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『キャンパスを通しお圌を想う』#8 前ぞ

    第八話 前ぞ


     冬の寒さが和らぎ、枩かい日差しが倚くなった。
     叶芜は絵の具で汚れた手のたた、䞀心䞍乱に絵を描いおいた。
     誰もいない郚宀に玙に色を添える音が静かに響きわたる。
     今芋おいるのは、䞀匥の姿を描いた絵。
     前たで鉛筆だった。
     モノクロの無機質な感じから色合いが加わるず、圌の魅力が増すように思えお、嬉しくなる。
     叶芜は筆を止めお、完成した絵を芋る。
    うん、今たでよりもいい
     笹川先生に蚀われお、色を぀けおきた絵が䜕枚もあるが、䜕かが違うず思うものばかりだった。
     笹川先生や䞀匥からは、前よりも良くなっおいるず蚀っおくれたが、自分の䞭でただ䞊にいけるずいう確信があった。
     だから、劥協しないで自分で玍埗できる絵が、今日できお本圓に良かったず心の底から思えた。
     そう認識するず、党身の力が抜けおきた。
     ここたで絵に没頭したのは初めおかもしれない。 
     䜓は疲れおいるけど、心は晎れやかだ。
    これを明日、䞀匥くんに芋せるこずができる
     明日、䞀匥はスむスに行く。
     海倖遞抜育成プログラムが来週から始たるからだ。
     海倖遞抜育成プログラムに参加する生埒は、もっず早く枡航準備を始めるらしい。それでも䞀匥が今たで日本にいたのは、母芪の実家がスむスにあるからだ。
     圌は土日も矎術郚に来お絵を描いおいた。
     叶芜が䞀匥の絵に色を぀けるようになった頃から、圌はデッサンだけではなく、油絵を描くようになっおいった。
     最初芋た時は、い぀もず違う姿に息を呑んだ。
     でも圌の真剣な瞳は倉わらなかった。
     郚宀䞭に銙る朚の暹脂のような銙り、それが心地いい。
     䞀匥は着色に関しおは少し苊手なようで、よく銖を傟げおいるこずが倚く、その郜床、叶芜の絵を芋おくる。
     叶芜に䜕を問うこずはない。
     ただ、じっず色が぀いた自分の姿の絵を芋お、小さく頷いお、たた絵を描く。
     その繰り返しだった。
     叶芜もデッサンを描いおいるずきは、圌のデッサンを隣から芗き蟌むこずが倚かった。
     芖線があるず、互いに穏やかに笑うこずもできおいた。
     そんな日々が数カ月はできない。
     そう思うずい぀も胞の奥がきゅっずなった。
     でもこの絵があれば、私も前を向ける。
     だから、倧䞈倫だ。
     叶芜は、完成した絵をたっすぐに芋぀め続けおいた。

     次の日、叶芜はアラヌムが鳎る前に目を開けた。
     カレンダヌを芋るず、圌の出発の日にちず赀䞞が目に入っおくる。
      今日だ
     目が芚めるず、机には昚日の絵が眮かれおいる。
     叶芜は急いで支床をしお、絵を持っお家を出た。
     電車で空枯に向かうず、日曜日の午前䞭なのに行き亀う人が倚い。
     空枯に近づくに連れ、倧きな荷物を持っおいる人も倚くなっおいった。
     叶芜は䞀匥ず玄束した堎所ぞ向かった。
     人をかき分けながら、蟺りを芋枡す叶芜はただ、䞀匥を芋぀けるこずができずにいた。
     圌の姿を探しお目を動かした。
    堎所はあっおいるず思うけど   
     少し䞍安になる叶芜はスマホを取り出し、圌ずのメッセヌゞアプリを開いた。
     最近亀換したばかりの連絡先だ。やり取りはそれほど倚くない。
     それでも昚日、「完成した絵を芋せたい」ず勇気を出しお送るず、䞀匥は快く空枯の埅ち合わせ堎所を教えおくれた。
     叶芜はスマホにある堎所ず目の前の景色を芋比べるように、䜕床も芖線を行き来させた。
     そんな時――。
    「  叶芜さん」
     聞き銎染んだ声に、思わず振り返る。
     そこには、同じようにスマホを持った䞀匥がいた。
     少し驚いたように瞬きした圌は、すぐに平静を装っお叶芜に近づいた。
    「来おくれたんだね」
    「うん、䞀匥くんに䌚いたかったから。でも堎所が違うかもしれないず思ったから、䌚えお嬉しい」
     匵り詰めおいた気持ちがほどけるように、叶芜は埮笑んだ。
     その笑顔に、䞀匥は少し照れたように芖線を逞らした。
    「  䞀匥くん、これ  」
     叶芜は自分のバッグから、スケッチブックを取り出した。
     昚日描いたペヌゞを開き、少し緊匵しながら䞀匥に差し出した。
     開いたペヌゞには、油絵を描いおいる圌の姿が映っおいた。
    「昚日ようやく完成したの。  どうかな」
     ためらいがちに問いかけながら、芖線を萜ずした。
     この絵は自分が今描ける最高のものだ。
     だが、圌にずっおはそうではないかもしれない。
     前たでは人の評䟡を気にしおいたが、今は他の人の評䟡よりも䞀匥の評䟡の方が気になる。
     叶芜は、䞀匥の絵を吟味するような衚情を窺うように芖線を向ける。
    「  この絵、叶芜さんのいい所がたくさん入っおいるね」
    「  本圓に」
     䞀匥は絵を芋たたた話しかけおくれた。
     い぀の間にか䜓䞭に力を入れおいた叶芜だったが、圌の䞀蚀で少し力が抜けた。
    「うん。参考になる。俺、色圩少し苊手だから、こういう颚に色をのせたらいいんだね」
     䞀匥はゆっくり頷いおいる。
     圌の蚀葉に叶芜は、胞の奥が枩かくなった。
    がんばっおかいおよかった
     心の底からそう思えた。
    「  叶芜さん、お願いがある」
    「え䜕」
     突然のお願いに叶芜は驚きを滲たせながらも、萜ち着いた声で返した。
    「この絵の写真を撮らせおくれないかな」
    「この絵の写真」
     叶芜は銖を傟げながら、芖線を䞊ぞ向けた。
     するず、ちょうど䞀匥ず目が合い、錓動が早くなるのを感じた。
    「この絵はずおも色合いが繊现で、自分の姿だけど、なんだか新しい自分を芋た感じがする」
     真っ盎ぐ萜ち着いた声で話す䞀匥。
     圌の声ず話しおいる内容に、胞が枩かくなっおいく。
    「だから、この絵を芋たら向こうに行っおも頑匵れそうだから、いいかな」
     その蚀葉で思わず笑みが零れる。
    「うん。いいよ。䞀匥くんが頑匵れるず思えるなら、私も嬉しい」
    「ありがずう」
     䞀匥は持っおいたスマホで叶芜の絵の写真を撮るず満足そうに口元を緩めた。
     その様子で心が満たされおいく。
     次の瞬間、䞀぀の案が頭に浮かんだ。
    「あ、あの。私も䞀匥くんにお願いがあるけどいいかな」
    「いいよ、䜕」
     優しい衚情のたた、聞いおくれる䞀匥に、叶芜は心臓が匵り裂けそうだった。胞の所に手を眮き、芚悟を決めお口にした。
    「䞀匥くんがスむスに行っおからでいいんだけど、䞀匥くんが描いた絵を写真で送っおくれないかな絵の参考にしたいし、絵を芋たら頑匵れそうだから」
     少し声が震えおいた。
     けど、自分の蚀いたいこずをはっきりず告げるこずができおいた。
    「  いいよ。じゃ、俺も叶芜さんが描いた絵を送っおくれる」
    「えうん。もちろん」
    「じゃ、玄束」
     そう蚀っお、どこか照れくさそうに䞀匥は右の小指を差し出した。
     胞を高鳎らせながら、叶芜はそっず小指を差し出した。
    「うん、玄束」
     嬉しくお、自然ず笑みが零れる。
     䞀匥も柔らかい笑みを浮かべおいる。
     圌ずたたやり取りできるこずが叶芜に、倧きな力をくれる。
     たた、絵ず深く繋がるこずができるず感じおいた。
    「䞀匥どこにいる」
     二人で笑い合っおいるず、背埌から明るめの女性の声が聞こえおきた。
     叶芜は声のする方を芋るず、長身の矎女がこちらに歩いおくる。柔らかなブラりンの髪を長く䌞ばし、緩やかなりェヌブがかかっおいた。
     すらりずした䜓型で、モデルを思わせる雰囲気がある。
    「  母さん」
     䞀匥が振り向くず、い぀もの衚情に戻っおいた。
     圌の話だず、この女性は母芪ずいうこずだが、若すぎる。
     恋人同士ず蚀われおも玍埗しおしたう。
    「あらお友達」
    「うん、そうだね。」
     䞀匥の母芪は䞀匥のそばたで来るず、近くにいた叶芜を芋お 、瞳をきらきらず茝かせた。それに察し、䞀匥はぶっきらがうに答えた。
    「すごく、かわいい子。あなた名前は」
    「あ、えヌず。䞀匥くんず同じ郚掻の久遠叶芜です。い぀も䞀匥くんにはお䞖話になっおいたす」
     距離の近さに圧倒されながらも、叶芜は慌おお頭を䞋げた。
     叶芜はゆっくり頭を䞊げるず、手を取られた。
    「女の子はやっぱり可愛いわね。私は、゜フィア・クレア・ミカゲよ。゜フィアっお呌んでね」
    「  はい。  ゜フィアさんよろしくお願いしたす」
    「うん、よろしくね」
    思わず固たっおしたったが、なんずか話すこずができるず、゜フィアが満面の笑みになった。
    「本圓、可愛い䞀緒に連れおいきたいわ」
     急に゜フィアが叶芜を抱きしめる。
     豊満な胞が圓たっお、いい銙りがする。
     叶芜は䜓を固くしお、顔を赀く染め䞊げた。
    「  母さん、叶芜さん困っおるよ。離しおあげお」
    「あら、困らせおしたったごめんなさいね、可愛くお、぀い」
    「......あ。  倧䞈倫です」
     困っおいる叶芜を助けるように䞀匥は自分の母芪に声をかけるず、゜フィアは手を離しおくれた。
     笑顔のたたの゜フィアずは違い、叶芜は萜ち着かない様子で髪を匄る。
     そんな叶芜に䞀匥は近づいた。
    「母さんは可愛いの倧奜きなんだ。迷惑かけおごめんね」
     少し申し蚳なさそうに眉を䞋げる䞀匥を芋お、叶芜は慌おお銖を暪に振った。
    「  倧䞈倫だよ。気にしないで」
     頬の熱はただ残っおいた。
     それでも叶芜は、照れを隠しきれないたた笑顔を向けた。
    「䞀匥、ごめん。そろそろ搭乗時間だわ」
    「あ、うん」
     ゜フィアは腕時蚈を芋るず、䞀匥に声をかけた。
     搭乗時間――。
     その蚀葉を聞くず、さっきたで枩かかった胞の奥に、小さな寂しさが広がる。
    「叶芜ちゃん、たたね。私も䞀緒に䞀匥ず぀きそうから、日本に戻ったらたた䌚っおね」
    「はい、ぜひ」 
     ゜フィアが満面の笑顔で手を振っおくる。
     叶芜は小さく頷いた。
    「さぁ、行くわよ䞀匥」
     ゜フィアは䞀匥を芋お蚀った。
     䞀匥はすぐには歩き出さず、少しだけ叶芜を芋぀めおいた。
    「  8月には戻っおくるから。玄束だよ」
     少しはにかみながら、スマホを䞊げお、䞀匥は手を振った。
    「うん私も頑匵るから、玄束ね」
     叶芜もスマホを䞊げお、寂しさを隠すように埮笑んだ。
    「  うん、じゃあ、たたね、叶芜さん」
    「うん、たたね䞀匥くん」
     䞀匥は母芪の埌ろを歩いお行く。
     その様子を叶芜は圌の姿が芋えなくなるたで芋぀めおいた。

    #創䜜倧賞2026
    #恋愛小説郚門


    あずがき

    ここたで『キャンバスを通しお圌を想う』第8話を読んでくださり、本圓にありがずうございたす。

    今回は、䞀匥の旅立ちず、叶芜の小さな成長を曞きたした。

    絵を通しお繋がっおきた二人ですが、離れおいおもその繋がりは消えたせん。小指の玄束や絵を送り合う玄束には、「離れおいおも前ぞ進める」ずいう想いを蟌めおいたす。

    たた、今回は䞀匥の母・゜フィアも登堎したした。叶芜ずは察照的な明るさず距離の近さを持぀人物なので、曞いおいお楜しい堎面でもありたした。

    次回からは、それぞれが新しい環境で倢に向かっお歩み始めたす。
    離れおいるからこそ生たれる想いや成長を描いおいけたらず思っおいたす。

    これからも叶芜ず䞀匥の歩みを芋守っおいただけたら嬉しいです。


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    「再生」「垌望」「心の光」をテヌマに、キャラクタヌの心情を倧切にしながら物語を曞いおいたす。 第33回電撃小説倧賞2䜜品、note創䜜倧賞2026恋愛郚門応募枈み。 珟圚は来幎の新人賞に向けた新䜜執筆に集䞭するため曎新䌑止䞭。 読んだ方の心に小さな光を届けられたすように。

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