
『君と私とIF』第5話「千里の道もなんとやら」
<視聴覚室>
西園寺先生
「はい、
今日の歴史総合の時間はここまで。」
勇人
「ぶへぇええええ・・・」
西園寺先生
「ふふふ」
「お疲れ様、中藤くん」
そう言って、
優しい笑顔で労ってくれる
西園寺先生。
勇人
「頭から煙が・・・」
西園寺先生
「あら?」
「私の補講、
そんなにつまらなかった?」
勇人
「あ、いや・・・、
そういう訳じゃ・・・」
西園寺先生
「ふふふ
冗談よ」
いたずらな笑顔を向けてくる。
(うっわ・・・)
(かわいい・・・)
思わず、目をそらす。
女性教師人気ナンバー1は、
伊達じゃない。
西園寺先生
「さ、休憩時間よ」
「しっかり休んでらっしゃい。」
そう促され、
勇人
「はぁい・・・。」
「ありがとうございました!」
西園寺先生
「・・・無理だけはしないでね。」
「せっかく戻って来れたんだから。」
穏やかなスマイルで
じっと見つめられ、
言葉に詰まる。
勇人
「・・・はい」
「了解です!」
西園寺先生
「よろしい。」
ニコっと微笑み、
「それじゃ」
そう言い残すと、
視聴覚室を後にする彼女。
(ん〜〜〜・・・!)
そのまま、
思いっきり伸びをしてみる。
(ふぅ〜・・・)
(疲れた・・・)
(とりあえず
どっか行くか・・・)
重たい身体を起こし、
引きずるように視聴覚室を出る。
(こういう疲れが溜まった時は、
軽く歩いたほうがいいって
鈴木先生も言ってたな)
リハビリで世話になった
PTの鈴木先生。
(色々教えてくれたっけ)
一応、守るようにしてる。
(どこ行こ・・・)
(それにしても)
(西園寺先生、
今日もかわいかったな・・・)
思春期男子として、
ついそんなことを考える。
静かな春休みの校舎。
部活か春季講習か、
ちらほら生徒を見かける。
(・・・)
(あそこ、
行ってみるか)
この前、
平方さんと出会った
欅のベンチ。
今日は天気もいい。
静かで日当たりも良く、
補講続きで荒んだ
今の俺の心を癒すには
もってこいだ。
(また彼女に
会えたりするんだろうか)
(まぁ、
そう都合よくいかんわな)
階段を降り、
渡り廊下に向かう。
──視界が開ける
先客のいないベンチが、
ポツンと俺を待っていた。
(そりゃそうだ)
そのまま腰を下ろす。
(あ〜・・・)
(こりゃ気持ちいいわ・・・)
ぼんやり見上げた枝に、
新芽が膨らんでるのが見える。
(新学年か・・・)
(大丈夫か? 俺・・・)
ふと、先日のことを思い返す。
(すげぇ綺麗だったな・・・)
「透き通ってる──」
クラスの女子が、
たまに囁きあってたっけ。
(言い得て妙というか・・・)
(でも・・・)
(意外と笑うんだよな)
彼女に関しては、
嘘か本当か分からない
数々の伝説や噂がある。
(何でも、
すげぇ頭いいとか?)
1年最初の中間テストで
満点1位だったらしい。
でも、それ以降、
彼女の名前が順位発表の掲示に
載ったことはないとか。
(1年の頃は、
すげぇ告られてたとか・・・)
(100人フラれたとか・・・)
(いやまぁ、
確かにすげぇ美人だしな)
(あり得んことはないのか?)
(でも確か授業日数って
200日ちょいだろ)
(無いな・・・)
休学のお陰様で、
妙なことに詳しくなってしまった。
(平均2日に1回告られるとか、
どんだけよ)
(めちゃくちゃ大変だろ、それ)
2年になって、
1軍ギャルの西川陽葵と
仲良くなって以降、
彼女の平方さんガードが硬くて
告白する男子も激減したらしいが。
(まぁ、ただの噂だしな)
少し、ボーッとする。
(この前は楽しかった・・・)
復帰してからは、
先生以外と喋ることも
ほとんどない。
補講に明け暮れる日々。
たまたまここで彼女と出会って、
時間が経つのも忘れてしゃべった。
(行き帰りは小林とチャリだから、
多少は紛れるんだけどな・・・)
(復帰してからも、
ずっと心配してくれてるよな、
あいつ)
(そういや、他の連中は・・・)
長らく会っていない
クラスメイトたちの顔が浮かぶ。
(・・・)
(・・・眠いな)
(余計なこと考えすぎたか・・・)
春の陽気に、
ふっと引っ張られる。
(やっぱ本調子じゃねぇわ・・・)
そのまま、
抵抗する気力もなく、
意識が、遠のいていった。
<欅のベンチ>
(あれ?)
春季講習の昼休み。
いつものベンチに行くと、
男子生徒の足がニョキっと
伸びてるのが見えた。
(珍しい。)
(先客か。)
(・・・動かない?)
静かに近寄ってみる。
(中藤くん?)
とても気持ち良さそうに
寝息を立てる姿が
そこにあった。
( 第6話「先客」へ )
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