい。

春矎はあんな俺を芋お、どう思っおいるのだろう
呆れおしたったのか
情けない奎だず感じたのだろうか
栌奜だけの奎っお芋られたのだろうか

違う  。

俺は情けなくない。
栌奜悪くない。

あの時はどうかしおいたんだ。
タむムマシヌンがあったら、酔っ払うちょっず前に戻りたい。

新宿のゲヌムセンタヌで撮った春矎ずのプリクラ  。

思い出しお財垃から取り出す。
だらしなく酔った衚情の俺の暪で、春矎は嬉しそうに埮笑んでいる。
財垃には五枚プリクラが入っおいた。

どのプリクラも春矎は笑っおいる。
俺ず䞀緒に楜しそうに写っおいた。
ただこの時たで春矎は怒っおいない。衚情を芋る限り  。

しばらくプリクラを芋぀めた。
陰りのある春矎の衚情が、明るく茝いおいる。

浅草ぞ行った楜しかった時間を思い出す。
ではい぀、俺が春矎に倱瀌な事をしたのだろうか

酒に酔った俺が悪いのか。
俺だっお人間だ。
たたには酔いたい時だっおある。

䜕故そのぐらいの事で春矎は返事をくれないんだ

俺は二枚の絵を描いた。

䞀枚は海の波が走る絵。

もう䞀぀は以前曞いた草原の絵の昌間バヌゞョンで、品川春矎のむニシャルである『H・S』を立䜓的に草原の䞊ぞ倧きく描いた。

隅っこでその文字ぞ寄り掛かっお人圱をタバコを吞っおいる描き加える。
これは珟圚の俺の心境そのものだった。


い぀も朝に垰っおから郚屋でザナルカンドを緎習する俺。
仕事を毎日しおいる時間すらもどかしい。
本圓はピアノだけをずっず匟いおいたかった。

「テメヌ朝っぱらからうるせんだよ」

廊䞋から芪父の怒鳎り声が聞こえおくる。

「うるせヌっ 邪魔すんじゃねえ」

やっずレッスンができる時間が䜜れたのだ。
銬鹿芪父になんお構っおいる時間などない。

睡眠時間さえも削り、ひたすら鍵盀を叩く。

奏でた音はすぐに消えおしたう。
だから曲を耳の䞭ぞこびり付かせるように  。

音は儚いからこそ、䟡倀があるのだろう。

春矎からの返事は盞倉わらずない。
あたりし぀こくしお嫌われるのは嫌だったので、俺も連絡を控えおいる。

ピアノを完成させおからでもいい。
そう思っお我慢しおきたのだ。

今日の䌑みを䜿っおザナルカンドを完成させたい。
俺はピアノの先生のずころぞ行く事にした。

『くっきぃず』の扉を開け、元気よく入る。

先生は俺を芋おニコニコしおいた。

「先生、今日もザナルカンド、教えおもらえたすか」
「はいはい、いいですよ」

残り䞉分の䞀。
今日ですべお完成させおやる。

俺はその意気蟌みでピアノの前に座った。

「先生、ずりあえず今たで習った郚分を匟いおみおいいですか」
「どうぞ」

俺は目を閉じ、鍵盀の䞊に指を乗せた。

頭の䞭に春矎の顔が思い浮かぶ。
䜕床も䜕床も繰り返し匟いたフレヌズ。
心を枅らかにしお、魂を蟌め、鍵盀を叩き出す。

匟いた瞬間、感じた事。
キヌボヌドず匟く感觊が違い過ぎる郚分。
以前そんな事は分かっおいたはずだが、これほどたでこの違いに気が付くずは  。

「あれ、岩䞊君。あれから凄い緎習したのね。この間ず話にならないぐらい良くなっおいるわよ。音が前ず違うもの」
「本圓ですか」

玠盎に嬉しかった。

俺は熱心にピアノを孊んだ。
魂を蟌め、鍵盀を叩く。
未だ聎かせおいない春矎ぞ聎かせるよう䞁寧に気持ちを蟌める。

セレナヌデ  。

特定の音楜圢匏がある蚳ではないが、愛する人に察し奏でる曲を差すずも蚀う。
ザナルカンド、これは俺が春矎ぞ捧げるセレナヌデである。

他の誰でもない。
春矎だけが喜んでくれればいい。

目隠しをしおも匟けるぐらい、俺は血の滲む努力をしおきた。
音笊なんおたったく分からない。
だから必死に音を暗蚘するしかない。

䞍噚甚な圢でしかピアノを匟けない俺。
それでも奏でる音で、少しでも春矎を癒したかった。

ファむナルファンタゞヌを䜜ったスク゚アヌ゚ニックスには笑われるかもしれない。
それでもいい。

俺は誰の前でもハッキリ蚀える。
この曲は俺が春矎ぞ捧げる為に䜜られたのだず。

こうしおこの日四回目のレッスンで、俺はザナルンドを匟けるようになった  。

やっずやり遂げる事ができた。
䜕ずも蚀えない達成感が党身を包む。

いや、ただだ。
春矎ぞ完成したこの曲を聎かせおいない。
圌女ぞ聎かせお初めおザナルカンドは完成するのだ。

行き぀けのスむヌトキャデラックぞ行く。
客がいなかったのでマスタヌにお願いしおピアノを匟かせおもらう。

マスタヌの圌女もいたのでデゞタルカメラを枡し、撮圱を頌む。

たたもや途䞭でずちる。

春矎には完璧な状態でのザナルカンドを聞かせたい。
ただただ粟進䞍足だ。

電話が鳎る。
元プロの埓業員であるシャブ䞭の倧川から。
あの時以来、圌からは毎日のように連絡があった。

ここ数日、仕事以倖はピアノしか匟いおいない。
集䞭する為に電話に出なかったが、こう毎日掛けられおも面倒なので出おみる。

「あ、やっず繋がった。岩䞊さん、どうでしたか」

おそらくシャブを䜿った効果を聞きたいのだろう。

「いや、党然䜿っおないよ」
「うっそだヌ」

「いや、本圓に 。䜕も䜿っおいないから返そうか」
「えっ 本圓に返しおくれるんですか」

仕事ぞ行く前人通りの少ない堎所を指定し、倧川ぞ枡す。

「岩䞊さん、本圓に䜿っおなかったんですねヌ。いいんですか」
「いいも䜕も俺は最初から興味無いっお蚀っおたでしょ」

こうしお倧量のシャブを返し、その埌倧川から連絡は䞀切無くなった。


ザナルカンドを完成させおから数日経぀。
盞倉わらず春矎からの連絡は無いたた。
ずうずう我慢できず、俺は久しぶりに春矎の働くキャバクラぞ向かった。

今日春矎は、出勀しおいるだろうか
入口で入るのを躊躇っおしたう。

ここで圌女に逢ったずころでどうするんだ
ピアノを 、ザナルカンドをどうやっお聎かせる

軜く深呌吞をした。

違う。
そんなんじゃない。

俺は玔粋にただ春矎に逢いたいのだ。
逢っお顔を芋たい。

少しでもいいから話をしたい。
それだけだった。

結果がどうであれここたで来たのだ。
行こう。

俺は粟神を萜ち着かせおから䞭ぞ入る。
ラップの音楜がうるさく鳎り響く店内。
ただの隒音にしか聞こえない。

黒服の埓業員が近寄っおくる。

「あれ、岩䞊さん。お久しぶりじゃないですか」
「ああ、色々ず忙しかったんだよ」

「本日のご指名は」
「春 、いや、由矎はいるかい」

あぶなく本名を蚀うずころだった。

「ええ、出勀されおたすよ。ご指名でよろしいですか」
「ああ、もちろん頌む」

良かった。
䞍本意であるが、これで春矎ず逢っお話をする事ができる。

「それではご案内臎したす」

垭たで案内をされながら、さりげなくホヌルを芋枡す。
俺の芖線は春矎を探しおいた。

「  」

久しぶりに芋た春矎。
圌女は他の客ず楜しそうに話をしおいる。
独占欲からなのか、俺は劙な苛立ちを芚えた。

黒服が䜕かを笑顔で話しかけおくるが、そんな事はどうでもよかった。
あの春矎の笑顔は俺だけのものなんだ  。

垭に座り、春矎の暪に぀いた客を睚み぀けた。

「どうも、いらっしゃい」

劙に明るい声が聞こえた。
振り向くず、知らないキャバ嬢が立っおいる。

「䜕だ 悪いけど俺は指名しおるぞ」

ぶっきらがうに答える。
目の前の女には悪いが、ダキモチからか冷静でいられなかくなっおいた。

「そんな怖い顔しないで䞋さいよ。由矎ちゃん今、指名入っおいるんで、私がその間ヘルプできただけですから」

いくら仕事ずはいえ、俺が圌女に圓たるのは筋違いである。
萜ち着け  。

自分に蚀い聞かせた。

「悪かったよ。座れば」
「はい、倱瀌したす」

いい銙氎の匂いがほのかに銙る。
昔だったら、この時点でこの女を口説いおいただろう

「なんか栌奜いいですよね」
「そうでもないよ」

「䜕歳ですか」
「それを蚀う前に、名前ぐらい名乗りなよ」

「明矎です」

北海道倶知安時代のスナック『パピリオ』。
そこで出䌚ったゆかり 、圌女の源氏名も明矎だった。

あの時から十䞀幎も経぀のか。

「岩䞊だ。䞉十歳。よろしく」
「ぞえ、もっず若く芋えたすよ。枋いですね」

「そんな事はどうでもいいから、酒を䜜っおくれ。りむスキヌをストレヌトでな」
「はい」

そう蚀いながら、明矎はグラスに氷を入れだした。

「おいおい、ストレヌトだぞ。氷はいい」
「すいたせん」

明矎の謝り方ず、春矎の謝り方を比范しおしたう。
あい぀なら「すみたせん」ず蚀うだろう。

䞀瞬だけ春矎の方向ぞ目を向けた。
盞倉わらず楜しそうに客ず喋っおいる。
俺が店に入っおきた事すら気づいおいない様子だ。

テヌブルに眮かれたグラス。
俺は手に取り、りむスキヌを胃袋に流し蟌む。

「ストレヌトなんお、匷いんですね」
「酒が匷いなんお、䜕の意味もないさ」

春矎ずの初デヌトを思い出しおしたう。
確かに俺は酔った。
でも䞀週間も連絡くれないぐらい酷い事を俺はしたのだろうか
それならそれでちゃんず蚀っおほしいものだ。

芖界に芋える春矎の姿を芋おいるず、むラむラが募るばかりだった。
こんなずころで笑顔を芋せお他の客ず話す䜙裕があるなら、䜕で俺にメヌル䞀぀くれないんだ

「岩䞊さんっお、凄いモテるんじゃないですか」
「そんな事はない。モテおいたら、こんなずころぞ来ないよ」

䜕の為に必死に頑匵り、俺はザナルカンドを今日完成させた

春矎ぞ聎かせる為だろうが  。

それが䜕故あい぀は俺のずころぞ来ない
あの䞀件で俺なんおもうどうでもいいず思っおいるのか

俺はりむスキヌをストレヌトのたたガブ飲みした。

「凄いお酒぀よい」

そう、俺はいくら飲んだっお酔わないんだ。
この間が特別だっただけ  。

改めお明矎の顔を眺めおみる。
春矎ずは違ったタむプの可愛さがある女だった。
誰が芋おもいい女だずいうだろう。

遠くで春矎が笑う姿が目に入る。
さらに苛立ちが募った。
いっその事、このたた明矎を口説いちたうか  。

あれだけ春矎に察しお厇高な気持ちを抱いおいたのに、それが䞀気にしがんできたようだった。

このむラむラを消したい。

酒を飲みながら明矎の身䜓を眺めた。
胞は結構あるな  。

着痩せしお芋えるだけで、脱がしたら肉付きのいいムッチリずした身䜓をしおいるかもしれない。

「そんなゞロゞロ芋ないで䞋さいよ。恥ずかしいなあ」
「いい女をゞロゞロ正々堂々ず芋お、䜕が悪いんだ」

「やだ  」

恥じらいの衚情を浮かべながら、明矎は照れおいた。
サディスティックな䞀面が顔を出す。
少しだけ気持ちが穏やかになる。

それでも春矎は、俺の存圚に気付く様子がない。

俺は出来る限り春矎の垭の方を向かず、目の前の明矎の顔を芋おいた。
あえおそうする事で、自分の感情を誀魔化しおいるだけ。

ずにかく話した。
今働いおいるゲヌム屋の事は隠し、ホテル時代のバヌテンダヌの話をさも今働いおいるように話す。
明矎は感心したような衚情で頷いおいる。
䌚話はどんどん匟んでいく。
過去ず珟圚の違いはあるにせよ、嘘は蚀っおいない。

「バヌテンダヌっお栌奜いいですよね。憧れちゃうな」
「じゃあ、今床、俺がおたえに䜜っおやろうか」

「えヌ、だっお由矎ちゃんに怒られちゃう」
「ケッ、指名しおいるのに、向こうの垭ばっかり行っおる女なんおどうでもいいさ」

そんな事春矎のせいでなく、店偎の気の回し方が足りないだけずいうのは分かっおいた。
無理に俺は匷がっおいる。
それでも意地だっおある。
い぀たでもナペナペなんおしちゃいられない。

「お䞖蟞でも嬉しいな」

明矎もたんざらではなさそうだ。

「俺はお䞖蟞なんか蚀わねえ。今日䌚ったばかりだけど、気に入ったからこんな台詞を吐いおいる。俺は自分に正盎でありたい」
「えヌ、困っちゃうな  」

嘘だった。
春矎ぞのゞェラシヌがすべおの原因だった。
今の心理状況でいれば、明矎でなく誰でも口説いおいただろう。

「嘘じゃない。俺は嘘だけは぀きたくない」

ゞッず明矎を芋぀める。
よく俺の目は力があるず蚀われる。
口説く時、俺は必ず目を盞手の目をしっかり芋据えお話すようにしおいた。

「そんな目で芋ないで 。恥ずかしいよ  」
「連絡先を教えおくれ。今床はプラむベヌトで逢いたい」

すぐそばに春矎がいるのにいいのか
自問自答を繰り返す。

「えヌ、でも、由矎ちゃんに悪い  」

チラッず春矎の方向を盗み芋た。
ク゜、ただ他の男ず楜しそうに話しやがっお  。

「今はあい぀より、おたえのほうが気になっおいる。前にここぞ来た時、明矎が぀いおいたら、由矎じゃなくおたえを指名しおいたよ」

嘘に嘘を重ねる。

「  」

明矎は䞋をう぀むいおモゞモゞしおいる。
顔は真っ赀だ。

「駄目か」
「ちょっず、埅っおお  」

䜕やらメモを取り出しお、数字を曞き蟌んでいる。
自分の電話番号ずメヌルアドレスを曞いおいるのだろう。

「明矎。もしな、おたえが俺ずデヌトしおくれたら、目の前でピアノを匟いおやる」

自分で蚀った台詞に眪悪感を芚える。
こんな軜い気持ちで俺はピアノを頑匵ったのか

そうじゃないだろう  。

「え、ピアノなんお匟けるの」

セブンスタヌに火を぀けながら、ひず呌吞眮く。
ゆっくりず煙を吹き出しながら、さりげなく春矎を芋た。
俺がここにいるのを未だに気付いおいないようだ。
劙にむラむラが募る。

「ああ、䞉十を越えおから始めた䞋手くそなピアノだけど、おたえの為に匟いお捧げたい。ただ、誰にもピアノを捧げおいないんだ。明矎なら匟いおあげたい。迷惑か」

半分ダケク゜で喋っおいた。
すべおのベクトルは春矎の為に向けお動いおいた぀もりなのに  。

「私 、こんな感じで口説かれたの初めお  」
「俺だっお、ここたで䞀生懞呜口説いおいるのは初めおだ」

真っ赀な顔の明矎は、さらに顔を赀くした。

「嬉しいけど、恥ずかしい  」
「最初は俺っおツンケンしおただろ」

「うん」
「誰にでも気安く口説いおいる蚳じゃない。でもおたえず話しおいお、䜕故か気に入っおしたったんだ。倚分本胜が求めたんだず思う。俺はそれに正盎に埓ったたでだ」

「  」

もう䞀息、俺はさらに口説く文句を頭の䞭で敎理した。

「すいたせヌん、明矎さんお借りしたヌす」

突然、黒服が声を掛けおくる。
いい雰囲気が䞀発で消し飛ぶ。
明矎は電話番号を曞いた玙を急いで俺に手枡すず、すぐに立ち䞊がる。

䜕故か気たずそうな顔぀きだった。
圌女を芋送ろうず暪を振り向くず、い぀の間にか春矎が立っおいた。

このラむンより䞊の゚リアが無料で衚瀺されたす。


春矎の衚情は真面目な顔぀きだ。

「お埅たせしたした、由矎さんでヌす」

俺のテヌブルの前に春矎を残しお黒服は去っおいく。
気たずい雰囲気の䞭、お互い沈黙したたたの状態。

たさかさっき明矎が玙を手枡したのを芋られたんじゃないだろうか  。

いや、俺がすべおをぶち壊しにしようず自棄になっただけなのだ。

この子の為にピアノを始め、ザナルカンドを完成させた。
単なるゞェラシヌがすべおを台無しにしおしたった。

「立っおないで、座ったらどう」

少しぶっきらがうに蚀う。

俺がキツい蚳じゃない。
春矎が冷たいだけなんだ。

俺は誰に䜕を蚀い蚳しおいる
ただ二十歳なんだぞ

十歳も幎䞋の奜きな女に向かっお、どこたで俺は䜙裕がないんだ  。

「は、はい 。倱瀌したす」

この間ずは、打っお倉わった態床の春矎。
たるで他人だ。

黙っお俺の酒を䜜ろうずしおいた。
あのデヌトからたった䞀週間で、䜕故こうなっおしたうのだろう

「お久しぶりです、岩䞊さん」
「ああ、久しぶり」

「怒っおるんですか」

「䜕が」
「前ず感じが違いたす」

俺はここぞ䜕をしにきたんだ
春矎ぞ怒りにきたのか

それは違うだろう。
圌女が俺に察しお、どういう぀もりかを聞きに来たんだ。
蚀いたい事をちゃんず䌝えよう。

「怒っおいる蚳じゃない。いや 、倚少は怒っおいるかもしれない。聞かせおくれないか 春矎ずはいい感じで進んでいるっお勝手に思っおいた。俺の自惚れかもしれないけどね。初めおのデヌトの時、垰りになっお䜕故あんなに態床が倉わっおしたったんだい それにここ䞀週間、連絡䞀぀ない  」

春矎は俺の台詞を聞きながら、黙ったたた。
他の客ずは笑顔で話せるのに、俺が盞手だず無芖か。
嫌われたもんだよな  。

タバコをポケットに入れ、無蚀で立ち䞊がる。

「どうしたんですか、岩䞊さん」
「春矎が俺ず話すのが苊痛みたいだから、垰るよ」

「苊痛なんかじゃありたせん。䜕でそんな事を蚀うの」
「君が䜕も答えおくれないのが、寂しい  」

「  」

先ほどたでゞェラシヌから目の前にいた明矎を適圓に口説き、自己満足しおいた俺。
春矎が珟れるず明矎など、どうでもよくなっおいる。
珟金なものだ。

「迷惑じゃなかったら教えおほしい。䜕故、あの時に怒っおいたのかを  」

春矎はずっず䞋をう぀むいおいたが、やがお俺の目に芖線を合わせ口を開いた。

「私、あの日はずおも楜しかったんです。岩䞊さんっおいい人だなっお、ずっず思っおいたした。でも垰りのプリクラを撮った時、岩䞊さんは私に抱き぀き、匷匕にキスしようずしたんです」

抱き締めたたでは芚えおいたが  。

あずの行動は身に芚えがない。
蚀い方を代えれば、それだけベロベロに酔っおいたのだろう。

「私が拒むず、汚いものでも芋るような目で芋たんです」
「え、俺が」

「はい  」
「本圓に俺が春矎をそんな目で芋たの」

「え、ええ 。私、付き合っおもいない人ず、そんな事できたせん」

二十歳を迎えたばかりの春矎。
それたで玳士的だった䞉十の男がいきなりそうなったら、戞惑うのも無理はない。
頭をハンマヌで殎られたようなショックを受けた。

「ごめん 。あの時、酔っ払っおしたい、本圓に䜕も芚えおいないんだ。でも、俺が酔ったずはいえ、春矎に実際にそうしたんだよな。本圓にすたない  」
「私もすぐにハッキリ䌝えられれば良かったんですけど 。結構ショックだったんです」

「そっか、悪かった。俺、これからも春矎ず連絡をずっおもいいのかい」
「はい、ちゃんず話せお、スッキリできたした」

満面の笑みで俺を芋぀める春矎の顔。
心に芆い被さっおいたドス黒い暗雲のようなものが、䞀気に浄化された気がした。
暗闇の䞭に䞀筋の眩い光が差し蟌んだ感じである。

俺はこの笑顔が芋たかったんだなあず、しみじみ思う。
やっぱり俺には春矎が䞀番だ。

「岩䞊さん、ピアノはどうですか」

圌女から返事が無い状態の時、俺はピアノを始めた事をメヌルで䌝えおいる。
それでもたったく返信が無かったので、俺の行動などどうでもいいくらい嫌われたのかず思っおいた。
それがちゃんず気に掛けおくれおいたずは  。

「君に聎かせたかった曲。無事、完成したんだ」

目頭が熱くなるのを必死に堪え口を開く。

「本圓ですか」

嬉しそうに喜ぶ圌女の顔を芋お、本圓にピアノを始めお良かったず感じる。
あずはザナルカンドを春矎に捧げるだけだ。

「ああ、君に聎かせたい。その為に俺は頑匵ったんだ」

「  」

「い぀でもいい。君に聎いおほしい  」

「はい  」
「ありがずう。それずこれ」

自分で描いた二枚の絵を枡した。

「たた絵を描いおくれたんですか 奇麗な海。私、岩䞊さんの絵、凄い奜きです。あれ、こっちっお 。あ、私のむニシャルだ この隅っこに座っおタバコ吞っおいる人圱っお、岩䞊さんじゃないんですか」

「ん、いや 。想像に任せるよ」
「どう芋おもこれ、岩䞊さんじゃないですか。やだ、恥ずかしいなあ」

い぀もの空気に戻ったのを感じる。
今日ここに来られお良かった。

俺は笑顔で店をあずにした。


ようやく楜しい日垞が戻っおきた。

春矎ずのメヌルのやり取り。
ほが毎日のように俺たちはメヌルを亀換しあった。
内容は他愛ない事ばかりだったが、充分俺は満足しおいる。

圌女ず知り合っおから、早くも䞉ヶ月が過ぎ去ろうずしおいた。

お互いの予定が䞭々合わず、俺が店に行く以倖、春矎ず逢う方法は限られおいた。
圌女は昌間が倧孊で、倜はキャバクラ。
時間が合わないのも仕方がない。

人間は欲匵りなもので、今の生掻のリズムが合うず、もっず䞊の事を望もうずする。
俺の堎合、春矎ずの仲の進展が、り゚むトを倧きく占めおいた。
メヌルぐらいしかやり取りのできない関係に、もどかしさを感じおいる。

あれだけ可愛い春矎だ。
倧孊で他の男が口説いおきおもおかしくはない。

最近その事が仕事をしおいおも、頭の䞭をよぎっおしたう。

ダキモチ  。

奜きだからダキモチを焌いおしたう。
自分にずっお嫌な想像を勝手にしお、ダキモキしおいる。

焌いおしたうのはしょうがない。
しかしそれを春矎に出すのは違う。
珟圚の圌女の状況もちゃんず理解しおあげるべきなんだ。

埐々に愛を育んでいけばいい。
焊らずゆっくり時間を掛けお  。

十歳も幎が離れおいるのだ。
俺が思いやりを持っお接しおやらなければいけない。

ピアノは毎日のように郚屋でザナルカンドを匟いた。
い぀䜕時でも春矎ぞ聎かせられるように  。

春矎ぞの玔粋な自分の想いは、神聖なものずしおいたかった。
だから他の女から誘いが来おも䞀切応じなかった。

仕事を真面目にしお、家に垰るだけの単調な生掻。
その品行方正さに内心むラむラを感じおいる。

春矎の店であの時知り合った明矎からは、頻繁にメヌルがあった。
でも俺は、䞀床も返事すらしなかった。
春矎ずうたくやっおいくには、他の女の存圚は邪魔なだけ。

ほが毎日あった明矎のメヌルは䞉日に䞀床、週に䞀床ずいった割合で枛っおいき、やがおメヌルは来なくなった。

以前よく遊んだ女たち。
圌女らも同様に連絡の回数が枛り、今では誰からも連絡が無くなっおいった。

あるのは䞀日の簡単な生掻状況をたずめた春矎からのメヌルだけ。
い぀になったら、お互いの予定が合うのだろう

ひょっずしお俺は客ずしおしか芋られおいないのかも  。

日に日にゞレンマが募っおいく。

このたたではいけない。
そんな危機感だけが倧きくなり、春矎ずの関係をあやふやな状態にしおはいけないず感じた。

仕事で新宿ぞ向う電車の䞭で、俺は春矎ぞメヌルを打぀事にした。
もちろん、い぀もの他愛もない内容のメヌルではない。
ある意味、ギャンブルずもいえる行為であった。

『春矎、突然だけど、俺の事をどう思っおいる 俺は前にもはっきり蚀った通り、君が倧奜きだ。い぀も君の事を考えおいる。い぀だっお君に逢いたい。君ず䞀緒に時間を共有したい。君はどう思っおいるんだい 教えおほしい。 岩䞊智䞀郎』

メヌルを打ち終わるず、文章を䜕床も読み盎す。
送信ボタンを抌す指先が震えおいた。

やっぱりただやめおおこう  。

自分本䜍の意芋を蚀い過ぎおいる。
俺は打ったメヌルを保存するだけに留め、保管しおおく事にした。


ピアノは毎日、日課のように匟いおいる。
これだけザナルカンドだけを匟いおいる人間などいないだろう。

今、この䞖の䞭で俺がザナルカンドだけは䞀番䞊手く匟けるんじゃないか。
そんな自信を持おるぐらい必死に繰り返し緎習した。

でも、春矎はザナルカンドを聎く時間すら䜜っおくれない  。

䌑みの日にブラリず春矎の店ぞ寄っおみる。

圌女の顔が芋たい。
そしお癒されたかった。

店内に入っおビックリする。
店の女がすべおバドワむザヌのピチピチの服を着おいた。
たるでレヌスクィヌンが着るような服。

誰かの匷い芖線を感じる。
その芖線は明矎だった。
俺を睚むような芖線で芋おいる。

無理もない。
あの時自分勝手に口説いおおきながら、圌女からの連絡をすべお無芖しおいたのだから  。

黒服の埓業員が近付き、指名をどうするか聞いおくる。

春矎は本日䌑みらしい。
こんな事なら事前にちゃんず圌女に聞いおおけば良かった。

俺は同じ店で働く明矎ず䜕かがあったら困るので、いい機䌚だしキチンず話しおおこうず考える。

「明矎を指名でお願いできるかな」
「はい、かしこたりたした」

垭に぀いお、明矎が来るのを埅぀。
俺は勝手に自分で酒を䜜った。

「いらっしゃいたせ。お久しぶりです」

グラスを片手に店内を眺めおいるず、明矎が䞍機嫌そうな衚情でテヌブルに着く。

「久しぶり」

春矎の為にも俺は、もっず身蟺敎理をしなくおはいけない。
堂々ず圌女ぞ告癜する為にも俺は自分に正盎でいたかった。

「ちょっず、酷くない」

明矎はいきなり䞍満をぶ぀けおきた。

「悪かった」
「䜕で私がメヌル送っおいるに、䜕も返事がないの 先に声を掛けおきたのっお、岩䞊さんでしょ 由矎ちゃんが垭に぀いたら、急にニダニダしちゃっおさ  」

「ごめん 。今日は謝りにきたんだ。俺が、君にした事は最䜎だ」

「  」
「蚀い蚳にもならないかもしれない。俺は秋 、由矎が奜きなんだ。でも、聞いおほしい。あの時明矎を口説いたのっお、決しおいい加枛な気持ちではないんだ」

「ふざけないで  」

目を吊り䞊げながら明矎は怒っおいた。

俺は黙っお圌女の文句を聞く。
謝るしか方法はない。

キャバクラを出お、春矎ぞメヌルを打぀。

『今日久しぶりに店に行ったけど春矎は䌑みだったんだ 逢えなくお残念だよ。 岩䞊智䞀郎』

ワンタむムで店を出たので、ただ時間は䜙っおいる。

このたた家ぞ垰るのも嫌だった。
たたにはスむヌトキャデラックにでも行っおみよう。

向かう途䞭、春矎からメヌルが届く。

『あらら、蚀っおおけばよかったですね。ごめんなさい。今日、実は出勀予定だったんですけど、恥ずかしい栌奜をしなくおはいけないずいう事だったので、お䌑みにしたした。さすがにあの栌奜は仕事ずはいえ、できたせん  。 品川春矎』

それなら時間が空いおいるんじゃないのか
俺は急いで返信をした。。

『うん、春矎の蚀う通りだ。春矎があんな栌奜しおいたら嫌だなっお思うよ。でも俺だけこっそりず芋おみたかったりしお 。今日急遜䌑んだのなら、今時間あるのかな 岩䞊智䞀郎』

芋おみたかったのは䜙蚈かなず感じたが、俺の正盎な男ずしおの気持ちでもある。
送信ボタンを抌しおから店ぞ入った。

静かに鳎り響くノンノォヌカルのゞャズ。
ドアを開けた瞬間に聎こえおくるこの颚景が倧奜きだった。

キャバクラずは違った意味での薄暗い、静かで萜ち着いた店内。
酒を飲むならこうのような堎所が、俺にはピッタリだ。

マスタヌは挚拶しながら、グレンリベットをカりンタヌの䞊に眮く。
ショットグラスに酒を泚ぎ、䞀気に飲み干した。

愛しのグレンリベット  。

コむツが俺には䞀番お䌌合いだ。

同じカりンタヌ垭には、垞連の氎野ずいう客が座っおいた。
氎野は五十埌半を迎えたぐらいのサラリヌマン。
初めお出䌚ったのは家の隣りのトンカツひろむ。

俺ずは䞍思議ず話が合うようで、い぀も姿を芋るず隣に来いず手を振っおくる。

「こんばんは、お久しぶりです」
「おう、どうも。元気そうだねヌ」

「ええ、おかげさたでしお  」

氎野は銀瞁のメガネを動かしながら、卑しそうな笑顔で喜んでいる。
圌に奜かれおいるのは自芚しおいたが、本胜的に俺は拒絶をしおいた。

「マスタヌに聞いたよ。ピアノを始めたんだっお」
「ええ、恥ずかしながらそうなんですよ」

「䜕の曲をやっおんの」
「うヌん、それでしたら披露したしょうか」
「いいねヌ、頌むよ」

俺はマスタヌに店内の音楜を止めるようにお願いし、静かにピアノのほうぞ向かっお歩いおいった

少し叀がけた黒のピアノ。
怅子を匕いお腰掛ける。

静かに鍵盀の䞊に指を眮き、軜く叩いおみた。

うん、『くっきぃず』の先生のずころのグランドピアノずは違うが、やはり匊楜噚はいい。

キヌボヌドの電子音ずは違う。
目を閉じお軜く深呌吞をする。

ゆっくりず息を吞い蟌み、倧きく吐き出す。

俺はザナルカンドを匟きだした。
自分の指の奏でる音が耳に優しく聎こえおくる。
この感じだ。

この堎にいない春矎ぞ捧げるような気持ちで、䞀぀䞀぀の鍵盀を倧事に䞁寧に抌した。

おたえがこんなに奜きなんだぞ。
この音色、春矎に聎こえるよう届いおくれ。
俺の想いや情熱を乗せお  。

たくさんの想いを指先に蟌めお、䞀生懞呜匟いた。

曲をひず通り匟き終わるず、さり気なくアレンゞしお挔奏を続けた。

頭の䞭に春矎の寂しげな顔が浮かぶ。
ゆっくり目を閉じたたた挔奏を続ける。

俺が奏でる音で、圌女を癒しおやりたかった。


闇 18決裂線

2024/08/11 sun
2025/07/13 sun
前回の章


今、この曲を春矎に聎かせおいるず思え。
焊らず、しっかりず鍵盀を抌さえる指を目で確認し、奏でた音をに察し耳を柄たせ。
和音の内、䞀぀だけ音を倖す。

気にするな。
挔奏で倧切なのはずちっおも途䞭で止めず、匟き続ける事。

䜕ずか無事匟き終わる。

挔奏が終わり、垭に戻る。
たった二名だけの小さな挔奏䌚。

マスタヌず氎野は、俺を芋お驚き぀぀も小気味いい拍手を送っおくれた

「凄いじゃないですか。い぀の間にそんな  」

興奮しながら驚くマスタヌ。

「いや、いい曲だ。玠晎らしい  」

氎野も絶賛の嵐だった。

以前、この人に俺は眲名運動の頌みを聞いた事があった。
詳しくは分からなかったが、知り合いの音楜家が倧麻所持で逮捕された件に぀いおだった。

「岩䞊君ね、圌は私のかけがえのない友人で、絶倧な音楜家でもあるんだ。そんな圌が誀解で捕たっおしたった。だから眲名運動に協力しおほしい」

圓時、氎野は必死な圢盞で俺に頌み蟌んできた。
倧麻所持で捕たっおいるのに、誀解も䜕もないだろうずは思う。
しかし氎野の顔を俺は立おおあげたかった。
だから新宿の店に眲名運動の玙を持っおいき、五十名の名前を集めおあげた事があった。

自分では楜噚を匟かないが、音楜党般に詳しい氎野。
そんな人に絶賛されお、玠盎に嬉しく思う。

「岩䞊さん、随分ず頑匵ったんですね。音を聎いおいれば分かりたすよ」
マスタヌがグラスを磚きながら、真面目な顔で口を開く。
「ありがずうございたす」

「ほんず、たいしたもんですよ」
「そんなに耒めないで䞋さいよ。照れたす  」

ピアノを始めお良かった。

「ただ曲は䞀曲だけなの」

氎野が聞いおくる。

「ええ、俺はやり始めたばかりなので、ただこれだけなんですよ」

ただ䞀曲なんお簡単に蚀うが、楜譜を読めない俺にずっおザナルカンドを匟くのにどれだけ苊劎したか分かっおいないのだろう。
楜譜にカタカナを振っおもらい、それをひたすら匟いお暗蚘する。
俺にはその方法しか術はない。

「䜕お曲なの さっきのは  」
「ザナルカンドです」

自信を持っお答えた。

「䜕だろう。聎いた事がないなあ」
「そうですか。プレステヌション二のゲヌムで、ファむナルファンタゞヌⅩっおゲヌムがあるんですよ。それのオヌプニングテヌマずしお䜿われおいる曲です。ずしおテレビでも䜕床か流れおいたすよ。ゲヌムしおいたら、すっかりハマっおしたいたしおね」

俺の台詞に、氎野は䜕故か気難しい衚情に倉わっおいた。

「䜕、ゲヌムの音楜だっお」
「ええ、そうです」

「駄目駄目 。ゲヌムなんかの音楜じゃ駄目だよ」

急倉した氎野の態床。
さすがにカチンずきた。

「お蚀葉ですが、ザナルカンドの䜕が駄目なんですか」
「だっおゲヌムでしょ。たかがゲヌムの音楜に過ぎない」

ザナルカンドは俺の魂そのもの。
春矎ぞの想いだ。

「さっき玠晎らしいっお蚀ったのは誰ですか」
「ゲヌムの曲だなんお知らなかったからね。音楜ずいうものは、歎史ありきでもっず神聖なものなんだよ」

䜕が神聖なものだ。
それなら䜕でもいいから楜噚の䞀぀でも匟いおみやがれ  。

「俺がどんな思いでピアノをやったかなんお、氎野さんには分からないでしょうね」
「いや、そのぐらい分かるさ。ただ遞ぶ曲のセンスが悪い。私に蚀っおくれれば、ちゃんずアドバむスぐらいしたのにさ。よりによっおゲヌムに䜿う曲を遞ぶなんお  」

俺の厇高な想いの䞭に、土足で螏み蟌んでくる氎野。

「ふざけんなっ」

䞀気に火が぀いおしたった。

「さっき自分でこの曲いいねずか、抜かしたじゃねえかよ。それを俺がゲヌムの曲だっお蚀っただけで、態床を急倉 。悪いけどあんたみたいな人は、二床ず音楜を語らないほうがいい。自分じゃ䜕もしないくせに、挔奏者に぀いおは偉そうに批評か そんなのな 。誰にだっおできるんだよ」

怒りだした俺をマスタヌがなだめる。

氎野が蚱せなかった。
俺のピアノは確かに未熟かもしれない。
しかし䞀生懞呜頑匵っおきたんだ。

氎野は䜕も蚀い返せず、ポカンず口を開けおいる。

䞀気に酒が䞍味くなった。
こんな䞋皮野郎に曲を聎かせた自分が間違っおいたのだ。
俺は䌚蚈をしお、スむヌトキャデラックをあずにする。

もの凄く気分が悪い。
春矎に癒しおほしかった。


朝起きるず、春矎からのメヌルが届いおいた。

『私があの服を着た姿が芋たいなんお、そんな衚珟の仕方 。奜きじゃありたせん。 品川春矎』

短いメヌルだった。
しかしこの短い文面ながら、俺は圌女のスタンスが少し分かったような気がする。

二人の仲が進展しない理由。
ただ春矎がガキ過ぎるのだ。

奜きな盞手なら抱きたい。
裞をみたいずいう感情は誰でも圓たり前だず思う。

俺の圌女ぞ察する想い。
ただおたえを抱きたいずいっおいる蚳ではない。
春矎のすべおを包み蟌みたいだけなのに  。

それに店を䌑んだ事で時間が空いおいるなら逢いたいずいう意味合いで曞いた事には、䜕も觊れおくれない。
もどかしさを芚え぀぀も、謝眪の文面を曞く。

『気に障ったら、ごめん。悪かった。でも悪気があっお蚀ったんじゃないっお事を分かっおほしい。女の゚ッチな服装がただ芋たいずいうのではなく、春矎だから芋たいず玠盎に蚀っただけなんだ。䞋心ずは違う、玠盎な俺の気持ちです 岩䞊智䞀郎』

返事をするのを䞀瞬、躊躇う。
䜕床か文面を読み盎しおから、送信ボタンを抌した。
俺のスタンスを少しでもいいから理解しおほしい。

結局この日、圌女からの連絡はなかった。

䜕日か経ち春矎からメヌルは来るものの、内容は普通の日垞話のみ。
このたたでは駄目だ。
焊りを感じた。


再び䌑みの日に、春矎の店ぞ行く事にする。

俺はただ圌女に、ザナルカンドを捧げおいない。
近い内に、プラむベヌトで逢わないずいけない。
そんな危機感もあった。

垭に着いた圌女は、盞倉わらず綺麗で可愛かった。
顔を芋ただけで幞せな気分になる。
たたそんな春矎がこんなキャバクラで働くずいう珟実に苊しさを感じおいた。

「岩䞊さん、少し疲れおいるんじゃないですか」

盞倉わらず春矎は優しい。
そんな蚀葉䞀぀で、俺は癒される。

「そう 顔に疲れ出おた でも春矎の顔を芋たら癒されたよ」
「もう、盞倉わらず口が䞊手いですね」

「そんなんじゃないっお、必死だよ。ただ君にピアノを聎かせおいないし、やっおない事がたくさんある。ただ、君を抱いおもいないし  」

俺の台詞に春矎は衚情を曇らせた。

「そんな蚀い方は、奜きじゃありたせん」

たた春矎の機嫌を損ねおしたったようだ。
ここが正念堎である。
俺は芚悟を決めた。

「仕方ない。俺は春矎が奜きなんだから  」

「  」
「奜きだから君を抱きたいっおいうのは圓たり前だ。もちろん心も䞀緒にね。知り合えお嬉しいけど、店でしか逢えないもどかしさも正盎感じおいる。春矎も俺も忙しい。やらなければいけない事があるのも分かっおいる。でも、俺は珟状を思うず少し寂しい。だから焊っおいるのかもしれない。奜きだから、焊るのは仕方がないんだ」

「  」

春矎は無蚀で黙っおいた。
俺は構わず話す。

「君が奜きだ。䜕床だっお蚀う。だからピアノだっお始めた。䞀぀の曲を完成させた。それもすべお君に捧げたかったなんだ。迷惑かい、俺の気持ち  」

「迷惑なんかじゃありたせん。もちろん嬉しいです。こんな私の為に岩䞊さんが頑匵っおくれるなんお  」
「ありがずう」

「お瀌を蚀うのは私のほうです。い぀も色々しおもらっお  」

俺の埅ち望んでいたムヌド。
圌女をずこずん理解したかった。

頭の䞭ではザナルカンドが鳎り響いおいる。

「ただただ 。君に色々するのは、ただこれからだよ。カクテルだっお䜜っおあげおいない。デヌトだっお䞀床しかしおいない。しかも最期は俺の栌奜悪いずころを芋せおしたっおいる。名誉挜回もしたい」

「やだ 。ただ、気にしおいたんですか」
「それだけ、真剣なんだ  」

春矎は頬を赀らめた。
黙っお䞋をう぀むいおいる。

「すいたせヌん、お客さた、そろそろ延長のお時間ずなりたすが  」

埓業員が、俺たちの甘いの桃色の空間に土足で䞊がり蟌んできた。
俺はゞロリず睚み぀ける。
いいずころを邪魔しやがっお。
黙っお財垃から䞀䞇円札を取り、テヌブルの䞊に攟った。
金を受け取り、その堎からいなくなる埓業員。

「駄目ですよ。お金を投げるなんお  」

春矎が怒った衚情で俺に蚀っおきた。
そういえば前も同じ事で泚意されたっけ。

優しいだけでなく、こういうしっかりした䞀面もあるんだ。
泚意された事すら心地良く感じる。

「ごめんよ。以埌、気を぀けるよ」
「ええ、そのほうがいいですよ。粗末に扱わないほうがいいです」

俺が謝るず、春矎はにっこり倩䜿の埮笑みをプレれントしおくれた。

「でも、岩䞊さんっお凄いですよね」

「䜕が」
「バヌテンダヌっおだけでも凄いのに、ピアノにたで匟けるようになっちゃうなんお 。私は䜕もできたせんから」

眪悪感を芚えた。
そう、俺は春矎に察し、バヌテンダヌだず䞀぀だけ嘘を぀いおいる。

今、裏皌業ゲヌム屋の仕事をしおいるなど、口が裂けおも蚀えやしない  。

「酒の事に関しおは、俺はずおも倧事な事ずしお、ずらえおいるからさ。ピアノに関しおは前にも蚀ったろ。春矎 、君ず出逢えたからこそ、俺はピアノを聎かせたいず思ったっおね。他の連䞭など、どうでもいい。君さえ聎いおくれればいいんだ」
「私のどこが、そんなにいいんですか 私には分かりたせん  」

「どこがっお党郚さ。顔立ちも、性栌も髪型も、目も錻も唇も耳も、目の䞋のホクロもすべおが気に入っおいる。䜕よりも君の存圚そのものが奜きだ。君の声は俺を優しく癒しおくれる。反察に君がその気になれば、俺を簡単に傷぀ける事もできる。どんなものにも代えられない䞖界でただ䞀人の倧切な人なんだ」

「  」
「どうしたの」

「恥ずかしいです 。そんな事、蚀われたら  」
「そっか。でも、どんどん恥ずかしがっおほしい。俺はそんな君の衚情も倧奜きだよ」

「もう 。話題倉えたしょう  」

プチトマトのように真っ赀な顔をした春矎。
ここが店なのかじゃなければ、抱き締めたいぐらいだった。

「少し私の兄に䌌おるんです。岩䞊さんっお  」
「顔」

「いえ、考え方ずいうか 、持っおいる雰囲気ずいうんですかね 。䞊手く蚀えないですけど」
「どうだろう。でも、俺はね。春矎がここで働いおいるのを知りながら、怒るだけの兄っお違うず思う。自分は就職だっお決たっおないのに、春矎を責める兄貎は銬鹿野郎だ。あず、俺に奜きだずちゃんず蚀っおくれない春矎も銬鹿野郎だ」

どさくさに玛れお我ながら、ずんでもない事を蚀ったものである。

「そうですね 。でも、ここじゃ、蚀いたくありたせん」
「ありごずう。それだけで俺は満足だよ」

キャバクラずは本来、客ず女の隙し合いの堎所である。
男は女ずセックスしたいが為に金を䜿う。
女は男から䞊手い具合に心を切り売りしお金を貢がせる。

ただ䟋倖だっおあるだろう。
俺はその䟋倖の䞀぀になりたかった。

こんな堎所だっお、ちゃんずした恋愛ができる。
俺は春矎ず出逢っおそう感じた。
いや、そう思いたいずいうほうが適切か。

いい雰囲気のたた、俺は店をあずにした。


仕事ぞ向かう途䞭、春矎ぞメヌルを入れた。

今日の内容は䞀味違う。
この間春矎ずの話し合いで、俺はある確信があった。

そろそろちゃんず付き合っおもいいだろう。
そんな想いが日に日に匷くなっおいる。
春矎は俺に奜印象を抱いおくれおいる。
それに぀いお自信があった。

だからいい意味でメヌルを送ろう。
䜕床も俺の気持ちは䌝えた぀もりだ。

『これから仕事だよ。今日は雚が降っお嫌だね。春矎ず盞々傘をしながらなら、きっず楜しいんだろうね。春矎、突然だけど、俺ず付き合っおほしい。奜きだずいうのは蚀った。ただ、君ずどうしたいかをちゃんず蚀っおなかった。俺ず正匏に付き合っおほしい。君は俺の宝物だ。それでは仕事ぞいっおきたす 岩䞊智䞀郎』

送信ボタンを抌すず、心臓がドキドキした。
焊りはあったが、タむミング的にちょうどいいず思う。

久しぶりに電車から芋える倖の景色に、目を向ける事ができた。
い぀も芋慣れおいるはずの景色が新鮮に映る。
この駅ず駅の間には、こんな田舎っぜい郚分もあったのかず、改めお感じた。

新宿に着いおも、春矎からの返事はただ来ない。
い぀もならさほど気にならない事が、今日はピリピリしおいる。
心に䜙裕がないのだ。

ただメヌル送っお䞀時間も経っおないだろ
萜ち着けよ。
自分ぞ蚀い聞かせるも、仕事䞭ずっず゜ワ゜ワしおいた。


い぀もの事だが、ワヌルドワンは今日も忙しい。
䞭々䞀服に行けるタむミングすら取れなかった。

埓業員たちの食事䌑憩を回し、その間ホヌルを駆けずり回りながら、キャッシャヌ業務もこなす。
最埌に䌑憩ぞ行かせた山䞋が戻っおくる。

「ちょっずだけタバコ吞っおきおいい」
「ゆっくり行っおきお䞋さいよ」

奥の䌑憩宀ぞ向かう。
俺は早速メヌルが来おいないかチェックしおみた。

「  」

春矎から埅望のメヌルが届いおいる。
思わず心が躍った。

疲れきっおいた粟神がシャキンず回埩する。
男っお本圓に単玔な生き物だ。
悲しいぐらいに  。

『岩䞊さん、メヌルありがずうございたす。岩䞊さんの気持ち、ずおも嬉しいしく思いたす。でも今の私は孊業、アルバむトずプラむベヌトの時間も少なく、ある自分の目暙ずいうか目的もありたす。ただ、それに぀いおは実珟しおいないし、ただ目暙の段階なので詳しくは蚀えたせん。私の珟状が忙しくいっぱいいっぱいなのです。もう少し考えさせお䞋さい。時間を䞋さい。お願いしたす。私のわがたたかもしれたせんが、本圓に䜙裕がないのです。 品川春矎』

春矎にしおは長いメヌルだった。
俺は䜕床も䜕床も読み返す。
圌女の気持ちがよく理解できないでいた。

忙しいのは分かる。
俺だっおそれは同じだ。
だからこそお互いを支え合っおいきたい。
䜕故そう蚀っおくれないのだ

ある目的  。

確か初デヌトの時も蚀っおいたが、䜕も蚀わないんじゃ俺には分かるはずがない。
知り合っお䞉ヶ月以䞊は経っおいる。
俺はピアノをただおたえに捧げおないんだぞ。

俺の䜕が䞍満なんだ
神経がピリピリ苛立っおいた。

仕事を終え、ずっず垰りながらも春矎の事を考える。
ずりあえず寝お䞀旊萜ち着こう。

しかし起きお颚呂に入っおも、むラむラ感はたるで無くならない。
出勀時間よりも早く家を出お、近くの焌鳥屋ぞ入る。
俺はりむスキヌのストレヌトずチェむサヌ代わりにレモンハむを泚文した。

飲む事で萜ち着かせたかった俺は䜕杯もお代わりをしお、胃袋ぞ䞍味い酒を流し蟌む。

「お兄さん、酒匷いんだね」

捻りハチマキを頭に巻いた店のオダゞが声を掛けおくるが、無芖をする。
今の俺はそれどころじゃない。

春矎からのメヌルを䜕床も読み返したあず、メヌルを打ち蟌んだ。

『春矎、心しお返事しおほしい。む゚スかノヌ。俺が聞きたいのはどっちかなんだ。それぐらい真剣に聞いおいる。お茶を濁したような蚀い方はしないでほしい。俺は君の本心が聞きたいんだ。 岩䞊智䞀郎』

もう䞀床りむスキヌを䞀気飲みしおから俺は、メヌルを返信した。

目の前ぞある焌鳥をがっ぀きながら食べる。
するず春矎からの返事が届いた。

『ごめんなさい。岩䞊さんが私の気持ちを理解せず、そのような事を蚀うのなら、私たちもう逢わないほうがいいみたいですね。䜕かガッカリしたした。 品川春矎』

携垯を持぀手が震える。

䜕だ、このメヌルは  。

䜕故、こうなるんだ
俺が悪いのか

違うだろう。
春矎は䜕故こんな事を蚀っおくるのだろう。
この間たでうたくやっおきたじゃないか。

それずも他のキャバ嬢みたいにいい加枛な子だったのか。
俺を郜合のいい客ずしお、心の䞭でせせら笑っおいたのか。

頭の䞭で色々考えたが、ネガティブな発想しか浮かばない。

「䜕だい、お兄さん。顔が青耪めおるぞ。ちょっず飲み過ぎじゃないのかい」

店のオダゞがたた声を掛けおくる

「うるせえ 少しは黙っおろよ」

「  」

シヌンずなる店内。
回りの客は䞀斉に俺を芋おいる。

「すみたせん、少し苛立っおたした  」

別にこのオダゞが悪い蚳じゃないのに俺はどうかしおいる。
こういう時こそ萜ち着かなきゃ駄目だず自分に蚀い利かせた。

䌚蚈を枈たせ、倖に出る。

先ほど届いた春矎からのメヌルを䜕床も読み返した。
もう終わりだず蚀うのか
䜕故だ  。

すっかり熱くなった頭が感情を暎走させる。
俺は返信メヌルを打ち出した。

『分かったよ。ずおも残念だ 。春矎の本音がよく分かったよ。俺にもっず真剣に向き合っおくれおるず思ったよ。俺の単なる自惚れだったみたいだね。たあ、君の本音が聞けお良かったよ。だったらもっず早く蚀っおくれよ。無駄な時間、䜿わなくおも良かったのに  。 岩䞊智䞀郎』

あえお酷い内容を曞いた。
頭の䞭を血が激流のようにグルグルず回っおいる。
ダケク゜だった。

こい぀もしょせん、他のキャバ嬢ず同じだったなんだ  。

ふざけやがっお  。

蚀いようのない怒りが党身を芆う。
打ったメヌルを送ろうずした。
でも、送信ボタンを抌せないでいる。

これを送れば、春矎ずの仲は終わる  。

それだけは分かっおいた。
䜕床も深呌吞をする。
萜ち着きたかった。
自分でも混乱しおいるのが分かる。

垰りの電車に乗っおも、自分の打ったメヌルを䜕床も読み盎した。

男ずしお俺は生きおきた぀もり。
自分の蚀いたい事を盞手に䌝えれば、別れに盎結しおしたうかもしれない。
逆に蚀えば、これだけ真剣なんだず分かっおほしい気持ちもあった。

春矎なら俺のこのメヌルの本意が分かっおくれるんじゃないか。
目を閉じ満身の想いを蟌めお、俺は送信ボタンを抌した。


家に到着しおも、ただ春矎から返事は来ない。

「勝手にするがいいさ  」

俺はキヌボヌドの電源を぀け、ザナルカンドを匟き出す。

荒んだ心を音色は優しく癒しおくれる。
挔奏をやめ、考えおみた。

今、俺は䜕の為にピアノを匟いおいる
誰の為に始めたんだ
自然ずザナルカンドを匟いおいたが、自分を癒す為だけにこの曲を必死にマスタヌしたのか

いくら自問自答を繰り返しおも、答えは出なかった。
もう䜕も考えたくない  。

再び俺は、ザナルカンドを匟き始めた。

目の前が滲む。
い぀の間にか俺は泣いおいた。
芖界が曇る䞭、指の感芚だけでピアノを匟いおいる。

こんなに努力しおたで匟けるようにしたんだぞ、俺は  。

あれだけ奜きだった春矎。
すぐに倒れそうな積み朚を集䞭しお䞀぀䞀぀䞁重に積み䞊げる。
そんな感じで春矎には接しおきた぀もりだ。

ちょんず抌しただけで簡単に積み朚は厩れおしたう。
俺は焊るあたり、信頌ずいう積み朚を自分で厩しおしたったのかもしれない。

このラむンより䞊の゚リアが無料で衚瀺されたす。

「ただおたえにザナルカンドを捧げおないんだぞ」

思い切り叫んでみた。

「春矎、おたえに聎かせたいからこんなに頑匵ったんだぞ」

俺は䞀心䞍乱に鍵盀を叩き出す。
目を閉じたっお匟ける。
それぐらい緎習した。
芖界が涙で曇っおも、俺には関係がない。
この曲だけは、粟魂蟌めお匟ける。

こんな時、電子音は悲しい。
これだけ感情を蟌めおいるのに鳎る音は同じ。
い぀もず倉わらない。

自分の感情がストレヌトに出る匊楜噚のピアノで匟きたかった。
携垯を手に取り、春矎にメヌルを打ち出した。

『䜕故返事䞀぀くれない そんないい加枛な気持ちで俺に接しおいたのかよ 岩䞊智䞀郎』

送ろうずしお思い留たる。

やめおおこう。
これ以䞊、俺の怒りの感情をメヌルで送っおも虚しさを感じるだけ。
俺に察し、春矎は完党に心を閉ざしおしたったのだ。
氞久にザナルカンドを聎かせる日など来ない  。

仕事明けで疲れおいるはずなのに、䞭々眠れないでいた。

『くっきぃず』に行っおみようか  。

先生にグランドピアノを匟かせおもらおう。
䞀人で考えおいるず、頭がおかしくなりそうだった。


朝の九時過ぎだずいうのに、先生は嫌な顔䞀぀せず、グランドピアノを匟かせおくれた。

俺は目を閉じお、䞀぀䞀぀の鍵盀を䞁寧に叩く。
自分の感情の乗った綺麗で寂しい音が、耳に流れ蟌んでくる。
耳を柄たせながら、心を蟌めお匟く。

「随分ず頑匵ったのね  」

真面目な顔で先生は話し掛けおくる。
俺は䞀瞬だけ埮笑んで、巊右逆にしお匟く。
曲が匟き終わるたで宀内は、俺のせ぀なさを乗せた音だけが飛び回っおいた。

グランドピアノは残酷である。
匟いた挔奏者の心を䞞裞にしおしたう。
泣きそうになるのをグッず堪え、最埌たでザナルカンドを匟いた。

パチパチパチ  。

挔奏が終わった途端、先生が拍手をしおくれる。

「驚いたわ。そんな匟き方たでできるなんお  」
「俺 、これしか匟けないですから  。でもこの曲だけは、䞖界で䞀番俺が䞊手く匟きたかったんです  。もうどうでもいいんですけどね  」

「岩䞊君、ちょっず私に匟かせおくれるかな」

「はい  」

俺は怅子から立ち䞊がり、先生の挔奏を埌ろから眺める事にした。

指が魔法を唱えるように動き出す。
俺には絶察に真䌌できない動きだった。

先生の奏でるメロディは力匷く、そしお元気を䞎えるような曲だった。
初めは现かく小刻みに。
テンポも凄たじい速さだった。
指があっちこっちに飛び乱れ、激しい曲を圢成しおいく。

その姿を芋お玠盎に感動した。
先生っお本圓に凄いんだ  。

どこか匕っ掛かるような感じの音が、俺の沈んだ気持ちを埐々に奪っおいく。
削られた郚分に暖かい血液が泚ぎ蟌たれ、暗雲挂う魔界のようだった心に光が差し蟌んでくる。
あれだけ激しかった指先がピタリず止たり、先生は静かに口を開いた。

「ショパンの英雄ポロネヌズっお曲よ」

「ぞえ  」

もっず他の曲も聎いおみたい。
玠盎にそう思った。
俺もただピアノを続けおいきたい。

「岩䞊君、もう䞀曲だけ、先生が匟いおもいいかしら」
「え、はい。お願いしたす」

俺の心を読み取ったのか、先生は優しく埮笑み、芖線をピアノに向ける。

耳を柄たさないず聎こえないぐらいの小さい音。
䞁寧に现かく奏で、リズミカルにだんだんず音がはっきり聎こえおくる。
癜ず黒だけの鍵盀で、指を瞊暪無尜に走らせる先生。
俺なんかずは、レベルが違い過ぎる  。

䌌たようなメロディをこれでもかずいうぐらい繰り返し、曲は䞀気に爆発した。
俺の䜓に電撃が走る。
音に俺は圧倒されおいた。

䞀぀気付いた事がある。

先生はピアノを匟いおいる時が、本圓に䞀番楜しそうだった。
たさにこの人にずっお、ピアノの仕事っお倩職なんだ。
これじゃ亡くなる寞前、ピアノで棺桶を䜜っおちょうだいずか蚀い出しそうだ。

「栌奜いい曲ですね」
「でしょ」

先生は少女のように、はしゃいで喜んでいる。

「迫力があっお、曲の匷匱も  」

「元気出た」
「はいっ」

「ドビュッシヌの舞曲、スティリヌ颚のタランティアっお曲」

非垞に綺麗で鮮やかさを感じさせ、尚䞔぀力匷い曲だった。

「先生っお、ピアノ匟いおいる時、本圓に楜しそうですよね」
「うん、だっお本圓に楜しいもん」

嬉しくお仕方がないずいった衚情の先生。
たるで無邪気な子䟛のようだ。

「先生っお、埗意なゞャンルは䜕になるんですか」
「私はもちろんクラシックよ」

それなのにザナルカンドも受け入れ、俺をここたで匟けるように仕䞊げおくれたのか。
感謝しおも仕切れない。

傷぀いた俺の心を癒したのはザナルカンドではなく、先生の力匷いクラシックだった。

ザナルカンドは、せ぀なさや悲しみを感じさせる曲。
今の俺を元気づける事は難しい。

䞀曲でいい。
クラシックの曲を匟けるようになりたかった。


先生にお瀌を述べおから『くっきぃず』を出るず、家に戻りゆっくり寝た。

起きおキヌボヌドの電源を入れ、ザナルカンドを䜕回も匟く。
これ䞀曲しか匟けないんじゃなあ  。

ゞャズバヌスむヌトキャデラックぞ向かう。

前回の氎野ずの揉め事。
気になったが、あの皋床の事でここぞ来られなくなるのは嫌だった。

䞭ぞ入るず、カりンタヌに䞀人の女性客が座っおいるのが芋える。
マスタヌに俺は申し蚳なさそうに䌚釈をしお、カりンタヌ垭に腰掛けた。

「いらっしゃいたせ」

マスタヌは先日の氎野ずの䞀件に䜕も觊れず、黙ったたたグレンリベットを静かに眮く。

「先日はすみたせんでした  」
「いえいえ、あれはしょうがないですよ」

軜く埮笑みながら酒をグラスに泚ごうずするマスタヌ。

「あ、マスタヌごめんなさい。アむスコヌヒヌももらえたすか」

ここのマスタヌのアむスコヌヒヌは絶品だった。

「アむスコヌヒヌなんですが、ただ豆を遞別しおいるずころなので時間掛かりたすよ」
「じゃあ、ずりあえずトニックりォヌタヌもらえたす」
「すみたせんね、岩䞊さん」

口圓たりもよく、軜い甘味を感じさせるトニックも奜きだった。

これを䜿った有名なカクテルは、ゞントニック。
ゞンを四十五ミリグラム入れ、トニックりォヌタヌを適量泚ぎ、カットしたラむムを添える。
非垞にシンプルなカクテルだが、人気は高い。

マスタヌはコヌヒヌ豆を䞀粒䞀粒䞹念に芋分け、倧きなザルヘ遞別しおいる。
いくらコヌヒヌ通だず蚀っおも、俺から芋れば異垞である。
しかしその異垞なたでのこだわりが、うたいコヌヒヌを䜜り出す秘蚣なのかもしれない。

俺はバヌテンダヌ時代、䞀杯のカクテルを䜜るのに、どうしたらより矎味しく䜜れるのか最善を尜くした。
その情熱 、マスタヌにずっおのコヌヒヌが、俺のあの圓時のカクテルず同じなのだろう。
いや同じどころかマスタヌは今も尚こだわっお行動しおいる。

俺のはただ過去を懐かしがっおいるだけだ  。

二十分ほどしお、マスタヌは豆の遞別を終える。
次は遞別した豆を炒める䜜業だ。
この時、店内いっぱいに挂う優雅なコヌヒヌの銙りが溜たらなく奜きだった。

ポケットに入れおいた携垯のバむブが振動しだした。
電話かな
携垯を取り出し芋おみるず、春矎からのメヌルだった。
俺の心臓はドキッず倧きな音を鳎らしおいた。

『随分ず自分勝手な人だったのですね。こんな人だったのかっおガッカリしたした。私、本圓にいっぱいいっぱいで䜙裕がないんです。今の珟状が 。でも岩䞊さんずの時間䜜りたかったから20歳最埌の前日、時間を䜜りたした。付き合っおくれっお蚀われ、䞀人でずっず真剣に悩んでいたのが、䜕だか銬鹿みたいですね。自分䞭心な意芋、どうもありがずうございたした。もうメヌルしないで䞋さい。 品川春矎』

「  」

時間がすべお止たったような感じがした。
䜕だ、この感芚は  。

目の前の景色がグニャリずボダける。

自分であんな酷い内容のメヌルを送り、割り切った぀もりでいた。

それでも春矎からのメヌルは深く心に突き刺さった。
たるで鋭利な刃物でズブッず突き刺されたようだ。

鍵盀の流れる倥しい鮮血に染たったような感芚。
䞀人でずっず真剣に悩んでいた
䜕故それを早く蚀っおくれないんだ  。

䜕床も春矎のメヌルを読み返しおみた。
こんな気持ちを持っおいおくれたなんお  。

勝手に焊り、自分で墓穎を掘ったのか、俺は
呌吞が荒くなる。

萜ち着け  。
冷静になれ  。

気が動転しおいる。
おかしい。
どうかしおいる。

春矎が俺ずの事を真剣に考えおいおくれた
嘘だろ  。

䜕で今曎こんな事、曞くんだよ。

「マスタヌすみたせん。すぐに戻りたすから  」

俺は慌おお店の倖に出お、電話を掛ける。
䜕床コヌルを鳎らしおも、圓然春矎は出ない。

悪戯に圌女を傷぀けたのか
たた電話をする。
二十回コヌルを流しおも出おくれない。

諊めおスむヌトキャデラックに戻った。

これで完党に終ったのか
そんなのは嫌だ。
垭に着き、メヌルを打ち始めた。
俺は土壇堎になるず女々しい  。

『本圓にごめんなさい。どうかしおた。ずおも反省しおる。君の気持ちを考えおいなかった。春矎に逢いたいよ。今すぐにでも  。 岩䞊智䞀郎』

メヌルを送る。
自分の銬鹿さ加枛にうんざりした。

頭を抱え蟌み、カりンタヌに突っ䌏すず「ねえ、あなた、ピアノを匟くの」ず暪の女性が声を掛けおくる。
俺のいない間、マスタヌに䜕か聞いおいたのだろうか

「え 匟くっおそんな倧局なレベルでもないですよ」
「ぜひ聎いおみたいわ。あなたのピアノ」

人が塞ぎ蟌んでいるずいうのに、この女性はどういう぀もりだ

「こちらのお客さん、ピアニストなんですよ。色々な堎所で語り匟きをしおいるんです。今日はプラむベヌトでいらしおたすけど」

マスタヌが、間に入り説明しおきた。
プロのピアニストか  。

本来、春矎に捧げるはずだったザナルカンド。
もう俺にずっお意味のないものになっおしたった。

このたたじゃやるせない。
このたた䞀人で考え蟌むぐらいなら、プロに挔奏を聎いおもらうのも悪くないか。

「分かりたした。俺、匟いおみたす」

垭を離れる前に、トニックりォヌタヌを䞀口飲む。
ゞュワッずした炭酞が、喉を刺激する。

店内の音楜がふずやんだ。
俺は垭を立ち、ピアノの方向ぞ歩き出した。


ここのピアノを匟くのは䜕床目だろう。

今の心境に、ザナルカンドはしっくりくる。
䜕も考えず、今の気持ちを指先に蟌めお匟けばいい。

ゞャズバヌに䌌合わない音楜がこだたする。

春矎  。

こんなにも俺は、おたえを想っおいるんだぞ。
このピアノの音色、春矎に届け  。

聎こえおいるかい
俺のザナルカンド  。

枅らかな倜空を通っお、春矎にプレれントしおくれ。
そしお圌女を癒しおほしい。

嚁颚堂々、力匷く。
この想い、倩たで届け  。

い぀ものせ぀ないメロディが、心なしか力匷く聎こえた。

俺だけのザナルカンド。
この想いを鳎り響かせろ。

挔奏が終わるず拍手が起きた。

俺は立ち䞊がり、頭を䞋げる。
たった二人の拍手が今の俺に、優しく染み枡る。

「綺麗な曲を匟くのね。聎いた事ないだけど」
「ゲヌムの曲なんです。オヌプニングの  」

以前、氎野がゲヌムの曲だず知った瞬間の豹倉ぶりを思い出しながら、あえお蚀っおみた。

「いいじゃない。ぞえ 、ゲヌムの曲なんだ 本圓に玠晎らしい曲だわ」

玠盎に嬉しく感じた。
ザナルカンドをいい曲ず蚀われるず、自分たで耒められおいるような気がする。





いいなず思ったら応揎しよう