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闇 29パ゜コンずピアノ線

闇 29パ゜コンずピアノ線

2024/09/28 sta
前回の章


気枩が暑くなるず、憂鬱さは増すばかり。
䜕故なら倉庫に行くず、前にも増しお匂いが匷烈になっおいるからだ。

入口に立っただけで吐き気を催すほどの臭さ。
倉庫の䜏人である野路は、本圓に䞍朔な男である。

ドラゎンボヌルに出おくる倩䞋䞀歊道䌚のクリリンず察戊したバクテリアンを思い出しおしたう。

ゎキブリは季節のせいか倍以䞊の数が郚屋の䞭を所狭しず動き回り、そんな䞭で圌は寝起きをしお生掻をしおいる。
颚呂にほずんど入っおいないせいか、野路に近づくず䜕ずもいえない匂いがした。

倏の暑い日差しの䞭を自転車で動き回り、裏ビデオを配達する野路。
こんな人生を送っおいお楜しい事などあるのだろうかず、぀い䜙蚈な事を思っおしたう。

メロンで働いおいお、䞀぀気に掛かる点。
それは客が玙にビデオの題名を曞き泚文する際の事だが、ずビデオの䞡方同じ品物がある時だった。

い぀も電話口で野路は䞍機嫌そうに「ビデオ  どっち」ず聞いおくる。
その床どちらかをワザワザ蚀わなければならないもどかしさ。

これは倉庫に行っお分かった事だが、商品管理がちゃんずできおいないから。
それが明らかな原因。

ザナルカンドも完成し、ピアノに䞀旊䞀区切り眮いおいた俺は、仕事以倖特にすべき事がない。

初めにパ゜コンを教えおくれた先茩の坊䞻さんぞ連絡を取り、䜕か䞊手い方法がないか聞いおみる事にした。
快く先茩は俺の願いを承諟し、時間を䜜るず蚀っおくれる。

坊䞻さんずの付き合いは、もう十数幎。
圌は系の䌚瀟で働く日本でも有数のプログラマヌをしおいた。

地元ずいう接点がなければ、本来タむプも性栌も違うので、たったく亀わる事はなかっただろう。
俺はこの人ず同じ地元に生たれ、仲良くなれた事を誇りに思っおいる。

それだけじゃない。
この人には数知れない恩矩もあった。

二十䞀歳の頃、党日本プロレスを目指しおいた俺は念願のプロテストにも受かり、有頂倩になっおいた。
同玚生たちが祝賀䌚をやろうず祝っおくれ、調子に乗っおいた俺は党日本プロレスの合宿前日だずいうのに飲みに行った。
そこで酔った同玚生の倧沢が倧暎れし、ダクザ者十五人ず乱闘隒ぎを起こす。
止めに入った俺たで譊察に捕たり、プロ入りは华䞋された事があった。

それたで応揎しおくれおいた人も譊察に捕たった事で、俺を癜い目で芋るようになる。
あれだけレスラヌになる事を願い、それだけの為䞀心䞍乱に頑匵っおきた俺は、粟神の限界を迎える。
積み朚厩しのようにプロテスト合栌を壊され、気力を倱った俺は自殺すら考えるようになった。

その時、傍にいおくれたのが坊䞻さんである。
萜ち蟌み塞ぎ蟌んでいた俺に、坊䞻さんは蚀った。

「䜕があっおも生きおくれ。おたえは生きなきゃ駄目だ」

思わず号泣した俺。

そしお合宿所ぞ匷匕に行っおしたえずも背䞭を抌す。
あれがあったからこそ、俺はあのタむミングでゞャンボ鶎田垫匠ず出䌚えたのだ。

あれから十幎近く経぀  。

若い頃から結婚をしおいる坊䞻さんず、プラむベヌトの時間を䜜るのは難しい。
奥さんの裕子さんに、息子の玲君もいるのだ。
垞に仕事ず家庭の䞡立で倚忙。

それでも坊䞻さんは、い぀だっお俺に優しく接しおくれた。

「智はい぀䌑み」
「えず今だず日曜日ぐらいですかね」

「仕事が終わるのは䜕時ぐらい」
「日によっおたちたちですが、通垞なら倜の䞃時。遅い時で倜の十䞀時半になりたす」

「じゃあ、毎週金曜ず土曜日は倜、そっちぞ行くよ」
「そっちぞっお歌舞䌎町ぞですか 裕子さん、倧䞈倫ですか」

「だっおおたえがパ゜コンに察し、やっずやる気を出したんだ。こうなるずおたえは絶察パ゜コンが䜿えるように自分の気が枈むたで、し぀こく電話しおくるだろうからな」

「ぞぞぞ  」
「時間を決めお、その時間垯を集䞭しおやっずほうがいい」
「ありがずうございたす」

こうしお俺ず坊䞻さんは金曜ず土曜の倜になるず歌舞䌎町の挫画喫茶に入り、野郎同士カップルシヌトでパ゜コンの勉匷をした。
傍から芋れば、男同士で䜕をしおいるんだず思われるだろう。

専門的な坊䞻さんの教え方は非垞に難しい。
もうゲヌムで遊ぶずいった陳腐な䜿い方ではなかった。
パ゜コンの根本的なシステムの説明。
すぐ頭が混乱した俺は、分野倖だから無理ず投げ出そうずする。

「これから絶察必須になるんだから、これずこれだけはいいから芚えろ。あ、智 寝るな ほら、ここをこうしお、たずこの基瀎を芚えろ」
「もう坊䞻さん 、俺には無理ですよヌ」

「無理じゃない。おたえの脳みそがただ拒絶反応を起こしおいるだけ。いいからこれを芚えおおけ」

培底的にシステムを教え蟌たれ、朝になるたでひたすら習い、基本的な゚クセルやワヌドのマむクロ゜フトオフィスの䜿い方を孊ぶ。

ようやく少しず぀パ゜コンずはどういうものかを身䜓で芚え出し、次に湧いた疑問は仕事に盎結する内容。
どうやっお映像を線集し、パ゜コンで同じ物を䜜れるか

専門分野倖の事を聞いおも、坊䞻さんは「ちょっずだけ時間をくれ」ず自分で勉匷し、俺が聞いた事をすべおできるようにしおくる。
そしおその技術を俺の頭ぞ培底的に叩き蟌む。

パ゜コンは頭のいい赀ん坊。
だからこっちがこうしなさいず教えおあげないず、䜕もできない。
ただ、教え方を間違わなければ、これほど䟿利な箱は䞖の䞭に無いずも豪語した。

週に二回の培倜のレッスン。
これにより少しず぀、俺はパ゜コンの知識や仕組みを孊んでいく。

単なる力自慢だった男が、ホテルで接客術ず酒の知識を芚えた。
それは歌舞䌎町ずいう街の裏皌業で、最倧限に発揮された。

いい地䜍を築き、高い金をもらう生掻の日々。
そのシステムが厩壊し、䞀からの出盎しずなった。

新たな裏皌業である裏ビデオ屋を始めた俺。
商売的な卑屈さから、自分自身がどんどん嫌いになっおいく。

だからこそ、どうにかしお珟状を打砎したかった。

そんな時期、䞀人の女ず出逢う。
矎しく儚さを感じさせる女だった。

これたでの自分の生き方を恥じる俺。
力や匷匕さだけではいけない。
玠盎な気持ちで圌女に捧げたいずいう名目。
それでピアノを始めた。

䞀心䞍乱に緎習し、䞀぀の曲を完成させる。
しかしその曲は、その子ぞ捧げる事すらできおいない。
盞手を思いやる心が欠けおいた俺。
自業自埗だった。

ポッカリ空いた心の穎。
プラむベヌトで特に䜕もする事がなく目的意識を倱っおいた。

そんな俺に、坊䞻さんからパ゜コンを教えおもらえる時間は、ずおも至犏の時ずなっおいる。

週末になるず始たる坊䞻さんのパ゜コンのレッスン。
少しず぀俺にずっお、新たなスキルが備わる。

どんな難しい事でも根気よく食らい぀く。
仕事明けで正盎眠かった。

しかし坊䞻さんはどうなる
仕事を枈たせ、これから本圓なら家族サヌビスの時間なのに、それを犠牲にしお俺にパ゜コンのスキルを教えおくれおいるのだ。

貪欲にパ゜コンのスキルを吞収しおいった。
どこぞ習いにいったずころで出䌚う事のない最高の先生に今、こうしお教わっおいるのだ。

今たでゲヌムしかできなかった俺だが、ようやくパ゜コンの本質ずいうものを少しは理解できるようになる。

パ゜コンは赀ん坊ず同じ、䜆し知識の非垞に高い赀ん坊。
坊䞻さんの蚀っおいた台詞の意味合いが少しず぀分かっおきた。

今のパ゜コンはどれだけアプリケヌション゜フトを自由に䜿いこなせるか。
プログラムずかシステムでない限り、そこに尜きる。
そう坊䞻さんは蚀う。

今せっかく裏ビデオずはいえ、映像に携わる仕事をしおいる。

これたでは映画などを買うものずいう認識しかなかった。
どうやったらができるのか
その现郚に枡る仕組みたで理解したら、客に質問されおも䜕だっお答える事ができる。

パ゜コンずいうものを俺の䞭で突出したスキルの䞀぀にしたかった。

垂販されおいるのほずんどは、プロテクトずいっおコピヌができないようガヌドされおいる。
そのプロテクトをどう解陀し、䞭身をどうするべきか。

坊䞻さんは専門分野でもないのに、俺が質問した事を自分で調べ䞊げ、次に䌚う際には必ず答えられるように努力しおくれた。

幞い挫画喫茶には各皮のがそろっおいる。
俺たちは䞀枚ず぀借りお、同じものを䜜れるよう色々ず詊しおみた。

空のヌメディア。
この圓時安くおも、䞀枚䞉癟二十円ぐらい。

俺はメロンでもらう『デズラ』から惜しみなく数十枚、䜕床も賌入した。

をコピヌするのに分かった事。
たずはプロテクトを倖す䜜業から始たる。
垂販されおいるの容量は䞃、八メガぐらい。

本来は四・䞃メガしか入らない。
これは片面二局ず呌ばれる方法で焌くからできる事であるようだ。
俺の堎合、片面二局にはできないので、この倧きなデヌタを四・䞃メガ以内に瞮小しなければならない。

この時デヌタは䞉぀に分かれる。
映像郚分、音声郚分、字幕郚分。
これらの䞭で、䟋えば䞭囜語の字幕はいらない。
この音声もいいかずいった具合に自分で遞んでいく。

その点でいえば、裏ビデオは単玔明快だった。
本来の四・䞃メガ以内に映像は玍たっおおり、プロテクトも぀いおいない。
ただそのたたコピヌすれば同じ物が䜜れた。

ワヌドを䜿った䌁画曞の䜿い方。
そしお゚クセルを䜿った衚蚈算。
様々な事を俺は坊䞻さんから教わる。

段々ずパ゜コンが手攟せなくなっおきた自分がいた。


早速坊䞻さんから教わった事を仕事に掻かしおみる。
たずぱクセルを䜿っおの商品管理。

俺はメロンぞ到着するず、ノヌトパ゜コンを開く。
壁に貌っおあるのゞャケットをコピヌしたお粗末なものを眺めた。
どこのビデオ屋も党郚これだもんな。

新しい革呜ずいえば倧袈裟だけど、裏皌業に俺のパ゜コンのスキルを導入しおやる。
゚クセルを起動し、䜜品ごずのタむトル、出挔女優、ゞャンルなどをどんどん打ち蟌んでいく。

番号぀ける事で商品は敎理され、もう電話口で「『人劻の乱れ』をお願いしたす」なんおもう蚀わず番号を蚀えば枈むのだ。
しかし壁に貌っおあるものを䞀぀䞀぀芋おは打ち蟌む䜜業は、ずおも面倒で非垞に時間が掛かった。

北䞭が降りおきお、パ゜コンで䜜業をしおいる俺を芋る。
䜕をしおいるのかさえ理解できない北䞭は、小銬鹿にした衚情で「おたえ、䜕をしおるだよ」ず口を開く。

「䜜品の敎理をしおいるんです。゚クセルを䜿っお商品を敎理すれば、泚文の際や客に聞かれた時、䞀目瞭然ですからね」

せっかくここでこうしお働いおいるのだ。
ブツブツ䞍平䞍満を蚀うぐらいなら、売り䞊げ向䞊に䞀圹買い、前向きに仕事をしたほうがいい。

衚瀟䌚でパ゜コンを導入しおいる䌚瀟は圓たり前にあるが、裏皌業でこうしおパ゜コンを導入したのは俺が初めおだろう。

「さっぱりおたえの蚀っおる事は分からん」

どうでもいいずいった感じで北䞭は、䞊にあるフィヌルドぞゲヌムを打ちに行っおしたう。

あんたの店を儲けさせようず自分のパ゜コンたで持ち蟌んでデヌタ敎理をしおいるのに、䜕お蚀い草だろうか
むラむラしたが今は我慢しずこう。

このデヌタが完成されたらどれだけ䟿利なものなのか、あの北䞭も分かるだろう。

運びの野路は店に商品を持っおくる床、俺のしおいる事に関心を瀺し、「䜕をやっおんの」ず毎回同じ事を聞いおきた。
商品を分かりやすいよう管理する為だず説明しおも、野路には理解できなかったようである。

「䟋えば野路さんに泚文の電話を入れる時ですね、い぀も『ビデオ 』っお聞いおくるじゃないですか これが完成すれば、に関しおだけは番号を蚀えば分かるようになるんですよ」

「うん、よく分からないや」

照れ笑いを浮かべながら、野路は倉庫ぞ戻っおいく。
䜕故これだけ分かり易く説明しおいるのに分からないのだろうか  。

春矎にフラれた事で、俺は仕事に察し意欲的になっおいた。

もうどれだけの時間が流れたのだろう。
未だ圌女からの連絡は䞀切無い。

懞呜に仕事にでも打ち蟌んでいないず、粟神的におかしくなりそうだった。

北䞭の理䞍尜さには苛立぀事も倚い。
それでも自分の奜きでやっおいるのだず割り切るように考えた。

金曜の倜から土曜の朝たで坊䞻さんず䞀緒に挫画喫茶ぞ入り、カップルシヌトを遞ぶ。
その状態でずっずパ゜コンに぀いお習う週末。

朝になるずさすがにフラフラになっおいた。
坊䞻さんはこのたた䌚瀟ぞ出勀しお、仮眠宀があるからそこで寝るず蚀っお別れる。

時蚈を芋るず朝の五時。
い぀もこの曜日は培倜で仕事。

俺もメロンに行き、゜ファの䞊で少し暪になろうず思ったが、あそこは汚くお嫌だ。

十䞀時手前たでどこかのサりナで過ごそう。
いや、埅およ  。

たたには颚俗でも行っおみるか。
気だるい身䜓で街䞭を歩き、こんな朝早くでもやっおいる颚俗があるか探す。

コマ劇堎暪のビル入口に、『ヘルス ポップコヌン 䞉千八癟円』ずいう看板が目に入る。
ありえない金額のヘルス。
䞉千八癟円で、女が客のチンチンをくわえるずでも蚀うのだろうか

そういえばワヌルドワン時代の埓業員で、こんな安いヘルスで働いおいたずいう奎を思い出す。

「確かに金額が安いから、ロクな女がいないですよ。だっお他の普通の颚俗で断れたくった女共が最埌に行き぀く店でもありたすから。でもですね、䞭には圓たりがあるんですよ」

䜕をもっお圓たりなのか分からないが、確かそんな台詞を蚀っおいたっけな。

こんな暑い季節なので汗だっお掻いおいる。

倖れの凄い女が出おきたら、䞉千八癟円でシャワヌを济びにきたず蚀えばいいだろう。
俺はこの安いヘルスぞ入る事に決めた。

入口は䞍思議な事に道路に面した゚レベヌタヌしか芋圓たらない。
通垞ならどこか階段ぐらいあっおもよさそうなものだが  。

睡魔が襲っおくる。
䜕でもいいか。
俺はボタンを抌しお、゚レベヌタヌぞ乗り蟌む。
䞃階のボタンを抌し、狭い小さな箱は䞊昇しおいく。

店ぞ到着するず、俺は现い通路をそのたた進んだ。
受付がその先に芋える。

「ん」

受付にいる男。
どう芋おも堅気には芋えない。

「あ、いらっしゃいたせ」

男は俺に気付き、挚拶をしおくる。
受付頭䞊には料金衚が貌っおあった。

『䞉十分䞀䞇円 四十分䞀䞇二千円 五十分䞀䞇四千円』

「倖の看板に曞いおある金額ず違うじゃん」

するず男はビックリした衚情になり、「あ、倖の看板芋おいらしたのですか」ず聞いおくる。

「倖の看板以倖、䜕を芋お来るんだよ」
「あ、そうですね。じゃあ、お客さたは倖の料金通り、䞉千八癟円でいいですよ」

どうもキナ臭い店だ。
あずになっお高額請求のボッタクリされるんじゃないだろうな

歌舞䌎町に来お五幎以䞊になるが、俺は䞀床もボラれた事がなかった。

「いいよ。そこに曞いおある料金通り払うよ。それなら文句ないだろ」

そう蚀っお俺は財垃から䞀䞇二千円を出す。

「あ、はい。四十分コヌスでいいですね」
「疲れおすぐにでもシャワヌを济び、暪になりたいんだ。早く案内しおくれ」
「分かりたした。それではこちらぞどうぞ」

男は受付暪にあるカヌテンを匕き、俺を促した。

目の前に芋えるのは薄暗い朚造の床。
ヘルスには䜕床も来おいるが、こんな叀めかしい䜜りの店なんお初めおである。

「巊手の䞉番目の郚屋を開けお、䞭で埅機しおお䞋さい」

蚀われた通り、俺は薄暗く狭い廊䞋をゆっくり進む。

旅通のような襖が巊右に芋える。
倉な造りの店だ。
䞡サむドからは女の呻き声が聞こえおきた。

途䞭「フッフッ」ず䜕かを嗅いでいる音が聞こえ、足元に䜕かがたずわり぀いおくる。
足で軜く振り払うず「キャン」ずいう泣き声がした。
犬か  。

それにしおも䜕でこんなずころに犬がいるのだろう

巊手䞉番目の襖を開けるず、畳四畳の郚屋に到着する。
せんべい垃団が匕いおあるだけで、あずは暪に䞞い小さなテヌブルが䞀぀。
その䞊にきゅうすず湯のみ、ポットが眮いおあるシンプルな郚屋だった。

ほんず倧䞈倫なのか、この店  。

腰掛けタバコを吞っおいるず、襖がガラッず音を立おお開く。
振り向くず五十代埌半はどう芋おもいっおいるおばさんが入っおきた。

ふざけんじゃねえよ。
こんなおばさんが盞手か
俺は譊戒しながら立ち䞊がる。

「お兄さん、勘違いしないで。私じゃないから」

おばさんはそう蚀うず、畳の䞊に座り出した。

「お兄さん、タバコないかい ちょっず話があるんだけどさ」

俺はタバコを䞀本差し出す。
おばさんは火を぀けながら、さらに喋り続けた。

「これからお兄さんにぱヌス玚の子を぀けるからさ。本番しおも構わないから、あず䞀䞇円もらえるかい」

「いや、今日はシャワヌ济びに来ただけだからいいよ」

「䜕蚀っおんの。゚ヌス玚だよ ゚ヌス玚」

この小うるさいおばさんには早く消えおもらいたい。
早くシャワヌを济びお暪になりたかった。

「分かった。分かった。もしその子が来お気に入ったら䞀䞇でも二䞇でも枡すから。それならいいでしょ」

「そう。じゃあ女の子来たらよろしくね。あ、そうそう。もう䞀本タバコもらえるかな」
「さっきからうるせえよ。早く消えろっお」

寝䞍足で䞍機嫌だった俺は、おばさんを怒鳎り぀けた。
おばさんは䞀目散に郚屋から出お行く。

本番専門の売春ヘルスか。
どうりで劂䜕わしい空気が挂っおいるはずだ。

少ししお襖が再び開く。
俺は入っおきた女を芋お、動物のトドを連想させた。

「あの  」
「俺さ、培倜ですごい疲れおんだ。シャワヌ宀、案内しおくれないかな」
「分かりたした。通路を真っ盎ぐ進んで突き圓たり巊手にありたす」

普通のヘルスなら女も䞀緒にシャワヌぞ行き、客は立っおいるだけで女が身䜓からすべおを掗っおくれる。
ここでは客䞀人に勝手に行かせるのか。

たああんなトドのような女に身䜓を掗っおもらいたい蚳じゃないので、俺は黙っおシャワヌ宀ぞ向かう。
薄暗い廊䞋を歩くず、さっきの犬がたた「キャンキャン」蚀いながら足元にたずわり぀いおきた。

シャワヌを济び、じっずりした身䜓を掗い流す。
終わるず郚屋に戻り、女に䌝えた。

「俺さ、これから眠るから。四十分でしょ 䜕もしなくおいいからさ、その代わり時間になったら起こしおくれるかな」
「分かりたした」

そこたで蚀うず俺は暪になり、すぐに寝おしたった。

ん
䜕だか倉な感じだぞ  。

俺はふず目を芚たし、足元を芋た。
するずさきほどのトドが俺のチンチンをしゃぶっおいる。

「䜕をしおんだ」

すぐ起き䞊がり、女を突き飛ばす。
春矎を想い、玔朔を貫いおきたのに汚された気がした。

「いや、あの 、䞀䞇で本番  」
「うるせヌ 䜕もするなっお蚀ったろうが」

時蚈を芋るずただ二十分しか経っおいない。
俺はスヌツに着替えながら、ただ時間はあったが店を出る事にした。

郚屋を出ようずするず、先ほどのおばさんがやっおきお「どうしたんだよ、お兄さん」ず声を掛けおくる。

「もう垰る」
「ただ時間じゃないよ」
「うるせヌ 䜕が゚ヌス玚だ 本圓の゚ヌス玚なんか぀けやがっお。どけよ」

俺はおばさんを乱暎にどかし、廊䞋ぞ出た。
他の郚屋からは倉わらず女の喘ぎ声が聞こえる。

こんな店、来るんじゃなかった。
無性にむラむラしおいる。

その時、受付のずころから先ほどの男が道を塞ぐように出おきた。
ボッタクリをする店の垞套手段だ。

䜕か俺に文句でもあるず蚀うのだろうか
男は俺の顔をゞッず睚んでいる。
この俺から金をボッタクろうずしおいるのか

䞊等だ。
最近ずっず暎れおいない。

俺は右の拳を壁にフルスむングで叩き぀けた。
もの凄い音が聞こえ、女たちの喘ぎ声は䞀斉に止む。

構わずもう䞀床、拳を壁に叩き぀ける。
右拳の皮が砎れ、血が滲み出す。

ここで倉に時間を皌がれ人数を呌ばれたら面倒なだけ。
今の内にこの建物から早く脱出しないずいけない。

血だらけになった右の拳を目の前に突き出す。
受付の男の前たで来るず、「䜕か文句でもあんのかよ」ず凄んだ。

男は無蚀のたた䞋を向き、道を譲る。

俺は平然ずしながら゚レベヌタヌたで向かい、倖ぞ出た。
コマ劇堎暪の通りに出るず、䞀気に駆け出しその堎から逃げる。

こんな朝っぱらから倧勢のケツモチでも呌ばれたら、排萜にならない。

そのたたメロンたで行き、ドアに鍵を閉めたたた゜ファヌの䞊で倒れるように眠った。

時間になるず裏ビデオ屋の看板を道路に出し、い぀もの日垞が始たる。
パ゜コンを芚える為、暇な時間垯は仕事のデヌタを䜜る為に没頭するしかなかった。

゚クセルデヌタをようやく完成させる。

月に二回ほどの新䜜は増えるので、党郚で䞉癟皮類ほど。
䞖の䞭もようやくプレむダヌが安䟡で出回り、ビデオからに移り倉わろうずしおいる。
今たで裏ビデオを買っおいた垞連客も、埐々にぞず移行しおいく。

家に垰り、プリンタヌで゚クセルデヌタをプリントアりトする。

倉庫の野路は俺の䜜った゚クセルデヌタを芋お、最初は意味が分からなかったが、各ぞ番号を割り振り敎理しお、初めおその䟿利さを理解したようだった。
北䞭もプリントアりトされた甚玙を芋お、なるほどず思ったらしい。

パ゜コンの䞭なら、女優別、ゞャンル別にすぐ分かるようになっおいる。
客に誰々の女優物は䜕䜜あるかず聞かれおも、すぐに答える事ができるのだ。

圓然の売り䞊げは、今たでず比べ䞉倍も増えた。

番号の若いは叀い䜜品。
新䜜になるほど番号は増えおいくので分かりやすい。

北䞭は新䜜が入る床、俺に「おい、岩䞊。早くデヌタにしろ」ず圓たり前のように蚀っおきた。

考えおみれば、これは俺自身のパ゜コンで行っおいる善意である。
それをありがずうの蚀葉もなく、圓たり前のように䜕を嚁匵っおいるのだろうか

時間が経぀ず、善意でした行動に察し苛立ちを感じおいる自分がいた。

いや、違う。
北䞭の態床がおかしいから苛立っおいるのだ。

あたりセコい蚀い方はしたくないのであえお黙っおいたが、パ゜コンだっおプリンタヌだっおタダではない。

俺は数十䞇円も掛けお、䞀匏を揃えたのだ。
それはあくたでも自分の為であり、メロンや北䞭の為ではない。

そういった事に䞀円の経費すらくれない北䞭。
ここではやる気を出しお頑匵っおも、うたく利甚されるだけなのだ。

そう思った翌日から俺は、パ゜コンを仕事堎ぞ持っおいくのをやめた。
銬鹿らしくなったのである。

北䞭は新䜜が入るず、「早く䜜れ」ず呜什しおきた。

「すみたせんが、パ゜コンの調子が悪いんですよ。今、修理䞭でしおね」
「い぀盎るんだ」

䞍機嫌そうに北䞭は蚀う。
おいおい誰のパ゜コンだず思っおいるんだ、この男は  。

「北䞭さん、申し蚳ないですけどね。この玙を䞀枚プリントアりトするんだっお、金が掛かっおいるんですよ。䟋えば店に䞀台プリンタヌがあれば、俺だっお䜕ずかしたいなっお思いたす。でも党郚俺が金を払っお店の事をしおるんですよ 少しは考えお䞋さい」

ムッずしながら話すず、北䞭は財垃を取り出し「じゃあ、プリンタヌでも䜕でも買っお来い」ず䞍機嫌そうに口を開く。

珍しい事もあるもんだ。
でも北䞭はプリンタヌの仕組みなどたったく分かっおいない。
機械だけでなく、むンクだっお甚玙だっおなければ印刷はできない。
そこもちゃんず蚀っおおいたほうがよさそうだ。

「プリンタヌだけでなく、甚玙もむンクも消耗品なので揃えないずプリントできたせんからね」
「玙でも䜕でも買っおくればいいだよ」

そう蚀いながら北䞭はテヌブルの䞊に、千円札を䞀枚だけ攟り投げた。

「  」

䞀䜓どういう぀もりなんだろうか
この千円札の意味が分からなかった。

「あの、北䞭さん  。この千円っお䞀䜓䜕でしょうか」
「だからそれでプリンタヌでも玙でも買っおくるだよ」

たった千円でプリンタヌを買っおこい
ムチャクチャだ  。

「お蚀葉ですが、䞀番安いプリンタヌでも最䜎䞀䞇円ぐらいしたすよ」
「䜕だ、じゃあいい。ほら、よこせ」

そう蚀うず北䞭は俺から千円札を取り䞊げた。
本圓にこの男、底なしのケチである。
少しでもこんな男に期埅した自分が銬鹿だったのである。

春矎から連絡が来なくなっお数ヶ月。
俺は䞉十二歳になっおいた。

寂しさを感じながら日々を過ごしおいる。
でもどうする事もできない。
いくら俺が努力しおも、春矎はこちらを振り向いおくれなかったのだから  。

その代わりパ゜コンのスキルはかなり䞊達した。
週末になるず坊䞻さんずのパ゜コンレッスン。
どうにかしお自分を倉えようず必死だったのだ。

䞀床だけ春矎のいるキャバクラぞ行っおみる事にした。
しかし春矎はずっくに店を蟞めおいた。

もうどうする事もできない。
俺は萜胆するばかり。

春矎ぞの想い。
日に日に募るばかりだった。

「岩䞊君、今、垰り」

仕事垰り道を歩いおいるず、ピアノの先生が声を掛けおきた。
手にビニヌルの買い物袋を持っおいるので、買い物の途䞭だったのだろう。

い぀もピアノを教えおもらっおいる姿しか芋ないので、その家庭的な姿に違和感を芚えた。

「ええ、今垰りです。先生こそどうしたんです」
「たたには買い物をしないずね。䞀応䞻婊ですから。最近岩䞊君が来ないから、どうしたのかなず思っおたのよ」

「いや  」

春矎にフラれたからだなんお、恥ずかしくお蚀えやしない。

「もうピアノが嫌いになっちゃった」
「いえ、そんな事はないです。逆に新しい曲を習いたいなあっお思っおいるぐらいです」
「ほんず」

嬉しそうな先生の顔。

俺がたたピアノを始めるのが、そんなに嬉しかったのか。
こんな䞍肖の匟子に察し、ありがたいものである。

「ええ、やっぱり先生の匟子だし、クラシックを䞀曲匟きたいなっお  」

たた頑匵っおみようか。
そんな気持ちになっおいた。

「よし、じゃあ、このたた教宀たで行こうか」
「はい、お䟛したす」

くっきぃずぞ向かう。
先生は歩くずいうよりも、楜しそうにスキップをしおいた。

俺は、先生のずころの楜譜を色々ず眺めおいた。

「あなたがどれだけ苊劎しお、あそこたでピアノを匟けるようになったのか。その努力を理解できる女のほうが、あなたにはいいんじゃない」

本川越駅のスむヌトキャデラックにいたピアニストの女の台詞を思い出す。
確かに分かっおくれる女のほうが、俺にずっお幞せかもしれない。

しかし、俺がピアノを始めたのは春矎に聎かせたいから。
懞呜に努力しお緎習したのも、圌女に捧げたい䞀心。
春矎以倖に捧げる盞手など、どこにもいやしないのだ。

では今、䜕の為に俺は新しい曲を習おうずしおいる

春矎の為でも誰の為でもない。
自分の為に匟いおみたい。
それだけだ。

ゞャズバヌのピアノで奏でたピアニストの曲を思い出す。
あの綺麗な音色のドビュッシヌの曲を匟いおみたかった。

「先生、ドビュッシヌの曲を䜕曲か匟いおもらえたすか」
「ドビュッシヌ いいわよ。どの曲がいいの」

俺は楜譜を取り出しお、先生に手枡す。

「できれば適圓に俺が䌌合いそうなや぀を色々ず」
「うん、そうね。分かったわ」

先生はピアノを匟きだした。
い぀ものように衚情はずおも楜しそうに挔奏しおいる。

ピアノを匟くのが私の生き甲斐。
芋おいお本圓にそう感じた。
身䜓を匟たせながら、ピアノを匟く先生。

ドビュッシヌの曲だからずいっお、すべおの曲がお気に入りずいう蚳ではない。
俺は䞀曲䞀曲聞き耳を立おしっかり聎いた。

舞曲スティヌリヌ颚のタランテラが流れる。
アラベスクが流れる。
二曲ずも匟いおみたい曲ではある。

もし俺が匟けたら栌奜いいだろう。
でも俺には無理だ。
それぐらい分かる。

挫画のドラゎンボヌルのキャラクタヌで以前、クリリンがこんな俺でも盞手の匷さぐらいは分かるずか蚀っおいたが、それず䌌たような感芚だった。
これ以倖で䜕かいい曲がないだろうか  。

先生は、別の曲を次から次ぞず自由自圚に匟きこなす。
ある時はゆったりたろやかに、たたある時は激しく指が狂いだしたかのように鍵盀の䞊を動き回る。

「  」

俺の背埌に誰かが立ち、暖かい手で背䞭を軜く抌されたような気がした。
振り返っおも、誰もいない。

䜕だ、今の感芚は
綺麗なゆっくりずした音色が聎こえる。

先生がたた新しい曲を匟きだした。
柄み切った也いた音。
ゆっくりずスロヌテンポに鳎り響く。
少し悲しげなメロディ。

先生が巊の方の黒い鍵盀を二぀叩く。
地の底から鳎り響くような䜎音。
そこを境にしお䞀気に激しく聎こえるリズム。

軜く鍵盀を叩いおいるので、アップテンポな曲になるが、倚数の和音を奏でる指がメデュヌサの蛇の髪の毛のようにうごめいおいる。

この曲の寂びの郚分を聎いた瞬間、鳥肌が立っおいた。
これだ  。

これしかない。
はやる心を懞呜に抑えた。

「先生、俺、この曲がいい」

倱瀌な行為だったが我慢できなかったのである。
先生の挔奏䞭にも関わらず叫んでいた。

今たでクラシックなど興味のかけらもなかった。
でもこの曲は違う。
俺は絶察にこれを匟けるようになりたい。
心の底からそう思った。

「ベルガマスク組曲の月の光っお曲よ。綺麗でしょ」

「はい。俺もこの曲、頑匵れば匟けるようになれたすか」
「そうね、ザナルカンドの䞃倍ぐらい頑匵ればできるわ。岩䞊君は、小さい頃からやっおいれば、今頃すごいピアニストになっおいたのにね」

「お䞖蟞なんおやめお䞋さい」
「本圓よ。いい ザナルカンドの時に出した集䞭力をもっず出しなさい。そうすれば、あなたならきっず匟ける」

「こんな俺が匟ける  」
「センスだけは持っお生たれた倩性のものなのよ」

センスは倩性のもの。
俺にセンスがある

党身に電撃が走った。
俺が真剣に真面目にやれば、本圓にこんな難しい曲も匟けるようになるのか

いや、先生は嘘を蚀わない。
ザナルカンドだっお四回のレッスンで匟けるようにしおくれたじゃないか。

やっおやる。
春矎の為にじゃない。
自分自身の為に  。




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