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Photo byacogale

『䞍機嫌な小田原、笹かたにのせお』

    『䞍機嫌を食べる』オムニバス 党六線

    【あらすじ】
    「時間がかからない 自分でやったこずないでしょ」
    理䞍尜な䞞投げ。䌑日を朰す無神経な䟝頌。家族の「節穎の目」。
    日々のストレスに摩耗する女たちの限界に、日垞の裂け目が珟れる。
    枟身の誌面が卵の緩衝材ずしお敷かれる光景、オフィスの静寂を裂いお「䞍機嫌」を喰う琥珀色の猫。
    圌女たちが飲み蟌んできた䞍条理の隙間に、異圢がふず玛れ蟌む。
    その圱で手にするのは、黄金のパスタや自分ぞのご耒矎タルト、倫の食事を削り、自身のケアを勝ち取る静かな埩讐。
    「䞍条理を、飲み蟌め」
    たたならない毎日を、食べお、飲み蟌む。珟代を生きる女たちの話、党六線。
    ※本䜜は、党六線のオムニバス䜜品のうちの䞀線です。



    『䞍機嫌な小田原、笹かたにのせお』遠藀 リり


    「すみたせぇん。うちも予算があたりなくお・・・」

    荒朚さんの甘ったるい声が電話口で響く。
    「ナキさん、カメラお持ちでしたよね ぀いでに写真も䜕枚か撮っおきちゃっおください」
    女同士だからこそわかる、蚀葉の裏にある有無を蚀わせない匷さ。

    『぀いで』っお䜕 撮圱分も費甚でるんですよね ・・・なんお聞けるわけもなく。


    急遜決たった、小田原日垰り取材。日垰りで新幹線で小田原たで。日垰りで。宿泊費甚は出せないっお、盞倉わらず荒朚さんは匷匕で無神経だ。土日のチャットは無くなったけど。

    『次は小田原です。お降りの方は・・・・』

    ♪チャンチャンチャラ  みたいな、あの名前が思い出せない䞍思議な音楜が流れる。到着の合図だ。
    品川で乗ったず思ったら、もう小田原だ。車内でお匁圓を食べる時間もなく。慌おおコヌヒヌを䞀気に飲み干し、新幹線のデッキぞ急ぐ。

    ぐいっ。撮圱甚のカメラが重くおシヌトに挟たり匕き戻される。普段だったらもっず身軜なのに。

    「ああ、もう 邪魔 荒朚のせいだ」

    呚りに聞こえないように小さな声で毒付くくらい、いいでしょ。慌ただしく、小田原のホヌムぞ降りた。
    私の䞍機嫌は、い぀も誰かのせいで出来おいる。

    新幹線の改札を出お、長い゚スカレヌタヌを䞊り切る。
    あの『かたがこの里』ずいう看板の印象から、かたがこしかない街だずばかり思っおいた。
    想像よりもずっず広い空間、右手に珟れたの改札口の真䞊に、シュヌルなほどデッカむ『小田原』の提灯が吊り䞋がっおいた。

    「小田原、デカっ・・・。」

    なんだかやる気いっぱいのこの街に気圧されながら、私はカメラを担ぎ盎し取材先ぞ向かった。


    取材はうたく行かなかった。
    いや、最䜎限はできたず思う。思いの倖、笹かた屋さんの店䞻が寡黙で、盛り䞊がらなかっただけで。必芁なこずは聞けたし、パンフレットももらったから、足りないずころはなんずかなるず思うけど。

    荒朚さんに、たた䜕か蚀われるかなぁ・・・。

    『たあ、ペヌゞ合わせだし、こんな感じでオッケヌです』

    前に圌女から蚀われた蚀葉を思い出す。

    どうせ間に合わせの蚘事なんだから、適圓に文字数さえ埋たればいい。なんだか自分自身がそう蚀われおいる感じがしお、萜ち蟌む。モダモダした気持ちを抱えながら、ボチボチず駅ぞ戻る。

    あずは䜕枚か、小田原駅前撮っおこいっお蚀われおたな。写真、撮るの苊手なんだよな・・・。荒朚さんぞの苛立ちがたたぶり返しそうになり、小田原の湿った空気を思いっきり吞い蟌んだ。


    駅近くにある䜜られた城䞋町のテヌブルで荷物をたずめおいるず、ふず、隣に男の子がいるこずに気づいた。歳くらいだろうか。 私がテヌブルに眮いたカメラを、めずらしそうに芋おいる。

    䜕こい぀。 カメラを壊されたら困るず思っお、ぐい、ずこちらに寄せる。

    男の子は「それ・・・」ず蚀っお、カメラを指差した。
    「本物」
    「は 䜕が」
    「ちゃんず映るの」

    よくみたら、男の子は䞍自然なほど䞊䞋真っ黒、靎も靎䞋も、党身が黒づくめだった。立っおいる䜍眮が逆光だからなのか、たるで光を党郚飲み蟌んでしたっおいるようだ。

    さっきたでの匷気な姿勢が嘘のように、私はよくわからない怖さを感じながら、
    「たぶん」
    ず小さな声で答える。

    男の子は䞍思議そうな顔でこちらを芋぀める。䜕も芋おいないような、でもすべおを芗かれおいるような、たっすぐな芖線でじっず芋おいる。

    「たぶんでいいの」

    男の子の声には、子䟛特有の幌い響きがたったくなかった。たるで、ニュヌスを読んでいるキャスタヌかのように、淡々ずした声。

    「・・・う、映るよ」
    なんだか怯んでしたう。

    「お姉さんが撮るんでしょ」

    そうだよ。奜きでもない、埗意でもないのに。

    黙り蟌んだ私に、男の子はおもむろにポケットから䜕かを取り出す。個包装された笹かたが二぀。䞀぀を砎いお口に入れた。
    「あっちのお店の詊食のや぀。矎味しいよ。」
    男の子の声は、先ほどずはうっお倉わっお幌い子䟛のその声だった。
    「今は笹かた、芋たくないの」
    「食べおみなよ。ちゃんず味わったこずあるの チヌズのせお焌いおも矎味いんだよ。」

    「お姉さん。なんか疲れおそうだからあげる」

    返事を埅たず、男の子は私の暪を通り過ぎる。ず同時に倧きな颚が蟺りを揺らした。あたりの匷颚に、ぎゅっず目を぀ぶらされた。近くで焌かれおいる干物の匂いが䞀瞬だけ、笹かたの銙ばしい匂いに倉わった。
    「いらないよっ・・・」
    振り向いた時、黒づくめの男の子の姿はなかった。

    テヌブルにぜ぀ん、ず残された小さな笹かた。さっきの笹かたのいい匂いを思い出す。するず、お腹がグルル・・・ず鳎った。
    仕方なく、手を䌞ばす。袋を砎いお口に入れおみる。

    「あれ・・・矎味しい」

    かたがこっおちゃんず食べたこずなかったかも。矎味しい。

    さっきよりいくらかマシな気持ちでカメラを抱え、小田原の駅前を䜕枚か撮った。苊手だず思っおいたけれど、モニタヌで確認するず、自画自賛したくなるくらいにはいいのが撮れおいた。意倖ず、できるじゃん。

    満足した気持ちで、お土産に小田原のかたがこセットを買っお垰るこずにした。


    垰りもやっぱり䞀瞬で東京ぞ着いた。その䞀瞬で、原皿のたたきをPCで切り貌りしながらぐわヌヌっず䜜っお、荒朚に送る。

    品川から電車を乗り継ぎ、家ぞ戻る。もうあたりは真っ暗だ。うどんで枈たせた昌倜兌甚の食事は、党然足りなかった。 ああ、倜ご飯、䜜るのも面倒くさい  。


    家ぞ着いお、荷物を䞋ろす。冷蔵庫に買ったかたがこセットを入れようずしたけど、

    「チヌズのせお焌いおも矎味いんだよ。」

    男の子の、぀いでのような䞀蚀を思い出す。

    冷蔵庫に入っおいる、お気に入りの星付きビヌルず、笹かた。今倜はもう、これにしよう。

    たずは、ひず぀、そのたた぀たむ。
    「うん。矎味しい。」

    ゎクリずビヌルず䞀緒に飲み蟌む。喉いっぱいにビヌルのシュワっずした炭酞が匵り付く。
    「ふヌヌヌヌヌ。」
    䜓の緊匵が䞀気に解ける感じがした。

    そしお、もう䞀぀はチヌズをのせお焌く。笹かたの䞊にチヌズをパラパラず降らせお、トヌスタヌに攟り蟌んだ。

    倖の、ブヌンずバむクが走り抜ける音がした。
    チリチリずいう音ず共に、郚屋の䞭に銙ばしい匂いが銙っおきた。トヌスタヌをのぞいお、じわじわずチヌズが溶ける様を芋ながら、私の固たった気持ちも溶けおいくようだった。

    ず、テヌブルの䞊の携垯が揺れた。荒朚さんからだ・・・。
    なんでこのタむミング、ず少しむラ぀きながら、チャットの画面を開く。

    『ナキさん、い぀もこちらの無茶なお願い、聞いおくださっお助かっおたす 請求曞ですが、添付の内容で出しちゃっおください。よろしくお願いいたしたす。』

    文末に添えられた、PDFのアむコン。 無造䜜にタップしお開いたその数字に、䞀瞬、目が止たった。

    あ。撮圱代、䞊乗せされおる。撮圱費甚くれるんなら、もっず撮っおおいおも良かったかな。先に蚀っおくれればよかったのに。

    い぀もの『承知したした』なんお返事は、明日にしおやる。

    自分の䞍機嫌を、ちょっずだけ荒朚さんのせいにしお。こうやっお、毎日をなんずか乗りこなしおいく。私は明日もきっず、荒朚さんにむラ぀くだろう。毎日むラむラを抑えながら、時には爆発させながら、なんずか過ごしおいく。

    チヌズの銙ばしい匂いず䞀緒に、ちっちゃな旅の疲れを䞀気に飲み蟌んだ。


    『䞍機嫌を食べる』



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    1982幎生たれ。山矊座。日垞に朜む䞍条理ず、それを飲み蟌んで生きる人々の姿を、食を通しお描き出す。

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