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『君と私とIF』第3話「勇人復帰」 ー 地獄の補講マラソン ー

    <学校・2階渡り廊下>

    ──3月某日──


    「うへえぇぇぇぇ・・・」


    俺、中藤なかふじ勇人ゆうとは今、
    ゾンビの如く、
    校内を彷徨い歩いている。

    行く当てなんてない。


    先日、
    長期入院から高校に復帰した
    俺を待ち構えていたのは、
    進級をかけた補講と
    レポートの山だった。


    (聞いてねぇ・・・)


    担任の神谷かみや先生の
    妙に爽やかなスマイルが
    脳裏に蘇る。


    (どうして・・・、
     俺が何をしたって・・・)

    (いや、
     分かってはいるんだが・・・)


    壁にもたれかかり、
    窓の外を眺める。


    (ここまでとは・・・、
     参ったねこりゃ・・・)


    3ヶ月近くに及んだ
    入院生活。

    当然、
    出席も足りず、
    学年末考査も受けられず、
    そのままだと単位も取れない。


    チラッと時計に目をやる。


    (昼休み終わるまで、
     あと40分か・・・)


    ──春の風が渡り廊下を吹き抜ける


    (まぁ、
     事情が事情とは言え・・・な)


    頭では分かっているが、
    いざ、この状況に立たされると、
    さすがに堪えるものがある。


    ぼんやりする頭で、
    これまたぼんやり考える。


    (正直、
     事故のことも
     覚えてないんだよな・・・)


    意識が戻ってしばらくして、
    母さんから聞いたところによると、
    幼馴染の小林を庇って
    階段から落ちたらしい。


    (あいつ、
     入院中に何度もお見舞いに
     来てくれてたもんな)

    (最初の時なんて、
     泣きじゃくって
     大変だったっけ)


    当時の記憶がない俺としては、
    浦島太郎の気分だったし、
    申し訳ない気持ちになったもんだ。


    (課題のプリントとか
     持ってきてくれたよな)


    ある程度、
    起き上がれるようになると、
    学校から課題が
    出されるようになった。

    あんまり
    根を詰めすぎないようにと、
    ナースに釘を刺されたっけ。

    (ナースの飯山さん、
     可愛かったな・・・)

    寝たきり状態で
    下のお世話をしてもらった時は、
    思春期の男子として
    死ぬ思いだった・・・。

    (理学療法士の鈴木先生は
     スパルタだった・・・)

    初めての起立練習。

    ニコニコしながら、

    「起こすよー。」

    「失神しないように頑張れー。」

    とか言いながら、
    電動起立台を起こしていくと・・・。

    ものの見事に、
    ブラックアウトする俺。

    なんでも、
    長く寝たきりだと、
    起きるだけでこうなるらしい。

    (人間てあんなんになるんだな・・・)

    鈴木先生は、
    俺の意識が戻らない頃から、
    関節が固まらないように、
    毎日動かしてくれてたんだとか。

    (退院の時に、
    「もう戻ってくんなよー?」
     とかって笑顔で
     送り出されたっけ)

    まぁ戻りたくはないが、
    少し懐かしい。


    (・・・)


    (・・・さて)

    (どこ行こ・・・)


    再び、
    フラフラと歩き出す。


    (やっぱ、
     まだ本調子じゃないな・・・)


    補講生活が始まって早半月。

    初日は、
    母親に付き添われて登校した。

    通された職員室のホワイトボードには、

    「中藤勇人・進級に向けた
     特別補講スケジュール」

    なる横断幕。

    その下には、
    びっしりと埋められた
    スケジュール表。


    (あれには絶句した・・・)


    主要教科を受け持つ先生たちが
    スケジュールを調整して
    予定を組んでくれたらしい。

    説明と共に、

    「死なない程度に頑張れ!」

    親指を立て、
    キラリと歯を輝かせて笑う
    神谷先生。


    (くそ・・・、
     あの体育会系イケメンめ・・・)


    (ありがたくて涙が出るぜ・・・)


    病院の主治医の意見も取り入れて、
    40分補講の1時間休憩という
    念の入れよう。


    (ここまでされたらな・・・)


    (そういや、母さんから、
     親父が大分交渉してくれたとは
     聞いたけど)

    事故の前まで、
    家ではほとんど喋ることもなく、
    笑ったところなんて
    見たこともなかった父親。

    俺が意識を取り戻した時、
    報せを受けて、
    病院に飛んできたらしい。

    (親父・・・、
     俺の手を握って
     肩を振るわせてたな・・・)

    (まさか、
     あの親父がな・・・)

    あれ以来、
    何か少しだけ、
    距離が近くなった気がする。

    (無口はあんま変わらんけど・・・)

    (最近は、
     補講の様子とかたまに聞かれるな)

    (妹も泣きじゃくって
     大変だったっけ)

    (母さんも・・・)


    (みんなに心配かけちまったな)


    階段を降りて
    1階に抜けると、
    大きな欅が目に入る。


    (そういや、
     こんなとこあったっけ)


    校舎の外れにある
    その場所。

    用事がない限り、
    普段、生徒はあまり
    立ち寄らない。


    (結構でかいんだな)


    ふと、
    吸い寄せられるように
    足が向く。


    (あれ?)


    欅の根元に並んだベンチ。


    (誰かいる・・・?)


    風になびく、
    長い黒髪。

    そして、
    女子生徒のスカートと
    足が見える。


    (誰だ? こんなところに)


    興味をそそられ、
    近寄ってみる。


    そこに、


    彼女はいた。


    ( 第4話「欅のベンチ」へ )

    ※初めての方は
    ▶︎ 第1話「はじまりの刻」  
    からお読みください。

    ▶︎ 「登場人物紹介」へ
    ※「この人、誰だっけ?」の迷子防止用です。

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    「もしも、あの時」 誰しもが一度は考えた事があるのでは。 実体験から生まれた、 架空の高校が舞台の群像劇。 そんな"IF"の物語。 ——その先を、覗いてみませんか? ____________ 本編定期更新:火・金20時 (その他、不定期で記事を投稿しています。)

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