
なぜ高い料理ほど、おいしく感じるのか?
食卓から読む、人間のクセ 第5回
価格が変わると、なぜ「おいしさ」も変わるのか
想像してみてほしい場面がある。
同じスープが、二つのカップに入っている。
一方には「本日の特製スープ 1,200円」。 もう一方には「スープ 380円」。
中身は、どちらも同じものだ。 同じ食材、同じ火加減、同じ量。
ところが、値段を知ってから食べると、感じ方が変わることがある。
「1,200円のほうがおいしい」
そんな感想が出てくるとしたら、なぜだろう。
これは何かがおかしいのだろうか。 それとも、これも人間の知覚の一部なのだろうか。
料理の値段を先に知ることは、食べる前から体験に影響している。
1,200円という数字を見ると、「これは良いものなのだろう」と期待する。
使われている食材。 かけられた手間。 料理人の技術。
数字の後ろに、そんなイメージが立ち上がる。値段が「おいしさ」に入り込む。
その期待を持って一口食べると、舌が受け取った味と、頭の中にある期待が重なっていく。
すると、同じ味でも「おいしい」と感じやすくなることがある。
逆に、380円という数字を先に見れば、「このくらいの味だろう」と想像する。
少し良くても「まあまあ」。 少し氣になるところがあれば、「やっぱり安いから」と受け取りやすくなる。
値段は、料理についての情報にすぎない。
それなのに、その情報が料理を味わうときの枠組みになっている。
ここまで読むと、
「じゃあ、私たちは値段に騙されているの?」
と思うかもしれない。
ただ、少し見方を変えてみたい。
料理を食べるとき、舌だけが働いているわけではない。
これまで食べてきたもの。 食べる前に知った情報。 その場の雰囲氣。 一緒にいる人。
そうしたものも重なって、「おいしい」という体験ができている。
たとえば、同じ音楽でも、コンサートホールで聴くのと、スマホのスピーカーで聴くのとでは感じ方が違う。
音そのものだけでなく、会場の空氣や照明、周囲の反応まで含めて、「聴く」という体験になるからだ。
料理も、それに似ている。
味覚だけでなく、器、場所、価格、雰囲氣などが重なって、食事という体験ができあがっていく。
だから、値段を知って感じ方が変わることを、単純に「騙されている」と考える必要はない。
情報もまた、体験をつくる材料の一つなのだ。
こうした現象は、料理だけではない。
たとえばブランド品。
どこのブランドなのかを知っているだけで、手触りの感じ方が変わることがある。 同じようなバッグでも、価値の受け取り方が違ってくる。
口コミを読んでから店に行く場合も同じだ。
「この店は評判がいい」と知っていれば、料理の良いところに目が向きやすい。
反対に、低い評価を先に読んでいれば、少し氣になるところが見つかりやすくなる。
先に受け取った情報が、その後の体験を見るための「ものさし」になることがある。
いま、何を味わっているのだろう。
「本当の味を知りたい」と思うなら、値段を見ずに食べてみる方法もある。
まず一口食べる。
「おいしい」 「少し濃い」 「思ったより普通」
そんな自分の感覚を確かめてから、値段を見る。
それも一つの食べ方だ。
一方で、1,200円という情報を知ったうえで味わうことも、その人にとっては一つの体験になる。
どちらが正しいという話ではない。
ただ、「感じていること」と「先に知っていること」は、完全に別々ではない。
そのことを知っておくと、自分の感じ方を少し観察しやすくなる。
今日の小さな実験
今日の食事で、できそうなら試してみてほしい。
値段を確認する前に、まず一口食べてみる。
どんな味だったか。 どんな氣分だったか。
それを確かめてから、値段を見る。
値段を知った後で、何か変わっただろうか。
変わったとしたら、どこが変わっただろうか。
味そのものなのか。 期待なのか。 料理に対する見方なのか。
ほんの数分、自分の「感じる」を観察してみる。
食卓から、自分を見る
ここまで、食卓にある身近な場面から、人間のクセを眺めてきた。
限定されると欲しくなる。 おすすめされると選びやすくなる。 元を取ろうとして食べ続ける。 選択肢が多いと決めにくくなる。
それぞれ、場面は違う。 でも、どれも、選ぶ、払う、続ける、決める、という行動の話だった。
今回は、そこから少し内側へ入ってみた。
「感じる」というところまで。
自分ではただ「おいしい」と感じているだけでも、その感覚の中には多くのものが混ざっている。 味だけでなく、情報や期待、その日の氣分まで。
食卓は、料理を味わう場所だ。
同時に、自分がどう感じているかを、少しだけ観察できる場所でもある。
あなたが「これはおいしい」と感じるとき、その「おいしい」は、いったいどこから来ているだろうか。

〜 開運シェルパ / 運命デザインラボ 〜
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