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Protocol_0:初期接触 招かれた部屋

    *********************************
    ≪あらすじ≫
    ある日届いた「おすそ分け」は、優しさでも思いやりでもなかった。
    隣人から差し出された“贈り物”を断ったその瞬間から、日常は音もなく崩れ始める。
    食卓、冷蔵庫、家族、記憶──すべてが少しずつ狂っていく。
    「贈与」は伝染し、「優しさ」は支配に変わる。
    これは“親切”の名を借りた狂気の連鎖。
    そして気づく──誰かが笑っている。その“善意”の奥で。
    贈られた者は、また贈る。惨贈は、止まらない。
    ********************************

    「このへん、夜は新宿にしちゃ静かすぎるくらいだな」

    八束隆斗(やつか りゅうと)が窓を少し開けながら言った。
    窓枠がきしむ音と共に、湿ったような空気が部屋に流れ込む。

    午後五時過ぎ、薄曇りの空から漏れる夕日が、
    五階角部屋に斜めに差し込んでいた。
    外から聞こえてくるのは、
    鳥の鳴き声と、遠くを走る車の音だけ。

    「でもいいじゃん、騒音トラブルないし、
    駅も歩いて15分くらいだっけ?
    アリだよアリ‥‥うんうん」

    川島光莉(かわしま ひかり)は段ボールを開けながら、
    自分に言い聞かせるように返した。
    口調は軽やかだが、どこか落ち着かない。

    二人は今朝、このマンションに引っ越してきたばかりだった。
    築三十年。五階501号室。間取りは40㎡の2DK。
    場所は西新宿の外れ、線路沿いを抜けた裏通り。

    「あ、でもさ、なんか前に聞いたよ、このマンション。
    昔、十年以上前に事件があったとか」
    「え、マジで? どんな?」
    「いや、詳しくは知んねぇけど、なんでもその時の住人が殺されて、
    遺体が2つ見つかったとか……
    それで家賃も安いんだろうけどさ、
    事故物件情報調べても、幽霊が出るとかなかったし、むしろ得じゃん」

    隆斗は冗談めかして笑った。
    だが光莉はその笑いに応じることなく、わずかに眉を寄せたまま、
    カーテン越しに外を眺めていた。

    笑おうとすればできたはずなのに、
    喉の奥が冷たく閉じていくような感覚だけが残っていた。

    古びた廊下、消音されたような階下の生活音。
    空気が、軽くない。

    「なんか、ちょっと変な感じするね……この建物」
    「えー、なにが?(笑) ただの古マンションじゃね?」

    光莉は「うん」とだけ返し、視線を床へ落とした。

    台所には、まだ手つかずの段ボールの山。
    その上に、先ほど訪ねてきた隣人から渡された小皿が置かれている。
    白いプラスチックの皿には、煮物。
    肉、ししとう、レンコン、こんにゃく。

    「ご挨拶代わりです」と満面の笑みで渡されたが――
    相手の顔だけが、まるで靄の奥にあるかのように霞んで思い出せない。
    記憶の輪郭が削られたような、不自然な空白だけが残っていた。

    表情も、声も、思い出せない。
    ただ、やけに笑顔だったことだけが、心の奥に貼りついている。

    「やっぱ、こういうご近所さんとの繋がりがあるのって、東京でも下町っぽくていいな」

    隆斗がそう言いながら、煮物をつまむ。
    光莉は何も言わず、笑ったふりをした。

    その小皿の縁、ちょうど親指が自然に置かれるあたりに、
    小さな指紋がぬるりと浮かんでいた。
    誰のものとも知れぬその跡は、生温い気配を帯びたまま、
    じっとそこに貼りついていた。

    そしてその直後。
    段ボールを整理していた光莉が、
    ひとつの包みを取り出して眉をひそめた。

    「……これ、私のじゃない」
    茶色い紙袋。封はガムテープで留められており、
    油の染みが点々と浮かんでいた。
    持ち上げると、カタリと鈍い音がする。
    中を覗くと、古びた小皿が三枚。
    ……そのうち一枚の裏に、赤黒く滲んだ名前のようなものがうっすらと――

    『ひかり』

    光莉は思わず袋を閉じた。
    目を閉じても、あの名前の“にじみ”だけが焼きついて離れなかった。

    2話以降のリンク
    Protocol_1:親切の提供 親切の連鎖|不幸中の幸い
    Protocol_2:同調の確認 拒絶の代償|不幸中の幸い
    Protocol_3:開封と下処理 開かれた冷蔵庫|不幸中の幸い
    Protocol_4:調理と提供 調理の時間(逃げられない惨劇)|不幸中の幸い
    Termination:贈与完了通知 静かな朝、また誰かが越してくる|不幸中の幸い


     
     
    ホラー好きをこじらせて小説書き始めました。 恐怖譚が脳の餌です。 小説創作は初めての試みですが、自分の描きたい恐怖を書いていきます。 大目に見て頂けると幸いです。 宜しくお願いします。 ≪好きなジャンル≫ ホラー、サスペンスノワール、サスペンスミステリー、バッドエンド

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